○田英夫君 ちょうど新刑訴法が
施行された昭和二十四年、その七月、八月にかけて、当時の国鉄、今のJRに対して非常に悪質な列車妨害事件が起きております。
一つは下山事件、これは国鉄総裁が殺されたか自殺なのかいまだにわからないという事件。それから三鷹事件、松川事件、これは明らかに列車妨害事件と言っていいことが起きております。当時とは時代も世界の情勢からして全く違うわけではありますけれ
ども、この問題、最近の列車妨害事件というのは私は非常に根が深いのではないかと。
実はその同じ三鷹、JR東日本の三鷹電車区で四月六日に、電車に積んである防護無線、これは無線を発信も受信もできる装置でありますが、これが盗まれました。翌七日にさらに二つ盗まれて、合計三つ盗まれているということがわかりました。すぐに会社が三鷹署にこの被害届を出すということが行われております。ところが、この盗んだものを使ったと思われる、さっきも言われたように、電波を出して列車妨害をするという事態が千葉と新潟で起きた。こういうことを考えますと、相当悪質な
計画的なものと言わざるを得ないわけでありますが、この点については、ひとつ検察、警察で鋭意犯人検挙に向かって御努力を願いたいということを申し上げておきたいと思います。
ところが同時に、きょう申し上げたいことは、先ほどから申し上げている
人権ということ、刑訴法にしても
民訴法にしてもそういうことを基盤にして考えなければならないという立場からすると非常に残念なことが実は起きているのであります。
その防護無線盗難事件ということの捜査のために、警視庁に捜査本部を置きまして三鷹署を中心にして捜査を始めたわけでありますが、四月十一日、事件が起きて直後から六月七日までの間に三鷹電車区のJR東日本社員全員の
事情聴取をされた、これは警察の
一つの方針としてそういうこともあり得ると思います。初めのうちは任意で調べてもちろん調書もとらない、こういう形でやっておられたようですが、途中から調書をとるということで再度呼ばれた者もかなりありまして、延べ二百八十二人が警察の
事情聴取を受けたわけであります。
その間、内容がかなりプライバシーの問題にまで立ち入るような、事件とは
関係のないような問題までお調べになっているということが出てきまして、会社と労働組合が相談をして、まず
一つは、勤務時間内で
事情聴取が行われるので時間を一時間ぐらいに限ってほしい、その前はかなり長時間やられたようです。それから、事件のことだけお調べいただきたい、それから個室で、密室でやらないで管理職が立ち会って二組、三組
一緒にやるというようなことも考えていただきたい、こういうようなことを警察側に申し入れて、以後これは守られているようであります。
実は私もこういう訴えをJRの側から聞きましたので、念のために
事情聴取を受けた御本人二人に会ってみました。常識では考えられないようなことを刑事さんの場合は、当然
一般の方なら刑事さんの前で
事情聴取をされればかたくなりますから、それを途中ではぐらかすためということもあったかもしれませんけれ
ども、かなり立ち入ったといいますか問題の取り調べをしていると私は思うわけです。
例えば、このような巧妙なことをやっているのは内部の者としか思えないけれ
ども、どうだ、どういう感想を持っているか、こういうことを若い社員に聞いておられます。この若い社員は非常にしっかりしていて、私の
印象もそうですが、いやそんなことを言うなら、私たちがもしやったということになれば社員としては自分の首が飛ぶようなことになるんだから、会社の無線機を盗んで、それから発信して列車妨害をやるなんということが、もしそんなことをやったら自分の首が飛ぶんですから、そんなことをやるわけないでしょう。お巡りさんだったら、ピストルを盗んでそれで何かやるというようなことと同じことじゃありませんか、こういって反論をしたら、それは調書から削られた、こういうことを言っております。
あるいは、もう一人別の人は、犯人はだれだと思いますか、想像がつかないと答えたら、じゃ私が書こうと調書を刑事さんが書いて、それを読んでみたら内部の者の犯行という
意味のことが書いてあった。だから、私はそんなことを言っていませんから、これは削ってくださいということを言って削っていただいた、こういうような話を聞いております。
私の方もかなり詳しくいろいろ
事情聴取をやったので、御参考までに申し上げておきますけれ
ども、
一つは、内部の人がやったんじゃないかということをずっと一貫して別の刑事さんも別の人間に対してそれぞれ質問をしておられます。それから、労働組合の間の争いを頭の中に置きながら質問をしておられる、そういう
意味の質問があります。例えば、二十三歳の運転士さんに対しては、内部の者の犯行と思わないかという御質問で、いやそうじゃないと思いますと言ったら、いきなり今度は、松崎会長をどう思うか、松崎会長というのは、昔、勤労の
委員長をやられて、鬼の勤労と言われたときの
委員長で、現在はJR東日本労働組合の会長という、
委員長をやめられて会長になっておられる方ですが、有名な人ですが、そういうことをいきなりぱっと聞かれたというような記録もあります。
あるいは、これはさっき申し上げたはぐらかすためかもしれませんが、やはり二十三歳の若い運転士さんですが、彼女の名前と年は、こういうことを聞かれて、ちゃんと答えたんだそうですけれ
ども、いきなりそういうことを聞かれた。あるいは休みの日は何をしているんだと。
捜査というのは、私も長いこと新聞記者をやりましたから、いろいろ苦労して質問をされて、その中から真実を割り出すということをおやりになるのは
理解できないわけではありませんけれ
ども、いささか見当が違っているんじゃないだろうか。御注意の
意味で申し上げておきたいと思います。
最後に申し上げたいのは、こういう刑事さんの言葉が気になるんです。今まで我々はこのJRの職場へ入ることができなかったが今回のことで入ることができるようになった、組合のこともわかるようになった、こういう言葉を若い社員の前で
事情聴取のときに言っておられるというようなことは、刑事さんは何げなく言われるのかもしらぬけれ
ども、さっきから繰り返し申し上げているように、捜査の
段階でもやはり
人権という観念が非常に重要ではないか。刑訴法にしても
民訴法にしても、そうしたものが
法務省でも警察庁でも検察庁でも一貫してないと、本当に庶民の立場に立った
法律ということにならないのではないかということを強く感じております。
最後に、今のことをお聞きになって
法務大臣の御感想を伺って、終わりたいと思います。