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石黒参考人 カゴメ株式会社総合
研究所の
石黒でございます。
本日は、
参考人としてお招きをいただきまして、大変名誉に感じております。どうもありがとうございます。
さて、弊社は、
遺伝子組み換えトマトの
研究開発を一九八九年から行ってまいりましたが、
海外では既に幾つかの農
作物が実用化され、
我が国にも大きな波紋が押し寄せてきております
状況の中で、このような
機会を設定していただきましたことは、私
ども研究開発メーカーといたしましても、また
消費者の方々にとりましても、大変意義のあることと感謝する次第であります。
本日は、弊社が
研究開発してまいりました
遺伝子組み換えトマトに
関連いたします五つのことについてお話をさせていただきます。
まず、第一に弊社の
研究開発姿勢、第二に弊社の
品種開発
研究、第三に弊社の
遺伝子組み換え研究、第四に
遺伝子組み換え食品の
表示に関する弊社の
考え方、そして最後に
遺伝子組み換え研究の問題点、このような順で
意見を述べさせていただきます。
まず、一番目の弊社の
研究開発姿勢について御
説明をいたします。
企業は、大きく変化する
環境の中、社会に対する使命や存在意義を明らかにしなければ、社会的な信用を得ることはできません。
社会に対するその
企業ならではの
提供価値、これをコアバリューと呼びますが、弊社は、「
お客様が求める、健康で安全な食生活の
提供」「
お客様が求める、豊かで新しい食文化の創造」「
農業の活性化」「自然
環境の保護・再生」というようなコアバリューを持つ
企業を目指して
研究開発
活動を行っております。
このようなコアバリューを持つ
企業が弊社の目指す姿でありますが、これを弊社は、農産
加工メーカーと対比させまして、
農業食品メーカーと呼んでおります。
また、
企業使命といたしましては、
日本人の緑黄色野菜摂取不足の解消という使命感を持っております。現在、
日本人一人当たりの緑黄色野菜摂取量は一日当たり約八十グラムで、厚生省推奨値の半分程度であることをかんがみ、野菜系飲料を牛乳のような国民生活飲料にしたいと強く望んでおります。
このように、弊社は常に
消費者の皆様方に価値ある
商品を
提供したいと考えておりますが、ここで、価値ある
商品の価値とは何かということについて少し触れたいと思います。
弊社は、
研究開発の受益者を、
研究開発によってメリットを得る人でありますが、
研究者自身とかメーカー自体だけでなく、
農家、原材料メーカー、委託先、物流者、販売者、顧客、
使用者というように社会全体に多面的にとらえておりまして、
研究者は、
自分たちの
研究成果が各受益者別にどのような価値をもたらすかということを常に把握しようと努めております。
結局、弊社のようなメーカーは、物づくりや
情報づくりを行って最終的に収益を得ているわけでありまして、まとめてみますと、お手元の
資料の二ページにお示しいたしましたが、この俯瞰図にあらわした価値開発を行っているわけであります。価値の多面性を考えて、受益者として
農家から
消費者までを視野に置いた
研究、そして、特に顧客、
使用者という
消費者の方々を
研究成果の最大の受益者として強く意識した
研究課題を設定し、
研究開発
活動を推進し、
消費者重視の
商品開発を行ってまいりました。
ここで、
消費者を最大の受益者といたしました
研究課題の設定についての一例を示したいと思います。
お手元の
資料の三ページをごらんください。これは、
加工用トマトの
品種開発に
関連いたしました
研究課題の設定ステップの
概要であります。本日は詳細につきましては御
説明を割愛いたしますが、この
資料のようなステップで、
研究開発による受益者を多面的にとらえ、特に、最大の受益者として
消費者の方々を強く意識した
研究課題の設定を行っております。
ここでは、
研究課題の第一位に、色素含有量の高い、いわゆる高リコピントマト
品種の開発、第二位に、ペクチン含有量の高い、いわゆる高ペクチントマト
品種の開発、これが選定されました。
なお、リコピンと申しますのはトマトの赤い色素でありまして、カロチノイドの一種でありまして、後ほど少し詳細に御
説明いたしますが、老化防止効果あるいは成人病予防効果が明らかになりつつある物質であります。
また、ペクチンと申しますのは代表的な食物繊維でありまして、これも後ほど少し詳細に御
説明いたしますが、コレステロールの体内吸収を抑制する効果等を有する物質であります。
次に、二番目の弊社の
品種開発
研究について御
説明をいたします。
弊社は、トマトの遺伝資源として約六千
種類のトマトを保有しており、この六千という数字は
世界的に見ましてもトップクラスの保有数であります。したがいまして、弊社の
品種開発におきましては、この六千
種類の遺伝資源、いわゆるトマトでありますが、これを用いた従来の交配育種が主となっております。
ここで、弊社がこれまでに従来育種により開発してまいりましたトマトを御紹介いたします。
お手元の
資料の四ページをごらんください。これは、
加工用トマトの
日本での
栽培風景であります。
世界的に見ましても、八千万トンのトマトがほとんどこのように支柱を立てない、いわゆる無支柱
栽培でつくられております。無支柱
栽培を行う
理由は、有支柱
栽培と比べまして労働力が要らず省力化ができるからであります。この無支柱
栽培に使用するトマトは、しんどまりという形質を利用して、従来育種で開発いたしました。
次に、
資料の五ページをごらんください。通常、植物の実には右側の写真のようにジョイントというつなぎ目がありますので、ここから実がとれ、したがって、へたの部分は実の方に残ります。そうしますと、
加工食品にへたが混入し、その
品質を下げてしまいますので、
農家の方はもう一度このへた取りをしなければならず、大変な労力がかかっておりました。
そこで、このジョイントのない
品種、いわゆる左側の写真のようなジョイントレストマトでありますが、これを開発いたしました。ジョイントレストマトでは、必ず実はへたの部分からとれますので、へた取りの作業が要らず、
農家の方の労力を大幅に軽減し、また
商品としても
品質が
向上いたしました。
このほかにも、従来の育種によりまして、
消費者重視の
品種、例えば食べたときに口の中に皮が残らない、サクランボのような薄い皮のトマトとか、従来より栄養価の高いトマトなどを開発してまいりました。
ここまでに御紹介してまいりましたトマトは、すべて求める形質を有するトマトが遺伝資源としてありましたので、従来の育種
技術を用いて開発してまいりました。
基本的に、弊社の
品種開発は、遺伝資源のあるものはこれを利用し、交雑による従来育種により
品種開発を行う。遺伝資源のないものについてのみ、従来育種を補う形で、
遺伝子組み換え技術のようなニューバイオテクノロジーで
品種開発を行っております。
例えば、さきに御
説明いたしました、優先順位第一位の
研究課題であります高リコピントマトの開発、これは遺伝資源がありましたので、従来育種により開発いたしました。しかし、優先順位第二位の
研究課題であります高ペクチントマトの開発は、遺伝資源がありませんので、アンチセンス
技術という
遺伝子組み換え技術を用いて
品種開発をいたしました。
お手元の
資料の六ページをごらんください。これはアンチセンス
技術により開発した高ペクチン含有トマトを
説明したものでありますが、通常のトマトは、ポリガラクチュロナーゼというペクチン分解酵素がありますので、これがトマトのペクチンを分解し、トマトの日もちが悪くなったりあるいは
加工食品の粘度が低くなってしまうわけであります。しかし、このアンチセンス
技術を用いることで、これらの問題が解決できます。
アンチセンス
技術と申しますのは、トマトの中にあるポリガラクチュロナーゼの遺伝子を取り出しまして、この遺伝子を逆向きにしてもう一度トマトに導入してやることで、
目的とするポリガラクチュロナーゼ遺伝子の発現を抑制する
技術であります。
このようにして
研究開発してまいりました高リコピン高ペクチントマトを、お手元の
資料の七ページにお示しいたしました。写真の中央のトマトが、開発した高リコピン高ペクチントマトであります。
このトマトのリコピン含有量は、左側の生食用トマトの四倍、右側の
加工用トマトの二倍ありまして、成人病予防効果に期待ができると考えております。また、食物繊維であるペクチン含有量につきましては、左側の生食用トマトの二倍、右側の
加工用トマトの一・三倍含まれております。
この高リコピン高ペクチントマトは、受益者として特に
消費者を強く意識して開発してきたトマトであります。
ここで、トマトの中の赤い色素でありますリコピンについて少し御
説明をいたします。
お手元の
資料の八ページをごらんください。これと同様のデータを弊社でも得ておりますが、リコピンは、いわゆる悪玉酸素である活性酸素の消去能が非常に強く、ベータカロチンの二倍、ビタミンEの百倍、活性酸素消去能から見て、成人病予防とか、がん予防等の効果が期待できます。
次に、
資料の九ページをごらんください。これは子宮がんと肺がん細胞を用いた
研究データでありますが、トマトのリコピンが、カロチン類と比べ、これらのがんに対する予防効果が非常に強いこともわかってきました。
次に、ペクチンとの
関連で、高リコピン高ペクチントマトの
特徴について少し御
説明をいたします。
まず、ペクチンは、ケチャップ、ピューレなどのトマト
加工品の粘度に大きな影響を与えるものであります。
一般的にトマト
加工品の
製造工程では、ペクチン含有量の低下を防ぐために高温で加熱し、ポリガラクチュロナーゼの働きをなくします。高温で加熱するために、
加工品の色とか香りとか味等の劣化を招きます。一方、高リコピン高ペクチントマトでは、ポリガラクチュロナーゼが働かないため、高温で加熱する必要はありません。したがって、色とか香りとか味とか粘度、すべてを満足できる
商品ができるわけであります。
また、ペクチンは、食物繊維の代表的なものでありまして、コレステロールの体内吸収抑制とか、大腸がんの予防等の
機能が明らかにされつつあります。
このほかにも、この
遺伝子組み換えトマトは、圃場における日もち性が
向上いたしまして、より完熟した、より栄養のある、よりおいしいトマトを使った
商品を
消費者の方々に
提供することができます。
以上述べてまいりましたように、弊社が
研究開発いたしました高リコピン高ペクチントマトは、
消費者を最大の受益者として取り組んでまいりました
研究成果であります。
次に、三番目の弊社の
遺伝子組み換え研究について御
説明をいたします。
現在、
遺伝子組み換え植物の
研究に当たっては、各省庁でガイドラインが示されておりまして、
環境に対する
安全性評価につきましては科学
技術庁と農林水産省の管轄で、
遺伝子組み換え食品としての
安全性につきましては厚生省の管轄で行われておりますが、弊社も、これにのっとって
研究を進めております。
環境に対する
安全性につきましては、科学
技術庁の管轄であります閉鎖系温室及び非閉鎖系温室での評価、すなわち、弊社の
遺伝子組み換え研究では、
遺伝子組み換えトマトの作出と導入遺伝子の安定性、非組み換え体との産生物質の比較等の基本的な
安全性評価を行ってまいりました。
次に、農林水産省の管轄であります模擬的
環境利用による隔離圃場での評価、すなわち、弊社の
遺伝子組み換え研究では、
遺伝子組み換えトマトの雑草性や他の生物相への影響等の
調査を行ってまいりました。
その後、農林水産省の審査を受けて、
一般圃場での評価ということになりました。この段階に来て初めて、既存のトマトと同様に扱ってよいということになりまして、
品種特性等を評価いたしました。
現在、弊社は、この
一般圃場での評価を終えまして、次のステップであります、厚生省の組換えDNA
技術応用
食品・
食品添加物の
安全性評価指針に基づきまして、
食品としての
安全性評価を実施しております。
しかしながら、
表示問題やPA問題等が未解決であります現時点では、弊社は、開発した
遺伝子組み換えトマトを
商品化する計画はありません。したがって、厚生省への
食品としての
安全性認可申請は行っておりません。
引き続きまして、弊社の
遺伝子組み換えトマトであります高リコピン高ペクチントマトの開発経緯につきまして御
説明をいたします。
一九八九年、弊社は、イギリスのゼネカ社と共同
研究を開始いたしました。弊社保有の優良
品種二
品種、高リコピントマトでありますが、これを選出いたしまして、アンチセンス
技術を用いて
遺伝子組み換えトマトの開発に着手いたしました。
一九九二年、ゼネカ社との共同
研究について、プレスリリースをいたしました。
一九九三年、弊社の
遺伝子組み換えトマトであります高リコピン高ペクチントマトが完成いたしまして、閉鎖系温室での実験を開始いたしました。
一九九四年、非閉鎖系温室での実験が終了いたしました。
ここまでの段階は、科学
技術庁の管轄下で行ってまいりました。
一九九五年、模擬的
環境利用による隔離圃場実験を行い、この時点で再度プレスリリースをし、あわせて、地域住民の方々に公開をいたしました。
一九九六年、昨年の夏でありますが、
一般圃場における評価を実施いたしました。
ここまでの段階は、農林水産省の管轄下で行ってまいりました。
現在、厚生省の指針にのっとり、
食品としての
安全性評価を実施しているところでございます。
このような
研究経緯で現在に至っておるわけでありますが、弊社の開発してまいりました
遺伝子組み換えトマトの
商品化につきましては、先ほ
ども御
説明いたしましたように、
表示問題、PA問題が未解決であります現段階では、
商品化の計画はございません。また、厚生省への申請もいたしておりません。
また、弊社は、現在
海外よりトマトの濃縮物を
輸入しております。生トマト換算で二十万トンから二十五万トンのトマトを
輸入しておりますが、現地の
原料トマトの遺伝子をPCR法によりDNA分析することで、
遺伝子組み換え技術の使用の有無を判定しております。そして、使用していないということを確認した上で、二十万トンから二十五万トンのトマトを
輸入しております。また、あわせて契約書にも、「
遺伝子組み換えトマトを使用しないこと」という条項を盛り込んでおります。
次に、四番目の
遺伝子組み換え食品の
表示に関する弊社の
考え方について御
説明をいたします。
弊社の開発いたしました
遺伝子組み換えトマトにつきましては、厚生省の指針にのっとり
安全性評価は実施中でありますが、
安全性と
表示とは別であると考えますので、
表示問題につきましては、
消費者の知る権利、選択の権利を十分に考慮し、
表示の仕方を含めた
検討が必要であると考えます。原則として
表示をし、正確に開発
商品の価値を伝達すれば、より
消費者とのコミュニケーションが図れ、
消費者が
遺伝子組み換え商品の中で選択ができるようになります。結果として、これがPA対策にもつながると考えております。
しかし、一方で、
アメリカ、
カナダでは
遺伝子組み換え植物に対する
表示の義務がないため、これらの国から
輸入されます
菜種、
大豆等の
遺伝子組み換え植物につきましては
分離管理されておらず、識別あるいは分別が困難であると聞き及んでおります。また、
遺伝子組み換え植物については、導入遺伝子の由来とか利用
方法が多岐にわたり、
表示の
方法も一律の仕方では困難な点もあると考えております。このような
状況下では、
遺伝子組み換え植物及びその一次
加工品を使用する
企業が
表示をすることは大変困難であると考えられます。
したがいまして、
表示の問題につきましては、弊社に限らず、多くの
日本の
企業が困惑しているのが
現状であると考えております。弊社は、
表示の仕方を含め、
表示問題につきましてはコーデックス、農林水産省等のガイドラインに従いますので、早急なる御
検討をお願いいたします。ガイドラインができるまでは、弊社は
遺伝子組み換えトマトの
商品化はいたしません。
また、
消費者の不安感をぬぐい去るためにはPAをより積極的に展開する必要があると考えますが、不幸にして
消費者の不安がぬぐい去れない場合、すなわち、
消費者の
安心が得られない場合は、弊社は
遺伝子組み換えトマトの
商品化を断念いたします。
次に、五番目の
遺伝子組み換え研究の問題点について御
説明をいたします。
ここでは、三つのことについて述べます。
一つは特許問題、二つ目はPA問題、そして最後に価値創造について御
説明をいたします。
まず、特許問題に関してですが、
遺伝子組み換え技術は、
日本の
農業を考える上で重要な
技術であると認識しております。例えば、
日本のような夏に高温多湿になる気象
条件、また、最近の異常気象を考えますと、植物病原菌であるカビあるいはウイルスにより植物が壊滅的な被害をこうむることも十分予想されます。耐病性
品種の開発、また優良
品種の育種期間の短縮等の
観点からも、
遺伝子組み換え技術は
日本の
農業を考える上で重要な
技術であると認識しております。
しかしながら、
遺伝子組み換え技術は、その基本特許をほとんど欧米を中心とした
海外企業に押さえられております。
現状では、ある
遺伝子組み換え植物を開発したとしても、
海外特許に抵触するか、あるいは
海外特許の
一つ一つにロイヤルティーを支払わなければなりません。
国内のどの
企業もこのような問題を抱えております。
そこで、弊社は、提案をさせていただきたいのですが、
一つは、基本特許が
海外に押さえられている現在、
海外の基本特許を利用できる、例えば財団の設立のような体制づくりが必要であると考えております。二つ目は、産官学の共同
研究体制をさらに強化し、早急に
日本国内で
遺伝子組み換え技術に関する特許を蓄積する必要があると考えております。
次に、PAに関する問題でありますが、PAに関しましては、先ほ
ども述べさせていただきましたが、
消費者の方々に
安心感が醸成され、最終的に
安心していただけるように、民を含めた産官学が協力して積極的なPA対策システムを構築する必要があると考えております。
最後に、価値創造につきまして御
説明し、陳述を終わらせていただきます。
弊社は、
遺伝子組み換え技術により高リコピン高ペクチントマトが開発できた、これは価値形成をしただけであると考えております。今後、この形成した価値であります高リコピン高ペクチントマトの価値を
消費者の方々に積極的に伝達する必要があると考えております。弊社は、価値形成し、価値伝達を行い、初めて価値実現し、価値の創造ができるものと考えております。
これをもちまして、
参考人の
意見陳述を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。