○
公述人(鷲尾悦也君) 連合の鷲尾でございます。このような発言の機会を与えていただきましてありがとうございます。
私は、与えられましたテーマは社会保障についてでございますが、九六年度
予算全体について一言まず申し上げたいと思います。
今年度の
予算については大幅に成立がおくれたわけでありますが、ぜひとも私どもは、今年度の
予算は大変重要でございますので、早期に
議論を詰めていただき、
予算案を成立させ、整々と
政策を実現していっていただきたいという気持ちでいっぱいでございます。
ただ、従来から連合が申し上げておりますが、
政策の優先順位をつけて、先ほど石先生がおっしゃられましたとおり、財政も大変
危機的な
状況になっている
認識はしているわけでございますから、そのためには大胆な優先順位をつけた
政策優先の
予算編成をすべきであると考えております。今回におきましても、例えば業種別の配分の変更が〇・五七ポイントの変更にとどまっているというようなことでございまして、めり張りのきいた
予算であるとは必ずしも言えないというふうに思います。したがいまして、今年度に限らず、将来を目指して大胆な
政策転換をお願いしたい、このように考えているところでございます。
ただ、社会保障
関係の
予算は対前年度増二・四%の十四兆二千六百三十億円であります。したがいまして、こうした財政的な
状況の中では総じて従来施策の延長ではございますけれども、それなりの
予算編成になっていると
認識しておりますが、我々の立場からいうと、さらに社会保障
関係については充実をしなければいけないという基本的な考え方から申しますと、可も不可もないというような評価をしている印象でございます。
ただ、障害者プランの初年度として一四%増の二千億円等が計上されたことによりまして、新たに障害者向けのヘルパーが八千人増員されたなどが盛り込まれております。
また、新ゴールドプランについても、私どもはさらにこの新ゴールドプランを充実させたスーパーゴールドプランという計画を持っているわけでありますが、そこまではまいりませんけれども、新ゴールドプランが二年目に入りまして、ホームヘルパーや特別養護老人ホーム、特養などの増員について盛り込まれていることがございます。
またエンゼルプラン、子育て支援の緊急保育対策につきましても、保母を増員する、保育所を倍増するというような計画がこの
予算に織り込まれておりまして、そういう点に関しましては私ども積極的に評価ができる
予算案ではないか、このように考えているところでございます。
ところで、社会保障
関係についての幾つかの重点的な課題について申し上げたいと思います。
まず第一番目は、私どもは、当面の最大課題が新しい介護システムの設計ということではないか、このように考えております。
御案内のように、高齢化・少子化の進行の中で要介護高齢者が著しくふえておりますし、介護期間も長期化する一方でございます。また、介護サービスについても、これも
先生方十分御承知のとおり、住宅、施設の面で立ちおくれておりまして、現在の介護者は家族による介護に大きく依存しているわけでございます。介護する家族の側の精神的、肉体的あるいは
経済的負担というのは大変重いということでございます。
ちょっと古いデータでございますけれども、九四年秋に連合が介護に関しての調査を行いました。お
手元にカラー刷りのややきれいな、ややではございません、大変きれいに工夫したつもりですが、パンフレットをお配りしております。そこの四ページから五ページに介護の現実というのを分析しております。これは御説明する時間がありませんので、後ほどお読み取りをいただきたいと思うわけでありますが、ここの中では大変深刻な
状況が報告をされているわけでございます。
これは大体二千人の回答なんでございますが、要介護者は在宅が六割、介護期間が平均五・八年、十年以上が一五%もいるということでございます。また、介護している人
たちでございますが、在宅でも男性三割が主たる介護者でございまして、介護者の十人中三人以上がときどき介護されている方に対して憎しみを感じているというような気持ちを告白しておりまして、十人中五人は何らかの虐待を
経験していると、こういうことがアンケート調査に出ているところでございます。こういうことは家族ということを考えますと大変深刻な事態ではないかというふうに考えます。
介護費用の問題、高齢者福祉サービスについての国や自治体への要望というのは幾つかそこに記載されておりますが、この調査の原始データもございますので、もし必要であれば提供をさせていただきたいと思いますけれども、これはぜひ御
参考にしていただきたいと思います。
現行
制度は福祉と医療が別々に行われているわけでございまして、窓口や手続が一本化されていないとか、あるいは総合的なサービスを受けにくいといった問題があることは御承知のとおりでございます。しかも、福祉イコール税というような措置
制度についても、あるいは医療保険におきます介護の内容についても大変問題があるものであるというふうに言わざるを得ないわけであります。したがいまして、介護問題の解決というのは現行
制度の延長線上では不可能でございまして、新しいシステムがぜひ必要だというふうに思います。
四月二十二日に、これも御承知のとおり、老人保健福祉審議会の報告がなされました。この報告というのはどういう性格のものかよくわかりませんが、大概、普通は答申が出るわけでありますけれども、両論、三論併記でございまして、報告にしか至らなかったということについて、この
制度の内容のいろいろな
問題点というのがうかがい知れるところでございます。
私ども連合の考え方については、お
手元に、ちょっと字がたくさん書いてあって大変恐縮なんですが、この四月二十二日の老人保健福祉審議会報告についての私の談話と、その次のページ以降に「新しい介護システムにおける費用負担と
制度のあり方について(見解)」ということで幾つか記載をしているところでございます。
私どもは、介護については介護保険でという基本的な考え方は理解できるわけでありますが、現在、老人保健福祉審議会で報告をされました
制度の中身、私どもの
意見がその対立の
一つであるということなのかもわかりませんが、重要な点で
意見が分かれているということでございます。時間がございましたら後ほど若干説明をさせていただきたいと思うんですが、こうした報告をもとにして厚生省は試案をつくるということでございます。
聞き及んだところでは、今国会の会期中にその
法案化をして国会に上程されるというプランもあるように聞いております。私どもは、試案ということであるならば、この問題の重要性にかんがみまして、この試案を率直に
国民の中に提供して、
国民全体が
議論してお互いが納得した案をつくり上げる、すぐ
法案に結びつけるのではなくて、
国民的
議論のたたき台として時間をかけて十分な
国民的論議を行うべきであろうと思います。
しかしながら、時間をかけてといいましても、先ほど言いましたアンケート調査の
状況から考えますと、これはまた逆に喫緊の課題であります。要介護者を抱えております
方々にとりましては、対象者の御家庭にとっては早くできないかなというような考え方もあるわけでございますから、慎重に十分合意を図ってなおかつ急いでというのは大変矛盾した物の言い方でございますけれども、しかしながら
国民的な関心をできるだけ早く高めて、みんなの参加によって案をつくるべきではないか、このように考えているところでございます。
また、介護だけではなく、高齢者問題というのはいわば成熟化社会における
経済問題でもあるわけでございます。したがいまして、社会保障
関係ではなく
経済関係、雇用
関係の審議会でも、いろいろな審議会で
議論をすべきではないか、こういうふうに思っております。したがいまして、国会におきましても、
先生方にお願いしたいわけでありますが、それぞれ
関係ある
委員会等で十分な
議論を尽くした上で解決を図っていただきたいというふうに思うわけでございます。
お
手元の一枚めくった
資料の「新しい介護システムにおける費用負担と
制度のあり方について(見解)」ということでございます。詳しく申し上げる時間はないかもわかりませんが、連合の考え方が記載してございます。
私どもは、保険料負担と給付が結びついていること、保険料を集めたところが使うというような保険の基本を守るべきであると考えておりまして、
制度疲労を現在起こしているというふうに考えられます老人医療拠出金のような仕組みを持ち込むべきではないと、このように考えているところでございます。
今老人保健福祉審議会で対立をしている部分については、お
手元の
資料にございますように、保険料負担の問題がまずございます。保険料負担の問題については、
一つは負担のあり方の問題、事業主負担の問題、利用者負担の問題についてそれぞれ
意見が幾つか対立をしているところでございます。
保険者の問題についても、私どもは地方分権という大きな流れから、介護保険の保険者は市町村を基本とすべきだというふうに考えますが、このこと自体は具体的な
対応策、例えば財政基盤が非常に乏しい市町村に対しては大きな負担になるというようなことから、市町村の中には反対の御
意見が多々あるということも
認識しているわけでございます。しかしながら、公費による財政調整等々の工夫を行うことによってこれらの問題を解決しながら、基本は市町村で行うべきではないか、このように考えているところでございます。
さらには、例えば労使の間で解決しなくちゃいけない
議論もございます。事業主負担と本人負担との
関係、それからいわば利用者の負担を何割にするか等々についても
意見の対立はございますけれども、これらこそは
国民的な合意のもとで
議論をしていく、私どもの主張は主張として耳を傾けていただきまして
議論をしていくことが必要なんじゃないかと考えているところでございます。きちんとした介護システムをつくることによって社会保障全体のトータルの費用をできるだけ減ずることができるようなシステムづくりというのが大切なのではないかと、このように考えております。
その点からいって、もう
一つの医療の問題についても大きな問題が存在しているというふうに思います。
経済成長が停滞し
国民所得がほとんど伸びていかない中で、
国民の医療費は従来どおり伸び続けております。各医療保険
制度は御案内のとおり赤字に陥っているところでございまして、労使の負担が非常に強まっているところでございます。この点については抜本的なメスを入れることが必要でございます。
まず第一は、先ほど申し上げました介護の問題でございまして、医療からの介護の切り離しを考えるということが大事でございます。
第二番目には、これは大変悩ましい問題ではありますが、医療支払い方式、現在の診療報酬支払い方式について思い切った見直し、メスを入れるということも大切なんではないかと。
現在の
国民の意識がこの医療費の問題について、特に老人医療の問題等々について
自分たちがどれだけの負担が、負担といいますか受給がなされているかということについて
認識をしていないというところに大きな問題もあるというふうに思います。私ども自身も、みずからの立場でそれらの
認識を強めるという運動が必要だということも十分
認識しているところでございまして、そうした
認識を強める中で思い切った見直しを提言していくべきじゃないかというふうに思います。
また、老人医療の公費負担と個人負担についてでございますが、これもいろいろございますので、確かに弱いところにしわ寄せが行くようなやり方というのは避けなければいけません。老人医療の公費負担の問題と個人負担のそれぞれの引き上げについても考えていきませんと、現在の労使のつくっております健康保険自体も大きな破綻になってしまうということは言われているとおりでございまして、大変重要な課題であるというふうに思います。
また、最後に申し上げますが、これは薬代の問題でございますが、薬剤費の適正化ということについても何らかの手だてが必要でありまして、思い切ってやるべきではないかというふうに思っております。
ただ、現在、サラリーマン健保の給付率が現行九割ということを見直すべきであるという
意見がございます。これらについてもトータルに
議論をした上で対応すべき問題でありまして、直ちにこの問題を先に手をつけるということではなくて、全体の
制度の問題として
議論しながら慎重な対応をお願いしたいというふうに思っているところでございます。
三点目の問題は年金の問題でございます。
年金の問題については、次回の改正が九九年に予定をされております。一昨年から昨年にかけまして年金問題については
議論をお願いいたしました。私どもは、この決定については、基礎年金の国庫負担率の引き上げというものを国会の付議でしていただいたわけでございまして、前回の改正についても大変いろいろな
議論の中で御決定をいただいたことであります。この年金問題についても、九九年の改正までには時間があるようでございますけれども、これらの問題については
国民的なこれまた合意が大変重要でございますから、早目に検討を開始するということが大切ではないかと、このようにまず申し上げておきたいと思います。
次に、女性の年金権の問題でございます。
私どもは、女性の年金権のあり方も大事なテーマでございまして、収入があれば保険料を負担する、そして個人
単位の年金
制度を確立するということがポイントになると思います。こうした視点から幅広く
議論すべきではないかと思います。
先ほど介護のところで申しおくれましたが、介護の問題でも、
単位は私どもは家族ということではなくて個人ということをベースにして考えるべきではないか、このように考えているところでございまして、年金問題については個人
単位の年金
制度を確立するということをテーマにして
議論をお願いしたいというふうに思っております。
企業年金についても、これまた大変大きな問題になっております。運用環境が御承知のとおりに悪化の中であり方が問われているわけでございますが、厚生年金基金の支払い保証
制度の充実や
情報開示や受託機関の
責任の明確化など、すぐやるべきではないか、このように考えているところでございます。
予定利率五・五%の見直しの問題でございますが、これは長い期間にわたった
議論をベースにして進めるべきでありまして、単年度の
議論はすべきではない、このように考えているところでございますが、慎重に行うにしろ、この点については
議論の対象になるんではないかなという感じがするわけでございます。
あとわずかな時間でございますので、総合的にこれからの社会保障の方向全体について少し申し上げたいと思います。
私は、本日は介護それから医療、年金の三点について触れましたが、トータルで言いますと、これまで国がスローガンとして進めてまいりました公助、共助、自助の適正な組み合わせというスローガンは大変すばらしいテーマ、スローガンであろうと思います。ただ問題は、各論になりますといろいろ
意見の分かれるところでありますけれども、私ども基本は公助、共助、自助をお互いに理解し合いながら最適な組み合わせをつくり上げるというのが社会保障
制度の最も重要な点ではな
いか、このように考えております。
そのためには、
経済社会、
経済構造まで含めた再構築、システムの構造改革がぜひ必要であります。
国民福祉のニーズは増加する一方でございます。一人一人にとりますと大変重要な問題であります。しかしながら、先ほど石先生の公述にもございましたように、財政トータルとしてはさまざまな問題があるわけでございまして、これは優先度の高い施策を重点化することができるかどうかということが大変重要なポイントになっているわけであります。これは私どもが
先生方にもお願いしたいことでございますけれども、
政治のリーダーシップというのも大切である、このように考えているところでございます。
また、国と地方の役割分担と地方分権の
関係についても考えていかなくちゃいけないということでございまして、中央政府はナショナルミニマムを設定すること、そして自治体が現物サービスの給付を行うというようなやり方を進めるということが大変重要ではないかと思います。
そこで、社会保障基盤を確保するためには、やはり何といっても
経済が順調に安定的に進まなきゃいけないというふうに思います。
石先生とここで
議論するつもりはございませんけれども、私は雇用の問題についても三・三%程度なら大丈夫だという御
意見については立場もございますけれども、心配が非常に多いわけでございます。できれば従来のように二%台というのが健全なあり方でございまして、何か財政赤字が
日本より少ないということで失業率が二〇%近いヨーロッパの
状況の方が好ましい、石先生がそうおっしゃっているわけではありませんが、というように受けとめられるようなことではいけない。やはり、雇用については新しい産業を興し、そこに対して
能力開発を行って、雇用創出と
経済の活性化ということをベースにいたしまして、社会保障の推進というのは
経済、雇用が安定的になることによって社会保障の負担が受けとめられるということであります。
最後に、
行政のあり方でございますが、これはいろいろ言われていることでありますけれども、透明で公正な効率的な
行政システムをぜひ実現をしていただきたい。
以上でございます。(拍手)