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参考人(奥野信宏君) 御紹介いただきました奥野でございます。きょうは御招待いただきまして、どうもありがとうございます。
これからの
社会資本整備の
課題ということでお話をさせていただきたいと思います。
皆さん御案内のように、
日本経済は戦後著しい
経済発展を遂げまして、アジアの先頭を切って先進国の仲間入りを果たしたわけでございます。そしてその後、
世界の
産業と
経済をリードしてきたわけでございますけれども、現在、成熟化した
産業の活力をこれからどういうふうに維持していくか、そして生活の質をどういうふうにこれから高めていくかというような基本的な問題を抱えているというふうに思っております。
成熟化した
産業の活力をどう維持するかという点につきましては、私はアジアの台頭ということに注目いたしております。アジアが工業国家として台頭してまいりまして、それが
日本の製造業の空洞化の一因になっているということは皆さん御案内のとおりでありますけれども、しかし
日本で空洞化しているのは製造業だけではないわけでありまして、社会基盤におきましてもアジアが国際
競争力をつけつつあるというふうに思っております。
アジアの国家といいますと、社会基盤が整備されていないということが
経済発展になかなか結びつかないというふうに理解されてきたわけでございますけれども、最近では
日本をしのぐ空港あるいは
日本をしのぐ港湾が整備されてまいりまして、
我が国の港湾あるいは空港がだんだん国際
競争力をなくしているというのが
現状ではないかというふうに思います。
空港では、成田にしましても関空にいたしましても滑走路は一本でありまして、とてもハブ機能は持ち得ないというふうな
状況であります。今度、中部新国際空港がやはり国際拠点空港として整備が進められることになっておりますけれども、それも滑走路一本として発足するということでありまして、チャンギでありますとか、あるいはアジアの他の国で計画されている国際空港とハブ機能面で
競争するということはとても難しいという
状況にあるわけであります。
また、港湾につきましても、最近の貨物輸送の中心はコンテナ船でありますけれども、
日本の港湾は超大型コンテナ船になかなか対応できない
状況になってきていることは皆さん御案内のとおりであります。かつては、
日本にコンテナ船が着いて、そこから小さな船に乗りかえてアジアの諸国に荷物が配られたということでありますけれども、現在では、アジアのシンガポールでありますとか高雄でありますとか、そういうところに大型コンテナ船が着いて、そこから小さなコンテナ船に乗りかえて
日本に着くというふうな
状況でありまして、
日本がだんだんとフィーダー、枝線になってきている
状況であろうというふうに理解いたしております。
空港とか港湾でハブ機能を持つのがいいかどうかということにつきましてはいろいろ
議論があるわけでございますけれども、ハブ機能を持ちますと人や物が集まります。人や物が集まりますと情報も集まってくるわけでございまして、ハブ機能があることによって新しい
産業が起こる、ハブ機能があることによって
研究開発機能が進んでいくということもございます。アトランタなどは空港がハブ機能を持ったということでオリンピックを開くまでに大変大きな成長を遂げているわけであります。ハブ機能がなくなるということは、いわば情報でも
日本が空洞化していくおそれがあるわけでありまして、
日本がだんだんとアジアの奥座敷になりつつあるということではなかろうかという危惧を持っております。
それから、生活の質をどういうふうに高めていくかという点につきましては、世上、価格破壊というふうなことが言われておりますけれども、私はそれに注目いたしております。
政府の
経済見通しですと、二〇〇〇年までの
我が国の消費者物価の上昇率は一%未満、〇・七%ぐらいである、卸売物価指数はマイナスである、つまり物価はほとんど上がらないという見通しが出されているわけであります。
規制緩和は進まない進まないといいながらも着実に
競争条件は整備されておりますし、あるいはアジアの工業国家は安くていい工業製品を供給しておりますし、また消費者が価格に対して大変シビアになっているというふうなこともありまして、この価格破壊、価格革命と言われるものは当分続いていくというふうに考えてよろしいんではないかと思っております。
これが生活に対して持つ
意味でありますけれども、
我が国はこれから余り高い
経済成長率は期待できないわけでございまして、生活のコストが削減されることによって実質的に生活の質の向上を図っていくというふうなことが行われていくのではないかと思っているわけでございますけれども、これは所得がどんどん伸びていく
状態に比べますと大変シビアな、いわばつらい生活の質の向上だというふうに理解いたしております。それが私が現在持っておりますこれからの
経済全般についての認識でございます。
公共投資と社会資本につきまして少し触れてみたいと思います。
公共投資につきましては、その配分が硬直的であるとか、あるいは
経済の合理性を欠いているとか、いろんな批判が行われているわけでありますけれども、少し長期的に見ますと、対象地域でも投資の対象分野でも相当変動しております。短期的にそれほど変わるものではないわけです。
公共投資はもちろん
政府の
経済計画が大きな影響力を持っているわけでありますけれども、ちょっと話がさかのぼって恐縮でありますが、昭和三十五年ぐらいからどういうふうな理念で行われてきたかというのをざっと振り返ってみますと、昭和三十五年に池田内閣で所得倍増計画がつくられます。これは、三十六年から十年間に一人当たり国民所得を実質で二倍にするという当時の
時代の熱気を感じさせるような計画なわけでございますけれども、いわば高度
経済成長の神話というふうなものが支配しておりました。
その当時は、京浜工業地帯、中京工業地帯、それから阪神工業地帯等々で
日本の
産業活動が大変活発になりました。そこに資本や人が流入いたしまして社会資本が不足いたしました。道路がない、それから
通信がない、上下水道がない、それが
産業活動の隘路になる、
産業活動が制約される、それが
経済成長を制約するというおそれがあったわけでございます。所得倍増計画ではそうした
産業活動の隘路を打開して高度
経済成長を実現することが計画の目的であるというふうにうたわれておりまして、今の
言葉で言いますと、生活基盤の整備は計画の後半に後回しにするというふうなことが書かれております。
時代的には大変大ざつばな話で恐縮でございますけれども、昭和四十年ごろになってまいりますと高度
経済成長のひずみということが大きな社会的な問題になってまいります。
一つは公害問題、それからもう
一つは都市と農村、大都市圏と地方圏の格差が縮まらない、こういう問題でございます。
昭和四十年代に入りますとナショナルミニマムの是正ということが大きなテーマになってまいりまして、公共投資にもそういうことが反映されます。具体的には、公共投資は大都市圏ではなくて地方圏、それから投資対象分野は
産業基盤ではなくて生活基盤を優先する、こういうことでございます。所得倍増計画のときには、対象地域は大都市圏、それから対象分野は
産業基盤ということでありましたけれども、昭和四十年代の半ばにそれが変わってまいります。
ところが、昭和五十四年に新
経済社会七カ年計画というのがつくられますが、そこではまたその傾向が大きく変化いたします。高度
経済成長
時代のようなやり方で生活基盤整備をやっていけば公共部門が肥大化して
経済全体の効率性を損なうおそれがあるというふうな批判が出てまいりました。それまでの公共投資のあり方を改めるという
方向が出てまいりまして、再び大都市圏と地方圏のバランスをとった投資を行う、そして
産業基盤と生活基盤のバランスをとった投資を行うというふうなことが基本理念になっていくわけでございます。
お手元にこういうふうな図を入れたものをきょうお配りしていただいたかと思いますけれども、その三枚目をちょっとごらんいただきたいと思います。これは最近出ました私の本からコピーしたものでございますが、図四ー三「生活環境投資/
産業基盤投資」とございますけれども、これは低いほど
産業基盤優先、高いほど生活基盤優先ということでございます。昭和三十年代半ば過ぎまでは
産業基盤が優先されて、四十年代半ばから生活基盤へ投資がふえていく、そして五十年代半ばから両方のバランスをとった投資が行われるというふうなことが見てとっていただけるかと思います。
それから、前後して恐縮なんですが、一番最後のページをおめくりいただきたいと思います。これは公共投資の地域間の配分指数をあらわしたものでございまして、公共投資は実線でかいてございますけれども、これは都道府県を単位といたしました配分指数でございます。この値が大きいほど地方圏に比較して大都市圏への配分が大きいということでございます。昭和三十年代半ば過ぎまでは大都市圏への公共投資がどんどんふえていきます。四十年代に入りますと地方圏への投資がずっと大きくなってまいりまして、五十年代半ばから均衡ある
発展といいますか、大都市圏への投資が徐々にふえていくというふうな傾向を見ていただけるかと思います。
これにもう
一つ点線でかいてございますが、これは民間投資の動きでございまして、民間投資の動きと公共投資の動きが大変密接な関連を持っているということが御理解いただけるかと思います。
一言で申し上げますと、昭和三十年代といいますのは大都市圏にまず民間投資が流入いたしました。そして、先ほど申し上げましたように、社会資本が不足いたしまして、それを追っかける隘路を打開するために公共投資が行われたということでございます。それから、四十年代は逆に地域間の格差是正のために地方圏に公共投資が行われて基盤整備が行われた。それを追っかけて民間投資が地方圏に行われた。つまり地方に工場が建ってきたということでございます。
こういうふうに民間投資と公共投資というのは密接な関係を持って動いておりまして、その結果、一ページ前に戻っていただいて、図四ー五「地域間所得分配の不平等の展開」というのがございます。これは都道府県を単位にいたしました地域間所得の不平等、格差がどういうふうに展開してきたかということをあらわしておりまして、値が大きいほど大都市圏と地方圏の格差が大弐い、小さいほど格差は縮小しておるということでございます。昭和三十年代から四十年代にかけて格差は拡大し、四十年代は格差はずっと縮小して、また五十年代半ばから格差は拡大しておるということがごらんいただけるかと思います。
この図と、もう一枚後ろにあります投資の地域間配分の図を重ね合わせていただきますと、公共投資、民間投資の動き、それから地域間の所得格差の動き、これが大変密接な関係を持って動いておるということが御理解いただけるかと思います。公共投資は
我が国の地域格差の是正にとっても大変大きな
意味を持ってきたということが御理解いただけるんではないかと思います。
こういうふうに、公共投資というのは、対象分野で見ましても、あるいは対象地域で見ましても
かなり大きく動いているわけであります。私は公共投資が
日本の
経済発展を背後で支えてきたというふうに高く評価しておりますけれども、この動きは
経済学的に考えても
かなり合理的ではなかったかというふうに思っております。
公共投資は、いつ、どこで、何に対して、どのような規模で行われるかということが大切なわけでありますけれども、例えば昭和三十年代の前半の時点に立って、昭和六十年の国民所得を最大にし、それから地域格差を最小にするためには、いつ、どこで、どのようなものに対して公共投資を行うのが望ましいのかということを考えてみた場合に、
日本の公共投資のこの三十年間の動きというのはそのための
一つの最適な戦略パターンになっていたんではなかろうかというふうに考えております。
そういうふうに、これまでの
日本の公共投資はそれぞれの
時代の要請で行われてきたわけでありまして、それほど長期的な計画で行われてきたもけではありませんけれども、結果的に見ると戦略的には
かなりいいパターンになっていたんではないかというふうに評価しているわけでございます。
しかしながら、最近の公共投資につきましては、今までお話ししてまいりましたような理念が不明確だというふうなこともございますし、国土の均衡ある
発展、豊かな社会の創造というような理念では余りにも漠といたしておりまして、どんな公共投資でも理屈をつければこういう理念にはかなってしまうという点もあるのではなかろうかというふうに思っております。
これから
日本経済にどういうふうな公共投資が求められるかということでございますが、皆さん御案内のように、各地域で
産業の空洞化ということが大きな話題になっております。
産業の空洞化というのは別に今起こったことではありません。
産業の空洞化というのは
産業の
発展と同義語であります。
産業は空洞化しながら
発展していきさす。
日本の戦後の
経済発展は製造業の
発展だというふうに言ってもいいわけでございますけれども、各
時代、各
時代をリードした製造業は変わってきておりまして、空洞化しながら次の
産業が育ってきたということでございます。
私は名古屋にもう二十年ばかり住んでおりまして、あの地域は
日本の製造業をリードしてきた地域でございます。ここ二十年間、愛知県の製造業の出荷額はずっと
日本のトップでありますし、製造業の付加価値生産額も
日本でずっとトップでおりまして、
日本の製造業を引っ張ってきたのはあの地域だと思います。
あの地域の例をちょっと挙げてみますと、戦後のリーディング
産業というのは繊維を中心とした軽工業であります。東海地域は毛織物でございます。ところが、一九六〇年ごろになりますと、その地域から途上国であります韓国とか台湾に繊維
産業は移っていきます。
日本のリーディング
産業は空洞化していくわけであります。
その次の
日本のリーディング
産業は重化学工業であります。鉄鋼、石油化学、それから造船、そういったものであります。そのときには、そういう
産業はあの地域では伊勢湾一帯にもう既に立地しておりまして、また
日本の製造業を引っ張っていくわけであります。一九七三年に第一次オイルショックが起こりまして、石油化学、鉄鋼、造船等々はエネルギー多消費型でありまして、再び空洞化していきます。その当時の途上国といいますか、中進国になっておりましたけれども韓国とかメキシコ等々に移っていくわけでありまして、再び空洞化するわけであります。
その次の
日本のリーディング
産業は加工組み立て型
産業というふうに申しまして、自動車でありますとか機械とか電機、電子、こういったものが
日本のリーディング
産業になっていくわけであります。そのときには、あの地域では既に内陸部で自動車
産業、機械
産業が育っておりまして、再び
日本のそういった加工組み立て型の
産業をリードしていく。
こういうふうに、
産業というのはいつまでも先端的ではありませんで、いずれ標準化して、より地価の安いところ、より賃金の安いところに移っていくわけでありまして、そのときにその地域が実際に空洞化するかどうかは、次に新しい
産業を育てることができるかどうかということにかかってきているわけであります。
日本は製造業で戦後の
世界経済をリードしてきたわけでありますけれども、製造業の中身は大きく変わっておりまして、空洞化を乗り越えてきたということであります。次に
日本をリードしていく
産業は何かということになっていきますと、これは
政府の方でも随分御熱心に討議なさっていらっしゃるわけでございますけれども、各地域、各地域でも討議しておりますが、なかなか見つからないというのが
現状であります。
しかし、言えることは、これは全国
共通でありますが、まず第一に高付加価値化、高い付加価値のあるものを生産しなきゃいけない。
日本のように賃金が高いところ、
アメリカの製造業に比べますと
日本は時間当たり賃金は一・五倍から二倍ありますので、アジアに比べますとこれはけた違いであります。
日本のように賃金が高くて地価の高いところでアジアと同じものをつくったんでは、とてもじゃないけれども
競争にならないわけでありまして、高付加価値化。
それから第二番目に、そのための
研究開発機能の強化ということであります。
研究開発機能の強化への取り組みは、筑波とか関西研究学園都市は国のプロジェクトとして行われているわけでありますけれども、各地域もそれぞれの規模で大変熱心に取り組んでおります。東海地域でも三県市それぞれそういうプロジェクトを持ってやっているわけでございます。
これは全国
共通で言えることでありますけれども、
研究開発機能の強化という面で社会資本に期待されることは私は
二つあるというふうに思います。
一つは生活基盤の整備であります。それから第二番目は交流・情報機能のための基盤整備であります。
生活基盤の整備と申しますのは、居住環境、それから子弟のための学校、医療、レジャー環境等々でございます。こういった環境は筑波あるいは関西研究学園都市とも大変厳しいものがあるというふうに思いますけれども、その他の地方の研究学園都市では、東海地域でもさらに厳しいものがありまして、研究所ができたから行ったけれども、都会生活になれた研究者や家族にとっては大変厳しい生活を強いられるというふうなことがあるわけであります。今、
日本ではザ・センター・オブ・エクセレンスといいますか、
世界有数の研究機関になっていくということを目指しているわけでありますけれども、
世界あるいは
日本のトップの研究者を集めていくには生活基盤が各地域で不足しているんではなかろうかというふうに思うわけでございます。
それから、交流・情報機能の整備といいますのは、国際・国内空港へのアクセス、それから高速道路網、高速鉄道網、それから情報基盤の整備であります。特に、国際的な研究者を集めたような
研究開発機能を持つ団地を整備するためには、私は国際空港からのアクセスが大体一時間以内というような条件が必要ではなかろうかと思っております。
こういった生活基盤、それから情報・交流基盤という
意味では、地方圏がおくれているということはもちろんでございますけれども、大都市圏の
研究開発団地でも必ずしも整備されているとは言いがたいという
状況にあると思います。
急いでつけ加えておきますけれども、
研究開発機能だけ残せば製造の現場はアジアに移ってもよろしい、他の国に移ってもよろしいということでは決してございませんで、工場には現場に密着した
研究開発機能が付随しております。
日本の各地域は工場誘致に大変熱心なわけでございますけれども、それはただ製造の現場が来ればそれでいいということではなくて、それに付随して現場に密着した
研究開発機能も来るということで歓迎されるわけでございまして、製造現場が海外に出ていけば、製造現場に密着した
研究開発機能も同時に流出していくということであります。
したがいまして、製造現場は出ていってもいい、
研究開発機能だけ整備していけばいいということでは決してないわけでございます。試験研究機関から出てくる試作品だけを製造していたのでは膨大な雇用は維持できないわけでありまして、そういう
意味で
中小企業対策、それから
ベンチャー対策というのは同時にやらなきゃいけない大変重要なテーマだというふうに思っております。
これからの社会資本の整備につきまして、今までの話をちょっとまとめておきたいわけであります。
第一に、最近理念がはっきり見えてこないということを先ほど申し上げましたけれども、大都市圏に国際
競争力のある港湾、空港を整備していく、これがまず
一つの重点的に行うべきことではないかというふうに私は思っております。
それから、対象分野につきましては、
研究開発機能を強化するための生活基盤整備、情報・交流機能整備が大事ではないかというふうに思っておりまして、対象地域と対象分野の重点化を図っていくことがこれからの
社会資本整備として求められることではなかろうかというふうに第一に思っております。
それから第二に、地方分権的な整備方策を模索すべきではないかというふうに思っております。
現在では
日本の各地域はそれぞれ巨大な
経済ブロックを構成いたしております。東海地域の例げかり挙げて恐縮でございますけれども、例えば愛知県は人口とGNPで見ますとスイスと同じだけの規模がございます。しかし、愛知県では独自にはなかなか国際空港はつくれない。スイスには国際空港は幾つもあるわけでございますけれども、愛知県ではなかなか独自につくれない。これは財源、権限等々での分権化が進んでいないということでございます。
日本の各地域は巨大な
経済ブロックを構成しているわけでありまして、それぞれの地域がそれぞれの実情に合った計画をつくって実現していくということがこれからの活力のためには大事ではないかと思っております。
それから、地方分権的な整備方策といたしまして、第二番目に資金調達の多様化を図っていくということが必要だと思います。
高齢化社会になっていきますと、皆さん御案内のように、貯蓄率は低下してまいります。高齢者は貯蓄をする主体ではなくて、貯蓄したお金を使う主体でございまして、貯蓄率は下がっていきさして、
社会資本整備のために回す資金はだんだんと厳しくなっていくわけでございます。
また、これから
我が国では公共投資について車新投資の割合がふえてまいります。
経済企画庁の推計ですと一九九〇年では更新投資の割合は三文ということでありますけれども、二〇一〇年には更新投資の割合は三五%までふえていくということでございまして、資金を投下してもなかなか新しい社会資本ができてこないというふうな
状況になるわけでございます。そのために資金調達の多様化を図っていくことが大事だというふうに思います。
これまでも
日本の公共投資等々では開発利益の還元ということは
かなりの程度行われてきた実績はございます。土地の区画整理事業というのは
日本の都市再開発で大きな役割を果たしてきたわけでございます。
大都市圏内の集落の街路、それから公園等を整備する、そういう事業でございますけれども、整備されることによって土地の付加価値が高まっていくわけでございますが、地主は
自分の所有する土地の一部を公園用地あるいは道路用地として提供していく。しかし、それによって付加価値が高まっていくわけでありますから地主も便益を得るということでございまして、こういうふうな方法によって都市再開発が随分行われてまいりました。しかし、現在の大規模なプロジェクトに対応するためにはもう少し資金調達を多様化していく必要があるんではなかろうかというふうに思っております。
アメリカ等々でよく行われておりますのは税増融資、税金をふやす融資です。タックス・インクレメント・ファイナンスというふうに言いますが、これがごく一般的に行われております。これはどういうものかといいますと、都市再開発を行いますときに、
アメリカの中心部というのは
かなり荒れているわけでありますが、そこの再開発を市が行うときに、再開発を行うことによってある一定地域の、プロパティータックスと言いますが、固定資産税の税収がふえるわけでございます。そのときに、
ベースになる固定資産税は全都市の一般会計に入るわけでありますが、都市再開発によってふえた税収分はその事業の収入というふうにいたします。
その事業は債券を発行して資金調達をするわけでありますが、その債券の償還、利払いはふえた税収で行うという
仕組みでございまして、事業を行って将来ふえる収入を現在資金化して事業に投下していく、こういう方法でございます。
アメリカではこういう債券は
かなり一般的に発行されておりまして、免税債で相当人気があるわけでございます。
日本ではこの債券は発行されておりません。東京湾の横断道路をつくるときにそれが話題になったことがありますけれども実現しなかった。今回の阪神・淡路大震災でも復興資金として話題になったことはございますけれども、実現いたしませんでした。
実現しない理由は、公的な債券でございますので、将来の事業が思うような成果を上げなかったときに債権の回収をどうするんだ、公的責任が出てくるんじゃないかというふうな問題。それから、ある特定の債券だけ免税にすることの不公平の問題等々があって、なかなか実現しないわけでございますけれども、
日本でも先はどのような
状況を考えますと、資金調達の多様化を図っていくことが大事ではなかろうかというふうに思っております。
急いでお話しいたしました。大体時間になりましたので、一応これで終わらせていただきます。どうもありがとうございました。