○内野参考人 本日、
石炭対策特別委員会におきまして、参考人として意見を述べる機会を与えていただきまして、大変光栄に存じます。
国内に
炭鉱を保有することの意義と
我が国の
炭鉱技術の評価について意見を申し上げます。
三井三池炭鉱が
閉山いたしまして、
国内には太平洋炭硬釧路鉱業所と
松島炭鉱池島鉱業所の二山となりましたが、この二山とも依然として厳しい
状況に置かれ、
石炭鉱業審議会等におきましても、この問題についての
議論が開始されたところでございます。
これらの問題について論じる前に、まず、その背景、すなわち
エネルギーに関する現状と将来について簡単に触れておきたいと存じます。
最初に、
我が国の
エネルギーに関する
状況を見ますと、第一に、
我が国の
エネルギー需給構造は依然として脆弱なままであることを挙げなければなりません。準国産とされる原子力が実質的には輸入によるものであることを考慮いたしますと、輸入依存率は九六%であります。
また、
エネルギー需要量は確実に増加しておりまして、一九九四年度の一次
エネルギーの消費量が、
石油換算で五億七千七百万キロリットルでありましたものが、二〇一〇年度には、低く見積もっても一〇%増の六億三千五百万キロリットルに達し、その中で
石炭は一五・四%の一億三千四百万トンの需要があるものと予想されておりまして、
我が国においてもその重要性は確実に増加していくのであります。
第二に、経済発展の著しい
開発途上国の
エネルギー需要が急速に増加しており、二〇二〇年には途上国は
世界の全
エネルギーの需要の約六〇%を占めるものと予測されていることであります。特に、
中国を初めとする東アジアの
石炭の需要も急増し、
石炭大国の
中国でさえ、二〇〇〇年には年間四千ないし五千万トンの
石炭を輸入することになろうとの見通しもあります。
すなわち、
石炭の
需給関係がタイトになる可能性が十分にあるということでございます。これまで
我が国では、
石炭の輸入先が政治的に比較的安定しているということだけでほとんど考慮されなかったセキュリティーの問題としての
石炭の
安定供給について、全く別の理由から
石炭対策が講じられなければならない状態に立ち至っていると言うことができると思われます。
第三に、幾つかの
技術的根拠から、
世界の
石油の
供給能力がこれから三十ないし四十年後に最大値を迎えまして、その後減少の一途をたどるであろうと予想されていることであります。極めて重要な
エネルギー資源が明確な形で枯渇に向かうという、人類がこれまで経験したことがない大きな問題がほぼ五十年以内に発生する可能性があるということに対しては、多くの
対策が必要であることは言うまでもありません。
まず、基本的には、現在
世界の一次
エネルギーのほぼ四〇%を
供給しております
石油の不足をカバーするのは何かということでありますが、これについては
石炭と原子力しかなく、実際には確実性という点から
石炭がより大きな役割を果たすであろうということは、多くの専門家の認めるところであります。すなわち、
石炭は再び
エネルギーの王座に返り咲くであろうというのであります。
石油の
供給能力の陰りが近づけば、
世界の
エネルギー市場は不安定となり、
石炭の
需給状態も逼迫することは確実であります。この点からも、
石炭確保のための方策を多くの面から検討する必要があります。
すなわち、これからの
石炭対策は、これまでに考慮されたことのない、いわば資源の有限性が顕在化するという、
エネルギー資源の根源的な問題に対する
対策でもなければならないというふうに私は考えております。
以上、要するに
我が国の
石炭対策は、新しい視点から国家としての長期的
エネルギー戦略の中に位置づけられなければならないということであります。これほどに他国に
エネルギー資源を依存して経済大国となった国は
歴史上例を見ないと言われますが、もしそうであるとするならば、なすべき方法は過去の
歴史には見出すことはできず、
日本の
エネルギー資源戦略のあり方は、独自にこれを構築しなければならないことになろうと思います。
次に、
我が国の
炭鉱の存在意義を
技術的な角度から述べたいと思います。
御承知のとおり、池島、太平洋の二山は、合わせて年間、本年建三百三十万トンの
生産を計画しておりますが、
輸入炭との
価格差が大きく、厳しい
状況に置かれております。現在、このような経済ベースでの
炭鉱の困難性のみが大きく報道され、そのため、次に述べますような
国内炭鉱が果たしております、あるいはまたこれから果たすべき役割については、
関係者以外にはほとんど知られていないのは極めて残念であります。
第一は、言うまでもなく貴重な
国内資源の
生産であります。このことは、
生産それ自体の意義のほか、次項にも
関係いたしますが、
海外での
開発を行うとき、自国にその基盤を有していることがいかに重要であるかについては多言を要しません。
第二には、
技術基盤の維持についての貢献であります。すなわち、
海外の
石炭開発、貿易業務、
政府を含む関連機関における専門家の育成に寄与していることであります。現在、
海外炭の輸入においても単純買炭は少なくなっており、実際には
技術あるいは資本の協力によって
開発し輸入する場合が多く、そのために必要な専門的知識を持つ人材の
供給ベースとなっております。
このことに関連して、
石炭にかかわる
技術が、探査から始まり、採掘、輸送、利用、さらにはこれらのすべてのプロセスにおける
環境へのインパクトという、
技術の極めて広い分野を含むことを
認識しておく必要があると思います。今日、既に商社においても、
調査の段階からの資本参加なしには安定した取引ができないという
状況になっており、現状のままではこのための人材が十年以内に不足する不安があるということが、その担当者から聞かれるようになっております。
石炭に関する業務には、他の輸入
エネルギー同様、情報収集、分析が、先述の意味からも不可欠であります。OPEC諸国の最大の弱みは
石油の需要と流通についての情報を持たないことであり、このため、依然としてメジャーに依存しなければ
生産計画も立てられないと言われますが、輸入依存度の高い
我が国においては、情報の収集、分析は
石炭の
安定供給のための戦略構築のために決定的な重要性を持っておるものと考えます。
第三には、
技術の国際協力のための役割であります。従来の国際協力は、ヒューマニズムに基づいて、高い
技術レベルを有する国から低いレベルの国へという色彩が強かったと思われますが、最近では、例えば木材の輸入に伴う熱帯雨林の消滅の問題に見られますように、直接的な責任はなくとも結果として生じる被害等については、その防止
対策について何らかの協力が要求される場合が多くなっているように思われます。
石炭の
調査、
生産力増強、
開発についても、これらにかかわる人々の健康、生命あるいは
環境にかかわる問題についての協力が、より強く要求されるのではないかと考えられます。
我が国の
炭鉱は、これまでにも
技術の国際交流に大きな役割を果たしてまいりましたが、今後、このような意味から、さらにその役割を果たし得るものが多いと考えるところであります。
第四には、新しい
技術の
開発の場としての意義であります。現在、
世界的に見ると、
坑内掘りの
炭鉱からの
出炭が全体の六〇%を占めているものと推定されますが、次第に
坑内掘りの
炭鉱が増加し、また採掘レベル深度も確実に増しております。需要の増大と貿易の地球規模化は、競争力を高めるための
生産性の向上を強く求めることとなり、急速に進展いたします情報化は、作業者の作業場の安全と
環境改善への期待をさらに高めることになることは必至でございますが、このため高度な
技術が要求され、
我が国の
炭鉱の高い
技術を利用した新しい
技術の
開発は大きな意味と可能性を有するものと考えられます。
以上のように、まさに二十一世紀へ進もうといたしますときに、
国内炭鉱の持つ意義については、単なる経済ベースからだけではなく、確実に到来する、これまでにない新しい変化を十分に考慮した
エネルギー戦略の中でこれを考える必要があり、この意味から
国内炭鉱の
存続意義があるものと考える次第であります。
次に、
我が国の
炭鉱技術の評価について述べたいと思います。
まず、
炭鉱技術のあり方は、その国の自然条件に大きく影響されます。
我が国の
石炭並びに
周辺の地層は、主として次の三つの要因によって大きく影響されてきました。
その
一つは、
我が国の
石炭が大変若いことであります。つまり、他の多くの産
炭国の
石炭が数億年前の古い
時代に形成されたのに対し、
我が国の
石炭は数千年前の新生代、古第三紀に形成され、一けた若い
石炭であるということであります。第二には、激しい地殻変動を受け、地層が褶曲、断層などの多い複雑な地層になっていることであります。第三には、火山活動の影響であります。
これらのことから、ガス、水あるいは熱
環境の問題が生じてまいります。加えて、岩石力学的にも、比較的弱い岩石が多く、また一様性に乏しく、地圧制御が容易でない等の特徴を有しております。さらに、
三池もそうでございましたが、現在の二山はいずれも海底
炭鉱で、坑口から遠く、広く展開した坑内で操業を行わなければならないという条件がございます。
このような特徴的な自然条件のもとに発展した
我が国の
炭鉱技術の特徴は、
生産と
保安の両面に関連した多くの事象を制御し、複雑な地質条件にフレキシブルに対応して高い
生産性と安全レベルを確保し得る
技術であるというふうに言うことができると思います。
具体的な例を挙げますと、既に
世界的に高い評価を得ております、広い坑内全域を監視、制御する集中監視システムがございますが、これについては、さらに
世界の産
炭国に向けて展開可能な
技術の
一つであると思います。また、二山において稼働中の採炭システムは、諸条件を考慮すれば
世界のトップレベルにあると言ってよろしいと思います。釧路鉱業所におきましては、
世界最長の斜坑が最新の機材を敷設し、順調に作動し、池島鉱業所におきましては、
世界で最も速い、最高速度時速四十五ないし五十キロメートルの人車が走っておりますことは、最近の
技術の展開を示すものとして紹介しておきたいと存じます。
最後に、これまで余り言及されることがございませんでした、特に
保安についての管理、教育について申し上げたいと思います。
それは、過去の苦い事故を教訓といたしまして、
日本の
炭鉱は、事故をなくすべく、ソフトとハードの両面にわたって懸命の努力を傾け、もはや
日本の
炭鉱は最も危険な
産業ではなくなっているのであります。この中で継続してこられた
会社の内外における安全教育、管理システムあるいは行政サイドの監督機構その他の支援機構は、多くの経験と検討の結果であり、他の国への
技術協力のみならず、他
産業においてもその危機管理の参考になるものと考える次第でございます。
以上、
国内炭鉱の存在意義と
我が国の
炭鉱技術の評価について意見を申し述べました。
以上でございます。