○
参考人(
武貞秀士君)
武貞でございます。本日は、国際問題に関する
調査会にお招きいただきまして大変光栄に存じます。
私は、
北東アジアの
安全保障のあり方につきまして、
朝鮮半島を
中心にお話し申し上げたいと思います。
私が申し上げたいことは簡潔に申しまして
三つありまして、第一に、
北朝鮮、
朝鮮民主主義
人民共和国の平和攻勢が始まった。もちろん、平和攻勢は一九九四年十月二十一日の米朝合意を境にして、あるいはその前の米朝交渉のときから始まっているわけでございますが、ここに至って新しい要素が加わり始めたということであります。そして、米国の方もまた
北朝鮮に対して、
北朝鮮のソフトランディングということを強調しながら
北朝鮮との政策をやっていくということで、米国にもまた新しい要素が加わったということが第一であります。
二つ目は、最近の竹島問題等にもありますように、
韓国の政策のスタイルにもやや
変化が出てきたということが
二つ目であります。
三つ目は、以上
二つのことを踏まえまして、
日本の
朝鮮半島全体に対する政策はこれまで以上に細心の注意とそして
戦略的発想が必要になるのではないか。
この
三つが私のきょう申し上げたいポイントでございます。
さきのお二方の御
報告のように、私、アカデミックな話し方ができませんで、ややジャーナリスティックといいますか、ちょっとセンセーショナリズムなところを話すことになりますけれども、どうも
朝鮮半島と申しますのは常に
日本にとりましてホットな
地域でありますし、やむを得ないかと思います。特に最近は、
北朝鮮に対する重油支援の負担分をどうするかという問題、また竹島問題、あるいは第三次の米の支援をどうするかと、いつもながら
日本にとっては懸案事項が山積している
地域だということで御了解願いたいと思います。
レジュメの方に移りますけれども、第一に、始まった
北朝鮮の平和攻勢であります。
これは、軽水炉導入を境にいたしまして、昨年六月にクアラルンプール合意が成立いたしました。このときは、
韓国型軽水炉という文字を合意の中に含めるかどうかということで米朝間で綱引きがあったんですけれども、最終的には、実質的には
韓国型を導入するということで、文言を入れないということで解決いたしました。
北朝鮮は、交渉の場ではいろいろな難題を持ち出してくるわけでありますが、全体としては、軽水炉導入計画をうまくやっていきたい、最後までこれをうまくやっていきたいとどうも思っていると見てよいと私は思います。そして、それと並行して、米国との関係改善については非常に強い意欲を持っているとみなしてよいと思います。ですから、この
意味では、
北朝鮮の核疑惑問題については大体それぞれの関係国がみんな同じ船に乗っていると見てよいのではないでしょうか。
先日、二月の上旬でありますが、スイスのダボスである国際会議が行われまして、その席で
北朝鮮の要人であります李成大対外
経済委員会委員長は、米国は唯一の超大国であるという
発言までしております。これは
韓国の代表の
発言ではございませんで
北朝鮮の代表の
発言でありました。ここらあたりにも、これから米国とどうっき合っていこうかという
北朝鮮の姿勢があらわれているわけであります。
平和攻勢の例の
二つ目といたしまして、軽水炉支援に伴う重油の支援の依頼でありますとか、あるいは水害の救援物資の依頼、あるいは米支援の依頼等に見られますように、
北朝鮮は今まで余り自分の農業がうまくいっていないとかあるいはお米が不足しているということは言いませんでした。ところが、非常に困っているんだということを率直に外国に言うようになりました。
どうも率直過ぎるといいますか、我々が考えているような被害の金額よりは大分多目に、水増しして
報告しているんではないかという見方さえあるわけでありまして、例えば
北朝鮮は水害の被害といたしまして百五十億ドル、被災民が五百二十万人、そして穀物の被害は百九十万トンという数字を挙げておりますけれども、人口が二千二百万人余りですから四人に一人が被災したということになります。非常に山岳
地域の多い
北朝鮮でありますのに国民の四分の一が水害被害に遭ってしまった。バングラデシュであれば雨が一降りすればかなりの面積が水浸しということもありますけれども、
北朝鮮でこの数字というのは大分水増してはないかということが
北朝鮮の地形からも想像できるのではないかと私は思っております。
そういったように、数字に関しましては必ずしもはっきりと我々を説得させてくれる数字は出てこないのでありますけれども、困っているということを率直に言うようになった。これは新しい現象であると思います。
また、昨年、
日本に対して米の支援をしてほしいというミッションが東京に参りましたけれども、そのときに、いや花よりだんごですということを
北朝鮮の要人が言いました。
北朝鮮の政策のエッセンスは、むしろだんごより花という言い方が正しいと思うんです。つまり、
経済発展、
経済成長はひとまずおいて、
韓国のような
経済発展はひとまずおいて、統一という名の花を先にとろうじゃないかというのが
北朝鮮のグラウンドストラテジーであったわけです。そのグラウンドストラテジーを考えますと、昨年、お米が足りないということを言うときに花よりだんごですねと言った、私はその
発言を新聞の中に見つけたときに、これは画期的なことだというふうに思いました。ここらあたりにも今までと違っている
北朝鮮のスタイルが、外交姿勢が出てきていると思います。
また、最近のスポーツ外交の展開もやや以前とは違っていると思います。
アトランタ・オリンピックについては、一月三日に参加することを公式に発表いたしました。これはカーター元大統領が
水面下で大分説得をしたという話が伝えられたりしております。あるいはまた、これは正確であるかどうかはわかりませんけれども、米国が
北朝鮮のオリンピック参加の費用は全部負担するということがもう既に内々で決まっているんだという話もあります。
確かに、
北朝鮮が参加すれば、今度のアトランタ・オリンピックは世界のすべての
国家と
地域が参加する画期的なオリンピック大会になるわけですから、何とか
北朝鮮に参加してほしいということをアトランタ・オリンピック委員会も考えているだろうと思いますが、それ以上に現在のクリントン政権が、後ほど申し上げますけれども、対北政策の重要な
一つのポイントとしてアトランタ・オリンピックヘの
北朝鮮の参加ということを考えているということが重要だと思います。そしてまた、
北朝鮮がそれをうまく活用して、米朝友好関係の増進ということと絡めてアトランタ・オリンピックというものをやや政治的に、本来これはスポーツの大会なんですが、やや政治的に活用しているニュアンスがどうも出てきていると私は思います。
また、アトランタという都市は、これは
北朝鮮が
北朝鮮に関して外国に向けて報道させるときに特に活用するといいますか、深い関係があるCNNテレビの本社があります。また、ミッションを送って
北朝鮮で販売することを将来考えているコカコーラの本社もあるわけです。ですから、ことしはアトランタを舞台にしてかなり米朝関係で動きがあるのではないか、そういうふうに私は見ております。
以上
三つの点を見ますと、一言で、始まった
北朝鮮の平和攻勢ということが言えるのではないでしょうか。
このこととちょっと関連があるわけですけれども、こういった
北朝鮮の平和攻勢がなぜ出てきたか。その裏には、必ずしも政策決定過程あるいは立案過程が混乱していない。その結果
北朝鮮は一貫していて、我々から見れば合理的といいますか、筋が通ったと言うと何かやや褒めたような形になりますが、けなすわけでも褒めるわけでもないんですが、論理一貫した政策をなぜ立てられるかということを申しますと、
北朝鮮内に異変がないということからではないでしょうか。
三つ例を挙げますと、
一つは、金正日書記は
朝鮮人民軍を完全に掌握しております。具体的な例は、一九九一年十二月、最高司令官に就任して以降の事例を挙げました。新しい組織改編のもとででき上がった
国防委員会は
朝鮮人民軍に対して絶対的な権力を持っております。軍の統率、指揮権、人事権を確保しているわけでありまして、ここにいち早く、九三年四月に金正日書記は
国防委員長に就任しております。もう既にこの時点で
朝鮮人民軍を掌握していると言ってもいいかと思います。そして九五年十月、昨年でありますが、金日成主席が死んだ後大きな人事を行いました。崔光
人民武力部長あるいは金英春総参謀長、金光鎮第一
国防次官、これらはすべて金正日書記の側近と言われている人物でありまして、かなり重要なポストのすべてを金正日書記の側近で占めている。この事実も軍を掌握していると見てよいという根拠になると思います。
また、金正日書記が労働党を掌握していないという話もあります。実は、金日成主席が死んだ一九九四年七月八日以降、
北朝鮮のメディアは金正日さんに対して書記という
言葉を使っておりません。
国防委員長あるいは最高司令官といった
言葉を使っております。書記という
言葉を使わないので、これは労働党の中のポストでございますが、労働党が金正日さんをペ一ジしちゃったんだと、こういう見方をする専門家もいるんですけれども、実は最近組織改編を行いまして、組織指導部を創立し、そして妹の夫の張成沢を第一副部長に置きました。むしろ親族による労働党指導体制が
強化されているわけであります。ここを見ましても、労働党を金正日さんが掌握しつつあると言ってもよいと思います。いや、むしろ掌握してしまっていると言ってもよいと思います。
そして、先ほど申し上げました米国との交渉、あるいは後ほど申し上げますが
軍事優先主義、
国家のいろいろな建設現場も軍隊を動員し、いろいろなセレモニーも軍隊式でやるといったように
軍事的なトーンを強め、また武器も増強していくという
軍事優先主義という点で政策の継続性がございます。そしてその最高司令官として金正日さんがいるということですので、政策の継続性もあるということを考えますと、私は異変があるという結論を出すにはまだ早過ぎるのではないかと思います。
先ほどのに
一つつけ加えますと、労働党の書記と呼ばずに最高司令官と呼ぶのはこのことと関連いたしますが、今、
北朝鮮では労働党関係者よりも軍の関係者の方が格好いいということで、格好いい肩書の最高司令官という名前を大いに使おうという理由で金正日さんは書記というよりは最高司令官という肩書で報道されているのではないかというふうに、やや次元の低い解釈になるかもしれませんが思っております。
次に、
東アジアにおける米国の再登場ということでございますが、
北朝鮮の方には対米関係改善の意欲が非常に強いと指摘いたしました。米国もそれ以上に関係改善の意欲が強いわけであります。
私が昨年春に米国の国際会議に出ましたときに、米国の
国防関係の学者は、米朝関係は既にソフトアライメントの時代に入ったと言いました。ソフトアライメント、なだらかな友好関係と訳せばよろしいでしょうか。これは
米韓関係についての
言葉ではなくて米朝関係でございまして、私は非常に驚きました。私はその会議で、いや
南北対話も進んでいない、日朝関係も進んでいない、弾道ミサイルも開発し続けている、核疑惑問題についても完全に解消されたわけではなくて特別査察が行われるという保証もないときに、交渉の当事者である米国からソフトアライメントという
言葉を聞きました、これは
同盟に対する裏切りではないですかと、私がベトレイと言ったもので大変紛糾いたしまして、国際会議の三日間の半分がその議論で終始いたしました。
しかし、その後の展開を見ますと、どうも本当にソフトアライメントという
状態であると
アメリカの人
たちが考え、そしてそう考えている人
たちが
アメリカの中で広がっている。そして、かつては共和党は米朝合意に批判的であったんですが、最近は民主党、共和党ともに、大体米朝合意を基礎にしてこれから米朝関係をやっていこうという点ではどうも一致していると見てよいというふうに変わってきているように思います。
いつ変わったか。特に昨年の十二月に
一つの大きな
変化があったと思います。十二月、ジョセフ・ナイ
国防次官補、彼が職を辞する直前でありましたけれども、
アジア協会で演説をいたしまして、ここで
北朝鮮に対して追い込んではいけないということを非常に強調する
発言をしています。この十二月を境に、米国からソフトランディングさせようという
言葉が多く出てくるようになりました。
北朝鮮を追い込んではいけない、ソフトランディングさせようということであります。また、このとき、今から考えますと
水面下でオリンピック参加の説得が行われていた時期でありました。
また、私はその十二月、
国防省、国務省を訪問したんですけれども、そのときに、ある国務省の担当者は、余り
北朝鮮のイメージが悪過ぎて国際連合による支援もうまくいっていない、ワールドフードプラン、世界食糧計画による
北朝鮮に対する食糧支援もうまくいっていない、これだったら、ほかの国々がどう言っても国務省が単独で
北朝鮮を支援していくこともやぶさかではない、もうじき米国による食糧支援計画が始まりますよということまで言った人がおりました。その後、一月、そのように展開してきたわけでございますけれども、十二月にいろいろな
意味で
北朝鮮に対する政策を変えたということではございません。ややトーンを変えた、トーンを修正したということが言えます。
具体的にどういうことかといいますと、米国が主導する、そして
日本と
韓国の負担を期待する。かつ、
韓国が反対していても、そこでは余り
韓国の了解は事前にはとらない。
日本が消極的であっても、これは第三次米支援でありますとか軽水炉計画に伴います重油の支援の問題でも
日本は消極的姿勢でございますが、
日本が消極的姿勢であっても、
日米韓の一致を見ないままでも、
アメリカが単独で
北朝鮮のソフトランディング政策を具体化していきますという政策が十二月、一月にはっきりしてまいりました。
こういう
意味で、今までの路線の延長上ではありますけれども、かなりトーンが変わってきたということが私は言えると思います。そして、このことは
中国との政策とも関連しております。
先ほどお二方から関与
戦略についてのお話も出ておりましたけれども、実は米国はこの
北朝鮮の核疑惑問題を解決するに当たりまして余り積極的には前面に出てまいりませんでした。IAEA、国際原子力機関でありますとかあるいは国連を舞台に、あるいは
中国の
北朝鮮説得という外交
努力に期待しながら、
北朝鮮の核疑惑問題をみんなで解決していこう、そこで米国は余り前面に出ないでおこうという時期が随分続きました。その後、米国は米朝交渉を始めました。始めてから、米朝合意が成立し、そして現在に至っているわけです。
ただ、米朝交渉が始まる以前は
中国に随分足を引っ張られたわけですね。国連を舞台にして制裁決議をやろうと言いますと、
中国は拒否権について言及する。
経済制裁をやろうとすれば、私は
中国は拒否権を発動したと思います。あるいは拒否権を発動する前に、あるいは国連でそういう議案を上程する前に、何とか過去の核疑惑を解明するために
北朝鮮が査察を受け入れてくれるように
中国が説得してくださいと
日米韓は北京もうでをしたわけですね。すべて
中国は、それもわかるんですけれども、
北朝鮮を説得しようとしても彼はなかなか言うことを聞かなくてねという返事しかなかったわけです。
ですから、結局決め手になる
中国というところで米国は足を引っ張られてしまった。そして、米国が乗り出して米朝合意につなげ、そして今は
中国の関与なく、関与がないというのは、
朝鮮半島エネルギー開発機構におきましても
中国は参加しておりませんが、お金、
技術、軽水炉、設備、マンパワー、いろいろな点で
中国は貢献する余地がないわけです。つまり、
朝鮮半島エネルギー開発機構をやりながら、米朝合意に基づいて十年以上のプロジェクトで核疑惑解消問題をやっていくということは、
中国に余り茶々を入れさせないという発想と表裏一体になっているわけであります。ということで、対中関与
戦略というものと密接に私はつながっていると思います。と同時に日韓の支援を確保していく。
そして、過去の核疑惑でございますけれども、これは後ほど若干触れますけれども、米朝合意を基礎にしてやっていくと決めた限りは、もう特別査察はできないと私は思います。特別査察をやろうとすれば、
北朝鮮がNPTから脱退しますよと言いますと再び一九九四年十月二十一日の米朝合意前夜と同じ
状況ができるわけですから、再び同じ内容の米朝合意を出さなければならなくなるわけですね。そういう繰り返しはできないわけですから、米朝合意に基づいた現在の米国のグラウンドデザインをよしとしてやっていく限りは、実は特別査察はうやむやにせざるを得ないという基本的な
構造的な問題があると私は思います。
ということで、日韓の不満は残るんですけれども、過去の核疑惑を解明する特別査察はなかなか難しいのではないか。だからといって、
朝鮮半島ですぐ戦争が起きるかといえば、戦争が起きるような兆候はなかなかない。オリンピックに選手団を派遣している間に、突然三十八度線を
北朝鮮が怒濤のように南下してくるということは我々はなかなか想像できないわけです。むしろ
北朝鮮は、過去の核疑惑という問題を残したことによって、
北朝鮮を
アメリカの手のひらの上に乗っけたんだというのが今のワシントンの考え方なんです。
私は、日韓にとっては不満が残るし、それは率直に米国に言うべきだという考えを持っているんですけれども、少なくとも
アメリカの
東アジア政策、あるいは核
抑止戦略、あるいは対日、対韓政策の大きな
枠組みの中では別に米国は大失敗をしたわけではない。ましてや
経済制裁といううまくいかないものに手を出す必要もなくなったということで、これは外交的ヒットだと米国も考え、そして我々も、そう言われてみればそうかなというところで現在落ちついているわけであります。
以上、一、二、三、非常にバラ色のことばかり申し上げましたけれども、あと後半は悲観的なことばかり申し上げたいと思います。
韓国の安定に陰りが出てきたということであります。
これは、ことし四月に国会選挙がございます。また、来年は大統領選挙がございます。
韓国は力というものが非常に重要でございますので、大統領選挙でも選挙の前の日は、
韓国の候補者は、もう私は当選いたしました、御安心ください、私に投票してくださいということをしきりに言うんですね。あるいは選挙当日の二日前ぐらいになると当選という速報まで出るんです、投票される前の前の日なんですが。そうしますと、勝ち馬に乗れという文化のところですから、その人にわっと票が集まる。
日本ですと、あと一票が足りません、皆様の一票があってこそ私は当選いたしますと言えば
日本では票が集まる。つまり、明らかに日韓では、あるいは
日本と
朝鮮半島では文化の違いがございます。力の文化と言ってよろしいでしょうか。
ですから、そういう
意味で、力がなくなった人のところには余り国民の心は行かない、支持が集まらないということで、大統領も
憲法上五年間の任期でございますので、大統領の任期が半分ぐらいになりますと途端に大統領批判が
韓国の中で始まります。最近の
韓国の中の金泳三の評判の悪さというのもその
一つではないかと思うんですけれども、いずれにしましても任期が半分過ぎましたので非常に政治の季節を迎えているということになります。
特に、金大中さんが金泳三さんは広州事件の追及の仕方が生ぬるいと言ってまいりましたので、金泳三さんもやむなく、これだけ広州事件の追及を自分は厳しくやっているんだ、金大中さんの言っていることは正しくないんだという選挙にらみの、金大中さん対策として最近の盧泰愚さん、全斗煥さん逮捕事件というものも
一つあると私は思います。それがすべてではございませんが、背景の
一つとして考えられると思います。
また、先ほど申し上げましたけれども、対日意識の
変化もございます。全体として民族主義が台頭していると言ってもいいと思います。
対米関係に関しましては、昨年、
米韓安保協議会が、一年に一回行われている会議が行われましたけれども、ここで
韓国は百八十キロ以上飛ぶミサイルをつくらせてくれと米国に議題を持ち出そうといたしました。これは、本来MTCRによりますと三百キロ以上はだめだということになっているんですけれども、
米韓ミサイル覚書によりまして
韓国に関しては米国が百八十キロ以上飛ぶのはだめよというのに無理にサインをさせてしまっているわけです。それに対して不満だということを
韓国が言ったわけです。
ですから、
韓国の
国防自立化ということに関して
米韓間でかなりの
意見の食い違いがあるということも言っていいと思います。ここらあたりに
韓国の
国防建設における
一つのナショナリズムというものも見られるわけであります。これは、結果といたしまして、
米韓安保協議会では米国が取り上げなかったということで議題にはなりませんでした。
以上申しますと、大体
韓国の政策は、さまざまな選挙の季節を迎え、また対日、対米政策もニュアンスが変わり、また
南北対話、
北朝鮮に対する政策についてもぶれが大きかったということで、このぶれの大きい場合は
南北対話はなかなかうまく進まないということがございます。
あと、若干時間をおかりしまして、後半の方を少しはしょりながら申し上げたいと思いますけれども、
レジュメの二ページでございます。
北朝鮮の軍備
強化が非常に進んでいるということが
一つ私は指摘したいことでございます。また、その
軍事強化に関しましては、弾道ミサイルの開発でありますとか、あるいは高性能の戦闘機の生産でありますとか、あるいは火砲の増産といった点で長期的な視点を持って行われている。また、奇襲攻撃能力を持った軍隊をそのまま維持しているということもございます。
この五年間に、
北朝鮮は旧
ソ連から導入したミグ29の生産国産ラインを使いまして四十機のミグ29を獲得するに至りました。これも、
北朝鮮ではお米は足りないけれどもミサイルはどんどん改良されミグ29の数がふえていくという奇妙な逆説が
北朝鮮の
軍事にはございます。
また、昨年十一月でございますが、パキスタンを
人民武力部長が訪問いたしました。これは、
中国、中東、特にイラン、イラク、そして
北朝鮮の間に石油、ミサイル
技術、核
技術あるいはミサイルの本体、弾道ミサイルですが、スカッドミサイルの本体のやりとりをめぐって
一つの連鎖関係が見られるということが私は特色であると思います。
以上の軍備
強化という点は、私は前半では、交渉が非常にいろいろなところで始まり、米朝関係が改善される方向にあるということを申し上げましたけれども、
軍事面では何ら
北朝鮮は変わっていないということを指摘したいと思います。
それでは今後どうすればよいかということをあと二分ほどおかりしまして申し上げたいんですが、
東アジアでは、
中国、米国、
北朝鮮、
韓国、
日本、
ロシア、それぞれが同床異夢でございます。
中国は、KEDO号に乗りおくれたという考えがございます。また、
北朝鮮の核開発を完全に阻止したいというよりは、むしろ優先順位が上にあるのは
北朝鮮の
崩壊阻止ということであります。
また、米国は、戦争
抑止と核不拡散体制を維持しようということが全体の優先順位の一番目にございますので、一〇〇%疑惑を解消しようというよりは、やはり戦争
抑止及びNPT体制維持。これは
北朝鮮がNPTから飛び出してしまうことを阻止するということですが、これが一番目にあるということになります。
また、
北朝鮮の政策順位は、米朝関係、そして次は
韓国に対する
軍事優位の回復、次は日朝交渉をやり、そして最後に
南北対話と。やはり
南北対話は最後に
位置づけられているということはどうも明らかなようであります。
また、
韓国は、政策の順位の上にあるのが
北朝鮮の核疑惑解消ではなくて、
北朝鮮に対する政策は
アメリカが主導するのではなくて、むしろ
米韓で協調しながら、同時に
韓国が主導権をとっていきたいというのが基本的考え方でございます。
レジュメの三ページでございますが、
日本は第一に米国の政策を支援していこうということを考えるわけですが、同時に日韓友好関係を維持しつつ日朝関係を改善したいと考えているという点で、②と③に関しましては基本的なジレンマがあるわけでございます。
ロシアは、
ロシアの内部の混迷ということもありまして具体的な政策として形となってあらわれておりませんけれども、ことし朝ロ
軍事同盟が終えんいたします。新たな条約がどのような形で形成されるかということはまだ不明でございます。
そして、今後の展望と政策提言というところで六つほど指摘したいんですが、第一に、
北朝鮮の核疑惑、そして弾道ミサイル開発問題が未解決であるということは重要であると思います。
特に、昨年二月、
北朝鮮は新しい弾道ミサイルの試射の実験をしたと言われております。これがどうもノドンというミサイルよりもテポドンミサイルだったのではないかという観測もございます。スカッドミサイルからノドンミサイルに改良し、ぞして現在テポドンミサイルまで開発し始めているということは重要な問題でありまして、実はノドンミサイルからテポドンミサイルに改良するにはロケットを二段にしなければなりません。これは簡単な
技術ではなかなかできない。
だれがこの
技術を渡したか。見渡してみますと
中国しかないわけですね。
中国は果たしてそういうことをするだろうか。これは専門家の間で
意見が分かれております。ただ、
北朝鮮と比べれば、
中国の非常に強力な核戦力をもってすれば、
北朝鮮の少々の核弾頭とミサイルは
中国にとっては武器と映らないと彼らがみなしているとすれば、若干の
技術を
北朝鮮に流出させてもおかしくないだろうということが考えられます。
そして二番、一九九六年、米朝関係は大きく変わるということは私がきょう強調した点でございます。
そして、
米韓間の不協和音も、これから米国が米朝関係を
中心にやっていこうという考えを持っておりますので、不協和音は恒常化するだろうと思います。
したがいまして、今まで以上に
日本は米国と
韓国との緊密な
協力が必要であります。不協和音をなくしていくべく緊密な
協力が必要であると同時に、この三カ国の足並みの一致が必要であります。
また、それに加えまして、取り残された
中国が巻き返し政策をするという
可能性もあります。大胆な政策も当然予想されるわけでありまして、これは
北朝鮮に対するてこ入れという形で起きる
可能性があると思います。
以上のような
戦略環境を読んで、
日本はより積極的な
役割を果たしていくべきだろうと思います。例えば米支援の問題につきましても、絶対反対と言っているばかりでなく、例えば食糧事情、農業事情に関する資料とか数値を出すことと引きかえに米を送りましょうとか、あるいはお米を送った後は国際機関が現地で管理して配布していこうと。実際、赤十字関係者が米を渡したりするんですが、その後に軍関係者が行って、さっき渡したのをちょっと返してくれと言ったかもしれないんですね。非常に情報が
閉鎖されているところですから、あるいはそういうふうな疑いが生じてしまうというところも不幸なことなんですが、いずれにしましても情報の公開と絡み合わせながらいろいろな形の支援活動をしていくべきだと思います。
また、
日米韓が
中心となった協議機構ということも必要になるのではないでしょうか。現在、次官級の対話の組織ができております。一月、ホノルルでその会議が行われましたけれども、さまざまな問題を取り扱う工夫、常設的な機構というものもひとつ必要ではないでしょうか。
また、
北朝鮮の弾道ミサイルとか化学兵器、あるいはミサイル
技術の輸出入に関しましては、国際間のいろいろな対話の場がございますけれども、それに
北朝鮮は全く参加しておりません。ということで、核疑惑問題だけではなくて、さまざまなMTCRとかCTBTといったような国際的な
枠組みにも
北朝鮮が参加するように奨励をしながら我々は
北朝鮮と接していくことが必要ではないかということを結論といたしまして
報告を終わります。
ありがとうございました。