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三木谷参考人 ただいま御
紹介にあずかりました
神戸学院大学の
教授をしております
三木谷でございます。
本日は、
日銀法改正という、
戦時立法である
現行法の五十五年目の、そして二十一
世紀に向けての歴史的な
改正に当たりまして、本
委員会で
参考人として
意見を述べさせていただくことは、長らく
金融経済、
金融政策を勉強してまいりました一
研究者といたしまして、まことに光栄に存じております。
時間の都合上、お手元に一応私のしゃべることをお配りしてありますので、それをかいつまんで申し上げたいと思います。
甚だ教科書的な
説明で恐縮でございますけれ
ども、
中央銀行とは何かというのは、四つほどの
機能を果たすのが
中央銀行であろうと言われております。
第一番目は、
中央銀行とは
銀行券を発行する
銀行である。第二番目は、
中央銀行は
銀行の
銀行である。ザ・バンク・オブ・バンクスであると言われております。第三番目には、
中央銀行は
政府の
銀行であるというふうに言われております。それから第四番目に、対外的にはその国を代表する一つの機関としての
中央銀行の
役割ということがございます。
さて、今回の
改正法案をこの観点から見てみたいと思います。
中央銀行の第一の
機能、すなわち
中央銀行の通貨量、
物価を
決定する
機能については、本
法案では、制約がないとは言えませんけれ
ども、
日本銀行の
政策委員会の自主性が尊重されております。
しかし、その他の
日本銀行の
機能、先ほど申しました二番目から四番目までの
機能でございますが、こういう業務
運営につきましては、
中央銀行が公的機関であるという根拠に基づいておると思われますが、
政府、
大蔵省にその
決定権限がかなり残るような条文が多く見られます。具体的には、法的手続は
大蔵省を通す。あるいは、人事、経理、権限、業務については、ここでは仮に限定主義と呼ばしていただきますと、限定主義的なアプローチである、つまり、
日銀がなし得ることを細かく規定し、それ以外は
政府、
大蔵省の許認可とするというスタンスであります。
ここで問題になりますのは、これらの二番目から四番目までの業務について過度に硬直的な
政府、財政
当局の規制、
監督にもし
日本銀行が縛られるのであれば、現在のような非常に変化の激しい
国内外の
金融経済の動向に、迅速に効果的に対応して、
日銀が、
中央銀行としての最も重要な任務である
物価の安定を
目的とする通貨
金融調節及び支払い
決済機構の効率と
安定性の
維持を十分に行うことができるかという点であろうかと思います。
次に、今後特にもしできるならばさらなる検討と改善が必要であろうと思われる点を申し述べたいと思います。
今回の
日銀法案は、
現行法に比べると、開かれた
独立性あるいは自主性を基軸にかなりの改善が見られますけれ
ども、しかし、米国の連邦準備法、あるいはドイツ連邦
銀行法、あるいはまたその延長線上にあると思われます新しい欧州
中央銀行法一それから、この間五月六日に発表されました英国の新しい労働党のブレア党首の、BOE、イングランド
銀行改革案に比べましても、
中央銀行の
独立性確保という観点からは必ずしもそれと同等と言えない、私としてはかなり劣っているような点が見受けられると思います。
次のような諸点について特に
国会で今後
審議をしていただきたいというふうに思うわけであります。
第一番目、
中央銀行たる
日本銀行の
目的は通貨価値の安定を最重点として明確に規定されるべきである。そして、
政府との関係において、
中央銀行はこの基本的
目的達成と相反しない限りにおいて
政府の他の
経済政策と協調を図るというふうに定められるべきではないかと考えます。先ほどのイングランド
銀行の
改革案にもその条件は入っております。
それからまた、
委員会への
政府からの
出席は、でき得れば米国の連邦準備のように認めない方が
中央銀行の
独立性が一層
確保されますけれ
ども、財政
政策など
政府経済政策との
調整が事務方レベルで解決しない場合には、特にその必要性のある場合に限り、
政府の
責任者、
大蔵大臣、
経済企画庁長官の
出席に限り認めるのもやむを得ないことであろうというふうに思います。
ただ、その
透明性確保のために、現在英国で
大蔵大臣とイングランド
銀行総裁の
会議の
議事録が
公開されておりますけれ
ども、
我が国においても一般国民への
透明性を条件とすべきだろうというふうに考えます。
第二番目、
中央銀行の
独立性確保には経費予算の自主的
決定権が必要であります。
独立性の高い
中央銀行とされる米国連邦準備、ドイツ連銀、新しい欧州
中央銀行はいずれも予算の自主的
決定を許されております。
我が国では、通貨及び
金融の調節に関する費用に限り予算の自主的
決定が
日銀に認められております。そして、その他の経費については、一応のセーフガードはついているとは申せ、両者の仕分けは「政令で定める」ということになっており、経費の面から
中央銀行の自主的活動が阻止される要因となるおそれがあるのではないかと考えます。第五十一条であります。
日銀の予算は
政府への届け出と、その決算は社会的
信認の厚い監査法人及び、あるいは適当と思われる公的監査機関が監査し公表することが適当ではないかと考えます。
第三番目、
中央銀行の国に対する貸し付け等は、財政の赤字を
中央銀行信用でファイナンスすることであり、節度、歯どめがなければインフレの原因、
金融政策運営の弾力性の喪失となり、マクロ
経済に甚大な損失を招きます。
現行法にもない第三十四条二号と四号は削除をされるのが適当ではないかと考えます。
四番目、
日本銀行の
金融機関等に対する貸し付けは
流動性の一時的
供給に厳しく限定されるべきであり、
透明性を欠く救済融資は絶対にすべきではありません。理由は、
日銀の収入は貨幣発行益がその源泉でありますが、貨幣発行益は
日銀への
信認を基礎とする円を通貨として、貨幣として利用する人々に本源的には帰属すると考えるからであります。
五番目、この
法案では、
日本銀行の外国為替の売買及び
国際金融業務では、対外的な貨幣・
金融取引は
政府の権限に属するという基本的考えを前提としているように思われます。
しかし、為替相場の一時的乱高下を緩和するためのいわゆるスムージングオペレーション及び外国の
中央銀行との
中央銀行相互間の
取引、協定、協力などについては、
日本銀行にもっと
独立性、自主性が認められるのが適当であろうかと思います。為替介入については、米国のような、
政府と
中央銀行がともに
分担、協力する体制、デュアル
システムが適当であると思います。そして、為替オペレーションについては、その操作とその損益
を含めて詳しい
報告書を遅滞なく公表する義務が課せられるべきであろうかと思います。
今回のイングランド
銀行の
改革案においても為替介入の
資金と権限はイングランド
銀行に大きくゆだねられております。
海外において為替・
国際金融業務は
政府、
大蔵省の専管であるというような一部の
意見は誤りではないかと考えます。
六番目、第三十九条には、
日銀の
資金決済の円滑に資するための業務は
大蔵省の認可とされているが、電子マネーなど
資金決済についてのイノベーションが現在グローバルに進行中であり、細かく事前的に規制することは
日本の
金融の創造的活力を殺すことになるおそれがあるのではないかと考え、この規定は不要ではないかというふうに考えます。
日銀と
民間金融機関、あるいは
政府のそういう
監督官庁を含めて、
金融専門家との話し合いによるその結果としての合意によって
運営されるのがいいのではないかというふうに考えます。
七番目、二十九条には、国家公務員の守秘義務と同様に、
日銀の役員及び職員は、在職中はもちろん、退職後も守秘義務が厳しく規定してありますが、これは、
日本銀行の
透明性の
確保、第三条、あるいは一般的に言論の自由の基本的権利を定めている憲法と抵触するのではないかというふうに考えます。
日本銀行の役員、職員は公務員に準ずるわけで、特別に守秘義務を定めて言論を縛る必要はないと考えます。特に、
金融政策、支払い
決済システム安定化
政策に関する成功あるいは失敗の経験はむしろ積極的に公表され、後世代の参考に資することこそセントラルバンカーの重要な歴史的任務であると考えます。第二十九条に縛られると、
日銀の役員、職員は、退職後も、自己反省あるいはメモワール、回想録を書くことさえできないのではないかと考えるわけであります。
八番目、
日本銀行は
国会を通じて国民にアカウンタビリティーを負うものというふうに考えます。第五十四条では、
報告書を「
大蔵大臣を経由して
国会に
提出しなければならない。」とありますけれ
ども、直接に
国会に
提出していいのではないかというふうに考えます。
九番目、十六条「組織」のところで「
審議委員六人」とあります。しかし、
政策委員会九名全員が
名実ともに
日本銀行の意思
決定機関であり、かつ、執行及びその結果について共同
責任を持つ
ワンボード機関であるべきではないかと考えます。それでこそ
中央銀行のアカウンタビリティーを全うすることができるわけであります。
審議という名称は、通常の
日本語としては、
審議機関、
審議会と言うときに合意されているように、単に詳しく討議、議論するという意味であり、
審議という話は削除し、単に
政策委員でよいのではないかというふうに思います。
日本銀行が行
政府を通さずに
国会を通じて直接に国民にアカウンタビリティーを負うことについては憲法違反の疑義があるとの議論が、
金融制度調査会小
委員会、あるいは先ほどの鳥居
研究会におきましても議論されているようでありますけれ
ども、これは憲法、行政法の学者、学会の支配的見解であるのかどうか、あるいは最高裁判所の
判断であるのかどうか、
国会が中心になり明確にしていただきたいと思います。
この根本問題を含め、
日本銀行法を
国会主導でもう一度再吟味され、二十一
世紀に向け、欧米に比して恥ずかしくない、真に新しい
中央銀行法を制定していただきたいと思います。それによって初めて国際的にも
信認を受け一東京が国際
金融センターとして
発展することになるのではないかと考えます。それでこそ、
橋本首相のおっしゃられるように、フリーで、フェアで、グローバルな
金融改革が
実現できるのではないかと考える次第であります。
なお、附属資料としまして、
金融学者・
研究者、主として大学
教授でありますけれ
ども、二百三十三名の賛同を得ました
意見書を
提出してありますので、後ほど御参考にしていただければありがたく存じます。
以上でございます。(
拍手)