○鴨下
委員 私も、結果的に
薬剤費が下がらなかったという一番の大きな
原因は、
新薬に対するシフトだろうと思うのですね。でも、これは言ってみれば、業界の方から見れば、
薬価がどんどん切り下げられてしまって結果的に損益分岐点を切るような
薬価基準になってしまえば、これはもうどうしようもないわけですから、そうすると、何とか生き延びるために、
新薬を開発して、そしてそれなりの高
薬価をつけていただいて、それでまた生き延びるというような、こういう生き残り策をずっとしてきたわけですよ。
私たち、それを非常にある
意味で矛盾に満ちたものとして眺めてきたわけですけれ
ども、例えば
一つの薬の
薬価を切り下げると、医者にとっては
薬価差がなくなるということで薬を使う魅力がなくなります。前に私はその
質問をしたら、かの岡光
局長が、いや、
薬価で薬を選ぶのじゃないのだ、医者は
薬価で選ぶのじゃなくて薬効で選ぶのだと。もっともなことを言うなというふうに思っていたのですけれ
ども、そういう
意味でいいますとそのとおりなんですが、差益を取るというようなことも含めて、ある種
経済原理の中で開業医も生きているわけですから、そうすると、同じ薬効だったら
薬価差の出るものを使っていこうというのは、これは現実なんですね。その現実を直視しないで、
薬価を切り下げていって、そして新しい
新薬を出していくというような、こういうような
メーカーの生き残り策と
厚生省の
薬価のあり方というこの中で、
薬価を一生懸命切り下げてきたにもかかわらず
薬剤費が減らなかった、こういうようなことになっているのだろうと思います。
私は、ある
一つの薬をずっとフォローしているのですけれ
ども、これは固有名詞を出すとお気の毒なのでS製薬とでもしておきましょう。S製薬の例えばセフェム系の抗生剤の
薬価の推移をずっと追ってみたのです。これは発売年月が七〇年の五月の薬なんですが、そのときに
薬価が三百六十七円五十銭ついているのですね。それが
薬価の切り下げでだんだん安くなってきます。そして、七八年の二月には二百二十円五十銭になっているのです。そうすると、
メーカーもだんだんたまらなくなってきます。
そうすると次に、今度はその薬を多少モデルチェンジしまして、中身は変わらないのです、ただ一日三回から四回飲む薬を二回飲む、いわばロングアクティングのものにモデルチェンジします。これはマイナーチェンジです。四つのドアの自動車を二つのドアにしたぐらいのマイナーチェンジです。形はほとんど変わらない。その薬を出して、七八年の二月に四百三十五円五十銭の
薬価をもらっているのですね。その薬で、やれやれ、乗りかえてほっとしてやっていきますけれ
ども、八八年には、四百三十五円だった薬が百七十一円まで切り下げられてしまった。さあ大変だというので、今度はいわば化学的なカメの子のところの一部の組成を変えて、また新規な薬を開発しました。
そして、その薬を、今度は二百五十ミリを一日分三で飲めるような薬で、二百四十五円十銭で、これは八一年の六月に開発している。ところが、その薬も今度は八八年には百三十六円になってしまいました。これもマイナーチェンジの薬です。今度は、自動車でいえば、ドアをフォードアからツードアにしたのじゃなくて、フロントグリルとそれからヘッドライトの一部を改造して、エンジンの容量をちょっと上げたぐらいの、そういうようなモデルチェンジです。でも、外見からしたらほとんど変わらない。そういうような薬が出てきて、ところが、八八年には百三十六円になってしまったので、今度はまたそのフォードアだった自動車をツードアにして、今度はロングアクティングということで、八八年に二百六円九十銭という
薬価をつけて、そして来ている。
一番
最初に出たモデルの薬は、九七年の四月には三十七円四十銭まで下がってしまっているのです。もう使えないのですよ、こういう薬は。ただ、いわゆる抗菌、薬効のことでいいますと、ばい菌というのはそんなに、十年や二十年で性質がそうそう変わってくるものじゃありません。ですから、おできだとか風邪だとか肺炎だとかには、その三十七円の薬だって効くのです。ところが、損益分岐点を切っている薬だったら、
メーカーもつくらないし、それからお医者さんも使わない。ところが、薬としてはまだ使える。自動車でいえば、まだ乗れる自動車なのにスクラップにしなければいけなくなる。こういうもったいないことをやっているわけです。それが
新薬シフトの本質なんですよ。
だから、
新薬シフトはある
意味で
メーカーの生き残り策、これは
メーカーとしてはしようがないです。一生懸命やらなければ、新しい薬を開発しなければ、三十七円の薬を売っていたって、十分の一に切り下げられてしまった薬を売ったってなかなかそれで生き残るわけにいきませんから。だから、結果的には
厚生省の
薬価のつけ方に問題があるというふうに私は
考えているのです。
さきに、約二年前に井出
大臣のときにも同じような
質問を申し上げたのですけれ
ども、そのときにも、損益分岐点を切らない、そして
経済原理に乗ったところで
薬価をとどめることによって、医者は、もう十年も二十年も使いなれていて副作用も作用も熟知しているいい薬、そして
メーカーも、開発は開発で頑張るけれ
ども、画期的
新薬でない、マイナーチェンジの薬を次から次へと泥縄式につくっていくことによる、そういう労力じゃなくて、新規の、画期的な
新薬をつくるためにエネルギーを注ぐべきです。ただ生き残り策のために、
薬価がどんどん切り下げられていくために薬を開発せざるを得ない、そのために莫大な
開発費がかかるのです。そして、いろいろな治験でさまざまな問題が起きる。
今、こういうような弊害の中で
薬剤の、
薬価のあり方というのがあるのだということを
指摘したいと思いますが、
大臣、感想を。