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1996-02-14 第136回国会 参議院 国際問題に関する調査会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成八年二月十四日(水曜日)    午後一時開会     ―――――――――――――   出席者は左のとおり。     会 長         林田悠紀夫君     理 事                 板垣  正君                 笠原 潤一君                 田村 秀昭君                 直嶋 正行君                 松前 達郎君                 上田耕一郎君     委 員                 尾辻 秀久君                 岡野  裕君                 木宮 和彦君                 北岡 秀二君                 塩崎 恭久君                 馳   浩君                 林  芳正君                 山本 一太君                 泉  信也君                 木庭健太郎君                 高橋 令則君                 永野 茂門君                 益田 洋介君                 萱野  茂君                 清水 澄子君                 笠井  亮君                 田村 公平君    事務局側        第一特別調査室        長        入内島 修君    参考人        東京国際大学教        授        前田 哲男君        防衛研究所第二        研究部第三研究        室長       茅原 郁生君        防衛研究所第二        研究部第一研究        室長       武貞 秀士君     ―――――――――――――   本日の会議に付した案件 ○国際問題に関する調査  (「アジア太平洋地域の安定と日本役割」の  うち、北東アジア地域における安全保障の在り  方について)     ―――――――――――――
  2. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) ただいまから国際問題に関する調査会を開会いたします。  国際問題に関する調査を議題といたします。  本日は、本調査会テーマである「アジア太平洋地域の安定と日本役割」のうち、北東アジア地域における安全保障在り方について三名の参考人方々から御意見をお伺いした後、質疑を行います。  本日は、参考人として、東京国際大学教授前田哲男君、防衛研究所第二研究部第三研究室長茅原郁生君、防衛研究所第二研究部第一研究室長武貞秀士君に御出席をいただいております。  この際、参考人方々に一言ごあいさつを申し上げます。  参考人におかれましては、御多用中のところ本調査会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。  参考人方々から忌憚のない御意見を伺い、今後の調査参考にいたしたいと存じまするので、何とぞよろしくお願い申し上げます。  議事の進め方でございますが、前田参考人茅原参考人武貞参考人の順序でそれぞれ三十分程度意見をお伺いいたします。その後、二時間程度質疑を行いますので、御協力をよろしくお願い申し上げます。  なお、意見質疑及び答弁とも、御発言は着席のままで結構でございます。  それでは、まず前田哲男参考人から御意見をお述べいただきたいと存じますので、よろしくお願い申し上げます。前田参考人
  3. 前田哲男

    参考人前田哲男君) 前田哲男でございます。本日、参考人として意見を申し述べる機会を得ましたこと、冒頭発言者として、まず会長並びに委員各位に感謝申し上げたいと思います。  本日の主題であります北東アジア地域安全保障在り方について、以下三十分程度という時間の中で私の意見を申し述べてみたいと思います。  まず、北東アジアという地域がどこであるのかが問われなければならないと思います。もとより北東アジアという明確な地理的な定義があるわけではございません。一九八〇年代までの冷戦期の中で、この地域北西太平洋というふうにアメリカ戦略家たちによって呼ばれるのが通常でありました。常識的に考えますと東アジアの北部を北東アジアと呼ぶのがふさわしいというふうに私たちは思いますが、しかし一方アメリカ及び西欧から見ますと、この地域は同時に古くから極東というふうに呼ばれた地域に一致するというふうに考えます。  そうしますと、極東範囲に関しましては、私たち日米安保条約前文、四条、六条において「極東」という言葉が使われている中で、どこを指すのかについてある程度のコンセンサスと申しますか地理的な枠組みが明らかにされておりますので、以後私の発言日米安保条約に言う極東範囲、すなわちフィリピン以北並びに日本周辺韓国台湾地域を含む、そういう場所を念頭に置いたものとして述べていきたいというふうに思います。当然、周辺地域としてロシア極東部中国沿岸沿海部並びに南北朝鮮台湾はその中に入るということになってまいります。  この北東アジア安全保障を考える際に、最大の大きな点は海洋性であろうというふうに考えます。東南アジアも含めて東アジア全体に対してこの海洋性という言葉は当てはまるわけですが、とりわけ北東アジア安全保障にとって海洋の持つ意味が非常に大きい。半島列島、それに島が大陸と相対している、その中で安全保障構造が展開しているということであります。北から眺めますと、べーリング海オホーツク海、日本海、東シナ海、黄海、南シナ海、そして豪亜地中海と呼ばれる多島海に続いていく、そういった地理的環境を抜きに北東アジア東アジア安全保障問題は語り得ないというふうに考えます。  当然、そこでは海峡が、大陸国島国海洋国の間の安全保障をめぐる大きな意味を持ちます。私たちがよく知っているだけで、宗谷海峡対馬海峡、津軽海峡という三海峡日本にございますし、そのほかにも朝鮮海峡対馬海峡西水道もあります。マラッカ海峡もございます。海峡によって私たち大陸国海洋に出る力をコントロールするという能力を天与の条件として与えられている。それは、大陸国にとってみますと妨害、障害と映りますし、私たち島国にとってみますと大陸国の力をコントロールする安全保障上の強みというふうにもなると思います。  そういった地理的な条件海洋性によって規定された安全保障環境をまず念頭に置いて論じることが極めて大事であろうというふうに考えるわけでございます。同時に、東アジア北東アジアにおいて冷戦期、とりわけ南北に割かれた二つ分断国家朝鮮半島、インドシナ半島があったことも、そして今日もこの問題がなお存続することも大きな安全保障上の特徴であり、かつ地理的な問題とも絡めて私たちの前にある問題であろうというふうに考えます。  北東アジア海洋性について申し上げましたが、例えばヨーロッパあるいはアメリカと比べてみますとさらに歴然とするであろうと思います。ヨーロッパにおける冷戦期東西対立は主として大陸的でありました。海洋性がなかったわけではありませんが、GIUKギャップというふうに言われるグリーンランド、アイスランド、イギリスの間の海洋管制はNATOの一つ軍事的な使命ではありましたが、東アジア北東アジアにおける海洋管制、例えば三海峡封鎖シーレーン防衛あるいは洋上防空といったことの持つ重大さと比べますと、どうしても附属的、付随的であった。そのことから考えてみましても、北東アジアの地理的な特徴安全保障と重ね合わせて読み取ることができるであろうというふうに考えます。  この北東アジアにおける安全保障をめぐる対立は、冷戦期において極めて明確でありました。すなわち、海洋によって大陸を包囲するアメリカ戦略であります。海洋を支配し、大陸を包囲する。地政学的な物差しを当てはめますと、リムランド、縁辺を支配してハートランド大陸中心部を包囲するというふうになるであろうと思います。海と陸の対立という構図が明確に描かれておりました。  その海を支配して大陸を囲む、その中心位置にあったのがある意味日本であり、その中心部日米安全保障条約日米同盟であっただろうと思います。しかし、それだけではなしに、米韓相互防衛条約米台相互防衛条約、これはなくなりましたが冷戦期に維持されておりましたし、南に行きますとSEATOが一九六〇年代までございました。ANZUSがオーストラリア、ニュージーランド、アメリカの間で持たれておりました。  このように、アメリカは、半島列島、それにオセアニアの国々を結集し、いわばリムランドハートランドを囲む、海洋を支配して大陸を包囲するという戦略で、冷戦期アジア太平洋戦略を規定してきたわけでございます。そのあらわれが、一九五〇年代から七〇年代までは朝鮮半島からラオス、インドシナを含むアジア地域戦争の形で生起したことは改めて説明するまでもありません。  ベトナム戦争が終結し、ニクソン・ドクトリンによってアメリカアジア太平洋戦略の展開を行いました後、北東アジアにおける対立構造は海と陸の拮抗、抗争という側面をさらに際立たせることになりました。その結果、日本列島の持っている戦略的な価値は後方支援的なものから前方における重要な位置に変わっていったというふうに考えます。  一九八〇年代初頭になりますと、ソ連太平洋艦隊海洋進出ということが喧伝されるようになりました。ウラジオストクに根拠地を置くソ連太平洋艦隊の増強が伝えられ、ミンスク、ノボロシスクといった空母艦隊極東配備によってソ連太平洋艦隊沿岸艦隊から太平洋ブルーウオーターネービーに成長するという、そういう大きな流れが変化としてあらわれ、それに対応する形で第七艦隊強化及び横須賀に機動艦隊の母港が移設されるという事態が起こりました。  アメリカにとって日本列島の持っている役割が、一九五〇年代から七〇年代初頭にかけてのアジア地域戦争に対する関与のための後方支援基地補給基地休養基地から、八〇年代になりますと、日本列島そのものが地勢的にソ連極東部をふさぐような形で延びているという事実、さらに日本列島に散在する米軍基地ソ連に振り向けるという抑止のための条件、さらに日本の自衛隊との共同行動による対ソ共同抑止という側面で見られるようになりました。  こうした戦略構造の背景には、一つ核運搬手段の進展によってオホーツク海、べーリング海といった附属海から水面下に沈んだまま戦略核弾頭を直接アメリカに命中させる技術が開発され、かつそのような潜水艦極東配備されたという事実によって裏づけられているというふうに考えます。つまり、アメリカは、初めて太平洋のかなたからアメリカ本土を直撃される、そういう恐怖、危機に直面したのであります。  一九七八年以降、とりわけ一九八〇年代に入りまして、デルタ級戦略原子力潜水艦カムチャツカ半島及びオホーツク配備が伝えられますと、アメリカ国防総省及び海軍当局者は、従来の戦略にかえてオホーツク海を支配する、そのために常時監視するという戦略をとるようになりました。すなわち、核の海を争覇するという形のせめぎ合いが八〇年代に始まった。その枠組みの中で日米安保条約重要性海洋性とともにさらに強調されるようになり、かつ対ソ抑止側面で重視されるようになりました。一九七八年、ガイドライン、日米防衛協力のための指針、そして八〇年代冒頭シーレーン防衛に関する日米共同声明、以後洋上防空と続く日米安保条約強化の過程がこれを物語っているだろうと思います。  以上、ざっと概観しましたとおり、北東アジアにおける冷戦期戦略構造海洋性によって規定され、かつ核の海のせめぎ合いがその頂点を画した。その頂点を画した中で冷戦が劇的に終えんしたということだろうと思います。  冷戦終えんの原因はヨーロッパにございましてアジアにはありませんでしたが、しかし、アジア太平洋北東アジア海上における冷戦対立が最も極限に達しつつあるその時期にベルリンの壁が壊れ、冷戦が終わるという状態になったわけであります。しばしば、日本周辺冷戦構造崩壊状況はヨ一ロッパに比べ不透明、不確実、不安定であるというふうに指摘されますが、それはこういう海洋において構築された戦略構造が、そこにおける条件ではなしに他律的な条件によって壊れていったということにも影響されているだろうというふうに思います。  さて、冷戦後の北東アジア情勢を私たちは今生きているわけでありますが、そこではどういう状況が起こっているのか、かいつまんで見ていきたいと思います。東西冷戦という世界的な、しかも半世紀近い対立構造崩壊し、その一方の当事国解体してしまいましたので、さまざまなところに大きな変化が起こってきていることは言うまでもありません。  同盟の解消をまず最初に指摘できるであろうと思います。  先ほども言いましたように、冷戦期さまざまな攻守同盟軍事同盟東西陣営によって維持されてまいりましたが、一九九六年の今日残っております同盟の数を数えますと、そのまま存続されている同盟日米安保条約米韓相互防衛条約、それ以外ないというふうに言っていいと思います。米台相互防衛条約は廃棄されましたし、ANZUS条約もまた一九八六年以降機能を停止しております。SEATOはもっと前に解消されました。西側の防衛条約で明確な形で機能しているのは、日米米韓、その二つにすぎない。  一方、社会主義国防衛条約軍事同盟に関しても全く同じことが言えるだろうと思います。ソ連中国ソ連北朝鮮中国北朝鮮三つ軍事条約相互友好同盟条約が存在したわけでありますが、しかし、今日それらのうち残っているものは一つもない状況にある。同盟の消滅は明確であります。さらに、同盟の目に見えるシンボルともいうべき軍事基地に関しても、日本韓国を除きますれば明らかに縮小閉鎖の一途をたどっております。  フィリピン基地が全部閉鎖されたことは既に御承知でありますが、同じくアメリカ西太平洋最大基地でありましたグアムにおいても、嘉手納基地と同規模のアンダーソン空軍基地は、目下司令部機構を残すのみで、航空機は一機もない状況になりました。ホワイトビーチよりはるかに条件のいいアプラ軍港についても、軍艦はもはや存在しておりません。グアム海軍航空の中枢でありましたアガニャ基地は、すべてアガニャ国際空港として民間に移管されてしまいました。  ソ連ベトナム基地に関しましても同じようなことが言えます。つまり、冷戦を戦った米ソ東西陣営とも、北東アジア東南アジア範囲を広げても、もっと明確に基地閉鎖、軍備の縮小へ動いているということが見てとれます。  また、南北朝鮮が九一年、国連に加盟したということも、今後のこの地域における安全保障問題を考える上で極めて大きな意味を持つものであろうと思います。  私は、冷戦期の八〇年代から、中ソ国境地帯ウラジオストクニカ所をいわば定点として同じところを何度も見るというようなフィールドワークを続けているわけであります一そのような分析的であるより実感的、体感的なものなんですが、感想を述べますと、例えば中ソ国境地帯に黒河、ヘイホーという町がございます。対岸がアムール州の州都ブラゴベシチェンスクというロシアの町であります。冷戦期、一九八〇年代前期、ここに参りますときには、もう入ること自体大変でありました。中ソ対立の真つただ中でありましたので、冬季になりますと結氷する、その川の上に鉄条網を張って夜通しサーチライトで照らす。結氷が極めて厚いので戦車を通すこともできるという、そういう軍事上の警戒からそういうことがなされている状態でありました。  冷戦後の今日、今この地域の冬の結氷国境貿易を促進させる非常に大きな利点になっている。この地域の近くに橋をかけようという計画も進んでおります。当然ながら、両軍が集結しておりました国境地帯からは大幅な撤収が進んでおります。  ウラジオストクにも冷戦期以降たびたび参っておりますが、ここではさらに劇的な海軍及び海軍航空の、縮小というよりもはや解体というか崩壊というふうに言っていい状況がございます。ウラジオストク冬季結氷しない金角湾という天然の良港を持っておりまして、日露戦争以来日本にとってはよく知られている軍港でありますが、今、少し言葉を強めますと軍艦の墓場、軍艦解体所というふうに言えるような状況がございます。軍艦がほとんどありません。赤さびて旗をおろしたものがずらり並んでいます。潜水艦もそのとおりであります。中には旗を掲げたものもあるんですが、人が乗っていません。  聞いてみますと、バルト三国が独立したとき以降、兵員不足が極端に深刻化し始めた。海軍兵技術兵が多いので、ヨーロッパからたくさん来ていたのが、まずバルト三国の離脱、独立によって彼らが自国防衛のために引き揚げた。そのことの影響をまず受け、続いて、ソ連崩壊によって徴兵忌避が大変多くなった結果さらに兵員不足が続いた。その結果、軍艦はあるけれども定員が充足できないという船がたくさんあるわけなんです。  これは、海上幕僚監部がまとめた日本近海ロシア船動向、毎年発表されますが、これとも見事に一致いたします。九〇年代に入りますと急速に減ってきていて、九四年は年間八隻しか日本近海で目撃されていない。九五年一年間は十六隻日本近海で目撃されたが、このうち一月の三隻は地震がございました北方四島への災害救援輸送である。八月の七隻は対日戦勝記念式典VJデーのためのデモン久トレーションであった。実質的、純軍事的な行動は昨年よりさらに減少しているという評価が加えられております。  極東ロシアにおける状況は、このように自壊的な段階にまで進んでいっている。軍事活動も当然ながら極端に低下している状況にある。  朝鮮半島中国に関しましてはあとお二方が述べられるだろうと思いますが、これまで申し述べましたように、冷戦期における大きな対立が解消され、同盟がなくなった結果、北東アジアにおいても新しい安全保障条件と展望、可能性が開けているというふうに考えます。それは我々が主観的に見るだけでなしに、アメリカの側から見てもそのように見えているに違いない。  つまり、一九八〇年代、オホーツク海の一角からアメリカ全土核ミサイルの標的、照準に入った、そういう認識のもとにソ連と相対していたころのアメリカ北東アジア戦略、当時は北西太平洋戦略と呼ばれることが多かったのですが、その中における日米安保条約位置づけ及び在日米軍基地重要性は死活的であり絶対的であっただろうと思います。しかし、そのような構造が崩れた今日、アメリカにとっての日米安保条約有用性は限定的、選択的になってきたというふうに考えます。  ジョセフ・ナイ国防次官補執筆に成る「東アジア戦略報告」を子細に点検していきましても、アメリカにとっての安保条約の再定義が、冷戦時代よりというより冷戦時代のような絶対的不可欠性でないところで把握されている、これが大前提であるというふうに見なければならないだろうと思うんです。  となれば、日本にとっての北東アジア地域安全保障のあり方も、冷戦時代の思考、古い枠組みを延長する中で新しい情勢に問題を立てるのではなしに、安全保障全体、環境そのものを好ましいものに変えていくための努力をまず追求目標の第一に置く。大きな秩序の破壊、崩壊が起こったわけですから、その中で安全保障環境そのものを好ましいものに変えていくための努力をなしていくことが今日必要なことであろうというふうに思うわけです。そこでは、二国間の軍事同盟から多国間の協力への枠組み変化が求められましょうし、また、軍事重視同盟関係から多角的、政治経済重視のものに変えていくことも重要であろうと思います。  ナイ報告日米同盟の本質を、日米関係安全保障体制政治同盟経済貿易体制三つから成っているというふうにまさに正確に指摘しております。ともすれば私たちは、安全保障体制を土台に据え、その上に政治協力を据え、その上に経済協力を据える、安全保障条約がすべての前提になっているという物の考え方をしがちでありますが、そうではなしに三本の柱であるというふうに考えれば、大きな枠組みが壊れた今日、安全保障環境そのものを好ましいものに変えていくための努力念頭に置きながら、その中で日米のきずなをより確かなものにしていく、そういう方策を模索することが重要であろうというふうに考えます。大変広い地域の話を短い時間の中で申し上げましたので取りとめない形になりましたが、後ほど御質問を受けて補足することにしまして、最初発言をこれで終わりたいと思います。ありがとうございました。
  4. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) ありがとうございました。  次に、茅原郁生参考人にお願いいたします。茅原参考人
  5. 茅原郁生

    参考人茅原郁生君) 茅原でございます。このような国権の最高機関参考人として呼んでいただきまして大変光栄に存じますとともに、大変な責任を感じておるところでございます。  私は平素、中国、とりわけ中国軍事に関して研究をしている者でございますが、本日のテーマであります北東アジア地域安全保障に関して中国がいかにかかわるかという観点から御報告をさせていただきます。  言うまでもなく、中国地域覇権主義が懸念をされる巨大な国家でありますし、近年経済の発展が目覚ましい、こういう要素も重要であろうかと思いますが、近年中国脅威論が台頭しておりますことから、本日は私の専門であります軍事という観点から御報告をさせていただきたいと思います。  本日申し上げたいことは、中国軍事特性現況等について御報告した後、後段には、北東アジア安全保障影響を及ぼしている最近の幾つかの軍事的動向を取り上げて私なりの見方を申し上げたいと思います。  レジュメに従って申し上げますが、大変恐縮でございますが、私の当初のレジュメに若干ミスプリントがございまして、本日お席に配付してある方のレジュメでお願いをしたいと思います。なお、本日私がここで申し上げさせていただきますことは、あくまで研究者としての個人的見解でありますことをあらかじめお断り申し上げたいと思います。御理解を賜りたいと思います。  まず、中国軍事を考えるに当たりまして、解放軍中心とする中国軍事力が非常に特色を持っていることを申し上げたいと思います。  別紙第一に、これまでの中国憲法が書いてございます。現在の憲法は、一番下にあります八二年の憲法が現在の憲法でございます。ここに、中国国防を担う武装力は、任務として「国防を強固にし、侵略に抵抗し、祖国を防衛し、」というように国防というものが正面に出ております。しかし同時に、「人民の平和な労働を防衛し、国家建設事業に参加し、」人民に奉仕すると。御参考までに、七五年、七八年の憲法を見てみますと、任務最初の項に「社会主義革命社会主義建設の成果を守り、」というようなものが出ております。このように憲法で規定されておりますように、非常に軍に対して広範な任務を与えておるということでございます。  次に、軍事力中核をなす解放軍等につきまして申し上げてみたいと思いますが、軍事力特性について、恐れ入ります、別紙第二をあけていただけますでしょうか。  これは中国組織図でございますが、中国国防を担う武装力というのは、野戦軍である人民解放軍のほかに地方軍民兵等を含めた非常に広範な概念で軍事力というものを把握しておりますし、正規軍陸海空軍のほかに戦略核ミサイル軍の四軍種から成り立っております。このように、戦略核通常戦力をもってその中核をなしておるということ、さらにその指揮系統統帥中央軍事委員会にその統帥の根源を求めることができるなどが一つの特色であろうかと思います。  第二番目の特色は、解放軍の建軍に由来するものであります。一九二七年、南昌における武装蜂起を根源としまして今日の解放軍ができ上がってまいりましたが、一九四九年、中国共産党とともに中国を建国いたしましたその大きな建国の功労者である。当然、その間における活動は共産党の軍隊として政治工作を担ってきた。さらに、国家からの財源の保障がない解放戦争を戦う中で、みずから耕しながら戦ってきたという伝統を持っておりまして、それは生産隊としての機能を持っていることでございます。その発展したものが、報道をにぎわせておりますような今日の中国軍の企業経営でございます。七五年の憲法にも、解放軍は戦闘隊であり、政治工作隊であり、生産隊であると規定されたこともありました。  そのほかに、第三点として指摘したいことは、伝統的な体質と申しましょうか、アヘン戦争以来の近代史において中国民族が体験したことが非常に多くの性格づけをしております。列強からの侵略を受け半植民地化した中で、さらに国内における内戦を繰り返してきたことから三つの特色、属性を持ってきたと思います。一つは、力がなければやられるんだという一種の力の信奉者的な側面、さらにそれが過剰防衛的なものに発展をしておること。二つ目が、領土、主権というものに対して大変固執し、軍がそれを体現しておること。三番目が、いろいろな近代史の屈辱の体験の裏返しとして国家の尊厳というものを非常に重んずる。さらにその下敷きには中華思想というものがあろうかと思いますが、このような特色を持っておるというように理解をいたしております。  それでは、これまでどのような国防政策がなされ、実態はどうであるかということについて申し上げます。  建国後、中国は毛沢東の指導する継続革命路線が長く続きましたが、この間における解放軍は、党の軍隊として極めて政治性の強いものであり、特に文化大革命の収拾等に当たっては大きな政治的働きをいたしました。しかしながら、一九七八年、鄧小平がその実権を握って以降、まず打ち立てられたことは、二十一世紀中葉をにらんだ壮大な経済建設を目指すという経済建設を中心に据えた政策路線でございました。したがいまして、国防政策は、政治軍から国防専門のプロへ変えられることと、毛沢東時代に膨れ上がった軍をスリム化し経済政策に寄与する、あるいはそれに従属をする国防政策の位置づけがなされてまいったと思います。  具体的には、このために総合的安全保障として、冷戦下、中国南北から強圧した米ロという巨大な軍事戦力の脅威を潜在化することに努めましたし、経済建設を進めるに当たって国防政策はそれに従属するものと位置づけられ、国防費の抑制がなされてまいりました。  別紙第三をあけていただけますでしょうか。大変ややこしいグラフで恐縮でございますが、黒い棒グラフのように、中国国防費は絶対値においてはこのように伸びております。しかし、上の方の黒い右下がりの折れ線グラフを見ていただきたいと思いますが、国家財政支出に占める国防費の割合を示したものでございます。中国国防費は朝鮮戦争時には四〇%近いものを占めましたが、七〇年代、財政支出の大体二〇ないし二五%でございました。八〇年代当初においても一六%を占めていたものが、八〇年代、約八%台へと抑制をされております。九〇年代またこれが上昇するのですが、この点については後で申し上げます。このように国防費を抑制したということでございます。  抑制された国防費の中で、しかし新しい時代に適応できる軍を建設するためにはどうすればいいか。三番目として、量を削って質を近代化するという国防政策が進められたわけでございます。  たびたびで恐縮ですが、別紙第四をごらんください。真ん中辺にある右下がりの折れ線グラフでございます。一九七〇年代末、中越戦争のころは五百万を超えた中国人民解放軍でございましたが、八〇年代、二段階にわたってこれが削減をされ、今日の三百万体制になっております。この二段階にわたる削減は、八〇年代前半の場合、鉄道兵からダム等を建設する基本工程兵まで抱え込んだ軍が、これらを民間部門に移すことによって約百万、そして一九八五年、ゴルバチョフ政権の出現、中ロ和解を予想したもとで中国は政策的に百万の削減を実施しております。  ただ、この削減に当たりまして中国は、従来中国が巻き込まれる世界大戦は不可避であるという立場に立っておりましたが、これを回避できるという情勢認識を明確に示し、その上で党の責任において百万の削減をいたしております。  レジュメの方にまた戻らせていただきます。  四番目としては、ポスト鄧小平をにらんだ中で党と軍の関係を整とんしたことでございます。中国はこれまで、党が強いか鉄砲が強いかということの確執がございました。しかし、党が鉄砲を指揮するという原則を確立するための軍事権力の削減、分割というようなものが近代化の名のもとに行われてまいっております。また、経済建設を重視する中で、軍に対し経済建設へのさらなる貢献を求めたこともございました。とりわけ、一九九二年の領海法の制定に伴い、海軍に対し海洋権益の防護という新たな戦略任務まで付加されております。  このように、鄧小平時代、軍の国防軍化と経済建設との関係を明確にした政策が進められてまいりまして、結果として今日、中国軍事力別紙第五のような状況でございます。ミリタリーバランスから抜粋をいたしましたが、大変複雑でございまして、先生方にはここまで御承知おきいただくことはないかと思います。  そういう意味では、別紙第六を見ていただきましょうか、これは陸海空の戦力の国際的比較をしたものでございます。大変お見苦しいところがあるわけですが、一番手前の棒を見ていただきますと、これが陸軍でございます。中国は二百二十万の陸軍を保有する圧倒的な陸軍国、大兵力でございます。七個の軍区に分け、これを二十四の野戦軍、百二十個師団、戦車七千五百から八千、砲一万五千という大兵力でございます。しかし、世界大戦はなくなったけれども局地戦は多発するという戦争認識のもとで考えたとき、国境に即応できる、あるいは緊急展開できる軍はどれだけいるかとなりますと、その近代化は遅々たるものがあると言われております一兵器の多くも、約二十年のおくれがあると軍の要人を嘆かせるレベルでございます。  次は真ん中の棒でございますけれども、これは海軍力を示しております。約九十六万トンを擁する海軍力は、ロシア、米に次ぐ第三位の戦力量でございまして、三つ艦隊に分かれております。しかしながら、外洋で行動できる駆逐艦、フリゲート艦以上の艦艇は五十隻にすぎず、現在海上自衛隊が六十隻保有することから比べますと、いかに小型艦艇がたくさんあるかということにお気づきと思います。注目すべきは、中国は五十二隻の潜水艦を持っているということでございます。攻撃型原潜を五隻含んでおります。最近、ソ連からキロ級潜水艦を入れ、近代化を進めております。また、上陸作戦のできる両用艦艇あるいは洋上補給艦等が強化されております。  最後の棒でございますが、これが空軍力を示しております。四千九百七十機の作戦機は、ロシア、米国をしのぐ世界第一位の航空戦力と言えましょう。しかし、御多分に漏れず、大部分が二世代前のミグ21またはミグ19レベルの旧式戦闘機が主体でございまして、最近この近代化のためにロシアからスホーイ27を入れるなど、作戦機の更新を進めているところでございます。  以上のように、量的には世界に冠たる軍事力でございますが、質的近代化はまだおくれているというのが概括できる戦力評価だろうと思います。  前田先生もお触れになりましたジョセフ・ナイ・レポートによりますと、アメリカ中国軍事力を、核戦力を保有する地域第一級の軍事力と評価をいたしております。このような軍事力中国が満足をしているわけではございません。現在、どのような国防政策が進められているかについて話を進めさせていただきます。  その前提として、中国冷戦後の安全保障環境変化をどのように認識しているかということでございます。  一つは、二極構造から多極構造変化をする。しかし、現在その過渡段階にあり、その過渡期においては、唯一超大国のアメリカのほか四つの強国あるいは強い地域があり、この間の秩序はまだ確立をされていない。したがって、世界大戦は遠のいたけれども、二極構造の中で抑制されてきた幾つかの諸矛盾が噴出をし、局地戦は多発するであろう。  なお、覇権主義、強権政治が残っておる。これは中国流に言えば米国を指す言葉でございますが、米国という脅威があり、安全保障環境は楽観を許さない。そして、湾岸戦争に見られたようなハイテク戦争の様相を示してきたということでございます。したがいまして、国防近代化政策は、米国を意識した戦略核強化と要域防空あるいは海上パワープロジェクション能力の向上に振り向けられております。  しかしながら、三つほど課題を抱えております。一つは資金の不足、二つはハイテク軍事技術レベルのおくれ、三つ目は兵器開発あるいは製造基盤の弱体化。とりわけ、国有企業、軍需工場が生き延びていくために民需品をつくることに転換をされ、最近の報告では八〇%まで民需転換がなされたと言われておりますが、これらはとりもなおさず中国の軍需工業基盤を弱体化しているものでございます。  したがいまして、近い将来を考えますとき、中国は最小限の核抑止効果を持つ戦略核を保有するとともに、通常戦力についてはまだまだ初期的段階で、一部の精鋭部隊と大部分の旧式部隊の二極分化の状態が続くのではないか。ただ、二十一世紀をにらんだとき、この軍事大国化はかなりの程度達成されるであろう。もちろん、このためには政治が安定をし、経済がそれなりの発展をするという前提条件がつくわけでございます。しかし、現在でも軍事大国という説があるほどに、この軍事大国化の傾向はとめられないものと思います。  このような現状認識を踏まえまして、最近この地域安全保障影響を及ぼしておる中国軍事動向について五つほど選んで申し上げてみたいと思います。  一つは、最近緊張を高めておる中台、台湾海峡をめぐる問題でございます。  御承知のとおり、この動きは昨年六月の李登輝訪米から端を発し、台湾独立阻止をねらいとした示威行動が繰り返されているわけでございますが、この背景には、台湾の国民党が変質をし、台湾人によるリーダーのもとにかねてほど中国統一への熱意が薄れてきたということに対する危惧二つ目は、台湾の民主化が進むことへの恐れ。これは、とりもなおさず中国の共産党独裁体制が浮き立つことでもあり、アメリカあるいは西側諸国の民主化に対する支援体制が強化をされるごとへの懸念。  三つ目には、中国自身がポスト鄧小平の時代を迎え、新しい江沢民体制へのソフトランディングのために国内的にナショナリズムを高揚している節がございますが、かえってそれが抑えのきかたい台湾独立阻止への動きになっておること。そして、江沢民自身が後継政権としての権威を保つために、鄧小平も手のつけ得なかった台湾独立に対して昨年一月に八項目提案という一歩踏み込んだものをいたしましたような一種のかけをしたのではないか、その引っ込みがっかなかったような面があろうかと思います。  台湾海峡を挟んで、ともに牽制のための軍事演習を繰り返しておりますが、これらが偶発的な紛争になった場合は、単に中台問題にとどまらない地域の問題になる懸念が一つございます。また、この問題は中米関係に波及をしておりまして、米中緊張の問題は地域にも影響を与えずにはおきません。  当面、米中関係は、経済的相互依存の発展という別な側面も持っておりますために、緊張と協調の両面の中で曲折を経ると思います。しかし、台湾問題に関しては中国としては原則として譲れない立場にあり、後継政権が権威を確立するまではこの問題に対して柔軟な決断をすることは困難かと思います。  二つ目は、核実験の問題でございます。  昨年、NPT条約の無期延期が決まった直後にこれ見よがしの核実験を行い、また夏にも行いました。このねらいは、弾頭の軽量小型化であり、中国の核戦力の近代化でございますが、同時にコンピューターによるシミュレーションのためのデータとりとも言われております。  しかし、いずれにしましても中国は、八七年に解放軍報に発表された非常に体系の整った論文がございますが、それを見ますと、核戦力に対する非常に特色的なとらえ方をしております。それは、単なる核抑止のみならず通常戦力を補完するものであるという認識であることが一つ。もう一つは、冷戦期にはついぞ使えなかった兵器であるが、しかし政治的には非常に使い勝手のいい兵器であるという認識があること。  これらから、中国通常戦力において列強に追いつくハイテク兵器の取得が困難なだけに、これを補完する機能として核というものを重視せざるを得ない立場にあると思います。とするならば、本年CTBTが締結されるという期待が持たれておりますけれども、中国はこれに対して一応積極的な姿勢は示しておりますが、なかなか条件をつけてくる可能性があることと、最近、CTBTが結ばれても、これが批准をされ発効するまでは核実験を継続するというような発言をするなど、引き続き核強化への努力を緩めない姿勢を示しております。  三つ目は、南沙諸島をめぐる問題でござい費す。  これは領海法の制定に伴い急遽浮上したものでございますが、この背景には、中国海洋国土は中華民族生存のための必要な空間であると位置づけておりますように、経済的な背景を持った進出でございます。したがいまして、海洋資源の開発をめぐる競合は当分の間続くものと思われますし、この問題はさらにシーレーンの安全確保にかかわってくる問題として注目を要する地域であり、中国動向になろうかと思います。  ただ、海軍力の強化が言われながら、当面中国の現有海軍力ではここを実効支配する戦力としては不十分であり、最も近い海南島の基地からもなお千キロ離れておるこの地域における紛争の生起については、なかなか武力行使には踏み切れないのではないかと思います。ことしのARF会議の後、銭其シン外相が多国間協議に対してやや柔軟な姿勢を見せ始めたのは注目を要する兆候かと思います。  四番目に、国防費の急増動向について申し上げます。  先ほどの表のとおりでございまして、八〇年代は確かに国防費は抑制されてまいりましたが、九〇年代に入り急増傾向を示しております。とりわけ九四年、九五年の伸び率は、中国が抱える問題として最も重視しておる農業改革の問題、あるいは国有企業の改革の問題等の政策に投入する経費をはるかに上回る額でここ一両年は増額がなされております。  これは、ポスト鄧小平をにらんだ軍と党の関係のための一時的な措置なのか、中国国防費の位置づけそのものが根本的に変わることなのか、なお経過を観察する必要がございますが、もしここ一両年のような対前年比二〇%の伸びを続けるとするならば、二十一世紀を迎えるころの中国軍事費というものは大変大きなものになり、その分だけ軍事力強化が懸念をされてくることになろうかと思います。  五番目の兵器移転につきましては、最初にも指摘いたしました中国国防近代化のボトルネックはハイテク技術でございますが、八〇年代、米国を初め西側から大変大きな交流と兵器技術の導入をいたしましたが、天安門事件後これがストップをされ、その代替として近年ロシアにその供給先を求めておるわけでございます。これが、単に兵器の移転にとどまらず、軍要人の往訪、さらには政界トップの往来につながり、中ロ関係の戦略的な関係を思わせるような兆候さえ見せ始めております。中ロ関係は中米関係の裏腹の問題だとは思われますが、これらの不気味な動向がほかの諸国の兵器移転の活発化を誘引しておるということは見逃せないと思います。  時間の関係ではしょらせていただきますが、したがいまして、北東アジア安全保障を考えるに当たって中国とどのようにかかわればいいかという問題でございますが、先ほど前田先生も御指摘のアメリカの関与戦略というものは、これが正しく行われ、中国から正しく受け入れられるならば、この地域の安定のために大変有益なものであろうと思います。しかし、幾つかの問題は内在しております。  また、この地域国家としては、まず中国に対してその不透明性のゆえにやや脅威が増幅されている面もないことはありません。その観点からは、中国に対して透明性の向上を求めること、同時に中国自身が対外的に大変不信感を持っておる、被害者意識を持っておる、この過剰防衛思想を緩和する努力、すなわち信頼醸成の輪の中に中国を入れていく努力が必要になろうかと思います。そして、その結果として中国が、ナイ報告も言っておりますように、地域安定のための建設的なパートナーになるような努力が必要かと思います。  以上、後段ちょっとはしょってしまいましたが、時間が参りましたので私の報告をこれで終わらせていただきます。ありがとうございました。
  6. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) ありがとうございました。  次に、武貞秀士参考人にお願いいたします。武貞参考人
  7. 武貞秀士

    参考人武貞秀士君) 武貞でございます。本日は、国際問題に関する調査会にお招きいただきまして大変光栄に存じます。  私は、北東アジア安全保障のあり方につきまして、朝鮮半島中心にお話し申し上げたいと思います。  私が申し上げたいことは簡潔に申しまして三つありまして、第一に、北朝鮮朝鮮民主主義人民共和国の平和攻勢が始まった。もちろん、平和攻勢は一九九四年十月二十一日の米朝合意を境にして、あるいはその前の米朝交渉のときから始まっているわけでございますが、ここに至って新しい要素が加わり始めたということであります。そして、米国の方もまた北朝鮮に対して、北朝鮮のソフトランディングということを強調しながら北朝鮮との政策をやっていくということで、米国にもまた新しい要素が加わったということが第一であります。  二つ目は、最近の竹島問題等にもありますように、韓国の政策のスタイルにもやや変化が出てきたということが二つ目であります。  三つ目は、以上二つのことを踏まえまして、日本朝鮮半島全体に対する政策はこれまで以上に細心の注意とそして戦略的発想が必要になるのではないか。  この三つが私のきょう申し上げたいポイントでございます。  さきのお二方の御報告のように、私、アカデミックな話し方ができませんで、ややジャーナリスティックといいますか、ちょっとセンセーショナリズムなところを話すことになりますけれども、どうも朝鮮半島と申しますのは常に日本にとりましてホットな地域でありますし、やむを得ないかと思います。特に最近は、北朝鮮に対する重油支援の負担分をどうするかという問題、また竹島問題、あるいは第三次の米の支援をどうするかと、いつもながら日本にとっては懸案事項が山積している地域だということで御了解願いたいと思います。  レジュメの方に移りますけれども、第一に、始まった北朝鮮の平和攻勢であります。  これは、軽水炉導入を境にいたしまして、昨年六月にクアラルンプール合意が成立いたしました。このときは、韓国型軽水炉という文字を合意の中に含めるかどうかということで米朝間で綱引きがあったんですけれども、最終的には、実質的には韓国型を導入するということで、文言を入れないということで解決いたしました。  北朝鮮は、交渉の場ではいろいろな難題を持ち出してくるわけでありますが、全体としては、軽水炉導入計画をうまくやっていきたい、最後までこれをうまくやっていきたいとどうも思っていると見てよいと私は思います。そして、それと並行して、米国との関係改善については非常に強い意欲を持っているとみなしてよいと思います。ですから、この意味では、北朝鮮の核疑惑問題については大体それぞれの関係国がみんな同じ船に乗っていると見てよいのではないでしょうか。  先日、二月の上旬でありますが、スイスのダボスである国際会議が行われまして、その席で北朝鮮の要人であります李成大対外経済委員会委員長は、米国は唯一の超大国であるという発言までしております。これは韓国の代表の発言ではございませんで北朝鮮の代表の発言でありました。ここらあたりにも、これから米国とどうっき合っていこうかという北朝鮮の姿勢があらわれているわけであります。  平和攻勢の例の二つ目といたしまして、軽水炉支援に伴う重油の支援の依頼でありますとか、あるいは水害の救援物資の依頼、あるいは米支援の依頼等に見られますように、北朝鮮は今まで余り自分の農業がうまくいっていないとかあるいはお米が不足しているということは言いませんでした。ところが、非常に困っているんだということを率直に外国に言うようになりました。  どうも率直過ぎるといいますか、我々が考えているような被害の金額よりは大分多目に、水増しして報告しているんではないかという見方さえあるわけでありまして、例えば北朝鮮は水害の被害といたしまして百五十億ドル、被災民が五百二十万人、そして穀物の被害は百九十万トンという数字を挙げておりますけれども、人口が二千二百万人余りですから四人に一人が被災したということになります。非常に山岳地域の多い北朝鮮でありますのに国民の四分の一が水害被害に遭ってしまった。バングラデシュであれば雨が一降りすればかなりの面積が水浸しということもありますけれども、北朝鮮でこの数字というのは大分水増してはないかということが北朝鮮の地形からも想像できるのではないかと私は思っております。  そういったように、数字に関しましては必ずしもはっきりと我々を説得させてくれる数字は出てこないのでありますけれども、困っているということを率直に言うようになった。これは新しい現象であると思います。  また、昨年、日本に対して米の支援をしてほしいというミッションが東京に参りましたけれども、そのときに、いや花よりだんごですということを北朝鮮の要人が言いました。北朝鮮の政策のエッセンスは、むしろだんごより花という言い方が正しいと思うんです。つまり、経済発展、経済成長はひとまずおいて、韓国のような経済発展はひとまずおいて、統一という名の花を先にとろうじゃないかというのが北朝鮮のグラウンドストラテジーであったわけです。そのグラウンドストラテジーを考えますと、昨年、お米が足りないということを言うときに花よりだんごですねと言った、私はその発言を新聞の中に見つけたときに、これは画期的なことだというふうに思いました。ここらあたりにも今までと違っている北朝鮮のスタイルが、外交姿勢が出てきていると思います。  また、最近のスポーツ外交の展開もやや以前とは違っていると思います。  アトランタ・オリンピックについては、一月三日に参加することを公式に発表いたしました。これはカーター元大統領が水面下で大分説得をしたという話が伝えられたりしております。あるいはまた、これは正確であるかどうかはわかりませんけれども、米国が北朝鮮のオリンピック参加の費用は全部負担するということがもう既に内々で決まっているんだという話もあります。  確かに、北朝鮮が参加すれば、今度のアトランタ・オリンピックは世界のすべての国家地域が参加する画期的なオリンピック大会になるわけですから、何とか北朝鮮に参加してほしいということをアトランタ・オリンピック委員会も考えているだろうと思いますが、それ以上に現在のクリントン政権が、後ほど申し上げますけれども、対北政策の重要な一つのポイントとしてアトランタ・オリンピックヘの北朝鮮の参加ということを考えているということが重要だと思います。そしてまた、北朝鮮がそれをうまく活用して、米朝友好関係の増進ということと絡めてアトランタ・オリンピックというものをやや政治的に、本来これはスポーツの大会なんですが、やや政治的に活用しているニュアンスがどうも出てきていると私は思います。  また、アトランタという都市は、これは北朝鮮北朝鮮に関して外国に向けて報道させるときに特に活用するといいますか、深い関係があるCNNテレビの本社があります。また、ミッションを送って北朝鮮で販売することを将来考えているコカコーラの本社もあるわけです。ですから、ことしはアトランタを舞台にしてかなり米朝関係で動きがあるのではないか、そういうふうに私は見ております。  以上三つの点を見ますと、一言で、始まった北朝鮮の平和攻勢ということが言えるのではないでしょうか。  このこととちょっと関連があるわけですけれども、こういった北朝鮮の平和攻勢がなぜ出てきたか。その裏には、必ずしも政策決定過程あるいは立案過程が混乱していない。その結果北朝鮮は一貫していて、我々から見れば合理的といいますか、筋が通ったと言うと何かやや褒めたような形になりますが、けなすわけでも褒めるわけでもないんですが、論理一貫した政策をなぜ立てられるかということを申しますと、北朝鮮内に異変がないということからではないでしょうか。  三つ例を挙げますと、一つは、金正日書記は朝鮮人民軍を完全に掌握しております。具体的な例は、一九九一年十二月、最高司令官に就任して以降の事例を挙げました。新しい組織改編のもとででき上がった国防委員会は朝鮮人民軍に対して絶対的な権力を持っております。軍の統率、指揮権、人事権を確保しているわけでありまして、ここにいち早く、九三年四月に金正日書記は国防委員長に就任しております。もう既にこの時点で朝鮮人民軍を掌握していると言ってもいいかと思います。そして九五年十月、昨年でありますが、金日成主席が死んだ後大きな人事を行いました。崔光人民武力部長あるいは金英春総参謀長、金光鎮第一国防次官、これらはすべて金正日書記の側近と言われている人物でありまして、かなり重要なポストのすべてを金正日書記の側近で占めている。この事実も軍を掌握していると見てよいという根拠になると思います。  また、金正日書記が労働党を掌握していないという話もあります。実は、金日成主席が死んだ一九九四年七月八日以降、北朝鮮のメディアは金正日さんに対して書記という言葉を使っておりません。国防委員長あるいは最高司令官といった言葉を使っております。書記という言葉を使わないので、これは労働党の中のポストでございますが、労働党が金正日さんをペ一ジしちゃったんだと、こういう見方をする専門家もいるんですけれども、実は最近組織改編を行いまして、組織指導部を創立し、そして妹の夫の張成沢を第一副部長に置きました。むしろ親族による労働党指導体制が強化されているわけであります。ここを見ましても、労働党を金正日さんが掌握しつつあると言ってもよいと思います。いや、むしろ掌握してしまっていると言ってもよいと思います。  そして、先ほど申し上げました米国との交渉、あるいは後ほど申し上げますが軍事優先主義、国家のいろいろな建設現場も軍隊を動員し、いろいろなセレモニーも軍隊式でやるといったように軍事的なトーンを強め、また武器も増強していくという軍事優先主義という点で政策の継続性がございます。そしてその最高司令官として金正日さんがいるということですので、政策の継続性もあるということを考えますと、私は異変があるという結論を出すにはまだ早過ぎるのではないかと思います。  先ほどのに一つつけ加えますと、労働党の書記と呼ばずに最高司令官と呼ぶのはこのことと関連いたしますが、今、北朝鮮では労働党関係者よりも軍の関係者の方が格好いいということで、格好いい肩書の最高司令官という名前を大いに使おうという理由で金正日さんは書記というよりは最高司令官という肩書で報道されているのではないかというふうに、やや次元の低い解釈になるかもしれませんが思っております。  次に、東アジアにおける米国の再登場ということでございますが、北朝鮮の方には対米関係改善の意欲が非常に強いと指摘いたしました。米国もそれ以上に関係改善の意欲が強いわけであります。  私が昨年春に米国の国際会議に出ましたときに、米国の国防関係の学者は、米朝関係は既にソフトアライメントの時代に入ったと言いました。ソフトアライメント、なだらかな友好関係と訳せばよろしいでしょうか。これは米韓関係についての言葉ではなくて米朝関係でございまして、私は非常に驚きました。私はその会議で、いや南北対話も進んでいない、日朝関係も進んでいない、弾道ミサイルも開発し続けている、核疑惑問題についても完全に解消されたわけではなくて特別査察が行われるという保証もないときに、交渉の当事者である米国からソフトアライメントという言葉を聞きました、これは同盟に対する裏切りではないですかと、私がベトレイと言ったもので大変紛糾いたしまして、国際会議の三日間の半分がその議論で終始いたしました。  しかし、その後の展開を見ますと、どうも本当にソフトアライメントという状態であるとアメリカの人たちが考え、そしてそう考えている人たちアメリカの中で広がっている。そして、かつては共和党は米朝合意に批判的であったんですが、最近は民主党、共和党ともに、大体米朝合意を基礎にしてこれから米朝関係をやっていこうという点ではどうも一致していると見てよいというふうに変わってきているように思います。  いつ変わったか。特に昨年の十二月に一つの大きな変化があったと思います。十二月、ジョセフ・ナイ国防次官補、彼が職を辞する直前でありましたけれども、アジア協会で演説をいたしまして、ここで北朝鮮に対して追い込んではいけないということを非常に強調する発言をしています。この十二月を境に、米国からソフトランディングさせようという言葉が多く出てくるようになりました。北朝鮮を追い込んではいけない、ソフトランディングさせようということであります。また、このとき、今から考えますと水面下でオリンピック参加の説得が行われていた時期でありました。  また、私はその十二月、国防省、国務省を訪問したんですけれども、そのときに、ある国務省の担当者は、余り北朝鮮のイメージが悪過ぎて国際連合による支援もうまくいっていない、ワールドフードプラン、世界食糧計画による北朝鮮に対する食糧支援もうまくいっていない、これだったら、ほかの国々がどう言っても国務省が単独で北朝鮮を支援していくこともやぶさかではない、もうじき米国による食糧支援計画が始まりますよということまで言った人がおりました。その後、一月、そのように展開してきたわけでございますけれども、十二月にいろいろな意味北朝鮮に対する政策を変えたということではございません。ややトーンを変えた、トーンを修正したということが言えます。  具体的にどういうことかといいますと、米国が主導する、そして日本韓国の負担を期待する。かつ、韓国が反対していても、そこでは余り韓国の了解は事前にはとらない。日本が消極的であっても、これは第三次米支援でありますとか軽水炉計画に伴います重油の支援の問題でも日本は消極的姿勢でございますが、日本が消極的姿勢であっても、日米韓の一致を見ないままでも、アメリカが単独で北朝鮮のソフトランディング政策を具体化していきますという政策が十二月、一月にはっきりしてまいりました。  こういう意味で、今までの路線の延長上ではありますけれども、かなりトーンが変わってきたということが私は言えると思います。そして、このことは中国との政策とも関連しております。  先ほどお二方から関与戦略についてのお話も出ておりましたけれども、実は米国はこの北朝鮮の核疑惑問題を解決するに当たりまして余り積極的には前面に出てまいりませんでした。IAEA、国際原子力機関でありますとかあるいは国連を舞台に、あるいは中国北朝鮮説得という外交努力に期待しながら、北朝鮮の核疑惑問題をみんなで解決していこう、そこで米国は余り前面に出ないでおこうという時期が随分続きました。その後、米国は米朝交渉を始めました。始めてから、米朝合意が成立し、そして現在に至っているわけです。  ただ、米朝交渉が始まる以前は中国に随分足を引っ張られたわけですね。国連を舞台にして制裁決議をやろうと言いますと、中国は拒否権について言及する。経済制裁をやろうとすれば、私は中国は拒否権を発動したと思います。あるいは拒否権を発動する前に、あるいは国連でそういう議案を上程する前に、何とか過去の核疑惑を解明するために北朝鮮が査察を受け入れてくれるように中国が説得してくださいと日米韓は北京もうでをしたわけですね。すべて中国は、それもわかるんですけれども、北朝鮮を説得しようとしても彼はなかなか言うことを聞かなくてねという返事しかなかったわけです。  ですから、結局決め手になる中国というところで米国は足を引っ張られてしまった。そして、米国が乗り出して米朝合意につなげ、そして今は中国の関与なく、関与がないというのは、朝鮮半島エネルギー開発機構におきましても中国は参加しておりませんが、お金、技術、軽水炉、設備、マンパワー、いろいろな点で中国は貢献する余地がないわけです。つまり、朝鮮半島エネルギー開発機構をやりながら、米朝合意に基づいて十年以上のプロジェクトで核疑惑解消問題をやっていくということは、中国に余り茶々を入れさせないという発想と表裏一体になっているわけであります。ということで、対中関与戦略というものと密接に私はつながっていると思います。と同時に日韓の支援を確保していく。  そして、過去の核疑惑でございますけれども、これは後ほど若干触れますけれども、米朝合意を基礎にしてやっていくと決めた限りは、もう特別査察はできないと私は思います。特別査察をやろうとすれば、北朝鮮がNPTから脱退しますよと言いますと再び一九九四年十月二十一日の米朝合意前夜と同じ状況ができるわけですから、再び同じ内容の米朝合意を出さなければならなくなるわけですね。そういう繰り返しはできないわけですから、米朝合意に基づいた現在の米国のグラウンドデザインをよしとしてやっていく限りは、実は特別査察はうやむやにせざるを得ないという基本的な構造的な問題があると私は思います。  ということで、日韓の不満は残るんですけれども、過去の核疑惑を解明する特別査察はなかなか難しいのではないか。だからといって、朝鮮半島ですぐ戦争が起きるかといえば、戦争が起きるような兆候はなかなかない。オリンピックに選手団を派遣している間に、突然三十八度線を北朝鮮が怒濤のように南下してくるということは我々はなかなか想像できないわけです。むしろ北朝鮮は、過去の核疑惑という問題を残したことによって、北朝鮮アメリカの手のひらの上に乗っけたんだというのが今のワシントンの考え方なんです。  私は、日韓にとっては不満が残るし、それは率直に米国に言うべきだという考えを持っているんですけれども、少なくともアメリカ東アジア政策、あるいは核抑止戦略、あるいは対日、対韓政策の大きな枠組みの中では別に米国は大失敗をしたわけではない。ましてや経済制裁といううまくいかないものに手を出す必要もなくなったということで、これは外交的ヒットだと米国も考え、そして我々も、そう言われてみればそうかなというところで現在落ちついているわけであります。  以上、一、二、三、非常にバラ色のことばかり申し上げましたけれども、あと後半は悲観的なことばかり申し上げたいと思います。  韓国の安定に陰りが出てきたということであります。  これは、ことし四月に国会選挙がございます。また、来年は大統領選挙がございます。韓国は力というものが非常に重要でございますので、大統領選挙でも選挙の前の日は、韓国の候補者は、もう私は当選いたしました、御安心ください、私に投票してくださいということをしきりに言うんですね。あるいは選挙当日の二日前ぐらいになると当選という速報まで出るんです、投票される前の前の日なんですが。そうしますと、勝ち馬に乗れという文化のところですから、その人にわっと票が集まる。日本ですと、あと一票が足りません、皆様の一票があってこそ私は当選いたしますと言えば日本では票が集まる。つまり、明らかに日韓では、あるいは日本朝鮮半島では文化の違いがございます。力の文化と言ってよろしいでしょうか。  ですから、そういう意味で、力がなくなった人のところには余り国民の心は行かない、支持が集まらないということで、大統領も憲法上五年間の任期でございますので、大統領の任期が半分ぐらいになりますと途端に大統領批判が韓国の中で始まります。最近の韓国の中の金泳三の評判の悪さというのもその一つではないかと思うんですけれども、いずれにしましても任期が半分過ぎましたので非常に政治の季節を迎えているということになります。  特に、金大中さんが金泳三さんは広州事件の追及の仕方が生ぬるいと言ってまいりましたので、金泳三さんもやむなく、これだけ広州事件の追及を自分は厳しくやっているんだ、金大中さんの言っていることは正しくないんだという選挙にらみの、金大中さん対策として最近の盧泰愚さん、全斗煥さん逮捕事件というものも一つあると私は思います。それがすべてではございませんが、背景の一つとして考えられると思います。  また、先ほど申し上げましたけれども、対日意識の変化もございます。全体として民族主義が台頭していると言ってもいいと思います。  対米関係に関しましては、昨年、米韓安保協議会が、一年に一回行われている会議が行われましたけれども、ここで韓国は百八十キロ以上飛ぶミサイルをつくらせてくれと米国に議題を持ち出そうといたしました。これは、本来MTCRによりますと三百キロ以上はだめだということになっているんですけれども、米韓ミサイル覚書によりまして韓国に関しては米国が百八十キロ以上飛ぶのはだめよというのに無理にサインをさせてしまっているわけです。それに対して不満だということを韓国が言ったわけです。  ですから、韓国国防自立化ということに関して米韓間でかなりの意見の食い違いがあるということも言っていいと思います。ここらあたりに韓国国防建設における一つのナショナリズムというものも見られるわけであります。これは、結果といたしまして、米韓安保協議会では米国が取り上げなかったということで議題にはなりませんでした。  以上申しますと、大体韓国の政策は、さまざまな選挙の季節を迎え、また対日、対米政策もニュアンスが変わり、また南北対話、北朝鮮に対する政策についてもぶれが大きかったということで、このぶれの大きい場合は南北対話はなかなかうまく進まないということがございます。  あと、若干時間をおかりしまして、後半の方を少しはしょりながら申し上げたいと思いますけれども、レジュメの二ページでございます。  北朝鮮の軍備強化が非常に進んでいるということが一つ私は指摘したいことでございます。また、その軍事強化に関しましては、弾道ミサイルの開発でありますとか、あるいは高性能の戦闘機の生産でありますとか、あるいは火砲の増産といった点で長期的な視点を持って行われている。また、奇襲攻撃能力を持った軍隊をそのまま維持しているということもございます。  この五年間に、北朝鮮は旧ソ連から導入したミグ29の生産国産ラインを使いまして四十機のミグ29を獲得するに至りました。これも、北朝鮮ではお米は足りないけれどもミサイルはどんどん改良されミグ29の数がふえていくという奇妙な逆説が北朝鮮軍事にはございます。  また、昨年十一月でございますが、パキスタンを人民武力部長が訪問いたしました。これは、中国、中東、特にイラン、イラク、そして北朝鮮の間に石油、ミサイル技術、核技術あるいはミサイルの本体、弾道ミサイルですが、スカッドミサイルの本体のやりとりをめぐって一つの連鎖関係が見られるということが私は特色であると思います。  以上の軍備強化という点は、私は前半では、交渉が非常にいろいろなところで始まり、米朝関係が改善される方向にあるということを申し上げましたけれども、軍事面では何ら北朝鮮は変わっていないということを指摘したいと思います。  それでは今後どうすればよいかということをあと二分ほどおかりしまして申し上げたいんですが、東アジアでは、中国、米国、北朝鮮韓国日本ロシア、それぞれが同床異夢でございます。  中国は、KEDO号に乗りおくれたという考えがございます。また、北朝鮮の核開発を完全に阻止したいというよりは、むしろ優先順位が上にあるのは北朝鮮崩壊阻止ということであります。  また、米国は、戦争抑止と核不拡散体制を維持しようということが全体の優先順位の一番目にございますので、一〇〇%疑惑を解消しようというよりは、やはり戦争抑止及びNPT体制維持。これは北朝鮮がNPTから飛び出してしまうことを阻止するということですが、これが一番目にあるということになります。  また、北朝鮮の政策順位は、米朝関係、そして次は韓国に対する軍事優位の回復、次は日朝交渉をやり、そして最後に南北対話と。やはり南北対話は最後に位置づけられているということはどうも明らかなようであります。  また、韓国は、政策の順位の上にあるのが北朝鮮の核疑惑解消ではなくて、北朝鮮に対する政策はアメリカが主導するのではなくて、むしろ米韓で協調しながら、同時に韓国が主導権をとっていきたいというのが基本的考え方でございます。  レジュメの三ページでございますが、日本は第一に米国の政策を支援していこうということを考えるわけですが、同時に日韓友好関係を維持しつつ日朝関係を改善したいと考えているという点で、②と③に関しましては基本的なジレンマがあるわけでございます。  ロシアは、ロシアの内部の混迷ということもありまして具体的な政策として形となってあらわれておりませんけれども、ことし朝ロ軍事同盟が終えんいたします。新たな条約がどのような形で形成されるかということはまだ不明でございます。  そして、今後の展望と政策提言というところで六つほど指摘したいんですが、第一に、北朝鮮の核疑惑、そして弾道ミサイル開発問題が未解決であるということは重要であると思います。  特に、昨年二月、北朝鮮は新しい弾道ミサイルの試射の実験をしたと言われております。これがどうもノドンというミサイルよりもテポドンミサイルだったのではないかという観測もございます。スカッドミサイルからノドンミサイルに改良し、ぞして現在テポドンミサイルまで開発し始めているということは重要な問題でありまして、実はノドンミサイルからテポドンミサイルに改良するにはロケットを二段にしなければなりません。これは簡単な技術ではなかなかできない。  だれがこの技術を渡したか。見渡してみますと中国しかないわけですね。中国は果たしてそういうことをするだろうか。これは専門家の間で意見が分かれております。ただ、北朝鮮と比べれば、中国の非常に強力な核戦力をもってすれば、北朝鮮の少々の核弾頭とミサイルは中国にとっては武器と映らないと彼らがみなしているとすれば、若干の技術北朝鮮に流出させてもおかしくないだろうということが考えられます。  そして二番、一九九六年、米朝関係は大きく変わるということは私がきょう強調した点でございます。  そして、米韓間の不協和音も、これから米国が米朝関係を中心にやっていこうという考えを持っておりますので、不協和音は恒常化するだろうと思います。  したがいまして、今まで以上に日本は米国と韓国との緊密な協力が必要であります。不協和音をなくしていくべく緊密な協力が必要であると同時に、この三カ国の足並みの一致が必要であります。  また、それに加えまして、取り残された中国が巻き返し政策をするという可能性もあります。大胆な政策も当然予想されるわけでありまして、これは北朝鮮に対するてこ入れという形で起きる可能性があると思います。  以上のような戦略環境を読んで、日本はより積極的な役割を果たしていくべきだろうと思います。例えば米支援の問題につきましても、絶対反対と言っているばかりでなく、例えば食糧事情、農業事情に関する資料とか数値を出すことと引きかえに米を送りましょうとか、あるいはお米を送った後は国際機関が現地で管理して配布していこうと。実際、赤十字関係者が米を渡したりするんですが、その後に軍関係者が行って、さっき渡したのをちょっと返してくれと言ったかもしれないんですね。非常に情報が閉鎖されているところですから、あるいはそういうふうな疑いが生じてしまうというところも不幸なことなんですが、いずれにしましても情報の公開と絡み合わせながらいろいろな形の支援活動をしていくべきだと思います。  また、日米韓が中心となった協議機構ということも必要になるのではないでしょうか。現在、次官級の対話の組織ができております。一月、ホノルルでその会議が行われましたけれども、さまざまな問題を取り扱う工夫、常設的な機構というものもひとつ必要ではないでしょうか。  また、北朝鮮の弾道ミサイルとか化学兵器、あるいはミサイル技術の輸出入に関しましては、国際間のいろいろな対話の場がございますけれども、それに北朝鮮は全く参加しておりません。ということで、核疑惑問題だけではなくて、さまざまなMTCRとかCTBTといったような国際的な枠組みにも北朝鮮が参加するように奨励をしながら我々は北朝鮮と接していくことが必要ではないかということを結論といたしまして報告を終わります。  ありがとうございました。
  8. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) ありがとうございました。  以上で参考人からの御意見の聴取は終わりました。  これより質疑を行います。  前回同様、あらかじめ質疑者等を定めず、委員の皆様に自由に質疑を行っていただきます。質疑を希望される方は挙手を願い、私の指名を待って質疑を行っていただきたいと存じます。  なお、できる限り多くの方が質疑を行えるよう、質疑、答弁とも簡潔にお願いいたします。  質疑のある方は挙手をお願いいたします。
  9. 永野茂門

    ○永野茂門君 茅原参考人武貞参考人に、それぞれ一問ずつ続けて質問いたします。  茅原参考人に対する質問は、中国日本に対して、あるいは周辺に対してどういうような影響を与えつつあるかということについては、お話はよくわかりましたが、逆に、中国は一体日本の動き、軍事力だけじゃなくて、まあ軍事力中心で結構ですけれども、日本の動きについてどういうように感じているんでしょうか。脅威を感じているんだろうか。  私は、軍事的な問題で言えば、全く日本の脅威なんというのは感じていない、もう軍事的には無視しているような状況じゃないかと。これは単に中国だけではなくて、韓国も似たような状態だろうし、それから北朝鮮も似たようなものだと、こう思うんです。  かつて、ミグ25が亡命というか日本に着陸したことがありましたが、あのときのベレンコさんは、日本に近づくほど、おれは命が助かった、安全であると、こう思いましたということを我々の調査に対して答えています。大体そういう感じの環境といいますか、日本軍事力あるいは日本の政治のやり方というのは、頭下げてばかりおって、周辺諸国の言うことを非常によく聞く。したがって、もう全く日本の力というものは感じなくて、無視していいと、ちょっと言い過ぎな荒唐無稽的な申し上げ方をしていますけれども、そういうようなところにあるんじゃないかと思いますけれども、中国は一体どういうように感じておるんでしょうかということを茅原さんにお願いいたします。  それから武貞さんに対しましては、今、北朝鮮は奇襲能力を含む軍事力の充実強化というのは一応でき上がったと見ていいんじゃないかと、ミサイルだけではなくて、CBR、生物化学兵器、あるいは核疑惑がどうなっているのかわかりませんけれども、そういうものも一応そろった、いろいろと警戒しなきゃいけないと、こういうことをおっしゃいましたけれども、私は、一体北朝鮮はなぜそんなことをやっているんだろうかということがどうもよく理解できないんです。  アジアの国でそういう力を持っているのは、本日はロシアの話はほとんどありませんでしたけれども、ロシア中国、それからこの付近に来ているアメリカが非常にそういう総合された力を持っている。これに対して、確かにASEAN諸国その他の南の方の国は、中国等に対してある意味の脅威を感じながらも、しかし軍事的にはそういう対応は全くやっていないですね。台湾は確かに中国との関係、本土との関係がありますから若干そういう種類の戦力を保有しているわけですけれども、何にもそういうような脅威がない。脅威といいますか使用する場面があるとすれば、半島、自分たちの国の統一のために軍事力を使わなきゃいけないと思えばあるかもしれませんけれども、これも本当は軍事力でやろうとは思っていないんじゃないかと思うんですが、それはよくわかりません。  いずれにしろ、北朝鮮がなぜああいう力を持つんだろうか、それが北朝鮮が生きていくために、あるいは有利に生きていくためにどのように有効に働くんだろうか、どういうようにお考えかということをお伺いいたします。  以上です。
  10. 茅原郁生

    参考人茅原郁生君) 中国日本に対する見方についての御質問でございましたが、基本的に日本経済力なり潜在力については非常に高い評価をしていると思います。  それから、軍事力につきましても、どこで見るかということなんですが、事象的に申しますと、例えば日本海上自衛隊の力はアジア随一の海軍力であり大変脅威であるというような論文はあります。もちろんこれらはためにするところが多々あるわけでございまして、それは日本軍事大国化論を彼らが何かといえば振りかざしてくることと共通するものであろうかと思います。  しかし、まじめな研究者レベルのいろいろな会合等を通じて彼らが感じておるところを私が察知いたします限りでは、やはり日本が持つ潜在的な力、とりわけ中国が恐れております科学技術力というのはかなり高い評価がなされていると思います。中国では、最近、総合国力というような言葉が非常に使われるようになりましたが、その大きな要素は科学技術力であるという認識に立っております。  そういう観点で、例えば、およそ信じられないことですが、かなりなレベルの、軍で言えば大佐クラスの相当勉強したと思われるレベルでも、日本はひょっとしたら核武装をする、その決断さえすればいつでもできる国であるというようなことを本気で言っております。ですから、これらの私が接触する限りをもって中国すべての見方というわけにはまいりませんが、かなり潜在力を評価していることは間違いなかろうと思います。  特に、彼らの日米安保体制というものの評価、これは時代の流れで動いてまいりましたが、現在は非常にこれを肯定的に見ております。それは日本でも一時言われました瓶のふたというような意味において肯定をしている。したがって、当面の国際情勢の中で日米安保体制なりあるいはアメリカの駐留というのは認めざるを得ないけれども、しかし中国の本当の気持ちからいうと、主権のある国が外国の軍隊を駐留させることは嫌ですよ、我々は一兵たりとも外国軍を駐留させませんという彼らの宣伝文句にまた返ってまいります。  もう一つの事例からいいますと、日本が現在研究を進めておりますTMDに対しましても非常に過剰な反応を示しております。そういう意味で、それは我が国の力というものに対する評価なのか日米体制というものに対する評価なのか判然としないところがありますが、先生がおっしゃるほどにばかにはしていない、むしろ非常に何となく底力に対する恐れを抱いているというように私自身は認識しております。
  11. 武貞秀士

    参考人武貞秀士君) 何のために北朝鮮はその軍事力強化し、伝えられる核兵器を持とうとしているのだろうかということでございますが、二つの見方があると思います。  一つは、北朝鮮はもう社会主義が行き詰まってしまって、生き残りたいんだと。できるだけいい条件で生き残るために、危ない飛び道具とか核を持って、いい条件をいろんな国から出してもらって交渉しながら、できるだけいい条件をもらったらワンツーのスリーで軍事力解体して平和な一員になろうと思っているのだと。つまり、体制生き残りのための手段として強力な軍事力を持っているという解釈があります。ですから、この説に従いますと、どんどんお米とかお金を北に送れば、どんどん北は態度が柔軟になっていき、軟化していくという結論になるんだろうと思うんです。私は、これは全く読み間違いだと思うんです。  もう一つの見方は、先生が御指摘されましたように統一のための軍事力という解釈でございます。私はこの見方しかないと思うんです。実際、金日成さんも、一九九五年は統一の年だという言葉を言ったことがあります、去年という時期は過ぎてしまったんですが。また、朝鮮人民軍が創立されたときには、政権は銃口から生まれるという中国の教訓にも学んだという資料もございます。  憲法にもありますように、マルクス・レーニン主義に基づいて発展させたチュチェ思想という考え方に基づいて国家が運営されているわけでございますので、私は、北朝鮮は統一を目的とし、かつ交渉と軍事力というものを両輪として現在政策を展開していると思います。  ただ、統一のための軍隊であるとすると、米国は強い核抑止力を持っている、通常戦力北朝鮮の軍はおもちゃみたいなものだ、だから統一のための軍として用はなさないので、統一もできないから北はもう大丈夫と言っていいかどうかということであります。  私はそうではないと思うんです。それはもう米国の立場からは危なくはないと言えるかもしれませんけれども、既に敦賀に届くミサイルを北朝鮮は持っているわけでありますし、また国内的な不測の事態が起きれば、それは限定的な紛争ということも起こり得るわけです。また、交渉の段階で、あるいは限定的な戦闘が起きたその次の交渉というステージでも、軍事力を使う、あるいは使うことを示唆することによって交渉を有利に運ぼうという発想もあるわけですね。これは実際、南北対話の席で北朝鮮韓国の代表に対して、おまえ言うことを聞かなかったらソウルは火の海になるよと言ったということもあります。  彼らの発想では、交渉と軍事力を両輪と言いましたけれども、その交渉の中にも軍事力の心理的活用ということが織り込まれているという点で、私たちの想像以上に北朝鮮軍事力というのは、実はアメリカの核抑止力のもとで、あるいは第七艦隊の力の前であってもいろいろ使い道があるものであるがゆえに、日本はその点を米国に対しても積極的に言っていくべきだろうというふうに思っております。
  12. 永野茂門

    ○永野茂門君 ありがとうございました。終わります。
  13. 笠井亮

    ○笠井亮君 三人の参考人方々、どうも貴重な御意見ありがとうございました。大変興味深く伺いました。  三人の方々に簡潔に御質問させていただきたいと思います。  まず最初前田参考人ですけれども、お話を伺いまして、それから事前の資料にある論文も拝見したり、いろいろ本も読ませていただきましたが、アメリカ東アジア戦略に沿った安保の再定義に問題があるというのは御指摘もされていると思うんですけれども、それは大変大事なことだと思うんです。私は、まさに今の新しい事態のもとで死活的重要性を強調しているという中身になっているんじゃないかと思うんですけれども、前田さんがおっしゃっている中で、ARFに日米位置づければいいではないかというお話があるんですけれども、果たしてそれでいいんだろうかと私ちょっと思うので、その点について伺いたいんです。  ARFの中で一番私はっきりしていると思うのは、アメリカにとってのARFの位置づけじゃないかと思うんですね。昨年の会議のときに、クリストファー国務長官がARFについて、アジア太平洋地域における我が同盟関係と我が軍事前方プレゼンスに対する決定的に重要な補足だと、補らものだという位置づけをして、いわば軍事力を背景にした経済覇権主義の態度をあらわにしていろというふうに私受けとめたんです。では、そこに日米位置づけ、安保を平和的に再定義していくということになりますと、そうした米戦略への補完ということになっていかないかということを私危惧するんですけれども、その点についてどうかということ。  それから、あわせてなんですけれども、防衛大綱の見直しの問題で、前田先生も自衛隊の任務拡大になることについては批判的な御意見をお持ちだというふうに私理解をしているのですけれども、では今回の新防衛大綱についてどうごらんになっていらっしゃるか。それに対して合憲の最小限防衛力ということを主張されていると思うんですけれども、それは憲法に照らしていくと、違憲の自衛隊あるいはそれに類する自衛的軍事力を法的に認知する議論にならないだろうかということについて御意見をいただければと思います。  それから茅原参考人に対してですけれども、核実験の問題、中国は依然としてやると言っていて、やっぱり核兵器が国家の存立だとか自衛のために不可欠だというふうに主張しているというのは、私もまさに核保有国の集団覇権主義とも言っていいような重大な問題だというふうに受けとめています。  同時に、中国の脅威という問題について分析的におっしゃったことに関連して、かつてそうだったことがあるにしても、今、安保強化を唱えている人の中で一部に言われているような形での軍事的脅威かどうかというと疑問じゃないかというふうに私も思うんです。アジアから見れば、自国か守るのではなくて外に出ることだけが目的な殴り込み部隊であるようなアメリカの空母、機動部隊とか海兵隊もいる日米軍事同盟こそ一番脅威と言ってもいいんじゃないかという感じもするんです。  私、茅原参考人に伺いたいのは米中関係なんですけれども、台湾や人権問題などで一定の緊張や矛盾はあるにしても、最近の中国のいわゆる国防報告というんですか、そういう発表なども通じながら、中国アメリカとの戦略的関係自身は引き続きやっぱり重視しているようにも思われるわけなんです。アメリカの関与戦略とおっしゃいましたが、それに対して中国側が具体的にどういう反応をしているかということについて、あれば教えていただきたいと思います。  それから、武貞参考人に対しては一つなんですけれども、最近の米朝間の動きということで、平和攻勢という問題とかそれからソフトアライメントということで大変興味深く伺ったんですけれども、二月八日の毎日新聞だったと思うんですけれども、北朝鮮が孤立を脱却するためにアメリカとの軍事同盟を目標に活発外交を展開しているという形での特集記事が報道されていたと思うんです。北朝鮮の側がアメリカとの関係を果たしてそういうところまで持っていこうと思っているのかどうか、どこまで考えているんだろうか。それから、軍事同盟関係というようなことで目標にしているということがあるとすれば、アメリカの側は、先ほど対応をおっしゃいましたけれども、そういう点についてはどんなふうに考えているのか例えればと思います。
  14. 前田哲男

    参考人前田哲男君) 大変大きな御質問をたくさんちょうだいしましたので、限られた時間の中でうまく答えられるといいんですが。  ナイ報告に関して私が死活的重要性をもはや安保条約に持っていないのではないかという評価をしたことに対する疑念が最初にあったのではないかと思います。  確かに、ナイ報告全体を読みますと、冷戦後の安保の位置づけに関してアメリカの意図がはっきり出ていることは確かですが、先ほども申しましたように、八〇年代、ソ連と海の核の制覇をかけて安保条約を運用していたそのときアメリカにとって感じられていた死活的重要性はもはやなくなったということは、まさにナイ報告の中に、明言されておりませんが、注意深く読んでいくと明らかに読み取れることである。つまり、アメリカにとって日米安保の有用性はランクが下がった、選択的、限定的になった、その中で新しい安保の運用条件を求めている、したがって再定義ということになるんだろうと思うんです。  先ほども言いましたように、三つ条件、読みますと、「大統領は、日米両国関係の全体が、」「安全保障同盟、政治的な協力経済貿易、の三本柱で構成されていることを明確にしている。」というふうに「日本」という項目で指摘していることであって、軍事同盟としての側面だけでないということをわざわざ明らかにしています。さらにそのくだりの中にある言葉で、「われわれは、貿易摩擦がわれわれの安全保障同盟を損なうことを許してはならないが、他方、この同盟関係に対する国民の支持が長期にわたって維持されるためには、日米双方が根源的な経済問題に取り組んで、前進を継続していかなければならない。」、このような記述は冷戦時代アメリカ報告には全くなかったことです。むしろ経済問題と安保を切り離して論じるというのが作法でありました。ここでは明らかに違うタッチが見えてきている。そこに着目する必要がある。  そこで私は、アメリカにとっての再定義は、安保が対ソ抑止、核抑止の時代に比べて有用性を低下させているという大きな前提のもとでつくられているというふうな評価をしているわけでございます。  そこで、アメリカは再定義の中で、一つ極東範囲を事実上地球的規模に拡大するという枠の取り払いが第一点であります。これは文の中に明確にあらわれできます。第二点が、防衛分担のさらなる増加、これも「アジアに米国の前方。プレゼンスを継続する理論的根拠」という七つか八つ挙げた中にそのことが明記されています。日本から防衛分担金をより多く出すよう望むという趣旨であります。それと集団的自衛権の行使に道を開くということがアメリカ三つの再定義の大きな条件であろうと思うんです。  これらは、それぞれ冷戦後のアメリカの安保観、ひいては日本の持つ軍事位置づけの変化をうかがわせるものであって、それは八〇年代の海洋核のせめぎ合いの中で位置づけられた日本に対するイメージを修正するものであると受けとめなければならない。そういうところから日本の安保再定義に対する態度の決定が必要であろうというふうにまず考えるわけであります。  たくさん質問がありますので次に移らせていただきますが、私は、好ましい安全保障環境をつくっていくことの重要性を指摘する中で、二国間の軍事同盟枠組みから多国間の枠組みをつくることが望ましいのではないか、それはARFのようなアジア太平洋地域を包含した、ヨーロッパにおけるEU、CSCEのような多国間の安全保障機構ないし協力機構の枠組みに移していくことが必要ではないのかということを提案したことがございます。現にそのような考えを持っております。  ARFはその一つのサンプルでありまして、これがすべてでありこれ以外にないというものではないと思います。ARFを即座にEUのような形にするということはとても現実的ではございません。そこに至るまでに何ができるのか、そこに至るまでにまず着手できることがあるのではないかということから始めていかなければならないだろうと思うんです。  シーレーンは、強調されますように日本にとって大変重要なものである、不可欠のものである。シーレーンの保全、安全維持は日本安全保障の前提であると言って過言ではないと思います。その中で、今、ソ連太平洋艦隊という強大な戦力が崩壊し、また茅原参考人から指摘されたとおり、中国海軍近代化もまだ低い段階にある。こういったいわば力の空白の時期に、シーレーンの安全を軍事力によってではなしに、別の形の保全のための協力機構によって補っていく、そういった地域協力も可能ではないのかということを考えているわけです。  例えば、マラッカ海峡における海賊、それから近年、九三年、四年にかけては東シナ海で中国の船による海賊行為が散見されました。そういった事態に対して、軍事的な対応をするより、地域協力的な海上保安協力のシステムがございましたならばそこで対応できる。さらに、アジアにおける自然災害、さらに原子力発電所がアジア各国に大変ふえていることから生じる潜在的な日常的な脅威である巨大災害に対して対応していくということも安全保障枠組みの中で当然考えなければならないことであろう。  そういったことを積み上げながら、そのトータルとして例えばARFのようなものということでありまして、決してアメリカが言うような二国間安全保障条約を補足する、補完するようなものの中に日本が入っていくということではないと思います。また、アメリカのクリントン大統領が日本に参りましたときに、早稲田大学の演説で新太平洋共同体という概念を明らかにしております。アメリカの中にもやはり多国間の地域安全保障地域協力念頭に上っているということを重視しなければならないのではないかというふうに思います。  第三に、防衛計画の大綱が十九年ぶりに改定されて新大綱というものができたわけでありますが、これに対する評価を問われましたので私の考えを簡単に述べますと、防衛計画の大綱は、言うまでもなく日本の防衛政策の基本になるものでありまして、そこから中期防衛力整備計画、各年度予算が紡ぎ出されていくわけでありますから大変大事なものであります心そして、時間からいいますと随分かかったものでありますが、残念なことに特色がまるではっきりしていない。何を防衛大綱の基礎にするのかが明示されていない。  例えば、一九七六年、防衛計画大綱が最初に出ましたときには、デタントという当時の国際情勢の緊張緩和を背景にして、それまでの所要防衛力にかえて基盤的防衛力を採用するんだというはっきりした理念が明らかにされておりました。そこにおいては、専守防衛を実施するために平時における警戒力という防衛力の位置づけがなされましたし、それ以前の通常戦力による局地戦以下の侵略事態に対処するという所要防衛力構想から、限定的かつ小規模の侵略事態に対処するという転換が極めて明確に打ち出されておりました。したがって、賛成するにせよ反対するにせよ、その防衛力計画が何を目指し、どこに特色があるのかということを容易に識別できたわけですが、今回の防衛計画の大綱で不満なのはまさにその点であります。  そもそもこの大綱は、細川護煕総理が軍縮のためのプログラムという趣旨の演説を自衛隊の中央観閲式のスピーチでなされて、それがきっかけで、防衛問題懇談会が防衛計画大綱の改定を答申するために持たれたという経緯を持っております。その意味で、旧大綱のデタントより、より根源的な冷戦崩壊という事態を受けて、しかも総理大臣が軍縮の大綱と指示したものでありましたから、期待する方としては大変目覚ましいものが出てくるだろうと思っていたにもかかわらず、それが出てきていないという不満があります。  もう一つは、この大綱が出たのは昨年の十一月二十八日でございましたか、それで十二月の初旬には大綱に基づく中期防衛力整備計画が策定されましたが、本来、十一月十六日にクリントン大統領が来日して日米首脳の間で安保再定義がなされるというスケジュールの中でこの防衛計画の大綱は設定されたと読み取れるわけなんです。日米安保条約、安保体制に関する記述が大変ふえているところにもそれは明らかだと思います。しかし、現実にはクリントン訪日は延期されました。にもかかわらず、そこでなされるはずであった安保再定義が、この大綱の中には実はもう先取りされてしまっている。大綱と中期防は、幻のクリントン・村山共同声明を取り込んでしまっているというところがございます。そういう意味で、防衛政策の土台というより、極めて政治色の強いものであるところにまず私は疑問を感じます。  そのほか、内容に関してたくさん申したいことがありますが、大まかなところで申しますとそういうことになります。
  15. 茅原郁生

    参考人茅原郁生君) 御質問の趣旨は次の三点と受けとめました。一つは、中国の核は本当に脅威なのかということであろうかと思います。もう一つは、米中関係が戦略的関係になるのではないか、中国はそれをどう見ておるか。三つ目は、米国の関与戦略中国はどのように受けとめておるかということであったかと理解いたしました。  まず、中国の核についての問題でありますが、先ほどもちょっと御紹介いたしました一九八七年に解放軍報に載った張健志という人の中等核保有国家の核戦略の私見という論文が非常に体系的で、その後もいろいろ出ておりますが、割かし基礎となる見方が出ております。いろいろ述べておりますが、大きく二つほど私は申したいと思います。  一つは、中国の核は通常戦力を補完するものだという認識が非常に強うございました。もっとも、この時代の背景が中ソ対決が非常に厳しい時代でございましたので、北の脅威へどう対処するかということがあったと思いますけれども、しかしその観点に立つならば、現在の中国の核開発の動向を見ても懸念すべきで、むしろ脅威と言っていい様相があります。  それは、現在の核実験が、弾頭の小型化が進んでおり、その小型化はもちろんICBMの弾頭の多弾頭化のためだとも言われますが、もう一つ中国が進めておる短距離あるいは中距離ミサイルの弾頭用だという見方があります。これは現実に、中国は東風3号という二千五百キロレンジのミサイルを持っておりましたが、これが今六十基展開をしております。さらに、これの後継と思われる東風21号という新たな中距離弾道弾を開発しておりますが、ミリタリーバランスの評価によりますと、最近これが十基ということで、言うならば短距離、中距離ミサイルがふえておるわけです。さらに戦術核が開発されておる。  とするならば、中国の言う自衛というのは基本的には米国、ロシアを意識した巨大な核に対する核防護だったんですが、核防護を唱えながら、実は射程的には周辺諸国を射程に入れる核をふやしておる。私はこの事実は見逃せないのではないかという気がいたします。  もう一つは、中国は、冷戦期に核は結局使えない核であったという認識を示し、その延長に立って中国の対外戦略を支える実体であるというような表現をしておるわけです。とするならば、とみに大国志向を強める中国が、世界戦略といいましょうか対外政策を展開するときに、この核というものをいろいろな形で無言の圧力として使ってくる可能性がある。そういう意味では、今後、総合安保的な観点に立つならば、やはり中国の核は脅威と言わざるを得ないのではないかという気がいたします。  二点目の、米中関係は戦略的関係になっておるのかということでございますが、私は、そのとおりだと思いますし、中国はそういう意味で米国との関係を重視していると思います。  幾つかの事例で申し上げてみたいと思います。  一つは、李登輝訪米を契機にあれだけ厳しい米中関係の緊張があったわけですけれども、昨年秋の国連五十周年記念における江沢民の訪問に当たり米中首脳会談が開かれましたが、この会談内容は、報ぜられるところそれほど厳しいものではなかった。そういう意味では、大国としてのダブルトラック的な分野というものをかいま見せたのではないか。  さらに、そこに随行した銭其シン外相がたしかアメリカの外交政策協会かなんかで講演をしておるんですが、その講演で、割かし中国が使う決まり文句なんですが、アメリカは先進大国である、中国は開発途上大国である、ともに大国として、アジア太平洋地域のみならず世界の平和と安定のために大きな責任を共有しているというようなことを言っているわけです。やはりそういうところから見ましても、大国を自認しあるいは志向する中国としては、大国という立場に立ってともに利害を共有する部分があるということを認識しているのではないかと思われます。  実態的にも、例えば中国の最近のGNPは、九四年で見ますと四六%が既に対外的なものに依存している。その中国の対外交易の中で、統計上日本が第一位なんですが、ひょっとしたらアメリカ日本を抜いているかもしれない。それは香港経由の交易量をどう見るかによってこの見方は違うんですが、いずれにしてもアメリカとの交易量は、輸出入で若干違いがありますが、平均すると二〇%以上である。とすると、中国のGDPの一〇%近くはアメリカに依存せざるを得ない体制にあるんじゃないか。  とすると、中国からすれば、やはりアメリカとの関係を重視せざるを得ないのではないかという見方に私は立っております。そういう意味で、台湾というとげを挟みながらも、米国と中国の関係は緊張と協調が繰り返されるのではないかと申し上げたゆえんであります。  そこで、米国が中国に展開した関与戦略に対してでありますが、私は中国がこれを正しく受けとめ、言うならばねらいとした関与が正しく行われていけばいいと願っている一人ですけれども、しかし、少なくとも現在までの事象から見ると、どうも正しくは受けとめられていないような気がいたします。  中国の立場からしますと、ジョセフ・ナイがせっかくいいことを打ち出した、しかも、彼のイニシアチブででき上がった東アジア戦略は三回も修正をしてでき上がった戦略である。にもかかわらず、去年の事象を見ますと、中国の嫌がるベトナムアメリカの国交正常化をやってしまった、李登輝訪米を受け入れたじゃないか、日本とはTMDをやっているじゃないか、これらの事象を見るとみんな中国包囲網の形成じゃないか、むしろ中国の封じ込めではないかと、中国の立場に立てばそういうことを言っておるわけですね。ある程度の客観性はあるかもしれません。その中で、たおこの関与戦略を有効たらしめる努力というものがこれから問われるんだろうと思いますが、現在までのところ、中国は正しく理解し受けとめていないように思われます。
  16. 武貞秀士

    参考人武貞秀士君) 北朝鮮と米国は米朝軍事同盟を本当に考えているだろうかという御質問でございましたけれども、結論から申しますと、全く考えていないというのが私の見方でございます。  立論は可能だと思うんです。例えば体制の存続を保障してほしいので強力な軍事力を北は求めているのだという考えに立てば、北朝鮮軍事同盟アメリカとの間で望んでいる、これほど体制を保障してくれる装置はないということになりますので、その前提に立つ限りは立論は可能だと思うんです。しかし、私が先ほど申し上げましたように、もう一つ先の統一ということもにらんで北朝鮮が政策を組み立てている限り、かえって障害になるのが在韓米軍あるいは米韓同盟関係であるということを考えれば、米韓同盟関係をやめさせて、あるいは在韓米軍をやめさせて、そして米国との関係で米朝同盟関係を締結しようという発想、この発想を持つはずがないと私は思うんです。  それで、昨年、セリグ・ハリソンが在韓米軍は置いておいてもよいと北朝鮮から言われたという話が報道されたことがあります。あるいは先ほどのソフトアライメントという話も、アライアンスという言葉とちょっと混同しやすいんですけれども、アライアンスというのは同盟という言葉なんですね、こういったことからいろいろ立論が出てくると思うんですけれども、しかしながら北朝鮮は、統一というものが最終的にあって、そして在韓米軍を引いてくれるまでは米朝交渉をうまくやっていこう、こういう政策だと思うんです。ですから、あるときは交渉で態度を軟化させる、あるときは軍事力をちょっと削減してみる、しかしあるときは軍事力強化するということもあるんですね。  軍事力強化するというのは矛盾するじゃないかということになると思うんですが、この数年間の事態の展開を考えますと、むしろ米国の中では、核疑惑問題がぐっと盛り上がっていくのと並行して、余り北朝鮮を刺激するので北が核に手を出したじゃないかということで、CATO研究所とか幾つかのシンクタンクは、在韓米軍の見直しとか、あるいは在韓米軍はもっと減らそうじゃないかという提案を出してきているんです。奇妙なんですが、北朝鮮軍事力強化すればするほど、かえって在韓米軍あるいは米韓同盟関係を薄めていこうという話が米国のワシントンから出てくるという現象がありましたので、軍事力強化ということと北朝鮮の統一への接近ということは必ずしも矛盾しないんですね。あるいは交渉の軟化ということとも矛盾しないということで、北朝鮮は、統一を最終目標に置いている限り、在韓米軍の撤退ということについては最後まで要求すると私は思います。  米国は米朝同盟をどう考えるかということですが、米国は北朝鮮の体制の変化を促したい。ですから、今の体制を完全に保障してしまうような米朝同盟関係はむしろアメリカにとっては禁物だということだと思うんです。  あるいは、アメリカの人たちの使うソフトランディングという言葉の中には東欧型のことも考えていると思うんです。これは、体制の緩やかな転換ということだけじゃなくて、なだらかな崩壊といいますか、崩壊とそして韓国にのみ込まれるというシナリオも含めてソフトランディングという言葉を使っていると思います。  そのときに、米朝同盟あるいはピョンヤンに在朝米軍なんかがあるとすれば、これは米国の政策にとっては全く相入れないということになりますので、米国は米朝同盟関係について真剣には考えていない、むしろ現在の政策に逆行するものだというふうにとらえているということで、同床異夢ではあるんですけれども、米朝は現在の交渉の中でそれぞれの利益を拡大しようと考えているということで、同盟関係ということはもう発想さえないというふうに思います。
  17. 山本一太

    ○山本一太君 武貞参考人一つだけちょっとお聞きしたいと思うんです。  先生のお話ですと、いわゆる北朝鮮については、現体制が崩れるとかそういう可能性は余りないという話で、金正日は基本的に軍を掌握していて、労働党も掌握していて、しかも北朝鮮の政策に継続性があるという話だったんですけれども、果たしてそうかなという感じを私は持っております。  先生のお話からいくと、最近の三十八度線の動きなんかもすべて外交交渉をねらった動きであって、本当に南に軍事侵攻していく気持ちはないというふうなこともおっしゃっているんですけれども、やはり北朝鮮という国の成り立ちとか、先生がさっきおっしゃっていた赤化をするという思想の強さから考えて、偶発的に本当に侵攻してくる危険性も依然あるんじゃないかというふうに私は思っているんですけれども、そこら辺のところをもう少し先生の方からお話を伺いたいと思います。
  18. 武貞秀士

    参考人武貞秀士君) 偶発的な戦争の可能性というのは、私はもちろんあると思います。ただ、昨年後半の軍事力の動きについては、北朝鮮が戦争を覚悟し始めた、あるいは南への軍事的なプレッシャーが強まって危険が高まったと見るかどうかという点については、私は否定的であります。  具体的な内容も、ミグ17とかミグ19を南の方に移動したということが中心でございますけれども、ミグ17とかミグ19でもって三十八度線の周辺の軍事的なバランスがもし崩れるのであれば、在韓米軍のF16は一体何だろうかということになります。むしろ私は、米国とか韓国から軍事的な動きをモニターされていることを知っている北朝鮮が、軍事施設を半地下に収納するということをずっと北朝鮮努力してきていますのでモニターされているということを知っていると考えていいわけですが、知っている北朝鮮が、あえて見えるように、わかるように移動したということの方が重要ではないだろうかと。しかも、非常に旧式の兵器であった。  つまり私は、これは軍事的なプレッシャーを強めながら、国連の世界食糧計画をもっと円滑に進めてほしいとか、余り追い込むと北朝鮮が暴発しますよというムードを盛り上げる一つのテクニックだったんではないかというふうに考えました。これは専門家の間からはちょっと深読みし過ぎじゃないかと言われたりするんですけれども、そういうふうに私は思います。  それと関連して、最近北朝鮮は交渉の場で、軍がなかなか米の支援に対してはうんと言わないんだという話が出たりしております。これも私は北朝鮮の中で意見二つに分かれているということはちょっとあり得ないと思うんです。しかも、仮にあっても、それを外国の人に話すということはちょっと考えにくい。にもかかわらず北朝鮮が話すということは、一種の心理的効果をねらって、二つに分かれているんだということをあえて外国にアピールしているような、そういう印象を受けるんです。  どういうことかといいますと、軍がうんと言わないんだ、それぐらい軍は強いんだと。だから交渉を通じて、外国からお米とか重油とかお金を受け入れることに熱心である外交部の人たちを、もっとアメリカ日本韓国はサポートしてくれないと軍に負けてしまうじゃないですかというふうに流れを持っていきたいと考えている軍プラス外交部の人たちが一種の心理作戦をやっているんじゃないかというふうに私は考えております。
  19. 清水澄子

    ○清水澄子君 三人の参考人にお尋ねします。  まず前田参考人ですが、さっき、冷戦後、同盟がいまだに残されているのは日米安保条約米韓相互防衛条約だというふうにおっしゃったんですが、米韓相互防衛条約日米安保の再定義というものとはどういうふうな関係になるのか、その評価についてお聞きしたいと思います。  そしてもう一つは、先ほど、アメリカが最近日米安保に期待するものというのはランクが下がったと、軍事的な面のみではなくて貿易、経済面での役割というのを強調しておられるわけですが、日米安保で貿易、経済役割強化するというその内容というのは一体どういうものなのかということです。これをお聞きします。  それから茅原参考人には、中国の市場経済の伸展と国防軍の近代化の関係をどのように考えていらっしゃるかということ。  それから、第二点目は中国台湾との関係ですけれども、その場合に、中国軍事的な示威行動の意図というものが台湾の独立への警告だけなのかということです。例えばチベット問題とか中印国境問題への影響等をも示唆したものであるのかどうか、その点をお聞かせください。  それから武貞参考人に対しましては、私きょう、最近の米朝関係のありようを見まして、アメリカ東アジア戦略の外交手法というものを非常に興味深く伺わせていただきました。そうしたアメリカ北朝鮮政策と、KEDOを進展させる場合に日朝正常化というのは非常に大事なテーマになるんじゃないかと思うんですが、その点日本北朝鮮政策というのは、やはりアメリカ韓国との、そこを一体でいこうというと非常に無理がいくと思うんですが、その辺はどのようにお考えになっていらっしゃるかお聞かせください。
  20. 前田哲男

    参考人前田哲男君) 私、先ほど、冷戦時代の二国間条約で北東アジアに現存しているのは日米安保条約米韓相互防衛条約二つになってしまったというふうに申し上げました。機能している軍事条約はこの二つしかないと思いますが、まさにそれを再定義することこそ冷戦後におけるアメリカ北東アジア戦略の核心であろうと思います。  そして、その方向はナイ報告にも明らかですし、同時にナイ次官補がその後議会の公聴会でありますとかスピーチでありますとか記者会見で敷征しているところに明らかなとおり、朝鮮半島における危機管理が重視されているということは明らかだろうと思います。二〇〇〇年までというような期限を切って日米安保再定義の有効性、有用性について言及しているところもあります。したがって、先ほどから繰り返しますように、無条件、無限定でアメリカ日米安保の延長、維持を望んでいるのではなしに、選択的、限定的な安保の位置づけから派生じた再定義であるというふうに私は考えるわけです。  その最大のポイントが、日米安保条約米韓相互防衛条約の実質一体化という言葉が当てはまるかどうかは別としまして、運用における一体性、そしてそれは北朝鮮に向けられている。ただ、注意しておかなければならないのは、冷戦期と明らかに違って、チームスピリット演習で試みられたような十日間で圧倒し去るエアニフンド・バトルのような形の軍事介入をアメリカが求めているのではないということです。  武貞参考人から詳しく説明がございましたように、アメリカ朝鮮半島における危機管理は、明らかにKEDOという大きな枠組みの中に核疑惑の武装解除をさせ、かつソフトランディングさせるというところに置かれている。戦争における解決ではなしに、交渉の場においてKEDOという枠内に誘導することがアメリカの目的であって、そのための圧力を軍事力によってということだろうと思います。  このパターンは、湾岸危機から湾岸戦争がそうでしたし、ボスニァ・ヘルツェゴビナにおける話し合いのテーブルの枠組みをつくっておいて空爆によってそこに追い込んでいくというパターンもそうです。つまり、軍事力を見せつけ、それをシグナルとして発信しつつ、しかし交渉の枠組みの中に追い込んでいくという選択的介入・抑止の理論がここでも試されているのであろうと思います。そのために、沖縄における在日米軍四万七千の中核部隊、海兵隊の位置づけがあるはずですし、その揚陸部隊を最短距離で朝鮮半島に運ぶための揚陸艦が佐世保に五隻常時待機しているということにもなるだろうと思うんです。  そういう意味で申しますと、再定義は、まず朝鮮半島における事態に対する備えという側面が一番大きい。その限りで言えば、米韓相互防衛条約というもう一つの生きているアメリカの二国間条約との一体性、一体的運用性もまた注目しなければならないだろうというふうに思います。  もう一点お尋ねを受けましたのは、安保協力の中にある経済協力の内容というのは一体何であろうかということでございました。  日米安保条約は、アジアにおいてアメリカが外国と結んだ条約の中では経済協力条項を持った唯一の条約であります。NATO条約にはこの条項がございますが、アジア太平洋ではアメリカはこういった条項を含んだ条約を結んでいないということは注目される点だと思います。つまり、軍事同盟のみではなしに、経済協力条項をも含む条約であるということを念頭に置かなければならないと思うんです。  ただし、その運用において安保は、特に冷戦期、八〇年代以降になりますと対ソ共同抑止、核のせめぎ合いに対する日本協力という形で運用されるようになりました。つまり、軍事的な協力日本アメリカに寄与してくれる限り、経済的な協力条項でアメリカにとって少し不利であってもこの問題を一体化させないという政策が特にペンタゴンによって極めて慎重にかつ明確にとられてきました。これが崩れるのはFSXの共同開発のときです。冷戦期の一番おしまいのあたり、商務省が初めて安保の中に入ってくるのはこのFSXのときであります。それ以前にはこういった事態は起こってこないんですね。つまり、安保における経済軍事の分離は完全に行われていて、そして、軍事面で日本アメリカの要求を満たす限り、アメリカ経済面における要求を強く出さないという態度が維持されてきました。  しかし、ナイ報告は明らかにそれからの転換を告げております。先ほど読み上げました項目がそうです。「貿易摩擦がわれわれの安全保障同盟を損なうことを許してはならないが、他方、この同盟関係に対する国民の支持が」、「国民の支持」というのは米国民の支持が「長期にわたって維持されるためには、日米双方が根源的な経済問題に取り組んで、前進を継続していかなければならない。」というくだりがそうです。つまり、ここでは軍事経済の分離、アメリカ日本軍事を重点的に求めるという態度から両方を一体化した形にしていくということが告げられているんだろうと思います。  その意味で、安保条約にある経済協力条項は、日本に対する規制の緩和でありますとか見えない貿易障害でありますとかといったものを是正させるアメリカ側のてこにこれから使われる。つまり、安保条約経済協力条項があるのはこのためであるという形で出てくる可能性もあるだろうと思います。ナイ報告はそのことを明示はしておりませんが、示唆はしているというふうに思います。
  21. 茅原郁生

    参考人茅原郁生君) 最初の、中国の市場経済が発展をすることが国防近代化や軍の存続にどう意味を持つかということでございます。二つ観点から私の考えを申させていただきます。  一つは、中国が現在、社会主義市場経済とまで言い切り、経済面ではまさに資本主義的手法で経済を発展させておる中で、しかし同時に、共産党が指導する政治体制、マルクス主義を捨てないという四つの基本原則と彼らが申しております、これを堅持するんだと言っておるわけです。この矛盾点が一つあるわけです。  いわゆる改革・開放政策が進むに従って中産階級がふえてまいります。よく言われますように、これは必然的に政治の民主化を求めてくるであろう。そういう趨勢というのはポスト鄧小平の後継体制では不可避だろうと思います。となれば、その中でなお共産党政権をしっかり維持するためには、最初に申し上げました中国の軍の特殊性からいきまして、やはりますます重視されるであろう。その場合に、軍に要求されるものは、政治件の強い、党に忠誠を誓う軍隊というものが要求される。しかし、方やハイテク兵器を駆使する軍隊というのはプロフェッショナル化した専門の軍隊でなければいけない。そうすると、軍の中にこの相入れない二つの要求のジレンマが出てくる可能性があるんではないか、これが一つです。  もう一つは、改革・開放政策を進めることによって地方との経済格差が進みます。経済格差は、地方だけではなく、業種間、個人間も含めていろんな面で多元的な一つの利害の階層分化が進んでおるわけですが、大きく言って地方分権等が進んでいく場合に、そのときに開放軍に求められる役割は、中央に対する求心力として接着剤的な役割が期待される。そういう意味からも、ますます党軍としての政治性が要求される。それと近代化のジレンマ、こういうものがあろうかというように思います。  もう一つは、中国経済が現在のようなハイスピードで発展をしてまいりますと、当然経済力がついてまいりますが、それはいい面にも悪い面にも作用します。私は、今とっさに三つばかりのことが考えられると思います。  一つは、経済力がつけば当然のことながら国防強化資金というものはふえていくであろう。それは中国国防近代化というものを推進する要因になるであろうということですね。八〇年代に国防費を抑制するときに、軍をなだめる言葉でも沢東の十大関係論等を使いながらいろんな要人が言っておりますのは、強い腕力をつけるためには足腰を強くしなければいけない、要するに国家経済力なり工業基盤を強くして初めて強い国防力ができるんだよという説明をしてなだめてきました。とすれば、その足腰が強くなれば、当然腕力を強くしてくれということになるであろうということが一つです。  もう一つは、同時にインフレが非常に進んでまいりまして、昨今非常に軍人の処遇なり生活というものが気の毒なレベルにあると言われており、大きな一つの組織を維持する上の士気の問題として、モラールの問題として上がっておりますが、これらが今後いろんな形で組織を弱体化していくというおそれを含んでいるんではないか。  それからもう一つは、そういういわゆる社会主義市場経済を入れていきますと、これまで保護を受けていた国有企業が今どんどん改革を迫られており、それは軍需産業も例外ではないわけです。先ほどもちょっと御説明をいたしました軍需工業が民需品をつくりながら生き延びるすべをどんどん模索しておる。とすると、やはり兵器開発製造基盤というものが弱体化していく。これはかなり解放軍一つの危機意識を持っているようでございますが、しかし国家の支援というものが限定されればいかざるを得ない。これらがどうなるかというようなことにつながろうかと思います。  問題点の指摘ばかりになりましたが、そのような影響に波及するんではないかと思います。  それからもう一点の御質問は、中台関係で中国軍事的地位をあれだけ強める裏にはもっと別な、台湾独立阻止だけではないのではないかということでございました。そのとおりだと思います。  これも二つの面で考えてみたいと思いますが、中国は一九四九年に一つの国をつくりましたが、まだ革命は継続しており国家の統一は完成していないという見方に立っておりますから、台湾の独立というのは、これはもう当然彼らからすれば許すべからざることであります。しかし同時に、御指摘のようにチベットあるいは新疆ウイグル、内蒙古、場合によっては朝鮮との国境周辺の朝鮮族が非常に多い地域がございます。中国では、これらの地域がやはり今後少数民族の分離独立の起爆剤といいましょうか、一つの種として危惧されております。したがいまして、そういう意味台湾の例外は認められない、あるいは台湾が独立しようとすれば強い力でもってこれを阻止する、そういうところに対する意思表示ということは十分考えられることだと思います。  もう一つ側面は、中国台湾に対して武力行使する条件を幾つか挙げております。それは、どんどんふえていくので難しいんですが、台湾が分離独立すると、あるいは宣言をしたらやるよと。もう一つは、この台湾の独立傾向に外国の力が介入した場合は、これに対してもやるよと、こう言っておるわけです。その観点で、一部の報道にもありましたが、やはり介入をするであろうと中国が思っているアメリカあるいは日本のようなところを対象に、やはり中国としての、台湾を独立させない、国家の分裂行動というのは許さないという意思表示という面も読み取れるかと思います。
  22. 武貞秀士

    参考人武貞秀士君) 米国が新しい政策を出そうとしているときに、日朝正常化という課題を負っている日本アメリカ追随でいいだろうかという御質問でございました。  であってはならないと思いますが、米国以上に日本は政策の拘束条件が多いというふうに考えております。また、最近の日韓の情勢、日韓関係の情勢展開を考えますと、さらに政策の拘束条件が多くなったなというふうに考えております。  米国は、それに比べますと米韓同盟軍事同盟がございます。日韓の友好関係と違うということでございます。米国は、在韓米軍を置いておりますし、韓国を米国は守っているんだと、また韓国のエリートも守ってもらっているということではコンセンサスがあるわけですので、米国が一歩踏み込んで北朝鮮に対して少々柔軟な政策をとっても、最後は韓国米韓同盟関係と在韓米軍の維持という方針からのんでしまう傾向があるわけですね。ところが、日本は一歩踏み込みますと、米国のように修復がきかないようなところがございます。  例えばクァラルンプール合意が昨年六月に成立しましたけれども、そのときに、韓国型軽水炉と、コリア・スタンダード・ライトウオーター・リアクターという文字を米朝合意の中に入れるか入れないかということで最後までもめまして、それを入れたくないという北朝鮮と、いや韓国はどうしても入れないと困るんだと。その韓国を説得するために北朝鮮に入れさせてくれと言っているアメリカと綱引きがあったんです。  私はちょうどそのときにソウルにおりまして、クアラルンプール合意の三日前だったんですが、金泳三大統領の側近と食事をしながら話をしていましたら、彼は金泳三大統領の五メートルほど横で毎朝ジョギングをしている人物なんですが、もし韓国型軽水炉という文字が入らなかったら韓国はKEDOから脱退しますと、そこまで言いました。ところが四日後、韓国型軽水炉という文字がないまま締結されました。後で聞きましたら、結局は米韓同盟関係国防分野と外交分野における同盟関係が大事だということで韓国が涙をのみましたということでありました。これはやはり在韓米軍を置いているから可能だったんだろうと私は思います。  また、韓国も積極的に北朝鮮に対して要求を出して、またある程度実現してきました。例えば米朝合意、一九九四年十月二十一日のジュネーブ合意ですが、このときも南北対話を進めるという文言を入れることに成功しました。これは、韓国がまさに朝鮮半島の当事者であり、また準当事者というような発想でそのたびに外交代表団をクアラルンプール、ジュネーブに送り、米国からブリーフィングを受けながらいろいろ要求を出して、そこまで努力した韓国がようやく文言を入れることに成功したといういきさつもあります。  その努力ということを比較しても、あるいは在韓米軍を置いているという米国の事情と比較しましても、やはり日本は違っているということでございます。  ですから、オプションは、ジュネーブ合意のときでしたら交渉の場で、北朝鮮に対してKEDOのお金をある程度負担する日本は日朝関係を進めることを期待しているということであるから、何か文書の中で日朝関係についてもオーケーというような文言を入れてくれないかと日本が頼むという選択肢もあったかもしれませんが、もうそれは時間が過ぎましたのでないわけです。ですから、今後は米と重油の支援という問題と、あからさまに絡めるというのは何かぎらぎらしておかしいと思いますけれども、必然的に結果的に絡んじゃったというやり方は政策上あり得ると思いますし、現在私は、今の政府のやり方は結果的に絡んじゃったというやり方かしらという印象を、もちろん個人的見解でございますが、受けております。  そこで、もう一つだけ指摘いたしますと、やはり最近の竹島問題をめぐる日韓関係が、日本は感情的じゃないんですが、韓国が非常に感情的になっております。  日韓関係と日朝関係は同じコインの裏表のようなところがありまして、韓国を大事にする、日韓基本条約をベースにして北朝鮮との関係を考えると言えば北朝鮮がむくれてしまいますし、それを無視して日朝関係をやりますと言えば日韓関係がぎくしゃくするという非常に微妙な表裏一体の関係にあったところにこの竹島問題と米支援と重油予算負担が一挙に起きてしまったわけですね。本当に必然的に嫌な意味で絡んでしまう時期が来たわけです。  ですから、私は最近の韓国の非常に世論の激した状態というのは、かえって東アジア安全保障日米韓の協力関係にとってマイナスになるということが一つと、また日本としては決して絡めちゃいけないと思うんです。  韓国が、新聞の報道によりますと対馬も韓国の領土だという話が出てきました。びっくり仰天。私は韓国留学時代しばしばこの話を聞きました、そのうちに福岡もと言い出すのかどうかわかりませんけれども。  押せ押せムードの韓国ですけれども、だったらといって、日韓関係を考えながらという発想はちょっと置いておいて日朝国交交渉をそれ始めようというようなムードがもし日本の中に出てきたら非常に日韓関係を損なってしまうし、また日本の基本的な政策のベースを損なってしまうというふうに思います。こういうときこそ非常に冷静にならなければならないというふうに思っております。
  23. 益田洋介

    ○益田洋介君 お三人の先生方、大変ありがとうございます。余り興味深いお話なものですのでなかなか質問の機会を回していただけませんで、やっと質問をさせていただきます。    〔会長退席、理事板垣正君着席〕  まず最初に、前田先生にお聞きしたいんですが、昨年来二つの核実験の話題で世界じゅうが騒然となった一時期があります。フランスと中国の核実験でございますが、世界で唯一の被災国という立場で、日本は国を挙げて両政府の核実験に対して反対をしたわけでございますが、一方で西欧の人たちの考え方を伺ってみますと、必ずしもフランスの核実験と中国の核実験に対して同等の見解を持っていないのではないかという印象を私は受けております。  彼らの言い分、特にこれはイギリス人の方なんですが、フランスの場合はきちんとした倫理観に基づいている、核実験に倫理観があるのかどうかちょっとわからないんですが、その辺の疑問は別にいたしまして、国際ルールにのっとった形での前予告をして堂々と核実験を行った、それは西欧的な精神的風土に受け入れられているんだと。ところが、一方翻って中国の姿勢を見ると、前予告も一切しないし、その後で説明もない。それから、次にどういう形での核実験をするのかということについても一切言及をしていない。これは要するに、これから同じ国家間で軍事交渉ですとか経済交渉ですとか政治交渉をしていく上において彼らはなかなか受け入れられないような精神的な風土を持っているのではないかというのが私が聞いたイギリス人の評価で、国際会議においてもフランスの代表は堂々としていたけれども、その核実験の前後においては中国の代表というのは非常にこそくな姿勢であったし、また西欧の代表から無視されていたような印象を受けたと。  この辺について、前田先生、どのような御認識をお持ちでいらっしゃいますか。軍事開発というものについては、あるいはもうモラルなんというものを問うこと自体が誤りだというふうなお考えをお持ちでしょうか。あるいは一定の基準がやはりできつつあるんだと。もしそうであるならば、そのできつつある基準に照らしてみて、今回のフランスと中国の両政府の核実験に対する姿勢をどのようにお考えか、御意見をお伺いしたいと思います。  それから茅原先生についても、やはり先ほど先生のスピーチの中で、中国軍事的透明性がどうも欠けているという評価があると、そこで国際的な信頼関係というものの向上を今後の課題として中国は考える必要があるのではないかという御指摘がありました。こういう観点から、前田先生に申し上げたのと同じ質問について茅原先生のお考えを伺いたい。  それから、茅原先生に対する二つ目の質問は、来年香港の租借権が返還されるわけでございますが、これについてアメリカは、イギリスやフランスなどに比べて格段の差のある積極的な姿勢で経済的な参画をしようとしていろいろな準備をもう既に進めているというふうに伺っていますが、一方軍事的な側面から米中が香港をめぐってどのようにこれから作戦を展開していこうとしているのか。一自由主義経済都市としてベイルートにかわって今はもう香港しかないということなので、そうした商業的な位置づけだけに終わらせてしまうという考えなのか。  あるいは、例えばランタオアイランドに新しい飛行場を今建設中というふうに伺っておりますし、ランタオ島、香港島、それからカオルン半島をリンクする。橋か海底トンネルかちょっと忘れましたが、フライトファンネルにひっかかる、中国の軍用機がひっかかるということで多分トンネルで三つの拠点をリンクする形になりますが、香港島や九龍半島は既に商業的建物あるいは住居で密集しておりますが、ランタオ島というのはほとんど未開発のままの大きな区域、ハワイでいえばメーンランドのような一番ビッグアイランドですが、この利用について米中はどういうふうに考えているというふうに先生はお考えか。  せっかくイギリスから返還されるのに手つかずにおこうということはないので、私は、アメリカ経済的な側面とあわせて軍事的な側面での香港への介入を米中の協力体制をさらに強化するという将来的な米中関係の方向性の一部として当然考えているのではないかというふうに思っておりますが、先生の御意見をお伺いしたいと思います。  最後に武貞先生なんですが、先ほど先生のスピーチの中にありましたが、レジュメの三ページの項目7の(1)のところだと思いますが、北朝鮮が弾道ミサイルを相当量整備していると。この背景には、こうした兵器を相当量ラインに乗せて製造できるどこかの国家の助力があるに違いなくて、その対象としては中国が考えられるんじゃないかと。しかし、この意見については五〇%ずつの割合でそれに賛同する方と反対される方に分かれていると、このようにおっしゃったと思うんです。  その賛成されない方の根拠というのは、恐らく何も実際にそういったことを証明する手だてがないじゃないかというのが私は賛成されない方の意見の基盤であるかと思いますが、一方でそうした主張をあたかも事実であるかのごとく言われる方にも当然その論拠があるはずで、その場合は何か具体的にそういうふうな事例が、中国が助力を差し向けているんだという、あるいは助力がなければ実際それだけの弾道ミサイルをそろえるのは北朝鮮としては不可能であったと言われる論理の背景には何か確たる証拠があるんでしょうか。もし何かおありでしたら、差し支えのない範囲でお教えいただきたいと思うんです。    〔理事板垣正君退席、会長着席〕  それから二つ目は、私は議員になって七カ月たったんですが、ことしの一月にワシントンとニューヨークに派遣をさせていただきました。ただし、残念ながらそのときは経済問題を集中的に調査するということでしたので、アメリカの下院議員、上院議員の方と直接お話しする機会がなかったんですが、ただ、ワシントンあるいはニューヨークに駐在されている日本の武官の方あるいは大蔵省の方のお話では、最近とみに日米間の議員交流が少なくなってきているように思うと。  これは何度もワシントンを往復されていらっしゃる先生が一番よく実感としてお感じになっているんじゃないかと思いますが、特に駐在武官の方のお話では、アメリカから日本に若手の議員が意欲的に行こうとしなくなったと。この辺について、個人的な所感で結構なんですが、どういうふうな実態であり、その背景にはどういうことがあるんだろうかということと、これはちょっと補足になるかもしれませんけれども、先ほど来国防次官補のジョセフ・ナイさんの話がたびたび引用されて出てまいりましたが、今どういうふうな仕事を実際されているのか。近々の仕事ぶりを恐らく先生だったら御存じだと思いますので、お聞かせ願いたいと思います。  以上です。
  24. 前田哲男

    参考人前田哲男君) フランスと中国の核実験における国際世論の受けとめ方の違いというようなことについてお尋ねがありました。  必ずしもそんな大きな違いがあったとは私思いませんが、あったとしますと、フランス人ならこういうときにはペストとコレラの違いという表現で軽く言ってしまうんですね。違いがあったとしてもその程度という感じを私は受けます。  フランスの核実験が西欧あるいは国際世論に受け入れられた、それがフランスの核実験の独自の倫理観あるいは堂々とした態度の結果であるというふうには考えません。フランスは南太平洋フォーラムから追放されましたし、北欧諸国、欧州議会の中でも大変厳しい指弾を受けました。シラク大統領が予測しなかった事態です。そこで、八回の核実験が六回に減らされました。決して堂々としているとは思いませんし、首尾一貫しているとも思えません。同時にフランスは、実験終了に当たってムルロア核実験場の閉鎖、CTBTを率先して締結するということを公約せざるを得ませんでした。そうしない限りアメリカ訪問を成功させられないということをシラク大統領自身よくわきまえていたからだと思います。  そういう意味で、フランスの核実験が国際世論にある程度受け入れられて、それはきちんとした倫理観ないし核保有の理由の明示によってもたらされ、翻って中国の場合そういうものがない状態であるので両者に違いがあるのではないかという御趣旨の発言には、私は余り同調できないといいますか、そういう事実があるだろうかということがあります。  どちらにせよ、核を保有することに倫理性でありますとか正当性を主張することはできないのであって、冷戦時代であればまだ一つ抑止力という概念の中に核を位置づけする理論的根拠がなかったわけでもない。しかし、そうした対立構造が崩れた今日、したがってフランスの場合も国家安全保障、国益という言葉を出さざるを得ない。中国の場合も、自国の防衛、先ほどの茅原参考人の話ですと通常兵器を補完する戦力というような形で位置づけせざるを得ない。核を持っている倫理性などという言葉が適用できるとは私は考えないわけであります。  ともかく、CTBTがことし十二月に締結されますれば、こうした形の核実験は終わりを告げるわけで、フランスも中国も原則的にこのCTBTに対して加入を表明していますので、なおその中で核保有を続けていくとすれば、そこで新しい別の倫理観が求められるわけですが、そこでまた意見を述べたいというふうに思います。
  25. 茅原郁生

    参考人茅原郁生君) いわゆる核実験のとらえ方の問題ですが、私の記憶では、特定の新聞社の名前を出して恐縮ですが、読売新聞の去年の海外十大ニュースの中で、たしかフランスの核の話が第一位だったと思います。同じ核実験をした中国の核実験は第十一位である。すると、日本でのとらえ方は非常に中国に甘いというか同情的というか、そういう面が出て、私は大変奇異な印象を受けた記憶がございます。  主として中国の立場から申し上げてみたいんですが、私への御質問は透明性の問題からでした。中国の核実験に透明性がないということについては、私は二つほど申し上げます。  一つは、中国の場合その能力がないんだと思いますね、要するにフランスのように計画が事前に公表され、計画どおりやっていくという。実は、地下実験というのは地下千何百メートル、大きさによるんですが数千メートル掘り下げる、そしてその間に幾つかのセンサーを埋め込んでやるということになりますと、中国のような内陸のロプノル砂漠でやる場合は、一つの爆発が終わって次の爆発のためにはやはり数カ月、最小限二、三カ月の時間がかかると言われております。しかも、ロプノルはこの時期は凍土で非常に固くて掘れない。そうすると、実験ができるのは夏の間だけしかできない。ですから、過去の実験を見ましても、一番多くてせいぜい三回ですね。普通、春と夏、あるいは秋口にというのがほぼ同じパターンです。特に九〇年代になってからは、大体五月か六月に一回、あと十月にやるかやらないか。そういうようなことで、何日にやりますとかということで言えない面があるんではないかというのが一つ。  それからもう一つは、中国にとってはやはり核の問題は最高機密というような軍事的なとらえ方の違いがあるのではないか。あるいはその辺がまだ国際的な世論に対する認識の違いというようなことなのかもしれません。  もう一つ、モラルという観点からいきますと、私は中国人はもっと現実的にパワーポリティクス的な考え方をしているんだと思います。いっかこんなような論文がありました。いわゆる核廃絶運動あるいは核実験反対運動をしておるような人たちに対して、その善意は信ずる、しかしその運動は、しょせんトラに向かってその皮をよこせと言っているようなものだ、本当にトラの皮が欲しければ、鉄砲を持ってトラを殺さなければ皮はとれないんだよというような趣旨のお話です。  結局、中国は、一九六四年、初めて核実験したんですが、そのときの声明以来、中国の核は自衛のためである、もう一つは核廃絶のためであると言っておるんですね。これを言い続けております。私が今申し上げたいのは廃絶のためなんですが、廃絶をさせるためには自分も核を持たなければ廃絶させられないという考えなんです。それならば、じゃ日本が廃絶のために核を持っていいかというと、今度はそれは全然別なんです。そういうことは言わない。そういう意味では非常に身勝手さはあるんですが、少なくとも彼らの基本的な考え方というのはそういう厳しい意味を持っております。したがって、多少の国際世論がどうあろうと、私は彼らがこれでよしと思うまでは断固として続けるであろうと思います。  それから、二つ目の御質問でございますが、香港返還との関係ですけれども、私は香港そのものが戦略的にアメリカ軍事プレゼンスをしたり香港を舞台として軍事的関係を持つというほどに軍事的に戦略的な位置にあるとは思えないんです。むしろ、どちらかといえば経済の話ではないか。ただ、経済を通じた米中の軍事面の交流はどうかとなりますと、これは幾つかのことが考えられると思います。  一つは、現在アメリカ中国の軍需産業の民需転換を支援しようとしておるわけです。そういう意味では、香港を窓口としてそういう流れが出てくるということはあるでしょう。それから、中国が今求めておるハイテク兵器、最近はこの軍用、民用がなかなか区別がつかないようなものがやはり香港を一つの窓口としてどんどん流れていくというようなことはあり得るかもしれません。  それから、もっと大きな目で見た場合、アメリカはやはり中国に対する人権攻勢というものはそう簡単には捨てないと思います。それは彼らの倫理観に基づいた政策だと思うからです。そういう意味では、中国から見れば香港を経由して和平演変的なばい菌が入ってくるというおそれはあるでしょうし、そういうところを拠点にしてアメリカが人権攻勢というものを進めていく。少なくとも、香港及び香港の後背地の経済が非常に高くなった、中産階級がふえた、豊かな地域はそういうものを受け入れやすい素地は十分あるわけですから、そういう観点の米国の対中攻勢というのはあり得るのかなというように思います。
  26. 武貞秀士

    参考人武貞秀士君) 三つの質問を受けました。  第一に、北朝鮮の弾道ミサイルに対する中国のかかわりでございますけれども、先ほど申しましたようにこれの確たる証拠というものはございませんし、もちろん双方がそれに言及したこともございません。ですので、アメリカのミサイル問題の専門家と議論していたときに、中国が弾道ミサイルの技術を供与したとしか考えられないと言ったことがありますが、その程度でございます。ですから、状況証拠といったところからある国を不法に武器技術を輸出したではないかというふうに言うことは全くできないわけでありまして、大胆な解釈というのはもちろん慎むべきだろうと思うんです。  さはさりとて、想像をたくましくするのが研究者ですから、想像をたくましくすることをちょっとお許し願いたいんですけれども、北朝鮮は、例えばシルクワームミサイル、これは中国から導入しておりますし、また高速艇、これは中国製であります。また、潜水艦の何隻かは中国製であります。戦後の北朝鮮軍事力建設の過程は旧ソ連が全面的に支援をするという形であったために、大体装備の九五%ぐらいは旧ソ連製あるいはソ連のライセンス生産で生産したと見られていますけれども、あとの五%ぐらいは中国から。依然として中国からもらった技術あるいは中国から供与された実物が重要な役割を果たしているという例もあるわけです。シルクワームミサイルもそうです。  それで、ミサイル技術に関しましては、中国はまさにIRBM、中距離弾道ミサイルを九十基以上持っておりまして、その中でCSS2、これはDF3、東風3号というふうにも言われるわけですけれども、これがどうも射程距離二千八百キロとか三千キロぐらいだと言われています。このミサイルがどうもテポドンミサイルの射程距離と似ているのではないかというふうに言われているわけですね。  該当するミサイルと技術とを中国が持っているということと、過去の中国のパキスタンに対するミサイル技術の流出疑惑、中国は認めておりませんけれども、流出疑惑といったことと中朝間の今までの装備の供給状況等々を考えますと、中距離弾道ミサイルの技術を供与したということがあっても否定はできない、可能性はあるだろうということが出てくると思います。また、その程度であるということも言えるわけです。  二つ目の御質問ですけれども、日米間の議員の交流ということが出ました。  この何年かの間に、日本安全保障の分野あるいは外交の分野でも大いに国際的な方向に関心がいって、PKOの人たちも外国に送る、PKOの貢献をするという形で、日本もいろいろな意味で特に安全保障分野における国際化というものが出てきました。日本の方はこの安全保障分野における国際化あるいは東アジアのいろいろな問題についての米国との議論ということに対する関心は強まってきていると思いますけれども、米国の方がなかなかそうじゃないのかなと思ったりします。  米国社会のこの数年間の内向きのムード、これは冷戦が終わった後、もうソ連の戦車がどうとかソ連のミサイルがどうというような時代は終わった、もう冷戦後の平和の配当を得る時代がやってきたんだというムードが流れて、国際問題とか安全保障問題あるいは戦略問題に対する関心よりは、むしろ家族の問題とか環境問題に関心が移りました。  象徴的な例が、米国のペンタゴンからお金を供給してもらっているランド研究所という研究所がカリフォルニア州のサンタモニカにあります。二週間後、私そこを訪問して会議をやることになっておりますが、そこの研究テーマの重要な項目の一つが環境問題なんですね。ここは主に米空軍からお金をもらっていろいろな戦略を立て、兵器の開発の問題も考え、東アジア戦略等のレポートも出してきた。その研究所が環境問題も考えている。あるいは冷戦後の時代における軍隊の新しい役割についての研究も始めたりしている。それは、消防の消火活動なんかも軍隊の役割として考えたりするというような発想も出てきております。  こういったように、米国がポスト冷戦下でほっと一息ついて、日本安全保障分野における国際化とちょっと方向がずれたような面が出てきたということの結果、議員間のそういった交流というものが以前よりは活発でなくなったということがあるのかなと思ったりしますけれども、それ以上はちょっと私も答える自信がございません。  あと、ジョセフ・ナイさん、十二月に退官されて古巣の大学に戻ったというふうに私は聞いておりますけれども、どういう講座を担当されているとか、その後政府とどういったつながり、関係を保っておられるかということについては、ちょっと私情報を持ち合わせておりませんので失礼いたします。
  27. 林芳正

    ○林芳正君 お三方の先生から大変に興味深い、示唆に富んだお話を聞かせていただきまして、本当にありがとうございました。時間の関係もございますので、茅原先生と武貞先生にお伺いしたいと思います。  まず、茅原先生にお聞きしたいのは二点ございまして、一つ軍事費の問題で、先生のレジュメの中の3の(2)のところに資金の不足ということとそれから兵器開発製造基盤の弱体化ということを書いておられました。それから、今度はその下の4の(4)、国防費はふえておるんだということですね。私が聞き落としたのかもしれませんけれども、予算上はだんだん伸びていきまして、経済上も大きくなっておれば、普通に考えますと資金がどんどんと軍事の方に行くんではないか。それからもう一つは、先生の中央公論の論文の中に、中国の場合は算入されない部分が随分あって、日本で言うと兵器の装備とかその辺の三割近くを占めるものは彼らが公開している軍事費の中に入っておらないということがございました。  そういった意味では、一つは資金が今からどんどん入っていくということで、この資金の不足というのは解消される方向にあるのかなということについてのお考えと、それからもう一つは、民需転換というお話があったんですが、アメリカのペンタゴンと軍需産業のよく言われるコンプレックスみたいなお話を聞いておりますと、むしろアメリカにおいては産業政策が最も成功した一番安定した分野だと、こう言われておりますし、政府が資金をどんどん投入していきますと、逆にそこの部分が一番安定した成長が見込める産業になっていくということはないのかなと。そういう意味で、民需転換がどんどん進んでしまうということはどういうことなのかなということについて、もしお考えがあればその辺をちょっとお伺いしたいのが第一点でございます。  それから第二点は、CTBTのお話で、いろんな条件中国はつけてくるだろう、こういうお話でした。フランスの場合は、先ほど益田先生のお話もありましたけれども、無条件で加入しますということで実験をやらせてくれ、こんなような感じでしたけれども、中国の場合はまさにそういったこと全くなしに、いつやるのかわからない。雪が解ければやるんだろうというお話でしたけれども、どのような条件をつけてくるのだろうか。そして、それに対して我が国というか、我が方が例えば政策的にとり得るどういうようなオプションが考えられるのかということをちょっとお聞きしたい、こういうふうに思います。  それから、武貞先生にお伺いしたいのは、先ほど韓国の話がございまして、ちょっと私は聞き落としたかもしれないんですが、4の(2)ですけれども、対日意識に変化があって民族主義が台頭してくる。これは選挙対策として、外に目が向くと内側は与党が強くなる、こんなような選挙目当てで短期的に意図的にあおっているという部分があるのか。もしくは、もう少し長期的に、いわゆる第二世代というのがだんだんと社会の中の中枢を占めるようになって、ここは一番抗日教育を受けた世代だと思いますから、その人たちがだんだんと力を得てきたことによって反日感情というのが出てきたというむしろ中長期的なトレンドがあるのかなと。その辺のお考えをちょっとお聞かせ願えればと思います。  以上、お願いいたします。
  28. 茅原郁生

    参考人茅原郁生君) 最初の質問、国防費について申し上げたいと思います。  私のレジュメにありました、国防近代化の制約要因としては資金が不足する、しかし国防費はふえるからこれは大変だという矛盾したことを申し上げました。その意味は、こういうように御理解賜ればありがたいと思います。  これまで、八〇年代までの国防費の抑制のボディーブロー的な効果がずっとさいてきで、現在のところ新しい兵器の出現なりあるいは新しい兵器が出てもそれが量産されないということにつながっておる、その意味において大きな制約要因であったということであります。しかし、あのときも申し上げたかと思いますが、今後変わる可能性は大いにあります。特に九四年から九五年にかけて新たに出てきた兆候というのは国防費の増大傾向でございますので、これが続けば当然国防資金は潤沢になり、近代化を進めることになると思います。  ただ、そうは言いながら、当面やはり八〇年代の抑制で、例えば今軍人の処遇が非常に悪くなっておる。例えば、中国が定めた兵士に一日に食べさせる副食が一斤半四両というのがあるんですが、野菜五百グラムに油、肉、卵など、これら五十グラムずつという基準を示しておきながら、それが満たされている軍隊は半分もいないというような統計も示されておるわけです。ですから、これらのために今どんどんつぎ込まれていっているという実態があるわけです。ですから、八〇年代に非常に抑制したものの後遺症がしばらくあるということですが、しかしこれは大いに今後は伸びていくでしようということです。  それからもう一つ、大変ありがたい御指摘をいただきました。私、時間の関係ではしょりましたが、中国国防費を考えるときは、これは大分常識化してきておることですが、公表される国防費以外のいわゆる隠された第二国防費というのがあります。これは国家財政支出の中でも、例えば兵器の開発費、これはアメリカですと大体国防予算の一五%ぐらいつぎ込んでおるんですが、これが社会文教費の中に入っている。それから兵器の調達費、これがいわゆる経済建設費の中に入っている、国防基本建設費という項の中にどうも含まれている。  と申しますのが、ほとんどの兵器産業が、機械工業部とか電子工業部という一つの省庁の中に軍事をつかさどる局があり、その指令下に国有企業が幾つかありまして、言うならばそこで計画経済に従ってある鉄材を供給し、ある製品にして出していく、その間の経費はその省庁につけるという形でどうもつけているように私のこれまでの研究では理解をしておるわけです。したがって、そういうことは全く国防費とは別なところに計上されて発表されているものがある、こういうことでございます。  それからもう一つは、中国の軍自身が大変膨大な国有財産を持ち、それで稼いでいる。それは、例えば裏庭で豚を飼い野菜をつくるレベルであればまだ一つの伝統的生産活動だったんですが、昨今のようにあるレベルにおいては外資を導入してホテルを経営する、カラオケを経営するというような話もございますし、それから甚だしきは軍の企業自体が兵器の輸出を一手に引き受けておる、これらの外貨も当然のことながら再投資されておる。先般ある資料を見つけましたら、その中で、稼いだお金はそれぞれの分野でどこまで使っていい、どれ以上は上納しなさいという基準まで示されて、これが実際に守られているかどうかはともかくとしまして、どうも使われているようであります。  したがいまして、総じて中国国防費についてはいろんな試算がなされておりますが、私自身の研究でいきましても国防費は三倍を下ることはないであろう、ですからそういう観点で見ていただく必要があろうかと思います。  それから、CTBTのお話でございました。  中国はもう既にCTBT交渉については条件は出しております。例えば、大規模水利工事をするようなときに小規模な核爆発をしながら民間工事をしてもいいではないか、そこまで全面規制するのは問題ではないかとかいうようなことでございます。  ですから、私は先ほどちょっと乱暴な言い方をいたしましたが、中国は当分核実験を継続するであろう、そのためのいろいろな名目をつけるという話は、妥結そのものにそのような条件をつけてくるということですね。ですけれども、これはある程度妥協の余地があるだろうと思います。先般、河野外務大臣が訪中した折に、李鵬首相が中国は早いうちにCTBTに妥結する、これは調印できたらやめると、このように明確に、多分初めてかつての西側世界の政治家に公表したんだと思うんです。  しかし、最近微妙にこれを軌道修正してまいりました。実は、先般フランスが核実験の終了宣言をしたことに対するコメントを中国外交部の報道官陳健氏がしたときに、彼は、CTBTが批准をされ発効したらやめる、それはもう国際常識だということなんですね。そうしますと、もしことしじゅうに調印されたとしても、批准、発効までに時間がかかるとすればその間稼げるわけです。  中国は、多分現在のような国際世論の中で永久に核実験を続けるということはないと思います。今、一生懸命彼らが追い求めているのは、アメリカあたりで既にある、本当の実験をやらなくてもコンピューターである程度実験のデータが得られるシステムづくりに躍起になっているんだと思います。ですから、それができるまであの手この手の戦術は使うでしょうけれども、大筋CTBTをボイコットしたりこれに背を向けることはもう許されないと思いますし、少なくとも責任ある要人はそのように言っているわけです。  ただ、先ほど申しましたような幾つかの戦術的な引き延ばし、あとは実験回数を何回か稼ぐ行動というのは行われるであろう、このように考えます。
  29. 武貞秀士

    参考人武貞秀士君) 韓国日本に対する反発を強めるその理由は何かという御質問でございまして、三つ理由が、背景があると思います。そのうちの二つは先生が御指摘になられたことでございます。  第一に、やはり選挙対策として日本に対する厳しい姿勢を出して国民の政府・与党に対する支持を取りつけたい、取りつけたいといいますかふやしたいという気持ちが、これはもう間違いなくあると思います。北朝鮮あるいは対米姿勢よりは日本に対する日本糾弾という方が韓国では国がまとまりやすいということは間違いありません。特に、この四月、国会議員選挙がございますけれども、与党が、新韓国党が旗上げしましたけれども大苦戦すると言われております。ですから、最も国がまとまりやすく、国民からよくやっていると思われるイシューというのはやっぱり日本だということになるんだろうと私は思います。  しかし、私は次の二つの方がもっと重要であるということで、私の回答は、日本に対する反発は中長期的なものであるということになります。二つ目は、やはり人材という点で韓国日本通、日本を知っている人たちが非常に少なくなっていて、また教育の現在のやり方もアメリカの、それも東海岸で教育を受けた人たちがエリートになるというシステムが確立しておりまして、本当の日本通が育ちにくいということがあります。  かつて、浦項の創始者の朴泰俊さんとか、あるいは今野党になっておりますが、金鍾泌さんといったような人たちがいました。また、外交官のレベルでも中堅クラスの議員の方でも、日韓の誤解が生じたときにそれをいやす立場にある人たちがおられたわけですけれども、そういった人たちがなかなか今力を発揮し得ないというような状況にもありまして、日本を知っている人材がいないということがあります。  若い人たちの間でも日本を知っている人たちが非常に少なくて、私は三年前、韓国の大学で一年間日本の外交・防衛という授業を韓国語でやるという経験をしたんですけれども、学生たちの質問は、例えば日本の防衛予算を見るとどうも多過ぎる、装備がその割にはちょっと貧弱だと言われたんです。やっぱり日本は航空母艦をどこかに隠しているに違いない、こういう質問を受けたことがあります。  また、陸上自衛隊の予算が多過ぎるじゃないか、日本海洋国家だ、陸上自衛隊の予算が多いのは再び大陸に攻めていくために陸上自衛隊の予算をふやしているんだ、こういうような指摘を国際会議で受けたこともありまして、本当に日本通の人たちがいれば、こういったような疑問が韓国の若い人たち、学者の間から出ないはずだというふうに思うんですけれども、そういった人たちと、戦後の反日教育を受けたという背景も一つ絡み合って、私は中期的な問題はこの人材という点であると思います。  三つ目はもっと長期的な問題ですが、日本に対する反発は、韓国経済的に自信を持ってきた結果、自信を持って日本の過去をただすという意識が台頭してきたというふうに見ております。一人当たりGNPがもう一万ドルを超えようというまでになりましたし、あるいはコンピューターチップスなんかの生産では日本技術ともう変わらない。また、円高ということもあって日本の輸出産業が苦戦しているのと逆比例しまして、韓国の輸出産業は非常に波に乗っておりまして外貨も稼いでいるといったようなことがありまして、韓国はどんどん経済分野でも押せ押せムードにあるわけです。そういった自信を背景にして、今まで経済的には明らかに日韓の間に格差がついていたという過去の思いも絡み合って日本の過去をただそうという方向にある。ですから、国際的な市場における日本に対する競争意識というのは非常に強いということがまた同時に言えるわけです。この三番目の要素というのは非常に長期的なものであろうと考えます。  以上でございます。
  30. 上田耕一郎

    上田耕一郎君 上田でございます。三人の参考人方々からは新しい刺激を受けるようなお話をいただいてありがとうございました。  前田参考人には、質問をすると反論的質問になって時間がかかりそうですのでお許しをいただいて、時間ももう半を過ぎておりますので、事実問題について茅原参考人武貞参考人にお伺いしたいと思います。  茅原さんには二つです。  一つは、対中国の問題でアメリカの関与政策、昨年の十月、封じ込め戦略はとらないで包括的な関与政策をとるとアメリカのペリー国防長官が演説したんですね。僕は、アジアにおける核保有の二つの大国が対立しながらも共同するという関係が今生まれていると思うんです。ところが、ペリー国防長官の演説の中で、北朝鮮の核兵器開発計画を中止させる上で中国影響力行使を得たという箇所があるんですね。この事実関係をひとつ教えていただきたい。これが第一点です。  第二点は、この調査会に何年か前に中嶋嶺雄教授がお見えになって、この間中国へ行ってきたらプロレタリア文化大革命で二千万の犠牲者が出たということを当局から聞いたという話をされまして、僕らもショックを受けたんだけれども、そのほかにも二千万人の死者というのはいろいろ出ているんですね。これは軍がかなり巻き込まれたんだと思うんですけれども、プロレタリア文化大革命のそういう驚くべき犠牲、軍もかかわったような、これは今、後遺症は中国の軍にはないんでしょうか。これがお聞きしたい第二点です。  それから、武貞参考人には、北朝鮮の体制に今余り異変はないというお話だったんだけれども、新聞にアメリカ北朝鮮崩壊懸念というのが出始めましたね。根拠として、食糧やエネルギーの不足、亡命者の急増、社会秩序の不安定化、指導部の一貫性を欠く言動が挙げられている。先ほどお話しのソフトランディングにするようにアメリカも政策を進めるということがあるんですね。  私は、指導部の粛清問題というのがこの亡命関係に非常にかかわりがあると思うんですよ。朝鮮労働党の初代委員長だった朴憲永外務大臣が処刑されて以後粛清がずっと続いていて、ある亡命幹部の出した著書にはずらっと実名が並んでいるぐらいで、僕はスターリン体制と同じような非常に危険な独裁体制になっている面が強いように思うんですけれども、それで亡命者がどんどん出てくる。今度、金正日の前の奥さんが亡命したというのがありましたけれども、そういう体制は僕は非常に不安定じゃないかと思うんだけれども、アメリカのこの見方、最近の状況について事実関係でお考えをお伺いできたらうれしいと思うんですが。  以上です。
  31. 茅原郁生

    参考人茅原郁生君) まず、米国のいわゆるペリー長官の発言による中国北朝鮮への影響力行使の問題でございます。  これは、事実関係としてそれを知り得る、あるいは検証し得るすべは私は持ち合わせておりませんのでわかりません。しかし、状況証拠的にこれを見たときに、九四年の秋にペリーは訪中をいたしました。これは、八九年の天安門事件以降米中関係が緊張し、特に軍事関係の交流が全面的にストップをいたしまして、その中で初の国防長官クラスの訪中になったわけです、もちろんその前年にフリーマン国防次官補が行っておりますけれども。その行った理由が、お礼に行ったんだということでございました。ちょうどだまたま私そのころモンゴルと中国に行っておりまして、モンゴルあたりまでその辺の説明が人を遣わして行ったということも聞いております。  その時点で、非常に特異でしたのは、ペリー長官が中国国防大学で講演をしております。もちろんこういうことについては最高の機密ですから触れていませんが、八九年のいわゆる対中制裁後初めて国防長官が訪中した割には非常に友好的に受け入れられ、国防大学で講演するまでのサービスをしたわけですね。そのころささやかれたのが、今先生御指摘の中国影響力に対するあれだということです。ですから時期的には合うと思います。  それからその前に、中国北朝鮮に対する影響力の話は南北国連同時加盟のときがありました。このときも、中国がかなり影響力を発揮したのではないかと言われておりました。そういう意味では、少なくとも私ども研究者レベルでいろいろ話す中では、中国自身はとても北朝鮮に対する影響力はない、それから新聞等に出るのも、中国影響力は限られておるというような非常に控え目な発言はしておりますけれども、かなりな影響力を発揮したのではないかと個人的には思っております。  実際に、例えば中国外務省の朝鮮課長クラスの人たちが今国際問題研究所の高級研究員をしているような人たちと話しますと、そういう実務に当たる人から言いますと、もうあれほど扱いにくい民族はいない、大嫌いだ、とてもじゃないがへたに中国が大国としての顔で影響力を行使すると皮発だけだというような言い方はするんですけれども、しかし最終的には何らかの手段で影響力を与えておる。あるいは北朝鮮から見れば中国まで敵に回せないという事情があったのかもしれません。そんな感じがいたします。  それから、もう一つの方の文革時代の軍の介入あるいはそれによる後遺症の問題でございますが、私の認識は、先生が言われました二千万人ぐらいの犠牲者が出た、これは軍による、あるいけ軍が巻き込まれた結果の犠牲者ではないと思いすす。紅衛兵同士の武闘が非常に各地で盛んに行われました。恐らくそういう規模からいきますと、二千万というのはあながち架空の、白髪三千丈の話ではないと思います。  軍が介入いたしましたのは、収拾段階においで三支両軍という任務が与えられました。言うならば、左派を支援し、それからその時点では、銀行から学校から放送局等の管理まで全部軍が出ていって警護という名において管理をするという形であの国家的大混乱を収拾したわけです。そして同時に、臨時的にできた革命委員会というようなものが全権を握ったわけです、軍、治安維持、政治経済。そういう中の重要な役割をほとんど軍が、ほとんどと言っては大げさですが、まあ半分以上、例えば革命委員会の主任という最高ポストの数でいきましても半分近くを軍人が占めて軍の力で文革を収束させたということはあると思います。  したがって、私の認識では、軍が出てまいりましたのは収拾段階から出たのであって、あの大混乱であれだけ多数の犠牲者が出た段階では余り関与しなかったのではないかというような認識でございます。したがって、後遺症はないと思います。
  32. 武貞秀士

    参考人武貞秀士君) 北朝鮮の体制異変なしという説についての御質問でございますが、恐らくけさの朝刊のロサンゼルス・タイムズの引用だったと思うんです。やはり同じ朝刊で別の新聞なんですが、北朝鮮からの韓国への亡命者の話として、妻の話ですか、北の体制はしばらくもつというふうに自分は見ているという全く別の記事もあって、それだけ北についての情報がいろいろ錯綜しているということだろうと思うんです。  幾つが御指摘になりました。例えば金正日の妻の亡命ですが、これは前の、あるいは一時妻であった人らしいですね。国会の中でこんなお話ししていいのかちょっとわからないんですが、以前妻であって今妻でない人はやっぱり不満があるでしょうし、亡命予備軍だったのかもしれないな上考えれば、政治体制の崩壊間際の現象と結びつけてよいかどうかという問題があると思います。  むしろ、例えばフィンランド大使で派遣されている金平日という人がいます。これは異母兄弟と言われていて、現在の未亡人、金正日さんのまま母の息子さんで非常に優秀だと言われているんですが、この人がフィンランドに行っているということで異変説ということを言う専門家もいます。  しかし、考えてみますと、西側のメディアとか外交官と接触する機会の多いフィンランドに不満に思っている異母兄弟、朝鮮半島では血統というのが非常に大事ですので、明らかにこれはポスト金正日の第一候補であることは間違いないんですが、もし非常にライバルで金正日さんが警戒をしているとすれば、フィンランドに飛ばさないと思うんですね。むしろ国内のどこかの道の責任秘書とかいろんなポストがあっただろうと思うんですが、フィンランドに送ったということは、むしろ私は二人の対立説には結びつかないような気がいたします。そういった問題もありますので、アメリカでは、エズラ・ボーゲルさんあたりは金正日は二十年もっと言っていました。  十二月に私が米国に行きましたときに、米国議会のCRS、コングレス・リサーチ・サービスですか、ここの専門家と議論しましたら、アメリカの国務省は常に二つのオプションしか世界に提示しなかったと。一つは、ほっておいたら崩壊しますよと、米朝交渉をやらなければ崩壊してしまって大変なことになりますよ、そのときに戦争も起きますよ、ほっておいていいんですかと。もう一つのオプションは、だから米朝交渉をやり、米朝合意をこうやってやったんです、米朝合意を支持しますかと。こういう二つのオプションしか提示せずにアメリカの中で米朝合意の賛成派をこれで集めたという指摘をして、非常に否定的な分析をその人はしておりました。その人は、非常に長く今の体制はもつんじゃないかと言っておりました。  ただ、経済難を過小評価してはいけないわけですけれども、何百万トンかの、あるいは百万トン前後の米は不足しているのはどうも事実のようであります。ですから、経済難は進行していることは間違いないんですけれども、北朝鮮崩壊しては困ると日米韓あるいは国連、みんなが思って、そしていろんなものをロハで送ることが一番大事だと思い始めたこの傾向を考えますと、結果は、金正日随分もちそうだなということになるんじゃないかなと思います。
  33. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) ありがとうございました。  まだまだ質疑もあろうかと存じますが、予定した時間が参りましたので、参考人に対する質疑はこの程度といたします。  前田参考人茅原参考人武貞参考人に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、大変お忙しい中、長時間御出席いただき、貴重な御意見を賜りましてまことにありがとうございました。本調査会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。  本日はこれにて散会いたします。   午後四時四十五分散会