○
参考人(
齋藤雅弘君)
日本弁護士連合会の
消費者問題対策委員会の
委員をしております
弁護士の
齋藤雅弘でございます。
私は、
日弁連がことしの一月に
訪問販売法改正に関する
意見書を発表しておりますが、この
意見に沿って今回の
訪問販売法の
改正について、
幾つかポイントを絞って御
意見を申し上げさせていただきたいと思います。
まず、昨今の
新聞報道などにもありますように、
資格商法を中心とした
電話勧誘取引の
被害が非常に多発をしておる、またその
被害の深刻さということは
委員の
先生方の御
理解を得ていただいていると思いますが、そういう
観点からしますと、今回の
改正法につきましては多少遅きに失するんではないかという
印象を持っております。それから、
連鎖販売取引につきましても、
全国各地の
消費生活センターの
相談事例や、
弁護士会でもやっております
消費者相談の
事例などを見る限り、かなり深刻な
被害が多発しておりますので、やはりこの点に関する
法改正も多少時期を失しているんではないかというような
印象も持っております。
そういう問題を踏まえまして、
日弁連で御
意見を申し上げたわけでありますが、まず、
電話勧誘取引につきまして、
幾つか我々の方で考えていることを申し上げさせていただきます。
まず、今回の
改正法につきましては、
電話勧誘取引の
規制の
対象としていわゆる
政令指定商品制というものをとっております。
電話勧誘取引はなぜ
法規制の
対象とすべきかということをさかのぼって考えていきますと、そもそも
電話という
手段を使って積極的に
消費者のところに
電話をかけて、
勧誘をした上で
取引に引き込んでいくというものが
電話勧誘取引の
内容でございますけれ
ども、
消費者の方から
電話をかけるということではなくて、
事業者側から積極的に
電話という
手段を使って
勧誘をしていくということに問題の
本質があるわけであります。
この点に関しましては、御
案内のとおり、ドイツでは、今のような形で
事業者の方から積極的に
電話を
勧誘のために使って
商取引を行っていくということは
不正競争防止法上違法であるということで、差しとめの
対象になるということであります。したがいまして、
電話を積極的に
勧誘の
手段として使っていくということに関しましては、社会的な
相当性の枠組みから見て必ずしも積極的には
評価されていない、むしろ消極的に
評価をされている国もあるということを十分御
理解いただきたいと思います。
また、
電話勧誘の
問題点について、
不意打ち性ですとか
密室性ですとか不
確実性、それから執拗に何度も
電話をかけてこられるというふうな
問題点が
指摘されておりますが、これらはいずれも
電話という
手段を使い、なおかつ
事業者から積極的に
勧誘行為を行うという
勧誘の
手法、方法に問題があるからということで
指摘をされていることであります。
したがいまして、このようなやり方からくる問題を
規制していこうとする場合には、
対象になっている
商品が何であるか、
権利が何であるか、
役務が何であるかに
関係がなく、その
勧誘の
手法に問題があるということからしますと、いわゆる
政令指定商品制をとって、
対象商品、
権利、
役務を特定した上で、それについて
訪販法の
規制をかぶせていくという
考え方はやはりまずいのではないだろうかというふうに思う次第であります。
現実に
電話勧誘取引につきましては、
訪問販売法で現在
指定をされております
政令指定商品、
権利、
役務に限らず、例えばマンションの
共同経営、それから
証券取引、ワラントですとか
信用取引な
ども含まれますけれ
ども、それから
商品先物取引の
被害などが特にまた最近ふえているようなことも耳にしております。そういうものにつきましては
訪問販売法の
指定商品にはなっておりません。こういう
取引についてもかなり
被害が出ているというふうに私
どもが認識するような
事情もございますので、そういう
観点から申し上げても、やはり
政令指定商品制を採用すべきではないんではないかというふうに申し上げたいと思います。
日弁連の
意見では、このような
観点から、
電話勧誘という
行為そのものの
規制の
場面と、それから
電話勧誘によってその後
契約の
締結に至るいわゆる
契約締結行為の
場面を二つに分けた上で、
電話の
勧誘そのものについては
政令指定商品制を少なくともとるべきではないというような
考え方を申し上げてあります。議員の
先生方のお
手元にも
意見書をお渡ししておるつもりでございますので、御
参考にしてい
ただげればというふうに考えております。
それから、もう一点でありますが、今回の
改正案では
クーリングオフの
規定を
電話勧誘取引に
導入をしていただいておるようであります。この点につきましては、
電話勧誘取引に
クーリングオフの
規定が入ることは大変
評価すべきことであるというふうに考えております。
しかし、
クーリングオフの
権利を行使できる
始期につきましては、
改正法案を読ませていただきますと、
消費者の方がいわゆる
法定書面を受領した日から
クーリングオフの
始期を算定していくという
規定の体裁になっているようであります。しかし、やはりこの点も
電話勧誘取引の特質から見ますと問題があるのではないかというふうに考える次第であります。
その理由を申し上げますと、恐らくこの
規定は
訪問販売の場合と横並びの
規定にしたというふうに推察されるわけでありますけれ
ども、
訪問販売の場合ですと、面談によって実際の
契約の
勧誘や
契約の
締結に必要な書類の作成の手続がなされることが多いわけでありますが、その場合には目の前で
契約書面や
契約に関する
書面が差し出され、その場で認識ができます。場合によっては
商品をその場で取り出して
消費者の側に見てもらう、確認してもらうというようなこともあるわけであります。したがいまして、その時点で具体的な
契約の話になっている、
契約を
締結する問題の
場面に来ておるということが直ちに認識できて、恐らくそれを誤解したり、そのときの状況の判断を間違う
消費者はほとんどいないんではないかというふうに考えられるわけであります。
電話の
勧誘の場合ですと、
電話勧誘取引の
被害の実態から見ますと、そもそも
契約意思があるかないか、もしくは
契約意思がきちんと
確立されているものかどうか、
契約意思があいまいのままで
契約が
締結された、もしくは
契約の
締結の段階に移っていくというような問題が多数
指摘をされております。したがいまして、
電話勧誘取引の場合、
契約の
締結自体に問題のある場合というのが非常に多くなっております。その場合、後日
書面が
送付されてきても、
消費者に
契約意思がない場合ですとか
契約意思が非常に薄い場合には、そのままその
書面を放置してしまって
クーリングオフ期間が徒過してしまう、過ぎてしまうというようなことが十分起こり得る危険があります。
特に、この
法定書面は、後日郵送ですとか
宅配便その他によって
送付されてくる例が非常に多くなると思いますけれ
ども、その場合に
電話で直接応対をした
消費者以外の者が受領することも非常に多くなります。家庭への
送付ですと、御
本人だけではなくて家族がお受け取りになったり、職場への
送付ですと、直接
電話で応対した御
本人ではなくて同僚や上司や部下が受け取るというようなことも非常に多くなってまいります。
それから、
消費者の側に
契約意思があいまいの場合にそういう
書面が送られてきますので、御
案内のとおり、
ダイレクトメールやその他の
商品の売り込み、
販売の
勧誘の
郵便物がたくさん参りますので、それとの区別も一層困難になってくる。したがって、受け取った方としては、直接
本人が受け取らない場合もありますし、直接
本人が受け取って認識したとしても
ダイレクトメールやその他の必要のない
書面というふうに
理解をしたり、誤解をしたりする
可能性が非常に高くなってまいります。
そういたしますと、
クーリングオフの
始期として送られてくる非常に
法律的に重要な意義を持っている
書面だということを十分認識しないままで
クーリングオフの
始期が進行していくということになってしまうわけであります。このような
クーリングオフの
規定の仕方をすることはまさしく
電話勧誘取引の
本質、すなわちこの
法律案は
電話勧誘取引の
トラブルを防止して適正を図るためであるということで御提案されているというふうに承っておりますので、そういう
観点からしますと、法の
趣旨、目的からしてやはり不十分ではないかというふうに考えているわけであります。
このような
日弁連の方の
意見につきましては、
事業者側の過大な負担になるんではないかというような御
指摘もあるわけでありますし、
消費者の側が長
期間放置しておいて後から
クーリングオフの
権利を主張してくるのは不公平ではないかというような御
指摘もあるわけでありますけれ
ども、
電話の
勧誘という非常に
事業者にとって簡易で簡便な方法を積極的におとりになって商売につなげていくわけでありますから、むしろそれに伴って発生するリスクというのは当然
事業者側が負うべきではないかというふうに考えております。
また、
電話という
手段を使えば
消費者の非常にプライベートな領域に直接入り込むことができるわけでありますので、そういう
観点からしましても、
事業者側にその点についての負担をおかけしてもさほど不公平にはならないというふうに私
どもは考えております。
また、現行の
訪問販売法の
規定から考えましても、
訪問販売の場合に、
法定書面として不備のある
書面を交付した場合に、その後、かなり
期間を経過して
クーリングオフの
権利を主張してきた場合にこの
クーリングオフ権の行使を認めた裁判例も
幾つか出ております。
こういうことからしまして、
消費者の側が
書面を受領した日からということではなくて、我々が申し上げております
消費者の側がその
書面を受領したこと、もしくは
契約書面に署名、捺印をしたことなどについて積極的なアクションを行った日をもって
クーリングオフの
始期としても決して不都合はないというふうに考える次第であります。
さらに、この点について申し上げますと、
訪問販売法自体は我々のような
弁護士のところで、すなわち裁判所の裁判の
基準となるということは当然でありますが、むしろ
全国各地の
消費生活センターその他で
消費生活相談員の方によって
トラブルを
解決する
基準として大変役に立っております。
その場合に、裁判所のような有権解釈がそこで示されるわけではありませんので、非常に単純明快で、むしろ形式的な
基準によって
消費者の
利益が守られていくというような
法律の書き方をしていただいた方がはるかに役立つ
法律になるんではないかというふうに考える次第でありまして、そのような
観点からも、
クーリングオフの
始期の点につきましてはぜひとも御検討いただきたいというふうに考える次第であります。
電話勧誘取引につきましては、今申し上げた二点についてぜひ
意見として申し上げさせていただきたいと思います。
それから、今回の
改正案につきましては、いわゆるマルチ商法、
連鎖販売取引につきましても
法改正をしていただくような
内容になっておるわけであります。御
案内のとおり、
昭和四十九年の産構審の中間覚書にありますように、
連鎖販売取引につきましては実質的には全面禁止をする方向で
法規制をすべきであるという御
意見が従前から出されておりますが、マルチ商法につきましての
被害の実態を見る限り、なかなか実質的な全面禁止というような
内容になっていないということがあるわけであります。
現実に、
訪問販売法の
連鎖販売取引の要件に自分のところは該当しないんだと非常にうまく
連鎖販売取引を遂行している
事業者がたくさんございます。その結果、この数年来、警察の方でかなり一生懸命摘発をされて、刑事的な責任も含めた追及がなされておって、
被害の
相談の件数などは多少下がってきておりますけれ
ども、摘発の手を緩めますとまた
被害が拡大していくというような性質を持った
取引であるわけであります。また、もっと積極的に、私のところは
訪問販売法の
連鎖販売取引に該当する
事業者であるということを積極的に明示をして
取引をしているという
事業者もあるくらいであります。
そういたしますと、この
連鎖販売取引に関する
訪販法の
規定に対して真正面に対抗するような
事業者の存在を許しているということからしますと、マルチ商法の実質的な禁止という点から考えますと、かなりほど遠い現実があるというふうに考える次第であります。したがいまして、今回の
法改正につきましても、マルチ商法についての
規制を
強化するという点では前進をしている
内容だというふうに考えますけれ
ども、もう少し御検討いただいて、先ほど申し上げました実質的禁止に近づける御
努力をいただければというふうに考えております。
少し具体的に申し上げますと、マルチ商法の場合の
訪販法の定義が非常に難しい
内容になっておるということが一つこの
法律を適用していく場合の障害になっているというふうに考えております。特に特定負担の授受についてのところはかなりわかりづらいというようなことも
指摘をされております。金額的には特定負担は現在二万円というふうにされております。この二万円の内訳や実際の授受の形態、時間の経過を踏まえて特定負担に該当するか否かということの判断をせざるを得ないわけでありますけれ
ども、かなり微妙な判断が事実の認定を前提にして行われることになります。そういたしますと、せっかく
法律の条文として
規定があっても、法の適用としては非常に使い勝手の悪いものになっているというふうに考えざるを得ません。
したがいまして、
連鎖販売取引の定義の
内容をやはり法文の本条に具体的に
規定をしていただく、なおかつそれができるだけ客観的に、法の適用をする
立場から見てわかりやすく、また適用を受ける人の
立場から見てもわかりやすく明示をしていただくのが必要ではないかというふうに考えられます。
今回の
改正案につきましては、この点についての法文上の手当ては見当たらないようでありますので、その点をきちんと御
配慮いただければというふうに考える次第であります。特に
連鎖販売取引の場合には、違反行為に対する罰則が通常の
訪問販売などの
規定に比べて厳しくなっております。そういう意味では刑事法的な性格もあるわけでありますので、構成要件の明確性という憲法上の要請からしましても、その辺の具体的な
規定が必要ではないかというふうに考えております。
それから、マルチ商法につきましては、
規制を
強化して罰則をきちんとかけていく、制裁をかけていくということも必要ではありますが、
勧誘を受ける
消費者にとって、マルチ商法の
本質ですとか
勧誘している
事業者の実態、実際に進めている商法の
内容をきちんと
理解させるということが
被害の予防や根絶にとっては非常に大切なことであるというふうに考えております。そういう
観点からしますと、特にマルチ商法の場合には、情報
提供と情報の開示ということがぜひとも必要であるということです。
具体的には、
勧誘する
事業者の
事業内容の開示をきちんと行うということ、それからマルチ商法、
連鎖販売取引自体の
内容をきちんと
消費者に
理解させられるだけの情報を積極的に開示をしていくということが必要ではないかと思います。もっと具体的に申し上げますと、
連鎖販売取引というのはどういう点に問題があるか、危険性があるかということを具体的に
消費者の方に教え込まなければいけないというふうな
内容をやはり
事業者側に情報の開示義務、
提供義務として課する必要があるのではないかということを考えております。
私
ども日弁連の方では、そういう
観点から警告
書面を作成して、その警告
書面に、マルチ商法というのは非常に危険で、友人を失ったり、
勧誘にあるような
利益を得られることは少ないですよ、在庫を抱えて大変なことになりますよ、破産をした例もありますよというようなことで、具体的にわかりやすく
消費者に危険性を告知していくということをやったらどうかということの御提案を申し上げております。そういうことで、
消費者の方の注意を喚起して、この商法の
被害に遭わないようにするということがぜひとも必要ではないかというふうに考えます。
具体的な連鎖
販売の行為
規制につきましては、今回の
法改正で重要
事項として告知をすべき
内容について法文の中に
幾つか具体的な例示をされておりますので、この点は
評価をすべきことだというふうに考えております。同じようなことで、情報の開示や、いかなる場合にいかなる責任が発生するかということをもう少し政省令などのレベルでもきちんと書き込んでいくというようなことをお願いできればというふうに考えております。
それから、
連鎖販売取引につきましては、
クーリングオフの
期間を従前の十四日間から二十日間にお延ばしいただくというような案として御提案をされております。
連鎖販売取引をやっている各
事業者の場合に、ある
勧誘を受けた人がその実態を
理解して、その
勧誘のとおりにやってみて、これがうまくいくのか、何か問題があるかということに気づくのに大体一カ月程度の
期間を要するのが通例ではないかというふうに認識しております。そういたしますと、大体一月やってみて
売り上げがどうなっているのかということの締めが来るわけでありますし、その間、
努力をして実際に成績が上がるのか否かということもわかるんではないかというふうに考えますので、
クーリングオフ期間も二十日間でいいのかどうかにつきましてはなお検討の余地があるんではないかというふうに考えております。
それから、今回の
改正案ではマルチ商法についての刑事制裁の
規定はそのまま、刑罰の重さにつきましては
改正の
対象になっておらないようであります。マルチ商法の
事業者の場合には、警察の摘発を受けても同じようなことを繰り返しているという意味での再犯をやっている者がかなり多いというふうに聞いております。したがいまして、これは刑罰が軽過ぎるという点にもやはり問題があるんじゃないかと思いますので、少なくとも
連鎖販売取引の刑事責任はもう少し引き上げるべきではないかというふうに考えております。
最後に一言申し上げたいと思いますけれ
ども、
電話勧誘取引にしましてもマルチ商法にしましても、またそれ以外の
訪問販売につきましても、
消費者センターなどに苦情がたくさん上がってくるものの多くがいわゆるクレジットを
利用していることが挙げられております。
相談を受けてみますと、
被害に遭っている人の多くが大体クレジット
契約によって代金の支払いをしているという例が多くなっております。
御
案内のとおり、割賦
販売法につきましては、
訪問販売法と
政令指定商品が横並びになっておりませんので、
役務や
権利につきましては割賦
販売法の適用はございません。したがいまして、
訪販法のレベルでは
処理ができても、クレジットの
法律関係が
指定役務、
指定権利となっていない
関係から、どうしても残ってしまいます。したがって、
事業者との間では
法律関係が解消されても、クレジット会社との
関係では代金の支払い義務は残っていくということになりまして、これではせっかく
訪問販売法できちんとした救済を図っても、なかなか実態として
被害者の救済ができない、
消費者の
権利が守られないという事態になりますので、
訪問販売法だけではなくて、割賦
販売法の
対象にも
権利や
役務をぜひ入れていただいて、同様の救済が図られるように御
配慮いただきたいというふうに考えております。一言最後につけ加えさせていただきました。
以上、私の
意見として申し上げたいと思います。
ありがとうございました。