○
参考人(辻
啓明君) 辻でございます。
私に与えられましたテーマは、そこの
レジュメにございますように「請願審査の
問題点及びその改善策」ということでございます。
時間もありませんので早速入らせていただきますが、
国会における請願審査が十分ではないというようなことは
参議院の歴史の中で大いに論じられてきたところでございます。今から二十五年前、当時の河野議長さんが諮問機関を、
参議院問題懇談会をつくりまして、そのとき私もちょうど事務方の
責任者を命ぜられましてやった覚えがあります。そこで取り上げられまして以来、安井議長、徳永議長、木村議長、原議長と四代の議長のときにそれぞれ
参議院改革協
議会という場で取り上げられ、そこでそれぞれ答申がなされているわけでございます。
それらの答申を通じまして共通する請願改革の項目というのは、大きく分けまして三つあるということでございます。
その第一が請願審査の時期の適正化ということでございまして、その答申にありますところは、請願は会期末に一括審査するのではなくて会期の途中においても積極的に審査せよ、特に緊急に措置する必要のある請願については、その内容に応じて時機を失しないように審査せよ、さらに議案の審査や
国政調査に当たっては、これに関連する請願に十分配慮することというようなことでございました。
二番目の採択請願のアフターケアの問題でございますが、それが不十分だということでございまして、採択した請願について、
国会で処理できるものは積極的にその実現に努めること、それから
内閣に送付した請願については、
政府の処理状況を聴取するなど、その願意の実現を図ることというようになっているわけでございます。
三番目は、請願審査の結果について、請願者がこれを知ることができるように事務局から請願紹介護員に対し、当該
議員紹介に係る請願に関する審査結果を速やかに通知することとなっているわけでございます。
この三点のうち、第三のいわゆる採択請願の紹介護員への通知、これは事務局でやりますので実際行われているわけでございますが、第一のもの及び第二のものにつきましてはいまだ不十分だというようなことが言われているわけでございます。最初の会期途中における請願審査につきましては、この答申を受けまして二、三回行われたことがございます。しかし、最近はほとんど行われていないということでございます。
そういうようなことで、例えば帝国
議会の
時代にあったように、あるいは今御説明がありました
ドイツ連邦
議会において請願審査を専門に行う常任
委員会たる請願
委員会を
設置して、例えば週一回定期的に審査するようにしたらどうかというような
意見もあるわけでございますけれども、私としては、せっかく常任
委員会制度というものをつくってあるわけでございますので、それぞれの常任
委員会が審査することが適当であろうと。
ただし、時機を失しないようにすることが必要でございますので、やはり各
委員会としては付託請願につきまして絶えず注意を払う必要がある。そのために、
委員に対しての請願
情報の提供というものを欠かすことができないということ、あるいは適宜
理事会で請願の取り扱いを協議する、あるいは請願の担当
理事というようなものを置いて
責任体制を確立するというようなことが考えられるんだろうと思うのでございます。
それから、採択請願のアフターケアについてでございますが、例えば
参議院で発議いたしました公文書館法案のように、請願が
立法化につながったものもあるわけでございますので、
委員会での討議を通じて
委員会提出法律案という
制度もありますから、そういうものに結実していけば大変結構なことだろうと考えるわけでございます。
立法化に至らないものでありましても、
委員会の
国政調査の場で請願が指摘している
問題点について議論を深めていくということはもちろん現在も当然やっているわけでございますし、今後もさらにそれを深めていただきたい、こういうふうに思っているわけでございます。
それから第二番目、「
地方議会における請願審査との対比」ということであります。
請願の取り扱いにつきましては、よく
地方議会のそれと比較をされまして、
国会は
地方議会に比べて請願軽視だとか不親切だというような
批判があるわけでございます。
地方議会は住民密着型
議会でございますので、請願も身近で具体的なものが多うございます。それに審査件数もそう多くありませんので、議案同様に一件一件丁寧な審査が行われているということでございます。
そこで、
地方議会の取り扱いと
国会のそれとの相違点というものを若干申し上げたいと思うのでございます。
まず第一に、
地方議会の多くは請願の閉会中受理ということも行っているということでございます。請願の審査それ自体はもちろん閉会中始められるわけではございませんけれども、
議会としては請願受理の窓口をいつもあけておく、そうすることによって住民は執行機関に対して請願書なり要望書を持ってくると同時に、その足で
議会に対しても請願を
提出できるということになっているわけでございます。そのことによりまして
議会と住民との密着度が高まるということでございます。さらに、
地方議会の場合には会期が非常に短うございますので、
議会招集後受理では審査が十分行われがたいという実際の
要請があるわけでございます。
さらに、閉会申請願を受理しておきますと、いわゆる臨時会の招集請求というのが
地方議会にございますが、
国会にもあるわけですけれども、その請求
事件としてそれを取り上げることもできるというメリットもあるわけでございます。それに対しまして、
国会の方は会期も長うございますし、その必要性も少ないということになっているわけでございます。仮に、事務局で閉会中仮受理をしておいて、次の
議会の召集日に正式受理というようなことにしたらどうかというような話もあるわけでございますけれども、請願
提出に先着争いが起こるというようなことでありまして、結局、
国会の場合は請願についても議案同様に会期
独立の原則を守るべきだというようなことに現在なっているわけでございます。
次に、複数
委員会の所管にわたる請願の付託ということでございます。
最近は総合的な施策を求める請願が非常にふえてまいりました。そういうものは
一つの
委員会で処理できません。そうかといって、そのような請願のために
特別委員会を一々
設置するというわけにもまいりません。そこで、
地方議会は請願の内容が二つ以上の
委員会の所管に属するというような場合には二つ以上の請願が
提出されたというふうにみなしまして、それぞれの
委員会に付託しているのであります。これに対しまして、
国会の場合は、
提出の時点で紹介護員の御協力をいただきまして
委員会単位のものに分けて別々に出していただいている。ただし、それぞれの請願書の
提出理由のところで、これは総合的な施策を求める請願の一環として
提出したものである、ほかにも同
趣旨で
提出したものがありますよというようなことを書いていただくということでございます。
国会の納得ずくの分割方式というのも一理あるものと考えております。
それから第三は、
委員会審査のやり方の問題でございます。
地方議会の場合は、先ほど説明しましたように、請願につきましても一件ずつ詳細な審査が行われる、その際
行政当局の説明も聴取するということでございます。請願審査は文書審査でございますけれども、場合によっては請願
提出者を
参考人として招いて質疑も行われるということになっております。これに対しまして、
国会の場合は皆さん御承知のとおりでございますが、
委員会に先立つ
理事会での協議で検討がなされるということで、
委員会における実質審議がほとんど行われないということになっております。
国会における請願は非常に多うございますので、一件一件審査するというわけにもなかなかいかないという実情もあると思います。
しかし、正式な
委員会で
政府側に請願
事項についての現況とか対応策などを説明させるなど、一度はその請願に対する討議の機会を与える必要があるのではないか。つまり、請願審査が目に見える形で行われるということが
国民との
関係で大事なことではないかというふうに私は考えているわけでございます。
それから、請願議決の内容でございます。
地方議会の場合は、請願を採択するだけではなくて不採択ともはっきりと決定するわけです。これに対しまして、
国会の場合は採択は決めますけれども不採択ということは決めないで、以下保留というようなことで、そのまま審議未了にするわけでございます。
国民の請願権尊重の観点からいって、
国会の扱いの方がそういう点ではいいのかなとも考えるわけでございます。
また、
地方議会の場合は採択のほかに一部採択、
趣旨採択という決定をいたしまして、なるべく多くの請願の
趣旨を生かそうというような態度でございます。
国会でも一部採択ということはないわけではございませんが、そう多いわけでもありません。
参議院規則によりますと、採択請願については
意見書を付することができることになっておりますので、この
制度を活用いたしまして、
委員会サイドで一部採択だとか、
趣旨採択だとか、あるいは検討に値するとかいうような、いろいろな
意見書をつけて採択するというようなことはいいのではないかと私は考えております。
それから、請願の継続審査でございます。
地方議会は会期が短うございますので、請願についても継続審査が認められております。これに対しまして、
国会の方は継続審査は認められておりません。会期も長うございますし、請願件数も多うございますので、会期ごとに区切りをつけた方がよいという
考え方からだというふうに理解しております。
それから第六は、請願審査結果の請願者への通知でございます。
地方議会の場合には、採択、不採択の別なく請願審査の結果を請願者に通知するというようなことにしている
議会が多いわけでございます。これに対しまして、
国会の場合は請願件数が余りにも多い、請願者の住所の確認ができない、それから請願
提出に際して分割して出すとかいうような複雑な問題がありまして、そういうような理由で請願の結果を紹介護員に通知するだけにとどめているわけでございます。つまり、紹介護員には請願審査の入り口から出口まで面倒を見ていただくというようなことになっているわけでございます。今はもうコンピューター
時代でございますので、請願者がいつでも自分の
提出した請願の審査状況あるいは審査結果というものを知り得るような装置、いわゆるインターネットなどが盛んになっておるようでございますから、そういうことも考える必要があるのかなというふうに思っているわけでございます。
それから最後に、「請願改革命後の課題」でございますが、まず請願の多様性とその対応ということでございます。
請願は
議会に対する
国民の要望、
意見表明の原点でありますので、いろいろなものがあるわけでございます。また、制限しないでいろいろなものを出していただくということがまさに大事だと思っておるわけでございます。六〇年安保以来、大衆運動の中で請願の署名活動が活発に行われることで、請願に対して特別なイメージを持っている方もおられると思うのでございますけれども、請願にはいろいろなものがありまして、施策の
充実や改善を求める請願のほかにも
個々の
行政処分に対する苦情申し立て型請願というものもあってもいいわけですし、
国会に対する政策提案型請願というものもあってもいいわけでございます。.そういう中で、請願の議決方法も今までのように単に採択、不採択というだけではなくて、その性格に応じたやり方があってもいいのではないかというふうに考えているわけでございます。例えば、議案に対する賛否を表明するようなもの、これは議案の審査に反映させればよいわけでございまして.請願それ自体に対する議決は私は必要はないということだと思います。
それから、苦情申し立て型請願というものは、これはやはり中身を十分審査して、妥当なものについては
政府にその解決方を勧告するというようなことになろうかと思いますが、この場合、
委員会がどの程度オンブズマン的な役割を果たしていくかというようなことが大変なテーマだと思います。現状では、紹介護員が
国政調査の場で請願で述べられている要望
事項というものを質疑などで取り上げるというようなこと、あるいは
委員会が
調査テーマとして集中審議の対象テーマとするというようなことはあり得るということでございます。つまり、請願と
国政調査とはそういう意味で連動しているわけでございます。
それから、政策提案型請願につきましては、これは採択、不採択と決めるのではなくて、
国会における検討資料として大いに尊重するということを議決するというようなこともあってもいいのではないか。いきなり請願審査の結果として採択、不採択と決めなくても、そういう決め方もあるのではないか、単に保留というのもちょっと寂しいなと思っております。
要するに、
考え方といたしましては、決算の議決案のように請願の審査についての
委員会としての議決案というものをつくっていただいて、それを
委員長
報告のとおり決するという形で本会議で決するというようなやり方、そうなりますと、
国会として検討に値するとか、
政府に改善方を勧告するというような内容のものも出てくるのではないか。現状では、そういうようなものは一応採択して、
意見書案の中でそういう
趣旨で採択したんだよというようなことを述べるというようなことになろうかと思うわけでございます。
次は、「世論
調査の実施」と書いてありますが、これはアンケート
調査のようなものを行ったらいいのではないかと考えます。請願は
国民の声ではありますけれども、それが必ずしも
国民の多数の声であるかはこれは別問題でありますので、
国会としてはもちろん
提出された請願は尊重すると同時に、みずからも積極的に
国民の声を集める。請願審査と並行してアンケート
調査のような形で行うことがいいのではないか。例えば、夫婦別姓の問題とか臓器移植の問題などは、
国会の方から積極的に
国民感情に対する
調査というようなことが行われてもいいのではないか。総理府などがいろいろやっているようでございますけれども、
国会も請願を受理するだけでなくて、そういった
調査も積極的になさったらどうかと考えているわけです。
それから第三は、「アイデア提供型請願を歓迎」と書いてありますが、
国会は今まで
政府から
提出された議案審査を
中心として活動してきたわけでありまして、現在の
国会法や
議院規則というものも旧帝国
議会時代の
議院法とか規則と同様に、議案の
趣旨説明、質疑、討論、採決というような審議
中心の
規定ぶりになっております。しかし、やっぱり
国会が国権の最高機関として、あるいは唯一の
立法機関としての役割を果たすためにはみずから積極的に提案していくという姿勢が大事だと思いますので、そのためには
趣旨説明、質疑、討論、採決というのではなくて、
調査、分析、立案というようなプロセスが私は大事ではないかと思います。
そうなりますと、
国会の持っている
調査能力、分析能力、立案能力というものが強化されなければなりませんけれども、同時に
国民からも大いに知恵を出していただくことが大事だということで、これを請願という形でいただくのか、あるいは別の
国民提案のような形で
独立させるかは別といたしまして、そういうようなものも積極的に出していただく。テーマを決めて、
国会の方から提言を求めるというようなこともあっていいのではないかと考えております。
最後に、「
国民とともに考える
国会」とありますが、現在の
国会と
国民との
関係は、
国民からは請願とか公聴会、
参考人、あるいは
委員派遣の際の
意見聴取というような形で
意見は吸収しているわけであります。一方、
国会からは開かれた
国会ということで、広報活動強化あるいは
国民への
情報の提供というようなことが行われているわけでございます。もちろんこういうものは今後とも活発に行われなければならぬと思うのでありますけれども、どうもいずれも言いっ放し、聞きっ放しで一方通行的なものに終わる可能性があるのではないかというふうに思うわけでございます。
そうならないためには、やっぱり
国会と
国民との間で討議がなされる必要があるのではないか。例えば、
議会が主催するシンポジウムのようなものを全国各地で開くことで、
国民とともに考えるようなことがあってもいいのではないか。単なる受け身の
議会ではないという、むしろ事実を
国民に伝えて
国民と一緒に考えていくということが大事ではないかと思うわけでございます。
このようなことで、
国民との
関係の改善ということを検討し、かつ実行するような機構として、例えば
議院運営
委員会に
国民との
関係の改善に関する小
委員会というようなものを設けまして、そこでは同時に、請願の取り扱いについての
問題点なども解決していくというような方策というものも考えたらいいのではないかと思います。
以上、時間がありませんので早口でお話し申し上げて申しわけございませんでしたが、御質問があったらお答えすることにして、一応話を終わらせていただきます。
ありがとうございました。