○
月尾参考人 月尾でございます。
お
手元に「
首都機能移転への疑問」と題したレジュメと、その後に五枚ほどの図表をつけたものがありますが、それに沿って御
説明させていただきたいと思います。
現在第三次ブームと言われる過去十年ほどの
首都機能移転の
検討の中で、その
移転すべき理由というものがさまざまに変遷してまいりましたが、現時点では、「1」と大きく書いてあります中に(1)から(5)までございますようなおよそ五つの理由が一般に
首都機能移転が必要だと言われている理由ではないかと思います。
しかし、これらの多くは必ずしも
首都機能移転が必要だということを十分納得させる理由ではないのではないかというふうに私は考えております。
順次
説明させていただきますが、まず第一点は、
国政全般の
改革のために
首都機能移転が必要だということが特に強く強調されるようになっております。しかし、首都という
空間というものを移動するということと
国政全般の
改革ということは本質的には関係のないことでありまして、それを関係づけるために現在巷間言われている
議論が引っ越し理論と言われるものでありまして、
行政改革というのは大変困難な課題であるので
空間を移動することによってそれを容易にするという
議論でありますが、私はこれは立法府の役割を非常に軽視した
議論ではないかと思います。
場所を移さなければ
行政、財政のあり方が変えられないというのはむしろ順序が逆の
議論であって、
行政、財政の
改革を明確に示した後、それでは一体どのような
首都機能が存在し、それはどのような
空間で役割を果たすかというふうに考えるべきではないかというふうに思っております。
同様に、
平成七年十二月十三日に発表されました
国会等移転調査会報告の二十四ページに、革袋理論といってもいいような理論が書いてございます。「新しい
日本は新しい革袋に」という考え方でありますが、これも、現実今進んでいる
検討の過程を考えますと、新しい革袋を先に
検討し、それに合わせる新しい
日本をむしろ後から
検討しているような
状況になっておるのではないかと思います。
これも先ほどの引っ越し理論同様に、むしろ新しい
日本というのはどういう
日本であるかということを明確にした上で、それを入れるべき革袋を考える、それでも
移転が必要であれば
移転するというような方向で考えるべきではないかというふうに思います。
そういう点では、むしろ現在別の
検討が進められております、中央集権から
地方分権へという動きであるとか、護送船団方式からもっと
規制緩和をする方向であるとか、今別途
検討されているような課題を先に明確にするということが重要ではないかというふうに思います。
二番目は、
東京一極集中の
是正ということが非常に言われております。
これは、既に
一極集中は逆の方向に動き始めているというデータが図1から図4までに掲げてあります。
図1は、三大
都市圏での
人口の社会増減を示したものであります。既に一九七五年ころから大阪圏、名古屋圏は
社会減になっておりますが、唯一
人口を吸収しておりました
東京圏も一九九四年から減少に転じ始めました。
しかし、
東京圏はもともと若年
人口が多いために自然増があるから減らないのではないかという
議論もありましたが、図2をごらんいただきますと、
東京圏も今や
人口増加はどんどん減少の方向にいきますし、
東京都自身は既にこの六年間ほど
人口全体としても減少しておるということでありまして、必ずしも
首都圏、
東京というところが、
人口という点から見れば、
集中を進めているわけではないということが明確になるかと思います。
図3は、一九九四年から九五年にかけて
人口がふえた都道府県と減った都道府県を色分けしたものでありますが、これをごらんいただきますと、
東京、愛知、大阪、
京都などの巨大な
都市圏からその
周辺へ
人口が既に大きく動き始めているということが御理解いただけるのではないかと思います。
人口以外のものについてはどうかということですが、これは
国土庁の方でおつくりになった資料でありますけれども、例えば、資本金十億円以上の本社、外資系
企業、
情報産業など、つまり出版業、放送業などでの従業者数、研究者数、大学生数などという指標をとりましても、実は八〇年代から九〇年代にかけて
全国でのシェアが
首都圏で減っておりまして、過去のように
首都圏が
日本の
経済活動、
文化活動、研究活動などを吸収しているという
時代ではないということがこのような指標で御理解いただけるのではないかと思います。
三番目に、
災害対策ということも、特に阪神・淡路大震災以降、急速に重要な理由として挙げてこられました。これは大変重要な根拠でありまして、確かに
東京に直下型の地震などの
災害が来れば非常に大きな問題をもたらします。
しかし、これは、本質的に解決するためには、分散して
首都機能を持つ、もしくは代替する
機能を備えていくというような方法で考えない限り、どこに移しても、仮にその移した先で
災害が起これば同等の問題が起こるということでありまして、この課題自身は重要でありますが、それを解決する方法が
首都機能移転という方法だけで十分かどうかということも
議論する必要があるのではないかと思います。
四番目は人心一新ということでありまして、
日本は、先ほど
堺屋参考人が御
説明されましたように、古代から大変数多く
遷都という形で
首都機能移転が行われてきました。この多くの理由は人心一新ということでありまして、それ自身は結構かと思います。
特に、
文化人類学の方々の
説明によりますと、汚れを払うということが大変重要な根拠として挙げられておりますが、汚れというのは、語源は気が枯れるというところからきておるそうでありまして、今の、阪神・淡路大震災、オウム真理教の問題、最近のさまざまな政財界のスキャンダルというようなことか連続して起こる
状況を考えますと、人心一新は確かに必要かもわからない。
そういう点では結構ですが、では、人心一新をするのに最も
費用対
効果の高い方法は何かということを是非考えることが必要である。
空間を移動するということが人心一新にとって最も
効果的な方法かどうかということは是非考えてみるべきではないかと思います。
例えば、一例として、ケネディ大統領が
アメリカの人心を一新したのは、スペースという新しいフロンティアへ
アメリカが進出していこうという演説によって大変人心一新をしたというような例もありまして、本当に十兆円もしくは関連
施設も含めれば数十兆円になるかもわからないような
費用を投入することによって人心一新をすることが妥当な手段であるかということも、ぜひ考えるべきではないかと思います。
もう一つ、景気浮揚対策として行うということでありますが、これも既に、一般にはもはや、土木的な
公共事業による資金投入というものが景気浮揚に大きな
効果を及ぼすという従来の考え方は非常に疑問視されるような
時代になっております。むしろ、次の
時代の社会の基盤をつくるような新しい
投資対象に
投資することの方がより景気浮揚対策としては有効だというような
議論があります。
そのようなことを考えましても、先ほどの人心一新と同様、
費用対
効果をより考え、どのような
投資というものがより景気浮揚
効果があるかということを考えるべきではないかというふうに思います。
以上、現在までに、過去十年ほどにいろいろ挙げられております
首都機能移転の理由は、必ずしも
国民全体の納得を得られるほど重要な根拠ではないのではないかと私は思いますが、むしろ、これから二番目として申し上げたい、これまで余り
議論になっておらないけれども大変重要だという社会の変化ということを、今から御
説明させていただきたいと思います。
よく、この
首都機能移転は、
国家百年の計以上、数百年にわたる大変な大事業であるというふうに
説明されております。この数百年という単位を考えますと、一体、
日本という社会もしくはその
日本が置かれている
世界、地球という環境というものがどのように変化していくかということを明確にとらえるということが必要ではないかというふうに思います。
三点、その大きな変化と思われる条件を列挙してありますが、第一点は、
日本がこの過去百三十年ほどの成長ということを前提にした社会ではないということであります。
堺屋参考人がよく、右肩上がりの
時代が終了し、右肩下がりの
時代になると御
説明しておられるような
時代がこれから始まるということでありまして、既に十分御承知のことと思いますが、
人口で見ますと、一九九五年に、
日本の生産年齢
人口という、十五歳から六十四歳の働き盛りの
人口は頂点を迎え、現在減少に入っております。ことしになりまして
人口問題研究所が発表されました
日本の
人口の長期予測では、従来二〇一一年ころがピークと言われていた
日本全体の
人口のピークが二〇〇七年になるという予測になっております。これは、現在の合計特殊出生率をそのまままだ維持できるという前提でありますが、それが下がればより早く頂点に来るということであります。つまり、
人口という
国家の最も基礎的な指標がもはや増大しない社会、それを前提とした
首都機能というようなものも考える必要がある。
同様に、
経済についても、少なくとも過去を見ますと、その次の図6にありますように、既に部分的にはマイナス、よく成長しても年率一、二%という
時代に入っております。最近の予測によりますと、次の図7にございますように、二〇二〇年ごろには、実質
経済成長率がマイナスに入り、経常収支が赤字になるという予測さえある
時代が迫っておるということでありまして、そのような
時代に、果たして従来の首都というような概念を前提とした
移転政策というものが妥当かどうかということを考える必要があるかと思います。
二番目に、地球規模で考えたときには、資源問題、環境問題というものが大変重要な課題になるということだと思います。
よく二十九日目の恐怖という言葉が使われまして、環境問題というのはまだ大丈夫だと思っていると突然倍々でふえていくために、ほんの
最後の一瞬にして巨大な環境問題が到来するというようなことが
説明されております。
そのような点から見ますと、現在、
世界全体の資源問題、環境問題というのはかなり猶予ならざる事態に来ておるというのが、図8、9でごらんいただけるかと思います。
例えば、化石燃料というのは、あと数百年という単位でしかもはや利用可能ではないという
時代が確実に予測されておりますし、過去二百年ほどの炭酸ガスの排出量、大気中の炭酸ガス濃度などの増大の様子を見ましても、こういう問題を解決するということに資するような政策をよりとると
いうことが重要ではないかというふうに思います。
最後に、三番目として申し上げたいのは、実は、新しくこれから始まる、
日本に限らず
世界全体が突き進む社会というのは、従来の地理的な
空間にその
中心があるのではなくて、英語ではサイバースペース、恐らく
日本語では
情報社会と翻訳するのが適切ではないかと思いますが、そのような社会にこそ
日本及び
世界の将来があるという認識を持つ必要があるのではないかと思います。
アメリカでは、クリントン政権、とりわけゴア副大統領は、
アメリカの次の
時代のフロンティアはこのサイバースペースにあるということを第一期の大統領就任以来
説明しておられます。つまり、
アメリカはもはや、地理的
空間の中で次の
時代の課題を考えるのではなくて、
情報空間の中で次の課題を考えるというスタンスをとって、大きな
世界戦略をとっております。
この
世界というのはいろいろな特徴がありますが、どういう特徴かといいますと、基本的に、距離と場所というものが意味をなさない、距離が意味をなさないという意味は、面積、容積なども同様に意味をなさない新しい
空間ということであります。
例えば、図10というのをごらんいただきますと、これは、昨年十二月からNTTが提供し始めました、次の
時代の
情報ネットワークの概念図と、その料金体系というものが下に示してあります。
例えば、最も多くの方がこれから利用されるだろうという、一番上の「OCNエコノミー」というものをごらんいただきますと、これは、電話線四分に相当する
程度の通信能力のある回線を、各家庭まで初期負担なしに敷設し、毎月三万八千円の料金を支払えば、
世界じゅう二十四時間、この料金内でどのような通信も可能にするという
ネットワークでありまして、既にこれがサービスを開始しております。
つまり、皆様は、これ一本引かれることによって、例えば
アメリカの
国会議員と二十四時間にわたって、毎日、しかも一カ月
議論されましても、この三万八千円で料金は十分だ、十分というか、それ以上かからないという新しい
技術が、今もう既に始まっております。
現在、これまで地理的
空間にありましたさまざまな活動が、このサイバースペースの中にどんどん吸収され始めております。例えば新聞は、現在、
世界で二百紙ほどの新聞、
日本では五、六紙でありますが、
世界では二百紙
程度の新聞がこのサイバースペースで
情報を提供するということをやっております。
世界どこでも、同じ
情報が同じ時間に見れる、従来のように山奥は新聞が来ないというような
状況ではない、どんな山奥におられても同じ
情報が入手できるというようなことが始まっております。
商品の流通についても、このサイバースペースの中に次々と今移行しておりまして、どのような不便な場所におられても、例えば
アメリカで今流行しているようなネクタイであるとか雑誌であるとか書籍であるというものが、三日
程度で家まで届けられるというようなサービスが始まっております。
より大きな変化は、金融取引というようなものも、既に大きくこのサイバースペースへ移るというようなことが起こっております。
では、実際どのようなことがあるかという例を一、二御紹介しますと、朝日新聞は、現在、電子新聞を二年近くにわたって提供しておりますが、この
情報は、
日本から発信しておるのではなくて、
アメリカのカリフォルニアの小さな
都市の中にサーバーと言われるコンピューターを置き、そこから
世界へ発信するということを行っております。ごく最近、通称ナベプロと言われておる芸能プロダクションが、
アメリカにやはりコンピューターを置いて、ナベプロの
情報提供を
世界に行うというような体制をとったりしております。
そのような
時代が始まっておるということを前提としますと、今、
首都機能がやるべきことは何かと考えた場合に、最もその中で大事なことは、まず、
国家の将来を決める
情報を創造するということ、法案その他を含めた新しい
情報を創造するということ、並びに、それを必要な場所、全
国民を対象、場合によっては海外も対象にして伝達するということだと思います。
このような
首都機能の最も本質的なことは、実は、サイバースペースに移せば、どのような場所にあっても可能であります。
これも一、二例を申し上げたいと思いますが、例えば、現在、高知県の食糧費は毎日インターネットの中で
情報提供されておりまして、私たちは、ただ簡単にアクセスするだけで、何月何日、何人の方を対象に幾ら食糧費が使われたという明細をすべて見ることができます。一般競争入札の
情報も、すべて今高知県はそのホームページの中に提供しております。職員採用についても、すべてこの中で
情報提供しております。
それから、もっとアイロニカルなことが起こっておりますのは、
アメリカの
国会で
議論された
情報で
国家機密に属するものを除いたものについて、私たちは、現在、
日本にいながら四、五時間後にはだれでも自由に手に入れられる
状況があります。
日本の場合は、官報に載ってだれでも
情報が手に入れられる
状況というのは、現在、三週間かかっております。つまり、ほんの足元にというか、自分の
土地にあるところで行われた
議論の
情報は三週間かかってしか入手できないのに対して、一万キロ近く離れたところで行われた
議論の
情報は三時間から四時間後にだれでも手に入れられるという社会が、既に
政治の
世界でも行われておるということです。
以上のようなことを考えますと、私たちは、これからの
移転も含めた
首都機能の問題を考えるときに、六十キロから三百キロというような距離を想定したり、何千ヘクタールというような面積を想定したりするということが果たして妥当かということも、百年、二百年という単位の
首都機能を考える場合には十分考えなければいけない。
それから、よくこの
首都機能移転の問題を考えるときに、ボンであるとか、ワシントンであるとか、キャンベラであるとか、過去の例が引かれます。これはすべて、地理的
空間が十分な意味を持った
時代に計画され、
実現された首都であります。まだ今
世界のどこにも、
情報社会の首都、つまりサイバースペースでの首都というものはどのような状態であるかということを
具体的に
実現しようとしているところはございません。あえて言えば、マレーシアが、現在そのような構想をつくり始め、
実現に向けて進み始めたという
程度であります。
以上のようなことを考えると、私は、これからの
首都機能の問題を数百年という単位で考えるときには、ぜひ、既に始まり出したサイバースペースの中で、一体どのような
日本を築き、どのような
首都機能を持つべきかということを
議論いただきたいということを申し上げて、終わらせていただきます。(拍手)