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茅参考人 慶応
大学の茅でございます。
私は、
大学で
エネルギーシステムの分析、評価というのをずっと仕事にいたしておりまして、そういう立場から、
原子力が今後どういう役割を果たすかという点についてお話ししてみたいと思います。
この問題を
考える場合は、
環境、
資源、それから
エネルギーの供給という
三つの面を
考えなければいけないのですが、時間がございませんので、今のプレゼンテーションでは
環境、特に温暖化という問題に関する
原子力の役割について触れてみたいと思います。
お手元に
資料がございまして、そこに表が二枚ございます。これは数字の羅列でございますので、やや嫌だなと思われる方もあると思うのですけれ
ども、こちらは
科学技術委員会ということでございますので、そういう数字を使った議論もしていただいた方がいいのではないかと思いまして、その点は御勘弁をいただきます。
この表で何を申し上げたいかというと、過去から今後しばらくの間、
原子力が温暖化という問題に関してどのぐらいの役割を果たすのかという点について御理解をいただきたいということでございます。それと同時に、
原子力ということだけではなくて、この温暖化問題というのがいかに困難な問題かということを、この表で理解していただければと思って持ってきたわけです。
この表で、数字が書いてございますが、説明が何もございませんで大変恐縮なんですが、これは年ごとの
変化率をパーセントであらわしたものでございます。例えば、マイナス〇・六と書いてあるのはマイナス〇・六%・パー・年という意味でございまして、何もその表示がございませんが、次の表もその意味でございます。
さて、温暖化問題というのが今非常に世界的に議論されている、そして恐らくこの十二月の京都の
会議では長期的な削減の目標が決められるだろうということは、御
承知のとおりかと思います。そういった点から、過去それから将来におきます
日本及び先進諸国の二酸化
炭素の排出の状況というものをこの表で見ていただくのが一番よろしいかと思うのですが、それは、例えば
日本だけを見ますと、一枚目の表の一番右端に出ております。過去、一九八〇年代だけをとってみますと、
我が国の場合、平均で申しまして、
炭酸ガスは大体一%・パー・年ぐらいでふえてきております。しかし、九〇年代に入りましてはむしろ増加傾向でございまして、一・八%に上がった、こういう状況でございます。
こういう問題が一体どのようにして解決できるのかということを
考える場合に、我々はしばしば、そこにございますように
三つのファクターに分けて
炭酸ガスの増加率を
考えるのが普通でございます。
これは、そこにございますように、経済成長率、GNPと書いてございますが、それから
エネルギー集約率の
変化、俗に言う省
エネルギーですね、それから
炭素依存率、これは
燃料の中にどれだけ
炭素があるか、別な言葉で言いますと、どれだけ
炭酸ガスが出るかという率でございまして、この
三つの
変化率を足しますと、ちょうど
炭酸ガスの増加率に一致いたします。これは簡単な計算ですぐ出てまいります。
その場合、前の方の二つ、
炭素依存率の
変化と
エネルギー集約率の
変化というのは、いずれも
技術的な要因が非常に大きくきいております。それに対しまして経済成長率は、説明しなくてもおわかりのように、経済の
発展の度合いを示すわけでございます。したがって、我々とすれば、GNPの成長、これはほとんどの場合プラスになるわけですが、これをどのように前の二つの
技術要因で打ち消していくかということが
炭酸ガス、温暖化問題を
考える場合のかぎになるわけです。
その一枚目の表をごらんいただきますと、例えば八〇年代の
日本というのはかなり
成功した方でございます。経済は平均三・七%、これは欧米諸国に比べますと高い数字でございますけれ
ども、これだけ高い成長を示したのですが、実は省
エネルギーがマイナス二%、マイナスというのはよくなってくるという意味でございます。それから、
炭素依存率もマイナス〇・六%ということで、結果的に
CO2の増加は一%・パー・年ぐらいで済んだわけでございます。
ところが、九一年から後の数字がそこに出ておりますけれ
ども、ごらんいただくとわかるように、
炭素依存率はほとんど変わっていないのですけれ
ども、
エネルギー集約率は逆にプラスに変わっております。
二枚目をちょっと見ていただきますと、下に「主要国の省
エネルギーの進展状況」というのが出ております。これは、今申し上げましたE/Gという因子、これが毎年どう変わっていっているかというのを指数で示した絵なんですが、その中で太い線で書いてございますのが
日本でございまして、一九九四年までの絵が出ております。
ごらんいただくとわかるように、先進諸国いずれも、先ほどの
荒木参考人のお話にもありますように、八〇年代の半ばぐらいまでは大変改善されているのですけれ
ども、それからは停滞ぎみで、特に気になりますのは、
我が国の場合、九〇年代から逆に上がってきているということです。つまり、省
エネルギーという言葉は実質的にはかなり死語になってしまっているというのが
現状でございまして、これが我々が
現状を憂える
一つの大きな理由でございます。
ちょっと、一ページ目の表に戻っていただきまして、それに対しまして、
炭素依存率と書いたものは余り変わっていないのですが、これは、
燃料、つまり
化石燃料が、例えば
石炭からより
炭素の含有量の少ない
天然ガスにかわるとか、あるいは
原子力、水力などの非
化石燃料にかわることによってマイナスの値がふえるわけです。
ここにありますように、八〇年代、九〇年代、余り変わっておりませんのは、これはそういった流れは余り
変化していないということをあらわしております。先ほ
どもちょっと話にございましたように、
原子力に対する風当たりは大変強くなってきておりますけれ
ども、建設そのものはかなり長い期間をかけてやっておりますので、すぐ状況が変わるというわけではございませんで、それがこの数字にあらわれております。
恐縮ですが、もう一度二ページ目をごらんいただきたいのですが、このような状況というのを一九八〇年代のほかの国についてちょっとごらんいただきたいと思います。
今と全く同じ表がフランス、ドイツ、
日本、イギリス、アメリカについて出ております。ちょっと字が小さくなって申しわけないのですが、おわかりいただけると思うのですけれ
ども、そこで真ん中に
CO2というのが出ております。これをごらんいただきますと、フランス、マイナス一・九%・パー・年、ドイツ、マイナス一・二、イギリス、マイナス〇・一というふうに、ヨーロッパの国は軒並みマイナスなんですね。つまり、二酸化
炭素の排出は年々減ったというのが八〇年代の状況でございまして、現在EUが二酸化
炭素の削減ということに対して積極的な
一つの基盤をなしておりますが、これが何によったのかということでございます。
ごらんいただきますとわかるように、省
エネルギーにつきましては、フランスを除きまして、八〇年代、世界の先進諸国はいずれも二%近い省
エネルギー率を示している。つまり、どこも成績がよかったわけです。ところが、
炭素依存率というのをごらんいただきますと、フランスはマイナス三・四、ドイツはマイナス一・二というぐあいで、かなり速いテンポで減少しているわけですね。
これが何であるのかというのを
考えるには、一九八〇年に
原子力モラトリアムが起きた、つまり、それ以後の新しい
原子力発電所の運開が全部とまってしまったと仮定して再計算をしてみるとよくわかります。今の
炭素依存率がその場合どうなるかというのが右側のA0という欄でございまして、ごらんいただきますと、何とフランスのマイナス三・四というのはプラス〇・四というふうにプラスに転換してしまうわけです。そのほかの国も、いずれもマイナスの数字が小さくなるかあるいはプラスに転換しておりまして、結果的に、一番右にございますように、もし八〇年に
原子力モラトリアムが起きたとすれば、世界の先進諸国はいずれも二酸化
炭素の排出はふえていったことになるはずだというのを、これが示しております。つまり、言いかえますと、
原子力がいいかどうかということは別として、八〇年代において二酸化
炭素の排出がかなり抑えられたのは、実は
原子力がほとんどの原因であったということは数字の上から明確に見てとれます。
もう一度、一ページ目の
日本の表に戻っていただきたいのですが、さて今後ということになります。
今後につきましては、
我が国においては二つのシナリオがそこに書いてあります。真ん中にあるやや太い欄、これは需給見通しと呼んでおりまして、通産省が、正確に言いますと、通産省の総合
エネルギー調査会という審議会が出しております公的な見通しでございます。たまたま私はそれの需給部会長というのをやっておりますけれ
ども、そこで二〇一〇年までのシナリオというのをつくっております。その下に長期シナリオというのが、二〇三〇年までというのが出ております。これは昨年つくったものでございまして、一体、長期的にどのぐらい二酸化
炭素を抑えられるかということを
考えるためにつくったシナリオでございます。
なお、これはいずれも政府のシナリオでございますが、そこに入っている数字は私が試算したものでございまして、政府の公的な数字ではございませんので、お間違えのないようにお願いいたします。もっとも、この数字の計算を間違えますと私は学生に怒られますので、まず大丈夫だと思いますけれ
ども。
まず、真ん中の需給見通しを見ていただきますと、そこにございますように、我々は二酸化
炭素をほとんどふやさなくて済むという絵が出ております。一番右側の〇・一という数字は年率〇・一%ですので、十年間で一%しかふえませんので、実質的にほとんどふえないという意味になります。それを達成するためには、そこにあるように、
エネルギー集約率が大体八〇年代と同レベル、マイナス一・六%、
炭素依存率は、これも現在とほぼ同じのマイナス〇・八%という数字でやればまあいきそうだというのが、そこに書いてある数字の意味でございます。
この場合に、これができるのかということになるのですけれ
ども、
エネルギー集約率がマイナス一・六という数字は、八〇年代の数字を見る限りはできそうな気がするのですけれ
ども、先ほど申し上げましたように、一九九〇年代から
日本の状況が非常に悪くなっております。昨年も省
エネルギーにつきまして審議会等で国民に呼びかけを出しておりますけれ
ども、現実的には省
エネルギーというのはまだ一向に進んでいない。これは、先ほどの
荒木参考人のお話にもあるように、過去にもう十分やってしまったからかもしれません。いずれにしても、このマイナス一・六%という数字を達成するのはかなり大変なことであるというふうに我々は認識しております。
マイナス〇・八%という
炭素依存率でございますが、これは実は、
原子力が二〇一〇年までに七千二百五十万キロワット発電できるという想定に基づいた場合でございます。現在に比べると約二千五百万ぐらいはふえなければいけない、これは大変な数字かと思っております。
さらに、長期のシナリオがその下に出ておりますが、これは、
エネルギーの集約率に関しましては大体需給見通しと同じことを
考えておりますが、
炭素依存率も似たぐらいはいかないかという希望が出ております。これは実は、いろいろな計算をいたしまして、
原子力は目いっぱい頑張る、そして一億キロワットを二〇三〇年までにできる、それから太陽光発電のような新
エネルギーも目いっぱい頑張って、私の
技術屋としての立場からすると、ほとんど無理な値、例えば、
日本の太陽光発電で五千万キロリッター程度の
エネルギーがつくれるという前提でやった場合に、初めてこの〇・七%という数字が出てくるわけです。それでやっとゼロになるというのがこのシナリオの数字でございます。ただし、経済成長率が下がれば、もちろんもっと下がるわけです。これは産業構造審議会で暫定的に出した値でございまして、それを使っておりますのでこんな値になるわけです。
ただ、いずれにいたしましても、このような数字から見ますと、
原子力というものを抜いた場合には
日本の
CO2の排出というのはいや応なしにふえそうだということは、どなたでもおわかりになる事実でございまして、
原子力というものが、やはり
日本の中では非常に大きな意味を持つということがよくおわかりかと思います。
もちろん、
考え方として、
原子力なしでやっていこう、そして、その分ぐらい
CO2がふえても構わないではないかという見方もあり得ます。しかし、私自身、温暖化問題というものの深刻性というものを
考えてみ、そしてまた、現在の
軽水炉技術というものとを比較してみますと、やはり我々は、
原子力というものを着実に推進して、温暖化に対して少しでも手を打つのが筋であるというふうに
考えております。
もう時間がございませんが、最後に、より長期の問題について一言触れさせていただきます。
お手元の一枚目の最後に、「超長期にみる
原子力の役割」というのがございます。
長期的に見れば、
太陽エネルギーのようなクリーン
エネルギーが出てきて、我々は
原子力を使わなくても済むのではないかという
考え方があります。私も、正直に言いますと、二百年、三百年の後には
原子力よりもすぐれた
技術が出てくるということになってほしいと
考えておりますが、百年のスパン、来
世紀のスパンでは、それは非常に難しいことではないかと思っております。
現在、世界的に、
原子力にかわる新しい
エネルギーとして注目されておりますのは、太陽光発電と、植物を栽培いたしましてこれを
エネルギー化する、我々の言葉ではバイオマスと呼んでおりますが、この二つでございます。ところが、その見通しを見てみますと、いずれも相当に楽観的といいますか、無理がございまして、それを実現することは非常に難しいという気がいたします。
一つの例だけ申し上げます。
太陽光発電、これは現在政府では盛んに推進しておりますし、私も大事だと思っていますけれ
ども、現在の太陽電池の
効率一〇%、この前提のもとで、皆様のお宅の屋根に全部太陽電池を張ったとしたときに一体どれだけ
電力が出るかを
考えますと、
日本の現在の
電力の一五%ぐらいなんですね。つまり、夜もあり、雨も降りますので、実際の出力というのはその程度にしかならないわけです。したがいまして、やはり、こういったものは大事なんですけれ
ども、それのみに答えを託すことはできない。
一方において、
原子力も、アメリカの主張するように、いわゆるワンススルー、つまり、
軽水炉で一回使って、
ウラン235だけを当てにするという
考えですと、
資源量的にはやはり二十一
世紀のどこかでは枯渇の危機に至ることも我々としては心配しております。やはり、
藤家委員の言われるように、FBR、
高速増殖炉という形で、
ウランをより有効に
利用する手段を今後とも
開発することが非常に重要だと思います。もちろん、その途中にはいろいろな問題点はございますけれ
ども、やはり人間に長期的に安定して
エネルギーを供給するとすれば、そういった高速炉の
開発というのは必然であるというのが私の
意見でございます。
以上でございます。(拍手)