○鬼木
参考人 大阪学院大学の鬼木でございます。
ふだんはテレコムの
経済学を専門にしております。本日は、
意見を申し述べる機会をいただき、ありがとうございました。
まず最初に、私の
基本的な視点を述べ、その後、お手元にA4一枚紙の概要が行っておると思いますが、五項目に分けて
意見を申し述べたいと思います。十分程度でございますので、項目名と結論程度にとどめて、後ほど、御興味に従って、
質疑があれば詳しいお答えをしたいと思います。
まず、私の
基本的な
考え方は、これはテレコム
産業に限りません。
電気通信産業に限りませんが、
産業の
発展というのは、個別の企業の自由な創意とイニシアチブによって
利益を求めて
努力を行うというところにあると思います。
電気通信産業では、他の
産業と違って、
規制とかコントロールとか難しい問題が多いので、
競争の要因と政府
規制の要因をどう組み合わせるかということがいつも問題になるわけで、今回の三法の
改正案もそれに対する
一つの工夫であるというぐあいに理解しておりますが、歴史的な行きがかりもあり、難しい問題が多いわけでございます。
今回の
法改正案に対しまして、私の
意見を以下申し述べます。
まず第一に、お手元のレジュメにあります「
NTT経営形態の
再編成について」、
長距離、
地域会社を分け、かつその
地域を
東西両
地域に
分割するという
改正案は、私の個人の
意見としましては、ベストの選択ではないが、現状よりは一歩前進であって、公正有効
競争の推進、それから
地域が分かれることによって経営主体が複数、現在よりはより小規模経営になって、創意工夫とか他との比較による刺激とか、何かとプラスがあるかと思います。例えば、JRのケースを考えますと、JRは六社に分かれましたけれども、もしこのJRが
民営化だけされて、六社に分かれないで運営されていたとしたら、恐らく現状よりも結果はよろしくなかったのではないかと考えます。
具体的に
持ち株会社方式が提案されておりますが、これはいろいろ政治的な
理由もありまして、一種の妥協の産物であるというふうに理解しております。
結果といたしまして、しかし、
持ち株会社というのはある種の弾力性がありまして、例えばですが、
地域分割をもう少し進めて、
日本をもっと複数の
地域に分けるとか、極端な場合、府県別に分けるとかいうときも、そちらの方向に進もうと思えば進むことができるし、逆にいいますと、今度は、
地域分割はどうもまずい、やってみたところマイナスがいろいろ多いということがわかって、じゃ、もう一度仮に統合しようという
議論が起きたときも後戻りできないわけではない。いずれにしましても、弾力的な性質を持っておりまして、そういう意味では、プラスの面があると思います。
他方、中間的な
形態でございますから、全国的な見地からの
政策、
持ち株会社の方が主体になって運用する場合と、
地域会社の方が主体になってそれぞれ独自の方式で経営を進める場合、どちらをどの程度まで主体に考えるかということで問題が起きることもあるかと思います。
具体的に一点、Dのところの「責務規定」で、
国民生活に不可欠な
電話の役務のあまねく
日本全国における
提供という文言が
改正案三条にございますが、これはあいまいな点が残っていると思います、具体的な説明は後ほど申し上げます。
第二に、「
KDD業務範囲の
拡大について」、
国際だけじゃなくて
国内通信にも参入するということは、これは、
競争促進と
活性化ということでプラスに働くと思い、賛成いたします。
しかしながら、現在、
KDDに負わされている
国際通信の一種
ユニバーサルサービス的な、例えば、
アメリカ向けのお金もうけになる
通信はもちろんやりますが、アフリカの比較的規模の小さい国の
通信も
提供しなければいけないという一種の
国際化の
ユニバーサルサービスがございますけれども、そういうところを、どのような形で、だれが負担を負って実行するかということに関してまだあいまいな点が残っていると思いますので、この点は明確化する必要があるかと思います。
第三に、今度、
事業法の
改正案に参りますが、
接続関係の規定を主として
意見を申し上げます。
今回、
事業法の中で、第一種
事業者の
接続義務の明示、それから指定
電気通信設備規定の新設ということで、新しい
考え方と新しい原理が導入されまして、一言で言えば、現在、ボトルネックと言われる市内の
電気通信網、我々の自宅から最寄りの
電話局につながるところが最もその
競争が入りにくいところですけれども、そこをどのような形で活用するか。具体的には、その
接続義務を
事業者の方が負うという形で詳しい規定ができました。これは大変な進歩だと私は思います。一歩ではなくて、二歩も三歩も従来に比べれば前進したところであろうと思います。
しかしながら、
アメリカが現在この方向に同じく進んでおりますが、このような
接続という形で、実際には市内網あるいはアクセスのところが独占の形になっていて
競争が入りにくい。それを、
競争が入りにくいから値段が高くなりやすい、値段が高くなりやすいのを
接続の義務ということで安く活用するという一種の便宜的なやり方がどれだけ成功するかは、実はやってみないとなかなかわからないというぐあいに私は考えております。なかなかうまくいかないかもしれないし、あるいは非常に
機能して、続々と新しい市内網への
接続サービスが出てきて、ユーザーの便益が増大する
可能性もあると思います。
そういう意味で、一種の未知の領域に踏み込みかけているわけです。この点は
アメリカでも同じでありまして、米国の方でもいろいろ
議論が起きているところでございます。
具体的には、私は以前からそう思っておりますが、かなりの
可能性として、
接続という規定はかなり詳しく決められているけれども、具体的に、では、例えば
東京都の世田谷区で、この
地域の
サービスに関して、ここで
接続させてほしいという注文を
競争事業者の方から出してきたときに、いろいろその問題が起きる。問題が起きるというのは、
事業者間の対立が起きて、もっと安く
接続できるはずではないか、あるいはこういう
条件で、有利な
条件で
接続できるのではないか、いやいやそうはいかない、他方の方は実際に
接続しようと思っても、我々もいろいろやらなければいけないことがあるというので、
意見の相違というのが出てくる
可能性が大きいかと思います。
これが
接続という形でなくて、普通の物の売り買いのように、
市場の中で嫌ならやめろ、値段が高ければ私はそれではやめるとかいう自由な選択の結果ですとこういう問題は起きませんが、
接続義務という形で負っておりますと、義務ではあるけれども、その義務をどこまで果たせばよろしいかということで問題が起きるわけです。問題が起きますと、どうしてもだれかに仲介、仲裁一裁定をしてもらわないといけない。具体的にはこれは国の仕事になると思いますが、この裁定に関する規定が現在の
法律案ではまだ不十分ではないかと思います。
お手元のレジュメの〔3〕のCのところですけれども、ちょっとミスプリが二カ所ありまして、「裁定主宰者」、その後の「裁定に関する記録・情報の公開」と書きましたのは、「聴聞」の間違いでありまして、私、勘違いして失礼しました。書き損ないまして、「聴聞主宰者」あるいは「聴聞に関する記録・情報の公開」というぐあいに御訂正いただきたいのです。
実際に争いが起きたときにそれを仲裁、仲介する役目の人は、利害関係が伴いますから中立性が必要であります。中立性とは、いろいろな形で直接の個人的な利害関係が現在、将来にわたってないことというのが
基本であるかと思います。それがなければ訴えを起こした方の
事業者も信用いたしません。したがって、それに余り従う義務を感じないということで、スムーズな
接続がなかなか進まないかもしれない。
それから、このような裁定というのは、必ず記録とか情報が公開される必要があります。ビハインド・ザ・ドアで、ドアの後ろで行われた裁定というのは権威を持っていないわけです。そういうところの規定がまだそろっていませんので、これは現在の規定が不十分なところではなかろうかと考えます。
委員長、あと二分ほどいただいて終わります。
それからもう
一つ、これも規定面で少し少ないことがありますが、
接続と同時に共用ということがあります。例えば、
NTTが現在持っております線を通すトンネルですが、そのトンネルを使って、別の
事業者がトンネルだけ借りて自分
たちの線を引いて
競争するという
可能性も随分ある、市内網での
競争を推進させる契機になると思いますけれども、それに関する規定が余りありません。したがって、従来と同じように、
NTTに頼んではみたけれどもなかなか貸してもらえない、原則はよろしいけれども実際に
市場に参入が進まないという結果が生じ得るのではないかと思います。
それから四番目の
規制緩和について、これは三法の
改正案全部共通のことでございますが、まず現
事業法から過剰設備防止条項を撤廃するというのは、これはもう当然のことであって、撤廃が遅過ぎたぐらいであろうというふうに考えます。
規制緩和というのは一般的に、
市場競争を進めるために
規制緩和の必要があるわけですが、依然として、
法律案を読んでみますとわかりますが、たくさん認可事項というのが残っております。
私は、これがだんだん減っていって最終的にはゼロに近い状態になるという事態を想定しておりますので、残存していると表現しておりますが、やむを得ない面もあります。一挙に自由にすれば
事業者が独占力を発揮して、高い値段を取って
サービスが悪くなるというおそれがありますから、一挙に全部認可事項を外すわけにはいきませんが、技術が進歩し
サービスがふえるに従って、もう外してもいいのではないか、今まで認可だったけれども届け出だけでもよろしいのではないかということが結構出てくると思います。
しかし、
法律に認可という言葉が残っておりますと、それが一種のかせになりまして、
規制当局が自由にする、届け出だけでもいいと思ってもできないということもあります。この点で、また米国
通信法の事情が
参考になるかと思いますが、米国
通信法では、
規制の差し控えという
法律条文を設けまして、事態が進行して変わったので、もう認可の必要はない、場合によっては届け出はもう要らないということが出てきましたならば、
規制当局はその事項に関しては
規制を差し控えるということの義務が実はあるというぐあいに
アメリカの法では決めておりますが、そういう規定も
日本でも考慮してもよろしいのではないかと考えております。
最後に、
法律条文の形式に関してでございますが、今回の
改正案を拝見しまして、必要なところの
改正案は出ておりますが、ついでに形を整える、読みやすくする、わかりやすくする、一般の
国民が見て、あるいは新しい
事業者、参入の
可能性がある
事業者が見て、
電気通信の
産業で何が起こっているかということをわかりやすくするという
努力が少ないのではないか。こういう大幅な
改正のときには、例えば、二条で用語の定義が幾つか以前から述べられておりますが、それに新しい用語、例えば
接続とか
ユニバーサルサービスとか、新しい言葉とか誤解の起きやすい言葉に関して定義をつけ加えてもよかったのではないか。全体として
法律の
改正時には、その
改正のポイントだけではなくて、全体にわかるわかりやすさとか形式の
整備とかを行うべきであるのにそれがなかったのは残念である、そういう感想を持っております。
以上で私の
意見を終わります。ありがとうございました。(
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