○石毛鍈子君 ただいま
提案された
介護保険法案について、民主党を代表して、総理大臣、厚生大臣及び自治大臣に質問いたします。
高齢社会の進行とともに介護を必要とする高齢者が増大の一途をたどっていることは、今や周知の事態であります。寝たきりあるいは介護を必要とする痴呆性高齢者また虚弱の状態にある高齢者は、二〇〇〇年には二百八十万人に上ると推計されます。恐らく痴呆性の高齢者はもっとふえると予測され、介護を要する高齢者はさらにふえるものと思われます。
その増大する介護が現在既に多くの問題を擁していることは、改めて申すまでもありません。家族介護に携わる二人に一人は六十歳以上という老人介護の実態があり、介護している者がいつ倒れるかわからない過酷な
状況にあります。社会的介護の不足のために、女性が仕事を中断せざるを得ない
状況も続いています。社会的入院と呼ばれている状態にある高齢者がしばしば拘束されているという人権侵害
状況も、解決を見ていません。要介護者と家族などにとって、また、今後そうした事態に遭遇することが確実に予測される市民にとって、
充実した介護の社会システム化が喫緊の課題であることは言うまでもありません。
政府においてもその認識はある程度なされてきたところであり、そのために、ゴールドプラン、新ゴールドプランの
推進が図られてまいりました。しかるに、その大切な
政策実現の過程において岡光問題の発生を見るに至りました。介護保険の前提となる新ゴールドプランの
推進を岡光前事務次官を初めとする官僚が利権の具としたことへの市民の不信、怒りは、この問題の解決なくして介護保険の制度化を実現し得ないほどに深刻です。その一方で、繰り返しますが、社会システムとしての介護の整備
充実は、市民にとって喫緊の要望であることは言うをまちません。
法案の具体的な項目について質問する前に、御光前次官に関連した問題についてお尋ねいたします。事件の解明が進むにつれ、官と業、政と業の醜悪な癒着が判明しつつありますが、私はそれらを構造的かつ
政策的な問題ととらえています。
第一に、総理、中央官庁の職員の出向は、それ自体を否定するものではありませんが、特定ポストの独占、出向先での業者との癒着など、今回噴き出した問題をどのように認識されるのか、お示し願いたいと思います。
自治大臣、若年の中央官僚が特定ポストにつき、それが順送りされていくことを
地方自治の
立場からどのようにとらえられるのか。自治体職員の育成を阻み、
地方の自主的な決定を阻害するものと考えますが、御見解を伺います。
中央省庁の職員が現場を知るために出向が必要とされるのであれば、福祉施設などの最前線のポストにつくべきであって、
許認可権限を持つ職務は避けるべきと考えますが、厚生大臣と自治大臣に伺います。(
拍手)
第二に、社会福祉法人についてもさまざまな問題を
指摘できます。
九二年の総務庁報告では、社会福祉法人のずさんな運営が明らかにされ、改善の勧告がなされていますが、今回の事態を防ぐことはできませんでした。
行政による
行政監視には限界があり、民主党が今国会に
提出した
行政監視院
法案の一刻も早い成立が望まれます。
また、
行政の透明性が必要とされています。監督する
立場の者が事業者と癒着していれば、指導などあったものではありません。密室における
行政の指導をやめ、一般に公開し、社会福祉法人を初めこの
法案で設置される指定事業者などの情報の開示、
説明責任を
確立することが正道です。総理、厚生大臣の御見解を承ります。
関連して、会計検査院決算報告によれば、特別養護老人ホームの入所者に生活必需品費用が届いていなかったことが明らかになりましたが、厚生省はどのような対応をとられるのか伺います。
第三に、
補助金行政の問題です。
報道によれば、大蔵省と厚生省は都道府県の上乗せ
補助金を
廃止する方向を固めたとされています。これが事実だとすれば、ゆゆしき問題のすりかえであると言わなければなりません。今回の事件は交付の権限を持つ官僚が不当に
補助金を交付したことであって、
補助金の透明で客観的な交付こそが求められているのです。自治大臣、都道府県のいわゆる上乗せ
補助金は自治の問題であり、
中央省庁が口を出す必要はないと考えますが、いかがでしょうか。
さらに、私は、今回の事件を契機に、
補助金を包括化し客観的な交付基準を設定することが必要であると考えます。総理、厚生、自治大臣の御見解を求めます。
第四に、日本病院寝具協会などの公益法人に厚生省出身者が再就職し、医療や介護の既得権益を握るといった事態も明らかになりつつあります。厚生大臣、厚生省が許可する公益法人に関して、厚生省OBの再就職、
補助金交付などの実態を
調査し、
委員会審議に間に合うように国会に報告されることを求めますが、いかがでしょうか。
総理は、岡光問題に見られる官と業の癒着の構造をどのように打開し、同時に、介護保険制度を二度と利権が寄生しない仕組みとして誕生させるためにどのような構想をお持ちか、総括的に御所見をお伺いしたいと思います。
さて、高齢者介護について総理と厚生大臣に質問いたします。
介護保険の目的において、介護を要する高齢者の自立がうたわれています。介護を必要とする人が社会から排除されることなく自己の意思により社会の中で生活するという意味において、人権尊重としての自立の観点を私も大切に思い、それゆえ、介護保険の目的に自立への援助が位置づけられていることを歓迎いたします。
そこで、自立の意味内容を考えるときに、身体的、精神的自立のみでなく、社会参加、社会的自立の実現が不可欠と言えますが、この自立ということについてどのようにお考えか、また、
介護保険法案にはその自立の概念がどのように具体化されているか、御所見を賜りたい。
以下、介護保険自体について厚生大臣にお尋ねいたします。
第一に、保険者を市区町村とすることについては
地方分権の流れに沿うものとして評価いたしますが、被保険者の限定は問題です。当初、論議の過程で二十歳以上とされていた年齢区分が、四十歳以上に
引き上げられました。また、要介護の課題は、高齢者のみならず、障害者、難病者にも共通する課題であり、
介護保険法である以上、当然、要介護者に共通して機能すべき制度体系であるべきです。
関連して、サービス受給者が「加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等」と規定され、しかも、四十歳以上六十四歳以下では特定疾病に限定されています。このことにより、神経性疾患等の被保険者がサービスの利用から排除されるおそれがありますが、サービス適用利用者を幅広く位置づける考えがあるのかどうかをお尋ねいたします。
第二に、サービス基盤の整備について質問します。
厚生省によれば、介護保険のスタートの時点と考えられている二〇〇〇年に、施設介護に関しては一〇〇%の整備が予定されているものの、在宅サービスについてはおよそ三分の一程度の整備
水準にとどまるとされています。介護保険の
創設は、老人保健特別会計の一部、福祉制度における一般会計の公費
負担、計五千億円の減少をもたらすと推計されています。この公費
負担の減少分を他施策へ流用することなく基盤整備へ投入することをも含めて、さらなる基盤整備をどのように
推進するのか、お尋ねいたします。
第三に、
介護保険法案制定過程の論議において、被保険者の選択の自由を強調していたことにかかわって質問します。
一つは、居宅サービスの種類は訪問介護など十二種類に限定され、その中には、配食などの食事サービス、通院や社会参加に不可欠な送迎サービス等が含まれていません。選択の自由を確保する意味でも社会的自立を可能にする意味でも、サービスの種類をさらにふやすべきと考えますが、いかがでしょうか。
また、認定
審査会が市町村に対して、在宅サービス、施設サービスの適切有効な利用に関して意見を述べることができると規定しています。これらの規定は、介護保険は福祉における措置制度を克服するとした法の本旨にもとります。ゆえに、こうした措置的要素を
法案から削除すべきと考えますが、大臣のお考えはいかがでしょうか。
第四に、
法案において最も欠如していると考えられる被保険者の意見表明権、また被保険者への
説明責任などの権利擁護について質問いたします。
法案においては、要介護認定に対する不服申し立ての規定はあるものの、要介護状態の評価あるいは介護プランの
策定においては、被保険者の意見表明について明確な権利規定がなされていません。また、介護サービス受給等の際に生ずる問題を解決するには、
異議申し立て、オンブド制度が必要ですが、これについても法文には明確な規定がありません。さらに、サービス利用者への
説明責任、アカウンタビリティーも、利用者の知る権利を保障する上で不可欠です。これら一連の権利擁護システムを介護保険制度に積極的に位置づけていくお考えがあるかどうか、質問いたします。
第五に、市民参加についてお尋ねします。
この十年くらいの期間に、介護、福祉また医療
関係の領域で生じている最も大きな変化は、市民がサービス供給の担い手としても、またサービスシステムの
あり方にも関心を持ち積極的な参加を果たしていることにあると考えます。
法案には、サービス事業者としてまず法人等の要件が特定され、市民参加の事業については特例として位置づけられています。市民参加事業を介護保険において公認したことについて私は評価しますが、今回の社会福祉法人による不祥事を思うなら、むしろ法人規定を外す英断を持ち、保険者である市町村が事業者を情報公開のもとに指定する積極的な展開を図るべきと考えます。
また、介護保険事業計画の
策定、
推進に際しても、市民の参画を明確にすべきと考えます。介護保険
実施の基盤となる新ゴールドプランの実現が危ぶまれていますが、その
理由の一つは、被保険者、市民による
推進力、カウンターパワーが機能していないことにあると私は受けとめております。この点を含め、広く介護保険への市民参加について厚生大臣の御所見を伺います。
最後に、女性の
立場として見過ごすことのできない点を
指摘したいと思います。
法案では、六十五歳以上の保険料
負担において配偶者間のみならず世帯主の
負担義務が、また四十歳以上六十四歳層においては医療保険の保険料徴収システムに同化させる旨、規定されています。後者では、これにより扶養家族にある多くの女性の保険料
負担が免除されることになります。これらは、社会保障制度審議会の勧告等における社会保障の世帯単位から個人単位への移行の方策に反するものであります。また、女性、男性を問わず、個人としての自立の方向に沿うところではなく、私は肯定することができません。この点を介護保険の
見直しの際に重点項目として検討されるよう、強く要望いたします。
介護保険の審議が岡光事件の発生により多大な困難に遭遇したことを大変残念に思います。その問題の解明、解決とともに、保険料と租税とによる介護保険が、二十一世紀に介護を必要とするすべての人々、市民に十分に役立つように、修正すべき点は大胆に
見直し、市民参加、
地方分権に基づく地域介護システムの
確立として
推進が図れるよう期待して、民主党を代表しての質問といたします。(
拍手)
〔
内閣総理大臣橋本龍太郎君
登壇〕