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1996-05-15 第136回国会 参議院 国際問題に関する調査会 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成八年五月十五日(水曜日)    午後一時一分開会     ―――――――――――――   出席者は左のとおり。     会 長         林田悠紀夫君     理 事                 板垣  正君                 田村 秀昭君                 直嶋 正行君                 松前 達郎君                 上田耕一郎君     委 員                 尾辻 秀久君                 岡野  裕君                 木宮 和彦君                 北岡 秀二君                 塩崎 恭久君                 馳   浩君                 林  芳正君                 山本 一太君                 泉  信也君                 木庭健太郎君                 高橋 令則君                 永野 茂門君                 益田 洋介君                 萱野  茂君                 笠井  亮君                 田村 公平君    事務局側        第一特別調査室        長        入内島 修君    参考人        元駐タイ大使   岡崎 久彦君        青山学院大学教        授        阪中 友久君        一橋大学教授   山内 敏弘君     ―――――――――――――   本日の会議に付した案件 ○国際問題に関する調査  (派遣委員報告)  (「アジア太平洋地域の安定と日本役割」の  うち、東アジア地域における安全保障の在り方  について)     ―――――――――――――
  2. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) ただいまから国際問題に関する調査会を開会いたします。  国際問題に関する調査を議題といたします。  まず、先般行いました委員派遣につきまして、派遣委員報告を聴取いたします。板垣正君。
  3. 板垣正

    板垣正君 先般、本調査会が行いました委員派遣につきまして御報告申し上げます。  本調査会林田会長笠原理事、直嶋理事松前理事木宮委員、馳委員、林委員山本委員木庭委員高橋委員永野委員萱野委員笠井委員田村委員及び私、板垣の十五名は、去る二月十九日から同二十一日までの三日間にわたり、自衛隊の現状、経済協力及び国際研究交流等に関する実情調査のため、愛知県及び石川県に派遣されました。  以下、その調査概要について、日程に沿って御報告申し上げます。  第一日目は、まず、愛知小牧市にある航空自衛隊小牧基地に赴き、基地の沿革、概要基地所在部隊等概況説明を聴取し、意見交換を行った後、中型戦術輸送機C130Hを初め、基地保有の各航空機を視察いたしました。  次いで、名古屋空港に隣接する三菱重工業名古屋航空宇宙システム製作所小牧南工場を訪れ、製作所小牧南工場及び次期支援戦闘機XF2の概要説明を聴取し、意見交換を行った後、格納庫内の航空機及び部品の整備状況並びにXF2の第一号機がら第四号機までの各機を視察いたしました。  XF2は、米国戦闘機F16を改造母機としており、現在第四号機まで開発されておりますが、その第一号機が十三回にわたる全テスト飛行を終了し、現在最終調整を行っているほか、第二号機も同様にテスト飛行を行っているとのことでありました。  第二日目は、まず、名古屋守山区にある陸上自衛隊守山駐屯地を訪れ、第一〇師団及び守山駐屯地概要説明を聴取し、意見交換を行いました。守山駐屯地は、狭隘な市街地駐屯地であるため、周辺の演習場まで出かけて訓練、演習を行っているとのことでありました。また、昨年の阪神・淡路大震災では、師団から延べ約三十一万人の隊員派遣され、人命救助生活救援活動等を行ったほか、平成七年度においては六十二件もの災害派遣を行ったとのことでありました。  続いて、八一式指揮通信車、六四式対戦車誘導弾発射装置、七四式戦車、百五十五ミリりゅう弾砲等師団主要装備を視察した後、平成四年から五年にかけて、カンボジアで国連平和維持活動に対する協力業務に参加した隊員二名と懇談いたしました。隊員からは、初めてのPKO活動であったため、現地住民の理解を得ることに苦労した、自衛隊部隊での行動が基本であり、自衛隊員PKOに参加した場合、例えば、武器の使用に見られるように、個人としての判断を求められるのは困難が伴う等の報告がなされました。  次いで、名古屋大学を訪れ、同大学及び大学院国際開発研究科概要をそれぞれ聴取した後、同研究科の教官及びアジア諸国からの留学生と懇談いたしました。  研究科長からは、卒業生の就職先の確保の困難な状況について説明があったほか、各留学生から、帰国後日本で学んだ技術を国の発展に生かしていきたい等の意見や要望が述べられました。  第三日目には、石川県において、まず北陸先端科学技術大学大学を訪れ、同大学概要説明を聴取し、意見交換を行うとともに、情報科学センターを初め大学の主な施設を視察いたしました。  最後に、航空自衛隊小松基地を訪れ、基地概況説明を聴取し、意見交換を行った後、F15を初め、基地保有の各航空機を視察いたしました。  なお、昨年十一月に小松基地で起きたF15のミサイル誤射事故については、深く反省するとともに、再発防止対策の徹底を図っている旨の言及があり、現在、細部にわたる調査が行われており、四月末を目途調査報告がまとめられるとのことでありました。  以上、今回の派遣では、アジア太平洋地域の安定のための我が国役割を考えるに当たり、我が国安全保障観点等から、自衛隊防衛産業経済協力のための人材育成及び国際研究交流等実情がどうなっており、また、それぞれどのような課題を抱えているのかなとについて調査を行いました。  幸いにも、訪問先関係各位の並々ならぬ御協力と御好意により、まことに有意義な実情調査ができました。  ここに、御協力いただきました関係各位に対し厚く御礼申し上げます。  以上が今回の調査概要でありますが、調査の詳細につきましては、別途、報告書会長のもとに提出いたしておりますので、それを本日の会議録末尾に掲載していただけるようお取り計らい願いたいと存じます。  以上であります。
  4. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) ありがとうございました。  これをもって派遣委員報告は終了いたしました。  なお、ただいま御報告がありましたが、別途、詳細にわたる報告書が提出されておりますので、これを本日の会議録末尾に掲載することにいたしたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  5. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) 御異議ないと認め、さよう取り計らいます。
  6. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) 引き続き、国際問題に関する調査を進めてまいります。  本日は、本調査会のテーマである「アジア太平洋地域の安定と日本役割」のうち、東アジア地域における安全保障のあり方について三名の参考人方々から御意見をお伺いした後、質疑を行います。  本日は、参考人として、元駐タイ大使岡崎久彦君青山学院大学教授阪中友久君、一橋大学教授山内敏弘君に御出席をいただいております。  この際、参考人方々に一言ごあいさつを申し上げます。  参考人におかれましては、御多用中のところ本調査会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。  参考人方々から忌憚のない御意見を伺い、今後の調査参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いを申し上げます。  議事の進め方でございますが、岡崎参考人阪中参考人山内参考人の順序でそれぞれ三十分程度御意見をお伺いいたします。その後、午後五時を目途といたしまして質疑を行いますので、何とぞ御協力のほどよろしくお願いを申し上げます。  なお、意見質疑及び答弁とも、御発言は着席のままで結構でございます。  それでは、まず岡崎久彦参考人から御意見をお述べいただきたいと存じますので、よろしくお願い申し上げます。岡崎参考人
  7. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) 岡崎でございます。  事前にお話し申し上げるレジュメをお配りしたのでございますけれども、実は私はもともと情勢判断専門でございますので、また、今アジア情勢というのは非常に大きな節目に差しかかっておりますので、これ自体非常に重要なことなんでございますけれども、そこから説き起こしますととても三十分では論じ尽くせないと思いますので、それでこの「1 情勢見通し」、これ一応全部署愛いたしまして、むしろ「日米同盟の意義」、最後の「集団的自衛権」だけでこれ恐らく三十分の必要があるだろうと思います。それが一番恐らく皆様御開心あると思いますので、そこに絞ってお話ししたいと思います。  それで、集団的自衛権と申しましても、これまた非常に多くの角度から議論する必要がありまして、これまた限られた時間で申し上げますと総花的な議論になってしまいます。それで私、このお話の大部分は、ここではもう端的に申し上げまして、集団的自衛権行使を認めない場合は日本国家国民にとってどういう不利益が生ずるだろうかという点に絞ってお話し申し上げたいと思います。  その前に、法的な問題ですね、ごく簡単に私が法的な問題をどう理解しているかだけお話し申し上げた方がいいと思います。  これは憲法によりますと、司法権裁判所に属するわけですね。それでまた、その合憲違憲の審査の最終裁判所というのは最高裁であるということになっておりまして、ですから憲法判断裁判所がするわけなんですね。それで、憲法有権解釈というものは政府には属さないんだろうと思います。政府に属するのがいわゆる統治権ですね、統治権に関して実際的にいかなる処分をするか、これはもう政府の問題。  これ別に法制局の悪口を言うわけじゃございませんけれども、私も役人しておりまして、私と同じような経歴の仲間が言っている。どうも尊敬するといっても、尊敬する気にならないというのもあれでございますけれども、どうも権威があるように思われないわけですね。裁判所となりますと、これはもう憲法のもとに立派な司法権ございますので、これはもう尊重、尊敬せざるを得ない。  裁判所の判例だけを読んでみますと、そもそも自衛隊なるものの根拠法規、これは憲法じゃないですね、憲法には何も書いていないですから。裁判所がどうして自衛隊を正当化しているかというと、これは独立国家固有自衛権がある、だから自衛隊を持ってもいいんだということになっているんですね。独立国家には固有自衛権があって、したがって自衛のため必要な限度において有効、適切な防衛措置をあらかじめ組織、整備する、そのことが憲法前文及び第九条に違反しない、これが裁判所の判決でありまして、ここに至ってやっと憲法が出てくるんですね。それまでの自衛隊が存在しているのは、これは固有自衛権に従ってできているので、憲法に違反しているかどうかということになって初めて憲法が出てくる、そういうことなんですね。ですから、法源というか、これは固有自衛権というものは、固有ということはこれインヒアラントと言いますね、英語では。フランス語ではドロワ・ナチュレル、まあ自然権ですね。ですから、自然権に基づいて存在しておって、憲法と比べてみると憲法には違反していない、これが裁判所解釈なんです。  それで、この固有自衛権とは何かというと、これは日本が批准しております国連憲章に非常にはっきり書いてございまして、固有自衛権は、個別的及び集団的固有自衛権、そう書いてある。ということで、裁判所解釈からいえば、これはもう全然疑う余地がない。裁判所はそこまでしか言っておりません、別に。集団的自衛権権利はあるけれども集団的自衛権行使する権利がない、これは私の同僚役人がどこかで言ったわけですね。それがずっと続いていっている、そういうことでございまして、裁判所は何も言っておりません。  これをもし例えば解釈をきょう変えても、これは従来の有権解釈から見て何ら違反していない。むしろ今までの解釈の方が、これは裁判所に持っていくということはあり得ませんけれども、もし持っていくと裁判所は通らないんじゃないかと思いますけれどもね。つまり、権利はあるけれどもその権利行使する権利がないというような、そういう粗放というか乱暴というか、大胆不敵な判断法律家はできないだろうと思いますね。ですから、恐らくこれは裁判所に持っていけば通らない議論を我々の同僚である役人がした、そういうことであろうと思います。それが私の解釈なんです。  そうなりますと、集団自衛権行使をするかしないかという問題は、これは私の判断でございますけれども、本来政府違憲と言うべきじゃなかったんだろうと思うんです。集団的自衛権はある、ただこの行使政府はしない、これなら全くもう政府統治権の問題でございますから、何の批判もなかった。それを法律的にできないという言い方をしたのが、恐らくどこかがおかしいんだろうと思うんです。  しかし、しかしと申しますよりも、ということは、集団自衛権行使するかしないかは政府が決定したわけです。結局その判断基準政府政策である。政策目的からいいますと、それは言うまでもなく国民の安全と繁栄を確保する、これが政府目的であるべきなんです。逆に言って、いかなる政策であってもそれが国民の安全とか繁栄を傷つけるようなものであっては、それはとるべきじゃないということは当然であります。  そこで、もう私は端的に、時間もございませんので、今の解釈ですと日本に非常な損害が起こる、日本国民生活に非常な損害が起こるという端的なシナリオだけまず申し上げます。これは私もう十年以上前から申し上げて、そのころはこの問題は非常に扱うのが難しいものでございましたので、最も端的な例からそのころは言っていたんです。  端的な例というのは、例えば朝鮮戦争がもう一度起こる。それでアメリカ軍がまた釜山の橋頭堡に全部押し詰められる、今にも全滅しそうになる、全部海に追い落とされるか全滅しそうになる。そのときに日本が全く手を出さないで、戦闘機を三百機持っていて一機も飛ばさない。この場合はこれは日米同盟おしまいになる。アメリカ議会世論というものは、これも最悪シナリオでございますけれども、かなりあり得るシナリオでございます、戦争が終わったらどうなるか見ていろと。  そういう場合によくアメリカが使いますのが、日米通商航海条約破棄、つまり最恵国待遇破棄。つまりもう同盟国でも友好国でもない。そうしますと、今の国民生活というのがこれ全部日米同盟とそれから日米通商航海条約の上に成立しておりますので、これは国民生活は非常な打撃を受けます。食えなくなるとは申しませんけれども、恐らく国民の三分の一ぐらいは失業する、あるいはみんな月給が半分になる、そのくらいの被害を受けます。それでもいいから、先ほど言った役人が行った解釈を守るんだと。それは私ちょっと想像できないんです。日本人というのはかなり現実的な国民でありますから、ですから、そうなったときはその解釈を変えるということが国民の間で通るんだろうと私は想定しております。通すべきじゃない、いやみんながそれだけ貧乏になっても構わないという方がいられるかもしれませんけれども、恐らくそれは少数になるんだろうと。これは見通しの問題でございます。ということで私は最終的には、日本国民というものは現実的でありますので、どうにかこの問題を解決するんだろうと思っております。  ただそれを、大体政府部内のこのごろ専門家も含めましてこういう話をしますと、そのときはそのときのことだと、それからまあそこまでいけば何とかするだろうと、これは皆さんのほとんど一致した感触ですね。私は、その意味で日本国民というものは現実的だろうとは思っているんです。  ただ、またこれを本当は事前に決めたいんですけれども、現実に直面するまでなかなか決めてくれない。しかし、この現実に直面するまで決めないというのは、単に日本平和ぼけであるとかそういうだけのことではないんですね、実は。これはアメリカなんかで講演しておりますと、いろいろ議論しておりますと、国際的にもそういうことはあるんです。つまり、日本とか、イギリスのような島国は特にそうでありまして、危機が現実に迫るまでは何もしたくないと、同盟を結んだり約束したりそういうことはしたくないと、本当に迫ってきたらするんだ。これがイギリスの特徴でありまして、これは島国で海があるものですから、結局ドーバーまで全部とられてから考えればいいんだと、そういう考え方ですね。これはヨーロッパの国とは違います。  アメリカはそういうところがあるんですね。その上に日本は一種のパシフィズムの国になっておりまして、これも外国にいる人にはよくわかるんですけれども、例えばミュンヘンの直前のイギリス、フランス、それから今のドイツ、これ戦争に二遍負けていますから、それと同じような国だというと大体わかりますね。これはパシフィズムの国、しかもこれ民主主義の国でありまして、なかなか物事が進まない。だから事前に決めるということはなかなか難しいんだと、これは学者を相手にして議論していますとわかります。わかりますけれどもそこから先なんです。そこから先は、イギリスアメリカもそういう事情を克服して国際社会において自分の責任を果たしてきたと。日本はどうやって責任を果たすの、どうやってその困難を克服するのと、そういうまたまじめな議論に答えなきゃいけなくなってくる、そういうことでございます。  それで、もし日本事前にそういうことを克服しないとどういうことが起こるかということでございますけれども、それは、実は私、先々週アメリカでもって会議をしてまいりました。日米同盟について論じる会議でございました。日本側からも十枚ぐらい、アメリカ側からも十枚ぐらいペーパーが出まして、お互いに議論いたしました。アメリカ側ペーパーはほとんどは集団的自衛権を論じております。実はその名前を引用できるといいんでございますけれども、私はファクスで引用していいかと聞いたんですが、まだ返事が来ておりませんので、今のところはその出席者ということで御勘弁願いたいと思います。  その人たち議論では、英語の原文でございますから私のサマリーで申し上げます。つまり、事前に、いざとなったらばやるということでは、それではやっぱり困るんだということですね。特にペンタゴンの実務関係を知っている人はそれはとっても困るんだという話です。  どういうことかと申しますと、やっぱり戦争とか作戦というものは前もって非常に緻密に練っておかなきゃいけない。それを練って、そのとき日本が出るかと聞くと、日本側は必ず、いやそれは集団自衛権があるからその問題はちょっと今議論できない、これはどうかと聞くといやこれも議論できない。全部先送りになっている。そうしますと、アメリカとしてはもう面倒くさい、当てになるのかならないのかわからないからもう当てにしないでやるんだということになる。  そうなってきますと、それはもっとも現場の具体的な話でございますけれども、今度日本がこれはもう協力しないとどうにもならないということでもって、じゃ飛行機飛ばすと言ってきたら、そう言われてももう飛行場の予約は全部アメリカがしているんだと。それを大統領から言われて、日本がせっかくしたいと言うから入れてやれといっても、もうとってもそんな、忙しい最中にそんなこと考えている暇はない。結局、平時においては日本はどうせ当てにならないということになるし、戦時において、急に日本が言ってきてもそれを受け入れることはちょっと現実的に考えられないと。そうすると、せっかくの日米同盟をつぶしては大変だということで、日本国民が理解してそれを支持することになった場合でも、それは実現できない。そうすると時間がおくれてしまって、それが日米同盟打撃を与えることになる、そういう心配があるということですね。それが一番端的な現場議論なんです。  それ以外にもっと一般的な言い方で、日本集団自衛権解釈を変えない限り日米同盟は恐らくもたないだろう、それで国務省や国防省の地域専門家はわかるだろう。ただ、それはとっても議会国民に対して説明はつかないだろう、それをまたその地域専門家自身が言っております。  最近の戦争というのは本当に湾岸戦争みたいに早く済んでしまう可能性があるので、そうしますと、日本がもたもたしているうちに全部済んでしまって、その結果もう日本に対する反感が非常に強くなって、その後の国民生活が甚だしく脅かされる、そういう危険がいつでもあるわけでございます。  それから、私がもう一つ集団的自衛権というものを初めから認めた方がいいんだろう、行使を初めから認めた方がいいだろうと思っておりますのは、これを認めておきませんと、日本外交戦略国家戦略に対する思考が停止しちゃうんですね。先のことを考えなくなっちゃうんですね。有事の際に武力行使するかどうかなんというのはこれは一国の命運に関することでありまして、どの国でも物すごく慎重に考えるんです。しかも、なるべく使わないんです。  それで、さっき申し上げました極端なシナリオでも、ただ朝鮮半島で戦争が起こったからすぐと、そういうことはないんで、戦争シナリオがございまして、それから米国世論議会の動向もありますし、それで本当にそれに協力しなければ国民の安全と繁栄がもう大きく傷つくということがわかって初めてそういうことになるんです。それは例えば台湾海峡においても同じことでございまして、それから南シナ海やシーレーンも同じでございますし、ペルシャ湾でも同じなんです。ですから、今後起こり得るあらゆる事態で、百の事態が起こって、そのうち本当に出なきゃいけないということは恐らく百分の一だろうと思います。その確率は同じことなんですね。いざとなったらどうにかなるさとか、そうなったときはそうなったときのことだと言っている場合でも、やっぱり一%ぐらいです。それから、事前に考えていてもそれはやっぱり一%ぐらい。特にふえるというものでもないんですね。  少しは増減はあると思います。一つは、ふだん考えていませんと、急にアメリカ世論とか新聞が本当に怒り出すと慌てて本来出さなくて済んだものを出す、そういう可能性で出てくる。それから逆に、これは出さないと本当に日本の利益が傷つけられる場合でも、うっかりじんぜん時を過ごしてチャンスを逸してしまう。両方のケースがありますから。しかし、これは今のままでほっておいても、解釈を変えても、出さざるを得ないと決める可能性は大体一%ぐらいだろうと思います。  その確率は同じとしても、問題は、その可能性をふだんから考えることを拒否するところが問題なんですね。武力行使というのは国の命運を決する問題なんです。これはもう軽々にすべきことではありませんし、どんな国でも最悪の場合にはしないんです。それをふだんは全然考えないでおいてその場になればどうにかなるだろうと思考を拒否しているというのは、これは甚だしい無責任なんです。日本国民の安全をこれはもう非常な危険にさらしているんです。これはふだんからやっぱりじっくり考えておかなきゃなりません。  そこで、最後にどういうふうに解決したらいいかという問題であります。  まずは、憲法改正もしないし、それから憲法解釈も変えない、その場つなぎでございますね。その場合、現在政府が行っているいわゆるグレーゾーンの仕分け、それは私は有用だと思います。従来の解釈というのは甚だしい拡張解釈ですから、それをはっきり言うだけで同盟の信頼関係を損なうようなことはたくさんございますから、これはもうどんどん解決した方がいいと思います。  それから、ACSAなどはそれ以上の意味がありますね。ACSAというのは演習に際して物資の相互融通ができる。しかし、演習というものは、これは実際の戦争に近ければ近いほど意味がある。それをふだん練習しておけば、今度有事になったら、有事になっては適用できません。その場合もう一度法律を通さなきゃならない。法律さえ通せば、そのための準備はもう全部できている。要するに国会で決議さえすれば、ACSAでもってふだん融通していますから、すぐにできるようになる。ある意味で有事について十分考えておくということでございますね。それから、例えばほかに解釈を変えないままでも個別的自衛権行使というだけのことでもってできることはまだ幾らでもある。  だけれども、シーレーン防衛、これは日本の船を守るんだからいいじゃないかと。そうすると、ぺルシャ湾まで行っても構わないということになってくる。それは法的擬制としてはそれでいいだろうと思うんですね。しかし、これを本当に国民に納得させるためには、やっぱりそれでは足りないんだろうと思います。  つまり、ペルシャ湾に掃海艇を送ったのは、日本の船の安全を守るためと、それよりもやっぱり日米同盟の信頼関係を損なわない、それから国際協力における日本の姿勢を示す、その方がはるかに大きかった。ですからこれは、政治的、戦略的な考え方としては集団的自衛権の考えに沿って行った行動なんですね。ただ、個別的自衛権説明がつくというだけの話です。これはやっぱり考え方をはっきりした方が国民に対して説得力があるだろうと思います。  結論は、これは解釈を変えてしまうのが一番いいので、解釈を変えたからといって、全然法律的に何の問題もない。裁判所に持っていって恐らく通るでしょうね。むしろ今までの解釈の方が通らないでしょうね。というか、通るか通らないかは裁判所が決めることなので、それは政府判断して決めればいいことなんです。  その間一体何をしたらいいのかというと、集団的自衛権解釈現実に直面して変えざるを得ないのか、それともそれ以前の政府の決断で変えるか。いずれにしましても、そうなる前の過渡的期間においては、そういう場合に備えて少なくともインテレクチュアル・エクササイズ、どういう場合が一体日本の国益が脅かされて、どういう場合は何をしなきゃいけないだろう、この場合は何かすべきでないとか、そういうことをじっくり考えておくということだろうと思います。これはアメリカの論文にもいろいろ書いてございます。何も日本に何かをしろと、コミットしろと言っているんじゃない。少なくとも考えてほしい。考えろというと、いやこれは集団的自衛権に抵触するから考えない、これは全く不便でどうにもならない、そういうことを言っております。  これは、別に私は政治的判断さえも、政治家の判断も要らないだろうと思います。つまり、外務省とか自衛隊専門家が有事についていろいろ考えて研究しておく。いざという場合に困らないように研究しておく。それに対して政治の役割は、不要な介入をしなきゃいいんです。現に、ACSAについては不要な介入をしていないんですから。ですから、インテレクチュアル・エクササイズ、これはエクササイズで演習でございますけれども、その種のことをただ自由にする、これは余り重大な政治的判断ではございませんけれども、それでかなり問題は実質的に解決すると私は思っております。
  8. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) ありがとうございました。  次に、阪中友久参考人お願い申し上げます。阪中参考人
  9. 阪中友久

    参考人阪中友久君) 阪中でございます。着席させていただきます。  本日はお招きをいただきまして、国権の最高機関で陳述する機会を与えられましたことを大変光栄に思っております。実は私、風邪を引きまして、少し声が割れておりましてお聞き苦しいと思いますが、お許しいただきたいと思います。  今、岡崎参考人の方から、個別的な問題集団的自衛権の問題について詳細な見解の表明がございました。私は国際政治をやっておりまして、特に安全保障の問題に関心を持っておりますので、その観点から東アジア情勢を包括的に見て、その中でどういった問題があり、日本としてどのような側面に注意を払うべきか、そういう観点から包括的なお話をさせていただきたいと存じます。後で個別の問題に御質問があれば、喜んで私の知っております限りお答えさせていただきたいと思います。  冷戦の終結以来、東アジアでは今大変大きな発展が続いております。申すまでもないことですが、韓国、フィリピン、台湾で民主的政治体制が発展し、これらの国で目覚ましい経済成長が続いております。そして、ASEAN諸国の協力が進展して、東アジアで歴史上初めての安全保障の地域的対話機構であるASEAN地域フォーラムが発足いたしました。  その反面、地域の将来についての潜在的不安定要因も育ちつつあります。中でも、中国は経済発展とともに軍事力の増強を続けており、南沙、西沙諸島に対する強い姿勢はASEANを中心にして地域諸国の懸念を深めております。また、最近では、台湾の総統選挙と関連して、軍事演習という、いわばサーベルラトリングな威嚇が行われました。そしてまた、朝鮮民主主義人民共和国では経済危機が深刻化しており、朝鮮半島も不安定性を増してくるように思われます。  東アジアを包括的に見てみますと、東アジアで想定される地域紛争は、単に国家間の紛争だけではなく、地域に内在する民族、宗教、文化、そういった側面からの対立、それから経済的不安定性、そういった側面からも発生いたします。また、環境問題、発展途上国の人口増大の圧力なども東アジアの経済的、社会的安定を阻害する紛争要因となりやすいと思われます。  去る四月十七日に、日米両国は、冷戦後初めて安保共同宣言を発表いたしまして、両国の安全保障関係はアジア太平洋地域の安定と繁栄の基礎であることを確認いたしました。しかし、この共同宣言は新しい協力関係のスタートラインを示しただけでありまして、この協力関係に基づいてどのようなシステムを構築するかは我々に課題として残されているわけでございます。私は、スタートラインについたということだけを強調させていただきたいと思います。  冷戦の終結以来、ヨーロッパでは大きな発展が続いております。グローバルウォーの可能性、つまり世界全体にわたる戦争発生の可能性が大幅に低下したという認識のもとに、欧州ではNATO対ワルシャワ条約機構という双極的な対立構造が解消して、集団防衛機構としてのNATOの機能を維持しながら、全欧安保協力機構、OSCEでございますけれども、OSCEの強化を図りながら欧州全体の新しい安全保障の枠組みの構築に手をつけております。  一方、東アジアは、地理的、歴史的に多様性に富み、各国の安全保障観も多様であるために、冷戦後の対立関係の解消、そして新しい秩序の建設というものはそれほど目に見えた進展を見せておりません。しかし、先ほど申し上げましたASEAN地域フォーラムが発足し、地域の安全保障対話を始めたということは大変私は画期的なものだと思います。しかしながら、東アジア諸国が共通の価値観を基礎にして地域的集団安全保障機構を建設するようなことは、私はかなり遠い将来のことであろうと思います。  冷戦の終結以降、東アジア地域では幾つかの変化が生まれております。第一に申し上げなければならないのは、大国関係の変化であろうと思います。この地域に大きな影響力を持つアメリカの東アジア戦略は、再編成の過程にあると思います。四月十七日の日米安保共同宣言では、アメリカアジア太平洋地域の安全にコミットし、そして核の傘を提供し、十万人の前方展開の戦力を将来も維持することを確約いたしておりますけれども、アメリカの財政事情から見るならば、こういった十万人の前方展開戦力の維持は、恐らくマキシマムなレベルのコミットメントを示したものと私は思います。情勢の変化によって、将来この数字はさらに変化してくるのではないかと思われます。  一方、中国の方は、経済発展を背景にして軍事力の近代化を進め、東アジア地域に対して影響力の増大を今後強めてくるものと思われます。中国は海軍力の増強を図り、南シナ海の南沙、西沙の領有権を主張し、東南アジア諸国の懸念が及んでいるのは御承知のとおりでございます。  中国に対するもう一つの懸念は、大量破壊兵器及び関連技術の輸出に対するものでございます。特に、中東地域に対するミサイル、原子力関連技術の輸出は、アメリカを中心にした国際社会の懸念を深めております。  さらに、ロシアの将来も依然不透明な状況が続いております。ロシアを東アジアの安全保障上どのように位置づけるかは当分不明確な状況が私は続くのであろうと思います。ロシアの国内政情の混乱が継続すると、東アジア地域でも核兵器の安全管理に対する懸念、核、通常兵器の移転についての懸念も高まってくるかもしれません。さらに、ロシアの中央アジア諸国に混乱が生じた場合、中国など周辺諸国との間で問題が起こる可能性も否定できないように思います。  さらに、朝鮮半島における南北朝鮮の対立と緊張は依然として続いております。これは御承知のとおりのことでございます。しかし、視点を長期的にとりますならば、十年後、朝鮮半島の分断状況が現在の状況のままで推移するとは考えにくいわけでございます。北朝鮮が当面しております経済状況の困難を考えますと、朝鮮半島がどのようなプロセスであるにせよ、平和共存かあるいは統一かというような方向に向かわざるを得ないのではないかと思われます。  さらに、ASEANで発展いたしましたARFはアジア地域での安全保障の対話を継続いたしております。これはもう当然のことでございますけれども、この対話は参加諸国の相互理解と協力促進のための緩やかな協議であって、この地域が当面しております安全保障現実的問題を解決でき得るようなそういった機構に発展するのはかなり遠い将来の問題だと思います。しかしながら、地域のほとんどの国が参加したこのARFが発足いたしました意義は、私は小さくないと思います。ARFが今後成果を積み重ねていくために、日本がもっと積極的な役割を果たすことが必要ではないかと思います。特に、信頼醸成措置、安全保障協力の具体的措置といった側面で日本はARFをリードする責任があるように思われるわけでございます。  当面している問題は、東アジアの将来予想される紛争の分析と、そしてそれに対する対策でございますけれども、私はこの冷戦後、東アジアにおいては三つのタイプの紛争が想定されると思います。  第一の紛争は、昔ながらのと申しましょうか、伝統的な対立関係である国家戦争型の地域紛争でございます。これは国家の対立を原因とする紛争であって、その中で最も深刻な問題は朝鮮半島における南北朝鮮の対決であり、そしてさらに中国・台湾の紛争でございます。  朝鮮半島の場合は、百五十万の大軍が三十八度線を挟んで対峙しており、戦火の発生は、東北アジアだけでなく、米中ロ、三つの核保有国がそれぞれ朝鮮半島に関与しておりますために、この大国関係にも大きな影響を与えることになるだろうと予想されます。  中国と台湾の問題は、同じように、中国、台湾に深い関係を持っております日本アメリカ、周辺諸国に大きな影響を与えることになろうと思います。特に、東南アジアは、南西アジア、中東と北東アジアを結ぶ海上輸送路の中間点にあります。その意味で、南沙、西沙諸島の領有権をめぐる中国と東南アジア諸国の対立は、南シナ海の海上輸送路の安定にとって大きな不安材料であろうと思います。  このほか、国境線をめぐる未解決の多くの問題があります。日中間、日ロ間、日韓間、中国・ベトナム間、ベトナム・カンボジア間、中国・インド間、こういった問題は国民感情を刺激する問題であり、対立が表面化すると解決は容易ではございません。  二番目の要因として、内部的原因に関する紛争が挙げられると思います。  国家内での政府と反政府勢力の紛争、あるいは国家と無関係の宗教、民族的要因からと見られる紛争というものの可能性がございます。それに貧富の格差などの社会的要因が加わって深刻化するケースが予想されます。東南アジアでは経済が急速に成長いたしました。この結果として、社会的摩擦が生じる可能性を否定できないように思います。  三番目の要因は、今地平線上にあらわれております新しい紛争要因でございます。  これは、国際秩序の不備に起因するものと言ってもいいかもしれません。工業化の発展に伴う酸性雨問題、熱帯雨林の破壊、地球の温暖化といった環境問題は、これから先の紛争の原因になりやすい問題でございます。そしてさらに、工業化の進展は、中国も同じですけれども、水、エネルギーの需要を増大させ、資源問題を引き起こす可能性がございます。さらに、原子力発電への依存は、安全性についての懸念も引き起こす可能性がございます。  長期的に見ると、もっと深刻な問題は人口問題でございます。国連の予測によりますと、一九九三年の世界人口はおおよそ五十五億七千二百万人でございますけれども、中位の予測で、二〇〇〇年には六十三億人、二〇二五年には七十六億人に達すると見られております。こういった人口問題、人口の爆発的増大は、それに伴う食糧問題、環境問題といった面で深刻な問題を発生させるだろうと思います。  この三つの紛争原因に対する解決の対策を申し上げさせていただきたいと思います。  第一の国家戦争型の紛争に対しては、比較的国際的にその対策が確立している分野でございます。これは、関係国による紛争防止の努力でございます。東アジアでは朝鮮半島、中国・台湾の紛争防止が最重要課題であり、この国家間紛争の防止には、冷戦期に構築された日米安保体制、米韓相互防衛条約、こういった条約、機構を維持していくことが将来も必要であろうと思います。特に、米軍の前方展開はこの地域の安定にとって私は不可欠の要因と考えております。  さらに、核兵器につきましても申し上げたいと思います。  欧州では、核兵器による抑止は安全保障の最終手段、ラストリゾートという言葉を使っておりますけれども、最終手段と考えられております。冷戦の終結によって米ソ間で相互確証破壊という戦略は成立しなくなりました。それに伴って、米ソ両国は、既に相手国を核兵器の攻撃目標から解除するという政策をとっております。しかし、将来、地域的覇権を追求する国家、あるいは核、化学兵器、大量破壊兵器の保有を目指す国家が登場する可能性は私は依然として否定できないように思います。したがいまして、核兵器による地域紛争抑止の機能は私は依然重要であると考えます。  同時に、国家間の戦争を防止するためには、平和時において、軍事力の透明性を向上し、関係諸国の対話を促進し、信頼性を高める信頼醸成措置、大量破壊兵器の拡散の防止、軍備の水準の引き下げなどの軍備管理交渉、それから核兵器の配備の縮小など、紛争抑止のための総合的措置が必要になろうかと思います。  二番目の紛争要因であります国内的要因に対する紛争に対しましては、地域的安全保障機構あるいは国連による紛争防止の手段が有効であろうと思います。  宗教、民族問題などを背景にして発生する、やや専門的な言葉になりますが、低強度紛争、つまりゲリラとかテロとか、そういった低い紛争の防止は、紛争に直接関係する国家よりも国連とか地域的安全保障機構などが人道的見地から防止に努力する方が効果的であろうと私は思います。  既に御承知のとおり、ボスニアヘルツェゴビナの紛争に見られるように、低強度紛争は早期に解決しないと戦火をエスカレートさせ、エスカレートさせますとなかなか解決が難しいわけでございます。このため、北大西洋条約機構はボスニアヘルツェゴビナの紛争の介入に入り、ロシアの協力を求め、六万人に上るNATO加盟国並びにロシアの軍隊を派遣して平和の維持に当たっております。  さらに、紛争防止のための予防外交も重要でございます。  国連は、旧ユーゴスラビアから独立したマケドニアにおける紛争発生を防止するため、平和維持部隊の予防展開を行い、紛争防止に効果を上げております。欧州では、全欧安保協力会議がNATOと協力して平和のためのパートナーシップ計画に取り組み、国連やOSCEと協力して平和維持活動、人道援助、救難活動に当たるという計画を進めております。東アジアでも将来こうした紛争予防のための協力計画をつくることが必要になると思います。  第三番目の、環境問題や人口問題への対処は解決のための確立した手段が存在するわけではございません。しかし、国際連合を中心にしたグローバルレベルでの対策、それから地域的な協力によって長期的な観点から環境問題の改善、人口問題の改善に取り組む必要があろうかと思います。  我々は、日本安全保障を考える際、こうした地平線のかなたに生まれつつある紛争の可能性に目を向ける必要があろうかと思います。  そこで、私は、日本としての課題を簡単に申し上げさせていただきたいと思います。  第一に私が申し上げさせていただきたいのは、安全保障政策の総合化を推進する必要性があるということでございます。  もう既に申し上げましたように、東アジアには朝鮮半島、中国・台湾問題など厳しい対立要因が存在いたします。同時に、発展途上国の政治、経済、社会の安定を促進することも必要でございます。  冷戦期に発生した地域紛争を見てみますと、冷戦期でさえも国家国家の紛争よりも国内の宗教、民族、社会的不安定性、そういったものを原因とした紛争や、それから統治機構、ガバナビリティーですね、統治機構が弱体化し、機能しなくなって発生した紛争が多数見られます。  したがいまして、地域紛争を防止するため、日本の第一の課題は、東アジアの発展途上国に国家としての基盤を強化し、安定的な発展のために経済的側面を中心に協力することが必要になってこようかと思います。さらに、外交的側面でいえば、地域諸国の安全保障対話等の促進や紛争の予防、紛争の平和的解決、こういった側面を重視していくことが必要であろうと思います。人的貢献の側面では、国連による平和維持活動に自衛隊、文民の参加を活発化していく必要があると思います。  そこで、政策的な具体的な問題を申し上げさせていただきたいと思います。  第一の問題は、構造的な問題に取り組む必要があると思います。冷戦後の安全保障の構造的問題の解決に取り組む必要があろうかと思います。私は、これを重層的な安全保障構造の建設と言っております。つまり、重層的という意味は、幾重にも安全保障の機構を組み合わせていくことが重要であるという意味でございます。  東アジアでは未解決な地域紛争の問題があり、これが大規模紛争に発展する可能性があるわけでございまして、冷戦期に構築された日米安保条約、それから米韓、米比、マニラ条約といった二国間相互防衛条約を維持し、協力関係を維持していくことが重要でございます。日本安全保障政策にとっては、日米安保条約の維持が重層的安全保障構造の中核をなすと私は考えます。  その周辺に、一九九四年七月に発足いたしましたASEAN地域フォーラム、ARFのような地域的な安全保障についての枠組みをつくり上げることが必要ではないかと思います。特に、朝鮮半島の対立、台湾問題を抱えた北東アジアには、安全保障の対話、協力の枠組みは存在しておりません。こういったものを、長期的な視点からその構築に取り組む必要があろうかと思います。さらに、その周辺に国連とのグローバルな分野での協力関係を強化していくことが重要であろうと思います。  第二の具体的な問題は、私は機能的側面について考えることだと思います。より具体的に申し上げますならば、従来の紛争の抑止、紛争の発生からの防衛に加えて、危機管理体制を整備することが必要であろうかと思います。  冷戦後の安全保障あるいは冷戦後の防衛にとっては、明白な侵略の脅威よりも大量破壊兵器の拡散防止、テロ対策、地域の安定性の確保といった完全な戦争と完全な平和の中間に位置する問題への対処が重要な課題になってくるように思われます。  この対策といたしましては、対象国、つまり、危険を冒す紛争原因を持つような対象国に対する外交的な説得、それからそういった外交的な説得に応じない場合には輸出の側面での規制、各種の軍備管理交渉による規制、さらに聞かなければ国際的圧力、相手の軍事能力の無害化といった外交、経済、防衛に至る広範な対策が危機管理のために必要でございます。この側面からの政府の危機管理体制を強化する必要があろうかと思います。  特に、この危機管理体制の中では、四月十七日の日米安保共同宣言でうたわれました日米周辺有事に対応するための集団的自衛権の見直しは急務であると思います。集団的自衛権の見直しだけでなく、有事の法制の整備などは国民権利義務とも関連することが予想される問題でありますので、平和なときにこそ議論を尽くしておく必要があろうと存じます。この問題は、危機の際に政治の意志を明確に確立するために欠かせない措置であるように私は思います。  最後に申し上げさせていただきます。  私は、東アジアの地域紛争を完全に封じ込めることは不可能であるにいたしましても、地域諸国が協力することによってある程度コントロールすることは可能であろうと思います。特に、紛争が発生すると大きな影響をもたらす国家戦争型の地域紛争の封じ込めば極めて重要な課題でございます。そのために、日米安保体制の果たす役割は私は大変重要であろうと思います。  安全保障上の協力をさておきましても、日米両国が世界のGNPの三七%を占める現状から見て、日米の協力関係を促進することは世界的な意義を持つ問題であると考えます。この日米の協力体制を発展させていくための重要な要因は、日本国際社会の安定と発展のために、積極的、能動的に活動していくことが必要であろうと存じます。  これもいささか手あかのついた表現でございますけれども、経済の世界が国家間の相互依存関係の増大に伴って一国平和主義が成立しないというのは、国会でもしばしば議論になった点でございます。日本は、世界と東アジアの安定のためにどのような役割を果たすべきかということを真剣に考えるべき時期に来ていると思います。  最後に、国会に対する期待を述べさせていただきます。  戦後半世紀にわたる冷戦期の日本役割は、西側の一員として一定の限度内のものでございました。今や冷戦の構造が崩壊して新しい国際秩序の構築が求められているわけでございます。この新しい国際秩序の構築に対して、日本が積極的、能動的な役割を果たす責任があろうと思います。また、こうした役割を果たしていくことが日本の安全とその国際的地位を確立することになろうと思います。この激動期こそ、政治が国民を指導する力を発揮すべき時期だと私は信じます。したがいまして、政治が、国会が、国民の指導に誤りのないことを期待させていただきたいと存じます。
  10. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) ありがとうございました。  それでは、次に山内敏弘参考人お願いいたします。山内参考人
  11. 山内敏弘

    参考人山内敏弘君) 山内でございます。  私の専門は憲法でございますので、国際政治とか外交問題については私は素人でございます。したがいまして、あるいはこういった場に出てきて意見を申し述べることは不適切ではなかろうかというふうにも考えたわけでございますけれども、せっかくのお誘いがございましたし、そして私なりに憲法の観点から平和や安全保障の問題について日ごろ若干考えていることもございますので、あえて出席させていただきまして、若干の意見を申し述べることにした次第であります。そういう次第でございますので、私の話は、主として憲法の視点からの話になるということを最初にお断り申し上げておきたいと思います。  ところで、そのように憲法を勉強している者の立場からいたしますと、どうしても憲法が要求しているものは何であるのか、あるいは憲法のもとで可能なことはどこまでであるかといったことをまず考えることになります。現実の政治を見る場合にも、国際政治を見る場合にも、ややもすれば憲法規範から出発するということになりますので、現実認識がどうしても弱くなると申しますか甘くなる、そういった批判があるいは出てくることは避けがたいかと思います。  しかしながら、他方において、国際政治とか外交問題を専門的な仕事としておられる方々議論の仕方というものを聞いてみました場合にも、時として問題がないわけではございません。それは、これらの人たちの場合には、ややもすれば現実から出発する余りと申しますか、日本憲法が一体何を要求しているのか、あるいは何をどこまで認めているのかということについての配慮が時として不十分になる場合があるということでございます。  日本は、言うまでもなく法治国家でございます。日本憲法は国の最高法規であると規定しておりますので、平和とか安全保障の問題についても、憲法を無視して議論することはできないと思います。国会においてもそうでございます。  もちろん日本憲法は不磨の大典ではありませんから、国民の大多数が改正を希望するということであれば、憲法が定める手続に従って改正することはできます。しかしながら、そのような手続を経て改正されない限りは、日本憲法は、日本における最高法規として、外交や平和の問題を考える場合にも尊重されなければならないと思います。これは言うまでもない当然のことでございますけれども、まず最初にそのことを申し上げたいと思います。  そこで、まず問題となってまいりますのは、日本憲法が平和や安全保障の問題についてどのような考え方をとっているのかということでございます。この点、詳しい議論をここで申し述べる時間はございませんので、結論的なことだけを申し上げますと、学界の通説的な見解は、現在でも、日本憲法のもとでは、たとえ自衛のためであれ戦力は保持できないし、また、たとえ自衛のためであれ戦争を行うことはできないというものでございます。このような見解は、憲法制定時において当時の吉田内閣がとった見解でもございますし、憲法九条、前文、その他の諸規定を見てみましても、このような解釈が妥当な解釈であると私は考えます。こういった日本憲法の考え方からいたしますと、日本は、戦争武力に訴えるのではなくて、非軍事的な方法で日本の平和と安全を確保していく、そしてアジア諸国にも対処していくということになるものと思われます。  このような日本憲法の立場からいたしますと、私は、現在の自衛隊や日米安保条約は憲法には合致しないということになろうかと思います。  日米安保条約について申しますと、確かに最高裁判所は、いわゆる砂川判決におきまして、我が国が平和と安全の維持のためにその目的達成にふさわしい方式、手段で他国に安全保障を求めることを憲法は何ら禁止していないと述べ、具体的に安保条約についてはいわゆる統治行為論を採用いたしまして、違憲審査権の対象外にあるといたしました。しかし、このような判決に対しては、学界では反対論が多数であるというふうに言ってよろしいかと思います。むしろ、安保条約を違憲とした一審の伊達判決を支持する見解が多かろうというふうに思います。  憲法九条が一切の戦力の保持を禁止しているのは、日本の領域内にはおよそ戦力はあってはならないという趣旨であって、日本の戦力は保持できないけれども外国の戦力ならばよいというような解釈は、占領下にあってはともかく、独立国家のもとでは到底とることができない見解だと言えるからでございます。  しかも、日米安保条約は、改めて指摘するまでもなく、東西冷戦の時代に締結されたものでございます。冷戦時代には、安保条約はソ連の脅威に備えるということで正当化されてまいりました。しかし、冷戦構造が崩壊した今日では、もはやソ連は存在しておりません。安保条約の存在理由の喪失は明白になったように私には思われます。  確かに、冷戦が崩壊した今日でも世界の各地でさまざまな地域紛争は発生しております。しかしながら、今日、一体日本武力攻撃してくる国がどこにあるでしょうか。ロシアでしょうか、それとも中国でしょうか、あるいは北朝鮮でしょうか。私はいずれの可能性もほとんどないと言ってよいように思われます。しかも、日米安保条約のもとでの基地の存在が住民の生活や権利を恒常的に侵害するものであるということは、沖縄の事例が端的に証明しているように思われます。このような日米安保条約は廃棄して、むしろ日米の間に平和的な友好関係というものをつくっていくということが、私はひいてはアジアにおける平和のためにも有益であると考えるものでございます。  もっとも、安保条約につきましては、とりわけ冷戦崩壊以降になりましてから別の存在理由といったものがあるという形での指摘がなされております。それがいわゆる瓶のふた論でございます。しかし、このような議論は、私は二つの意味で誤っていると思います。  まず第一に、日米安保条約のもとで日本の軍事力が抑えられてきたのかといえば、私は決してそうではないと思います。安保条約自身が、御承知のようにその三条で防衛力の増強を日本の責務としております。そして、実際にも安保体制のもとでアメリカ日本に防衛力の増強を要求してまいりました。アメリカ日本に対して軍事支出の削減を要求してきたという話を私は寡聞にして知りません。  第二に、確かにアジア諸国の中には日米安保条約があることによって日本の軍事拡大が抑制されるという見方もあることは否定しがたいと思われます。しかし、だからといって私たち日本人までもが、そのような議論をして安保条約の正当化を図るというのは随分と情けない話であるように思われます。  なぜならば、日本は自分の力では軍事拡大を抑えることはできないので安保条約に頼らざるを得ないということになるからであります。日本自身が積極的に自衛隊の軍縮を行い、アジア諸国から信頼を得るような施策を行えば、安保条約がなくてもアジア諸国日本に対して警戒心は持たないと思います。言いかえれば、瓶のふた論は日本の軍事拡大への警戒心あるいは不信感のあらわれであるわけでございまして、そうであるとするならば、日本としては、安保条約を維持するというよりはむしろそのような不信感を取り除くための軍縮の努力を積極的にすることこそが私たちの課題であるというふうに考えます。  ところが、日本政府はそのような努力をするのではなく、逆に安保条約を強化する道を選びました。このたびの日米安保共同宣言がそれでございます。  そこで、日米安保共同宣言について若干見てみますと、この共同宣言には法律的に見て幾つかの重大な問題点があるように思われます。  まず第一に、これは現行安保条約の実質的な改定と言わざるを得ないということでございます。条約の改定ということであれば、本来ならば憲法七十三条などが定める条約締結手続を経なければなりませんし、したがって国会での十分な審議を経た上での国会の承認が必要なわけでございます。ところが、そのような手続を一切踏むことなく、国会での審議も何らなされないでこのたびの共同宣言が発せられたということは、国権の最高機関であるはずの国会の権威をないがしろにしたものであり、手続的に見ても重大な憲法上の疑義があると言わざるを得ないと思います。  第二に、このたびの共同宣言が実質的に見て現行安保条約の改定であるとする理由は、とりわけ以下の点にあります。  すなわち、現行安保条約によれば、日米が共同行動をとり得るのは五条の場合だけでございます。すなわち、同条によれば、日本国の施政のもとにある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が発生した場合には、日米政府は共通の危険に対処するように行動するものとされております。ということは、それ以外の場合すなわち日本の施政下にはない領域での武力紛争が発生した場合には、日米が共同の行動をとるということは同条では何ら想定しておりませんし、したがってまた何ら授権されてもいないんです。このことは六条に照らしても明らかであると思います。  六条は、御承知のように極東における国際の平和及び安全の維持のためにアメリカ軍日本基地を使用することができると規定していますが、これは専らアメリカ軍基地使用の権限を規定したものであって、日本アメリカと共同して極東における国際の平和及び安全の維持のために行動し得る旨を定めたものでは何らありません。日本は極東における国際の平和と安全の維持のためにアメリカと共同行動をとることはできないわけです。  ところが、今回の共同宣言によれば、日本の施政下にはない日本周辺地域において発生し得る事態に際して日米間の協力に関する研究を行うことを初めとして、日米間の政策調整を促進することがうたわれております。これは明らかに現行安保条約を逸脱したものであると言わざるを得ません。  このたびの共同宣言が現行安保条約の実質的な改定であるとする理由は、さらにその地理的適用範囲の拡大にあります。  現行安保条約の六条では、米軍が日本基地を使用し得るのはあくまでも極東の平和と安全の維持のためであります。ところが、既に指摘されておりますように、今回の共同宣言ではこの極東という言葉は一切用いられておらず、かわりに頻繁に用いられておりますのがアジア太平洋地域という言葉でございます。これは明らかに現行安保条約が規定している米軍の行動の地理的範囲の拡大を意味しております。この点においても共同宣言は現行安保条約を逸脱したものであるというふうに考えます。  そして、共同宣言がこのように日米周辺地域において発生する有事に際して日米が共同行動をとることを想定していることは、憲法の観点からしても当然に問題になってこざるを得ません。それは、政府も従来違憲としてきた集団的自衛権行使に抵触することにならざるを得ないからでございます。  集団的自衛権については、御承知のように政府自衛権行使の三要件を満たさないものとして違憲とし七きました。そして、そのような見解は、憲法九条一項が国際紛争を解決する手段として戦争はもとより一切の武力行使武力の威嚇を放棄しているということからすれば当然の解釈だというふうに私は考えます。  ところが、今回の共同宣言は、日本が直接武力攻撃を受けたわけではないにもかかわらず、いわゆる極東有事に際して日本アメリカと共同して行動をとることを想定しております。これは明らかに憲法九条一項に違反し、さらには政府の言う自衛権行使の三要件にも違反することにならざるを得ないと思われます。  日米共同宣言と相前後して結ばれました日米物品役務相互提供協定についても、有事への適用が政府・防衛当局によって既に示唆されております。集団的自衛権行使に踏み込むものと言わざるを得ないと思われます。  それだけではありません。今回の共同宣言を契機として沸き起こっております極東有事の論議には、私は極めて危ういものがあると考えております。  極東有事ということで具体的に想定されているのは、朝鮮半島における有事とか、中国・台湾関係における有事のようですが、しかしこれらの議論をする人たちは、例えば北朝鮮が韓国に武力侵攻するとか中国が台湾に武力侵攻するというようなことをどこまで本気に考えているんでしょうか。私はそのような事態が発生する可能性は極めて少ないと考えます。  仮に、万々が一そのような事態が発生したと仮定したとしても、一体そのような有事に対してアメリカなり日本が軍事的に介入することが紛争の本当の解決に役に立つのでしょうか。例えば、中国に対してアメリカ武力行使をするということで紛争の解決が本当にできるんでしょうか。あるいは、そもそも中国や韓国はそのような場合に日本が軍事的に介入することを望んでいるのでしょうか。私には到底そのようには考えられません。  そうであるとするならば、日本がなすべきは、極東有事を前提にした議論をしていたずらに極東における危機感をあおるようなことをするよりも、むしろ極東有事が起きないようにするためにはどのように平和的な協力関係をアジア太平洋の諸国間で築き上げるべきかを真剣に話し合うことの方がはるかに大切と私は考えております。  しかも、重視すべきは、今回の共同宣言に対しては、中国や北朝鮮からはもちろんのこと、韓国などからも警戒の念が表明されているということでございます。このことは、共同宣言やそれに基づく極東有事に関する日本における論議自体が、アジアにおける緊張を緩和するよりはむしろ緊張を激化させる働きをしかねないということを示しているように思われます。そのことを私たちはきちんと認識することが必要であろうかと思います。  以上のようなことが言えるとするならば、極東有事を前提とする有事立法論議も決してアジアの緊張を緩和する働きをするものではないことが留意されるべきであろうと考えます。  例えば、有事立法論議の一環として邦人救出ということが論じられておりますけれども、一体どうして自衛隊航空機や艦船がその際出動しなければならないのでしょうか。かつて在外邦人保護を名目として侵略戦争を拡大していった歴史を私たちは忘れるべきではないだろうと考えます。同時に、有事立法ということで論じられるものの中には国民の人権を制限するものが少なくないことも留意されるべきであろうと考えます。そうであれば、なおさら日本としてはそして国会におかれましては、有事立法を考えるよりもむしろ極東有事を起こさないようにするためには日本としては何をなすべきかを真剣に考えるべきだと私は考えます。  さて、日本アジア諸国に対してなすべきことの第一は、かつての侵略戦争に対する補償をまず誠実に履行することであると私は考えます。それを政府責任で行うことがアジア諸国からの不信感を取り除き、アジア諸国との平和的な友好関係を築くための大前提であると考えます。  政府は、戦後補償問題は対日平和条約等で法的に決着がついたとしておりますけれども、しかし、例えばいわゆる従軍慰安婦問題について言えば、対日平和条約や日韓協定などが締結された時点におきましては、まだその問題は明るみには出ていなかった問題でございます。このような問題について政府が新たな対処を行うことは、何ら平和条約や日韓協定などに矛盾するものではございません。  従軍慰安婦問題については、御承知のように先ごろの国連人権委員会でも取り上げられ、日本に対する国家補償を求めた人権委員会の特別報告者の報告を歓迎する旨の採択がなされております。いわゆる民間基金では不十分であると思います。政府責任で誠実に対処することが日本アジア諸国との間で信頼関係を確立する上での大前提であると考えます。  次に、アジアにおける平和と安定を確立する上で重要なことは、言うまでもないことですけれどもアジアにおける軍縮を促進することです。冷戦崩壊後、ヨーロッパでは軍縮が少しずつではありますけれども進行しておりますが、残念ながらアジアでは現在のところそのような方向には向かっておりません。しかし、その責任の一端は私は日本にもあるというふうに考えております。なぜならば、日本はアジアで最高額の軍事支出を行っており、その額は冷戦終えん後も減っていないからでございます。  ちなみに、ミリタリー・バランスの一九九五年ないし一九九六年度版を見てみますと、日本の一九九四年度の軍事費は、中国のそれを上回ることはもちろん、ASEAN八カ国全体の軍事費の三倍強にもなっております。しかも、同じミリタリー・バランスの記述によれば、現在では日本の防衛関係費は米国以外のどの国よりもかなり多いものになっている、そのように書かれております。このように世界第二位と書かれるような不名誉な軍事支出を行っている日本がまず徹底的な軍縮を行い、それとあわせて中国やASEAN諸国にも軍縮を呼びかけることをしなければ、アジアにおける軍縮は始まらないと思います。この点での日本の、そして国会の責任は極めて重大であると私は考えております。  そして、そのような軍縮のための努力を行うと同時に、戦争を起こさないようにするためには、アジア諸国間で不戦条約を結ぶことも真剣に考えるべきだと私は考えます。ヨーロッパにおける平和確立のために全欧安保協力会議が果たした役割は大きいと思いますが、御承知のように全欧安保協力会議は一九九〇年に不戦条約を締結いたしました。アジアにおいても同種の不戦条約を締結すべく日本が努力をすることが、アジアにおける平和と安定のために重要だと考えます。  アジアにおける平和的安定のためにさらに必要なことは、アジアを非核化するための努力を行うことだと思います。まことに残念ながら、この点での日本の取り組みは、初の被爆国であるにもかかわらず、ASEAN諸国に比べても立ちおくれております。これでは広島や長崎で原爆の犠牲になった方々に対して言いわけする言葉もないのではないかと私は考えます。  御承知のように、ASEANでは昨年の暮れに非核地帯条約が調印されました。非核地帯条約としては既に、中南米にはトラテロルコ、また南太平洋にはラロトンガ条約がありますが、ASEANの非核地帯条約は、それと相前後して採択されたアフリカの非核地帯条約と並んで、地球の非核化を推進する上で極めて意義があるというふうに思われます。  日本としても、このASEANの非核地帯条約に加入することを考えるか、あるいはそうでなかったならば、北東アジアにおける非核地帯のための条約をつくるべく韓国などの近隣諸国に対して積極的な働きかけを行うことを真剣に考えるべきであろうと私は考えます。そしてそれとともに、日本国内においてまず非核法を制定して、日本が非核国家の道を進むことを明確に内外に示すとともに、核開発疑惑が起きないようにすることがぜひとも必要だと考えます。  非核法の制定に対しては、日本は非核三原則を国是としているからその必要はないというのが従来の政府の見解でございますけれども、しかしながら非核三原則は法的な拘束力がございませんし、これに違反した者に対する制裁規定もありません。また、非核三原則をとると言いながら、アメリカの核抑止力論に依存するということでは、フランスや中国などの核実験に反対する力も非常に弱いものになります。諸外国から日本に対して抱かれている核開発疑惑を取り除くためにも、今、非核法を制定して、あわせて非核条約の締結のための外交努力を真摯に行い、非核の家・アジアをつくることがアジア地域における平和的な安定のためにぜひとも必要なことであろうと私は考えております。  なお、お手元に参考資料として配付いたしましたのは、私も所属しております市民団体で二年前に作成いたしました非核法の試案と非核条約の構想でございます。もちろん、立法については素人の人間がつくったものでございますのでいろんな点で不十分なものであると思います。私たちは現在、非核法の制定や非核条約の締結を実現するために国会議員の先生方にも働きかけをしております。国会におかれましても、ぜひともきちんとした非核法をつくっていただき、そして政府がきちんとした非核条約をつくるように働きかけていただきたいというふうに考えます。そして、きょう御出席の先生方におかれましても、ぜひともそのための御尽力を積極的にいただけますように、この機会をおかりして心からお願い申し上げる次第でございます。  ところで、アジア地域において武力紛争を回避し、平和を確立するためには、さらにその紛争の根源となるものを取り除くための努力をすることもまた欠かせないと思います。そのためには、アジアにおいて貧困と差別をなくし、人権を保障する体制を確立することがぜひとも必要であると思います。そして、そのための努力を積極的に行うことは、憲法の前文が「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」とうたつていることにもかなっていると思います。  経済協力の問題については、既にこの調査会におかれましては大変詳しい御審議をしてこられ、そして具体的な提言もしておられますので、専門外の私があえてここで申し上げることは省略させていただきたいというふうに考えます。  ここではひとつ、アジアにおける人権保障機構あるいは人権憲章のいわば締結の問題について、時間が参りましたけれども、一言だけ申し上げさせていただきたいと思います。  御承知のように、世界人権宣言は、人権の保障が世界における平和の基礎であるということをその前文で述べております。そして、ヨーロッパにおきましては、一九五〇年の欧州人権条約といったものがヨーロッパの平和のために少なからざる役割を果たしてきたとされております。また、一九七五年には全欧安保協力会議がいわゆるヘルシンキ宣言を採択いたしまして、そこでも人権と基本的自由の尊重をうたっております。  アジア地域においては、人種的にも宗教的にもさまざまに異なった国々があり、価値観も一様ではありませんので、一つにまとまった人権憲章や人権保障機構をつくることはなかなか難しいということが指摘されております。確かに現状においてはそのとおりだとは思いますけれども、そのように困難だからこそ、アジアの中で比較的早く人権保障の考え方を取り入れた日本が、率先してアジアにおける人権保障の機構をつくるべく努力することが重要だと私は考えます。  アジアのNGOなどの中には、具体的にアジア人権憲章のドラフトをつくってこの運動を進めておるNGOもございます。そういった内外のNGOとも協力をしながらアジアにおける人権憲章づくりのための努力を行うことが、ひいてはアジアにおける平和と安定を確立する上で非常に重要な意味があると私は考えております。  最後でございますけれども、結論的に申し上げますと、日本としては、あくまでも平和憲法の理念を踏まえてアジア地域の平和の維持、確立に努力すべきであるということでございます。非軍事を基本として日本が行うべきことは多々あると思います。いたずらに有事を想定した論議を行い危機感をあおるのではなく、有事が起きないようにするためにはどうすればよいかを今こそ冷静に考えることが重要だと思います。  以上でございます。どうもありがとうございました。
  12. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) ありがとうございました。  以上で参考人からの御意見の聴取は終わりました。  これより質疑を行います。  従来同様、あらかじめ質疑者等を定めず、委員の皆様に自由に質疑を行っていただきます。質疑を希望される方は挙手を願い、私の指名を待って質疑を行っていただきたいと存じます。  なお、できる限り多くの方が質疑を行えるよう、質疑、答弁とも簡潔にお願いを申し上げます。  質疑のある方は挙手をお願いいたします。
  13. 岡野裕

    ○岡野裕君 三先生におかれましては、非常にお忙しくていらっしゃるところ貴重な御見解を賜りまして、ありがとうございます。  きょうは山内先生にいろいろお尋ねをしたいことがあるのでございますが、会長は簡潔にというお話でございますのでちょっと長期戦になりますのでやめまして、岡崎先生にちょっと。  例の竹島領有問題の処理の仕方なんでございますが、もう北方四島は五十年も昔に不法占拠をされ、これはまだ国際場裏に日本が出ておらないというときでありました。犬の遠ぼえとは申しませんが、努力をしてきたが、余り大きな進展がないのは残念であります。しかしながら、この竹島の場合は、なるほど在留邦人というような者はおらないとしても、島根県の一つの郡、村になっているというところが今日の時点において不法占拠されつつあると。一個分隊ぐらいなものが一個小隊ぐらいになるとか、あるいは海岸に建造物を構築する等々、新聞で報ぜられているわけであります。  岡崎先生は、この問題については、いち早く池田外務大臣が抗議を申し込んだ、したがってこれは時効の中断みたいな機能をもう発揮しているんだからこれでいいではないかというようなお話で、私もこれは漁業権の確保か何かぐらいでいいのかなという気がせぬわけではありません。しかし、この眼で見て、現に占拠されつつあるというのをただ放置をしていく、ただ外務大臣の時効中断でいいということは、例えば尖閣列島、山内先生は今侵略なんというものはないと言われておいでになったのでありますが、竹島はこれはやっぱり不法占拠ではないかなと。  尖閣列島あたりも、竹島に対する日本の態度がこのくらいならば、某国も、じゃ尖閣列島を竹島と同じようにやれば日本は何もできないだろうと。日米軍事同盟によってアメリカ軍の行動が竹島についてはもとよりないということだと、今度は北方四島あたりは、もう五十年も前からチーズをつくっていたんだと、今竹島が侵略されつつあるのにほうっておくというようなことならば、おれたちはこのままゆっくり構えていこうじゃないかというようなことに相なる。  というようなことで、今の時効の中断というようなことでよろしいとおっしゃる先生のお気持ちは、私は、集団安全保障というのは当然あるべきであり、それに至るまでの間には集団的自衛権というものも当然行使してしかるべきものだという気持ちでおりますので、先生も全く同じようと存ずるのでありますが、本件についてのみちょっと違うんです。御見解を賜ります。
  14. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) 私の書きましたつたない論文をお読みいただいて光栄でございます。  私の考えはあそこに書きましたとおりでございまして、これは主権問題でございますので、両方とも譲るわけにいきませんので妥協ということはあり得ないんですね。そうしますと、片方が実効支配というか勝手に支配している、そうした場合、韓国というのは友好国でございまして、しかも安全保障上あるいはイデオロギー上幾多の共通利益を持っている国でございまして、これに対して実力を行使するとかそういうことは考えられないわけでございます。  そういたしますと、もう主権というものは一切譲らない、あくまでもそれを主張し続けると。ですから、例えば今度埠頭をつくったら、おまえは埠頭をつくる権利はないんだということを必ず言っておく。今度また新しい施設をつくれば、必ずそういう権利はないんだということを言っておく。これに対して韓国国内で反発がありますけれども、それは構わないのでありまして、日本政府としては言い続けるということだと思います。  それ以外の解決があるとすれば、将来、韓国が国際司法裁の管轄権を受け入れてくれれば、これは国際司法裁にゆだねるのが私は正しいと思います。今のところ韓国はそれを受け入れる気持ちはないようであります。
  15. 岡野裕

    ○岡野裕君 尖閣列島あたりへの波及効果、北方四島問題解決への波及効果といいますか、どうお読みでございましょうか。
  16. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) 尖閣はむしろ、現状では、韓国はなぜ国際司法裁に応じないかというと、国際司法裁というのは国際紛争を解決するもんだ、ところが紛争などはもともとない、あれは韓国のものであるから紛争ではないと言っているんです。それが、実は尖閣については今までのところ日本政府も同じことを言っておりまして、これはもともと日本のものであって、国際紛争なんかないんだというのが日本の立場になっております。その意味では、比較して議論するのはおかしゅうございますけれども、ちょっと逆のような立場になっております。
  17. 岡野裕

    ○岡野裕君 要するに、こっちが黙っておれば向こうの方はどんどんのしてきて、これは紛争になっていないんだからというようなことですので、まだ岡崎先生に質問したいのでありますが、時間の関係もありましょうからやめておきます。
  18. 田村秀昭

    田村秀昭君 参考人の三人の先生、非常に貴重な御意見ありがとうございました。  岡崎参考人阪中参考人にちょっと御質問をしたいと思います。それから、山内先生にもちょっとお尋ねしたいと思います。  私は、冷戦後、日本自衛隊と日米安保条約との間を明確にすべきじゃないかというふうな意見を持っているんです。それはどういうことかというと、日本アメリカに占領されているときに朝鮮戦争が起きて在日米軍が朝鮮に出ていった、その穴埋めとして警察予備隊ができたというように、今の陸海空自衛隊を見ていますと、これは軍備の面ですが、ここまでは日本の国できちっと守る、ここが足りないからアメリカ同盟を結んでやってもらうというような取り決めで日米安全保障条約というのができていないんですね。ですから、何かアメリカがいなくなったところを自衛隊が補完する、海上自衛隊について言えば第七艦隊の一機能を担当するというようなことで、日本の国の国民が自分の国を守るという決意がまずなくなっちゃっているわけですね、その間、この四十年ぐらい。自分の国を自分で守るという意思がないままずっと進んできている。  それで、今度の防衛計画の大綱のときにはその辺を明確にすべきだと私は非常に思っているわけです。にもかかわらず、同じようなパターンで新防衛計画の大綱もでき上がったというところに我が国安全保障に対する重大な問題点があるような気がしてならないわけです。その点について岡崎先生と阪中先生の御意見を承りたい。  それから山内先生には、お話を聞いていますと、有事なんということを考える必要は全くない、だれも攻めてこない、にもかかわらず有事だ有事だと言ってあおることはアジア太平洋の平和と安定のためによくないというようなことをおっしゃいましたけれども、有事を考えない国というのはどこかにあるのか。一番最悪の場合を考えてどうするかということを考えるのが国のことを考えている人の一番大切なことじゃないかなと私は思います。そういうことがないんだったら何も考える必要ないわけで、岡崎参考人がおっしゃったように全く思考停止しているわけでありますから。万が一地震があったらどうするのか、二十万以上の難民が来たらどうするのか、そういうことを考えるということは、来ないんだ、来る可能性がないから考えないというのはいかがなものかと私は思うんですが、その辺のところをちょっとわかるように教えていただきたいというふうに思います。
  19. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) 自分の国は自分で守る、これはもう哲学としては全く批判の余地のない哲学でございまして、それは個人の尊厳と同じように国家の尊厳というものもあるべきだと思っております。  ただ、私は、実際の政策というものを論じますと、日本という国は開国以来の百五十年間の歴史で、やはり海洋を支配しておりますアングロアメリカの世界、これと同盟している限りは国民の安全は守れる、安全が守れてしかも繁栄も守れる、市民へのアプローチができますから。そうなりますと、今度国の自由も守れる。これは歴史の型でございます。それで、日本の外交の基盤というものを日本とアングロアメリカの世界との協調に置くということが基本だと思っております。そのためには、日米防衛能力が補完関係にあるというのは私はむしろいいことだと思っております。  それを今度国家の尊厳、個人の尊厳という哲学とどう協調させるかという問題なんでございますけれども、それは私は国家がみずからの尊厳を持って決定した進路だろうと思っております。それはまさに日露戦争を前にして日英同盟に決めた、それはイギリスの一部になろうとかイギリスに追随しようと思ってなったんじゃなしに、日本の国の安全と繁栄、そして自由を守るためにはそれが正しいという、みずからの国家の尊厳を守るための決定であったと、私はそういうふうに思っております。
  20. 阪中友久

    参考人阪中友久君) 私は、理念的に申し上げれば、ただいま田村議員のおっしゃったことと全く同感でございます。自国の安全は自国が責任を持つということは基本的な原則だろうと思います。  そこで、これを現実政策に展開する場合どうなるかということは、もう既に岡崎参考人がおっしゃられたものと私は同じでございまして、理念的に自立ということを追求いたしますと、核保有とか通常戦力の分野でも戦力投射能力を持って完結性のある軍事力をつくる必要があるということにどうしても到達するのであろうと私は思うわけでございます。  そこで、政策的に考えますと、やっぱり相互補完的な性格を持たせる方が私は日本にとっては好ましいのではないかと思います。ただ、この相互補完性というものが自衛隊隊員のプライドを傷つけている側面があるというのは私も十分存じております。何か補助的な機能をやらされているような気持ちを与えているというのは否定できない点だと思います。しかし、戦後の冷戦期の歴史を見まして、完全に自立した防衛政策をとっている国は西側の国においてはアメリカ以外にどこもないわけでございまして、ある程度の相互補完性は私は必要なことであろうと思います。  ついでに申し上げさせていただきますと、今度の日米安保共同宣言でも、重要な柱は日米の相互補完性を日米双方が確認した点にある。したがいまして、あの宣言で日米安保体制の性格が変わったということではなくて、性格がより明確にあの中で確認されているように私は理解いたしております。つまり、本質は変わっていない、相互補完的な形の中で日本の防衛力の改善を考えていく、その点は変わっていないんだと私は理解しております。
  21. 山内敏弘

    参考人山内敏弘君) 現在論議されております有事論議と申しますのは、いわゆる極東有事に関する論議ですね。日本武力攻撃を受けた場合にどうするかという論議ではないと私は考えております。そういった日本以外の地域で武力衝突が起きた場合にどうアメリカと軍事的に協力して対処するかという有事論議については私は考えるべきではないということを先ほど申し上げたわけでございます。それは、日本憲法の第九条の一項が、そのような形でもって考え、あるいはそのような考えに基づいた施策を講ずることを禁止しているというふうに私は考えるからでございます。  そういった極東有事、日本武力攻撃を受けたわけではない極東有事についてのさまざまな軍事的な対処を考えるよりも前に、今日本がしなければならないことは実はたくさんあるんではないか、そのたくさんしなければならないたくさんある問題についてこそまさに日本政府あるいは国会は思考停止に陥っているのではないかということを私は申し上げたかったわけでございます。
  22. 田村秀昭

    田村秀昭君 ありがとうございました。  ちょっと私の質問が誤解されて伝わっているような感じが、岡崎参考人阪中先生に対する質問ですが、私の申し上げているのは、自分の国は自分で守るというのは当たり前の話なんですが、日米安保条約と自衛隊がリンクしていないというふうに申し上げているんです。ですから、日本の国の自衛隊憲法に定められたこれだけのことはできる、ここまではできるけれども、あとここが自分の国を守るためにはできないからアメリカ同盟を結ぶんだと、日本の国の防衛についてだけですよ、そういうように思考をされてないんですね、経緯からして。別々なんですね。そこに僕は日本の防衛問題の問題点があるというふうに認識しているので、冷戦後、今新しい防衛計画をつくるような時期に来たときにもう一回きちっと一番初めからやり直した方がいいんじゃないかというふうに考えておりますので、いかがお考えですかという質問であります。
  23. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) それは憲法の制約を前提に置いてできることを決めて、それ以外はアメリカという趣旨でございますか。
  24. 田村秀昭

    田村秀昭君 いやいや、私は憲法というのは、憲法を守って国が滅びたら何にもならないわけですから、日本安全保障を考えたときに、我が国の今現在の冷戦後の立場で日本自衛隊ができることはこういうことだ、ここまでは守れると。核まで持つと言っているんじゃないんです。そういうことを申し上げているんじゃない。そういう計画があって、さらに攻撃的兵器とかそういうものはどこの国に依存するかということを決めて、それはアメリカだなということになって、国益が一致するなということになってアメリカ同盟を結ぶときに、それが全然ばらばらなんです。ばらばらというか、全くそういう思考日本の防衛力というのが整備されていないということを私は申し上げているんです。そこのところをどういうふうにお考えになるのか。私はそこをきちっとしないと日本安全保障というのはいろいろ問題があるなというふうに思っているものですから、この機会をちょっと拝借して御質問をしたわけです。  ですから、国家の尊厳とかそういうこととちょっと関係ないんで、今までのいきさつから、警察予備隊ができたときからもずっと今の防衛力整備を考えたときにそういうことが言えるんではないか。ですから、冷戦の終結した今現在、もう一度そういう観点に立って日本の防衛と日米安保条約というのを考えていかないといけないんじゃないかなというふうに思っていると。
  25. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) 日米間の協力関係をどうすれば最も理想的な形にできるかというお話というふうに解釈してお答え申し上げますと、私の結論はもう一つしかございませんで、やっぱり集団自衛権行使の問題を解決してからでないと、日本がどこまでの役割アメリカがどこまでの役割というのは決めれないと思います。必ずアメリカ側に不満が残るということになると思います。まずその問題の解決が先だと私は思っております。
  26. 阪中友久

    参考人阪中友久君) 今の田村議員の御質問の、自衛隊が生成過程でアメリカの撤退の後を埋める形で自衛隊が増強されてきた、その過程の中で根本的なフォースストラクチャーと申しますか、自衛隊の兵力構成の基本的な構造に対する再検討がなかったのではないかという点は私は同感でございます。  ただ今までは、私の感じでは、冷戦期の安全保障は領域防衛を中心にしたものであって、脅威の性格が極めて明白であったように思います。したがいまして、自衛隊がどういう能力があろうと、日米の協力体制があれば日本に対する侵略に対して抑止できるということで防衛力整備が今まで行われてきただろうと思います。しかし、今から先になりますと冷戦の終結後の日本に対する脅威は極めて多様なものになりますので、日本がどの分野で何がどのくらいできるかということはもう一度検討をする必要があろうと思います。そういった意味で今度の新大綱の思想というのは私は賛成できないわけでございます。  例えば、ストリームライン化ということは、従来つくっているフォースストラクチャーを維持しながらある部分同じように量を減らしているわけでございまして、日本安全保障あるいは日本の防衛という観点から考えますならば、アプローチが少し違ってよかったんではないかというふうに私は思っております。
  27. 上田耕一郎

    上田耕一郎君 日本共産党の上田でございます。三人の参考人方々、大変ありがとうございます。  私は、ソ連の崩壊で米ソの核軍拡競争もなくなったんだから平和の方向へ進み得るような新しい状況ができたはずなのに、今度の安保共同宣言で軍事同盟も強化されるとか集団的自衛権の問題とか、どうも逆行をしているように思うので、一問ずつ参考人の方にお伺いします。  岡崎参考人は、集団的自衛権のこれまでの政府解釈は間違っているので変えろという御意見を言われました。集団的自衛権というのは、よく御存じのように、国連憲章五十一条に、四五年のサンフランシスコ会議で生まれたもので、あの主導権をとった当時の共和党代表のダレスの論文を最近読んだのですけれども、あれはソ連の拒否権で地域取り決め、地域機構じゃ何もできないというのでつくったと言うんですね。だから、安保理事会の許可なしに五十一条で軍事同盟が発動できるようにしたと。だから、非常にはかり知れない価値があると言ってダレスは喜んでいるんですけれども、そのソ連がなくなって、もう拒否権は考えなくてよくなって、今国連は大体アメリカの思うとおりでしょう。  そうなると、五十一条の集団的自衛権は要らなくなるんじゃないか。むしろ、第八章の地域取り決めのあの地域機構で、安保理事会の合意に基づいてという本来のダンパートン・オークス草案、これは軍事同盟をなくそうという草案ですね、その方向でむしろいい条件が生まれたんじゃないかと思うんですけれども、御意見をお伺いしたいと思います。  それから、阪中参考人は、米軍の前方展開、これも必要だし、日本ももっとアジアの安全保障問題に積極的になった方がいいという趣旨の御意見を言われましたけれども、私は、今度の日米安保共同宣言を生み出したアメリカの基本的な考え方に非常に大きな疑問を持っているんです。  簡潔に申し上げますけれども、ソ連がなくなってアメリカが一番困ったのは、膨大なアメリカの軍事力を継続するのに正当化する根拠がないんですね。それで、コリン・パウエル統合参謀本部議長がイニシアチブを大いに発揮して、ロブステーツ、ごろつき、ならず者国家、これが核兵器を持つ核拡散が一番危険だと、簡単に言うと。そういう理論で大体例のボトムアップ・レビュー以後固まって、今度もクリントン大統領は橋本首相との共同記者会見でもロブステーツと言っているし、新しい国防白書でもペリー国防長官がロブネーションがテロリストなどと核兵器を持ったらもっと危険なんだということまで言っていまして、それだから北朝鮮が危ない、危ないと言って、北朝鮮の脅威でこういう安保の強化を押しつけてきている。これは僕は強く言うと虚構だと思うんです。  だから、こういうアメリカの非常に虚構な、ちょっとしたことを危ない、危ないと言って過剰介入する、ベトナム戦争もそうだったんですけれども、こういうアメリカの基本戦略は日本にとって非常に危険で、むしろ極東でアメリカの軍事行動に巻き込まれる危険が今度生まれたと思うんです。  ウェスト陸軍長官が日本の議員団に、今度の日米共同宣言の核心は極東有事における日米協力だ、これが明快になったので高く評価すると答えたと新聞に出ていますけれども、私はそこら辺のアメリカの基本的な危険なアジア戦略というか世界戦略を阪中参考人はどうごらんになっていらっしゃるのかお聞きしたいと思います。  山内参考人の御見解は私ども全面的に賛成なんですけれども、私が賛成すると反対がふえてまずいかもしれない。  ひとつこの機会にお伺いしたいのは、私はPKOのときから問題にしたんですけれども、今度もそうなんですけれども、ACSAなんかで、PKOのときも国会で一番問題になったのは、武力行使するかどうかが問題になって、僕は、憲法九条で「武力による威嚇」というのがあるんだから、PKOというのは本質は武力による威嚇なんだから、いいPKOでも日本は参加すべきじゃないんだという質問をしましたら、当時の法制局長官は、武力による威嚇というのは砲艦外交みたいなものなんだという答弁ではぐらかされちゃった。  しかし、私は、本質的に武力による威嚇も日本憲法はまず禁止しているんですから、「武力による威嚇又は武力行使」ですからね、永久に放棄すると。だから、今度のACSAも、極東有事で米軍が何かやっているときに物品役務の供与をやることは、それと一体化することは集団的自衛権に触れるかどうか議論しているでしょう。そうじゃなくて、有事でなくて威嚇の場合も兵たん協力することは違憲だと思うんですよ。  だから、有事になっていなくても、台湾で危ないというのでインディペンデンスが行く、そのインディペンデンスに水やら油やら供与したら、これは憲法九条違反で武力による威嚇と一体化だと、こう私は思うんですけれども、御意見をお伺いしたいと思います。  以上三点。
  28. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) 憲章五十一条を挿入した歴史的経緯はもう先生御指摘のとおりなんです。だから、これをどう解釈するかなんですけれども、ソ連の拒否権ができたから憲章五十一条ができた、これはまあ短絡すればそういうことになるわけです。しかし、これはやはり歴史的背景がございまして、結局アメリカのウィルソンが考え出しました集団安全保障というもの、これが見果てぬ夢なんですね。  これは、要するに、国内の刑法のようにみんなで規則を決めてそれを守る、それに違反する人間がいたらばみんなで制裁すると、そうやっていけば世界の平和は守れるだろうということをウィルソンが申し始めまして、それで国際連盟でやってみたらこれが一つも成功していない。それで、国際連合でやろうと思ったら、やっている最中にもうソ連の拒否権というものが出てきた。そして、やっぱりそれも成功しない。結局、集団的安全保障というのは見果てぬ夢で、これは実際動くかどうか全くわからないんです。  ですから、国際連合憲章でソ連の拒否権が出たということは、拒否権が出たということだけじゃなしに、やはり国際連盟と同じようにそういうものは動かないんじゃないかという本来のものが出てきたんです。  そのゆえに、五十一条にはインヒアラントがついている。日本語では固有ですから、固有というのはもともとあるということですね。だから、国連憲章があろうと何だろうと、もともと国家というものが持っている権利、それでフランス語ではまさにドロワ・ナチュレルで自然権となっておる。それがもともとあるわけでございまして、本当に世界政府のようなものがウィルソン主義が完成してできた場合にはそれはなくなります。それまでは必ず残ると、そう解釈すべきだろうと思います。  それで、国際情勢ですから、ソ連の脅威がなくなったからもういいじゃないかとおっしゃいますけれども、もともと日米安全保障条約ができたときの主要な目的は朝鮮半島と台湾海峡なんですね。当時のソ連の極東海空軍というのは第七艦隊の前に問題にならなかった。ソ連の脅威が日米安保同盟の中心になってくるのは七〇年代の終わりからです。その前は朝鮮半島と台湾海峡なんです。  それで、ごく客観的に申し上げまして、これはいろんな政治的理由があるのでございますけれども、過去三十年間は朝鮮半島、台湾海峡は比較的安定期間です。それに引きかえ、今後十年間は過去三十年に比べてより危険だと言って、これは恐らく反対する人はないだろうと思うんです。安定期間がこれで終わって、流動的になってまいりました。  ですから、情勢判断からいえば、ソ連の脅威がなくなったから安保条約も要らないというような考え方は、恐らく過去十年間のことにとらわれ過ぎている考えじゃないかと思います。
  29. 阪中友久

    参考人阪中友久君) 上田議員にお答えいたしたいと思います。  アメリカが北朝鮮をロブストカントリーとして特殊化しているんではないかという御意見のようでございますけれども、北朝鮮に対するアメリカ政策に若干のアップ・アンド・ダウンがあるのは私も否定いたしませんけれども、KEDO、北朝鮮に対するエネルギー開発機構にいたしましても、あれのイニシアチブをとったのはアメリカであって、アメリカ政策は必ずしも北朝鮮を孤立化させ、その中でつまりロブストカントリーに仕上げているというふうには私には考えられないわけでございます。  それから二番目に、そうしたロブストカントリーをつくり上げることによってアメリカは軍事力の維持を図っておるのではないかという御意見のようでございますけれども、冷戦後のアメリカの軍事政策を見ておりますと、核戦力は、御承知のとおり、既に半分に近い状況に戦略核戦力は削減いたしておりますし、二〇〇〇年当初には、二十一世紀当初には三千五百、つまり冷戦期の三分の一の水準に削減することをSTARTⅡの条約で約束いたしておりまして、さらにSTARTⅢへ向けて交渉しようとしているわけでございます。  それから、通常戦力にいたしましても、冷戦期の二百五十万ぐらいの戦力は既に二百万を切っております。百八十万ぐらいの水準になっております。  そういったことで、私は、むしろ上田議員のおっしゃられているのとは逆に、アメリカのフォワードプレゼンスが解消したり、あるいはその信頼性を低下した場合に、この地域の軍拡競争がかえって激化するのではないかという懸念を私は持っておるわけでございます。
  30. 山内敏弘

    参考人山内敏弘君) 私の先ほどの話の中で、時間的な制約もございましたので、集団的自衛権行使の場合と、憲法九条の一項が禁止しております、国際紛争を解決する手段としての武力による威嚇との間の明確ないわば区別を必ずしもしてなかったという点は、御指摘のとおりだと思います。また、その点についてのある種の概念上の区別をきちんとすべきだということも、私はそのとおりだと思います。  先ほど上田議員がおっしゃいましたPKOの事例の場合には、私は若干違った考え方を持っておりまして、PKOの中にも、武器を携帯した形で自衛のためであれ武力行使を前提としたPKO活動、いわゆるPKFのようなものと、それから全く無防備で武器を携帯しないで行うPKO活動というものもあるわけでございますので、その後者のPKO活動については、これは武力による威嚇という形になるかといえば、私は必ずしもそのようには考えておりません。  むしろ、武力行使を伴ったPKO活動は、仮にそれが停戦監視という名前が付されたものであれ、私はそれは憲法違反であるという考え方はとってまいりましたけれども、先はどのような全くの丸腰でのPKO活動であれば、それは武力による威嚇に該当するとは憲法上は必ずしもそうはならないんではなかろうかと思います。  しかしながら、いずれにいたしましても、憲法九条の一項は、国際紛争を解決する手段としての武力行使のみならず、武力による威嚇行為も禁止しておりますので、先般見られましたような中国によるところの台湾総統選挙に対する軍事演習による威嚇、これも言ってみれば武力による威嚇であると思いますし、それに対抗するにアメリカのインディペンデンスが台湾海域に出撃したことも、これまた武力による威嚇であると私は考えております。  九条一項はそのような武力による威嚇行為を禁止しているわけでございまして、問題は、その武力による威嚇行為に直接的に密接不可分なかかわりを持つところのいわば協力行為を行うことが武力による威嚇ということに該当するかどうか。それは直接的に武力行使にはならないにしても、しかし武力による威嚇と密接不可分ないわば事例として憲法九条の一項の趣旨に合致するかどうかということであれば、やはりそれは武力による威嚇ということになり得る場合が決して少なくないというふうに私自身考えております。
  31. 永野茂門

    永野茂門君 岡崎参考人阪中参考人にそれぞれ一つずつお伺いします。  まず、岡崎参考人の方でございますけれども、私は、岡崎参考人がおっしゃった集団的自衛権に関する見解、全く同意でございまして、極めて重要なことだと思います。来週か再来週あたりここの中でディスカッションがあるそうでございまして、上田議員が隣におりまして、好敵手であり、楽しみにしております。それは余計なことでございますが。  そこで、ごく最近、朝鮮半島国境地帯といいますか非武装地帯周辺で、一つは空軍力並びに陸軍力が南下して南の方に集中したということもあって、さらにその後板門店付近でかなり危険な状態が生じたことは新聞報道があったとおりであります。  たまたま米軍にしてもあるいは韓国軍にしても軽挙妄動することなくしたがって事なきを得たわけでありますけれども、仮にあそこではね上がったような対応があれば、恐らく米軍は、在韓米軍はもちろん在日米軍も動かざるを得ない。  こういうことになりますと、これも一カ月半ぐらい前の報道で、アメリカの研究機関ランドだったかCSISだったかどこか忘れましたけれども、の研究として、北朝鮮はそういう事態が起きたならば在日米軍の動きを封殺するために、韓国に対する攻撃と同時もしくはその直前に日本に対して通常弾頭によるミサイル攻撃をやるだろうということが報ぜられておりましたけれども、そういう研究があって、そしてそれがTMD研究の必要性についての導入口ということで、そういう研究があったようでございます。  私は、韓国の方に攻撃していく、侵攻していくというようなことが仮にあるとするならば、その前に日本をたたくかどうかというのには疑問を持ちますけれども、そういうこともないことはないだろうと思うんです。少なくも韓国に侵攻すると同時に日本をたたくようなことにこれは当然なるだろうと、軍事的に言えばですね。軍事的に妥当なことだからそういう選択もあり得るだろうと、こう思うわけであります。  こういう想定について岡崎参考人は、これなかなかいいところを指摘しているなと思うか、これはとんでもない、そんなことはないよとお感じになりますかどうか、これ岡崎参考人にはお願いしたいと思います。  それから阪中参考人には、山内参考人がおっしゃっているとおりに、日本に対しても極東においても有事自体が生じないようにすることが最も大事だとおっしゃる。それは全くそのとおりであって、我々が日々やっていることはそういうことをやっているわけであります。  そこで、アジアの信頼醸成フォーラムあるいはアジアの安全保障システムのことを考えますと、アジア太平洋といっても非常に広域であって、今のASEANフォーラムあるいはAPECの政治部門を利用したいろんな信頼醸成措置だとか、あるいは軍事力の透明化の問題だとか、軍事ドクトリンの透明化の問題だとか、そういうことがいろいろ始まっておるということは非常にいいことでありますが、アジア太平洋というものをひっくるめて、大きくアメリカ、カナダあるいはオーストラリア等も含めてやることも大事ですけれども、同時に北東アジア、東南アジア、南西アジアというようなことを考えますと、それぞれ特色があるわけですね。  したがって、こういうものの組織の仕方というのは、ヨーロッパのOSCEができていった、あるいはPFPが今いろいろ確定しつつある、そういうような自然発生的なものに任せるのか、それとも最初から大体その構想として北東アジア、東南アジア、南西アジアというようなのも、サブシステムといいますか、そういうものを考慮しながらつくっていく方がいいのか、こういうことについて阪中参考人の御高見を承りたいと思います。
  32. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) 情勢見通しについての御質問と思いますけれども、北朝鮮が休戦ラインに出てくる、この意図も、これはまあ全部推測の域を出ませんですけれども、いざとなったら戦争になっても構わないぐらいの気持ちでぎりぎりまでアメリカを試しているんだろうと推定されます。それで、その読みの背後には、アメリカはいかなる代価を払っても戦争だけは避けたいというのが現政権の方針であると。  これは融和政策でございますけれども、これは賛成反対ございましょうけれども、融和政策というものは普通は当座の危機は避けられても将来危ないことがあるというので私は反対なんですが、アメリカの識者の判断では、当座の危機さえ避けておれば、北朝鮮はいつまで続くかわからない、だから今回こそは融和政策が意義があるんだという説明を内々ではございますけれどもしております。ですから、つまりきのうまでの協議でも、食糧をやってもいいから、とにかく戦争だけは避けさせようというのがアメリカ政策であると考えていいと思います。  それを今度逆手にとって、ぎりぎりまでやって、もしアメリカがこれ以上言うことを聞かなかったら戦争するぞということを示して、それで米朝直接対話の線を開こうと、そういうことをしているんだと思うんです。  しかし、その裏には、これもある情報でございますけれども、北朝鮮の軍の中枢には、もうとにかく勝っても負けても今よりもいいんではないか、そういう雰囲気がびまんしていると。これは亡命者からの情報でございますけれども、そういうことがございますので、ぎりぎりまではもうやるんだということがあるようでございます。  そうしますと、不測の事態ということがあり得ると。そこから先の軍事戦略はもう永野先生の方が御存じでございますから、これはもうありとあらゆることがあり得るので、日本に対する攻撃があるとすれば、それは朝鮮半島救援に真っ先に来る米軍の基地が中心であろうと私は思っております。それに対する方法はまたありとあらゆる方法があり得ると思います。
  33. 永野茂門

    永野茂門君 ありがとうございました。
  34. 阪中友久

    参考人阪中友久君) 永野議員にお答えさせていただきます。  御指摘のアジアの集団的安全保障システムと申しますか、あるいは安全保障上の対話機構と申しますか、こういったものを全アジア的規模で考えるのか、つまり北東アジア、南東アジアを含めて考えた方がいいのか、あるいはサブシステムとしての北東アジアあるいは南東アジアというようなものを考えた方がいいのかという御質問だと思います。  私は、この基本的な問題は、長期的に見て中国に対してどう対処するかということになろうかと思います。短期的な朝鮮問題は放置しておいても十年もすれば落ちつくところに落ちつくのではないかという気がいたします。しかし、中国を国際社会の建設的なパートナーにするためには、やはりこうした国際的な地域機構がある方が私は望ましいのであろうと思います。  その観点から、北東アジアのシステムがいいのか、南東アジアがいいのか、確かに地政学的な条件は違いますけれども、我々が考えなければならないのは、中国を国際社会に巻き込んでいくためには、全アジア的な、北東アジアと南東アジアを含めた方がいいのか、あるいは北東アジアでやった方がいいのかということになってこようかと私は思います。  短期的に見ましたら、確かに北東アジアと南東アジアは戦略的条件が違いますから、北東アジアの対話機構ができる方が私は好ましいんだと思います。ただ、長期的に見ますと、中国を建設的なパートナーに巻き込むためには、やはりこの地域を一丸とした広いシステムの方が好ましいんではないかという気がいたします。  それから二番目、ちょっと私自身の観察をつけ加えさせていただきたいわけでございますが、集団的安全保障に対して非常に御批判の意見があるようでございます。つまり、アジア地域の集団的な安全保障機構をつくれば、当然のことながら日本集団的自衛権を持たざるを得ないわけでございまして、もし長期的な展望のもとにそういったシステムをつくるという方向を考えるならば、日本自身もどこかの時点で集団的自衛権に関する日本の姿勢をはっきりさせる必要があろうかと思います。これが持てないという見解に立ちますと、日本はアジア地域にできる地域的安全保障機構から除外されるということになろうかと思います。
  35. 永野茂門

    永野茂門君 どうもありがとうございました。大変に立派な御意見で、私は賛成でございます。  一つだけつけ加えてお二人に申し上げておきたいんですけれども、集団的自衛権行使の問題は皆さん方と私は同じ考え方ですけれども、これで国民のコンセンサスをつくるのは大変な努力が必要だと思っております。  以上です。
  36. 馳浩

    ○馳浩君 自由民主党の馳浩と申します。よろしくお願いいたします。  ただいまの永野議員の質問に関連してなんですけれども、先週五月九日の毎日新聞の朝刊に、北朝鮮から亡命をした外交官や工作員の独占インタビューが載っておりました。それをもとに少し質問させていただきます。  この時期にどうしてそういった高官が、北朝鮮でいう要人が亡命せざるを得なかったのかということで、そこから推察する北朝鮮の国内事情といったものをどう情勢として見ておられるのかということ。今までの核カードにかわって、先ほども永野議員が言われましたが、非武装地帯へ侵攻するという戦争カードを利用することによって経済的な利益を引き出そうとする、そういう意味で金正日書記と軍部の了解がきちんとできているのだという記述がありました。そういった点を考えると、私はこれを有事と言わずして何を有事だというのかという気がするんですよ。  ということは、このカードをエスカレートさせればさせるほど彼らにとってはある部分、経済的なあるいは食糧的な支援を得ることができるという、また非常に刺激的な言葉で、日本人には絶対に先に頭を下げるなというような外交官たちの了解事項というものもやっぱり書かれておりました。そういう意味で、そういう情勢を把握しておくことと、日本人全体が我々の隣国において何が起こっているかということを認識しておくことが、集団的自衛権の理解を深めるためにも必要だと思うんです。  その点をどういう認識を持っておられるかということをお伺いしたいと思います。
  37. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) 私もその記事を拝見しましたけれども、それについての先生の御判断は極めて常識的な御判断で、私何も反論するところはございません。  国内政治情勢も、これは明らかに軍部が強くなっております。これはもう間違いございません。とにかく金日成が死にましてから、党大会も開かれておりませんし、それから国会に当たります最高人民会議、これも全く開かれてない。それから経済計画も採択されておりませんし、予算も採択されてないんです。それで、金正日氏自身も、軍事委員会の委員長だけやっておりますけれども、国家主席にも党の総書記にもなっていないということで、つまり党、政府よりも軍が中心ですべてが動いているというのが、これはもう否定し得ないところだと思います。ですから、その中枢以外の人がこれでやっていけないと思って逃げてくる、そういう感じもわかります。  おっしゃるとおりに、確かにこれを有事と言わずして何が有事かという、これはわかりません、本当に。例えばあしたになって戦争が起きてみれば、おっしゃったとおりということになっている可能性も十分あるような事態でございます。
  38. 板垣正

    板垣正君 きょうはどうもありがとうございました。自民党の板垣でございます。  岡崎先生に伺いますが、先ほどのお話の集団自衛権についての御見解は極めて明快で、私も全く同じ考えといいますか、内閣法制局見解が国の基本になっているあり方というものは極めて異常じゃないか、これを克服していかなければならないなと、こう思っております。  お伺いしたいのは、日台関係です。これからのアジア太平洋地域の安定、平和の問題となりますと、何といってもこれは中国問題がもう一番大きな問題であろう。そういう立場で、台湾に先般のああした緊張関係が今後も繰り返される可能性があるんだろうか。そうした場合の中国自体のこれからの方向というもの、一面極めて経済的な繁栄、発展、開放政策というものが基本になりながら、内部矛盾もいろいろあるということも伝えられております。  そういう中で、台湾の李登輝総統が、昨年八月の人民大会だったと思いますけれども、新中原の樹立ということを言っています。新中原、中国ということだと思うんです。台湾の存在が我が生存の根拠である、新中原の樹立が我が発展の志である、そして民主、自由、均富の中国の統一を目指すと、こういうことを言っておりますけれども、私はここに、つまり長い尺度で孫文以来の中国革命の理念であった民主、自由、均富の中国を統一したものをつくり上げるのが我が発展の志だという台湾の理念を打ち出していると思うんです。そして、まさに今の中国にとっての一つのキーワードというものが民主化の問題じゃないのか。その辺をめぐってのこれからの展望というようなものを教えていただければと、こう思います。  それから阪中先生のお話も極めて整然と承らしていただいた次第でございますが、理論的には極めて明確にわかりますとともに、なぜ現実日本がなかなか動かないのか、停滞し続けているのか、閉塞しておるのか。その根底にありますのは、やはり国民の意識というか政治の姿勢が一番根本にありますけれども、やはり過去の戦争、過去の歴史に対する極めて自虐的な、いわゆる東京裁判史観と言われる、すべて日本が悪かった、すべて日本が侵略した、もう悪いことはいたしません、こういうものがもう隅々まで行き届いてしまって、そこからどうしても、本当に新しい日本国家理念といいますか、まさにアジア太平洋とともに平和をつくり上げていこうという、そういうばねが出てこないと。理論的にいかに整然と整理できても行動というものがなかなか出てこない、これは我々の反省でもありますけれども。その辺についての御見解があれば承りたいと思うわけであります。  山内先生にもちょっと伺いたいのですが、遺憾ながら先生のおっしゃることは私全く同感できない。ただ、一つだけ同調できましたのは、いわゆる瓶のふた論です。瓶のふた論は日本に対する不信のあらわれだからいけないとおっしゃったのは、私はそこは同感なんです。いわゆる日本は世界から不信を受ける、みずからそれを認めるようなあり方というものはいかがかなと思っております。  そこで伺いたいのは、先ほど先生御自身もおっしゃいました、台湾の民主選挙に中国がミサイルを打ち込んだ、近海にミサイルをやったということは、あれは武力の威嚇である、それからアメリカが航空母艦を派遣したのも武力の威嚇だと。そういうものは日本はもうアンタッチャブルというか、さわっちゃいけないんだというふうにも受けとめたわけですけれども、現実に、先ほどもおっしゃったように人権宣言とか人権を中心にして日本がリードしていかなければならない。  こういう場合、中国がまさにああした民主的な選挙に露骨な武力威嚇を行うという姿、あるいは現に中国の国内においても人権の抑圧問題、人権無視のいろいろなことが国際的にも言われておりますけれども、それにはほとんど聞く耳を持たない。チベットの問題にしても、国内の天安門以来の開放努力をした人々に対するあり方というものに対しても、我が国の対応というものはもう少し毅然としたものがあってもいいのではないでしょうか。その辺についての御見解があれば承りたいと思います。  以上です。
  39. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) この御質問も、中国問題についての将来見通し、情勢判断見通したと思います。  お説のとおり、私は今回のような事件は今後も繰り返して続くと思います。続かないとすれば、これは平和的解決がなきゃいけない。でも、平和的解決と申しましても、これは中国がよほどの譲歩をしない限り平和的解決というのはちょっと考えられないんです。  要するに、台湾がのみ得る条件まで中国がおりられるかどうかと申しますと、例えば国連加盟を承認するとか、それからあるいは緩い形の連邦制を承認するとか、その辺までおりないとこの平和的解決というのはないんです。中国は平和的統一と言っておりますけれども、これは口で言っているだけでありまして、実際は武力と経済力で威嚇して独立を阻止しているだけの話でありまして、統一統一と言っておりますけれども、むしろ武力行使は今度マイナスになることがわかってきたということになりました。  ですから、平和的解決を実現しない限りはこれは続くと思います。平和的解決を実現するには、やる気があっても中国に相当な政治力が必要でございまして、今のところ、それだけの政治力があるかというとちょっと期待できない感じでございます。来年の党大会以降何か非常に強い指導者があらわれる、あるいは江沢民さんが非常に強くなるということになって、またそういう考えならばあるいは可能性もございますけれども、ないだろうと思います。ということは、今後、香港の回復、その次のマカオの回復、それから立法院の選挙、大統領選挙等があるたびに同じようなことが繰り返し繰り返しあるのだろうと思っております。  そうでない見通しとなりますと、これはおっしゃいましたとおり、アメリカのリベラルはそれを専ら期待しているのでございますけれども、中国そのものが民主化するということです。ただ、これも、李登輝総統のおっしゃる民主、自由、均富、これ均富まで入りますと、中国が台湾と同じ生活水準になるのは半世紀かかると思います。ですから、それが目標であるとおっしゃるのはわかるんですけれども、それは遠い目標であるとおっしゃっているんですね。むしろ裏からいえば、これから数十年間はそういうことはないということです。  民主の可能性は、私はないではないと思うんですけれども、民主となりますと、あれだけの大きな国を統一していくのにどうやっていくのか、これは分裂の危険も出てまいりますし、そう簡単なことではないと思います。  ただ、これはアメリカのロシアに対するコンテインメントポリシー、これは最終目標は国内が民主化することである、みずから崩れて民主化することである、これは初めからそうなっているんです。それが見事に予言が的中したわけです。ですから、今アメリカでは、ソフトコンテインメントとかノンコンテインメント・コンテインメントポリシーとか、そういうことを言っておりますけれども、アメリカの伝統的な物の考え方は、いっか中国が民主化して、その場合なら統一もあり得るだろうということであります。ただ、これは非常に遠い将来のことであろうと私は判断しています。  もちろんそうなれば結構な話でございます。ただ、情勢判断をする人間というのは、うまく解決してしまえばそういう問題はないわけでありますから、もし解決しない場合はどうかということを中心に考えるのが我々の仕事でございます。
  40. 阪中友久

    参考人阪中友久君) 板垣議員にお答えさせていただきます。  今の日本国際社会でイニシアチブをとらない背景に歴史認識があるのではないかという御指摘は私も同感でございます。特に、大学で若い人と接触いたしておりますと、そのことをかなり痛切に感じます。  そこで問題は、多分小学校、中学校、高等学校における教科書の問題があるのではないだろうかと存じます。私は周辺諸国の教科書を全部知っているわけではございませんけれども、中国、韓国ともかなり激しいナショナリズムで彩られた教科書をつくっているというふうに聞いております。教科書について周辺諸国と共通の認識を持てるような努力をすることが必要ではないかと思いますが、いかがでしょうか。これは思いつきのようで申しわけございませんけれども、歴史認識に問題があるというのは私も同感でございます。  それからもう一点でございますけれども、安全保障問題で過去日本が動いた歴史を考えてみますと、全部アメリカの前方展開の削減と関係いたしております。日本における防衛力整備計画、第一次防が策定されましたのは、一九五六年の極東米軍の再編成、つまりこの地域からの地上軍を撤退したことと関連して一次防が策定されております。それから、一九七五年ごろから始まりました日米防衛協力も、七五年の南ベトナム政権の崩壊に伴うこの地域におけるアメリカ軍の再編成と関連しての動きでございました。今度の日米安全保障共同宣言も冷戦後の米軍の再編成と関連いたしているように思います。  ですから、諸先生の前で非常に口幅つたいことを申し上げるようでございますけれども、日本人は安全保障について、ジョセフ・ナイの言うとおり安全保障は空気と同じようなものと感じている。しかし、米軍という実際のギャランター、あるいは差しかけている傘に疑問が生じたときには必ず日本はアクションを起こしているということを申し上げたいと思います。
  41. 山内敏弘

    参考人山内敏弘君) 日本が中国に対してもう少し毅然とした態度がとれないのかというお話であったんですけれども、私はやはりとれないそれなりの理由というものがあるんではなかろうかと思います。  先ほど板垣議員は、過去の歴史に対する認識の仕方に誤りがあるというふうにおっしゃったわけでございますけれども、その限りにおいては私も全く同感でございます。ただし、その中身は全く逆でございます。私は、過去の歴史に対する日本人のいわば自虐的な見方があったというふうには思っておりません。本当の意味での過去の侵略戦争、とりわけ中国、朝鮮に対する侵略戦争あるいは植民地支配に対する真摯な反省というものがいまだなされていない、そういう歴史認識の仕方に根本的な問題があるというふうに考えております。  でありますがゆえに、先ほど私は、戦後補償の誠実な履行をしなければならない、政府責任でそれをしなければならないということを申し上げたわけであります。つまり、そういうことをしていないというある種の後ろめたさが日本の側にあるものですから、中国が行ういわば必ずしも平和的ではない政策、あるいは人権抑圧的な政策に対しても毅然とした態度をとることができないのではなかろうかというふうに私は考えております。  ついでに、これは私は素人でございますので、御意見をあるいはお伺いしたいと思いますけれども、アメリカのペリー国防長官とかあるいは統合参謀議長等も、中国と台湾との間の軍事衝突はないとか、あるいは中国が台湾に侵攻する能力はないというふうに発言しているやに聞いております。ですから、そういうことを考えれば、なおさら中国、台湾との間の関係について極東有事ということを騒ぎ立てることは決して私は得策ではないし、日本がとるべき施策ではない、違う形での毅然とした態度をとるべきだと。  なお、核の問題についても私はやはり言いたいことがございます。  中国の核実験に対しては、日本は毅然とした態度をとるべきだと思います。フランスに対すると同じような毅然とした態度をとるべきであります。しかしながら、日本アメリカの核抑止力論にいわば依拠している限りにおいては、中国の核実験に対して毅然とした態度をとろうと思ったってとりょうがないんだ。ですから、日本がまず改めるべきことは改めていかなければならないということを私は考えております。
  42. 笠井亮

    笠井亮君 日本共産党の笠井でございます。私は、岡崎参考人とそれから山内参考人に簡潔にお伺いしたいと思います。  まず岡崎参考人ですけれども、いろいろ御意見を伺いまして、大変に参考になりました。ありがとうございました。  集団自衛権の問題で御議論もあって、それから質疑の中でもいろんなことが言われたんですが、私はやっぱりこの集団自衛権の中で本質的に問われている問題というのは、戦争の違法化を前提とする憲法の平和原則とそれから国連憲章の基本精神に立って平和な世界の実現のために努力していくのか、あるいはそうではなくて、人類のそういう到達点を踏みにじって、軍事同盟万能論といいますか戦争の自由化の方に向かって逆戻りするのかという問題じゃないかというふうに思っているんですけれども。そこはまたいろいろ議論をしたいところです。  自衛権の問題に関連して伺いたいんですけれども、参考人が書かれたものをいただきまして、普天間基地の返還の合意をめぐって有事の協力体制と引きかえの問題が出て、アメリカの側もそれを歓迎するという形でとんとん拍子で進んだというお話を拝見したんです。  そこで、先ほども参考人がおっしゃったように、政府自身のこれまでの憲法解釈では集団自衛権の関係があってなかなかその先が問題なんだというお話だったと思うんですけれども、今回の合意をめぐって、参考人の見ていらっしゃるところでは、政府自身もそういう引きかえという話があった中で合意をしたということですので、憲法解釈をこの際変えることも前提にするというか、そういうことを見越して政府自身もアメリカとこういう合意をしたというふうに見ていらっしゃるのかどうか、その辺どこまで御観察なさっているかといいますか、その辺のことを例えればと思います。  それからもう一つなんですけれども、やはり書かれたものの中で、これは去年の九月号の雑誌ということで、その後また事態が進展していると思うんですけれども、米軍基地反対闘争についての認識を述べられていて、やがて沖縄の基地反対運動も消え去っていくように思う、日本では政治的勢力になり得ないし、恐らく問題にしなくていいというふうに言われていたわけなんですが、その後、まさにちょうどこの号が出たころから沖縄で御承知のような事態があって、基地反対ということで世論の運動が広がっているということなんですが、その基地反対闘争に対する認識の点、現時点でどういうふうにお考えか、御意見をいただければということが二点目です。  それから、山内参考人に伺います。  日米安保共同宣言の流れの中で、先ほどもACSAの問題がございました。有事にも対応していくということを含めて集団自衛権の問題が非常に問題になっているということがあったんですけれども、このACSAの問題で、武器輸出禁止の原則がございますけれども、それの例外扱いといいますか適用外にするということで政府は今回この問題を結んだということがあるわけです。  そもそも私が理解しているところでは、武器輸出禁止の根拠法というのは、政策判断で禁止しているという問題じゃなくて、やっぱり憲法上禁止されているということで見ていく必要があるんじゃないかと思うんですけれども、こういう形でなし崩し的に適用外というのをつくってやっていくということは許されないんじゃないかというふうなことを思うのですけれども、その辺やっぱり憲法とのかかわりで武器輸出に踏み込んでいく今回の協定についての御所見をいただければと思うんです。
  43. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) 冒頭の哲学的な問題でございますけれども、結局、将来は世界政府に向かっていく、そういう理念をあくまでも忠実に守るか、あるいは同盟関係で守っているという現実を認識するか、どっちでいくんだというお話でございますけれども、私は物を考えるクライテリアは日本国民の安全と繁栄だと思います。それがもし将来の理想にかかわっていた結果日本国民の安全と繁栄を害するようなら、これは全然問題にならない話でありまして、やっぱり現実を見詰めながら、現実の中でもって安全と繁栄を守っていく、もうそれ以外にないだろうと私は思っております。これは哲学の問題でございますから。  それで、まず第一の御質問の、首脳会談でもってああいう合意に達した、要するに沖縄だけに負担させないで、有事の際日本政府も一緒になって全部で負担するんだ、そういうことによって初めて沖縄の基地も返ってくる、そういう考え方、そういう思想が背景になって今度は落着したわけでございますけれども、そのときに、今の政府集団的自衛権行使まで考えたかというと、それは心の中で何をお考えになったかわかりません。政府というのはそういうものではございませんで、政府というのは現行の法律の範囲内で動くものでございますから、計画の中にはそんなものはなかっただろうと思います。ただ、心の中でどういうことを考えるか、それは自由でございますから、何があったかは私はわかりません。  それから、見通しですね、基地反対運動はやがて終息するだろうというのは、あのときは最高潮だったんです、それで私はやがておさまるだろうと思っておりました。というか、おさまるしかないですから、解決しない場合は。ところがその後、事態が急転直下解決したわけです。これは私としては、希望としてはそうだったんですけれども、そうなるとは思っていなかったんです。つまり、日本政府自身も、有事に際して沖縄だけじゃなしに全部で一緒に負担を負うんだ、そういう覚悟になった、これが一つの決着の理由です。  それからもう一つは、アメリカのペリーという国防長官が、これは非常に真っ当な人で、初めからそういうことを考えていたんです。一時は黙っていたんですけれども、また日本から要求が出たときに本気になってやろうと言ってきた。  それから、私は今回の決着でやっぱり一番偉かったのは大田知事だと思います。普天間を返せば相当な解決をするという見識を持っていてそれを言っていられて、普天間が返った後、これでとまらないで海兵隊を全部なくすまでというふうなことをおっしゃらないですね。感謝しておられますね。そういうインテレクチュアル・オネスティーというか知的正直さをああいう方が持っていて、お互いにそういう態度でもってやっていけば日本というのはもっとよくなるんじゃないかと思っております。
  44. 山内敏弘

    参考人山内敏弘君) 私自身は、先ほども申し上げましたように、日本憲法は、たとえ自衛のためであれ一切の戦力を保持することができないというふうに規定しているというふうに解釈いたしております。その戦力の中には当然戦争目的に使われる武器も含まれているわけでございますので、本来そのような武器を日本自身が保持、所有することはできない。したがって、保持、所有することができないものを他国に対して輸出するということも本来できないはずであろうというふうに考えておりますので、武器輸出の禁止に関する原則というのは、いわば単なる政策的な問題ではなくて、本来憲法上の大原則であるというふうに考えております。  なお、ついでに申し上げますと、九条の第一項の主語は、政府とか日本国ではなくて、日本国民が主語になっております。それを受けて第二項は、「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。」というふうにうたっておりますので、この戦力不保持の主体もいわば日本国民であるわけでございます。  ですから、これをどのような形で解釈するかということが一つの問題になるかと思いますが、少なくとも、単に政府だけが戦力を保持しないということだけではなくて、つまり武器を保持しないということだけではなくて、日本国民も戦力を保持しないというふうにうたっておりますので、したがって民間の企業等にあっても、軍需生産を行い、それを輸出するということは、やはり憲法上その趣旨に合致しないのではなかろうかというふうに私自身は考えております。
  45. 直嶋正行

    ○直嶋正行君 本日はどうもお三方ありがとうございます。  私、岡崎参考人阪中参考人にお聞きしたいんですが、まず岡崎参考人には、先ほどのお話の中で、日本の近代史を振り返るとアングロアメリカとの協調というのが非常に日本の安定にとっては重要だ、こういうお話がございました。このさっきのお話と、先ほどちょっと出ましたが、いわゆるアメリカにおいて言われておる日米安保瓶のふた論というのがございますね、これとの関係というのをどのように整理をしておけばいいのか、これが一点でございます。  それからもう一点は、やはり何といってもアジア太平洋の安全保障を考える場合中国の動向というのは避けて通れないわけなんですけれども、さっき中台間の問題で少し先の展望をお話しされましたけれども、例えば幅広い視点に立って向こう二十年三十年を考えたときに、中国がとるであろう方向性といいますか、いろんなケースが考えられると思うのでありますが、二つないし三つぐらいのケースでお示しいただければというふうに思います。  それからその場合に、例えばもし中台間の問題がある程度先に展望が見えてくれば、日米安保のあり方そのものも変化を迫られるのかどうか、ここらあたりもちょっとお触れいただければというふうに思います。  それから、阪中先生にお伺いしたいのは、先ほど冒頭のお話の中で、これからの地域紛争について三つぐらい類型をお示しになりました。国家間紛争、国内的要因による紛争、それから国際秩序の不備という表現で環境問題とか水、エネルギー。特にこの三点目の問題による紛争というのが今後考えられるとすれば、例えば先ほどから議論が出ていますような日米安保を中心としたこういう二国間のいわゆる安全保障で対処し切れるのかどうか、あるいはもっと踏み込んだものを念頭に置く必要があるのかどうか。さっきのお話の中で、ARFについて、当面はまだまだだけれども将来期待されるというような趣旨のお話がございましたけれども、例えばそういうことも考えておくことが必要なのかどうか、この点についてお伺いをいたしたいと思います。  以上でございます。
  46. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) 瓶のふた論でございますけれども、これは文字どおりに解釈して、アメリカがかつてのGHQのように日本を支配していて、日本がちょっとでも軍国主義化すればすぐ抑える、そういうふうにとればこれは非常に屈辱的なことなのでございますけれども、歴史的に見れば、私自身の判断ではそんな間違った判断だと思っていないんです。  つまり、これは日英同盟の例で明らかでございまして、日英同盟がなくなるまで日本は全く安全で、島国で世界最強の海軍が二つ一緒になっているんですからこれほど安全なことはない。それから世界じゅうの資源が手に入る。そうなりますと自由が欲しいですから、大正デモクラシー、自由で繁栄して民主的だ。それが日英同盟がなくなりますと、いざという場合にだれも助けに来ないんですね。ひとりで守らなきゃいけない。孤立して守りますと、大体一〇〇%の安全では心配なんですね、一〇〇%ということは五分五分ですから、どっちが勝つかわかりませんから。そうすると、一二〇%、一四〇%の安全が欲しくなる。それが日本のいわゆる軍国主義化の原因だと私は思っています。  あれは別に軍の主導じゃないですから、国民、政党、特に政友会、それから新聞主導で軍国主義化した。孤立して守らなきゃならないということになればどうしてもそういうことになるんです。その意味でもって、瓶のふた論というのは歴史的には私はそれで正しいんだろうと思うんです。  ただ、あの司令官がああいう発言をした時点におきましてはいろんな誤解がありまして、アジアの国がみんな心配しているからアメリカが行くんだとかそういうあれがございました。これは日本から出た理論なんですけれどもね。もうあの時点で、私の知っている東南アジアの国は、シンガポールを除いては日本の軍事的役割は歓迎でございますし、それから中国は戦略的な理由で反対しているだけでもって、韓国は新聞、世論は反対でございますけれども政府はそうでもない。ですから、アジアの諸国をなだめるための瓶のふた論というのは、これはむしろ日本が持ち出してアメリカがそれに乗っている理論でございまして、それは間違いだと思います。  だから、歴史的には私はむしろ、ここにいらっしゃる皆様と意見が違うようでございますけれども、賛成でございます。  それから、次の問題の中国の将来の方向性、これは長い話になるのでございますけれども、要するに平和的解決の可能性があるかどうか。平和的解決の可能性がなければ必ずアジアは軍拡路線になると思います。  これは一言で申しますと、結局今回は、中国は武力でおどかそうとして、空母機動部隊が二つやってきて、それで手も足も出ないで引っ込んだ。これから何をするかというと、今の政策を続けるならば、これは臥薪嘗胆なんですね。まず第一は、空母機動部隊二つぐらいを圧倒する力を持つ。それはできないことはございません。十年かければできないことはございません。例えば、今スホーイ27というのを七十二機注文していますけれども、あれが全部そろって、それがまた倍、二百ぐらいになれば空母二隻ではちょっと守り切れなくなってまいります。空母二隻とそれから台湾の空軍では守り切れなくなってくると思います。もちろんアメリカはどんどん増強するわけでございます。  そこでいよいよ日米同盟というのが非常に大事になってくるんです。日本が一緒になっていれば、とても十年じゃどうにもなりません。二十年でもどうかわかりません。ただ、キューバ危機のときにフルシチョフがしっぽを巻いて逃げまして、それから後、ブレジネフがアメリカに拮抗する軍備をつくるのに約二十年かかっています。十八年ぐらいかかっている。その結果、経済ががたがたになるのでございますけれども。ですから、二十年という時間を与えれば相当なことになってくる。それでも、日米同盟さえしっかりしていれば、そう怖いものではございません。  ところが、そうなる過程で、それだけ軍備が強くなってまいりますと、南シナ海、これは非常に軍事バランスが難しくなります。ここで中国の力に対抗するというのは大変難しいことになると思います。逆にシベリア鉄道周辺、この辺も軍事バランスからいうと防御が大変難しくなってくる。そうなりますと、今の政策のままでいけば、やはり十年過ぎれば軍拡路線だろうと思います。アジア全体が軍拡だろうと私は考えています。  平和的解決ができたら一体安保条約はどうなるか。これは、もし本当の平和的解決、つまり中国と台湾が共存して、台湾の国連加盟を認めてしまう、そうしますとアジアというのは恐らく物すごく安定しますでしょうね。もうほとんど南シナ海ぐらいの問題で、それ以外は本当に政治的に安定すると思います。あとはロシアが回復した場合にどのくらいの力になるか、その程度のことでございまして、本当に台湾海峡の問題は、アジアがそこまで安定すれば、それは日本の防衛体制にも当然影響してくると私は思います。
  47. 阪中友久

    参考人阪中友久君) 直嶋議員の御質問にお答えさせていただきたいと思います。  最近アメリカの方で、人口の増大、その圧力、それからそれがもたらす資源問題に関する関心が非常に強くなっているように思われます。  例えば、プリンストン大学にカルダーという教授がおられますが、最近、インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙上で書かれていることですが、中国は自国で生産する石油への依存だけでは十分でなくなった。つまり、中国の工業の近代化に伴って中国の中東への石油依存が大幅に高まっている。二〇一〇年ぐらいになると、中国は恐らく七〇%ぐらいの石油を中東に依存するようになるだろう。そうすると、資源問題のみならず、中東に至るシーレーンに関する関心が中国側で非常に大きくなるだろうというような指摘をいたしております。  それからさらに、クリントン大統領が非公式に、アメリカの記者に、江沢民主席とニューヨークで会った際に、中国が現在の経済成長を続けてアメリカ国民と同じようなエネルギー消費をするようになった場合、地球の環境に大変大きな影響を与えるというようなことを冗談の形でしゃべったようですね。したがって、中国が現在のままの経済発展を遂げることに対してアメリカの側で若干の懸念が生まれている。しかし、そうしたことを公式に問題にするわけにはいかないと思います。こうした国際秩序の不備に関する問題にどう取り組んでいくかということは、長期的な視点から我々は見逃すことができない点ではないかと思います。  私が冒頭申し上げた中で、重層的な安全保障構造を目指すべきだと申し上げましたけれども、国家間の紛争は確かに既存の安保条約その他で対処できますけれども、こうした新しい種類の問題は早いうちに準備を進めなければ適切な対応ができないように思うわけでございます。そういった意味で、構造的に日本安全保障を重層化していく、そういった努力が必要ではないかと思います。  それから、ARF、ASEAN地域フォーラムの将来についての御質問でございますけれども、実は三月、マレLシァで国際会議がありまして、マレーシア並びに東南アジアのASEAN諸国の方々意見を聞く機会がございました。  意見は二つに分かれます。ARFは、現実的問題、例えば台湾の総統選挙に際して中国がミサイル演習をもって応じたという、ああいった現実的問題に対して全く対処できない。したがって、ASEANリージョナルフォーラムが現実的問題に対して対処できないとすれば、長期的に見ればASEANの地域安全保障に対する活力は次第に減退していくのではないかという悲観論がありました。  もう一つは、ASEANは今十カ国に拡大しようとしておるわけでございまして、そうなりますと人口が五億ぐらいになってくる。五億の人口を中国は無視できないであろう。したがって、中国を国際社会の中に引き出すのには、ASEANの地域協力は決してネグリジブルなものではない、かなり将来的に影響を与え得るものだというような非常に将来を力強く見る意見と二つに分かれておりました。  私にはどちらが正しいのか判断する能力はございませんけれども、こうした地域的な協力も我々が安全保障を考える際には考えていかなければならないのではないかと思います。  御質問に対して正確にお答えはできませんけれども、私の感じたことを申し上げさせていただきました。
  48. 泉信也

    ○泉信也君 岡崎参考人に、さきの共同宣言について二点だけお尋ねをさせていただきます。  一点目は、今回の共同宣言の内容は、いわゆる実質的な安保改定につながる再定義という言葉を使う方と、そうではなくて再確認だというふうにおっしゃる方といらっしゃるわけですが、参考人はどういうふうにこれを受けとめていらっしゃるかというのが第一点です。  それから二点目は、今回の宣言に基づいていわゆるガイドラインの見直し、場合によっては国内法の改正というような作業がこれから進められると思いますが、今、政府の見解では、どこまでできるか、何ができないか、そういうことをやっていきたいというふうにお答えになっています。  私は、役所のアプローチとしてはそういうやり方が一つの方法だと思いますが、政治的にはあるいは逆のアプローチではないが。宣言の内容からして日本がどういうふうな役割を分担すべきかということはきちんと議論をしてそれに対応して手だてをしていく。言うならば、集団的安全保障の枠を乗り越えるようなことだってやっていかなければ、今回の共同宣言に対するアメリカ側の期待、それは瓶のふた論もあるかもしれませんが、日本役割分担を期待しておることにこたえ切れない、アメリカに不信感を与えることになりはしないかというふうに思うわけですが、どういうアプローチが望ましいというお考えかをお聞かせください。
  49. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) 初めの御質問は……。
  50. 泉信也

    ○泉信也君 再定義、再確認ということについて。
  51. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) わかりました。  これはまさに定義の仕方いかんでございまして、安保条約そのものを変えるわけには到底まいりませんので、といって、やっぱり時代とともに状況は変わってまいりますので、それに対する表現ぶりはだんだんと変わってきております。  実は、極東と言ったのをアジア太平洋というふうに変えたのは今度が初めてじゃないんですね。これは昨年の一月でございますか、村山総理訪米のときのクリントン大統領との共同記者会見というのがあるんです。そのときに、安保条約は単に日本の防衛だけでなしにアジア太平洋全体の平和と安定のためにでなきゃいけないということは村山さんが言っておられるんです。ですから、そのときにもう既に再定義したというのなら、そのときにもう再定義があるわけです。それをまた確認しただけということになります。  ただ、安保条約には極東という言葉はそのまま残っておりますし、それを条約的か法律的に変えるということでもございません。もともと極東の範囲というのは、とりあえずそう言うけれども、何もそれに限ったことでないということを当時の政府の答弁でも言っておりますので、時と情勢によってそれはある程度変わっても不思議ではないと思います。  それから、有事の研究、まさにそれはおっしゃるとおりでございます。それはむしろ私どもが申し上げることでございまして、現行の憲法解釈、現行の法律解釈、今までの国会答弁、それに矛盾しないような形で何ができるかと申しますと、それは非常に限られてまいります。限られた範囲でもできることはいろいろございます。それはそれをどんどんしなきゃいけないんですけれども、それからまた従来の答弁をかすかに変えるということも十分可能だと思います。ただ、それだけでは長期的にこれはとても日米の信頼関係をつなぐには足りないので、やはり本来は集団自衛権行使は適法であると考えた上で、それで今後とも日米の信頼関係を強くするにはどうしたらいいか。そのもとには日本国民の安全と繁栄のためには日米同盟の信頼関係が基礎である、その信頼関係を守るにはどうしたらいいかということを考えて、そこから出発して有事研究するのが本当である。それはもう先生の御説のとおりでございます。
  52. 泉信也

    ○泉信也君 ありがとうございました。
  53. 益田洋介

    ○益田洋介君 私は、三人の先生方にそれぞれ一問ずつ質問をさせていただきたいと思っております。  チャルマーズ・ジョンソン名誉教授と岡崎先生が対談されているわけでございますけれども、その中で、東アジアに十万人、それからヨーロッパ地域に十万人の兵力を常備するという、これはジョセフ・ナイ教授の御提案であったわけでございますが、先生は東アジアの十万人というのは納得がいく、説明がつくと、なぜならば朝鮮半島の有事ということが考えられるし、さらにペルシャ湾で紛争が勃発すれば沖縄から海兵隊が行くんだと、急派される。台湾海峡の件はお述べになっておりませんでしたが、この文脈の中からは恐らくそれもあわせて考えておられるんじゃないかと思っております。  ただし、ヨーロッパについては、例えば湾岸戦争が起こったときに、まず最初に飛んできたF15はドイツの米軍基地からだった、したがって一万人程度でいいんじゃないかと。こういうふうな、まあ厳密な計算根拠はもちろん伺うわけにはいきませんけれども、ちょっと中東という大変な傷口といいますか、いつ血を出すかわからないというものを抱えながら一万人で本当にいいのだろうか、この辺はジョセフ・ナイさんとお話しになったのかどうか、御意見を拝聴させていただきたいと思います。  それから阪中先生、先ほど相互補完というコンセプトをお話しになっておられましたが、相互補完という英語には二つ、私の知る限りで単語がありまして、一つはコンプリメント、もう一つはサプリメントというのがあります。コンプリメントの方はお互いに違うものをパートナーが持ち出して、例えばAというパートナーが剣を持てばBというパートナーは盾を持って共同の敵に対抗していくということで、一方でまたサプリメントというのは盾も剣も両方持って一対一の力を三にして敵に対抗しようというふうな、そういった意味での相互補完というふうに理解しております。本来、安保条約が目指すところは、そのコンプリメント型の相互補完ではなかったかと私は思うわけでございますが、アメリカの場合はインディペンデンスとかエンタープライズとか立派な剣を持っているわけでございますが、日本も若干頼りないながら自衛隊という盾を持っている。問題はその盾が使用できないということでございまして、そういう意味からしますと全く補完体制がとれていないんじゃないかというふうな印象を受けるのでございますが、先生のお考えを拝聴させていただきたいと思います。  それから、山内先生ですが、八十一条の違憲審査権についてお話がございました。それで砂川事件の最高裁判決の例を引かれまして、さらには安保条約の締結自体が違憲である、それから当然のことながら集団的自衛権行使違憲であるという御説でございましたが、私は、現在のところ砂川判決を除いてはほとんど日本憲法というのは違憲性あるいは合憲性というものを討論されてこないで来ていると。日本憲法を制定する際に当然のことながら違憲審査権というのを八十一条で設けて、ドイツ型の違憲裁判所を想定したのかあるいはアメリカ型のを想定したのかわかりませんが、とにかく憲法については常に違憲性、合憲性の審査というのができるような状態にしたがったのが当時の政府の本来の考え方じゃなかったかと思いますが、この辺についていかがお考えでしょうか。  特に、違憲裁判所の設立というようなことが実際に今の憲法の八十一条の運用が容易でないとすれば、そうした裁判所が必要なのかどうかといった点についてお答えをお願いしたいと思います。
  54. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) チャルマーズ・ジョンソン氏との対談で、ヨーロッパ十万、極東十万を比べましたのは、極東からの撤兵論が多かったものですから、というか、アメリカ全体としてなるべく撤兵したいといった場合に、極東とヨーロッパとどっちが根拠が強いかということを比べますと、これはもう極東の方が圧倒的に強いということを言うための議論なんです。    〔会長退席、理事板垣正君着席〕  もともとNATO正面は、これはワルシャワ条約軍が百何十個師団攻めてくるんですね。そのためにアメリカ軍が三十万行ったんです。三十万を共和党は十五万にしよう、それで民主党は選挙前の公約は七万五千にすると言った。それが当選してから、アジアも十万だから同じぐらいにしておこうと、そういう目の予算なんですね。  極東の方は、これ減らすという議論、例えばマイク・モチヅキの議論なんかは、減らすと言ったら減らした分は一体どこに置いていつまたどこに持ってくるか、そういう作戦計画までつくらなきゃいけないんだと。ヨーロッパの場合は、そういうことじゃございません。これはもう政治的にあそこにいた方がいいとか、それからアメリカの若者も若いときはやっぱりヨーロッパを見た方がいいとか、そういう議論が強いんですね。  中東は、確かにおっしゃるとおりです。おっしゃるとおりなんですけれども、湾岸戦争のときは、セントラルコマンドから行った兵力は、ヨーロッパから行かなかったとは申しませんけれども、中心は全部アメリカ本土から行っているんです。アメリカ本土かあるいは極東からです。ディエゴガルシアという島がございまして、そこにいつも二個旅団おりまして、それが真っ先に行くことになっております。これはアメリカの一種の管轄の問題もあるのでございますけれども、少なくともあの時点においては、湾岸にすぐ派兵するのは太平洋コマンドから行くということになっておりました。  それは確かに中東有事を考えれば、ヨーロッパは中東から近いですから、あるいはアメリカもそういうことを考えているかもしれません。ただ、大変難しいんです、ヨーロッパから行くのは。要するに、アメリカが介入するときに、ヨーロッパの国がどこか反対しますとその領土を通れないとか。それから一番いいのは、トルコに配備するのが一番早いんです。ところが、トルコに配備するとギリシャが怒るとか、NATOというのは大変難しいことがございまして、そんなことならもう極東、ディエゴガルシアからすぽっと行った方が早いということはございます。
  55. 阪中友久

    参考人阪中友久君) 益田議員にお答えいたします。  議員御指摘のとおり、日米関係で使われている相互補完性あるいは相互補完というのは、コンプリメントでございます。サプリメントではございません。これは、今度の日米安保共同宣言の第四項でもはっきりと書かれております。この日米間の協力は、自衛隊の適切な防衛能力と日米安保体制の組み合わせという表現になっておるわけでございまして、この問題について余り私は考え方の差はないのではないかと思います。一九七八年に日米防衛協力のガイドラインが設定されまして以来、日本側は主として防御的な役割を分担し、アメリカは主として攻撃的な役割を分担するということはガイドラインにも明白にうたわれているところでございます。  そこで、御質問の第二点の冷戦後になってこの役割分担がどうなるのかという御指摘でございますけれども、私の理解は、冷戦期の日本と申しますより日米双方の安全保障の主たる関心は、日本のホームテリトリーの防衛でございました。したがいまして、この相互補完というものは日本が主として防衛的な役割を負担し、アメリカが主として攻撃的役割を負担するということでさほどの難しさはなかったんであろうと思います。  しかし、冷戦後になりますと、先ほども申し上げましたとおり、明白な戦争と明白な平和との中間的な事態に対処しなければならないという新しい問題が私は起こってくるように思います。最近、にわかに出ております日米周辺有事という概念は、まさしくそういう事態を指しているんであろうと思います。その際の日米の役割分担がどのようなものになるのかということはこのガイドラインの研究の過程で出てくるのではないかと私は考えているわけでございまして、これは多分防衛当局とアメリカの国防当局の話し合いの中で出てくる問題であろうと考えております。   〔理事板垣正君退席、会長着席〕
  56. 山内敏弘

    参考人山内敏弘君) 日本憲法の制定過程におきまして、例えば内大臣府の御用掛として憲法の草案づくりにかかわった京都大学の当時教授であります佐々木惣一教授は、いわゆるドイツ型の憲法裁判制度の導入ということを考えていたわけでございます。  しかしながら、それは最終的には結局日本憲法の採用するところとならなかったわけでございますので、日本憲法が規定しております八十一条の違憲審査権はあくまでも司法権の枠内での違憲審査権の行使であると。つまり、個別具体的な事件が発生した場合に、その事件を解決するために必要な限りで裁判所違憲審査権を行使するという性格のものでございまして、そういった個別具体的な事件を離れて、いわゆる抽象的な形でもって裁判所違憲か合憲かということを審査する、そういった権限ではないというのが判例でもございますし、学説も圧倒的多数はそのような立場に立っております。  その根拠は、先ほど申し上げましたような制定過程にもあるわけでございますけれども、日本憲法の条文上は、八十一条は、最高裁判所は一切の法律、命令等が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所であるということを規定しておりますので、裏返して言いますと、下級審も違憲審査権を持つということが八十一条で合意されているわけでございます。つまり、憲法裁判所として一身専属的な違憲審査権を最高裁が行使するわけではないんだということでございます。  それからもう一つの理由としては、もし最高裁判所が抽象的な憲法裁判所としての権限というものを持つとするならば、当然それはドイツの憲法裁判所であるとか、あるいはフランスの場合には憲法院でございますが、だれが提訴権を持つかということは極めて重要な問題になってくるわけでありまして、それは憲法事項であるというふうに言ってよろしいかと思います。  それがございませんと、だれでも国民は具体的な事件とのかかわりなしに憲法裁判所に提訴することができるという、おかしなというのか、乱訴と申しますか、ことになりました場合においては、これは、その憲法裁判所は立法機関と同じような役割を果たすことになりかねませんので、当然憲法裁判所憲法上設置される場合においては提訴権者がだれであるかということも憲法で明記されていなければおかしい。日本憲法の場合にはその種の規定はございませんので、したがいまして、そういったことを踏まえるならば、日本憲法が八十一条で規定しております違憲審査権というのはあくまでも司法権の枠内でと申しますか、個別具体的な紛争解決の枠内での司法権行使であるというふうに言ってよろしいかと思います。  私は、そういった違憲審査制度というのはそれなりによろしいのではなかろうかというふうに考えておりますので、その点についての憲法の改正の必要性は認めておりません。
  57. 高橋令則

    高橋令則君 三人の参考人方々お願いいたします。今までの御意見、大変ありがたく拝聴させていただきました。  まず岡崎参考人には、ちょっと基礎的な話になると思うんですが、オランダのかつてのことについてお書きになったのを興味深く読ませていただきました。そしてまた、森本さんがお書きになった「ある通商国家の興亡」というのがありましたね。それから、塩野さんがお書きになった「ヴェネツィア共和国の一千年」、いずれもいわゆる世界的に当時としては非常に富める国の、重商国家の、比較的、ベネチアは軍備がなかったとは言いませんけれども、カルタゴもそうなんですけれども、そういう国のいわゆる外交、あらゆる手だてを尽くした、国家の存亡をかけた努力といったものが、期間は別として大変難しいものだなということを私は感じております。日本も今、どうも資源の乏しい日本としても似たような境遇にあるのかな、歴史から見てそんな危惧も抱かないではありません。  したがって、今後を見通して、そういう歴史の教訓から学んだ今後の日本の生きざまというふうなものについて先生の御見解をお伺いしたい。  それからもう一つは、日英同盟アメリカの注文によって解消しました。空白ができました。おしやったとおりですが、日米開戦に至るまでの間に例の移民法の問題とかさまざまな問題がありまして、そしてその間の実際のいろんな日本側の努力を見ていますと、決して日本が直ちに反米、反英ということになっていったんではなくて、非常にアメリカのああいう排外運動とかなんかを含めてつらい時代があったわけですね。そして、その間、日本の外交なり日本というのは非常に隠忍自重したと思うんです。耐えかねてというふうに追い込まれていったと思うんですね。あの経過を見ていますと、率直に言って、アメリカという国もなかなか日本人、日本という国にとってはつき合いにくい場合もある国だと思わざるを得ないんですね。  したがって、この安保問題もそうなんですけれども、そういう歴史的な経過をかんがみて、この安保問題を含んで、今後のアメリカとのつき合い方についての参考人の御所見をお尋ねしたいと思います。  それから、阪中先生は、御経歴を拝見しますと那覇にもおられたようですが、沖縄の地政学的な地位ですね、位置。これは沖縄県民にとっては非常につらいわけで、私どももまことに何と申しますか、情緒的あるいは心情的にはもう理解するところ、あるいは理解しなければならないところを含めて非常に考えるわけですけれども、歴史的にも地政学的にも非常に大事なポジションにある。かつては中国との朝貢国、薩摩とも朝貢国のような形でバランスを保ってきた時期もあるわけでして、そういうようなことを考えると、基地問題は非常に解決が難しいなと思うんですけれども、これもまた将来を見通しながら、沖縄のそういう軍事的な地政学的な位置から見た場合の日米安保における意味、それから東アジア全体にとっての沖縄の位置といったものを阪中先生はどのようにお考えになっていらっしゃるかお尋ねをしたいと思います。  それから山内先生、私も安保時代の人間でして、原点をやったんですけれども、九条あるいは前文の解釈みたいなものを随分思い出しながら聞いておりますが、どうも法治国家としての日本というのは、多少私は疑問とは言いませんけれども、厳密な意味で日本人というのは法治国家のありようについて少し意識が薄いというのは失礼ですけれども、少しあいまいな面があるのかなというような感じを持っております。したがって、憲法、法律、そういったものを遵守するというよりもむしろ事実が先行したりなんかしまして、その間にあいまいな妥協をするというふうな感じがないわけじゃないなと。その象徴的なのは憲法ではないかと思うんですね。  したがって、この憲法をやはり国家国民にとっての必要性、それから情勢の変化に合わせてある程度はもう改正していくというふうなことを、先生は法学者でいらっしゃいますから、法律を本当の意味で守るという意味からいって、そういうふうなことも必要ではないかと。軟性憲法、硬性憲法というふうなことも勉強した記憶がございますけれども、どうも日本の場合は、先生も不磨の大典ではないかとおっしゃいましたが、不磨の大典に近いような日本憲法になってきているんではないか。アメリカ憲法の修正は言うに及ばず、ドイツの基本法も直りましたね。イギリスはコモンローですから違うんですけれども。  こういった法治国家としての法の遵守の問題と憲法の改正のありようについて、中身は別として先生の御見解をお尋ねしたいと思います。
  58. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) 私がオランダの興亡史で発表いたしました問題点ですね。  私、これは時期尚早かもしれませんけれども、今回の日米首脳会談でやっと危機的な状況は乗り切ったと思っております。一番危機的だと思いましたのは、やっぱりブッシュ政権から去年の夏までの間でございました。  結局、スペインとイギリスがもう死に物狂いの戦争をしておりました。オランダは協力しなかったわけではないんですけれども、その間かなりイギリスの市場を蚕食しましてもうけていたんです。それで、戦争が終わった途端に、いやもう戦争中からイギリスのオランダ非難というのはあったんですけれども、戦争が終わった途端に航海条例ですぐ戦争になってくると、そういう状況がございました。  冷戦がちょうど終わったころ、日本がバブルの最中で、アメリカの不動産を買いまくったり非常に刺激的なことがございました。日本の政治家がかなりアメリカを刺激する発言をしましたね、アメリカ人は働かないとか。それに対してアメリカが非常に怒っておりまして、これはどうなるかと思って非常な危機感を持った時代がございました。  現に、それは私は円高で来たと思います。円高をあのままもう二、三年続けられたら、かなり日本経済はつぶされたような気がいたしますけれども、それが去年の夏の妥協でやっと一息つきました。それで、今度のクリントン会談で経済問題は日米同盟を損なわないんだということも確認されました。これで私の問題意識はちょっと解決されて、もし今の日米同盟重視路線を続けていけさえずれば、これから何十年間か、我々の子供や孫の時代まで乗り切れるんじゃないかという希望を持ってまいりました。  それから、それについてまさにアメリカといかに協力していくかという問題でございまして、アメリカというのは扱いやすい国じゃないのであります。  これは幣原喜重郎のメモワールにございますけれども、まさに移民問題のときにどうしようかと。そしたら、元駐米大使だった、これは非常にアメリカをよく知っている人なんですけれども、イギリス人ですね。日本は一体戦争する気かと。戦争する気がなかったらこういうものはじっと我慢しちゃえと。アメリカという国はむちゃくちゃ言うんだと。最もつき合いにくいけれども、しばらくほっておくと良識派というものがあってもとへ戻ってくるんだと。だから、それはもうじっと我慢していればもとへ戻るんだと。とにかくイギリスアメリカ戦争しないことが最高の国是である、これさえ守っていればいいんだと。だから、アメリカがむちゃくちゃ言ってもただ我慢して見過ごしておくんだということを言って幣原さんに忠告したという説がございます。   アメリカは確かにむちゃくちゃ申します。むちゃくちゃ申しますけれども、もとへ戻るんです。ですから、あのクリントンの、日米関係の最後の包括協議ですね、数値目標、あれもむちゃくちゃな話で、アメリカの経済学者もこれ批判しているような。それで、どうなるかと思いましたけれども、結局は何となくうやむやになりましたですね。あの国はどこかに復原力というのがございまして、無理言うと、またそれはいけないと言う人も出てきますね。
  59. 阪中友久

    参考人阪中友久君) 高橋議員にお答えさせていただきます。  私が沖縄におりましたのはアメリカ施政下のもう三十五年ぐらい前でございますけれども、その当時から私は沖縄の基地問題は非常に重要な問題であると認識いたしておりました。  私は沖縄の特性というのは三つあると思います。  一つは、戦略的位置でございます。沖縄を基点にして千五百キロの半径で円を描きますと、東京、ピョンヤン、北京、ハノイ、マニラが全部入るわけでございまして、この地理的特性というのはなかなかアメリカの戦略にとっては変えがたい点だと思います。  二番目が、歴史的な特性でございまして、アメリカが沖縄で基地建設を始めましたのは朝鮮戦争後でございます。一九五〇年代の半ば、アイゼンハワー政権が核に依存する政策をとったときから始めたわけでございまして、その当時はアメリカの軍政下でありましたために、沖縄の最も基地として適切な場所を接収したわけでございます。したがいまして、アメリカが最も力を持ったときに接収した基地でございますので、基地が単一の基地ではなくて複合的な基地になっております。兵舎、飛行場、それから通信施設、補給施設、それが一体化したコンプレックスになっておりまして、これを集約化するのは大変難しいだろうと思います。  それから、三番目が社会的な特性でございまして、米軍政下で基地接収をいたしましたために国有地ではないわけですね。これは沖縄の今の軍用地を見ていただければわかりますが、七〇%以上が民有地を接収いたしておるわけでございます。これが沖縄の基地問題を非常に複雑にして今日本政府自身が困っている点だろうと思います。  結論的に言いまして、こういった特性を持っておりますので、私自身はなかなか解決が難しいだろうと思います。アメリカが今とろうとしております政策はコンソリデーション、基地の集約化でございます。日本のどこかに移転するとか代替基地を発見するといいましても、大変難しゅうございます。したがいまして、沖縄の方の負担はまだ続くと考えなければならないのではないかと思うわけでございます。したがいまして、基地問題を根本的に解決することは難しいので、基地との共生と申しましょうか、そういった政策日本政府の方が辛抱強く展開していくことが私は大事なんではないかと思っております。
  60. 山内敏弘

    参考人山内敏弘君) 確かに、日本国民には法治国家と申しますかあるいは法の支配ということについて、必ずしも欧米諸国の国民のような形で法治国家なり法の支配というものをきちんと守っていこうという、そういう意識が必ずしもない側面があることは確かだと思うんですね。憲法もいいけれども、しかし安保条約とか自衛隊もいいんではなかろうかという、そういう国民が少なからずいるということは、これは紛れもない事実だろうというふうに思います。  しかし、考えてみますと、法の支配とか法治国家ということについての十分な自覚なり認識がないというのは、ひとり一般の国民だけではなくて、むしろ国会なり政府方々にもというのか、やはりそういった意識に欠けるところが実はあるんではなかろうかと思いますね。  言うまでもなく、憲法の九十九条は、憲法尊重擁護義務というのをほかならぬ国会議員あるいは政府の閣僚の人たち、そういった人たち憲法尊重擁護義務を課しているわけでございますから、まず政府なり国会が憲法を守って、憲法でできることとできないことはこういうことだと、こういうことは憲法でできないんだから、そのためには憲法を改正しなければできない、国民の皆さん、どう判断するかという形で、言ってみれば、憲法でできることとできないことというものをはっきりと見定めた上で、憲法を踏まえた施策とそれから憲法を改正しなければならない施策というものを国民に提示すると。そして、必要ならばその改憲論というものを積極的に提示すると。そして、その改憲論が受け入れられなかった場合においては、やっぱり憲法に従った政治をやると。これが法治国家なり法の支配なりあるいは立憲政治というふうに言われているものであるわけでありまして、そういった対応の仕方をこれまで国会なり政府日本憲法のもとでとってきたのかといえば、残念ながら私はとってこなかったと、やっぱりそこに非常に大きな問題があるのではなかろうかというふうに私自身は考えております。
  61. 林芳正

    ○林芳正君 ありがとうございます。自由民主党の林でございます。  きょうは大変お忙しい中、三人の参考人の先生方の長時間にわたりお話を聞くことができ、大変光栄でございます。同時刻に商工委員会がありましたので、ちょっと途中で抜けておりましたので、大変恐縮でございますが、もし重複しておることがあれば御容赦願いたいと思います。  まず、岡崎大使にお聞きしたいんですが、情勢の見通しというところで、最初飛ばされたものですから、ちょっと個々のお話についてお見通しを聞かせていただけたらと思います。  一つは、MFNがアメリカで、六月ぐらいだったと思いますが、かかっておりまして、最近ドールがこれはもういいんだということで大統領選のイシューにはならなくなったということでございますが、一方で、先ほど来出ておりますCTBT、核実験ですとか、人権、知的所有権、台湾海峡といっぱい抱えておりまして、これに対して議会なり政府なりがどういう対応をされていくのかなと、これはアメリカの対中政策についての一つの大きなポイントになると思っております。その辺のお見通しがもしあればお聞かせ願いたい。  もう一つ、韓半島でございますが、四カ国でやるというアメリカのプロポーザルに対してまだ向こうから返事が返ってこないということで、済州島でアメリカ我が国と韓国とでいろいろと打ち合わせをされておられるということでございますが、この2プラス2という枠組みが今後どのようになっていくのか、ちょっと難しいかもしれませんが、もしお見通しがあればKEDOを含めてお見通しをお聞かせ願えればと思います。  それから二番目の質問は、岡崎先生と阪中先生お二人にお聞きしたいんですが、先ほど来、ARFとか多国間の安全保障の枠組みというお話が出ておりまして、ARFに限らず、私も長期的にはこういう多国間のマルチの安全保障を考えていかなければならないと思っておりますが、NATOが、冷戦が終結しまして、CSCE、そしてOSCEと変わってきたというふうないろんな類推で、やはり特定の仮想敵というものがない集団的自衛権というよりも、集団的安全保障というような、警察みたいなことを想定した集団的安全保障というのがアジアの場合はなかなかすぐには難しいと。いろんな文化の違い、宗教の違い、経済発展の度合いの違いということがあるわけです。  一方で、アメリカがハブになりまして、我が国や韓国がスポークの先にあるというようなことが、これはアメリカがハブであるからできるわけでございまして、ハブの国は民主主義国家でございまして、この民意が変わっていかれますと、本当に大丈夫なのかなという一抹の不安があるわけでございまして、ブキャナンのような人が言うだけではなくて、欧米でシラクがぺーパーを出されたり、ヘラルド・トリビューンに出たり、いろんなところでグローバライゼーションの光と影と、影の部分をおっしゃる方が最近になってふえてまいっておられるようでございまして、こういうことが、もともとあるアメリカのモンローイズムなり右のパット・ブキャナンなりの話とだんだん結びついていって、ミドル、中道の方ぐらいまでがそういうことになって、これは経済からのインプットが大きいと思うんですが、いく懸念がないんだろうか。  それまでに逆に言えば多国間の安全保障というのをもう少し早く構築しておく必要が安全装置として必要ではないか。もちろんこれはアメリカも含めたアジア太平洋全体で考えなければいけないと私は思っておりますが、そのことについてお二人の御意見をお聞かせ願いたいと思います。  それから山内先生には、先ほど来高橋委員からもいろんなお話が出ておりましたけれども、私はまさにノンポリの世代でございまして、全くそういうことが終わって火が消えたときに大学に行きまして、今の学生というふうなことでお伺いするんですが、ふだん接しておられまして、最近の学生というのはちょうどワンジェネレーション、ツージェネレーションぐらい私よりもさらに若いわけでございますが、政治一般に関する彼らの認識というものと、もう一つは、九条を含めた日本憲法観なり安全保障観なり、ふだん先生が接していらっしゃって、最近の若い方はどういうふうにお考えになっているのか、もし御印象があればお聞かせ願いたいと思います。
  62. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) 第一点のアメリカの対中MFN供与の問題でございますけれども、今の見通しは通ることになっています。ただ、共和党の中にもちろん反対がございますし、民主党の中にも反対がございますけれども、多数は恐らく支持する在ろうと。去年よりも少しは減るかもしれませんけれども、大体そのくらいだろうと思われます。  ただ、これはどうしてかと申しますと,中国と冷戦時代のソ連と違うところは、中国というところは商売のうまみがあるんですね。非常に投資市場でもありますし、貿易でもなかなか安い雑貨なんかがうまく買える場所がありまして、ソ連の場合は別に経済封鎖してもアメリカは余りこたえなかったんですけれども、中国の場合、いろいろうまみがあるものですから、財界の圧力が強いんでございますね。  ただ、今度MFNを通す過程で、まずはいろんな附帯決議がつくと思います。それから、MFNを通すために今度別の面で、もちろん人権もそうですし、それから核もそうですし、それからきのう、きょうの新聞で例の知的所有権の問題、そういう面で強いところを見せておかないとMFNは通らない、そういう環境がございます。ですから、結局はアメリカ議会世論というものの流れが全体に対して中国に警戒的になっているということは、MFNを通すということによってまた逆に恐らく反映されていっていろんなところにあらわれるだろうと思います。  それから四カ国平和協定の問題、あれは実は北朝鮮は本来気に入らないはずなんですね。北朝鮮はアメリカと直接交渉をしたいんです。それで、四カ国になりますと、韓国はアメリカのかいらいだと言っていたものが、自分が中国のかいらいのようになってしまうということで、本来非常な難色を示していたんですけれども、なかなかノーと言わないですね。これはいろいろの思惑があるんだろうと思うんです。なかなかノーと申しません。  それに対して今度の済州島の会議は、これも私はまだ会議に出た人と直接会っておりませんけれども、大体今までの経緯から推測できますことは、やっぱり韓国は、外交上の言葉で申せばリンケージ、ただ食いばかりされちゃかなわない。つまり、お米も油ももらう、金ももらうといって、それでちっとも南北対話も何もしない。それなら、四カ国の話し合いでありますか、それを受諾する条件ぐらいで、それでそのくらい条件をのませろということなんですね。  ところが、アメリカは、先ほど私が御説明したときにおいでだったかどうかちょっと存じませんけれども、アメリカの今の政策は、もう万難を排して戦争だけは避ける、戦争だけ避けていれば、これは北朝鮮いつまでもつかわかりませんし、どうにかなるだろうと、そういう考えでございますから、だから例えばお米をやると言えば、平和にしていればいいこともあるんだということも北朝鮮はわかってくれるということで、融和策になるんじゃないかと、そう思ってやっているんでございますね。  ただ、韓国のこれまさに民心、これ日本もそうでございますけれども、からいいますと、基本的な一番の大きな問題はこれは心理的な問題でございまして、北朝鮮というのはいろいろ悪いことをしているんですね。悪いことをすればするほど油をやったり米をやったりするのはどうしても釈然としない。これはわかる話なんです。わかる話ですけれども、そこをこらえて戦争だけ避けろというのがアメリカの立場です。これは韓国としてもちょっと無条件でお米をやるというのはおりられないんだろうと思います。それで一種物別れになったと、そういうことだろうと思います。  それからARF、これは先生の御意見とちょっと私は違うかもしれませんけれども、むしろジョーゼフ・ナイ報告をそのまま引用を申し上げるのが非常にはっきりしていると思います。ジョーゼフ・ナイ自身、実はARFというか多数国派だったんです。それが過去一年半勉強しているうちに態度を変えました、シフティド・ヒズ・ポジションと言われていますけれども。  それで、あの文章に書いてありますことは、多数国間条約は、多数国間の取り決めは結構でおる、ただこれは二国間同盟を補完はするが代替はしない、だから二国間同盟はあくまでも大事だよ、多数国間条約はあってもいいけれども、それは補完するだけだと。  それで、補完する程度も書いてあるわけですどの辺の程度かと。程度は、加盟国の透明性、それを確保する程度では意義があるだろう、とてもそれぞれの国の安全を守るとかそういうところまではまいりません、ただ相手の手のうちがある程度わかりやすくなる、その程度では意義があるだろうと、そう言っております。  この両方の判断は私はもう全く賛成である、もともと私はそういう判断でございます。
  63. 阪中友久

    参考人阪中友久君) お答えしたいと思います。  今、岡崎参考人が申されたとおりでございまして、私はもう少し期待をしている方かもしれません。  やはり東アジア地域を考えますと、地域的な協力ということは地域に位置する国としてやはり言わざるを得ないところでございまして、それがどの程度役に立つか、どの程度効果的かというのは、今、岡崎参考人の申されたとおりだと思います。  一昨年、防衛問題懇談会が村山総理に答申をしました際に、多角的安全保障協力が最初に出ていて日米安保体制が後ろになっていたようでございまして、アメリカの方は日本の軸足が多国間協力の方に移るんではないかという懸念を持ったようでございますけれども、書いている人たちを私はよく知っておりますけれども、そんなことを考えている人は一人もいないわけですね。できるといたしましても、重層的な構造の中で中核的部分は日米安保が占めて、それを補完するものとして多国間協力とかあるいは国連協力とかを据えているというふうに私は理解いたしております。  当面、我々が期待できるのはそういうことではないかと思います、長期的にはもちろんわかりませんけれども。
  64. 山内敏弘

    参考人山内敏弘君) 私自身が育ちました一九五〇年代から六〇年代にかけての学生時代と比較いたしまして、今の学生時代を送っている若い諸君はいい意味でも悪い意味でもやはり大変恵まれた状況の中で学生生活を送るようになった。六〇年代以降の高度経済成長の中で、やはり日本は括弧つきであれ、ともかく豊かになったことは間違いないと思いますし、したがいましてそういう状況の中で学生諸君というか若い諸君はその豊かさの中で学生生活をエンジョイする人たちがふえてきたんじゃないかと思いますね。それは、いい意味でも悪い意味でも個人主義的な生活の仕方をしている。  ハングリー精神がなくなったといえばなくなったと思いますが、またそのことが日本全体の問題とか、あるいは国際社会全体の問題に対する関心というものを薄くさせている側面があることは間違いないんですが、しかし他面において、やはりすぐれて昔に比べますと気軽に外国に行けるようになったということもあると思いますけれども、さまざまな形でもってボランティア活動をするような学生もふえていますので、一概に昔に比べて今の学生は悪くなったとかよくなったという格好でもっては言うことはできないんじゃないかと思いますね。  私自身は学生たちに、若い諸君が育ってきた戦後の日本というものが一体どういうものであったかということはやっぱり自分でちゃんと自分なりに考えた上でいろいろ行動をすることが必要なんじゃないかということを言うわけですけれども、大学になって時間ができてきたことに伴って、改めてそこで自分あるいは日本の来し方行く末を考えようというふうな、そういう学生諸君もいることはいるというふうに私自身は若者たちに絶望はしておりません。
  65. 松前達郎

    松前達郎君 もう時間があと五分しかありませんけれども、一つだけ岡崎参考人に御意見をちょっとお伺いしたいんですが、かつてバンコクでたしか岡崎さんと大分議論をしたような気もするんですが、きょうはアジア太平洋地域ですから当然ロシアが入っていいんだろうと思うんですね。  実はきのう、チタレンコという方を御存じだと思いますが、彼がやってきて、最近どうも日本とロシアの関係がどこかへすっ飛んじゃったよ、北方領土問題も余り出てこなくなってきたんだと、そういうふうな話があったわけなんですが、それで関係が悪くなったのかというと、私はそうじゃないと。北方領土は別として関係は悪くなっていないということを申し上げたんですが、さて、北方領土の戦略的な重要性というのが太平洋艦隊がカムチャツカの方へ移動しましたからそれほど重要ではなくなってきた、戦略的に。そういうふうな状況もありますけれども、かつてのときと今とは大分状況が違ってきている。  そこで、日ロ関係、最近はどうも停滞ぎみなんですが、これについて岡崎さんの方の御意見、今後の日ロ関係の展開について御意見があったらひとつお聞かせいただきたい。日ロ関係です。日本とロシア、北方領土も含めてですね。
  66. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) これすべてロシアの国内情勢に関係するものなんです。これは本当にわからないんですね。わからないと申しますよりも、私も情勢判断が専門でございますけれども、情勢判断屋というのは革命とか戦争がある前はもう口角泡を飛ばして議論するんです。一度革命とか戦争が始まりますと、みんな後ろへ下がってしまうんですね。例えば、フランス革命の後に一体いつルイ十六世がギロチンにかかるとか、いつナポレオンが出てくるとか、そんなことはわかるわけがないので、革命が始まってから後というのは五、六年ごたごたしまして、じっと見ているよりしようがないんですね。  ですから、今度の選挙についても、今予想を立てていろんな分析をしても半年後にその分析が意味があるかというとほとんど意味がないんですね。そのときにまた新しい分析をしなきゃならない。そうしますと、ロシアの情勢というのはじっと見ているよりしようがないんでございますね。ということで、先のことはどうもわからないんです。  ただ、今度国際情勢の方から申しますと、先ほど申しましたけれども、中国が必ず強くなるんですね。その場合に、ロシアは既に、ロシアの専門家は漏らしておりますけれども、これは中国の脅威というものはだんだん感じていますね。そういう人は、何となく安全保障の問題で日本に接近したいという考えを漏らしている人はいます。それは事情を考えればわかる話でございますけれども、シベリアはもともと中国のものだった、それから今中国人がたくさん入り込んでおりましてその扱いに大変困っております。  その面で、日本と仲よくしたいというような動きもございます。ございますと同時に、もう残った唯一の領土である極東を守ろうという国家主義的な動きもございますし、それがどういうふうに転がるのか、これはロシアの国内情勢でございまして、これはもうはっきり申し上げまして、私どもみたいな情勢分析家から申しますと、とにかくほこりが静まるまで見ているよりしようがないということでございます。そういうことで御勘弁願えれば……。
  67. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) では、予定した時間が参りましたので、質疑はこの程度にさせていただきます。  岡崎参考人阪中参考人山内参考人に一言ごあいさつを申し上げます。本日は、大変お忙しい中を、しかも長時間御出席いただきまして貴重な御意見を賜りましたことを心から厚く御礼を申し上げます。本調査会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。  本日はこれにて散会いたします。   午後五時散会      ―――――・―――――