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巷野参考人 私は、小児科医でございます。毎日、青山にございますこ
どもの城の中の小児保健クリニックというところで診療しております。また、私の小児科臨床の経験の中で、ある時期は、
女子大学の
保育室の室長を長らく務めておりましたし、また、乳児院の院長もしたことがございます。そういったことから、現在、臨床をやっておりますけれ
ども、常に考えますのは、
子供の
保育、
育児ということでございます。
御承知のように、日本の乳児死亡率は世界最低になりまして、体の健康の問題につきましてはかなり解決されてきました。しかし、一方では、
子供の育ちにおかしなところが随分と出てきておりまして、そういったことを日常の臨床の中で
個々のケースについて経験しております。本当に
子供を知らない母親がふえております。
子供が泣くけれ
どもどうしたらいいのだろうか、
子供が口をあくけれ
どもいいのだろうか、本当に、我々が新しい動物をもらったときに育て方がわからないのと同じような訴えを持つお母さんがいかに多いかであります。
そして、現在のお母さん方の第一子を産む年齢を
厚生省の統計で見ますと、大体二十七歳前後になっております。恐らく子育て中でいろいろな心配をするお母さんの年齢は二十五歳から三十歳、あるいは三十五歳ぐらいのところにまで分布しております。
そういったお母さん方がいつごろ生まれたか、平均して三十年前ということで見ますと、昭和四十年代ということになります。昭和四十年代というのは、世の中も非常に落ちついてきまして、産業もどんどんと繁栄したころで、大人
社会を迎えております。当時の両親、若い親は、終戦前後の生まれでございまして、
自分としては
子供というものを知らないままに親になっている、そして、生まれた赤ちゃんを何とか立派に育てよう、しかし子育てを知らないというようなことが昭和四十年代の若い親にあったわけです。現在、ベビー雑誌とかあるいは
育児相談などが電話で行われておりますが、そういったことが始まったのもやはり昭和四十年代でございます。そのころ生まれた
子供が、今、親になってきております。
それで、昭和四十年代から現在に至るまでの二十年、三十年の間に、世の中では
子供がだんだんと少なくなってきた。また、
育児産業がどんどんと進歩してまいりまして、布おむつから紙おむつへと移ってきている、あるいは将来に向けての早期教育が起こってくるということで、現在の母親は、
子供を知らない、しかし、一方では大きな情報に惑わされているというような状態でお母さん方は育てております。
そういう中で、働いているお母さんは、
保育所にお預けになる、そこで集団
保育もしてもらえる、また、経験のある保母さんに見てもらえる、非常に幸せでございます。しかし、一方では
家庭で、それこそ十階、二十階というマンションの高いところで外の風の音も聞かないままに育てているお母さんが非常に多くなってきておりまして、そういった
方々の多くの悩みが、私
どもの小児科臨床の中で、毎日私
たちの目の前にあらわれてくるわけでございます。
そういったことから、
家庭で育てているお母さん方に対して、育てるよい
環境を私
どもがつくっていく必要があるわけでして、今、
厚生省で各地で
育児教室などを行われて、成果を上げております。
また、
保育所の方では、集団
保育の中でよりよい
保育を目指しておりますが、そういう中で、
保育所の中でも問題がないわけではございません。それは、一つには、
子供の健康というものは必ずしも平たんではございません。先ほ
ども御
意見がございましたけれ
ども、風邪を引いたり、いろいろございます。そういったことが、今、
保育園の中に
要望としてどんどんと入ってきております。
そういったことで、私は、今、
保育園がどうあったらいいか、
子供の
立場から、親の
立場ではなくて、発育していく
子供の
立場でどういう
環境が必要なのだろうか、それには
保育所はどういう
環境であってほしいのだろうか、あるいは
家庭がどういう
環境であってほしいのだろうかというようなことをちょっとまとめてみました。
これはお手元の資料の中に、二枚の紙でございますが、細かいことはこれでごらんになっていただきたいと思うのです。
今、
保育園児の保健というものを見ましたときに、いろいろな問題がございます。先ほ
どもございました、病児
保育といいましょうか、少し体の状態がよくない、しかし家で寝ているほどではない、そういう
子供をどうしたらいいだろうかということを考えたときに、親の
立場からいえば
保育園にお預けするということもありますが、
子供の
立場からいえばそういったときこそ
家庭で育ててほしい、そしてそれに対して
社会が何か援助してほしいというのが私の小児科医としての
立場でございます。
また、
産休明けの子育て、生後八週間からあの小さな赤ちゃんが
保育所で育てられるわけでございます。あるいは
障害児保育、それから、今、全国的に問題になりますアトピー性皮膚炎とかアトピー性皮膚炎の除去食という、ある特定の食事を除くわけですが、そういったことが
保育園に課せられております。最近では、アトピー性皮膚炎だけではなく、先天代謝異常という、生まれつき代謝異常を持っていて特定の食事しが食べられないというような方が
保育園に入ってまいりまして、
保育園での食事の中でそういったいわゆる治療食も
要望されているわけでございます。そのほか、日常の薬の問題あるいは感染症の問題、
保育園という集団の中で保健の
立場からいろいろな問題が起こっております。
そういったことを我々は援助しなければなりませんが、それには、その次のところに書きましたが、今の保母さん方の再教育あるいは小児保健の研修会などで、知識、技術というものを高めていただくような
機会を多くしていただきたいと思います。また、単に育てるだけではなくて、
家庭であれば母と子の結びつきというものがございますが、
保育園での保母さんと
子供の心の問題な
どもございます。あるいは、救急法の知識な
ども必要かと思います。そういったことは、保母さんになるための短大その他のところでの科目の中で大いに重要視して、教育された
方々が保母さんとして世の中に出ていただきたいというふうに思います。さらに、それをさかのぼれば、日本の義務教育の中で、
子供あるいは大人の、人間の健康というものをしっかりと教育していただいて、そういったことが人としての常識であってほしいというふうに思います。
また、
保育園と嘱託医の連携であるとか、あるいは主治医との連携というものを密にしていただきたい。私
ども、
日本保育園保健協議会という名前でございますが、昭和六十二年に同じような考えを持つ
保育園の園医の集まりで全国
保育園医連絡懇談会というものをつくりまして、毎年、園医だけで学会をしたり、あるいは
保育園の保健の問題につきましていろいろ考えを述べ合ってまいりました。
しかし、園医だけでは
保育園の保健の問題がなかなか解決できない面がございますので、
保育園で働いている、あるいは
保育園に
関係する、あるいは
保育園の保母さんの教育に
関係する、
保育園の保健に
関係するあらゆる
人たちが一緒になってやっていこうじゃないかということで、一昨年、平成七年四月に
日本保育園保健協議会というものをつくりまして、毎年、学会をしたり機関誌を発行して、現在の
保育園の中における
子供たちの保健の問題について、いろいろと研究したり、
保育園に助言したりということでやっております。
そういったところの情報の中からも、この
保育園の保健の問題というものがこれからますます大きなことになってくる。私
たちに課せられた仕事が多くなってきておりますが、今申し上げたような基本的な
保育園での保健といいましょうか、医療に近づいた問題も出てくることにつきまして、各分野のそれぞれの専門の
先生方のこれからの御協力をいただきたいというふうに思うわけでございます。
それからもう一つの項目ですが、
子供の健康な発育ということから見たときに
保育園の
生活がどうあるべきかということです。
これは、今、私
ども小児科医の中でいろいろ
検討されていることもあるのですが、非常に夜更かしの
子供が多くなってきておりまして、そういった
お子さんの背景を見てみますと、産業構造といいましょうか、親の勤務といったものが大きく
関係している。夜九時ごろ帰ってきて、それから一緒にふろに入る。そして、親と
子供のきずなということで、それから二時間、三時間と父親と
子供とで遊ぶというようなことで、夜十二時、一時に寝る
子供がいかに多いかということです。それでも翌日ゆっくり寝ればよいではないかという
議論がございますけれ
ども、医学的に申し上げますと、やはり初めの乳幼児期、このころは昼と夜という
生活のリズムをしっかりとつけることが将来に向けて非常に大きな健康の基礎づくりになってまいります。
最近、睡眠学者などが、夜と昼の逆転している
子供がその後いろいろ精神発達の異常を起こしてくるという例な
ども述べておられます。そういったことから、やはり夜は寝て朝は起きる、そういった
生活をしっかりと乳幼児期に習慣づけるということを考えたときに、
保育所の
延長保育はどうあるべきだろうか、それから、
延長保育で夜九時ごろ御飯を食べる、これを夕食として食べるのか、あるいは、夕方、
保育園で夕食として食べて、また九時ごろおやつとして食べるのか、そういったことは、
子供の一日の
生活のリズムを考えるときに大変大きなものでございます。
そういったことから、小児保健の発育から見た
保育園の
あり方というものをひとつ
検討していきたい、また、皆さん方にいろいろな御
意見をいただきたいというふうに思います。
ありがとうございました。(拍手)
〔
佐藤(剛)
委員長代理退席、
委員長着席〕