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松浦参考人 連合の
松浦でございます。
私は、労働者、そして労働組合の
立場から、この持ち株の自由化問題に対する、特に労使問題に的を絞って御
意見を述べさせていただきたいと思うわけであります。
もちろん連合は、この
法律の
改正並びに一連の
規制の
緩和に対しまして、全面的に反対をしているものではないわけであります。しかしながら、言うまでもなく、自由
競争の前提というのは公正そして公平ルールがあって、それをみんなが守るということが原点であるというのは言うまでもないわけであります。しかし、現行の労働組合法では
持ち株会社の自由化を前提としていないことから、これが自由化をされますと、労使
関係を持たない
持ち株会社によって、実質的な労使の話し合いかないままに大規模なリストラなどが実施されるということが容易に想定をされるわけであります。
したがいまして、
持ち株会社の自由化に対応する労使
関係を律するための労働組合法を整備をし、
持ち株会社の事業主への使用者性について明確にするということとあわせまして、労働協約の各条適用であるとか、あるいはその監視機能の
強化など、適正な施策が同時に検討され、実施されなければならない、このように考えているわけでございます。
私どもが、
持ち株会社が自由化されることによってなぜ労使
関係が心配されるか、
懸念をしているということに対して、心配のし過ぎである、こういった
意見もあるわけでございますけれども、私ども労働組合として考えますに、
企業や個人資本家、投資家が持ち株をする目的については、大きく分けて二つあるというふうに考えているわけであります。
一つは、投資をすることあるいは株を持つことによって直接的利益を追求するということでありますし、もう
一つは、
企業がグループあるいは
企業系列のトータルの利益を
確保するという施策であると考えるわけであります。
一点目の直接的利益の追求の
関係につきましては、今日ほどグローバル化した
経済環境のもと、
日本の現状におきましては、株を取得して、その株価が上昇してその差益で利益を上げるということについては、極めて困難な
状況にある。また同時に、株を取得してその株主配当によって一定の水準の利益を
確保するということにつきましても、
日本の商法におきましては株は原価に対する配当でございますので、それもおよそ期待できない。
こういうことになりますと、持ち株をするということの最大の目的は、やはり
企業グループあるいは
系列のトータルの利益を追求するということにほかならないわけでありまして、その過程では、労使
関係のない
持ち株会社、親会社の意向、方針によって原局の労使
関係あるいは労使協議が形骸化をするという、持ち株主の意向に左右されて原局の労使協議が形骸化するということを一番心配をしているわけでございますけれども、具体的には四つの点で大きな
課題があり、問題があるというふうに考えているわけであります。
その
一つが、労使
関係上の使用者性が不明確になるという問題でございます。
当然のことながら、現在の労組法や制度につきましては、いわば
持ち株会社の
禁止を前提としたものでございます。したがいまして、親会社の使用者性はいわば現在の制度の中では非正規使用者、正規の使用者とはならないわけでございまして、これを例外として個別判断を迫られるということになるわけでございます。したがって、もしそうした労使
関係問題が起こったときには、法的
判断基準を現在の制度では欠くということになりますために、個別案件ごとに訴訟でその判断を求めなければならないわけであります。
したがって、私どもとしては、この
持ち株会社を自由化する場合には、労働法制を整備をして、
持ち株会社、親会社の使用者性というものを明確に
法律で定めるということが極めて重要な事項だ、このように考えております。そのことは労使
関係を極めてスムーズに行わせますし、そのほか経営の安定、従業員の雇用あるいは労働
条件の安定という面でも大きな役割を果たす、このように考えているわけであります。
二つ目が、労働協約の適用
範囲が縮小されるという問題がございます。
現在の労働組合法では、
企業内あるいは一定地域内では、四分の三の労働者が同じ労働協約でカバーされますと、そのほかの労働者にも拡張適用されるという制度があるわけでございますけれども、
持ち株会社が親会社になることによって、事業単位ごとに独立をする、分社化をするという問題、あるいは新しいベンチャービジネスの株を取得して
系列あるいは傘下
企業グループの中に入れる、しかもそこが未組織であった場合に、新しい労働協約が即できるかどうかという問題については極めて難しい問題でございます。
実情といたしましては、労働省が九六年の六月に調査をしました三十人以上の事業所五千の組合を対象に労働協約がどのように締結をされているかという調査を先日発表したわけでございますけれども、労働協約を締結しているのは九〇%、しかも大
企業にいくほどその締結率が高くて九五%。したがって、逆に百人未満の事業場にありましては、労働組合があつでも十分な労働協約が締結をされていないという実情にあるわけでございます。
そしてまた、未組織のところにつきましては、現在
日本の労働組合の組織率は二三・一%でございまして、ことしの四月一日から実施されました週四十時間制問題のときにも明確になりましたが、
日本の場合には極めて中小
企業が多いわけでございまして、千人以上の大
企業と言われるところについてはわずか五%程度という実態にあるわけでございます。三百人以下のところが八〇%近くもあるという実情を考えてみますと、分社、独立あるいは株式取得による傘下、
系列への投入ということに伴う労働協約の機能の低下という問題については、極めて大きな
課題だというふうに考えているわけであります。
三つ目が、労使協議制の形骸化と労働
条件の低下という問題でございます。
現在、大
企業の九割以上が非常に充実した労使協議制を持っているわけであります。そのことによりまして、経営の安定化、雇用、労働の安定化というものが図られていると私どもは判断をしているわけでございますけれども、使用者性が明確でない親会社、
持ち株会社ができますと、そことの直接的な労使交渉ができない。しかも、経営の基本方針については
持ち株会社によってこれが提起をされるということになりますと、当該の労使協議というものはその
意味をなさないということになるわけであります。
従業員、組合員が一生懸命生産性の向上やあるいは生産に努力をしたけれども、
持ち株会社の収益目標に到達できない、外的要因によってその目標を到達できない場合も、その成果は労働者に還元されないということが容易に起こり得るということを私どもは心配をしているわけであります。なぜその成果を分配できないのかという経営方針を納得のいくまで話し合うということが労使の安定という
意味では極めて重要な事項であるということを考えますと、
持ち株会社、親会社の使用者性を明確にするということがいかに大事かということがおわかりいただけるものと考えるわけであります。
四つ目は、労働争議等が増大するおそれがあるということであります。
現在も、いわゆる事業持ち株制というのは許可をされているわけでございます。私どもが例えば春季生活改善闘争であるとか労働協約改善の交渉であるとかのときに、たまたまではなしにたびたび耳にしますのは、協力会社、部品メーカー、下請の労働者の労働
条件改善に当たって、親
企業からのコスト引き下げ目標を提示されたために、原局の労使では何とかこの頑張りにこたえたいという意思は経営側にはあるんだけれども、これが親会社のコストの指定、締めつけによって実現できないという問題があるわけでございます。そうしたことが増大をしますと、やはりこれは労使紛争へ発展をする、こういうことになることは間違いないというふうに判断をしているわけでございます。
最後に、こうした問題からさらにもう一歩進んで、
企業倒産時の賃金
確保の問題についてでございます。
系列あるいはグループ
企業のトータル収益を拡大をするために、不採算部門の切り捨てという問題が、少し極端な例でありますけれども、これも容易に想定をされるわけであります。そうした場合に、優良な、資産あるいはノウハウ、技術であるとかはグループの他の
企業の方に移されていって、結果として、倒産整理をする段階では、従業員への退職金あるいは賃金も払えるお金や資産を持っていないということなども想定をされるところでございます。労働債権は、
持ち株会社、親
企業についてはしっかりとした健全経営、そして大きな収益を上げているのに、その
子会社は不採算部門ということで切り捨てられる段階で、従業員に対する適正なというよりもむしろ正当な還元が保証されない、そういったことも想定をされるわけであります。
したがいまして、こうした点を考えていきますと、当然のことながら、今回の
独占禁止法の
改正によって
持ち株会社の自由化を図るという前提には、そうした労使間における公正ルールというものをきっちりと検討、整備をしていただくということが極めて重要であるということを申し上げまして、私の
意見とさせていただきます。
ありがとうございました。(拍手)