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参考人(
桝本純君)
連合の
桝本でございます。よろしくお願いいたします。
今回の
労働者派遣法の見直しは、既に五年前から予定をされていたスケジュールでございました。
私
どもは、この
法改正の議論がなされる場所でありました中央職業安定審議会、なかんずく、その中の民間労働力需給制度小
委員会の審議に
責任を持って参加をしてきた
立場から、今回の
法案のもとになりましたその審議会の建議、皆様方のお手元にあります
委員会資料で申しますと三十九ページ以下ということになろうかと思いますが、この小
委員会の報告が中央職業安定審議会の建議として取りまとめられたのが昨年の十二月でございました。
これに至る過程を振り返りつつ、当初から
労働組合として取り組んできた視点を御
紹介しつつ、今般上程されております
法案についての
見解を申し述べたいというふうに思います。
結論から申しますと、今回出された
労働省の提案しております
改正案の
内容は、幾つかの点で極めて不十分かつ不満足なものであります。しかし、約二年にわたりますこの審議過程を振り返ってみますときに、残念ながら現在の取り巻く情勢の中では、今回の見直しがこういった
内容で
法案化されることについては、結論的に言えばやむを得ないのかなというふうに思っておるところであります。さはさりながら、私
どもの観点から見て残っている問題というのは決して小さい問題ではございません。合
弁護士の
中野先生の方から具体的な例を含めて指摘された点と重なるところも非常に多いかと思いますが、一応私
どもの
立場から申し述べたいと思います。
まず、今回の
法改正が議論されるに当たって、世上問題になっておりましたのは、現行法が中途で
拡大をいたしましたものも含めて十六の
業務に限定をしております
対象業務を
拡大するかどうか、
拡大するとすればどのように
拡大するのかという問題が
社会的に言えば注目をされていた問題でございました。しかし同時に、この審議会での
法改正問題が具体的なテーブルの上に上る時期に
二つ新しい条件が重なってまいりました。
一つは、御
案内のとおり、現在もなおそこから脱出できていない長期にわたる不況であります。この不況の中で、私
どもは現行の
労働者派遣制度というものが根本的な欠陥をあらわにしたというふうに
理解をしてまいりました。いま
一つは、この不況からの脱出を強く念頭に置いて多くの経営者並びに経営者
団体から主張されてまいりました
規制緩和という主張でございます。
私
どもは、
社会経済政策全般についての
規制緩和については、官僚統制を打破し、またさまざまな
規制に伴って生じている特権であるとか利権であるとか、あるいはさらには、それが政治の腐敗にまで結びつくような問題が多々明らかになっている中で、
規制緩和そのものに対しては積極的に
対応すべきだというふうには考えておりました。しかし同時に、
経済的な
活動が透明な形で行われるのに
対応して
社会的なルール、つまりゲームのルールというものは強められなければならない、
一つの共通した公明なルールのもとで自由な競争が行われるということがなければ現代の
社会における公正さというものは担保できないというふうに考えてまいりました。そういう中で、労働
関係法というのはまさに
社会的な公正なルールをつくるものだと、こういうふうに考えてきたところであります。
現在、上程されております
法律案、
一般的に言いますと
労働者派遣法と言いますが、
労働者派遣事業の適正な
運営の
確保及び
派遣労働者の
就業条件の
整備等に関する
法律、こういうのが正式名でございます。まさにこの名前が示しているように、適正な
運営が
確保されなければならないということをわざわざ
法律でうたうということは、適正でない
運営が多く見られたということを如実に示しているわけでありますし、
派遣労働者の
就業条件の整備というのは、この
派遣労働者の
就業条件が整備されておらなかったということをくしくも示しているものだというふうに考えます。
現実に、この
労働者派遣法が制定されました十年前、既に
派遣という形での就労はこの
法律がないまま、さまざまな形でこの
社会の中に広がっておりました。
ここで、
労働組合としてはどういう
立場を当初とってまいったかということにつきまして若干振り返ってみますと、こういった
派遣というような就労の仕方は好ましいものではないということを共通に抱いていたというふうに思います。しかし同時に、現実に存在しているものに対してこれをどういうふうにするのかということを放置して、
一般的に好ましいか好ましくないかということを議論することも、これまた決して
責任のある態度ではないだろう。なかんずく、我が国の
労働組合のその多くが
企業別の正規
雇用従業員の組合でありました。その世界の外にある
派遣労働者たちの問題を単に
派遣労働という就業形態が好ましくないという観点からだけ論じることは、場合によっては正規
雇用社員のエゴイズムというふうにも批判されかねません。
そしてまた、現実に我が国の
労働組合の組織率が、我々が言うのも恥ずかしい話ですが、決して高くない、むしろ次第に低下しつつあるという傾向の中で、たまたま運よく
正社員になっている人間だけの利益を主張することは、我々ナショナルセンターとしてはとるべき態度ではないだろうということを考えてまいりました。そういう観点から、今回の
改正の出発点に当たって我々が考えていたことは
二つであります。
一つは、
対象業務の問題に関して、その前に前提的に言いますと、
派遣という形での
就労形態というのは現に我が国の中で広がってしまっており、これに
対応して働いている
労働者の
権利を守る
社会的なルールは全く確立されていない。この問題について確立することは、
労働組合の
社会的な
使命だというふうに考えております。
それから、いわゆる
正社員として働くのではなくて、もっといろいろな形で働きたいという欲求があるとすれば、その欲求そのものは否定されるべきものだというふうには考えられない。しかし、現在の労働
関係法というのは、例えば
労働基準法をとってみますと、これは昭和二十二年に制定され、以後労働
契約に当たる部分は全く当時のままでございます。この労働
契約で想定されていたのは直接雇う人間のもとで働く、このことを想定しておりますし、またその働く人間
たちは一カ所に固まっており、そこで
従業員の代表を選ぶことができる、そして
使用者側と交渉することができる、このことも前提にしております。
けれ
ども、
派遣労働者の場合というのは、まず第一に、雇われる人とそのもとで働く、つまり労働の指揮命令権を持っている人とが違うわけであります。そしてまた、
登録型の
派遣の場合には、雇われる人そのものがしばしば変わります。
仕事が具体的にあって、その上で
派遣先と
登録契約を結び、そこで初めて
雇用契約というものが
一定の期間を限定して成り立つわけです。ここまで特殊なものでなくても、雇われている人のもとで働くのではない、別なところで働かざるを得ない
労働者というのはこの世の中に広く存在いたします。
例えば、典型がデパートの
派遣店員でございます。デパートの
派遣店員と申しますと、女性の
先生方は一階にある化粧品売り場をよく御存じかと思いますが、あれが
一つの典型。もう
一つの典型は、六階か七階か少し上の方にあります既製服売り場でございます。ここの両方では、そこに店を出す、片方では化粧品
会社、もう片方では洋服の卸
会社、これらとデパートとの間の力
関係が非常に大きく異なります。特に既製服売り場で働いております洋服の卸メーカーの方の
派遣社員たちは、非常にデパートの力が強いためにしばしば多くの
権利侵害をこうむってまいりました。
それから、例えば化学コンビナートのような装置産業ではメンテナンス専門の
会社がございます。このメンテナンスの
会社で働く
労働者たちは自分の
会社で働くわけではありません。エンジニアリング
会社がつくった装置のところへ行ってそのメンテナンスの作業に当たるわけで、多くの場合には自宅にファクスがあり、何月何日から何月何日までは何という
会社の機械をメンテナンスせよという指示のもとに、いろんなところで
仕事をしているわけであります。
しかし、
派遣労働者の場合には、先ほど申しましたように、さらに自分の雇い主との
関係そのものが極めて臨時的なものであります。このような存在の
労働者を、例えば
労働基準法は制定当時全く想定していなかったわけであります。
先ほど、今回の不況の中で
派遣法の欠陥があらわになったと申しましたが、それは先ほど
中野先生の方からも御
紹介がありましたように、一番典型的なあらわれが
契約の中途
解除でございます。
派遣労働者は
派遣元から賃金を受け取ります。しかし、その
派遣元から受け取る賃金というのは
派遣先から
派遣元に支払われる
派遣料金によって担保されているわけです。そして、
派遣先と
派遣元との間の
契約は、これは労働
契約ではなくて単なる
事業者間の民事
契約だというふうにみなされております。
これが中途で破棄された場合に、例えば六カ月の
契約で就労した
労働者は、途中四カ月目で
二つの
事業主の間でその民事
契約が破棄されたとすれば、その次にそれにかわる
仕事のあっせんでも受けない限り、当然のことながら残り二カ月間の賃金原資は
派遣元に入ってこないわけでありまして、したがって
派遣元の多くの場合はその場合に、先がこういうことになっちゃったからおまえはあきらめろといったようなことが
横行したわけであります。かわりの
仕事を見つけてくれる良心的な
会社も確かにありました。しかし、時は不況でございましてますます
仕事が減っている時期でございますから、たまたま
派遣元の経営者が良心的であってもうまく見つかるとは限りません。良心的でない場合には御推察のとおりであります。絶えず不安にさらされている
状況に
派遣労働者は置かれてまいりました。
このような事例が、
中野先生が代表をなさっている
派遣労働ネットワーク以外にも私
ども連合の
本部にも、また特に
派遣業が集中しております
東京の私
どもの
地域組織にも非常に多く集中してきたところでありました。その一端は、本日私
どもの
資料としてお手元に配付をさせていただいているものでございますので、御参照をいただければありがたいというふうに思います。
したがって、私
どもはこういった事態を前にいたしまして、何よりも
派遣労働者保護の観点から是正されなければいけないのは
派遣先事業主が労働
関係の中で持っている位置を明らかにすること、つまりすべてを
派遣元の方に使用者としての
責任をいわば位置づけるのではなくて、
派遣先の方がそれ相応の
責任を引き受けるような
内容に
改善すること、これが最も
基本的なことだと思っておりました。それと対比の上で言えば、
対象業務がどうなるかということはむしろそれとの結果で議論されればいいことだというふうに認識しておりました。これは現在も変わりません。
例えば、現行法で十六の
対象業務が一応認められておりますが、それらすべてが非常によい
業務で、それ以外の
業務は全部
派遣の対象にはならないよくない
業務であるといったような基準は、線を引くことは非常に難しゅうございます。現行十六の中でも怪しげなのもございますし、また適用対象になっていないものでも適用しても構わないものもあろうと。そのことよりも、むしろ問題なのは今言いましたような現行の
派遣制度の根本的な欠陥ということでございました。
この欠陥を是正するために
法律上検討されるべきもの、それから
法律の下にありますが、そのほかの
措置で検討されなければならないもの、あわせて審議会での議論をいたしまして、審議会ではそちらの議論をまず先行してくることができました。その結果が現在提出されている
法案に反映されているわけでございます。しかし、ここの中でこの前提になっております小
委員会のまとめが出ました段階で、私
どもが中央執行
委員会で確認をしたものがお手元の配付
資料の一番上についているものでございますが、ここで指摘しておりますとおり、現行制度の欠陥是正が今回の
法律で一〇〇%図られたというふうには思いにくいものがございます。
しかし、少なくとも
派遣先の
責任の問題が改めて今回論議され、
法案の中で取り入れられたことについては一歩の
前進だろうと。これが、どのように担保されるのかということは今後大変重要な課題を労使各側並びに
行政当局に残しているというふうに思います。
それから、法制定以後も依然として後を絶たない
違法派遣、多くの場合には請負という形を偽装した
派遣の問題であります。これにつきましては、今回の
法律は改めて
派遣先については、適法な
派遣業者から適法な職種以外では受け入れてはならない、当たり前のことですけれ
ども、これが初めて明示をされ、またそれが是正されない場合については幾つかの
措置を
法律上も確認してございます。しかし、具体的な問題は今後審議が予定されております労働大臣の定める
指針にゆだねられているところでございまして、この
指針がこの
改正法案の本来の
趣旨を生かした
内容になることを強く要望したいと思いますし、
連合として
責任を持った取り組みをしてまいりたいというふうに考えます。
結論的に申しますと、現在の制度のすべてが
労働者派遣法という職業安定法の例外規定をもとにしたいわば外づけの
法律によってすべて担保できるかどうかは非常に大事な点であります。私
どもは、労働
契約にかかわる問題はこの
法律というよりも、その前提として
労働基準法自体にそのような労働
契約の概念を拡張した
法改正が必要だというふうに考えております。
当初、この制度を議論いたしました中央職業安定審議会の小
委員会では、
労働基準法でカバーされるべき問題も含めて必要な議論を行おうということから出発いたしました。しかし、残念ながらその審議の期間は短縮されてしまいました。これは
政府が定めた
規制緩和五カ年計画が中途で三年計画に前倒しをされたことが直接の契機でございました。当初私
どもは二年間の審議時間を要求しておりましたが、そういった
状況の中で一年で結論を出さなければならないということに至り、その中で今回取りまとめたような審議会の取りまとめになったわけでございまして、そのことが今回の
法案自体の不十分な点を一番大きく規定しているものだというふうに思います。
残された課題は、次の見直しの時点でもう一度抜本的な議論に及びたいと、そんなふうに考えております。ぜひとも当
委員会の
先生方の御
理解を賜ればありがたいと思います。