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河野昭一君
河野でございます。
本日は、陳述人の一人に加えていただきましたことを大変光栄に思っております。
私の専門は自然科学、特に生態学や生物多様性の研究に係る系統分類学が専門でございますので、ある
意味では実質的に、今日の地球
環境のさまざまなレベルで生じている問題の中で、とりわけ生態系やそこに共存している生物相に係る問題について、他の陳述人の方とは別の
意味で直接的なかかわりを持っていると思われますので、許された時間の範囲内で具体的なことを交えて申し上げたいと思います。
まず、
仕事柄、世界のいろいろな
地域や日本国内を見ることが多いわけでありますが、ここ二十年来の地球
環境の
変化というものは、私どもが当初
考えていたよりも大変速い速度で
変化しつつある。その中におきましても、とりわけ熱帯林の衰退の速さ、それから日本におきましては、これまで手がつけられていませんでした比較的身近なところにある自然の改変が非常に速い速度で進んでいる、このことが大変危惧されます。したがって、そういう
視点で
考えましたときに、グローバルな
環境変化はもとより、もう少し
地域に根差した、
地域的な
環境変化の
実態についてもきめ細かい把握をしていくことが非常に重要になってきているのではないかというふうに
考えられます。
まず、今回
検討されております
アセス法に関して、限られた時間の中で、ざっと拝見させていただきました中で、全体的に気づいたことを一、二最初に申し上げたいと思います。
私は
法律家ではありませんので読み方が若干ずさんで正確さを欠いているかもしれませんが、その点はお許しいただくといたしまして、
アセス法は、やはり
手続法としての性格だけではもはやだめなのではないか。つまり、今ほど申し上げましたような
状況の中で、実質的な
拘束力を持った実体法的な性格を持たすことが非常に重要になってくるのではないかと思います。
これまでの
環境影響評価をやってきました
実施要綱や
閣議アセスの中でも具体的な問題としては取り上げられてきているわけですが、そこで
手続論だけで議論されがちであったことを、
アセス法をこういう形で制定する中で、今ほど申しましたような実質的な
拘束力をその中にどうやって盛り込んでいくのかということがやはり非常に大事になってくるのではないかと思います。
第二番目には、第四条の九項にもあるわけですが、判定基準を設定する、それで、この判定基準はすべて協
議事項となっている、このところが私どもにとっては大変気がかりなところであります。
その基準をつくるための基準というのが一体どのような基礎に基づいて行われるのか、この
部分が恣意的に行われるならば判定基準そのものは余り
意味を持たないことになってしまうのではないか、したがって、そういう
意味では従来の個別法の協
議事項と全く変わらない取り扱いを受けてしまうのではないかということが
一つ気がかりであります。
それから、今回の
アセス法の中では、三条の一項にもありますように、国民の位置づけというものをある程度明記しているわけですが、国民も
環境保全に努めなければいけないという抽象的な言い方で表現されているわけです。具体的にいろいろな問題が生じたとき、いかなる立場で、いかなる
地域の問題について、どのように関与するのかということに対する目標というものが余り鮮明ではないような気がいたします。
それから、四番目には、これも前のお二方の
指摘の中にもあったことですが、
事業者、主務大臣、
許認可権者以外の一体どういう立場の人間が最終的な判定に関与してくるのか。
これまでのいろいろな事例を少し振り返って
考えるならば、やはり第三者機関として専門家から成る判定機関が必要なのではないか。これをもってきちっと
アセスの結果のデータの
検討と
公開、それから判定の結果の
公開をもこの第三者機関の判定機関で行うということが、より実効あるものにしていくのではないか。
現在書かれている条文から見る限りにおきましては、先ほど冒頭でも申しましたように、
手続法的な性格が強いために、現行の
閣議アセス以上に踏み込んだ
部分がどれだけ具体的にあるのか。確かに
手続的には複雑になっている面が多々ありますが、その実体的存在
理由が必ずしもすべての場合で透明になっていないのではないかといったようなことが総論的に気づかれることでございます。
次に、個別的な問題について少し触れたいと思います。
先ほどの
指摘にもありましたように、
対象事業の範囲がやや狭いのではないか。それから、
評価方法と
アセスの結果の
公開についての
透明性が必ずしも確保されていないのではないか。
具体的な事例の中で一、二申し上げさせていただきますと、
一つは、林野
行政にかかわる問題点と
環境影響評価の
対象についてであります。
今回の新しい
制度では大規模林道を
対象にするということでありますが、広域基幹林道と大規模林道の違いは一体どこにあるのかということが必ずしもはっきりしていない。
従前から言われていることでありますが、大規模林道、広域基幹林道ともに、いわゆる道路法で言うところの道路に該当しないので、法的
拘束力が不明瞭になっている。実際に、現在の
運用は林道規程という通達だけであって、そういう
意味では極めて不備が多いので、今後は、やはり林道法といったようなきちっとした法の制定が必要になってくるのではないか。
そういう観点から
考えたときに、大規模林道も広域林道も、現実に起きている各
地域における自然破壊の規模であるとか、それから誘発されている
環境問題を
考えた場合には、やはり
同格で
アセスの
対象に含められるべきものではないかというふうに私は
考えます。
具体的な事例を
一つ、二つ申し上げますと、沖縄の山原の広域基幹林道でありますが、これはイタジイの原生林を貫くような形で建設が進められておりまして、ノグチゲラ、ヤンバルクイナ、ヤンバルテナガコガネなどのいわゆる山原
地域の固有種が生息する極めて原生的な自然に富んだ場所であります。現在の途中
段階におきましても、道路建設に伴って土砂の流亡が至るところで引き起こされておって、沖縄本島周辺のサンゴを含む海岸の生物相は壊滅
状態に近いところまで追い込まれているという
状態であります。
それから、第二番目に、御当地の
京都府で現在進行中の丹波広域基幹林道でありますが、これは民有林地帯を通す林道
計画でありまして、尾根筋には極めて原生
状態に近い植生が随所に残存しており、また、クマタカ等の猛禽類の生息、営巣が確認されているところであります。
これにつきましても、NGO等の
指摘があって、
京都府は荒巻
知事さんを先頭に全ルートの見直し
アセスを過去二年間かけて行っておりまして、結果的にルートの大幅な変更を行うのが妥当であるという結論に達しております。これは
一つの事例でありまして、結局、広域基幹林道の場合も、こうして
地域の実情に基づいて
アセスのやり直しをしてみるとやはり問題が非常に多いということで、当初の
計画は変更を余儀なくされているという事実があります。
こういった点にかんがみて、林道問題は、大規模林道、広域基幹林道という言い方をされていますが、規模に関してはほとんど同じレベルであるというふうに我々は
理解しておりまして、その
影響に関してはやはり同等に
評価をされるべきではないかというふうに
考えております。
もう
一つは、林道をなぜつくるかという問題について、言ってみれば林野庁の主張がやや不透明なのですね。
これまで、いわゆる拡大造林
事業との
関係において林道の
必要性が主張されてきているわけでありますが、山形、秋田を含めまして、東北地方の海抜標高一千メーター以上のところにあります原生的な植生を持っている森林の保安林機能が道路建設によって著しく損なわれているという事実があります。
したがって、実際に造林
事業との
関係で林道が必要であるといたしましても、その場所の立地条件の適地性、それから、そこで一体何を造林
事業の
対象にするかということの厳密な事前の
評価というものが必要になってくるのではないか。
山原の場合でも、イタジイを切りましてもその後に植栽する適当な樹木がないのであります。これは、気候条件等を
考えましても、本土におきまして行っている杉、ヒノキの植林
事業とは違った
意味で難しい技術的な問題を含んでいるのでありまして、ではなぜそこに林道を通すかということの
意味も不鮮明になってくるといったような問題があります。
それから、もう
一つは、造林地において現在起きている事態は極めてゆゆしきことでありまして、杉、ヒノキの単層林造林が進められてくる中で、林業労務者の高齢化とか数の減少等がありまして、実際に間伐材の処理とか下枝払いが著しく滞っている。その中で、せん孔虫の蔓延が既に
発生している兆候がある。つまり、林野
行政の中で造林
事業と林道
事業というのは一体化しているべきものでありますが、その辺の見きわめを国のレベルできちっとしなければいけないのではないか。そのためには、
全国的なレベルでの
アセスをきちっとした形でやっていくということが今緊急に必要であろうというふうに
考えられます。
その次に、前のお二方の
指摘にもありましたけれども、いわゆる
アセスの
対象になっている
地域の中には、今申しましたような国有林であるとか国立公園のような広い範囲の
地域も入ってくるわけですが、実際に、整備
事業という名のもとで、県定公園であるとか都市公園の、レベルの小さな、いわゆる都市近郊の身近な自然に対するいろいろな整備
事業が着手されております。その中には二十ヘクタールから三十ヘクタール以下という比較的小面積の
地域が
対象に含まれておりますが、これを取り扱うことに関しましては、ややもすると、整備
事業であるので
環境影響評価は必要ないという画一的な取り扱いがなされている。
ところが、
地域的に見ますと、局地的に非常に重要な
自然環境が、また生物相がその中に残されているという事実がありまして、この辺につきましても、やはりもう少し違った
視点から見直しをしていくことが重要になってくるのではないかというふうに
考えられます。
次に、
環境庁が行っている
事業にかかわる問題の中で一、二
指摘をしておきたいと思います。
一つは、国立公園、特に山岳国立公園の利用と開発に関する問題であります。
今、日本の山岳国立公園というのは、大雪山系、それから本州では東北にある数カ所の山岳国立公園や北アルプスの山岳国立公園等が代表的なものでありますが、近年、利用者数の増加の中でさまざまな問題が引き起こされてきております。この
段階に到達いたしますと、総量規制ということを少し真剣に
考える必要があるのではないか。つまり、高山
環境のように比較的厳しい
環境、弱い
環境条件にあるところに百万人を超える人間が侵入したときに引き起こされるさまざまな
環境問題に関して、きちっとした
環境影響評価をするということが今早急に必要であるというふうに
考えられます。
特に、国の特別天然記念物になっております北アルプス、中央アルプスのライチョウの生息
環境は、少なくとも現
段階で判断する限りにおいては極めて悪化の一途をたどっており、速やかな対応が必要になっていると
考えられます。
もう一点、
環境庁の所管の
事業の中で申し上げたいことは、緑のダイヤモンド
計画であります。
これは
施設整備が目的になっているということでありますが、その
施設整備の中身というものは、旧態依然とした道路の整備や
施設をつくるということの範囲内で処理されている。現実にその立地条件の中で適切な
計画を走らせる必要があり、そのためには、この種の規模の
事業であってもきちっとした
環境アセスが必要になってくるのではないかというふうに判断されます。
それから、三番目に、民間企業の経済活動に伴う
アセスの問題点を少し取り上げておきたいと思います。
どちらかと申しますと、ガスであるとか電力
事業のように公益性の高い
事業に関しましては、これまでもある程度
環境影響評価が義務づけられてきたという面がありますが、こうした
事業は、低湿地であるとか河川の河口であるとか干潟であるとか、比較的身近なところに位置した
環境が利用されることが多い。
したがって、冒頭でも申しましたように、今日、日本列島で一番速い速度で改変が進んでいるのは、今申しましたような、比較的私どもの身近なところにある
自然環境であります。ここは原生的自然ではありません。二次的自然ではありますが、その二次的自然の中に、極めて重要な、生物多様性の基礎になるさまざまな生物群の生育、生息
環境があるわけであります。
農林水産省は、最近、農業生態系を含めた生物多様性の維持ということに関しても注意を喚起する必要があるというふうに方向を向けておられますが、まさにこういった
視点は、今ほど申しましたような低湿地の自然や隣接した
環境と深いかかわりがあり、そういう
意味でも十二分にこれから
アセスの
対象にしていかなければいけない
地域であろうかと思います。
時間がなくなりましたので、最後に一言だけ言って終わりにしたいと思います。
私が申し上げたいのは、やはりこの
段階では、先ほど来
事後調査という言い方で
指摘がされておりますが、もう少し長期にわたった
環境影響評価、モニタリングの体制を確立することが極めて重要であろうかと思います。
このモニタリングに関しましては、
環境庁だけでなくて、農林水産省、建設省を含めまして、関連した所管の省庁が一体のもとにモニタリングのシステムを
全国レベルで確立する、これが非常に重要になってくる。
アセス法の見直しは十年後にやるということですが、これでは遅過ぎるのですね。つまり、三年、五年の間に起きるドラスチックな
環境変化を
考えたときに、それを的確に把握するためには、やはりモニタリングすることによって一体何が起きているかということを正確に把握することが必要になってくるのでありまして、この点がこれからの新しい方向を目指す上で
一つの重要なポイントであろうかと思います。
そのほかまだまだ問題点はあろうかと思いますが、時間も来ましたので、私の陳述は以上で終わります。
ありがとうございました。