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若杉参考人 ただいま御
紹介いただきました日経連の
若杉でございます。
国会の諸
先生方には、日ごろから日経連の活動に深い御理解を賜っております。この機会をおかりいたしまして、厚くお礼申し上げます。
本日は、
医療保険制度改革に関しまして、民間企業と申しますか、経済界の
立場から
発言させていただきたいと存じます。
戦後、
我が国の企業は、貿易や資本の自由化、石油ショック、急激な円高などの相次ぐ環境変化を労使の協力と努力の積み重ねによって乗り越え、
日本経済の発展を支えてきたのであります。
しかし、現在、
我が国の企業は、諸外国に比べて著しい高コスト構造のために国際競争力は弱まり、生産拠点は海外へ次々と移転し、
日本の産業の空洞化が進行し、国内における雇用の場が失われつつあります。
御高承のとおり、
日本経済は今や低成長に転じ、
国民所得の伸びも低迷しておりまして、この基調は今後長期化するものと考えられます。
一方、出生率の低下、後期高年齢者の増加など、少子・
高齢社会が予想をはるかに超えて急速に進行しております。厚生省の新将来
人口推計によれば、二〇五〇年の六十五歳以上
人口の比率は三二・三%と、前回推計の二八・二%よりもさらに上回る見込みであります。
また、国、地方の長期債務残高は本年度末には四百七十六兆円に達する見込みであるなど、
我が国財政はまさに危機的
状況にあり、財政
改革が
国民的
課題となっております。
現在の財政
状況は土光臨調時よりもはるかに悪く、政府は財政危機を訴えております。これ以上、子孫に負の遺産をツケ回さず、問題を先送りしないために、今こそ抜本的な行財政
改革の断行が必要であると考えます。
特に社会保障費は、
現行の
制度を変えない限り、ふえ続ける
傾向にあります。
我が国では、法人税が約十四兆円であるのに対し、社会保障
費用の
事業主負担額は二十八ないし二十九兆円にも達しているという試算もあります。事業主が払っている社会
保険料の
負担の方がはるかに大きいのであります。
今後、少子化、
高齢化の進展により、
我が国の社会保障費が急増していきますと、企業は社会保障コストの
負担増で活力を失い、また、企業で働く現役世代の人々の生活も税と社会
保険料の重圧で苦しくなり、
日本経済を支える民間企業は衰退の一途をたどることは明らかであります。
橋本内閣は、六大
改革の
一つとして、社会保障構造
改革の必要性をうたっております。その中でも、
医療保険制度の抜本的
改革は何をおいても急がなければならない最重要
課題であります。
改革に当たっては、良質かつ適切な
医療と、健全な
医療保険財政の両立を図ることが最大のポイントになろうかと存じます。
そこで、社会保障構造
改革の基本的な
方向の
あり方、さらに、
老人保健制度、
診療報酬体系、
薬価基準制度、
医療提供体制の
改革についての日経連の
考え方を述べた後、今回の
改正案に対する
考え方を述べたいと存じます。
日経連では、昨年秋に、社会保障構造
改革、
医療制度改革についての二つの提言を行いました。これらの中で、社会保障
改革を重要項目として取り上げ、
国民負担率は五〇ないし四五%以下を目指すべきと訴えました。これは、若い世代の
負担や企業の活力に配慮し、国の活力維持のために必要であると考えたからであります。
日経連の社会保障構造
改革の基本的なスタンスは、次の三点であります。
第一に、これまでの高度成長適合型の
制度から、低成長にも対応可能な
制度の構築を目指すこと、第二に、大きな政府を
見直し、小さな政府の実現を目指すこと、第三に、高
福祉・高
負担を
見直し、自助、共助、公助の三者のバランスのとれた中
福祉・中
負担の実現を目指すことであります。
小さな政府を目指す私たちは、今後、公助は相対的に低下し、自助努力や共助のウエートを高めざるを得ないと考えております。
特に、
医療についての基本的な
考え方は、
国民一人一人のセルフケアの
観点を重視すること、どこまでを
保険給付の
対象とするか、公的な
保険給付の範囲の
見直しを進めること、そして、
効率化による
医療費の削減と
医療の質的向上を図るため、
情報開示の促進、民間活力を含めた競争原理の導入、
医療の高コスト体質の原因となっている
コスト意識の欠如を改めていくことなどが重要でございます。
医療費の増加要因として特に問題なのは、
老人医療費の急増です。
そこで、まず、
老人保健制度については、
現行の
拠出金制度は現役世代に極めて重い
負担がかかる
システムであり、その
拠出金増が被用者
保険の構造的な財政赤字の主因となっております。
現行の不合理な
仕組みを廃止し、これにかわる新しい
高齢者医療の
仕組みを早急に
創設しなければなりません。日経連では、この問題についても検討中で、この秋をめどに結論を出したいと考えています。
第二に、
診療報酬体系についてですが、
現行の
出来高払い制には、過剰
診療、過剰投薬、過剰検査等々のいろいろな問題点が指摘されています。
医療のむだを排除するためにも、
現行の
出来高払い制の
見直しは不可欠と考えます。
現在、一部の
医療行為について、包括化が
医療機関の選択などによって行われていますが、当面、選択制でない全面的な包括化に移行するとともに、近い将来、フランスの償還払い制やイギリスの請負制等を導入すべく、速やかに検討を開始する必要があります。
第三に、
薬価基準制度についてですが、
我が国では
医療費の中で薬剤費が非常に高く、約三割も占めています。また、
薬価差益の存在が過剰投薬を生み出しており、この問題にメスを入れることが必要です。当面、薬剤の
患者負担や薬価算定
方式を見直すとともに、薬価差が生じない
仕組みや薬価差を縮小する方策の検討など、
薬価基準制度の廃止を含めた
抜本改革に直ちに着手しなければならないと考えます。
この問題は、
医療機関が薬を使えば使うほど潤い、また、
患者自身が、
コスト意識の欠如により、出された薬を幾らでも受け取る
現行の
医療保険制度の
仕組みそのものに起因した問題であり、
制度そのものの根本的な
改革が必要であると考えます。
第四に、
医療提供体制の
見直しについては、供給を絞ることが必要です。具体的には、医系大学の入学定員削減、
保険医の抑制、ベッド数の抑制が必要です。また、外来
患者の
病院集中といった非
効率を是正するために、
診療所と
病院の
機能分担や、かかりつけ医の導入が必要と考えます。
そして、これらの
医療制度全般にわたる
抜本改革の検討に当たっては、数値的な目標を設定し、かつ、年次計画を立て、あるいは期限を切って解決していくような手法をとるべきと考えます。
次に、今回の
医療保険制度改正案についての見解を述べます。
さきに述べた日経連の基本的なスタンスから見ますと、今回の
改正案は、評価できる点もありますが、幾つかの問題点があります。
一つは、今回の
改正案は、
抜本改革の
方向性が明らかでなく、
改革に向けての取り組みとしては不十分なものと言わざるを得ません。先ほど述べたような
医療制度全般にわたる総合的な
抜本改革に向けて、早く大きな第一歩を踏み出す必要があると考えます。
二つ目に、
老人の
患者負担について、定率制が導入されず定額制が継続されたことは問題であります。受益に応じた定率制を導入すべきで、それにより、
患者と
診療側の双方に
コスト意識が働き、過剰な
診療、投薬、検査などの
医療のむだが解消され、
医療費そのものの
効率化につながります。そして、これは
国民全体の
負担を軽くします。
三つ目は、薬剤
負担の問題です。私もメンバーの一員となっておりますが、昨年の
医療保険審議会の建議での多数
意見は、薬剤の
患者負担は
給付除外ないしは定率三ないし五割とするものでしたが、与党調整の過程で、
診療側の理解が得られないとして、一日一種類十五円の案が作成されたと聞いています。今回の案は、薬剤に着目した
改革の第一歩として評価できます。ところが、一部に、これをさらに後退させ、薬剤
負担を圧縮させようとする動きがあります。私たちは、後退には反対であります。
四つ目に、政府管掌健康
保険の
保険料率を過去最高を超えて大幅に引き上げることは容認しがたいことです。現下の厳しい経済環境の中では、中小企業には景気回復の実感は全くなく、このような
保険料アップにはたえられないと考えます。
五つ目は、
改正案について、一部に、
患者負担引き上げ反対、当面の
負担増の先送りなどの
意見があります。今回の
改正案は、当面する
医療保険の財政危機を乗り切るための必要最小限の応急
措置であり、今後どのような
改革を行う場合でも、今回程度の
患者負担増は避けられないものと考えます。
改正案の
内容がこれ以上後退することになれば、
医療保険財政の危機は深刻なものとなります。
以上、今回の
改正案の問題点を申し上げましたが、この案の成立がおくれるとすると、まことにゆゆしき
状況になります。
改正案の早期成立に向けて最大限の努力を講じていただきたく
お願いいたします。
最後に、政府は、
国民医療費の伸びを
国民所得の伸びの範囲内とするとの目標を堅持するという方針が出されています。日経連は、この
考え方に全面的に賛成であります。
もし、
医療制度の
抜本改革がとんざするということになれば、それに続く、公的年金等の
改革を含む社会保障構造
改革を初め、経済構造
改革、財政
改革などの六つの大
改革の達成が危うくなるのではないでしょうか。
御清聴ありがとうございました。(
拍手)