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1996-02-07 第136回国会 参議院 国際問題に関する調査会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成八年二月七日(水曜日)    午前十時開会     ―――――――――――――    委員氏名     会 長         林田悠紀夫君     理 事         板垣  正君     理 事         笠原 潤一君     理 事         田村 秀昭君     理 事         直嶋 正行君     理 事         松前 達郎君     理 事         上田耕一郎君                 尾辻 秀久君                 岡野  裕君                 木宮 和彦君                 塩崎 恭久君                 鈴木 貞敏君                 馳   浩君                 林  芳正君                 山本 一太君                 泉  信也君                 木庭健太郎君                 高橋 令則君                 永野 茂門君                 益田 洋介君                 萱野  茂君                 志苫  裕君                 清水 澄子君                 笠井  亮君                 田  英夫君     ―――――――――――――    委員異動   一月二十二日     辞任        補欠選任      田  英夫君     田村 公平君   一月二十六日     辞任       補欠選任      鈴木 貞敏君     北岡 秀二君     ―――――――――――――   出席者は左のとおり。     会長    林田悠紀夫君     理 事                 板垣  正君                 笠原 潤一君                 田村 秀昭君                 直嶋 正行君                 松前 達郎君                 上田耕一郎君      委 員                 尾辻 秀久君                 岡野  裕君                 木宮 和彦君                 北岡 秀二君                 塩崎 恭久君                 馳   浩君                 林  芳正君                 山本 一太君                 泉  信也君                 木庭健太郎君                 高橋 令則君                 永野 茂門君                 益田 洋介君                 萱野  茂君                 清水 澄子君                 笠井  亮君                 田村 公平君    政府委員        防衛庁防衛局長  秋山 昌廣君    事務局側        第一特別調査室        長        入内島 修君    参考人        帝京大学教授   志方 俊之君        明治学院大学教        授        浅井 基文君        京都大学教授   中西 輝政君     ―――――――――――――   本日の会議に付した案件 ○参考人出席要求に関する件 ○委員派遣承認要求に関する件 ○国際問題に関する調査  (「アジア太平洋地域の安定と日本役割」の  うち、アジア太平洋地域の安定と我が国防衛  の在り方について)  (「アジア太平洋地域の安定と日本役割」の  うち、アジア太平洋地域における安全保障の在  り方について)     ―――――――――――――
  2. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) ただいまから国際問題に関する調査会を開会いたします。  委員異動について御報告いたします。  去る一月二十二日、田英夫君が委員辞任され、その補欠として田村公平君が選任されました。  また、去る一月二十六日、鈴木貞敏君が委員辞任され、その補欠として北岡秀二君が選任されました。     ―――――――――――――
  3. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) 参考人出席要求に関する件についてお諮りいたします。  国際問題に関する調査のため、今期国会中必要に応じ参考人出席を求め、その意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) 御異議ないと認めます。  なお、その日時及び人選等につきましては、これを会長に御一任願いたいと存じますが、御筆議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕     ―――――――――――――
  5. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。
  6. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) 委員派遣承認要求に関する件についてお諮りいたします。  自衛隊の現状、経済協力及び国際研究交流等に関する実情調査のため、愛知県及び石川県に委員派遣を行いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  7. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) 御異議ないと認めます。  つきましては、派遣委員等の決定は、これを会長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  8. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ―――――――――――――
  9. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) 国際問題に関する調査を議題といたします。  本日は、本調査会テーマである「アジア太平洋地域の安定と日本役割」のうち、「アジア太平洋地域の安定と我が国防衛在り方」について政府から説明聴取及びそれに対する質疑、並びに「アジア太平洋地域における安全保障在り方」について参考人から意見聴取及びそれに対する質疑を行います。  午前の議事の進め方でございますが、まず政府から「アジア太平洋地域の安定と我が国防衛在り方」について三十分程度説明を聴取した後、一時間半程度質疑を行います。  なお、説明質疑及び答弁とも、御発言は着席のままで結構でございます。  それでは、政府から説明を聴取いたします。防衛庁秋山防衛局長
  10. 秋山昌廣

    政府委員秋山昌廣君) それでは、座ったままで失礼かと思いますけれども、説明させていただきます。  お手元に二枚紙のこういう資料と、それからこういった少し厚手参考資料とございます。主としてこの二枚紙を中心にし、時折新しい防衛大綱を見ていただきながら説明させていただきたいと思います。  テーマアジア太平洋地域の安定と我が国防衛あり方についてということでございますが、いずれ国会に正式にまた新防衛大綱について御報告する機会があるかと思いますけれども、現時点で政府側から防衛力あり方との関係で御説明をするとすれば新しい防衛大綱中心になりますので、まず、新しい防衛大綱の簡単な概要と、それからアジア太平洋地域の安定との絡みで少しポイントを絞って御説明させていただきたいと思います。  二枚紙をちょっと見ていただきますと、チャートみたいな形になっております。一枚目の一番左側に「基本的な考え方」というものが出ております。そして、右の方にそれぞれブレークダウンした内容、特に二枚目アジア太平洋地域の安定に絡んだ当面の主要課題についてチャート形式でまとめた資料でございます。  まず最初に、一枚目の一番左の「基本的な考え方」というところを見ていただきたいと思います。幾つポイントがございますが、まず第一点は、国際情勢をどう認識したかという点でございます。  今回の新防衛大綱見直しの背景の大きなものが国際情勢変化であり、もう一つが国内外から自衛隊役割に対する期待が高まっているというのが大きな二つの要素であったと我々認識しております。  そのうちの国際情勢についての認識でありますが、簡単にここに示してありますけれども、不確実性の中で安定化努力も行われているということと、米国日米安保体制役割の大きさについて認識しておりますが、これは後ほど防衛大綱の文書をちょっと見ていただくことにいたしたいと思います。  それから、もう一つポイント基盤的防衛力構想の踏襲でございます。前防衛大綱では、基盤的防衛力構想というのが一つ中心的な考え方でございましたが、今回もこの基本的な考え方は踏襲する。それはどういうことかといいますと、力の空白にならない、力の空白になって不安定要因になるということを避けるということでございます。このことは、基本的な考え方としてアジア太平洋地域の安定に一つの大きな要素を提供するものと認識しております。  それから、日米安保体制の意義及び役割でございますが、これは後ほどまた少し詳しく御説明したいと思います。  それから、防衛力の果たすべき役割、これが一つ今回の新防衛大綱中心でございますが、三つの柱を立てました。当然のことながら我が国防衛、それから新しい柱として二つ立てました。災害等各種事態への対応、それから安定的安全保障環境構築、この新しい二つの柱の中にアジア太平洋地域の安定との関係で御説明したいものが出てまいります。  それから、陸海空自衛隊防衛力の再編の方向を出しております。これも要素三つ示しております。特に、組織等につきましては合理化効率化コンパクト化を進める。それから、機能の充実と質的な向上を図る。それから、いかなる変化にも対応できるような防衛力弾力性を確保する。こういった三つ要素をベースにいたしまして、陸海空自衛隊の再編をいたしたいと考えております。  そのほか、防衛力の整備上の重要事項といたしまして幾つか書いてありますが、重要なものだけ三つ出してあります。情報、指揮通信能力向上、それから統合的、有機的な運用態勢の確立。統合的運用態勢の確立というのは、具体的には例えば統合幕僚会議の機能の強化ということを考えております。輸送等後方支援機能の充実、こういったようなことを一応基本的な考え方といたしまして新しい防衛大綱がつくられているわけでございます。  今御説明いたしましたうちの国際情勢についての認識につきまして、アジア太平洋の安定との絡みでここはぜひ見ておいていただきたいところがございます。厚手資料防衛大綱のところでございますが、三ページをちょっとお開きいただきたいと思います。  二ページから三ページにかけまして国際情勢について書いてあるわけでございますが、三ページの3というところで我が国周辺地域においての国際情勢認識が書かれております。ちょっと読ませていただきますと、  我が国周辺地域においては、冷戦の終結やソ連の崩壊といった動きの下で極東ロシア軍事力量的削減軍事態勢変化がみられる。他方、依然として核戦力を含む大規模な軍事力が存在している中で、多数の国が、経済発展等を背景に、軍事力の拡充ないし近代化に力を注いでいる。また、朝鮮半島における緊張が継続するなど不透明・不確実な要素が残されており、安定的な安全保障環境が確立されるには至っていない。このような状況の下で、我が国周辺地域において、我が国の安全に重大な影響を与える事態が発生する可能性は否定できない。しかしながら、同時に、二国間対話の拡大、地域的な安全保障への取組等、国家間の協調関係を深め、地域の安定を図ろうとする種々の動きがみられる。   日米安全保障体制を基調とする日米両国間の緊密な協力関係は、こうした安定的な安全保障環境構築に資するとともに、この地域の平和と安定にとって必要な米国の関与と米軍の展開を確保する基盤となり、我が国の安全及び国際社会の安定を図る上で、引き続き重要な役割を果たしていくものと考えられる。 こういった記述になっておりまして、このことを簡単に先ほどの二枚紙の「基本的な考え方」の「国際情勢についての認識」というところで御説明したところでございます。  次に、新防衛大綱の中でアジア太平洋地域の安定に一つ大きく関係ございますのが日米安保体制の問題でございます。  二枚紙の資料の一枚目の左から二番目のところに「日米安保体制信頼性向上」というものが書いてございます。ここには、防衛大綱に示されております信頼性向上策、これは四つの柱を立てておりまして、それがここに書いてあるわけであります。情報交換政策協議等の充実、あるいは運用面の効果的な協力態勢、装備、技術の幅広い相互交流、さらには在日米軍の駐留の円滑化、これには当然ホスト・ネーション・サポートの問題と在沖基地整理、統合、縮小等に関する問題が含まれるわけでございます。  この日米安保体制信頼性向上のためにこの四つのことが防衛大綱にも書いてあるわけでございますが、実は防衛大綱に記述してあるその前後のことがあるいはアジア太平洋地域の安定に大きく関係するかと思いますので、そこもちょっとごらんいただきたいと思うわけでございます。  防衛大綱厚手資料の四ページの一番下に「日米安全保障体制」という小見出しがございます。内容は五ページの上段でございます。真ん中のブロックが今御説明いたしました四つの項目、すなわち日米安保体制信頼性向上策として掲げたものでございますが、その前のパラグラフ、五ページの一番上でございますけれども、ちょっと読ませていただきますと、「米国との安全保障体制は、我が国の安全の確保にとって必要不可欠なものであり、また、我が国周辺地域における平和と安定を確保し、より安定した安全保障環境構築するためにも、引き続き重要な役割を果たしていくものと考えられる。」としております。  それから、パラグラフ三つ目でございます「また、」というところでございますが、「また、このような日米安全保障体制を基調とする日米両国間の緊密な協力関係は、地域的な多国間の安全保障に関する対話・協力推進国際連合の諸活動への協力等国際社会の平和と安定への我が国の積極的な取組に資するものである。」というふうに示しているところでございます。  また二枚紙の方の資料に戻らせていただきます。  一枚目の真ん中、「我が国防衛」、ここは説明を省略いたします。それから、次の「大規模災害等各種事態への対応」。実は先ほどちょっと申し上げました、防衛力の果たすべき役割として三つの柱を立てたというその三つがこの真ん中から並んでいる三つでございます。説明を省略いたしました「我が国防衛」と、今見ていただいております「大規模災害等各種事態への対応」、そして一番右側の「安定した安全保障環境構築」でございます。  実は、この新しく立てました二本目の柱、「大規模災害等各種事態への対応」の中で、一つアジア太平洋地域の安定に関係するところが出てまいります。  中身は、御案内のとおり、ここに書いてありますように大規模災害への対応ですとかテロ等事態への対応でございますが、最後に我が国周辺重要事態への対応というものが出ております。この中身もちょっと防衛大綱の方を見ていただきたいと思いますが、厚手資料の六ページでございます。  六ページの上の方の(2)、今御説明いたしております「大規模災害等各種事態への対応」でございますが、その中の二番目のイというところでございます。「我が国周辺地域において我が国の平和と安全に重要な影響を与えるような事態が発生した場合には、憲法及び関係法令に従い、必要に応じ国際連合活動を適切に支持しつつ、日米安全保障体制の円滑かつ効果的な運用を図ること等により適切に対応する。」。我が国周辺地域ということでございますから、当然アジア太平洋地域がそこに含まれるわけでございまして、このことが大いに関係する話であろうと考えております。  それから、二枚紙の資料の一枚目の一番右側に表示してある点でございます。ここが本日御説明するに当たって一番大きく関係するところかと認識しております。  新しく防衛力役割として掲げました「安定した安全保障環境構築」、「より安定した安全保障環境構築への貢献」、こういうふうに新大綱では銘打っておりますけれども、中身幾つか分かれております。  一つは、国際平和協力業務等でございます。これはPKO活動中心になります。それから、国連平和維持活動、失礼いたしました、これはちょっと表のつくり方がまずくて、国際平和協力業務等中身がその下の三つでございます。並列ではございません。その中身三つに分けておりまして、国連平和維持活動、それから人道的国際救援活動、それから国際緊急援助活動でございます。  国連平和維持活動は、御案内のとおり、現在ゴラン高原への自衛隊派遣をいたしておりますけれども、一番最初に出ましたのはカンボジアでございました。  それから、人道的国際救援活動では、これはアフリカのルワンダの関係難民対策ということでザイールに派遣をいたしたわけでございます。  いまだ派遣実績はございませんが、国際緊急援助活動ということで、これは自衛隊も主として医療活動あるいは防疫活動あるいは給水活動輸送活動も入るかと思いますけれども、そういった活動のために、主としてアジア太平洋地域を対象とした大きな災害が起こったときの援助活動として陸海空自衛隊が実は毎日スタンバイしております。主としてアジア太平洋地域を念頭に置いた予防注射をいたしておりまして、陸上自衛隊航空自衛隊中心になりますけれども、例えば先遣隊は二日、あるいは本隊は五日で日本を離れておおむね二週間程度で各地域援助活動ができるような態勢をしけるというスタンバイをしております。今のところまだ派遣実績はございません。  こういう国際平和協力業務等態勢自衛隊としてとっている、あるいはとってきた、現在も活動しているということでございます。アジア太平洋地域にも大いにかかわりのある話かと考えております。  それから、右の方に行きまして、「防衛交流等推進」、それからちょっと下の方に行きまして「軍備管理軍縮への協力」といったものがございます。直接的にアジア太平洋平和活動自衛隊が関与するということであれば、この国際平和協力業務のほかに防衛交流等推進であろうかと思います。  少し詳しくは次のページで説明しようと思っておりますが、二国間、多国間で相互信頼関係を深めることが重要との認識のもと、ここに示しております二国間の防衛交流韓国、中国、ロシア等との交流、あるいは多国間の枠組みでの貢献、ARF、ASEAN・リージョンフォーラム等への貢献といったものがございます。  それから、より広く、これはアジア太平洋に障りません、しかしアジア太平洋地域の安定にも零与するという観点では、軍備管理軍縮への努力ということがあろうかと思います。ここに書いてありますように、防衛庁自衛隊としても軍縮関連条約の作成への積極的な役割をこれまで果たしてまいりました。あるいは通常兵器移転登録制度MTCR等への参加、それからUNSCOMへの貢献防衛庁派遣職員処遇法の制定といったようなことを通じまして、軍備管理軍縮という分野で国際機関への協力というものを果たしていこうということでございます。  二枚目を開いていただきたいと思います。  まず、左側に「日米安保体制信頼性向上」というものが出ておりまして、この二枚目の紙肝防衛大綱、新防衛大綱関連いたします防衛庁自衛隊にとっての当面のいろいろな課題を示したものであります。  日米安保体制関係で、一つアジア太平洋地域の安定に絡む当面の課題といたしましては、「日米防衛協力のための指針」の見直しというものがございます。これはアジア太平洋地域の安定という観点からの見直しという分野があるというふうに認識しているところでございます。  さらに、先ほど申し上げました「大規模災害等各種事態への対応」、一番下でございますが、そこの関連で、震災それからテロといったような問題も含まれますが、その他、我が国周辺地域において我が国安全保障にとって重要な事態が発生した場合の危機管理対策、これは法律の問題も含むと思いますけれども、ここには危機管理法制ということだけ出しておりますが、危機管理体制についての検討というものが当面の主要課題としてあるというふうに認識しているところでございます。  大規模災害等各種事態という、ちょっと表現が災害に偏った形になっておりますが、先ほど申し上げましたような各種事態への対応ということで危機管理体制について我々としては検討していかなければならないというふうに考えている、そのことと先ほど申し上げました「日米防衛協力のための指針」というものとは関連があるというおうに考えているところでございます。  それから、右の「安定した安全保障環境構築」というところでございます。  左側にある「国際平和協力業務等」につきましては、これは間接的にアジア太平洋地域の安定にも寄与するというふうに考えておりますが、ここでは説明を省略いたしまして、真ん中の「防衛交流等推進」というところを中心説明させていただきたいと思います。まず、防衛庁自衛隊は、最近の国際情勢の応化に対応いたしまして、我が国を守るという観点からの防衛力の整備ということにとどまらず、我が国が例えば侵略をされないという、そういう環境づくりをするということも我が国防衛上あるいは安全保障上、非常に重要な問題として認識し、防衛庁自衛隊の経験ですとか組織ですとか知見ですとか技術ですとか、そういうものを活用して安全保障環境安定化のための努力をすべきだという認識をしているところでございます。  最近、防衛庁として報告すべきこととしては、例えば安全保障環境安定化のための予算、これは事務経費でございますけれども、この二、三年間、倍々あるいは五割増、二倍といったような形で増加しております。それから、組織でいいますと、七年度、今年度でございますけれども、昨年、信頼醸成軍備管理担当審議官という審議官を増設いたしたところでございます。と同時に、防衛局の中に信頼醸成軍備管理企画室という部屋をつくりました。八年度の予算では、これは政府案として政府の中で認められたものでございますが、防衛局の中に国際関係課、名前は仮称でございますけれども、こういった信頼醸成あるいは軍備管理等を担当する課でございますけれども、国際関係課の新設が認められているところでございます。  そういったこれまでの動きもございますが、ここに示しましたように、一つは二国間の安全保障対話の積極的な推進でございます。主要な対象は韓国、中国、ロシアになるわけでございます。  韓国は、これは伝統的に日本安全保障にとって非常に重要な、朝鮮半島に位置する、ある意味で友邦国でございまして、韓国との防衛交流安全保障対話というのは、一昨年から急速に高まったというふうに言えるかと思います。国防部長官あるいは防衛庁長官相互訪問、あるいは韓国日本との間の安全保障に関する実務者レベルの会議、あるいは韓国練習艦が初めて日本を訪問するといったようなことが既に進められてきております。  課題といたしましては、そこに書いてありますように、これはことしを念頭に置いておりますが、韓国国防部長官の訪日を両国で今検討している最中でございます。それから、初めて日本海上自衛隊練習艦隊の訪韓ということも考えております。これはことしになるか来年になるか、その辺はまだ確定しておりませんが、練習艦隊のスケジュールから見まして、来年度以降を念頭に調整をしているところでございます。  中国でございますけれども、国連安全保障理事国であるのみならず近隣の大国であることを認識しつつ、日中間の防衛交流あるいは安保対話に我々も腐心をしているところでございます。天安門事件以来、これは防衛交流、安保対話に限らず、いろんな面での交流が少し冷えたわけでございますけれども、最近努力をいたしまして日中間の安保対話、防衛交流に力を入れているところでございます。  先月の中旬に私も外務省のアジア局長ともども一年ぶりの日中安保対話をいたしたところでございますけれども、まだまだ他の国と比べますと十分ではない。一つポイントが、そこに書いてありますとおり、中国の国防相の訪日ということであります。中国の国防相の訪日をきっかけといたしまして、安保対話あるいは防衛交流、こういったものを飛躍的に発展させたいということで、これは日中ともども事務的にはそういう認識で今調整を進めているということでございます。  ロシアでございますけれども、もちろん国連の常任理事国の一角を占めているというのみならず、やはり隣国の大国、しかも軍事大国であります。北方領土問題が未解決という、日ロ間の未解決の問題がありますが、日本安全保障ということを考えますと、ロシアとの安保対話あるいは防衛交流、これもより深める努力をしなければならないという認識でございます。  少し前になりますが、冷戦終えん後三年ぐらいたちました一九九二年でございますが、初めて日ロの防衛担当者が一つのテーブルで議論をいたしました。たまたま私はそのとき防衛局担当の防衛審議官でございまして、防衛庁からは私とそれから制服組の統合幕僚会議の第五室長将補を伴って参りまして、戦後初めて日ロ間の制服組が一つのテーブルで顔を合わせた、こういうことで日ロの防衛交流はそれから始まりました。  防衛研究交流あるいは海工事故防止協定、その他いろいろな形で進展しておりますけれども、北方領土問題が未解決ということもあってステップ・バイ・ステップで進めるという認識で進めて労ります。  一つ今懸案になっておりますのは、ロシアの国防省から招待状が参っております防衛庁長官の訪ロの問題でございます。可能性があればことしじゅうを念頭にこれを企画したいということを考えているところでございます。  それからARF、ASEANリージョンフォーラム、このARFにおける安全保障対話あるいは防衛交流というものが昨年来俎上に上がっております。今、幾つかのテーマにつきましてより突っ込んだ議論をするという作業が進められております。日本はインドネシアと共同議長を務める形で信頼醸成措置についてこのARFのワーキンググループで議論を進めているところでございます。そのほかPKOの問題ですとか、あるいは救難捜索活動、そういったテーマで議論が進められておりまして、この三つテーマについてARFの上級会議に報告がなされるということであります。  この中で、何度か報道されましたが、やはり安保対話、防衛交流一つの大きな課題軍事力あるいは国防政策の透明性の向上ということであろう、その手段として、各国ともその国防政策等についてペーパー、報告書を出すべきではないか、こういった話が出ております。このISGにおける信頼醸成措置の検討の一つの大きな課題でありまして、既にその議論の反映が例えば中国にも出ておりまして、先般、中国は中国の軍備管理軍縮に関する報告書というものを発表しておるところでございます。先般、一月の中ごろでございますが、日中安保対話を一日やったわけでございますけれども、その中で中国側からは軍備管理軍縮に関する白書に加えて、近いうちに中国の国防建設についての白書も発表したいということを事明しておりました。防衛庁としましては、その下にございます「多国間対話への主体的な貢献」ということで、これまでも防衛研究所を中心にいたしましてアジア太平洋地域安全保障セミナー、これはもう既に二回やっております。ことし三回目でございます。それから、ことしから実は防大でアジア太平洋地域における防衛学セミナー、これも大体アジア太平洋地域の軍人、いずれも研究者あるいは教官が中心でありますがやってきておるわけでございます。  平成八年度から、ここの課題として掲げた二つは新しい政策でございまして、一つはここにありますハイレベルワークショップ、これは、これまでやってきましたのが研究者あるいは教官が中心でございましたので、今回はむしろ政策担当者、防衛庁でいいますと防衛局審議官とか、あるいは制服組でいいますと防衛部長とかそのぐらいのレベルの人たちを集めてアジア太平洋地域内の安全保障の議論をしたい。  それから、「北東アジア戦略概観」、これは防衛研究所で今手がけようと思っております案件でございますけれども、御案内のとおり、イギリスの戦略研究所の発表するミリタリー・バランスですとかあるいは戦略概観とか、有名な各国の戦力あるいは国防政策の比較の報告書がありますが、北東アジア版の戦略概観というものを日本でつくっていきたい。つくる過程でまた安保対話、防衛交流をやりたい、こんなことを考えているわけでございます。  ちょっと時間をオーバーいたしまして失礼いたしましたけれども、以上で私の説明を終わらせていただきます。
  11. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) ありがとうございました。  以上で説明の聴取は終わりました。  これより質疑を行います。  本日も、前回同様、あらかじめ質疑者等を定めず、委員の皆様に自由に質疑を行っていただきます。質疑を希望される方は挙手を願い、私の指名を待って質疑を行っていただきたいと存じます。  質疑のある方は挙手をお願いいたします。
  12. 永野茂門

    永野茂門君 三つほど質問いたします。  その第一は、日本周辺といいますか極東において、我が国安全保障に直接的に関係がある、非常に重大な関係を有する地域における事態が発生した場合の日米協力について、集団的自衛権の行使を含む、というのは、それに対する見解を含む、どういうように検討が進められておるか、あるいは進められようとしておるかというのが第一点。  第二点は、「日米安保体制信頼性向上」、一ペ-ジ、二枚組みの上の方の最初に「情報交換政策協議等充実」というのがありますが、情報交換、これから日本側が提供する情報を拡大することができるか。従来のように、どちらかというと、一方通行とは言いませんけれども、対米依存の方が大きくて、情報交換と称するにはややヘジテートする、そういう言葉を使うにはヘジテートするというような状態にあると思いますが、これを改善するつもりはないかというのが第二点。  それから第三点は、「日米安保体制信頼性向上」の一番下の方に「TMD共同研究」という項目がありますけれども、現在、調査研究中であるということは承知しておりますけれども、TMDの共同研究の見通し、さっぱり世の中に発表されないんですけれども、結論はそんなに難しくないと思うんでありますけれども、現在、出すこともそんなに難しくはないと思うんですけれども、なかなか結論が出ない理由はどこにあるのだろうか。  その三点を簡単にお願いします。  総理のお答えは代表質問で聞いておりますので、総理の答弁のような形式的なことはもうやめていただきたい。
  13. 秋山昌廣

    政府委員秋山昌廣君) 最初の集団的自衛権についての御質問でございますが、先ほど私読み上げました厚手資料の六ページの(2)のイのところの関係の御質問だと思いますが、閣議決定あるいは安全保障会議で決定された文章に示されているとおり、「憲法及び関係法令に従い、」「適切に対応する。」というふうになっておりまして、総理の答弁と全く同じかどうかわかりませんけれども、集団的自衛権不行使という立場でこの適切な対応を考えていきたい。  ただ、先ほど危機管理における法制ということを申し上げましたが、危機管理体制の中で検討すべき一つ課題としてこの事態が集団的自衛権の行使になるのかならないのかという議論があるわけでございまして、今申し上げましたように、防衛庁政府の立場と全く同じで、もちろんその集団的自衛権を行使しないという前提で考えるわけでありますが、これがそうなのかどうなのかというあたりの研究が実はまだ余り進んでいないという、この点は我々非常にある意味で危機感は持っておりますけれども、そういう議論をこれから進めていかなければならないと考えております。集団的自衛権の不行使という前提で本件を考えているわけでございます。  それから、安保体制につきまして情報交換についての永野先生からの大変鋭い御指摘がありまして、その御指摘について私は率直に言って否定することはできないと思っております。  ただ、日本情報収集能力あるいは日本情報分析能力あるいは日本情報の集積、それはこの数十年と言ってもいいと思いますけれども、かなり高まってきているという認識をしておりますし、今回、八年度の政府案の中で、防衛庁自衛隊情報組織を一本に統合いたしまして情報本部というものを新編する、そういうことを実は考えているわけでございますけれども、そういうこともきっかけとして我が国情報活動、これのレベルアップを図っていきたい。特に、冷戦が終えんしたそういう状況のもとで、先ほど申し上げましたように不透明、不確実性が非常に高まっているという状況の中ではやはり情報というものについての価値というものが高まっているのではないかということで、我々の力も高めたい。そういうことで、日米間の情報交換というものも、アメリカにとってもメリットがあるような形での展開を進めていきたいと考えているところでございます。  それから、TMDについての御質問がございました。TMDにつきましては、これは中期防衛力整備計画に具体的に示してありますけれども、済みません、この資料にちょっと入っておりませんが、八年度からの五年間の期間に、TMDにつきまして「その有用性、費用対効果等に関し、総合的見地から十分に検討の上、結論を得るものとする。」と、こういう閣議決定になっているわけでございます。  私は個人的にはこの閣議決定は非常に重要なことだと考えております。少なくとも期間を区切って、つまり八年度以降五年間に検討を終えて結論を得るということを政府として意思決定をした。実はどういう結論になるのかということについてはこれは全く、我々正直に申し上げまして、中立の立場で政府が、これは防衛庁だけで判断する話ではないと思います、大変重要な問題だと思いますので、政府全体がどういう決定をすべきかという判断をするのに必要な材料を今研究過程でアメリカの協力も得て進めているということでありまして、結論についての予断は全く持っておりません。  特に今申し上げましたように、本当に技術的に可能なのかどうか、仮に技術的に可能であっても、一体その費用対効果は許容できる範囲内なのか、そのほか我が国防衛全体についても総合的にいろんな観点から検討しなければならない、そういう非常に難しい問題であると思いますので、とにかく政府全体として判断する材料を提供したくちゃいけないということで研究をしているわけでございまして、研究が終わってその研究の最後に結論が出てくるということではないということを、繰り返しでございますが申し述べさせていただきたいと思います。
  14. 永野茂門

    永野茂門君 ありがとうございました。  質問はこれでやめますけれども、一言だけ、第一項と第二項についてコメントを申し上げておきたいと思いますが、第一点としては、やっぱり防衛庁としての見解は明確に、憲法解釈問題ですから勝手なことはできないわけですけれども、どういうようにすべきことが最も日本の安全にとって必要であるかということの見解は明確にしておいていただきたいということ。  それから第二点につきましては、非公然情報を含めまして収集手段の拡大について御検討をしておいていただきたい。もちろんいろいろやっていらっしゃると思いますが、衛星情報、これは非公然でありませんけれども、その他もっと手段の拡大について検討をしておいていただきたいということをお願いしておきます。  第三点については特にコメントはありません。  以上です。
  15. 上田耕一郎

    上田耕一郎君 秋山局長に三点質問したいと思うんですが、第一点は、御説明の中にはなかった日米共同声明によるいわゆる安保条約の再定義問題。  四月十六日にクリントン大統領が見えて、その中に、安保条約再定義とか再確認と言われていますけれども、事実上安保条約改定に匹敵する重大な内容になるのではないかと言われている。  アメリカの国防総省が三月一日に、これは初めてのものなんだけれども、アメリカと日本安全保障関係に関する報告書というのを出しました。それを見ると、アメリカ政府日本に地球的規模でも地域規模でもより大きな政治的責任を引ぎ受けるよう奨励している、地球的規模で責任を引き受けろと、こういうふうな内容が盛り込まれると思うんですね。  その文章の前に、在日米軍日本自衛隊の機構は相互に補完し合うよう設計されていると。つまり補完なんですね。自衛隊はアメリカの装備、実施要領、訓練、整備、兵たんに準拠をしているんだと。つまり、全部アメリカ風に編成されていてそれで補完するわけで、これが地球的規模というと、自衛隊は地球的規模米軍の補完部隊として活躍するよう奨励されているということで、それが今度の日米共同声明で盛り込まれることになるだろうと思うんですね。  これは非常に重大な問題だと思うんだけれども、防衛庁としては外務省と一緒になって共同声明の内容を詰めているというんだけれども、この問題、現段階でどういうふうに準備し考えているのか、この問題をお聞きしたいのが第一点です。  第二点は、先ほども説明があり、今、永野委員からも説明された新防衛計画大綱の問題の、周辺地域における緊急事態発生の場合の行動です。これは新聞などでも、私が第一問で言った安保再定義を既にもう先取りして入れちゃったと、だから共同声明はもう空っぽだというぐらい重大な内容なんですね。  それで、これは一体どういう法的根拠で我が国の周辺地域、この間代表質問で聞いたら、総理は、これは限定できないと、周辺地域がどこまでいくか状況によるんだというんで大変なことなんですよ。周辺地域で緊急事態が起きたとき、日米安保体制の円滑、効果的な運用というんでしょう。そうすると、そのとき日米の共同作戦をするのかしないのかということになるわけだ。  それで、安保条約では第五条で、自衛隊が動くのは侵略がされたとき動くわけですよ。六条で、米軍は極東で事態が起きたとき基地を使って出られるわけだ。今度、日本は侵略されていないのに周辺地域で重大事態が発生したら安保体制を発動して自衛隊が動くというと、これは安保五条以外の動き方になるわけね。一体どういう根拠で動くのか。  しかも、先ほどの永野さんに対する答弁で、集団自衛権の行使にかかわることもあり得るので、これはわからないので検討中だというんでしょう。非常に重大問題で、日本は侵略されていないのに周辺地域の状況で、それこそ地球的規模事態が起きたとき日米共同作戦をするというと、これは集団自衛権そのものですよ、行使。この点について、一体どういう法的根拠でこういう日米共同作戦を日本が侵略されていないのに発動するということになっているのか。しかも、これは、国連活動を適切に支持しつつとあるので、国連の安保理事会決定でNATOも爆撃なんか動き始めたんだけれども、国連安保理事会の決定によれば、決定があれば何でもやれるという中身がここにひそかに書かれていると、非常に大変な事態だと思うので、この第二点についてお答えをいただきたいと思うんです。  三番目は、もう既にそういうことがこの文章だけじゃなくて実際に始まっているという疑惑が報告されているので質問します。これは、毎日新聞の防衛庁担当の記者だった大塚智彦氏の「アジアの中の自衛隊」という本が東洋経済新報社から出ているんですけれども、この中で、これは百三十二ページですが、自衛隊が九三年末から九四年春にかけて、北朝鮮と韓国が戦闘状態になった場合の対応研究を極秘に実施したと、そのことを自衛隊幹部が証言している。陸上自衛隊海上自衛隊航空自衛隊がそれぞれ陸海空の各幕僚監部で独自に実施したと。中でも航空自衛隊は最も有効に作戦遂行が可能と判断して、米軍協力して北朝鮮本土の戦略拠点への攻撃作戦参加を具体的に検討したといって詳細に書かれているんですよ。  それで、西元徹也統合幕僚会議議長は、こういうことはしていない、そういう研究は全く知らぬと言っているんだけれども、自衛隊の幹部の証言で、防衛庁担当の記者が著書でこれだけ数ページにわたって書いているんだから、こういう研究を一体やっているのかどうか、やったのかどうか、これについても明確にお答えいただきたい。  これはかつて三矢作戦研究が大問題になりましたけれども、もう日米共同声明の安保再定義の先取りを防衛計画大綱でやって、実際に行動は、自衛隊の中ではこういう大変な問題、先ほど韓国に今度は練習艦隊が行くんだなんて言っていたけれども、日米韓の軍事同盟の発動の研究を既に行っているという疑惑が非常に強いと思うんですけれども、その点についても事実関係防衛局長として明確にお答えいただきたい。もし知らないというんだったら、調べていただきたい。  以上、三点です。
  16. 秋山昌廣

    政府委員秋山昌廣君) 事前に御質問を伺っておけば事前に調べてお答えできる部分もたくさんあるものですから、恐縮でございますけれども、三つの御質問の趣旨に対して、私から知る限り御説明させていただきたいと思います。  まず、第一点の日米共同声明における再定義という御質問でございますが、我々として再定義というよりも再確認という感じで作業をしてまいりました。特に、昨年、クリントン大統領が十一月に訪日をすると、そのときに当時の村山総理大臣との間で共同声明を発表するということが予定されておりましたので、実はその一年とか一年半ぐらい前からかなり本格的な、日米安保体制の中でもこれほど日米間が安保対話をやったことがないぐらいやってまいりまして、特に冷戦後、国際情勢が大きく変化した中での日米の安保体制がどういう意味を持っているのかということを、日本の国民のみならずアメリカの国民にもよく発信をしたい、すべきではないかという観点でやってまいったわけでございます。  クリントン大統領の訪日が延期になりましたものですから、四月の訪日のときに同様のことを予想してなお我々作業をしておりますが、冷戦終えん後の日米安保体制のありようにつきましては、実は既に昨年末閣議決定いたしました新しい防衛大綱の中であらあらその方向は出ておるわけでございまして、先ほど御説明いたしました参考資料の五ぺ-ジの上の方に書いてある、そういう認識を基本的にはしているわけでございます。しかし、両首脳の共同声明ということであれば、もう少しいろいろと声明のしょうは変わろうかと思いますけれども、基本的にここに書いてあることと変わりはないことを考えていると理解しております。  それから、アメリカの報告書の中に地球的規模で云々という記述があるという御指摘がありました。アメリカがどういうことを考え、あるいはアメリカがそのレポートの中でどういうコンテクストでそういう言葉を使ったのか、ちょっと私も、恐縮でございますが、後ほどよく読んで正確に答弁できればしたいと思いますけれども、その地球的規模という意味においては、例えば先ほど御説明いたしました……
  17. 上田耕一郎

    上田耕一郎君 それは何回も出てくるんですよ、私は一カ所だけ言ったけれども。
  18. 秋山昌廣

    政府委員秋山昌廣君) そうですか。  先ほど御説明いたしました参考資料の五ぺ-ジの上から三つ目のパラグラフのところに書いてあるそういう中身と我々は理解しているわけでございます。すなわち、「このような日米安全保障体制基調とする日米両国間の緊密な協力関係は、地域的な多国間の安全保障に関する対話協力推進国際連合の諸活動への協力等国際社会の平和と安定への我が国の積極的な取組」、これを地球的規模と言って結構だと思いますし、グローバルな観点からの我が国の積極的な取り組みと言って結構だと思いますが、そういうものに資するものである、こういう理解でございます。  したがって、日米の米国軍と自衛隊との相互補完関係について付言がございましたけれども、我々の考えは、日米安保体制の効果といいましょうか、その機能、そういうものに着目しているわけでございまして、そのうちの一つ要素米国軍あるいは自衛隊というのはありますけれども、日米安保体制というのはもう先生御案内のとおり非常に広い概念でございますので、そういうことをベースにした我が国の地球的規模の平和と安定に寄与する、そういう考えを我々とっているところでございます。  それから、周辺地域我が国安全保障にとって重要な事態が発生した場合の問題について御質問がございました。  ぜひ御理解いただきたいのは、日米安保体制という言葉がかなり広い意味で使われているということでございまして、安保条約第五条、第六条、それから安保条約における第五条、第六条以外の前文も含めた安保条約の中身、そして安保条約をベースにした日米間の緊密な関係、まあ同盟関係でもいいと思いますけれども、そういった関係全部をひっくるめて日米安保体制と、こういうふうに我々は言っているわけでございます。したがいまして、周辺地域ということを言った場合に、防衛大綱で示した周辺地域というのは特に特定はしておりません。我が国安全保障に重要な影響のある事態が発生する地域が周辺地域ということになるわけで、ややトートロジーでございますけれども、具体的に起こってみないとそこはどこまで入るかはわかりません。  ただ、安保条約の関係でいいますと、これはもう間違いなく安保条約第六条による極東の範囲というのは、これは従来の考え方を全く変えておりません。これは、やはり資料の十三ページにございますが、新防衛大綱の閣議決定のときに発表になりました内閣官房長官談話、野坂当時の官房長官談話の中にございますけれども、十三ページの真ん中パラグラフの下の方でございまして、日米安全保障条約に言う極東の範囲の解釈に関する政府統一見解を変更するものではございませんと言っておりますので、そこはそういうふうに御理解いただきたいと思います。  それから最後に、共同作戦の研究等についての御発言がございましたが、ちょっと私はその本を読んでおりませんので、また西元議長が正確にどういうことをおっしゃったのかもわかりませんので、それは調べた上でお答えした方が適切かと思いますけれども、当然のことながら、我々防衛庁自衛隊といたしましては、我が国安全保障に関するいろいろな研究はしております。それから、日米共同のありようについても研究をしております。もちろん、事柄の性格上発表いたしかねますけれども、いろいろな研究はいたしておるということは、ここで申し上げておきたいと思います。
  19. 上田耕一郎

    上田耕一郎君 ちょっと一点だけ。  二番目の問題で、安保条約の五条、六条以外の広い意味での日米安保体制運用とお答えになったけれども、そうするとじゃ周辺で何か起きたときに日米の共同作戦を発動することもあり得るわけですな、五条、六条に基づかないで。
  20. 秋山昌廣

    政府委員秋山昌廣君) 安保条約に基づく例えば事前協議とか、それから安保条約に基づく在日米軍活動というのは、これは条約に規定されるということは明確であります。
  21. 山本一太

    山本一太君 この間、ワシントンの戦略研究所、CSISのミッションが日本に来られまして、そのときに塩崎先生や林先生や馳先生と一緒にそのミッションといろいろ情報交換をするチャンスがありました。その中で、最近日本部長になられたケント・カルダー博士が、これからの太平洋地域を考える上でエネルギー問題をめぐる対立、特に日中の対立というのが大きな火種になってくるんじゃないかということをかなり懸念しておられたんです。  いろんな意味で今ほど日中の安保対話というものが必要とされているときはないという認識がありまして、先ほど局長もこの間一年ぶりに日中の安保対話をなさったという話があったんですけれども、一点だけなんですけれども、その日中の安保対話、具体的にどういう内容のものだったのか、その中で局長が中国側の防衛に対する姿勢というものをどういうふうに感じられたか、中国の意図をどういうふうに感じられたかということだけちょっとお聞きしたいと思います。
  22. 秋山昌廣

    政府委員秋山昌廣君) 日中安保対話は、正確に申し上げますと十五日丸一日かけて、これは両国とも外務省、国防当局ともどもやったわけでございまして、広範なテーマについて議論をいたしました。  防衛庁あるいは先方の国防省ないし人民解放軍との関係でいいますと、私の方から新防衛大綱とか中期防とかあるいはアジア情勢等について見解を述べ、先方も同じような、特にアジア周辺諸国から懸念を抱かれている国防費とか、そういったようなものについて説明があったわけであります。  実は、今の御質問の関係でここで御報告した方がいい点は、日本に限らずアジア周辺諸国、あるいはこれは米国にもあると思いますけれども、いろんな研究所も含めて中国脅威論といったようなものがある。そういうことに対して、中国政府からその安保対話の席で、それは中国の側から見ると大いに意見、反論といいますか、そうではないということを言いたいという説明がるるございました。十三億の民を養っていくために経済発展は欠かせない、その経済発展をもって中国の脅威と言うのであれば大変遺憾であるといったような話もございました。  私からそのときに、それはそれとしても、やはり二十一世紀にかけてこれだけの大きな国が、もちろん経済発展というものは必要だと思うけれども、エネルギーの問題、食糧の問題、そういったものが世界的規模で大きな影響を与える大きな問題なので、我々としては中国のこれからの動向について十分注視をしていかなくてはいけない、その中にもちろん国防政策の例えば展開ということも注視していかなければならないといったような話をいたしました。  それで、このエネルギーの問題については、これは多分中国も相当大きな課題として認識していると思います。御案内のとおり、既に中国は石油の輸入国になっております。仮に中国の各都市に自動車が走り出すということになれば、それだけでも大変大きなインパクトを世界市場に与えるだろうと、そういうことも議論いたしました。そういう観点で、今のそのエネルギーに関しての質問との関連で日中安保対話の中で議論をした一つテーマというものはそういうものがございました。
  23. 泉信也

    ○泉信也君 二点お尋ねをいたします。  この参考資料の三ぺ-ジの一番下のところでございますが、力の空白という考え方、これは前の大綱にはなかった考え方かと思いますが、どういう状況認識でこうした言葉が入ってくるようになったのか。これが第一点です。それから六ページの(2)のイ、この文言が、この「大規模災害等各種事態への対応」という非常にあいまいな「等」の中で読まれておるのかと思いますが、このイというのは大変重要な意味を持っておって、むしろ(1)の「我が国防衛」というところに位置づけるべきほどの概念ではないか。非常に遠慮しながらと申しましょうか、位置づけがおかしいんではないかというふうに私は思いますが、この二点について御説明をお願いいたします。
  24. 秋山昌廣

    政府委員秋山昌廣君) 力の空白についての御質問でございますが、結論的に申し上げますと、前の防衛大綱の基本的な理念である基盤的防衛力構想というのは、まさにこの力の空白をつくらないという考え方であったわけでございます。したがいまして、この考え方はまさに前の防衛大綱考え方をそのまま引き継ぐということをある意味で解説したものでございます。  それで、力の空白になったら不安定になる、したがって力の空白をつくらないようにすべきだという考え方がいつ出たかといいますと、まさに前防衛大綱を策定いたしました昭和五十一年ごろでございます。  昭和五十一年以前は、防衛力整備は五カ年計画、二次防、三次防、四次防という五カ年計画で実は防衛力整備を行ってまいりました。現在も中期防衛力整備計画という五カ年計画がございますが、当時の五カ年計画は現在の中期防衛力整備計画とちょっと違いまして、大ざっぱに言ってしまいますと五カ年ごとに中期防衛力整備計画と大綱と両方つくっていた、つまり考え方防衛力整備を五カ年ごとにつくっていたというのが当時の考え方でございます。二次防、三次防、四次防というこの五カ年計画の中で、基本的に当時の防衛庁政府考え方は、通常戦力による局地戦以下の侵略に対応すべき自衛力の積み上げということが目標でございました。  これは言葉の問題でなかなかわかりにくいわけでございますけれども、通常戦力による局地戦以下と、こう言いながら、二次防、三次防、四次防とやってきても、いつまでたってもその目標に達しないという状態で、政府の中からもあるいは国民の中からも一体どこまで防衛力というのは整備していくのかという懸念も出たということで、昭和五十一年以前からそういう見直し作業をいたしまして、結果として基盤防衛力整備構想、つまり、ある通常戦力による局地戦以下という、そういう脅威への対処ではなくて、独立国として必要最小限度の均衡のとれた平時における完全なる防衛力を築き上げる、こういう基盤的防衛力構想というのができまして、その考え方説明する説明の仕方として力の空白にならないということが安定するんだと、こういうことで出てきた話でございます。  そういう意味で、今回の新しい防衛大綱も基本は基盤防衛力整備という考え方を引き継ぐということでございますので、解説的に「自らが力の空白となって」云々といったような表現がそこに出てきたわけでございます。  それから、六ぺ-ジの(2)イの位置づけにつきましては、これは率直に申し上げますと、防衛大綱をつくるときも一体ここでいいのか、柱を一本立てるべきではないか、あるいは御指摘のように(1)の問題ではないか等、大分議論がございました。ございましたが、実は(1)はまさに我が国防衛我が国が間接的あるいは直接的に侵略されたときの防衛、あるいはそれを防止する、我が国が侵略される、あるいはされたことに関する記述でございまして、例えば自衛隊法で言いますと、防衛出動とかあるいは防衛出動の待機準備とか、そう.いったようなたぐいの話でございまして、(2)のイ、我が国周辺地域において我が国安全保障に重要な影響を与える事態とちょっとやっぱり種類が違うかなと。  実は、このイの中で起こりそうな具体的事例としてどんなものがあるのかということで、ちょっとぬるま湯的でありますけれども、地域の特定をいたしませんけれども、具体的に申し上げますと、例えば我が国周辺地域で重要な事態が発生して大量の難民が我が国に到来するとか、あるいは在外邦人をその地域から緊急退避させなければならないといったような事態が生じるとか、あるいは、それは少し時間がかかるかと思いますけれども、捨てられたと認められる機雷が我が国周辺に浮遊してくるとか、大量の機雷が浮遊してくるとか、それから、なかなかこれは難しい問題が含まれておりますけれども、例えば国連が経済制裁を決議したときとか、そういったようなことを考えているわけでございまして、これは必ずしも(1)には入らない。国連が経済制裁を決議したような場合というのはあるいは(3)かなと考えたんですけれども、どうも(3)のグルーピングにはちょっとなじまないということで、余り多く柱を立てたくないということで結果として(2)におさめたと。  若干御意見があるのは私も理解いたすところでございます。
  25. 笠井亮

    笠井亮君 私、御議論を伺いながら、今度の新大綱の問題では、日米安保の再確認とおっしゃいましたけれども、そうではなくて再定義のまさに先取りであって、それに見合って自衛隊の任務を大きく転換させる重大な中身になっているというふうに思うんです。  既にいろいろ御質問、質疑もありますので、私はここで二点だけ今までのに加えて御質問したいんです。  一つは、新大綱では、今ちょうどお答えありましたけれども、必要最小限の基盤的な防衛力については踏襲するというふうに言われていますけれども、そういうふうにおっしゃりながら、限定的かつ小規模な侵略は独力で排除するという記述が今回なくなっているということがあると思うんです。私、セキュリタリアンというんですか、この雑誌で、当時の衛藤防衛庁長官以下、新防衛大綱を解説するということでこの記事を拝見したんですけれども、そこでもいろいろその経過についても説明はあると思いますけれども、今回この点でのそういう記述をなくしたという認識変化というのはどういうことがあるのか。  それから、結局、このもとで我が国に直接侵略があった場合に、限定的小規模かどうかを判断するまでもなく、初めから要するに自衛隊だけではやらない、米軍との共同対処を前提としてやるんだということになっていくんじゃないか。最近のエコノミストの論評記事の中でも、この点でもアメリカの国防次官補だったナイ・イニシアチブの精神をそっくり取り入れたという論評なんかもあるわけです。そうなりますと、自衛隊そのものの役割だとか、それから指揮権がどうなのかとか、法体系の問題とか、さまざまな重大な問題が出てくると思うんだけれども、その点についてどういうふうに思っていらっしゃるか。  それから、これまでは限定小規模侵略への対処を前提にして、それに見合う軍事力の限度を別表で示すということで明示されてきたと思うんですけれども、それを今度なくすとなれば何を限度に自衛隊の装備の枠組みを決めていくのか。結局、内外での日米の共同作戦のためのアメリカの補完部隊として、アメリカがこういうのが必要だと言えばそれに見合ってこっちも決めていくことになっていくんじゃないかということも考えるわけですけれども、その点について大きく一点御質問をしたい。  もう一つは、先ほどありました情報本部のことなんですけれども、この計画については、旧ソ連とか中国とか北朝鮮などの情報収集に加えて、PKOなどの海外派兵もにらんで世界的な規模での広範な情報収集、分析を行うことを目的にして、規模も内調だとか外務省の国際情報局を越えて日本最大の国際諜報組織になるというふうにも言われているわけです。  先ほどお話の中にありました、秋山局長も日中の安保対話ということで行かれたということなんですけれども、他方でちょうどあのとき問題になったのは、北京の防衛駐在官がアメリカ空軍の軍人と一緒にスパイ容疑で身柄拘束をされるという事態もあったりしたわけですけれども、一方で対話を促進すると言いながらそういう事態が起こっているということになりますと、関係諸国との信頼関係ということをしきりに言われるわけですけれども、なかなかそういうふうにはうまく進まないんじゃないか。  だから、能力を高めたいということで言われているんですけれども、なぜ今これほどまでに千六百人規模の大きな情報本部をつくってやっていくのか。それから、その機構は実際何をやっていくのか。先ほど非合法の活動ということも含めて言われましたけれども、そんなようなことも想定しているのか。その点について伺いたいと思います。
  26. 秋山昌廣

    政府委員秋山昌廣君) まず、再確認でなくて再定義ではないかという御意見ございましたけれども、それについては先ほど私御説明したので繰り返しになりますので、防衛庁としての考え方は再確認という考え方でやってきたということを繰り返して申し上げさせていただきたいと思います。  ただ、自衛隊の任務が大きく変わってきているではないかという点につきまして、先ほど御説明いたしましたように、今回の防衛大綱で新しい柱を三つ立てたということは確かにそういう印象を与えると思います。  我々としても、防衛庁自衛隊の政策展開あるいは行政展開あるいは部隊の運用という面で、そしてまた自衛隊員、自衛官の意識の転換という意味で、この二つ目、三つ目の柱を立てたということは大変重要なことだと思っておりますが、任務の拡大という意味におきましては、これは従来から災害派遣活動はやっていることでございますし、それから我が国周辺で何か起こった場合ということについても、これは日米共同研究として従来から入っている問題でございますし、それから安定した安全保障環境構築という点につきまして、新しい任務といえばPKOの派遣あるいは国際緊急援助活動へも自衛隊派遣されるということがつけ加わった。これはしかし、今回の防衛大綱の改定前に国会の承認を得て法律改正がなされている、こういうものでございまして、今回の新防衛大綱で何か新しい任務がつけ加わったということではない、むしろその任務を強調したということであります。  それから、限定小規模、独力排除の問題でございます。  確かに、従来の防衛大綱には一つの何といいましょうかシンボル、目玉として限定小規模侵略、独力排除というものがございました。それは従来の防衛大綱の基本的考え方基盤防衛力ということであった。それの一つの考えが限定小規模、独力排除であったということでつながっていたことは私も認めるところでございます。我々としては今回、従来の防衛大綱で限定小規模、独力排除とつながっていたその基盤的防衛力構想というものを引き継いだという意味において、その点について余り変化はしていないという認識でございます。  ただ、なぜ限定小規模侵略、独力排除ということをわざわざ今回防衛大綱から外したかといいますと、御質問にございましたように、キャップが外れたという御指摘もありますし、むしろ逆に、限定小規模侵略については自衛隊が独力で対処する、それだけの必要な防衛力整備を必要とするという、むしろそこを外されたという両方の見方がありまして、それはどういう見方があろうと、私の方は外した理由を次のように考えているわけでございます。  一つは、限定小規模侵略という概念が実は東西冷戦下という、そういう特殊な状況において当時考察をされたということでありまして、冷戦が終えんした以上、そういう状況のもとで考えられた限定的かつ小規模の侵略というものを残しておくのはいかにも冷戦の遺物が残っているという印象を与える。と同時に、限定小規模侵略というものを書くことによって、何かいっか限定的な小規模の侵略があるのではないかという誤った印象を与える。実はこれまでもそういう印象を与えてきたわけで、どうも問題だなという認識は持っていたわけで、そういうおそれを与えることをこの際排除したいということであります。  それからもう一つ、日米間の協力、日米間の共同体制といったものが、昭和五十一年、防衛大綱ができたときと比べまして格段と現在はいろんな面で進んできているわけであります。そういう状況も認識し、かつ実際の自衛隊のオペレーション、運用面のことを考えますと、我が国に対してまさに武力をもって侵略があったときに、それが限定的小規模かどうかという判断をして、そして自衛隊対応するとかアメリカには要請しないとか、そういったようなことが現実問題としてできるのかという、実は運用面での問題も考慮したわけでございます。  なお、ちょっと御説明いたしますと、厚手資料の五ページの(1)「我が国防衛」というところにアとイとございますが、イの後半、つまり六ページの冒頭でございますけれども、「直接侵略事態が発生した場合には、これに即応して行動しつつ、米国との適切な協力の下、防衛力の総合的・有機的な運用を図ることによって、極力早期にこれを排除することとする。」。これは、現実問題としてもし直接侵略が発生した場合、自衛隊はこれに即応して行動する。しかも、後のところに出てきますけれども、陸上自衛隊はどこから侵略があっても直ちに即応態勢がとれるように師団とか旅団の編成を行う、こういうことになっておりますので、当然のこととして、直接侵略があった場合にまず自衛隊がそれに対応するというのは現実問題として自然なことだと思っております。  ただ、従来のように、何といいましょうか、自衛隊が持ち切れなくなるまで頑張って頑張って頑張り抜いて、だめだったらアメリカに救援を依楯するというのはどうも非現実的だと我々認識しておりまして、実際に武力を使用して我が国に対して直接侵略があれば、現在の日米安全保障条約のもと、当然当初から日米間で強力な緊密な連携をとるということはむしろ自然であろうというふうに考えたところでございます。  それから、指揮権について御質問がございましたが、これは韓国と違いまして、日本の場合には独立した組織でございますので、指揮権の問題は何ら発生しないと考えております。もちろん、緊密な作戦その他重要な問題についての情報交換といいますか、意思疎通は行わなければならないと考えております。  それから、情報本部につきまして、内調ですとか外務省の情報機能を上回る最大なものになるというお褒めの言葉をいただきましたが、我々もぜひそういう評価をいただくべくこれから頑張ってまいりたいと思いますけれども、先ほど申し上げましたように、幾ら我が国を守る自衛隊組織防衛力整備、体で言いますと腕ですとか足ですとか骨格ですとか、そういうものを整備したところで、やはり目とか耳とかあるいは神経とか、そういうものがしつかりしていないとしっかりした機能は発揮できないという認識でございます。特に、冷戦終えん後の不透明、不確実な状況においては、やはり目、耳、神経というものは非常に重要だという、そういう観点から、従来防衛庁の中でばらばらに存在し、ばらばらに情報収集活動々し分析をしていた情報機能を一本化することによって、その質的レベルを上げていきたいといろふうに考えているわけでございます。  なお、中国における防衛駐在官の点について細発言がございましたけれども、防衛駐在官が不祥意にも軍事的禁止区域に入ったことについては我々遺憾に思っておりまして、自主的に退去いたしたわけでございますが、情報活動安全保障対話、あるいは防衛交流、安保対話というものは、これは両立させなければいけない、これから注意をもつとして情報活動をするように指導してまいりたいと考えております。
  27. 笠原潤一

    笠原潤一君 実は、昨年の十一月にクリントン大統領がお見えになって村山総理との会談が行われ、その声明はどういう声明が行われるかというのを大変私ども、期待というよりも非常に気にしておったわけですけれども、残念ながらクリントン大統領、議会との関係があっておいでになれなかったと、こういうことです。  実は、昨年は大変日米間の安保に対する考え方の差異が、日米両方の違った考え方が非常に浮き彫りになったと思っておったんです。というのは、特に一昨年、共和党が中間選挙で大量に進出したものですから、共和党の考え方は非常に新しい考え方を持っていましたので、それとアメリカの行政府と、特にクリントン大統領との間にいろんな考え方の違いが大きくクローズアップされたわけです。  したがって、そのころは、御承知のように日米安保に対して、特に米軍の駐留の問題についてアメリカ側は非常に後退した考え方が随分言われてきたわけです。特に、グアムからハワイの線まで後退してはどうか、あとはもう日本防衛力を負担してもらったらどうかということでありましたが、ことしになってまた随分さま変わりしてきたわけです。  それは、もちろん国際情勢というのは随分変わってきますから、最近は非常にアメリカ側も能動的といいますか、極東の、特に台湾海峡を挟んで中台の関係を非常に重要視してまいりまして、もう何十年ぶりかで空母ニミッツが台湾海峡々通ったということもありますし、さらに台湾の副総統を、昨年も李総統の渡米について大変な問題が起きたんですけれども、今回もビザを発給する、こういうことであります。そういうことで中台間の緊迫というのが非常に状況が変わってきた、非常に厳しくなってきたということであります。そこで、三月に台湾の総統選挙が行われて、一体どういうことを中国が考えているかということについて、中国の現状といいますか、そういう現状分析が非常にいろいろと言われているわけですけれども、先ほどの話じゃありませんが、一体中国軍事力の分析、解析が果たして適切に行われているかというと、大変私はそういう点では疑問に思っています。  さらに、尖閣列島、これは今度海洋法が出てくるという話ですが、尖閣列島をめぐって領有権の問題が恐らくまた再浮上するでしょう。さらに、その前に、尖閣列島の領空を何十回となく、何十回以上、何百回ですか、御承知のように中国空軍とか台湾も侵犯しているんだけれども、この問題をまだほとんど等閑に付しておる。こんなことでありますし、尖閣周辺をめぐって中国艦船の蠢動が非常に多いということです。  ここら辺の問題を一体防衛庁はどういうふうに考えておるかということと、そんなことを含めながら、ここら辺の情勢をどういうふうに分析しているのか、ちょっとその点について、きょうの主題であるアジアの情勢の問題について特にお聞きしたかったし、どういうふうに理解しておるか、ここら辺の問題をちょっとお聞きしたいと思っております。
  28. 秋山昌廣

    政府委員秋山昌廣君) アメリカのアジア太平洋地域における戦略展開あるいは政策、そういうものに変化がこの数年間あったということは、これは間違いないことだと思います。それが去年ということではなくて、もう少し前からかなり動いてきたわけでございます。  ちょうど冷戦終えん直後の一九九〇年でございますけれども、EASIという戦略発表がありまして、アジア太平洋地域に冷戦前に展開していた米軍の兵力が、たしか私の記憶では十三万五千ぐらいいたと思います。そのEASIのフェーズ・ワン、フェーズ・ツーという二つの作戦が発表されましたが、フェーズ・ワンでは、例えば一九九〇年から一九九二年の第一段階にこれを一万五千人ぐらい減らすとか、それから第二段階ではこう減らすとか、第三段階ではかなり減らすとか、そんな発表があって、その後修正のフェーズ・ツーがあって、そしてボトムアップ・レビューというのが出されて、そして最終的に昨年のEASRという東アジア戦略報告というのが出された。  そういう展開の中で、冷戦直後、ヨーロッパにおける兵力の削減と同時に、アメリカのアジア太平洋地域における兵力の削減というのが計画されたところでありますが、ヨーロッパとアジア太平洋地域はいろんな意味で状況が違うという認識のもと、その修正がなされ、最終的に約十万の兵力を維持するという方向が、これはもう一九九二、三年ごろに出てきているわけであります。これがはっきり出てきたのがボトムアップ・レビュー、そして昨年のEASR、そして実は日本在日米軍についての兵力についてはっきり言い出したのが昨年ペリーの訪日のときと、こういう流れがございました。  我々としては、実は一昨年、その前の年あたりからでございますけれども、実は現在の中期防、平成七年度で終了する中期防の中で防衛力あり方検討ということをずっとやっておりましたので、例えば細川内閣のときでございますけれども、防衛問題懇談会をつくってレポートを出すとか、いろいろその作業をしておりました。防衛庁の中にも防衛力在り方検討会というのをつくって作業をしておりました。そういう中で米側とかなり対話をしてきた。そういう状況のもとで、我々としては、米国が十万人、あるいは結果として在日米軍四万七千人というのも含めましてアジアに対する関与、あるいはアジアに対する米軍のプレゼンスというものの意義というものを我々も非常に高く評価するということで議論をしてきたわけでございます。  したがいまして、そういうことをベースにして、昨年十一月の日米共同声明、あるいは延期になりましたのでこの四月の共同声明、そういう共同声明の中身につきましては、米軍の兵力については基本的にそういう認識で日米ともある意味でシェアをしながら進めてきたという背景がございます。  それから、特に最近米国中国の問題あるいけ中国と台湾の問題について強い関心を持ってきているのではないかというのは、それはもう御指摘のとおりだと思いますし、我々としてもアジア太平洋全体の安定と平和ということを考えますと、この中台間の最近の緊張につきまして非常に重視してそれをウォッチしているという状況でございます。  尖閣諸島の件については、これは外務省あるいは政府全体の問題でございますのでちょっと私から申し上げるのもなんでございますけれども、従来から日本政府としては、これは領土問題という問題が存在するとは考えていないという立場でございます。これから海洋法条約とか海洋法制の関係でいろいろ苦労はあろうかと思いますけれども、そういう立場というのは崩せない問題という認識でおります。
  29. 林芳正

    ○林芳正君 ありがとうございます。  二点ほどちょっとお聞きいたしたいんですが、一点は先ほどのARF、これは大変にマルチの場として大事になってくるんではないかと思うんですが、ISGでいろんな検討をされておられるということで、日本とインドネシアが信頼醸成、コンフィデンスビルディングをやって、あと二つほどテーマがあるとおっしゃっていましたので、これは後でも結構なんですが、日本とインドネシアが今やっている状況がどの程度日本がどういうスタンスでやってサブコミッティー自体がどこまで話が進んでおられるのかということと、あと二つの、たしか、ちょっと私聞き落としたかもしれませんが、PKOと非核でございますか。
  30. 秋山昌廣

    政府委員秋山昌廣君) 捜索救難対策です。
  31. 林芳正

    ○林芳正君 捜索救難ですね。その二つについての、どういった国がどの程度まで議論をされておられるのかということをちょっと一つお聞きしたいのと、もう一つは、先ほど危機管理の法制の検討というのが大規模災害等各種事態への対応の中で出てきて、そしてその中で「日米防衛協力のための指針」というのと大分絡んでくるだろうと。これは大変大事なことで、地震が起きたときは随分大騒ぎをして、FEMAみたいのがアメリカにあるから、そういうのを見ながらということも随分出ておりまして、その前からいろいろとこの危機管理法制は言われておりましたけれども、防衛庁としてのスタンスと、それから政府全体として今具体的にどんな取り組みになっておるのかということをちょっとお聞かせ願えたらと、こういうふうに思います。
  32. 秋山昌廣

    政府委員秋山昌廣君) まず第一点のARFの関係でございますが、その下部組織といいますか、ワーキンググループとしてISGというものができておりまして、今三つテーマがございます。  信頼醸成措置については日本とインドネシアが共同議長。それから、PKOというテーマがございまして、これはたしかカナダとマレーシアであったかと記憶します。それから、捜索救難、このテjマでたしかアメリカとシンガポールが共同議長であったと思います。いずれのテーマ、いずれのISGも私の記憶するところでは一回の会議が開かれた、あるいは開かれようとしている、二回目の会議が開かれつつある、あるいは開かれた、そんな状況でございます。  まことに失礼しました。我々が共同議長をやっております信頼醸成関係は一回やりまして、これを四月にもう一回やって最終的な報告書をまとめようとしております。PKOについてはまだ開かれていないようでございます。それから、捜索救難関係は一回目が四月に開かれるということでございます。いずれのテーマにつきましても日本から参加をする、防衛庁からも参加をするという方向で検討をしておるところでございます。  それから、危機管理法制の問題につきましては、御案内かと思いますけれども、実は二年前に北朝鮮の核疑惑の問題で少し緊迫した時期がございました。そのとき以来危機管理の問題につきまして、政府部内でも非常に重要なテーマだと、その当時も少しゃりましたけれども、重要なテーマだという認識が深まってきておりますが、昨年の国内の事案でございますけれども、阪神・淡路大震災という大きな災害があったこともこれあり、この危機管理の問題について何とかしなければならないということで、とりあえず災害関連危機管理体制あるいは法律改正等々がなされたところでございます。  今回、新しい防衛大綱に先ほど来議論されておるような文章が入ったことを受けまして、そしてこの防衛大綱が審議をされた安全保障会議でも危機管理問題について議論をされたことを受けまして、今、政府部内で国内の災害等に対する危機管理以外の、むしろ外から来る危機に対しての危機管理についてどういう体制を組むべきか、どういうふうに検討を進めていくべきか、そういうことを相談している段階でございますけれども、なるべく早く体制を組み、検討を進めたいというふうに考えているところでございます。これは防衛庁としてそういう考え方を持っているところでございます。
  33. 松前達郎

    松前達郎君 一つだけお伺いしたいんですが、我々の日本の状況といいますか、基本的な条件というのを考えますと、資源とエネルギーが非常に乏しいという、これはもう変えることのできない条件があるわけですね。それから考えますと、かつての太平洋戦争も恐らくそういう面で、生産力の戦いで結局それに負けたという格好になったんだろうと思うんです。  昔この参議院の外務委員会でよく議論されたのがシーレーン防衛なんですよ。直接的な我が国の国土に対する攻撃、侵略等がある、これに対する防衛、これは最小限やらなきゃいけないだろうと思うんですが、シーレーン防衛というのはいわゆる輸送路の確保ということですね。特にエネルギー、資源等を含めた輸送路、これを確保しなきゃならない、こういうことで随分議論があったわけなんですが、この問題は新しい防衛大綱の中で一体どういうところに触れられているのか、あるいは放棄してしまったのか。特に対潜哨戒機なんというやつが二〇%今度減るんですね。そういうことから考えると、ある程度これを縮小して考えられているのか、その辺がちょっとわからないわけであります。  特に、海上自衛隊防衛力として海上における侵略等の事態対応するというふうに記載されているわけですが、これは我が国の船舶等に対する攻撃等がもしかあった場合にこれに相当するものかどうか、その辺をひとつお聞かせいただきたいと思います。
  34. 秋山昌廣

    政府委員秋山昌廣君) 今引用していただきました防衛大綱、これは資料の七ページの(2)「海上自衛隊」のところでございますが、アに「海上における侵略等の事態対応し得るよう機動的に運用する艦艇部隊として、常時少なくとも一個護衛隊群を即応の態勢で維持し得る一個護衛艦隊を有していること。」というのが書いてあります。それから少し飛びまして、エに「周辺海域の監視哨戒等の任務に当たり得る固定翼哨戒機部隊を有していること。」。  実は今の御質問、シーレーンとの関係での御質問に関して言えば、ここに書いてある内容は従来の防衛大綱と同様でございます。若干違うのは工の書き方でございまして、「周辺海域の監視哨戒等の任務に当たり得る」、これが従来は対潜水艦哨戒というふうに非常に具体的、固定的に書いてあったのを、もう少し広い意味で水上も含めて監視哨戒の任務に当たるべきではないかということで、そこが修正されておりますが、シーレーン防衛という関係で言えば、従来の防衛大綱の書き方と全く同じで何も書き方は変わっておりませんで、現在でも我々は今御指摘になりましたような海上交通の確保、あるいは有事の際の機動性の確保という関係も含めて、シーレーンの防衛というものは我が国防衛一つの重要な要素であるという認識をしております。  それから、P3Cについて機数を減らす、あるいは部隊を減らすという点について、このシーレーン防衛との関係はどうなのかという点でございますが、実は冷戦終えん後の我が国周辺海域における情勢の変化、これは確かに潜水艦の航行が減っているといったようなことも考慮いたしまして、それからまた全体として予算あるいは経済の厳しさとか科学技術の進歩とかいろんなことを考慮いたしまして、実は海上自衛隊組織あるいは主要装備品についてのコンパクト化あるいは合理化という対象としてP3Cを一部減らすということにしただけでございまして、シーレーン防衛は従来と同じ考え方でやっているところでございます。
  35. 益田洋介

    益田洋介君 二つほどお尋ねしたいと思います。  まず第一に、全体的なビジョンの問題ですが、今後、防衛庁としては軍縮に向かおうとしているのか。あるいは、全体的に新しい機能あるいは新しい作業を、一般国民へのサービスを含めて、例えば大規模災害等への対応といったことや、それから日米安保の信頼の向上のための努力といったことを踏まえますと、相当量、軍拡という言葉は当たらないかもしれませんが、少なくとも防衛費の増大ということにつながるような要素が多々あるやに見受けられますが、その辺についての基本的なお考えをお示しいただきたいと思います。  一方で陸上自衛隊員数を二万人削減するというようなこともおっしゃっていますが、各種新聞の論調では、削減すると言いながら実際は充足数に近づけるだけにすぎないのではないか、今までが多過ぎた部分があるんじゃないか。むだを若干削減するということにすぎないので、これは実際的には軍縮にはつながらないという論調もあるやに伺っておりますし、一方で艦船は一割減あるいは航空機は二割減を目標にするとうたっておりますが、これも実際は古くなった旧式な装備を整理するということにすぎないのではないかといった議論もあります。  それからまた、二律背反しているように感じられる点は、機能充実と質的な向上を一方で図っていきたいということで、例えば長距離輸送機を新規に取り入れたり、あるいは偵察衛星などを利用するなんという論議も一部ではなされているというふうにも伺っております。ですから、全体像として、やはり予算をこれから漸次増大させていくのか、あるいは世界的な一つの流れの中で軍縮ということを考えていかれるのか、その辺の基本的なビジョンをお伺いしたいというのが第一点であります。  それから第二点は、大綱の本文の中から武器輸出三原則という言葉が全く削除されている。これはそこに至るまでにいろいろな議論があったやに伺っておりますが、一方では現在余り景気がよくない重工業関係の製造業から特に対米輸出向けの武器、部品を輸出したいという強い要請があったにもかかわらずそれが明記されない。最終的には、官房長官の談話で基本的理念は貫くんだというふうなあいまいもことした言い方で逃げられてしまっていて、国民にはよくわからなくなった。これは非核三原則と並んで我が国安全保障の、あるいは外交の重要テーマ一つでございますので、なぜこれがこうした官房長官の談話というような形で片づけられてしまって大綱には姿を見せなかったのか、これについて十分な御説明が今までなされておりませんので、若干お伺いしたいと思います。  それから、二点と言いましたが三点目、先ほどのお話の「大規模災害等各種事態への対応」というチャートの中で「テロ等事態への対応」というような項目がありまして、「関係機関との協力」、「自衛隊の能力の活用」ということで、具体的に例えばこれは警察庁の警備局というようなところと打ち合わせをされているのかもしれませんが、どうした形で自衛隊が公安問題について、あるいはテロの抑圧について対応していくのか、その辺の基本的なお考え、それから現在お打ち合わせをされている関係機関との調整のぐあいを差し支えのない程度でお伺いしたいと思います。
  36. 秋山昌廣

    政府委員秋山昌廣君) 第一点の全体の姿、特に陸海空自衛隊再編の方向についてどういう考え方で行ったのかという御質問でございます。  先生も今見ていただいたと思いますけれども、この考え方につきましては、防衛大綱、これは厚い資料の四ぺ-ジの下の方に出ているわけでございますけれども、四ページの上の方からずっと背景説明がありまして、そして最後のパラグラフでございますけれども、我が国防衛力についてはこうした観点からということで三つの柱を立てたわけでございます。規模及び機能について見直してその合理化効率化コンパクト化を一層進める、それから必要な機能充実防衛力の質的な向上を図ることによって多様な事態に対して有効に対応し得る防衛力整備する、同時に事態の推移にも円滑に対応できるように適切な弾力性を確保し得るものとする、こういう三つの柱を、あるいは三つ要素背景といたしまして陸海空自衛隊見直しをしたわけでございます。  例えばこのうちの合理化効率化コンパクト化というものをとりますと、組織ですとかあるいは装備品ですとか、これは数を減らす、規模を小さくするということがあるわけでございまして、これは同じく資料の二十一ページ以下に陸海空自衛隊組織あるいは主要な装備品についての削減の内容考え方が出ているわけでございます。そういう意味におきましては、ここはコンパクト化を図っているというふうに言えると思いますが、その点について、例えば陸上自衛隊を十八万人から十六万人ないしは十四万五千人に削減するのは、充足率、現在の実員に合わせているんじゃないかというお話とか、あるいは艦船、航空機については旧式なものを整理するだけじゃないかという御指摘あるいは批判があるという御指摘がございました。  ちょっと見ていただきたいんですけれども、二十三ページに陸上自衛隊の定数を説明するグラフが出ております。現在の自衛官の定数は十八万人でございますが、まずこれを編成定数としては十六万人に落とし、さらに編成定数から一万五千人は即応性の強い予備自衛官を充てることによって、常備配備する自衛官の定員は十四万五千人にするというのが今我々の考えでございます。  十八万人を十六万人に落とすということは、そもそも今実員が十五万人ちょっとだから意味がないじゃないかという御指摘も我々聞いておりますけれども、しかし定数を二万人落とすということは、武器、弾薬あるいは組織を二万人落とすということでございますので、我々にとって、特に陸上自衛隊にとっては大変大きな変革でございます。  それからさらに、残りの一万五千人は即応予備自衛官で充てて、常備の自衛官は十四万五千人にするということも我々としては大変大きな決定でございまして、現在の十五万人というのは実は予算上あるいはいろんな事情があって十八万人という定数になかなか達しなかったものでございますが、現在の必要最小限度と考えております実員をもさらに削減するという決定をしたということはそれなりに御評価いただけるのではないかと思います。  また、艦船とか航空機、戦車、そういったものについて防衛大綱の別表にいわば定数が書いてあるわけでございますが、これが要するに我が国防衛力、自衛力の主要な装備品の数ですということを表示しているそのものを落とすわけでございますから、落とすときに古いものから落とすというのは当然かと思いますけれども、全体のパイを小さくするということは、それはそれなりに一つの大きなインパクトを我々に与えるわけでございます。  したがって、防衛庁としては、自衛隊としては、他方で国際情勢等を勘案し、防衛力あるいは自衛力の実態は何とか維持したいということで、質的なレベルアップあるいは弾力性、そういったものを織り込んでこの再編をしてまいりたいということでございます。  それから、武器輸出三原則につきましては、御案内のとおり官房長官談話でその考え方が明示されたわけでございますけれども、武器輸出三原則そのものは実は役所で言いますとこれは通産省が輸出入貿易管理令のもとでやっている業務でございまして、かなり詳細な、かなり細かい規定をつくってやっているものでございます。実態は、御案内かと思いますけれども、武器輸出三原則が出た当初からかなり中身が変わっておりまして、事態に合わせた変更が進められてきたという事実がございます。  そこで、武器輸出三原則の基本理念というものを明確に表示した方がいいだろうということで、官房長官談話で武器輸出三原則の基本的な考え方、これを明らかにし、これを維持していくということを表明するのが適当なのではないかということで官房長官談話に書いたということでございます。  それから、テロの話でございますが、これは資料の六ページの(2)のアのところでございますけれども、ちょっと見ていただきますと、「大規模な自然災害テロリズムにより引き起こされた特殊な災害その他」云々と書いてあります。つまり、「テロリズムにより引き起こされた特殊な災害」ということで、この防衛大綱でメーンとして書いてありますのは、テロによって起こされた災害派遣ということを自衛隊が行うというふうに規定しているわけでございます。その場合、「関係機関から自衛隊による対応が要請された場合など」と書いてありますのは、自主派遣も大分議論になりましたので、「など」で自主派遣も読むわけでございますが、基本は関係機関から自衛隊に要請があった場合という原則を明確にしたということで、テロにつきましても原則としてここに書いてありますように特殊な災害派遣、こういうとらえ方をしているわけでございます。  具体的にどういうことかといいますと、今回の地下鉄サリン事件あるいはオウムの事件、そういうものがございました。自衛隊は警察に対していろいろと協力をいたしました。一部官庁間協力といったような形での協力もありましたし、あるいはそれは非常に難しいということで、警察官に身分を変えまして協力をするといったようなことも行いましたが、自衛隊が部隊として行ったのは災害派遣でございます。したがって、通常の災害派遣活動として行ってきた、それをここに規定したということで、警察との間でもそういう議論をいたしたという経緯がございます。
  37. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) 秋山防衛局長、ありがとうございました。  まだまだ質疑もあろうかと存じますが、予定した時間が参りましたので、午前の調査はこの程度として、午後一時まで休憩いたします。   午後零時一分休憩      ―――――・―――――   午後一時四分開会
  38. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) ただいまから国際問題に関する調査会を再開いたします。  休憩前に引き続き、国際問題に関する調査を議題とし、「アジア太平洋地域の安定と日本役割」のうち「アジア太平洋地域における安全保障在り方」について三名の参考人の方々から御意見をお伺いした後、質疑を行います。  本日は、参考人として、帝京大学教授志方俊之君、明治学院大学教授浅井基文君、京都大学教授中西輝政君に御出席をいただいておるのでありまするが、中西教授は新幹線の関係で少しおくれられる様子でございます。  この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。  参考人におかれましては、御多用中のところ本調査会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。  参考人の方々から忌憚のない御意見を伺い、今後の調査の参考にいたしたいと存じまするので、何とぞよろしくお願い申し上げます。  議事の進め方でございますが、志方参考人、浅井参考人、中西参考人の順序でそれぞれ三十分程度意見をお伺いいたします。その後、二時間程度質疑を行いまするので、御協力をよろしくお願い申し上げます。  なお、意見質疑及び答弁とも、御発言は着席のままで結構でございます。  それでは、まず志方俊之参考人から御意見をお述べいただきたいと存じまするので、よろしくお願い申し上げます。志方参考人
  39. 志方俊之

    参考人(志方俊之君) ただいま紹介をいただきました志方でございます。  皆様のお手元にレジュメのようなものが行っておりますので、それを一つの基準にしましてお話を申し上げたいと思います。  まず、1は「冷戦後の戦略環境をどう見積もるか」。本日のテーマであります「アジア太平洋地域安全保障在り方」という大きなテーマに対して、やはり出発点は冷戦後の戦略環境をどう見積もるかということから出発せざるを得ないだろう、それによってみずからのあり方を決めていく、あるいはその周辺はどうなっていくだろうか、こういうことであります。  その場合に、(1)のところにレンズの焦点距離というのが括弧の中に書いてあります。どのぐらいの焦点距離のレンズで物を見ていったらよいか。それから(2)のところはレンズの直径、要するに大きさ、広さですね。それから三番目は、焦点距離も直径も決まっているんですけれども、目の位置をどこに置くかによって物の見え方は全く変わってくる。したがいまして、非常に近くて小さいものならこれは顕微鏡で見なければならないんですが、相当遠いものはこれは天体望遠鏡なり望遠鏡で見る。何で見るかと、そういうことをまずお話ししなければ正しい答えに近づけないのではないかということでございます。  まず、(1)のように戦略環境を見積もるための時間のスパンということを考えますと、やはり短期、中期、長期と通常言われているように思うわけですけれども、短期といえば大体当該年度の次の年、ですからこれは予算に匹敵することになります。それから、中期的見積もりというのは五年間ぐらいのものでございますが、五年間の計画を立てるときは前の前の年ぐらいからやりますから、これは現在考えますとその三年後から七年後ということでございます。ですから、一九九六年であれば一九九九年からさらに五年、二〇〇四年と、こういうようなことになりまして、これはプログラミングというカテゴリーのことになる。それから、長期的な見積もりというのは、これは防衛計画大綱なんかを考える場合の長期見積もりもそうでありますけれども、大体、現在考えているこの年プラス九年から先十九年まで、十年間ですね、こういうものを長期的な見積もり。したがいまして、昔、マクナマラの時代にPPBSということがありましたけれども、まさにこのようにプランニング、プログラミング、バジェッティングという三つのレンズの焦点距離があるかと思います。  それで、アジア太平洋地域安全保障あり方を考えて我が国はどういう対応をすればいいかというようなことを考える場合に、じゃどのレンズで見ればいいかということを考えますと、やはり防衛力整備に必要な時間のスパンというのは長期的な見積もり以外にはあり得ない。なぜならば、防衛力整備というのは、ことしつくったものが来年役に立つということはあり得ないわけであります。現在陸上自衛隊が持っていると四戦車というのは、一九七四年に第一号車がロールアウトしたものであります。それが現在でもなおかつ主力戦車であるということは、一号車が出てから二十年間その戦車というものが使われている。そして、七四戦車の研究開発に着手したのは六一年でありますから、優に三十五年間というものが、着想してからそれが戦力になって実際に抑止力として役立っためには三十年ぐらいのスパンが要るわけであります。  今、我が国防衛力をどうすればいいかというようなことを考えますと、やはりこれは短期的だものあるいは中期的なものではあり得ない、長期的な見積もりでもなお足りないぐらいのレンズの焦点距離で見るべきであろう。したがいまして、本年この見積もりをやるのであれば二〇〇五年から二〇一五年あたりを見積もらなきゃならないだろう。その時点にどうなっているかということを考えて、そして、今我々は何をなすべきかを決める。来年のこととか五年先のことで考えないということであります。  それから、二番目はレンズの直径であります。  戦略環境を見積もるための関心地域、エリア・オブ・インタレストというのでしょうか、そういうものを考えますと、これは四つ書いてありますが、一番小さい範囲は国家の領域であります。自分の国の領土だとか領海あるいは領空。また、領空の場合は、領空侵犯をする場合に、何といいますか、相手が速いですから領空に入ったときは本う遅いということがありますから、防空識別圏のようなもので相当自分の領空以外にも目を光らせておく必要がある。それから、国家内部の危機と、こういうことで、一番狭い範囲は自分の国の領域、テリトリー、これが一つ関心地域になる。これについては異論はないかと思います。  それから、二番目は国家の領域に直接的に影響を与える地域、さっき言いました防空識別圏ですね。日本に向かってマッ八二ぐらいで飛んでくる飛行機を領空に来るまで待っていたら間に合わないわけであります。それから、最近問題になっております戦域ミサイル、シアターミサイルというようなものは撃ってから千キロ飛ぶのに二十秒とかこういう時間でございますから、自分の領空に入ってくるまで待っていたらまずそれは撃ち落とすことができません。したがいまして、この戦域ミサイルの射程というようなものが千キロあれば千キロ向こうまで目を光らせている必要があるということであります。これについて目をつぶるかつぶらないかというのは選択であります。  それから、三番目の領域は、我が国の国家の経済活動に直接的な脅威を与え得る地域といいますと、これはもう当然経済水域というのがありますし、それから、我が国の場合はシーレーンというものが、世界じゅうから日本は資源を持ってくる、そしてまた付加価値をつけた商品を世界じゅうの市場に持っていくということになれば、シーレーンというものもあって、それに直接脅威を与えるということもあり得る。ただ、これを防衛力だけで守るという話ではないのであります。ここで言っているのは、そのうちの何を防衛力でやるか、あるいは防衛力を使わないかという選択もあるということであります。  それから、四番目は、経済活動に間接的に脅威を与え得る地域となりますと、シーレーン上の隘路あるいは資源の策源地。例えば、中東からの石油であればホルムズ海峡が通れるか通れないかということも我が国にとっては経済的な脅威であるし、また中近東の平和と安定というようなことも我が国安全保障にとって非常に関心を持つべき地域である。こういうような、何といいますか、鳥が自分の縄張りを示すようなものです。関心の地域をどこまで広く持っていくかということであります。  それから、(3)は目の位置であります。  これは三つありまして、まず不安定要素というのがございます。  不安定要素というのは、何か実態はわからないけれども、これがもしあるとよくないなというものです。例えば、中国なんかの非常に急速な経済の成長、これは安定的な要因であると同時に、本当にこのまま続くのだろうかという不安定な要素でもあるわけです。それから中国軍事力です。後ほど説明しますけれども、現在はさほど大きなものではなくても、これから先どうなるかということ、そういうことを考えますと不安定要素というものがあります。そういうものに能力というものが加わりますと、それは危険というものに展開、発展していく。その危険というものに意図というものが入る、そうしますとそれは脅威というものになる。その脅威に何か大義名分というものがありますと、これは実際に脅威が顕在化してくる、そして危機に至る。  そして、なるべく早い時期にこれを危機にならないようにするということが安全保障の一番重要なことで、一番いいのは、不安定要素のうちにそれを取り除くことが必要であるし、それから、それに能力が加わってしまった場合には相手にそういう意図を持たせないようにやっていく。それから、もう相手は力も持っている、そういう意図も持っている、しかし大義名分を与えなければ危機にならない。  一番端的な例が中台関係だと思います。台湾が極端に独立路線というものをひた走れば、そして将来中国にそれを武力でもって抑えるというような能力が加わった、そしていざ独立というようなことを宣言すれば、それは中国政府に対する非常に大きな大義名分が与えられるわけですから、それは危機になる、こういうような考え方であります。したがって、やはり安全保障はこのどこかで早く切るということかと思います。  それから(4)。したがいまして、今までの議論から見ますと、戦略環境を見積もる場合には次の三つの点を考えなきゃいけない。  一つは、長期的な見積もりを行うということ。したがって、年度の積み上げで考えてはならない。ことしGNPの〇・九六だったから来年は〇・九六だとか、防衛費はこのぐらいふやそうとか、そういう年度で積み上げていくような考え方というのをとってはならない。まず、二十年先から手元に持ってきて、そして現実との接続を考えるということであります。  それから、関心地域は国家の領域だけではなかろうということであります。したがって、安全保障を考える場合には、我が国が現在持っている自衛力の任務とか役割、こういうことから延長して考えるのはよくないんではないか。むしろ、何から何を守るかというのを考えて、その中のこれは自衛力に持たせようと、そういう発想でなければいけない。自衛隊は何ができるかということを考えて、それから我が国防衛はどうあるべきかということは考えてはならない。要するに、まず日本の国の国益が存在する地域を考える、しかる後、そのうちのどの部分は自衛力に依存するかというような考え方で、やはり前からこちらへ考えていく。したがいまして、(2)のレンズの直径でありますが、広いところからだんだんと狭めて考えるということであります。  それから、三番目は、現在ある不安定要素を考えることから始まるということです。要するに、なるべく早いところからこの要因をなくしていくということです。したがって、危機でいうと、危機があるかないか、大義名分があるかないかというようなことから逆に考えてはならないということであります。ですから、この括弧の中に書きました「相手の意図や大義名分の有無を固定して考えない」、相手の能力というものを考える、だんだん近づいていく、左の方から考えていくということです。だから、現在ある不安定要素は何だろうかということから考えるべきである。  こういう一つの方法論をセットしまして、二番目の冷戦後の不安定要因というのはどういうものがあるだろうかと考えますと、(1)には、まずグローバルに考えなきゃいけない。これは我が国だけの問題ではなくて、現在、世界のいろんな国が大きく問題にしている不安定要素というものは、いろんな報告書から読み取ると大体この四つぐらいに分かれるだろう。  一番目は民族紛争とか好戦的な民族主義抗争あるいは宗教紛争、それから領土紛争、こういうものが出てくる。二番目は大規模破壊兵器、これは大量の方がいいですね、間違えました、大量破壊兵器の拡散。三番目は急速な人口増加とか大量難民の流出。四番目はテロなどの国境を越えた拡大及びこれに誘引される政治不安定。こういうものが今国際社会が非常に関心を持っている不安定要素であります。  そして、その中で特にアジア太平洋地域ではどうかといいますと、少し具体的になりまして、これはまず北の方からずっと並べてあります。これは優先順位ではありません。  地理的に一番北にある極東ロシアというものの中に不安定要素というものはないだろうかといいますと、これはやはり核戦力が存続している。現在、STARTⅡというのはアメリカの方は批准しましたけれども、ロシアの方はなかなか議会が安定せず、これの批准に向かってどのぐらい時間がかかるかまだちょっとわからないくらいです。依然としてオホーツク海には弾道弾発射の能力を持つ潜水艦が遊よくしている。それからロシアの経済停滞、これは社会不安になるかもしれない。そして、それは一たび道を間違うと再保守化する可能性も出てくる。これが一つの不安定要素であって、考えておく必要があろう。それから、二番目は朝鮮半島であります。現在、米朝同盟というような言葉が時々アメリカの中などで聞かれますが、アメリカと北朝鮮が極めて親密な関係になる可能性があるということ。そういうような非常に極端なシナリオから、朝鮮民主主義人民共和国、以下北朝鮮と申しますが、それの自己崩壊。それから、情報がよく伝わっていない場合には相手が判断を誤って小規模な武力紛争が起こる可能性も否定できない。こういうような、朝鮮半島にもいろんなバラ色のシナリオから非常に悪いシナリオまである。そういう不安定要因がある。  それから、台湾海峡の場合も、現在のままずっと現状が固定されていくようなもの、あるいは緩やかな統一、いわゆる一国二制といいますか、二つの制度があるというような現実的な路線、それから武力行使による統一、こういうことまで広く考えておく必要があろう。  それから、中国問題については、中国そのものが非常に大きい国でありますから、中国でいかなる動きがあってもそれはその周辺諸国に影響を与えないわけがない。一番望ましいのは、いわゆるソフトランディングのシナリオでございます。しかし、ソフトランディングするかというと、そうでない場合も考えておかなければならない。それは経済的に失速する、そしてそれが国家の分裂につながる、あるいはそうでなければ富国強兵策をとる可能性も考えておく必要がある。  それから、我が国自身も一つの脅威になるかもしれない。それは政治、経済の停滞といいますか閉塞感、そういうものから国際的な信用を失墜して、つまるところ日米がだんだん離れていくというようなことも一つ不安定要因であろうと思います。  それから、東南アジア地域では、軍備の近代化競争が今少しずつ行われておりますが、これが過熱する可能性も考えておかなきゃならない。それから、南沙群島問題に代表されるような領土紛争だとか地域的な覇権競争のようなもの。そして最終的には、今破竹の進撃を続けているASEANの経済もいっか失速するときが来るかもしれない。こういうようなこともこの二〇一〇年とか二〇一五年という長いレンズで見たときには考えておく必要があろう。  それから、七番のその他につきましては、大量破壊兵器の拡散、テロの国境を越えた拡大、大量難民、こういうようなものも非軍事的な脅威として将来大きくなるかもしれないという不安定要因であります。こういうものをなるべく早くすべて根元から絶っておくということが安全保障の一番重要なことかと思います。  今、非常に不安定といいますか、どちらかというと悲観的なシナリオもあるんだという話を述べましたけれども、一方、冷戦後安定化に向かっている要素もある。その一つはASEAN地域フォーラムとか、それからトラック・ツーというんですか、CSCAPとか、こういうような多国間の集団的安全保障の枠組みというものが誕生して、それが少しずつではあるけれども発展していく。経済協力というものが政治的な協調に発展し、さらにそれが安保の上での対話とか協力に発展していく。こういう好ましいベクトルも一つある。  したがいまして、ここの下に括弧で書いてありますように、状況が不安定化する速度と多国間の枠組みが機能を発揮して非常にうまく作用する速度とのタイムレースになるのではないか。多国間の安全保障の枠組みを積極的に支援して大きくして機能を発揮させることに成功すれば不安定要因というのは早いうちに断ち切ることができる。したがって競争であろうと。二十年先のことはといっても、やはり一つのこういう枠組みが成長するためにはそのぐらいの時間がかかりますから、相当(1)については積極的に取り組んでいく必要があろう。  それから、二番目は二国間の集団防衛の枠組みの再定義による存続であります。一番上に書いてありますように、二十一世紀前半の課題は、何といっても隣国である中国がソフトランディングするかどうかということにかかっていると思います。あとの問題は、例えば三十八度線の問題とかベトナムの問題だとか南沙群島、そういうASEAN諸国のいろんな小さな紛争は、中国がソフトランディングするかしないかということに比べれば全く小さなマイナーな問題になるかと思います。ですから、二十一世紀前半の歴史は恐らく中国中心に動く、これに国際社会がどう対応していくかということがもう一番のキーになる。  米国はもう明らかに、これは対中封じ込めということはだめだ、十二億の国民を封じ込めることなんかできないし、今までの中国の歴史を見てもそんな国はあったことがないということから考えますと、やはり今アメリカがとっている、対中についてはエンゲージメントという政策でいく、そしてアコモデートといいますか、軟着陸させるように国際社会の中に多重的に組み込んでいくような戦略が最も好ましい。これは我が国も恐らくそうだと思います。  そのために最も重要な二国間同盟というのは日米安保体制であろう。どういうぐあいに再定義されるかといえば、やはり今まで冷戦時代には北の脅威への対処ということでありましたが、これからはやっぱり太平洋、東アジア地域にオネストブローカーとして存在する米軍への支援というものへ軸足を移していくというような日米安保体制の意味の変化が起こるだろう。  米軍の前方プレゼンスの成立をさせるための六条件というのがあるんですが、これを完全に満たせるのは日本しかない。東アジアが広くても、この六つ、まず基地施設を貸すということ、それからそれに対して資金援助をする、それから船舶とか航空機なんかを整備する技術的なレベルが高いということ、それにマンパワー、駐留軍に働いている人たちの非常な質の高さ、それからそういうものを認める国民的合意、そして日米安保の存在を周辺諸国が歓迎するかどうかと、この六つの条件を完全に満たしているのは恐らく日本しかないだろう。もちろん、国民的合意ということでは問題はあるかもしれませんが、少なくとも現在、日米安保を再定義して存続することに関して反対しているのは北朝鮮だけでありまして、中国そのものもそれを理解している、東南アジアの国はもちろんこれを好ましいものとしている。  最後に、では冷戦後における軍事力役割というのはどうなったかと申しますと、軍事力役割というのは二つありまして、安全の促進というのと侵略への対処、これは平時と有事に分かれるわけでありますが、平時の関与と、それから真ん中が抑止と紛争の防止、それから最後が侵略に対して戦い勝利する、この三つ。本当に軍事力を発揮した場合にですね。そして、これから後の社会では平時の関与という機会は非常に多くなるだろう。軍人の交流、人道的救援活動、対テロ行動、対麻薬、それから平和維持活動信頼性醸成、こういうような平時における、ピースタイム・エンゲージメントというんですか、こういうものの役割というのが非常に機会としては多くなる。  それから、それより少しハードになりますが、核抑止。現在、核というのはまだ存続しておるわけでありますし、中国はまだ核実験を続ける意向でおりますから、やはり核抑止力というものは確保しておかなきゃならない。それから、国際社会としては地域的軍事同盟。国連平和維持活動にも限界があるということから、地域的軍事同盟による対応、これはボスニアが今それでやっております。それから、制裁の実施、平和執行、こういうようなもの。それから、この非戦闘員の「抗争」というのは間違っていまして、「後送」、後ろへ送るという意味です。訂正してください。非戦闘員の後送、イバキュエーションですね。それから、軍事力の本来の任務である問題。  防衛力整備の原則というのが最後に書いてありますが、防衛力整備は平時に関与するということで決めるのではないということであります。歴史というのは我々が好ましいと思う方向に必ずしも行くとは限りません、相手があることですから。したがって、もしこっちに転んだ場合にはこうだという、そういうために防衛力というのは整備する。ですから、平和維持活動をするとか、ザイールに行って人道的救援活動をするとか、麻薬を取り締まるとか、そういうために軍事力を設計するのではない。軍事力の設計はあくまで侵略に対して戦い勝利するという、そういうことを問題にする。それはホワイ・ツー・ビルドという感覚であります。しかし、その防衛力というのは、そういうことがめったにあるものではありません。一世紀に一回あるかどうかわからない。あるいはなければそれが一番いいという状態であります。しかしながら、平時の関与というのは、現在も自衛隊がゴラン高原に出ているように、いつでもあり得ることでありまして、これはハウ・ツー・ユーズという、どうしてそれを使うかという運用の問題であって、平時の関与の機会が圧倒的に多い。だから、別組織をつくって、そういうものをつくっておけばいいんだという話では全然ないんだということであります。  最後の結論としまして、例えば瓶にお酒が入っている。ちょうど半分入っている。それを見るときに、もう半分になっちゃったという考え方と、まだ半分あるという考え方二つあると思うんですが、それと同じように国家の安全保障とか防衛力整備というのは、もう半分になった、もし失敗したらどうなるかということを考えて対応していくというのが防衛力整備であるということであります。そして、そのためにつくっていったものを平時にはどんどんPKOとかそういうものに使っていく。これを混同してはならない。ハウ・ツー・ユーズとホワィ・ツー・ビルドを混同すると別組織論のようなものが出てくる。  以上でございます。
  40. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) ありがとうございました。  この際、中西輝政参考人に一言ごあいさつを申し上げます。  参考人におかれましては、御多用中のところ本調査会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。  参考人から忌憚のない御意見を伺い、今後の調査の参考にいたしたいと存じまするので、よろしくお願いを申し上げます。  次に、浅井基文参考人にお願いをいたします。浅井参考人
  41. 浅井基文

    参考人(浅井基文君) 浅井でございます。よろしくお願いいたします。  お手元にございますレジュメに従いまして私の考え方を申し述べさせていただきたいと思います。私は、単刀直入に日米安保再定義路線が日本のとるべき道であるかという問題点に絞って意見を申し上げたいと思います。  午前の段階で新防衛計画大綱についての防衛庁からの御説明があったと伺っておりますが、私の理解では、また、そしてそれは誤っていないと思いますが、新防衛計画の大綱というのはまさに日米安保再定義の日本側の受け皿であるということだと思いますので、その日米安保再定義の中身を検討するということが、ひいては日本防衛政策、安保政策のあり方に対する私たちの考え方に対して視点を与えるのだろうというふうに考えております。  まず、私がきょう申し上げたいことを一のところでまとめておきました。一つは基本認識安全保障の問題を考える上での基本的な認識でございまして、そもそも日本の安全、平和ということがアジア太平洋地域の安全、平和というものとどういうかかわりに立つのであろうかということを、常識の次元に属するはずでございますけれども、ともするとそういう常識が通用しない状況がありますので、確認しておきたいということでございます。  二番目に、日米安保再定義路線の一つの脅威認識。ただいまも志方先生から脅威の問題についても御言及がございましたが、私は今の日米安保再定義路線において特に注目されているのが中国、それから朝鮮民主主義人民共和国、北朝鮮と理解しておりまして、それが本当に脅威なのかという点を考えてみたいと思います。  三番目が、アメリカの戦略の本質といいますか、アメリカがどういうことを考えようとしているのかということについて問題意識を整理したいということでございます。  四番目が、よく脱冷戦あるいはポスト冷戦と言われますけれども、ソ連がこけてしまった後の新しい状況のもとでの国際関係あり方をどのように私たちは考えるべきなのか。そこにおいて、従来冷戦が支配していた時代に常識的に理解されていた力による平和という考え方が今後も妥当であるのかという問題であります。  そして最後に、時間があればでございますけれども、そういう問題意識の中で日本が本当に有効な答えを出そうとしているのかということを考えるときに、私は極めて国民レベルでの議論が不十分であるというふうに思います。そして、その原因は、国民に対して十分な情報が与えられていないというところに最大の問題があると思うわけでございまして、その点を考えてみたい。ただ、時間がございませんので、その点は後の議論の中で改めて御説明することになるかもしれません。  さて、基本認識でございますけれども、日本の安全、平和とアジア太平洋地域の安全、平和というこの二つ要素がどのようにかかわり合うのかということでございますが、私におきましては、非常に常識的なことは、アジア太平洋諸国との友好関係を前提としない日本の長期にわたる平和と安全ということは考えようもないではないかということでございます。  そうしたときに、特にアジア太平洋諸国にとっての日本の価値ということは、まさにアジア太平洋地域の、先ほども志方先生がお話しになりましたように目覚ましい経済躍進がございまして、その経済躍進の根拠となっているのはやはり日本でございます。その日本に対して一体どこの国が好きこのんでけんかを吹っかけてくるのかという問題を考えるときに、私はそういうことはまずあり得ないということだと思うのです。  しかし、それに対してそうではない可能性が出てくる。そういう可能性が出てくるのはどういうときかといえば、それはまさにそれらの国々が日本から脅威を感じるときであろう。私たちが近隣諸国から脅威を感じるときではなくて、近隣諸国が日本から脅威を感じるとき、そのときがまさに危機が出てくるときであろうというふうに考えるわけであります。  そうするときに、そのアジア太平洋諸国が日本に脅威を感じるとすればどういう場合であろうかということを考えたいと思うわけでありますが、これも志方先生のお話に含まれておりますように、通常、脅威というものには二つ要素がある。意図と能力という形で説明されるわけでございますが、そうした場合に、アジア太平洋諸国が日本に対して脅威を感じるというその根拠が明らかに存在し得るというところが私は問題であろうと思っております。  一つは、戦争責任を直視しない日本、その日本が一体将来において国際社会とどうかかわり合うのかという、その意図に対して非常に不安感があるということであります。この点は、昨年の国会における不戦決議の扱いをめぐっての状況に対して近隣諸国が示した反応に非常に明らかに出ております。  もう一言加えさせていただくならば、これは単に近隣諸国のみの日本に対する不安感だけではございません。不戦決議の扱い、そしてその中身、でき上がった中身に対しては、私が承知しているだけでもアメリカ、イギリスなどの有力紙においてこぞって日本の戦争責任を見据えない態度に対する異常な警戒感、不信の念、気持ちが非常に露骨に表明されているということを私は強調したいと思います。  それから、もう一つの能力の問題でございますけれども、これは国際軍事筋の方の間では常識でございますけれども、日本が短時日で軍事大国になる、特に核軍事大国になる能力を持っているということは一般的に受け入れられていることであります。  例えば、北朝鮮のいわゆる核疑惑に際しましても、アメリカが北朝鮮の核開発を躍起になってとめようとした一つの動機は、そういう北朝鮮の核開発ということが現実化してくること、したがって朝鮮半島が核半島になるということが日本の核武装への誘因になるという判断があったということは、例えばクリストファー国務長官あるいはペリー国防長官、この発言をしたときはまだ国防次官でございましたけれども、それらの発言にも非常にくっきりと浮かび上がっておりました。  あるいは日本がプルトニウムを大量に蓄積するということについても、国際社会では非常な疑惑の目を持って見詰められているということも何ら秘密ではありません。  あるいは、最近「もんじゅ」の事故がございましたときに、その「もんじゅ」の事故の原因をひた隠しにしようとしたということについても、私の見る限り二、三の報道におきまして、分析におきまして、一体なぜそんなことを隠すんだというところから、やはり日本の意図に対する不信感というものが表明されるということがございます。  あるいは運搬手段。ミサイルについても、例えば日本が種子島から静止衛星を打ち上げるということに成功いたしますと、それに対してBBC放送が、これによって日本は運搬手段の開発を完成したというふうに解説を加えるという状況がございます。  このように、日本が短時日で核ミサイル大国になれる、なるということは、私たちの主観的な判断、気持ちはともかくとしまして、少なくとも国際的には非常に現実性を持った可能性として考えられているということでございます。このように、アジア太平洋諸国から見ますと、日本に対して脅威を感じるべき客観的な条件が備わっているということを私たちは心に銘記すべきではないかと思います。  次に、日米安保再定義におきまして特に取り上げられているのが北朝鮮であり、あるいは中国だと思います。  私の手元に沖縄タイムスが報じました日米安保共同宣言案全文というのがございますけれども、この比較的短い文章の中でも朝鮮民主主義人民共和国に関する言及が三カ所において行われている、あるいは中国についても一カ所で行われているということがございます。そして、そのほかに内外のいろいろな分析あるいはシンポジウムでの日米関係者の発言などを見ておりますと、明らかに北朝鮮と中国を脅威とみなすことにおいて日米安保再定義の一つの大きな内容がつくり上げられようとしていることは間違いのないところであろうというふうに思います。そこで、私たちは本当に中国、北朝鮮は脅威なのかということを考える必要があると思います。  一つ私が不思議に、不思議といいますか、非常に奇妙に思ったことからお話し申し上げますと、そこにございますように、北朝鮮脅威論と中国脅威論の自己矛盾といいますか、非常に中身的にちぐはぐしているという要素であります。  例えば、北朝鮮のいわゆるノドンあるいは核開発ということに対しては、ノドンを開発してそこに核弾頭を乗っければ日本は射程距離に入る、大変だというような形で北朝鮮の脅威をあおる。他方で中国につきましては、先ほども志方先生のお話にございましたように、台湾が独立するときに中国が武力行使をする、あるいは南シナ海だ云々と、そういうことで中国が軍事行動に出る危険性に対して日米が中心となったアジア太平洋諸国の軍事力によってその拡張主義を牽制する、抑え込むというふうに考えている。これは北朝鮮の核ミサイルがそもそも実体があるのかということを無視して非常にその脅威をあおるのに対して、中国の核ミサイル攻撃能力というのは本物でありまして、これに対しては今度は逆にそれを抑え込むんだという発想になる。これはどう見ても私にとっては理解できない話であります。  そういうふうに明らかに日本における中国、北朝鮮の脅威という問題についての議論には無理があるということが私のそもそもの出発点であります。  次に、そういう中国、北朝鮮が確かに軍事力をせっせと蓄えていることは間違いない。しかし、それはどういうときに彼らはその軍事力を行使する可能性が出てくるのかということでありますが、それは私、そこに書きましたように、例えば中国の場合であれば、先ほど志方先生も御紹介になりました台湾独立というケースであろうと思います。しかも、台湾独立というその動きは、明らかにアメリカの議会筋あるいは日本国内の支持を背景にして勢いを得ているという状況がございまして、したがって中国からすれば、台湾が独立をするということは明らかにその背景に日米ありということに認識するに違いない。また、その認識は私は間違っていないと思うわけであります。  そうしたときに中国は何も行動しないとなったならば、中国人のナショナリズム感情からいって恐らく政権はもたないということになります。もちろん、私も日米対中国の軍事衝突、激突の事態をぜひとも見たくはないわけでありますけれども、私たちは中国の意図、決意というものを決して軽視してはいけない。  しかし、ここで重要なことは、中国は好きこのんで武力行使に訴えようとしているのではない。明らかに原因がある。その原因は日米によって支持された台湾独立の動きである。原因は我々にあるということを私たちは銘記すべきだと思いますし、その原因をつくらないようにすることが私たちがその武力衝突を招かない上での当然の義務であるし、考え方であろうというふうに思います。  あるいは北朝鮮でございますけれども、窮鼠猫をかむと申しましたけれども、私がよくいろんな草の根の集会で申し上げることは、日米韓対北朝鮮ということを考えた場合に、これは要するに巨象三頭とネズミ一匹の戦いである。ネズミがどうして巨象についてかみつくのかということでありまして、これはもう本当にぎりぎりにその窮鼠を壁際にまで追いやって、ほかに方法がないというようなときにしか私は北朝鮮としては自暴自棄になるということは考えにくいということであります。  一部には、金正日はわけのわからない男だからという説もございますけれども、皮肉な言い方をあえて許していただければ、金正日は、日米開戦を清水の舞台から飛びおりろと言った某指導者よりははるかに現実認識を持っているというふうに私は思います。  次に、アメリカの戦略はアジア太平洋の平和と安全を保障するかということでございまして、アメリカの戦略について私たちがどう考えるのかということでございます。  この点はもう皆様先刻御承知のとおりでございまして、アメリカの戦略の出発点にある要素は、特にクリントン政権になりましてから非常に国益を重視するという姿勢を前面に打ち出しております。ただ、その自分たちの国益を実現することが世界の利益にも合致するというおよそ実証的に検証されない論断を彼らはすることによって、自分の立場を、みずからの国益すなわち世界の国益、世界の利益というふうに言っているにすぎないと思います。そういうアメリカのアジア太平洋に対する戦略、アジア太平洋におけるみずからの経済的、軍事的プレゼンスを維持しようという姿勢は非常に牢固たるものがある。  その場合に、アメリカの中心的な要素はあくまで二国間同盟協力体制であります。よく最近マルチの安保対話とかそういうことによって日米安保に代位していくというような議論がございますけれども、少なくともアメリカ側の文献を冷静に読む限り、アメリカにとって常に二国間同盟体制が中心的な地位に座っておって、マルチの形式はあくまで補助的なものであるというふうに位置づけております。  これは非常に理由があることでございまして、そこにちょっとわけのわからない書き方をしておりますけれども、要するに今のアメリカは、アジア太平洋諸国の利害関係が非常に錯綜している、そしてその錯綜している中で、アメリカと日本、アメリカと中国、アメリカと韓国、アメリカとベトナム、そういうふうにバイの関係構築するということによって、そういう錯綜する利害の衝突、潜在的な対立を固定化するということに非常な利益を見出しているということだと私は判断しております。  そういう立場からいたしますと、マルチのフォーラムなどをつくっていわゆるアジア太平洋における共通な利害、共通な方向性を追求するということは、アメリカにとって合従連衡あるいはいろいろな対立構造の固定化によって得られる利益が喪失するわけでございまして、今のアメリカの指導者においてはそういう方向性は決して積極的に評価されていないということがあると思いすす。  特に、日米安保体制を考えますと、この安保体制というのはアメリカにとって非常に矛盾した、しかしアメリカにとってはその矛盾が非常に意味のある中身を持っているということであります。一方においてアメリカは、日本に対してアメリナの戦略、戦力を補完する海外派兵体制を構築すスことを迫っている。まさに日米安保再定義の本質的な意味、最も根本的な意味はそこにあるだろうと思います。そして、そうしながら他のアジア太平洋諸国に対しては、その日本をアメリカが日米安保体制によって抑え込む、いわゆる俗に言う瓶のふた論でございますけれども、瓶のふたになるんだから、したがって日本に対する不安感は日米安保がある限り大丈夫であるというふうに言うことになる。  しかし、先ほど志方先生は、そういう日米安保に対して中国も理解しているというふうにおっしゃったわけでございますが、私が理解している限り、最近の中国は、そういう瓶のふたとしての日米安保の意味よりも、先ほどの台湾海峡の問題に示されましたように、日米安保体制によってまさに中国に対して敵対するという日米安保の性格の方が重視されるようになっているということを私は強調せざるを得ません。  そういうところにおいて、先ほどの話に戻るわけでありますが、どこまで私たちは本当に中国と軍事的に対決するのかということを考える、そうした場合に、冒頭の日本の安全、平和とアジア太平洋地域の安全、平和というその根本認識にもかかわるわけでありますが、中国との対立を固定化するようなそういう日米安保再定義路線というのが本当に日本の平和と安全に役立つものであろうかということについて、私は決してそうではないというふうに考えざるを得ないわけであります。もう一つ最後に、「「力による平和」路線に希望はあるか?」ということでございますが、これは今までのまとめにもなりますけれども、この力による平和路線に潜む問題点というのは、そこで書きましたように、対中国軍事対決、対北朝鮮軍事対決ということでどうしてアジア太平洋地域の平和と繁栄を展望できるであろうかということでございます。  例えば北朝鮮に対して、抑え込むということ々私たちは当たり前のように思いますけれども、しかし本当に窮鼠になった場合の北朝鮮は、何も核兵器を持たなくても、例えば日本海沿岸に密集している原子力発電所に対して特攻攻撃をするというようなことだってあり得るわけです。北朝鮮の窮鼠猫をかむの勢いを全く軽視して、ただ国内における軍事力増強、日米安保再定義に対する国民の理解を深めるために北朝鮮脅威論をあおるというのは、私は非常に危険な話であろうというふうに思います。  あるいは中国でございますけれども、中国は本当に、先ほどのお話の繰り返しですから簡単にいたしますけれども、私たちが台湾問題について処理を誤らなければ何も中国との軍事対決ということは起こり得ないということでございまして、やはり私たちにその原因があるんだということを踏まえたいということであります。  もう一つつけ加えたいことは、先ほども申しましたように、戦争責任を反省しない、あるいは戦争責任を直視しない日本が本当に国際社会において信頼できる。パートナーとみなされ得るであろうかということであります。私は、この点でアメリカ国内に実はそういう日本、戦争責任を直視しない日本に対する警戒感が増大しているということについて、皆様に深刻に考えていただく価値のある要素があるのではないかということを申し上げたいと思います。  そして、もう一つ申し上げたい点は、そのように力による平和路線というのは私は非常に未来がない、展望がないと思うわけでございますけれども、逆に力によらない平和路線をとる日本というのは非常に大きな可能性を持っているのではないかというふうに思います。私は、日本は紛れもない大国であるというふうに思うわけでございまして、その日本国際社会と一切かかわりを持たないということはあり得ないというふうに感じております。しかし、その日本が、軍事的に国際社会にかかわるのか、あるいは戦争責任を直視し、みずからは軍事的にはかたく手を縛る国として国際社会にかかわるかによって、国際社会日本に対するイメージ、受けとめ方はまるっきり違ったものになるであろうというふうに思います。  こういう点で、日本が第九条を実践するという方向をとることが、単にアジア太平洋諸国、日本の侵略、植民地支配を受けた近隣諸国のみならず、アメリカ、そして広くは世界、国際社会全般に対して脅威にならない日本ということになって非常な安心感を与える、これこそが私は日本の進むべき道であろうと思うわけであります。  その場合に、先ほども申し上げましたように、脅威にならない日本に対してどこの国が一体攻撃するメリットを感じるのかということをもう一度考えていただきたいと思います。  そして、しかも私たちの憲法前文におきましては、非常に国際社会に対して積極的にかかわり合う、まさに積極的な平和主義の立場が非常に生き生きと書かれておる。世界のグローバルイシューズと言われるもろもろの課題に対して、驚くべきほどに先見性を持って一九四七年にできた憲法が道筋を示している。それについて私たちは、九条も含めてでございますけれども、一度としてその指し示す道を実践しようとしなかったではないか。だから、憲法は古臭くなったのではない、第九条は古臭くなったのではない、全然実践されもしないで蔵の中にはうり込まれてしまったのだということをやはり私は考えていただきたいと思います。  そういうときに、米ソの非常な重苦しい対決がなくなった現在、本当に、過去のことは問わないとしても、今のこの国際情勢のもとで日本が平和憲法そして九条を実践する非常に豊かな現実的可能性があるのではないかということを思いますし、そういうことから申しますと、そういう九条に風穴をあける安保再定義路線というのは私は決して日本がとるべき道ではないだろうというふうに思います。  6の「国民に十分な情報提供が行われているか?」について、簡単に申し上げます。  以前、私自身、外務省で二十五年間仕事をしていた感想を反省を込めて申し上げるのでございますけれども、日本における安全保障政策についての議論というのは、もう常に一貫して極めて不透明であり、国民に対して不誠実であったというふうに非常に自戒の念を込めて申し上げざるを得更せん。  その典型例をそこに幾つか出しておきましたけれども、非核三原則を言いながら核を持ち込ませる、密約を行う、もちろん政府はそれを否定いたしますけれども、非常に状況証拠としては限りなくクロに近い状況がある。  それから、事前協議として、日本からの作戦行動については事前協議の対象となるとすれば、例えばベトナム戦争あるいはこのたびの湾岸戦争に見られましたように、日本の基地からの戦闘作戦行動ではないという言い抜けによって、実際には日本の基地を軍事的に一〇〇%利用するということが横行する。  あるいは地位協定上は日本に全然負担する義務のない、思いやり予算と称してアメリカに対して米兵一人当たり千四百万円になんなんとする金額、世界に類を見ないそういう予算を国民の税金をもってつけるということをやる。  それから、これは私も前国防次官補のナイの文書の中で見てびっくりしたんですけれども、例えば七八年にできました日米防衛協力指針というのは、アメリカ側の理解においては日米安保条約と並び立つ公的な文書として理解されている。我が日本におきましては、日米防衛協力指針というのは単なる日米当局の間の了解事項とされているわけでありますが、しかしアメリカ側の文書によりますと、日米安保条約及び日米防衛協力指針に基づくその後の日米協力によって他の追随を許さない日米海軍協力体制ができ上がっている。これはナイの発言であります。そういうことが私たちには何ら知らされていない。  そしてまた、最後になりますが、日米安保再定義については、この日米安保共同宣言案の全文、今後変わるかもしれませんけれども、沖縄タイムスの報道によりますと、例えば日米安保の新しい今日的な意味というのは、二国間の防衛と同時に、アジア太平洋地域及び世界の安全保障の基礎をなす役割と書かれている。これに対して新防衛計画大綱におきましては、大規模災害等への対応国際平和協力業務の実施。これがまさに日米安保再定義に表現されたアジア太平洋及び世界の安全保障の基礎をなす役割というものに対応する言葉である。  一体これはどういう表現なのかということを私は本当に疑わざるを得ない。なぜそこまでそういうぼかした言い方にしかできないのか、なぜそんなことなのか。そういうときに私が考えますのは、こういうもろもろのこれまでの問題点を考えたときに、どうして日本の政治は国民に対して正直になれないのかということを本当に深刻に考え込まざるを得ない。  そうしたときに、やはり日本の国民の意思をそのまま反映したのではアメリカと激突になってしまうとか、アメリカの理解を得られないとか、アメリカあっての日本だというようなことが言われますけれども、しかしアメリカは、みずから称して正真正銘の世界における民主主義の旗手として立っている国であるはずであります。そういう国に対して、私たち日本国民に対してうそを言うような政治によって、うそを言うというのは語弊があるかもしれませんが、本当のこと言わないことによって引っ張っていく、そんな日米関係であってどうして長持ちするのかということを私は考えざるを得ない。  あるいはよく言われることは、本当のことを国民に言ったらパニックが起きてしまう、そうしたら大変だろうということであります。例えば朝鮮半島、あの北朝鮮の核疑惑の際にも日米韓の間で非常に緊密な協議が行われ、日本防衛出動とか後方支援ということが話し合われていたのにもかかわらず、そういうことは国民に一切知らされない。そういうことを話したら本当に憲法とのかかわりでどういうふうになるかわからない、そんなことをやったら本当にパニックが起きるということを私は二、三の方から、ここの永田町におられる方からもお聞きしておりますけれども、パニックが起きるようなことを本当に国民に対して黙ってやっていいのか、一体主権者はだれなんだということを私は訴えたい。  最後には結局、国民が本当のことを知ってパニックになったら何をしてかすかわからない、だからそういう国民に対しては知らしむべからずよらしむべしであるというふうに国会の方においてお考えになっているとすれば、私は、それは民主主義というものをどのようにお考えになっているのかということを本当に正面から問いたいという気持ちになります。  そういうことで、この日米安保再定義、そして新防衛計画の大綱という文書が出てきたときに、一体日本の政治は何をしようとしているのかということについて本当に国民に対して正直に説明し、国民の判断を求める、十分な資料も提供する、そして議論を尽くした上での判断を決定する、進路を決めるという方向にぜひとも国会がリーダーシップを持って行政の側をリードしていただきたいと思っております。  ありがとうございました。
  42. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) ありがとうございました。  次に、中西輝政参考人にお願いをいたします。中西参考人
  43. 中西輝政

    参考人(中西輝政君) 中西でございます。  既にお二人の先生がかなり広範にお触れになられまして、また私に与えられた時間も限られておりますので、お手元にお配りいただきましたレジュメの中から重要だと思われる論点についてピックアップしながらお話をするという形で、とりあえずの私のプレゼンテーションとさせていただきたいと思います。  近年、アジア太平洋に限らず安全保障ということを考えるときに、私が一番上に書いておりますように、やはり総合的な視点が非常に重要だと思われるわけです。これまでにない安全保障の概念のエクスパンションといいますか、より広い安全保障概念を持つことが一番重要であって、冷戦時代の安全保障という概念、あるいは第二次大戦以前の国防あるいは安全保障と言われた時代の概念、こういうものとはやはり相当に違った考え方が重要になる時代だということが重要であると思われます。  今日、安全保障を考えるときに、私は三つの点がまず前提として非常に重要なんだということをいつも申しておるわけでありますが、まず一つは長期的な視点ということであります。短期的には何をやるべきかということはほぼはっきりしているというか、そんなに大きな幅で問題の選択の幅があるわけではないというふうに私は思っておりますが、長期的な問題について今考えること、これは日本にとってとりわけ非常に重要な姿勢であろうと。  二つ目には、今申し上げた総合的ということが結びつくわけですが、より広く考える。いわゆる経済と安保の関係、あるいは今後の時代には価値観というものが、いわゆる国際秩序、つまりは広い意味の戦略問題や安全保障問題に非常に直接的な意味合いを持つことが予想されるわけで、価値観や文化の問題を抜きにして国際秩序というものは考えにくくなっている。とりわけアジア太平洋地域ではこの問題は非常に重要になって浮上してくるだろうということが予見されるわけです。  三つ目に、今日、安全保障を考えるときに重要な姿勢と思われるものは、やはり一つの価値観にとらわれない大きな意味のプラグマティズム、大きな実際主義というものだろうと思います。これは恐らく冷戦時代に言われた現実主義という言葉よりももっと大きな意味でプラグマティックな側面が要求されなきゃならない。それはやはり価値観とか理念といったものにとらわれないといいますか、それに引きずられないことが非常に大事で、多様性の時代、特に冷戦後の日本にとっては自立と共生という二つのキーワードがしばしばいろんな分野で語られますが、これは経済あるいは教育に限らず、安全保障においても自立と共生ということは私は重要なキーワードであり、その基本をなすものは、一つの価値観に冷戦時代のようなあるいは二十世紀的なとらわれ方をしないという新しい態度だろうと思います。  前置きはこれぐらいにさせていただきますが、アジア太平洋安全保障を考えるときに、レジュメの一に書きましたように、現状ということでいえば三つの問題点があるだろうという気がします。  つまり、アジア太平洋の旺盛な経済成長という現実が今非常に政治面に大きな波及をもたらしてきている。来月、タィのバンコクでEU、ヨーロッパ諸国とASEAN七カ国プラス日中韓三カ国、アジア十カ国との間にいわゆるアジア欧州サミットと言われるものが予定されています。国際政治の一つのシステムとして、今日の世界政治におけるサブシステムとしてアジア太平洋というものが浮上してきているというふうに考えられます。  しかし、この旺盛な経済成長の流れと並行して、アジアは狭義の安全保障面では明らかに冷戦の清算プロセスにあるというふうに考えられます。既に志方先生あるいは浅井先生がお触れになられたように、朝鮮半島の問題、台湾海峡の問題も、やはり冷戦の清算のプロセスのそのときが近づくにつれて不透明要因が増し、潜在的な不安定性が高まってくるというアジアにおける冷戦終えんのパターンがここではっきり見られるというわけであります。  しかし、もう一つの要因は、これは後で日米関係を考えるときに触れたいと思いますが、アメリカのアジア政策というものの持っている特徴というものはよく知っておくことが大切であろうという気がします。今日のアジア太平洋のいわゆる戦略的文脈と欧米の学者が言うストラテジックコンテクスト、あるいは安全保障のさまざまな動きがありますが、そのパターンを考えますと、三つぐらいのパターンに分けていつも考えておくことが大切だと私は思います。  その第一のパターンは、今申し上げたような冷戦の清算のプロセスが進んでいるわけですが、冷戦的文脈がやはりいまだに残存しているというこの一つの文脈。朝鮮、台湾、あるいは香港の問題も恐らくこの文脈だろうと思います。  しかし、二つ目にアジア太平洋安全保障を考えるときに非常に大事な要素は、勢力均衡的な文脈、パターンがほの見える、あるいは非常にはっきりと見えるということであります。  このアジアの勢力均衡という構図は、アジアの諸国がかつて十九世紀のヨーロッパのような勢力均衡、お互いにひしめき合い、対立、対峙し合うというイメージでは必ずしもなくて、恐らくアメリカのアジア政策というものが非常に大きな意味を持っているということでありまして、先ほど浅井先生もお触れになりましたが、アメリカにとってアジア諸国の一体化というものが勢力均衡というものを考えるとき非常にアメリカの利益に反するという大前提があります。  これは、二十世紀の初頭から追求されてきたアメリカのいわゆる門戸開放政策は大きく言って三つの柱があり、第一の柱は市場参入ということですが、第二の柱はアメリカ的価値観の伝播、現在で言うところの人権、民主化の価値観であります。三つ目には勢力均衡という大きな柱がありまして、やはりこれは冷戦後のアジア政策においても非常に重視されている線であります。  ここで言う勢力均衡は、いわゆるアジア全体が安定するという側面もあるわけです。しかし同時に、アジアが一体化してアメリカが政治的なリーダーシップを持ち得ない、そういう勢力構図ができるということはまずい、あるいは中国日本との間の接近が起こらないようにということが重要である、そういった考え方は確かにあります。  しかし、同時にまた、朝鮮半島をめぐって日中がどうなるか、あるいは国力を回復するロシアがどういうふうに出てくるのか。韓国におけるアジアの安全保障論議においては、いわゆる十九世紀末期に現出したあのパターンが、二十一世紀にもう一回似たような構図が起こるのではないかというような論議が時々聞かれるわけです。  しかし、アジアにおける勢力均衡のパターンというものはまだ浮上しつつあるという段階であり、私は現在アジア太平洋安全保障問題を考えるときの戦略的文脈として大事な三つ目の文脈は、やはり地域協力の流れがあるということであります。経済、安保、両面におきまして、既に両先生がお触れになられましたようにAPECあるいはAFTA、その他の局地経済圏をめぐる東南アジア諸国の提携、あるいはASEAN地域フォーラム、あるいは二国間のさまざまな信頼醸成措置等が進んでおります。  この三つの文脈をそれぞれ分けて考えることが重要でありまして、残存する冷戦文脈、勢力均衡のパターンが浮上しつつある、また三つ目に、しかしそれを緩和するあるいはそれを中和する地域協力の流れというものも確かにあるというわけであります。  ただ、今後のアジアの問題を考えるときに、やはり旺盛な経済成長と同時に価値観、文化にかかわる問題が浮上してくる。これは特にアメリカがアジアにおいてどんな政策、どんな役割を追求するかということに関して非常に大きな問題になり得る潜在的要因であります。日本が今後考えておかなければならない要因であります。東南アジア諸国におけるいわゆるアジア的価値の論争は、アジアの知識人あるいはメディアを巻き込んで、我が日本では考えられない非常に広範な論争に発展しております。これはやはり二十一世紀に非常に大きな地域秩序の方向を決める要因になってくるというふうに考えられます。  しかし、狭い意味で安全保障ということを考えてみても、経済面における提携を果たしてどのように整備して持続的な発展を今後もアジアに根づかせていくことができるか、この点では経済協力の高度化という問題が非常に重視されるわけです。特にエネルギーあるいは食糧、環境といったいわゆる限界要因といったものにどう取り組んでいくか、非常に重要な中期的課題であります。  また、先ほど触れました地域安全保障のさまざまな制度というものもアジアにおいてはまだ萌芽を見たばかりであります。こういった制度化の動き、特に日本に関しては短期的に北東アジアにおける多国間の安全保障対話、あるいはさらにそれを機構化していく、制度化していくという努力が非常に求められるわけで、この問題に関してはアメリカの政策というものがやや見えにくい状況にあり、また朝鮮半島政策をめぐって米中関係が台湾問題の波及を受けて停滞している現在、この問題について日本がやはり一つの構想を示すという時期であるのかもしれません。  同時に、文化的な相互認識というものがアジアにはやはり大きく欠けていることを直視しなければなりません。文化の問題は、恐らく安全保障というこの場で今取り上げるには必ずしもふさわしくない話題であるかもしれませんが、やはり今後のアジアの秩序イメージを考えるときに、十九世紀ヨ一ロッパのコンサート・オブ・ユアラプ、ヨーロッパ協調という構図が念頭に浮かぶわけですが、百年にわたってヨーロッパ各国が協調できた。なぜか。あれほど闘争的、対立的契機の強い西欧文明の中でこれほどの協調がなぜできたかということを今考えることは非常に私にとって重要な問題意識なわけですが、やはり政治の大変動による国民あるいは人間の生活における悲劇はもうたくさんだという感情が非常に強くある。  同時に、発展する経済成長というものが非常に旺盛な流れとしてある。社会の近代化と国際的なコミユニケーションが画期的に発展している。あるいはその微妙さをたっとぶ外交という考え方が、当時のヨ一ロッパも現在のアジアにおいても非常に生き生きと活力を持ってそういう外交文化が生まれつつある。あるいはイデオロギーや理念といったものに余り重きを置かないプラグマティズム、脱イデオロギー性というものが明確にある。こういうところが当時のヨーロッパと現在のアジアの近似点だろうと私は思います。  そういった意味で、アジアの協調による平和という可能性は歴史的に非常に大きなものとしてあるというふうに思われますが、結局アジアに欠けているものは、当時の欧州とアジアというものを振り返って考えますと、文化的な一体感というものが今のアジアにはあるのかという問題が気になるわけです。そういった意味で、大きな意味で文化的な相互認識の深化という問題を私は考えております。安全保障の問題としても対応しなければならないというふうに考えております。  それから、長期的なアジアの安全保障関係はどう変化していくかということでありますが、これは先ほど志方先生が長期的な見積もりの問題それから短期の問題というふうに整理してお話をなさいましたので、私は簡単に触れておきたいと思います。  この九〇年代、非常にとうとうと流れている地域主義という世界政治の大きな流れ、これが今、経済と安保、両面において地域に求心性を持たせる流れをつくり出しているわけですが、二〇一〇年ぐらいとそこに書きましたが、今後二十年ぐらいたったときに、今言われているようないわゆる経済のグローバリゼーシヨンとかあるいは安全保障の世界的な枠組みといったもの、具体的には現在ある国連かどうか知りませんが、グローバルな枠組みが機能し出す基本的な条件が整う。現在はその条件はないというふうに思われます。しかし、アジアにだけ集中して物事を考えるということは、今は非常に大きなトレンドとして重要ではあっても、恐らく二十年後にはさらに違った世界秩序のモメントが再び働き出す。それが私がそこに書いた「グローバリズムの再浮上の可能性」ということであります。  お二人の先生が短期的あるいはさまざまな当面する重要問題についてお触れになられまして、私はやや大づかみの話に終始いたしましたが、短期的な問題としてやはり取り上げなければならないものとして、いわゆる朝鮮半島情勢というものと世紀末の中国情勢といったものを無視するわけにはいかないと思います。  先ほど志方先生が、アメリカの中国政策はエンゲージメント政策、かかわり政策、アコモデーション政策、取り込み政策というふうに述べられました。それから、浅井先生は、日米安保の再定義ということに関して、中国を敵視する、脅威と考える、そういう方向がアメリカから打ち出されているというふうにお触れになられました。  私の見方は、折衷的に聞こえるかもしれませんが、基本的にはアメリカはエンゲージメントとコンテーンメントの中間のあたりを考えている。そして、それはどの辺に位置してくるかということは、恐らくそのときの勢力均衡であるとかあるいは国内政治その他の条件によって決まる。日本なんかの対応によって非常にその振ればあるんだろうというふうに思います。  現在のアメリカは、エンゲージメント、かかわり政策、関与政策という言葉でもって中国対応するということですが、これはレトリックは非常にわかりやすいわけですが、内実がはっきりとしないという点が日本にとっては一つの問題だということは私も考えております。その意味で、日米安保の再定義という文脈に関して中国ということを日本人が取り上げるということ自体に私はやや問題があるのではないかと思います。やはりアメリカの中国政策がはっきりとしない。  お配りいただきました私が雑誌に寄稿いたしました「二〇一〇年の選択」という資料に書かせていただいておりますが、アメリカが中国と正面切って対峙するか、あるいは米中提携といったような方向で地域秩序を考えるのか、それはまだアメリカとして基本的なスタンスを決めていないだろうと思われます。むしろ、冷戦後の世界にどれだけ関与するかということがはっきり確立していない現在のアメリカにとってそのようなことが決められるというふうにはちょっと思えないわけです。  また、中国に対する政策は、アメリカは全アジアを地域的、リージョナルなレベルで常に見ているわけです。つまり、日本がどう動くのか、日本対応によって恐らくアメリカの中国政策が決まる度合いが非常に高いということを私はこの際強調しておきたいと思います。  ただ、朝鮮半島情勢の背景にある最大の条件、これは米中関係でありますし、また台湾問題さらにはアジアの安全保障機構といったものを考えるときも、すべてその背景にある大きな条件は米中関係であろうというふうに思います。  鄧小平時代といいますか、いわゆる八〇年代末期から九〇年代にかけて、天安門事件も含めましてこの数年中国がとってきたいわゆる鄧小平の十六文字といわれる考え方、つまり摩擦を減らし、合作をふやし.、そして対立を回避して、中国にとって改革・開放政策にふさわしい国際環境を確保しようという鄧小平のいわゆる対米政策のモットーでありますが、こういう政策を中国がとる限り、アメリカはやはりその忍耐の限度がどこかということを試そうという動きは必ずとるわけで、これは外交として当然の対応であります。当然というのは、いわゆる地政学的なビヘービアとして当然だということであります。したがって,辞を低くして突風をやり過ごそうという中国の過去数年の政策というものは今や破綻しつつあるということを中国側がはっきり認識し始めた。  これは九三年のいわゆる銀河号事件、中国船が米海軍によって臨検されましたが、あの事件、あるいは北京オリンピックをめぐるさまざまな動き等を見ていましても、これはいわゆるハラスメントと言って適当かどうかわかりませんが、そういったヨーロッパ外交に昔からある針でちくちくと相手をつついて相手の反応をうかがう、それによっていろんな限度を確かめていくという威力偵察みたいな行動であるというふうに思われました。それが、台湾の問題をめぐってかなりそのレベルが上がってきたということであろうというふうに思っています。  したがって、アメリカの対中政策の今のモードがどこまで続くかということを我々は凝視しなければなりません。そういう意味で、中国の将来がどうなるかということと同時に、アメリカの対中姿勢というものがやはり日米安保の将来を決める非常に大きなファクターになるわけであります。  そこで、そのヒントになる問題は、現在のアメリカの朝鮮半島に対する外交におきまして、アメリカの学者の中にはピョンヤン・ワシントン枢軸というような表現をする人がありますが、米朝接近がやや注目すべき形で起こっていることは認めざるを得ません。  先ほど志方先生は米朝同盟という極端なシナリオというふうにおっしゃられました。確かに同盟という言葉は単なるレトリックであろうと思いますが、現在のアメリカにとって朝鮮半島政策の最大のプライオリティーは、核拡散を防ぐ、北の核開発を抑え込むということでありますが、二つ目には南北対話を促進するという方向、それはしかし三つ目に南北の統一ということをやはりアメリカ外交の重要な課題として長期的に考えているということが前提にあるのではないかと思われます。  したがいまして、現在のアメリカにとっては、米支援問題、軽水炉問題、それから近々予想されております北朝鮮に対する四十年間続いてきた経済制裁の第二弾の解除といった政策をアメリカが打ち出してくるということは十分に予想される。  アメリカは朝鮮半島に関してはある意味ではソフトランディングのシナリオに転換してきた、あるいは欧米の学者の表現を借りれば、アジア情勢は半島から海峡へとその焦点は移りつつある、こういう表現がありますが、朝鮮半島から台湾海峡に移ってきたというわけであります。  しかし、こういった問題の多くはやはり米中関係中国の行方ということにかかわるわけで、その中で我々が見落としてはならないのは、やはり江沢民体制が今大きな過渡期にあることは間違いない。しかし、ポスト鄧小平の中国においていわゆる民主化が何らかの形で進まないと考えるのはむしろ不自然だと私は思っております。  中期的に考えますと、まず九七年、来年の七月に香港の返還があります。それから、秋に第十弄回の共産党大会があります。これが一つの節目でありますが、さらに今世紀末から来世紀の初頭、つまり数年という単位で考えれば、中国の民主化というものは緩やかに、あるいは場合によってはややドラスチックな動きも含みつつ進行するだろうということを、常にその可能性念頭に置くことが大切であります。  つまり、米中関係の基本的構図がそれぐらいのタームで変わり得るというわけであります。そうしますと、今論じられていろいろんな議論、朝鮮半島の問題も含めまして恐らく現在の我々がしている議論という、ものの前提が変わってしまうんじゃないかというふうに思われるわけであります。  そういった意味で、冷戦的な文脈は解消する、あるいはドラスチックな動きを含みつつ、大きく言えば収束してくるということになるかもしれません。しかし同時に、そこには放置すると勢力均衡的な構図が浮かび上がってくる。つまり、朝鮮半島の問題に関してはやはりアメリカが朝鮮半島の統一をリードする、その間に現在のように米朝の部分的な接近が続きますと米韓関係は非常に悪くなる。  そういったときに、韓国の孤立化を防ぐ日本役割というのは非常に大きい。日韓がやはり提携して、特に日本韓国がアジアの将来秩序について、アメリカとは異なる。パースペクティブを持っていますから、そのことをやはり訴えていくという日本のスタンスが非常に重要になるんだろうと私は思っております。  このように見てまいりますと、やはり北東アリアの安全保障対話、あるいはさらには安全保障機構といいますか、制度をやはり今日本が提唱していくという、そういう時期に来つつあるのではないかというふうに思われるわけであります。  これが五番目の「日米安保の未来」ということを含めまして日本の選択ということを考える文脈につながるわけですけれども、今日、日米関係、日米安保を考えるときに、やはり最初に申し上げたとおり、安全保障だけを、狭いコンセプトで日米安保を再定義する、日米の安保体制、この今後をどうしたらいいのだ、さらには沖縄の基地の問題等々の問題をいわゆる安保という枠組みだけで切って考えてみますと、これは恐らくある意味では袋小路に入る議論になりかねないというふうに思われます。むしろ、今日広い意味で日米関係全体をどう考えるのかという視点がこの問題でも問われているわけで、ある意味では、安保さえあれば日米関係はうまくいくんだ、安保が基軸で、安保をしっかり持っていれば日米は何が起こっても安心だ、こういう議論はやはり冷戦的文脈の議論であります。  経済の摩擦、これはまたポスト包括協議の日米経済摩擦ということが、そろそろ今年の春から夏にかけてクリントン大統領の訪日、あるいは半導体協定の期限切れ等々が予想されます。さらには円高の再燃というような流れが大統領選挙の年ですからこれは当然予想されますが、そういった問題を含めて日米関係の全体像を持たなければ我々の視野を十分に広いものにしてくれないだろうというふうに思われます。  また、朝鮮半島中国の問題も先ほど申し上げたとおり、いっかソフトランディングする、あるいはドラスチックな動きを含みつつも全体として収束する、こういう冷戦終えん、冷戦の清算プロセスだと見ますと、その後に日米安保のアイデンティティーはどうなるのかという問題であります。今のように安保を朝鮮問題あるいは中国の脅威といった文脈だけにつなぎ合わせていますと、恐らく日米安保そのものが、今世紀の末あるいは二〇〇〇年から二〇〇五年といったタームでしょうか、再び大きなアイデンティティークライシスに見舞われる可能性があるかもしれません。  そういう意味で、日米安保のアイデンティティーというものをどう考えるのか。脅威がなぐなれば要らないじゃないかと。浅井先生は中国朝鮮半島問題も脅威ではないというはっきりしか見方を示されました。志方先生はやはり一定の脅威だという見方を示されました。私は脅威としての性質が非常に複雑だと思われます。不安定要因という言葉を志方先生はお使いになられましたが、私も、この不安定要因ということで言えば日米安保が全く役に立たないような状況というようなものはまだ今の朝鮮半島にはないだろうという気がいたします。  そういった意味で、最初に申し上げましたとおり、短期的には何が必要かということは非常にはっきりしている。つまり、日米安保を維持することであり、アジアの不安定要因が除かれるまでは非常に重要な日本安全保障にとっての枠組みであるということをはっきり認識することだと思います。  しかし同時に、それ以後の問題をどうするか。つまり、日本にとっての日米安保というものは冷戦的文脈を超えてどういう効用があるのか。我が国の憲法の体制、憲法のシステムといいますか憲法の理念といった問題、あるいはアジア諸国との協調、アジアにおける対日理解の現状といったものを考慮に入れざるを得ません。アジアの諸国にとって日米安保といったものは、やはり日本人という民族がどういう民族なのか、歴史というものは日本にとって何なのか、こういう日本観と結びついて日米安保の問題を考えるわけですね。こういった意味で日本観が問われる問題としてそこにある。  私は、いわゆるジャーナリズム用語で言う歴史の認識問題というもので言えば、日本の謝罪、いわゆる戦争責任の謝罪といった問題はやはり非常に不十分なものであるし、日本の国内で分裂しているということはアジア諸国から見て非常によく見える。また、そのことがさまざまな形で、そういった国々においてもともすれば外交上それぞれの国益にならない、もっと言えば、恐らく韓国なり中国あるいは東南アジア諸国なり、それぞれの立場から見て当然出すべきでないと考えられるような議論まで噴出してしまう。各国の政府関係者やマスコミ関係者に聞きましても、恐らくこういう議論は出すと道義的に問題を問われると我々は思うんだけれども、しかし日本のマスコミがどんどんこれをキャリーするといったことでどうしても出てしまうんだと。これは日本の国内にある分裂といった問題を反映しているわけですが、恐らくもう残された時間はこの問題では非常に少ないということであります。  時間が参っておりますので、最後に私の申し上げたい非常に重要なポイントだと思われるアジアとの文化的な一体性を醸成していく重要性、このことの大切さを強調して私の話を終わりたいと思います。部分的に非常にはしょりながら進めさせていただきましたが、それでも時間が超過いたしまして、大変恐縮でございました。
  44. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) ありがとうございました。  以上で参考人からの意見の聴取は終わりました。  これより質疑を行います。  午前同様、委員の皆様に自由に質疑を行っていただきます。質疑を希望される方は挙手を願い、私の指名を待って質疑を行っていただきたいと存じます。  質疑のある方は挙手をお願い申し上げます。
  45. 山本一太

    山本一太君 三先生から大変いろいろ示唆に富んだお話を伺いまして勉強になりました。本当にありがとうございました。いろいろお聞きしたいことはあるんですけれども、短く中台関係に絞ってちょっとお尋ねしたいと思います。  今週号か先週号のエコノミストの表紙、カバーストーリーがやっぱり中台関係の話で、メーンランドの方が台湾をおはしでつまんで海から取り上げるという表紙のカバーストーリーで、先生も読まれたと思うんですけれども、簡単に言って、中国をソフトランディングさせるということが二十一世紀前半のアジア太平洋の安保を考える上で最重要課題だということはそれぞれの先生方のお話であったんですけれども、それではこの中台関係に絞っていって、浅井先生は中国対応を見誤らないようにしなければいけないという表現を使ったんですけれども、いわば中国にいかなる事態があっても、台湾を武力統一するということはこれはもう国際世論上からも許されない。アメリカも日本も、諸外国が反対するという国際世論をやはりミスリードさせないように必ずサインを送っていくことが私は大事だと思うんです。  具体的に、例えばもうすぐ台湾の総統選挙があって、そこで、独立という形じゃないにしても、いわば独立の方に傾くという流れが起きたときに、いろいろアメリカの対応にもよると思うんですけれども、日本としてどういうポリシーオプションがあるのか。中台を最悪の武力衝突というところに持っていかないために日本政府として具体的にどういう政策を提示すればいいのかということをまずお聞きしたいんです。  あともう一つは簡単なんですけれども、実際に衝突が起きた場合のことなんですけれども、台湾の方もかなり今軍事力充実をしている。たしか、フランスからミラージュも買ったし、F16も何機か持っているし、今月か来月か忘れましたけれども、アメリカの議会で台湾に対する武器供与の制限を一部緩和するという決議が通る見込みで、そうすると台湾はもしかすると潜水艦ぐらいはまた購入できるかもしれないという状況になっていると思うんですが、実際に武力侵攻が起きたときに台湾軍がどのくらい持ちこたえられるのか。いわゆるそれとマッチする力があるのかということを軍事的な観点からお聞きしたい。  この二点、軍事的な側面から志方先生にお聞きして、あと、どういう政策のオプションがあるのかというのは浅井先生とそれから中西先生、それぞれにちょっとお答えいただきたいと思います。
  46. 志方俊之

    参考人(志方俊之君) 台湾が独立志向に限りなく向いていったときに中国がどのような対応をとるであろうかということでございますが、過去中国政府が、人民共和国ができてからの話でありますけれども、どのような対応をしてきたかということをいろんな事件で考えてみますと、一九五〇年には、朝鮮戦争のときに国境に米軍が近づいてきたとき、義勇軍という形でありましたけれども出兵をいたしました。北朝鮮に軍隊を派遣したわけであります。  それから、一九五四年には金門、馬祖の砲撃戦というのがありまして、国民党政府の軍隊と中共軍との間で戦いがあった。それから一九五九年にはチベットで動乱があったときにも軍隊を派遣してこれを鎮圧する。それから一九五九年から六二年にかけましては中印国境での紛争があって、これも軍事力を行使する。それから一九六九年には中ソ国境紛争というのがありまして、このときも中国軍は派遣されております。それから一九七九年には、ベトナムとの間の中越戦争と言われるものですが、このときも軍事力を行使しております。それから一九八八年には南沙群島に兵を派遣しております。  そういう中国政府の過去のビヘービアといいますかやり方を見ますと、事国家主権に関する問題については、あらゆる利益といいますか、そういうものをかなぐり捨てて行動する、そういうように見ることができます。現に、もし台湾が独立を宣言すれば軍事力を行使するということを何回にもわたって言明しております。私はこれは単なるおどしではないと、過去のことから見れば。  今、中国は経済発展が一番の最優先課題であるからまさかそんなことはしないだろうというのは私たちの判断基準でありまして、中国は国家主権に関して、いわゆるソブレンティーのことに関しましては断固として行う可能性を持っております。これは否定できません。やらないかもしれません。そういうことを考えますと、台湾が選挙の後急速にそういう方向に進めば、私はそういうこともあり得ると思うんです。  中国にとって台湾の軍事的価値ということを考えますと、まず第一は、今言ったように国家統一の完成であります。人民解放軍にとって、台湾に国民党政府が逃げていって、そこでもってそれを追撃して統一できなかったということはもう積年の悲願なわけです。ですから、人民解放軍としてはこの屈辱の払拭をしたいというのが一つあります。これはソブレンティーの問題ですからどうしようもない。  二番目、軍事的には海洋進出への拠点であります。特に東南アジアに対する進出のあれであります。彼ら自身のシーライン・オブ・コミユニケーションといいますか、海上連絡線の防衛の基地でもあるし、それから西沙群島の防衛、南沙群島の確保、それから彼らが言っている釣魚島、尖閣列島でありますが、こういうものを自分の領海内に入れているわけですから、そういうものの確保という意味で台湾というものは軍事的拠点になり得る。  それから沿岸地域防衛のための、これはアメリカに対する軍事的な防衛線でありますが、沿岸地区というのに中国のすべての資産があるわけですが、ここがいきなり海に接しているわけですね。ですから台湾を領有することによって米国に対する前線を構成する、これが三番目であります。  四番目は、北東アジアと東南アジアの分断と言うことができます。対日本、対朝鮮、対ロシアにとって、中国が台湾を統一しておくということは極めて重要である。  それから、最後は経済的なものでありますが、台湾の資産を併合できるという経済的利益、それから経済水域が拡大する。  こういうように、中国にとっては台湾というのは単に二千万人ぐらいの人が住んでいる小さな島ではないということであります。  それから、米国にとって台湾の価値というのは、先ほど中西先生が申されたように、アメリカはやっぱり関与政策とコンテーンメントといいますか封じ込め政策の両方をとっていると思うんです。ですから、台湾というものをアメリカが支援していることは、中国に対していつも何かカードを持っているという、そういうことになると思います。  アメリカの中国に対するカードとしては、人権カードだとかWTOカードだとか朝鮮半島のカード、それからロシアと仲よくすること、それからインドと仲よくするという、こういういろんな対中カードがありますけれども、台湾もそのカードの一つであり、軍事的に見れば極めて重要なカードである。それから、アメリカがいつも言っているフリーアクセス、自由航行、それから中国が軍事的拡大路線を走り出したような場合には封じ込め政策に転換するわけですから、そのときの選択肢として持っておる。  それから、今米国は台湾に対してたくさんの兵器を輸出しておりますけれども、もし何かあって台湾を政治的に見捨てるようなことがあれば、米国と同盟関係を持っている国あるいは友好関係にある国々というのは米国に対して信頼しなくなるということもあります。ですから、台湾問題というのは、そういう米国にとっても極めて重要な拠点である、カードであるということを考えますと、私は相当な関心を持ってここを見なければならない。  それから、先ほど浅井先生が、日本が何も脅威を相手に与えなければ我が国が相手から攻撃されることはないとおっしゃられましたけれども、確かにそのとおりであります。しかし、日本のシーレーンはあそこを通っているわけでありますから、日本が何もしなくても、あそこで何か起こってそこに機雷が敷設されたりする。ほかの国とほかの国がコンフリクトを起こして、それによって日本影響を受けるということはあるわけです。  そういうことを考えますと、台湾海峡の問題というのは、先ほど申しましたように朝鮮半島の問題よりももっともっと私はこれから重要になると思います。以上です。
  47. 浅井基文

    参考人(浅井基文君) 私は、八〇年から八三年まで中国に勤務しまして、それから八三年から八五年まで中国課長をやった経験があるんですが、そのときの私の最大の悪夢といいますか、一番心配だったことが、台湾独立ということを契機とした米中激突、そのときに日本はまた裂きの刑に遭うだろうということだったわけです。近年の状況を見ておりますと、そういう方向に台湾の国内の動きが非常に強まっているというところに私は非常に不安を感じております。  冒頭にも申し上げましたけれども、先ほど山本先生は台湾が独立に傾くときに日本としてのポリシーオプションはとおっしゃいましたけれども、私はその前に、どうして台湾が独立に傾くのかということをはっきりさせないと話の筋道が狂ってしまうのではないかと思います。  先ほども申しましたように、台湾が独立に傾く、あるいは民進党等々の動きを見ておりましても、もちろん内発的な契機はあるんですけれども、外からのエンカレッジメント、そういうものが全くないとしたならば、そんなに簡単に独立ということを考えるはずがないわけです。これは本う明らかに、アメリカの特に議会筋あるいは日本国内においてもかなりの人々が台湾の独立ということを支持しようではないかという方向で動いているということが、まさに台湾の島においてそれに力を得て独立への動きを強めたいという運動々招いていること、この因果関係があることはしっかり踏まえておく必要があるだろうと私は思うもけです。  ですから、私が最初に申し上げたいのは、独立に傾くときの日本としてのポリシーオプションじゃなくて、まず考えなければいけないことは、そもそも私たちはなぜ台湾の独立に対しててこ入れをするのか、そんなことが許されるのかということだろうと思うわけです。  こういうときに私が申し上げたいこと、去年の抗日戦争勝利五十周年を記念して中国では大々的なキャンペーンをやっているし、行事も行っているわけですが、そこでの一つの大きなポイント、私たちがともすれば見忘れがちな大きなポイントというのは、現在の台湾問題を生んだのは我々自身であるということであります。  それはどういうことかといえば、まさに日清戦争における一八九五年の下関条約、彼らは馬関条約と言っておりますけれども、それによって台湾を割譲させた、そしてそれを日本が支配した、その台湾に国民党政権が逃げ込んだということは彼らにとっては今なお記憶に新しいところであります。先生方御存じのように、中国人は私たちと違いまして非常に歴史的な民族であります。そういう点で一九九五年という年は、彼らにとってはまさに抗日戦争勝利の光栄ある五十年であると同時に台湾を日本に割譲せしめられた屈辱の百周年でもある、そういう認識があるわけです。  そういうところを私たちはどのように認識するのかということを、やはり私は本当に日中友好ということを前提に考えなければいけないという私の出発点からいっても、本当に私たちは謙虚にその問題点を考えることがまず先ではないのかと。そういうところをもし私たちが冷静に、しかも謙虚に考えたならば、台湾の島において独立を目指す動きがあるからそれをエンカレッジするんだというのは、ちょっと私は非常に乱暴な議論ではないのかというふうに思います。  それは、本当にインディジナスな島内における自発的な運動として起こったときに、それに対してどう対応するかという問題はありますけれども、明らかに中国も正当な憂慮を持って見ているように、その台湾の独立の動き背景にアメリカがあり日本があるということは間違いないわけでありますから、私たちはこれに対するどういうおとしまえをつけるのか、まずその点をはっきりさせるのが議論の出発点ではないのかというふうに私は思います。  その次に、仮にアメリカ、日本の支持がなくて、それでもなお台湾が独立するときはどうなろのかという議論があり得ると思いますけれども、私がまず申し上げたいのは、じゃアメリカと日本がそういう動きをやめてごらんなさいということであります。やめたならば、私は台湾の独立への動きというのは見事に収拾すると思います。これは私は台湾の友達ともいろいろな議論をしておりますので、かなり私は自信があります。  ですから、そういうことを考えてまいりますと、台湾が独立に向かうときというのは、一つはアメリカ、日本が支持するときであり、もう一つはアメリカ、日本が支持しなければ台湾独立の動きというのは収束するわけです。したがって私は、台湾が独立に傾くときの日本としてのポリシーオプションはというのは考える必要のない問題であろうというふうに思っております。  それから、武力解放は許されないというサインを送り続けるということでありますけれども、私は一般論としては武力解放は望ましくないということはもちろんであります。しかし、今申し上げましたように、台湾の独立への動きというものが、そういうアメリカ、日本の支持によって加速されるとか強められるということになりますと、これは単に武力行使の是非の問題だけではないという問題が入ってくると思います。  そうしたときに、日本として、一方で台湾の独立を支持するということについて片目をつぶるというふうなことをやっておきながら、その他方で武力行使は絶対に許さないなんというような行動に出るということは私は極めてアンフェアなことであろうというふうに思います。そういうことはやはり私たちが襟を正した上での問題であって、まず私たちが襟を正せるかどうかということを考えてからその問題について考えるべき要素が非常に多いんだろうというふうに思います。  それから、もう一つ山本先生が御指摘になったのは、武力侵攻のときに台湾がどれぐらいの抵抗力を持つかということですけれども、最近中国が非常にはっきり伝えていること、最近もアメリカにおいて中国を訪問した学者がレーク安全保障担当補佐官にブリーフをしたと、そういう会合の中身の記事がヘラ・トリやなんかに載っておりましたけれども、そこにおいてはいわゆる全面侵攻というようなことを考えているかどうかもわからないわけです。むしろミサイル攻撃とかそういうことによってやるということすらにおわしている可能性があるわけです。そういうことになりますと、幾ら台湾が精強な軍事力を持っているとしても、いわゆる想定した事態が違うという可能性も出てくるということも考えておくべきであろうというふうに思います。  これはレークその他は否定しましたけれども、新聞報道によりますと、中国を訪問した学者は、中国側がそういう攻撃をしてもアメリカはサンフランシスコに対する攻撃は恐れるから戦争に参加しないだろうというふうにも彼は言ったということを、確かにおれは聞いたということをコンファームするという記事が出ているんですね、それはレークたちは否定していますけれども。  これはもう先ほど中西先生もおっしゃったように、まさに外交というのはごちゃごちゃしておりますから、そういうあいまいな要素を残せばそれはそれなりに成功であるということは当事者は考えていると思いますけれども、私が申し上げたいのは、本当に志方先生もおっしゃったように、中国は国家主権にかかわることについてそんな簡単な考え方をしていないということですね。この点は私たちはもう本当に誤解してはいけない、こう私は思います。  そういう点でそういうことを考えていくと、確かにみんなが戦争になってしまったら大変なことですから、それはもう必死になって戦争が起こらないようにするでしょう。しかし、その戦争が起こってしまう可能性というのは、非常に皮肉っぽく聞こえるかもしれませんが、例えば私たちが北朝鮮からの核攻撃の可能性を大きく言う可能性に比べればはるかに高い蓋然性を持っている、可能性を持っているというふうに私たちは踏まえて、腹帯を締めてかかるべき問題であろうというふうに思います。  私の結論といたしましては、そういうことになる可能性を私たちが私たちの政策によって招くようなことはまず出発点としてもうきっぱりとやめるべきであろうと。そういうことが起こらない方向性というのはどういうことなのかということを私は対中政策の基本に据えていくべきだろうというふうに思っております。
  48. 中西輝政

    参考人(中西輝政君) 私も両先生と同じ、中国の主権に対する考え方というものは非常に原則的で厳しいものがある、そのとおりだと思います。  この問題を考えるときに、台湾独立は日本にとって望ましいのかどうかということをまず基本に据えて考えるべきでありまして、今の国際情勢の流れがこうだからというような考え方、あるいは初の民選大統領ができたんだからという考え方、こういう状況的な考え方は私はとるべきでないだろうと思います。  結論的に、最初に結論を言うようですが、私は台湾独立というものは、今の形で、つまり一方的な格好でもし台湾が独立に動いて独立したとしても、それは将来維持できないということは非常にはっきりしている。歴史的に、中国が二十一世紀の半ばになってもこの問題を北京政権がどうとらえるかということを考えなければなりません。  それから、中国の国内にやはり生まれてきている改革・開放政策の恩恵に浴した世代、若い世代の中国人にとっては、この問題は、台湾の問題、チベットの問題あるいは新疆の問題等を含めていずれ大きな連邦あるいは国家連合的、あるいは中華圏連合といったような、そういう平和的解決という可能性が私はかなりあると思っております。  したがって、現在の時点で一方的な形で台湾が独立する、つまり話し合いの末でない独立というものは、国際秩序上あるいは長期的な歴史上好ましくないだろうというふうに考えております。ただ、武力行使をすること、中国が台湾に武力行使をするということは好ましくない。また、現在の台湾が経済的にも一つの実体をなし、政治的にはステータスクオを享受している、この現状を変更するということは日本にとってやはり好ましいということでは決してないわけです。  また、民主主義、民主化による大統領が誕生したということは、直接に日本の外交政策の目標としてアメリカのように民主主義を大上段に掲げている我が国の外交政策の方針というふうには、私はそういうものがあるとは必ずしも考えておりませんし、また、そういうものを主張することによって日本がアジアの中でどういう位置を占めるのかという、これは将来、ベトナムの問題、インドネシアの問題、さまざまな民主化の問題を抱える国がアジアにはたくさんあるわけです。  さらにまた、日台の経済関係というものを考えてみますと、やはり中国経済の発展というものは長期的に、長期にわたる日本の大きな国益であるという視点がやはりこれに対しては向けられるでありましょう。  民主主義の価値に対しては、恐らく条約上の義務という観点がありましょう。日本にとって民主主義は国内の政治体制において非常に重要な価値であります。しかし、あわせて国際法の義務というものがあります。  御承知のとおり、日中平和友好条約の中には、アメリカのいわゆる上海コミュニケから七九年の米中国交正常化、この過程の中で示されたような格好で、日本は台湾に留保をつけておりません。留保なく一つ中国という線を七二年に日本は打ち出しているわけです。国際法的なステータスクオというものがここにあるわけです。  したがって、民主主義という問題ともこの問題は同時に起こる法治的国際法的秩序といったような問題を我々はどう考えるのかということであります。  また、日本にとっては歴史的な過去、つまり台湾を支配したと。私は浅井先生のように、現在の中台紛争の根源が日本の責任だとは思いません。これはもう第一義的に両者の問題でありますし、二義的には恐らくアメリカの責任でありましょう。しかし、日本がこの問題でアメリカと同じような立場をとれないということがはっきりしていることは、やはり日本が台湾を領有し植民地支配したという歴史的過去であると。この点はやはり忘れるわけにはいかないというふうに思っております。  したがって、結論としましては、我々は、日本にとって現在論じられているような形の台湾の独立は好ましくないというふうに考えております。
  49. 山本一太

    山本一太君 ありがとうございました。
  50. 清水澄子

    清水澄子君 三人の先生方にお尋ねしたいと思います。  まず、志方先生ですけれども、安全保障考え方が非常に国家主義といいますか軍事中心安全保障として伺ったんですけれども、もっと経済とか人権とか環境とか文化とか、そういうヒューマンセキュリティーの側面からの安全保障というのはどのように考えていらっしゃるのかということが一点。  それから、国益という用語を安全保障のキーワードとして使っておられますが、先ほどシーレーンなどもおっしゃいましたけれども、現在、国益とはどういう内容を意味しておっしゃっておられるのか、そのことを御説明いただきたいと思います。  それから三点目が、この「防衛力整備の原則」のところで、侵略に対して戦うことを基準に整備するというふうにここにもおっしゃっているんですが、現在、その侵略に対して戦う基準というのはどの程度のことを基準というのか、その点について御説明ください。  それから、浅井先生には、この日米安保再定義がアジア太平洋地域安全保障にどのようなインパクトをもたらすと考えていらっしゃるか、その点についてお聞かせください。  それから、中西先生には、この「日本の選択のあり方」のところで、経済共同体づくり、特に東アジアの枠組みの形成とあるわけですが、この東アジアというのはやはり台湾と同様歴史的な過去を持つところですけれども、特に北朝鮮との関係がありますね、韓国との。その場合に、ここで言う短中期と長期にわたっての経済共同体づくりというのはどういうふうに考えていらっしゃるか、御説明いただきたいと思います。
  51. 志方俊之

    参考人(志方俊之君) 先ほど軍事的に安全保障を見ていると申されましたけれども、私は軍事的な部分だけを申し上げたのでありまして、国家を守るのに軍事力だけで守るということはあり得ないわけであります。世界で一番軍事力を持っているアメリカといえども軍事力だけでアメリカの安全保障を全うすることはできない。そういうことを考えますと、ヒューマンセキュリティーとか環境の問題とか政治、外交すべての力を使って安全保障というのは全うすべきものであります。  しかしながら、もし軍事力というものがなくてそれだけで安全保障が全うできるものなら、過去の人類の歴史に戦争というものはなかったと思うんです。やはり軍事力というものがあって戦争が抑止されるということも幾つかあったし、軍事力があったがゆえに戦争になったという例もあります。そういうことを考えますと、我が国が節度ある防衛力というものを堅持するということは一つの国家としてのオプションであるかと思います。  それから、国益という言葉を申し上げましたが、国益というのはナショナルインタレストでありますけれども、今の日本ではこれは廃語のようになってだれも使いたがらないわけであります。それはやはり太平洋戦争のときに日本が国益というものを追求してどんどん外へ出ていったという、そういうイメージから、国益という言葉に対する何といいますか嫌な思い出があるために国香という言葉をみんな避けて通っておると思うんですが、私は国益というのは国民の利益と解釈していいと思います。納税者が利益を受けるような社会、そういうものを守るためには、やはり朝の食卓に外国から来る食料が載って、いただくと、ほとんど食料は輸入しておるわけですから、そういうものが載らないということは国益に反するわけであります。  そういうことで、日本の国家の国益というのけ日本の領土の上だけにあるのではなくて、オイルフィールドにもあるし、我々のつくった品物が売られていくところの安定ということがあります。したがって、私は思うに、現在の国益というのは、原料を輸入しそして加工して出すというのは二十一世紀になってもこの構造は変わりません、日本の場合。その場合の国益というのは、少なくとも東アジア、太平洋地域、それから南西アジア、こういう地域が安定しているということが国益だと思います。そのために何をするかということが国益を考えることであります。  三番目、侵略に対処できることを基準にして防衛力整備するというさっき申し上げましたことに対する質問でありますが、これは、防衛計画の大綱というのはきょう午前中あったと聞きましたが、そこに掲げられているような程度防衛力というのが我が国にふさわしいものである。例え話で申しますと、十年、十五年、二十年という二十一世紀前半を考えますと、どういうようなことが起こるかよくわからないわけであります。こういうことは起こらないだろう、こういうことは起こらないだろうと言う方が一番わかっていない方でありまして、何が起こるかわからないというのが安全保障考え方であります。  しかし、そのためにすべてを防衛力で守るのではなくて、あらゆる手段を通してさっき言いましたように不安定要素というものをなくしていくもけでありますが、それでも残るところの最後の部分を日本がそういう最小限の防衛力、GNPの、GDPの一%、国民の千人に二人が自衛官でいるというような世界で最も少ない基準の防衛力をみずから整備する、これは国家の意思を示すものでもあると思うんです。そして、それは使われないことが一番いいというものであります。  そういう意味で、自分たちが持っている人的資源、経済的資源、そういうものをどのぐらいそこに配分するかということであれば、今の新しい防衛計画の大綱にあるような水準が侵略に最低限軒応できると。女性の先生でいらっしゃいますのでお答えしますけれども、どういうお客さんが夕食をとりに来るかわからない、冷蔵庫にどういうものを入れておこうかというときに、どういうお客さんが来るかと固定して用意する人はいないと思うんです。三十人ぐらい子供が来る場合には三十人分のライスカレーを用意するし、十人ぐらい自分の主人の友達が来る場合には焼きそばでもつくるとか、あるいはグルメのお客さんが来るときには相当いいものを準備して待っているとか、そういうように何が来るかわからないときには最低限必要なものだけは持っていなきゃいけない、それが今の新しい防衛計画の大綱に示された水準かと思っております。以上でございます。
  52. 浅井基文

    参考人(浅井基文君) 日米安保再定義が日本安全保障にどういう影響を与えるかということでございますか。
  53. 清水澄子

    清水澄子君 アジア太平洋地域日本も含めてください。
  54. 浅井基文

    参考人(浅井基文君) まず最初に、日米安保再定義に至る過程においてはアメリカ側においても日本側においてもいろいろな発言がございます。しかも、かなりある方向性において一致しているということがございます。  私が最初に目を見開かされる思いをして読ませていただいたのは、永野先生が理事長をやってお.られました日本戦略研究センターでございますか、そちらでお出しになった「世界に生きる安全保障」という本がございまして、その中に例えげこういうくだりがございます。「台湾が独立を指向する動きを強めれば、」、ちょっと中略いたしますが、「米中の間を、どちらにもつかず上手にマニユーバーしようとすることは双方の信頼を失う最もまずい選択となる。結局わが国は、米国の行動を支援し、海上交通の安全は共同して確保すろこととなろう」云々と。そして、志方先生がおっしゃったようないわゆるシーレーンの問題も言及されております。  それから、韓国につきましては、「韓国領域における作戦については、わが国が集団的自衛権の発動を可能とする体制になっても、また米韓軍が多少不利な形勢になっても、韓国の国民感情からすれば、自衛隊の戦闘部隊が韓国領域に派遣されることに、韓国が賛成するとは考えにくい。もちろん韓国が要請するならば、その派遣を躊躇すべきではあるまい。」というのがございます。  それから、ちょっときょう持ち忘れてきましたけれども、そのほかにも、例えば私の外務省の先輩で岡崎久彦氏という元タイの大使をやった人がおりますが、彼が「経済同友」の去年の十二月号で書いておりまして、そのときにも、台湾海峡で事が起こったときには、それは日本の国益にかかわるんだから、日本は集団的自衛権を行使してでも体制ができるように法改正を含め準備すべきであるというようなことを言っておられます。  あるいは、防衛大学の教授で西原正さんがおりますが、西原さんも、アメリカ側とのシンポジウムで発表した論文をまとめた本を出しておられます。最近日本語の翻訳が出ているのを見つけましたけれども、その中ではやはり中国の問題を非常に重視されておりまして、そういう中で、例えば台湾問題だとか南シナ海の問題、香港もチベットも入っておりましたが、そういう問題において中国が我々と協力することを確保することが大事だというトーンではあるんですが、しかし、そういうときに日米を中心としたアジア地域の戦力によって中国に対して、要するにビヘーブ・ユァセルフ、ちゃんといい子ちゃんにしていろよということに動くべきだという発言があります。  これはまさに、実はアメリカの前の国務省関係者でマニングという人がおりますけれども、そのマニングが言っていることと、それがいわゆるナイ・イニシアチブの過程で出てきているんですけれども、その発言と非常にぴったりと合うわけです。  例えば、アメリカが国連の枠外で北朝鮮への制裁を提起する事態になった場合、北朝鮮問題は米日同盟の課題となるというようなことを言っております。あるいは、米日同盟の再定義でかぎとなる要素は、ここはマニングは日本の憲法問題を知っているらしくて、日本の憲法上及び政治的限界のもとでより対等なパートナーシップにしていくことだと。紛争時の日本役割は何か、不測の事態に備えてどんな計画を持つか、どんな軍事協力が可能かについて明確に日本が理解することが同盟にとっての主要な資金源になっているというふうに言っております。  ですから、そういう脈絡の中でこの安保再定義の作業が進んできたことはほぼ間違いないところであろうと思うんです。もちろん、個々の問題を取り上げますと、先ほども触れました非核三原則、核の持ち込みでも同じでありまして、そんなことは私ら知らぬと政府は言うでしょうが、しかし明らかに情況証拠的に見ればそういう方向で動いてきたんだろうというふうに理解せざるを得ない。だから私は冒頭に、国民に対してすべて正直に話して、そういう状況に対して国民としてはどういう判断を持つかということを検討させろというふうに国会がイニシアチブをとっていただきたいと申し上げたわけですけれども、そういう状況があるわけです。  そういたしますと、やはりこの日米安保再定義というのは、こういう表現をすると怒られるかもしれませんが、決して地域の安定、平和を守るための受け身の体制ではなくて極めて攻撃的な性格が強い。特に北朝鮮については何をしてかすかわからないやつということで、よく北朝鮮とイラク、イランにつきましては、アメリカの文献ではザ・ローカントリーズ、ならず者国家というふうに書くわけでございまして、そういうような判断で来ているわけですね。そういうところがある。  それから、中国につきましても、私、もう基本的な判断はお二方と同じでありまして、別に中国を脅威と決めつけているわけではない。アメリカの今の政策は、中国政策だけではなくてほかのことについても国益は絶対守るということは非常にしっかりしているんだけれども、それをどういうふうにやっていくかというところにおいては非常に右往左往する傾向があるということは、私は中西先生がおっしゃったとおりだと思うんです。しかし、中西先生いろんなことをおっしゃいましたが、私自身は、やはり中国を見るアメリカの最大のポイントというのは、まさに二十一世紀になったら、もう二〇一〇年には日本をしのぐ経済大国、そして二〇三〇年にはアメリカと拮抗する経済超大国という目で見ている。したがって、非常にライバルとして台頭する可能性が大きいというところに最大のポイントを置いて見ていると思うんですね。  ですから、その中国にどういうふうに対応するかということであって、したがってそこにおいて私が非常に憂慮を持って見ざるを得ないのは、もうとにかく何が何でも仲よくいける方向を模索したいということではなくて、まさにコンテーンメント、封じ込めという要素が入るということ自体がもう既に中国からすれば非常に警戒するべきアメリカの政策と映らざるを得ない。そういうところに日米安保再定義によって日本がのめり込むという事態は、私はアジア太平洋地域における安全保障にとって何らプラス要因とはならないだろうというふうに思わざるを得ません。
  55. 中西輝政

    参考人(中西輝政君) 東アジアにおける経済協力の枠組みあるいは経済共同体といったものをどう考えるかということですが、私はやはり短期的には今進んでおりますAPECの傘のもとに存在が認められているEAEC、東アジア経済会議、これを将来の萌芽として育てていくということが非常に重要な選択だろうと思います。  御承知のとおり、EAEC構想はアメリカの強い反対があります。また、この問題については日本国内でも議論が分かれているのは存じております。ただ、やはり今後のアジア太平洋安全保障というようなことを考えるときに、特に経済のこういった協力の枠組みあるいは将来的な経済共同体構想という非常に重要な意義を持ったものだということを知る必要があるように思うんです。私は、やはり基本的に日米の関係を考え、アメリカの理解を得るアプローチによってこのEAEC構想の推進というものを考えていくべきだと、短期的にはそのように考えております。  しかし、本当にEAECが今言われているような構想で非常にはっきりとしたものとしてあり、短期的にこれとこれとこれを使命としているというふうなところにはまだ行っていないことも確かなわけであります。したがって、その中で、やはり今大阪APECでも出てきたようないわゆる経済成長の持続的な要因というものを考える、そういう場にすること。具体的には、資源エネルギーの問題あるいは環境の問題、食糧の問題、こういったいわゆるトランスナショナルなものを各国どの国も抱えている。しかし、みんなで解決しなければ解決のしようがない。また、こういった問題ではアジアの国は皆同じ立場に立ち得るわけですね。将来的な重要課題だということも明らかです。  議員がお触れになられた歴史的な関係との考察はどうかということなわけですが、私は、やはりアジアで平和的かつその地域全体の利益になるような役割日本が果たすということ自体が信頼を回復する非常に重要な道だというふうに考えております。将来的には、二〇〇五年あるいは二〇一〇年というスパンを考えてみますと、東アジアにこういったEAECというような今言われている構想から、さらにもっと緊密な経済、文化あるいは政治の意思疎通もできるような枠組みがなければ安全保障すら考えることはできないというふうに思っております。  今、浅井先生と志方先生お二人お触れになられましたが、やはり中国とアメリカの関係で考えますと、端的な言い方になって恐縮ですが、私は二〇一〇年にはもうアメリカの核の傘はきかないと我々は考えなきゃなりません、核抑止というものを前提にするならば。  中国核戦力近代化ということを考えてみても、先ほど、前の国防次官補のフォスターの訪中の際の話が出ましたが、サンフランシスコが灰になってもいいのか、こういう中国の議論があったというわけですが、将来の中国にどう対するかということを考えるときに、やはり東アジア諸国がより緊密な協力体制を整える。そして特に私はレジュメのV、日本の選択というところの②に書かせていただいたわけですが、先ほど触れられなかった日本の対ASEAN外交の重要性ということがここで、EAECあるいは東アジアのそういった緊密な共同体づくり、そういう長期構想の中で非常に重要な意味を持ってくるわけであります。中国をコンテーンするのではなくてエンゲージして、そうして安定的な地域の将来秩序を考えるとするならば、やはりアジアに緊密な協力の枠組みをつくっていかなければなりません。  そういう意味でも経済を超えて、今の東アジアの経済共同体構想、EAECだけでは必ずしもないと思います。いろんな構想がどんどん出てきて、どんどん議論されていいと思います。そういう意味で、あえてEAECというふうには書かずに、経済共同体づくりというふうに書かせていた、だきました。
  56. 清水澄子

    清水澄子君 ありがとうございました。
  57. 板垣正

    板垣正君 それぞれに有益なお話を承りましてありがとうございました。志方参考人のお話、大変明確に、わかりやすく基礎的にお話しをいただき、また将来の展望をお示しいただきました。  私は、日米安保体制は今後も日米間の基軸になっていくと思いますが、同時にやはり戦後五十年あるいは第二次大戦が終わって五十年、冷戦が終わった、これはまさに転換期の新しい対応を迫られておる。こういう流れの中で、我が国としてはやはり今まで言われてきた、ここまで繁栄は築いてきましたが、いわゆる一国平和主義と言われ、一国繁栄主義と言われた。実質的には日米安保体制というか、アメリカの庇護のもとに余り国際問題等に煩わされずに経済的な繁栄を築くことができたことは否定できない。しかし、これだけ大きな転換期になりますと、やはり日本の転換は、求められるのはある意味の自立性といいますか、そこにまさに日米安保体制の新しい装いというか、再定義という問題も出てきているんじゃないでしょうか。  そういう意味では、今回の防衛大綱というようなものもそういう角度からも活動の幅を広げていくとかいう、これいろんな問題点ただしたいこともございますけれども、志方参考人に伺いたいのは、やはりそうした憲法の問題とか、これは憲法も五十年近いわけですね、五十年間憲法の理念というものは変わらざるものがあるにしても、現実にいろんな制約が出てきていることは事実です。やはり一国平和主義を脱皮していく、言うならばアメリカとの関係、世界との関係でも開かれた積極的な平和づくり、平和の環境をつくっていかなければならない。  そういう意味で、今、論議が中途半端になっております集団自衛権の問題とか、あるいは現にゴランに派遣されているPKOの問題も、あれは三年たったら見直そうと言われながら、これは政治の怠慢と言われる面があるので、その点は御見識を承りたいんですけれども、やはり現実に行く人たちが武器の使用一つとっても非常な不安感、緊迫感を持って行かざるを得ない。ほかの国の平和維持活動の人たちと肩を並べた形での活動に制約がある。もとをただせば集団自衛権だ、もとを言えば憲法だと。どうもその辺に何か納得のできない問題点というのがあります。その辺についての御見解を承りたいと思います。  それから、浅井参考人のお話は、率直に言って、私どもから伺いますと、安保体制というのはまた戦争につながるんだというかつて聞いた話をこれまた装いを新たにして伺っているような気がしました。  それで一つだけ聞きたいと思うのは、日本とアメリカが台湾の独立を支援している、これがあるから中国はこれだけ緊迫した状態になるんです、武力行使もあり得るよ、こう明確におっしゃったわけですけれども、日本は日中条約もありますし、現にそういう具体的な社会勢力、具体的な政治勢力あるいは政治の姿勢、そういう点でも具体的に台湾の独立を支援しているというものがどういう具体的な、何がしかの論文にある、なしというような話じゃないと思うんですね、そこまでおっしゃる以上は。だから、その辺をひとつ明確にしていただきたいと思う。  私どもは、さっきおっしゃったように、中国をいかにソフトランディングさせるかという問題が核心にあるというような、きょう非常にいいポイントをついていただいたと、志方参考人ですね。そういう意味からも、真剣に我々も考え、対応していくという意味で、この問題というものは私どもも真剣に対処していく過程の中で、何かそういう動きがあるがごとくにおっしゃいましたので、そこを承りたい。  それから、中西参考人に承りたいのは、文化の問題に触れられたと思うんですね。これは非常に大事な問題だと思っております。つまり、長期的に見た場合のアジアにおけるまさに共存の姿、こういう中にアジア文明といいますか、東洋文明といいますか、今アジアとヨーロッパの中で人権問題一つめぐっても対立がありますね。価値観の対立がありますね。日本の場合は東洋でありかつヨーロッパ文明で、近代文明で来ていますから、それは人権とか自由とか、こういう価値観といろものを身につけつつありますけれども、やはり何といっても日本はアジアの国である。そういう滞れの中で、いわゆる文明の対立とか衝突とか言もれますけれども、アジアの安定を考えていく場合に、日本の立場において何か果たし得る役割が期待できるんじゃないかという気持ちもあるわけでございます。  それともう一つ、台湾の問題では、台湾で李総統の、いわゆる中国開闢以来ああいう形で開かれた選挙を行って、曲がりなりにも台湾というああいう地域というか、ほぼ実質的に国の形をとつておるわけですけれども、そういう最高の総統を選挙で選ぶというのは今までの中国にもなかったし、またそういう姿によって国際社会からも平和民主主義国家という一つの位置づけというものが出てくる。  そういう李総統が自分たちの目標、自分たちの精神のよって立つのは新中原の創造であるということを言いますね、新しい中原。中原というのは中国全体のことを含むわけでしょう。その辺にも一つの意気込みというか目指すもの、それから江沢民のポスト鄧小平、この辺の中国あり方というのは物すごいバイタリティーを持ちながら物すごい混乱というのも予想される。そういう中における新中原の自立を目指そうという、これはひとり台湾の声のみならず、本当に中国の声として、言うなれば新しき意味における、孫文の三民主義のその延長における、中国一つの将来の広い意味における、あるいはアジアにおける一つの共感できる価値観として見出し得る、そうしたものが横たわっているのじゃないかという気がいたしますけれども、それについての御教示を願いたいと思います。  以上です。
  58. 志方俊之

    参考人(志方俊之君) まず、一国平和主義とか、先ほどの防衛の自立性という問題でございますが、今この三人の話から出ましたように、二〇一〇年とか二〇二〇年というようなときを考えますと、アジアにおいても多国間の集団安全保障の枠組みというのは相当機能するようになってくると思います。  それで、今までの集団防衛と違いまして、集団安全保障というのは、一つの国家群の中から国際的なルールに反するような国が出てきた場合にみんなで相談をしてそれを思いとどまらせよう、それでもやる場合にはみんなで経済制裁をしよう、そして思いとどまらせよう、それでもだめな場合にはある程度軍事的な行動によってそういうものをなくさせよう、これが集団安全保障の枠組みであります。それに向かって今アジア太平洋地域は進んでいるわけです。  そういうようなときに、どこかの国がそういち国際的ルールを無視したような行動に出たような場合に、我が国としては、そういうことがルール違反であるというときには手を挙げる。経済制裁をしようというときにも手を挙げる。しかし、それも効果がなくて軍事的手段によって制裁をしよう、いわゆる封鎖をしようとか、あるいは湾岸戦争のような多国間のもの、いずれこういうものも国連安全保障理事会の決議に裏づけされたような行動であるとは思いますけれども国連軍そのものではない。こういうようなことが十年十五年先には起こり得ることを考えておかなければならない。  そのときに、日本はルール違反というときにも手を挙げ、制裁するということにも手を挙げ、いざ軍事的な行動をとれというときになると憲法を持ってきてそれは出せないというのでは、本当に私たち日本はアジアの一員になれるだろうかという気がいたします。これは集団的自衛権の問題にも絡むわけであります。そして、その前にある憲法の問題に絡むわけであります。  私は憲法学者じゃありませんが、憲法が制定されて半世紀にも及ぶ間、日本の優秀な憲法学者が口角泡を飛ばして議論しても、自衛隊が合憲か合憲でないかなどという議論がいまだに残っているということを考えますと、やはりあの憲法はなかなか理解しにくいんだと思うんです。やはり、憲法で示され仁義務教育を終えた人間なら、その憲法を読んだら自衛隊が合憲か合憲でないかぐらいは十人のうち八人ぐらいが同じ意見になるような、そういう文章の表現というものに変える必要があると思います。  憲法の平和主義というのは、私は価値観としていいと思います。これは持っていく必要があると思います。しかしながら、集団的自衛権のような場合、対話はする、ASEANリージョナルフォーラムというのは対話の場でありますけれども、だんだんとこれは成長していくでありましょうし、また別のそういう集団安全保障の機構も出てくるかもしれません。そういうときに、対話はする、お金は出すけれども、汗もかくけれども、血が流れるようなリスクになるとうちの子供たちは出さない、こういうようなことで日本が本当にアジアの一員としてやっていけるだろうかということが一つあります。したがって、憲法についてはもっとわかりやすい表現、エクスプレッションを変えていただきたいというような気がします。  それから、集団的自衛権についても、集団的安保というものが出てきた場合にはやはりけじめをつけないと、持っているけれども使えないというんだったら、ないならないでASEANリージョナルフォーラムの対話もやめた方がいいのではないか、うちはそういうことは一切やらないと言った方がまだいいと思います。  それから、ゴラン高原でも今それのミニ的なことが起こっておるわけでありますが、先生方のお孫さんに当たるような十八か十九の隊員が現地に行って、これ撃っていいんだろうか撃っていけないんだろうかと思ってみんな顔を見合わせながらどうしようかというような、そういう判断を自分たちの孫にやらせるような政治はよくないと思います。やはりだめなものはだめ、いいものはいいとはっきり言って出してやってほしいと思います。  それからもう一つ、アジアの信頼を得るところでございますが、アジアを回っていろいろな相手の軍人と話しますと、日本にある、戦車を千二百台持っているあの集団は何だと聞きます。あれは陸軍ではないのかと言うわけですね。しかし、日本から行った総理大臣も大臣も防衛庁長官も、それから統幕議長も、あれは陸軍ではありません。じゃ、何ですか。あれは陸上自衛隊ですと。どこが違うんですかと言うと、字が違いますというふうなことを言って、そういうことを四十年間も言い続ける国民がどうしてアジアから信頼されるでありましょうか。  軍隊を持たないんなら持たないようにしていただきたい。それから、自衛隊が軍隊なら軍隊と言っていただきたい。私は三十五年間自衛隊におりましたけれども、軍隊と自衛隊との区別がほとんどつきませんでした。つくとすれば、三つ四つの点で自衛隊は軍隊でないということが言えます。  一つは、叙勲が非常に低いということですね。これは軍隊ならもっと高いものがいただけるはずです。それから、恩給というものがありませんで、年金であります。普通の公務員と同じにあります。それから、今申しましたように、指揮官が号令してはいけない。ゴラン高原に行った指揮官は、撃てとか撃ち方やめとかいう号令をかけてはいけない。これはやはり軍隊ではありません。  そういうことで軍隊ではないと言うんなら言えますけれども、やはりこの千二百両の戦車、三百機のF15、イージス艦を持ち、こういう陸海空自衛隊はどう見たって外国から見れば軍隊であります。中に勤めている者も、半分以上は軍隊だと思って勤めていると思うんですね。そういうものを四十年間軍隊ではないと言っている国民が信じられるはずがありません。  特に、核装備はそうですね。近々打ち出すJIロケットというのは固体燃料ですから、これはすぐ大陸間弾道弾に使える技術です。そして、日本の核技術というものは非常に高度であります、原子力発電をする技術の方が原子爆弾をつくる技術より高度なわけですから。この二つの能力を持って、グローバルなコミュニケーションをする能力もある国がいつの日か原爆みたいなものを持って、そしてこれは原爆ではありません、これは何ですかと言ったら、これは自衛用の特殊爆弾ですというふうなことを言い出すのではないかというような疑惑の念を私は日本に持つと思います。  したがいまして、戦後もう五十年もたったわけですから、ここへ来て私は高らかに、我が国は軍隊を持つ、しかしこれを日本の国益追求、先ほど言いました国益追求のためにこれを使用することはない、しかし自分の国に攻めてきた場合にはこれは断固として使うんだということを憲法にちゃんと書いていただきたい。憲法の中に自衛隊という言葉は出ていません。これは自衛隊の方が後からできたからでありますが、できた場合には憲法を改正して自衛隊ということを入れるべきだったんですが、ドイツの基本法のようには、いっていません。  したがって、憲法の中には自衛隊をどうコントロールするかということが書いてありません。シビリアンコントロールというのは、私は一番重要なことだと思います。ですから、やはり憲法を変えて、自衛隊というものを持ち、これは軍隊である、そしてこれはこういうぐあいにコントロールするんだということをちゃんと明文に書いてもらいたい。  それから、きつき言いましたように、自分の孫のような子供に政治的な判断をさせる、そういうようなことをいつまでもさせないでもらいたい。そういうことは全くシビリアンコントロールに反します。おまえ、勝手に撃てというのはシビリアンコントロール違反であります。それを何十年間もやっているのは私はよくないと。ぜひお願いいたします。
  59. 浅井基文

    参考人(浅井基文君) 結論の部分は志方先生と正反対になるんですが、私は途中までの経緯は非常にそうだと思うんです。  先ほど板垣先生が、あたかも安保再定義は戦争につながるというかつて聞いたようなことをまた言っておると御指摘になりましたけれども、国際的に見れば、日米安保条約はまさに戦争の仕組みであるということは受けとめられているわけです。そこにおきまして、先ほども私が言いましたように、非核三原則と核持ち込み、事前協議と日本からの米軍の戦闘作戦行動、それから日米防衛協力指針による他の追随を許さない日米海軍協力体制と、こういうふうになっているわけでございまして、これはほかの国々からすればまさに戦争につながる仕組みであるということは間違いない。そういう意味では、板垣先生が昔聞いたような話だとおっしゃることは客観的な事実として私は正しいことだろうと思っております。  どちらにしても、私が申し上げたいことは、今、志方先生もるるおっしゃったように、とにかく正直ではない、その議論の進め方が。私たちは日米安保再定義はアジアの平和と安定のためだというふうに言うかもしれない。しかし肝心なことは、近隣諸国はそう受けとめていない。それから、私が先ほど御紹介した幾つかの文献によってもそういうふうにはみんな考えていないわけですね。そこを皆さんはどういうふうに認識されておられるのか、むしろ私は非常に知りたいと思います。ですから、私は、日米安保再定義は戦争につながる仕組みだというのはまさにそのとおりであって、その点を私としては考え方を改める必要性というのが全然感じられないということであります。  それから、日米が台独支援だから中国の武力行使もあり得る、そして一体だれが支援しているというのかということをはっきりさせろという御指摘でございました。  これは、私は以前先ほども申しましたように中国課長を務めていたこともございまして、かなり確実にそういう経験をしております。ですから、その点は、今から十年前と今では違うとおっしゃるかもしれませんけれども、私は最近もある雑誌を見ましたけれども、そういう議論というのはむしろもっと公然と行われるようになっているんではないかということをむしろ心配しております。  それから、最後に中国をソフトランディングさせることにポイントがあるという御発言でございますけれども、私は決して皮肉ではなくて、過去の十年ないし十五年間を見てきた場合に、例えば日本の政治、その内閣の変遷と中国におけるその体制とを比べたときに、中国の体制が不安定であるというふうにお考えになるとしたら、それは日本との比較においてはどうなのかということをちょっとお考えいただいた方がいいのではないかと思います。  私は、鄧小平体制、ポスト鄧小平で非常に中国が不安定になるという見解が日本中国学者を含めて、あるいはアメリカの中国学者を含めて非常に強いわけでございますけれども、ポスト鄧小平の体制はもう既に完了したということは中国側自身が公式に宣言していることでありまして、私も鄧小平はもう既に実質的に何らの政治的権力を持っていない、持ちようがない状況に入っていると、物理的、政治的かもしれませんが。それで、そこにおいて中国の大衆、国民は、もう明確に今や鄧小平の指揮、支配のもとに中国が動いているんではないということはもう十分に理解して行動していると思います。  もちろん、私は中国が不安定にならないと言っているのではない。しかし、それは決して鄧小平が亡くなるということによって引き起こされるとか、そういう問題ではなくて、むしろ逆に高度成長を続けていてそこでいろんなひずみが出ております。そういうことが再び天安門事件のような物すごいインフレを招いて収拾がつかない、そしてそれに対して非常に社会不安が芽生える、そして中国における中国共産党の特権腐敗化現象が非常に際立ってくるとか、そういういろんな条件が重なった場合に、それが再び第二の天安門事件を引き起こす可能性はあると、そういう点はちゃんと私たちは見ておかなければいけないと思うんです。  そういう意味では、何も一人の指導者の変遷によって中国が変わるということではなくて、むしろどの国にもあるように、そういうような状況が起これば日本だって政治はたまらないわけですね。今の住専問題で現に日本の政治は、日本の社会状態はとんでもないことになろうとしているわけですから、そういう点では私は何も中国だけを特記してソフトランディング云々ということを議論する状況ではないだろうというふうに思っております。
  60. 中西輝政

    参考人(中西輝政君) アジアにおける文明の問題ということであります。これは大変大きなテーマでありますが、私は個人的にこの問題はやつばり二十一世紀、非常に大きな日本を取り巻く情勢の焦点になってくる可能性があると見ております。  近年、日本において、私が個人的に進めている研究にもそれは非常によく反映しておりますが、やはりアジアに対する日本人の認識がどうも歴史的、根本的に変わってきているところがある。特に若い世代の中にそういう傾向があるということに関心を持っていろんな調査を行っております。  いろんな世論調査を見ても、あるいは私自身のいろんな面接、分析調査をしても、若い世代の日本人にいわゆる日本はアジアかというような言い方をすると、これはもう簡単に、アジアに属している、地理的にそうだというような答えです。今後、日本は外交関係として、例えば各メディアがやっている外交関係としていずれを重視すべきか、アジアかアメリカか、アジアかあるいは欧米か、こういう設定をいたしましても、若い世代だとこれはもうほとんど七対三でアジア・シフトが非常にはっきりしている。あるいは、年配層にとっても六対三というような比率で非常にはっきりしている。これはもう地域差がほとんどない、あるいは職業、階層差がないほどの明確な変化であります。  水面下で非常に大きな地殻的変動が起こっているというような形容をすると大き過ぎるかもしれませんが、またこのアジアヘの関心の増加というのは単に経済の問題、経済の関心だけにすぎないんだという言い方もできるかと思いますけれども、しかし日本において今起こっていることの方が日本がアジアでどういう役割を果たすのかという議論よりもむしろ私には関心があるわけです。  そもそもアジアの文明とは何なのかという議論から百年一日のようにやるわけですけれども、今確かに西と東というような意識が一方であるわけですが、同時に私は、レジュメの一番目に書かせていただきましたが、アジアにおける文明の問題というのは、近代化ということは西欧化でないという、近代化バーサス西欧化というふうなこと身申しました。つまり、アジアにおける近代化というものが一層西欧的近代化よりもはるかに普遍性のある近代化ではないかというような議論。あるいは民主主義というものは何なのか。民主主義というのは基本的に同意による統治ですね、ガバメント・バィ・コンセント。それから権力を抑制すること、権力の行使を抑制する、この二つである。議会を設けてそこで議論する、あるいは特殊な選挙制度を用いる、そういうことは民主主義とは関係ないというような議論がやはり非常に広く出てきております。  そういう意味では、アジアにおいても民主主義というのは伝統的にあったと。十八世紀ぐらいまで歴史を見てみますと、欧米がアジアにやってくる前でありますから、これはやはりはっきり当時の西欧で発達していたような民主主義の概念、それとは違いますが、基本的な理念として違わないものがそこにあったということは、近年かなりの関心を呼び、また学者の間のある種のコンセンサスも生まれつつあるという状況であります。  しかし、日本の現状を考えてみますと、日本がこういった問題で果たし得る役割といったら、二つの論点がいつも出てくるわけですね。一つは、西欧とアジアのかけ橋になる、橋渡しなんだという表現と、もう一つは、日本が資金的な援助をして文化交流のイニシアチブを考えるんだということであります。これはいずれも当面の施策としては非常に重要な問題で、私も特に後者の方、多国間の協力によって、日本中心になりアジアの文化研究センターといったものを考える、あるいはアジアの文化的な復興というようなものに日本人がお金を注ぎ込んでいく、こういうことについては私は日本国民から恐らく税金をむだに使うというような批判は一言も起こらないだろう。先ほどの世論調査の例から見ても、日本社会の大きな変化、今水面下で起こっている大きな変化を考えてみてもそうだと思います。  しかし、残念ながら、委員がおっしゃられました、日本はアジアであると同時に西欧でもあるという表現でしたが、私もそのとおりだとは思うんです。ただ、我々は西欧を知っているのかというと、私も欧米諸国で十年近く過ごしましたが、日本の西欧化というのは必ずしも十分なものではない。しかし、もっと深刻なのはアジアを知らないということではないかと思うんです。先はどのような世論調査をすれば非常にはっきりしたアジア・シフトがあるのに、アジアというものを現実的にはよく知っていない。これはマスコミ各社でも、各支局の配置から見ましても専門家の専門分野から見ましても、全く欧米に偏重したニュースを流しているわけです。イタリアの政変が起こって内閣が動揺しているというようなニュースよりも、タイの今度の選挙の結果がどうなるかということの方がはるかに重要なニュースであるにもかかわらず、日本の新聞の外報面を見ますとヨーロッパの記事ばかりが躍っているという現状であります。  また、もっと身近なところでいいますと、大学に毎年入ってくる新入生が、例えば第一外国語、第二外国語として選択したい言語というのは圧倒的にアジア言語であります。我が大学ではその体制は非常に未整備でありますが、整備がかなり進んでいると思われる首都圏の某有名私立大学でも、やはり三分の二の学生がアジア言語を希望するという現状であります。しかるに教員は全くヨーロッパ言語の専門家で占められておりまして、全然対応ができない。  そこで私たちは、いやドイツ語も大切なんだ、一度ドイツ語をやってからインドネシア語をやればどうでしようというようなことを立場上言わされるわけです。じくじたるものがあるわけですけれども、日本のアジア認識、アジアにおける日本というものを考えるときに、まずそういった足腰のところに全く手がつけられていないという現状、これはやはり速やかに活力を持って何かを始めていただく。これはもうやっぱり政治の役割ではないかというふうに思っております。
  61. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) 私からお願い申し上げますが、四時半に終わることになっておりまするので、質問、答弁ともにできるだけ簡潔にお願い申し上げます。
  62. 永野茂門

    永野茂門君 簡単に志方参考人とそれから中西参考人に一問ずつお伺いいたします。  志方参考人は先ほど中国軍事力の使用の状況について例を挙げてお話しになりましたが、御承知のように最近中国近代化を非常に進めております。軍事力拡大と言うのは差し控えますけれども、少なくも軍事力のオーバーシーへのプロジェクション・ケーパビリティーといいますか、投射能力を拡大しています。  ところが、中国といろいろと話し合っている人たちの中に、多くの人が、これは制服自衛官を含めて、中国の現代の軍事力近代化あるいは海空軍力の増強というものは、余りにもおくれていた中国軍事力を列国並みに引き上げつつあるのだ、それが主目的である。さらに、国外向けというよりは、なぜか知らないけれども国内向けである、こういうような評価をする人が多い。  軍事力というのは、今悪用されることはないから安全であるというのは国防あるいは国の安全保障を考える者にとっては大変な間違いを犯すのであって、五年後、十年後、十五年後にどうなるんだろうかと、今の傾向が、あるいは成り行きが。それによって判断する必要があるわけでありますが、志方参考人は今のような物の考え方について賛成をしておりますか、あるいは不賛成ですか。
  63. 志方俊之

    参考人(志方俊之君) 現在の断面をぽんと切れば、二二%の国防費の増加とか、こういうものもインフレ率を考えたりすれば確かに恐れおののくというようなものではないとは思います。また、確かに中国の軍備は非常に古いものが多くて、近代化のために必要だと思います。ただ、十五年とか二十年という先のことを考えますと、だからといって中国が軍事大国にならないであろうと見るのは余りにも楽観的過ぎるのではないか。  例えば、中国の石油消費量は毎年一〇%程度ずつふえていくわけであります。九二年からは既にもう輸入国になりました。そして十年、十五年後には供給量はもう二、三%もふえないわけです。このギャップをどうやって埋めるかとなりますと、これはやはり中東からの輸入以外にはありません。中国の石油消費量の増加というのを見ていただければすぐわかります。この需要をどうやって賄うかとなりますと、これはやはり輸入しかない。そしてそれを供給できるのはもう中東しかありません。インドネシアもできるかもしれませんが、それは量的には少ない。そうなりますと、中国へ中東からひっきりなしにタンカーが走っていくという状態が恐らく二〇一〇年から一五年の状態だと思います。恐らく石油消費量は日本をはるかに超えると思います。現在五位ぐらいでございます。  そうしますと、そのシーレーンというものを、じゃどういう枠組みで守っていくだろうか。我が国の場合は不思議と第七艦隊に依存するということになっておるのでありますが、私は中国人民は第七艦隊に自分の国のシーレーンの防衛を頼むことはないと思います。そうしますと、全部自分で守るということはないと思いますけれども、相当な海軍力というものを中国独自で建設せざるを得ない。南沙群島、マラッカ海峡も中国の軍艦がどんどん通る状態にならざるを得ないと思います。そして、それが一たびインド洋に出ればインドの海軍も黙ってはいないと思うんです。  そういうことを考えますと、中国の石油消費の伸び、それから食糧についても、現在四億五千万トンぐらいでしょうか、いろんな見方がありますけれども、やっぱり二〇一〇年から二〇年になりますと五千万トンぐらいの食糧を輸入しなければならない。この中国の四千万トン、五千万トンという食糧を供給できる国というのはもうほとんどありません。今現在世界じゅうで二億三千万トンぐらい穀物が動いておりますが、そのうちの四分の一を中国が全部食べるわけであります。そういう食糧とかエネルギーの供給ということを考えますと、中国はほかの国と共同で自分の国のそういうものを守るというような枠組みにちゃんとソフトランディングしてくれればいいんですけれども、やはり自分の国は自分で守るという、今原爆を持っているのもそういう理屈でありますが、そういう理屈をずっと延長していきますと、中国は軍事大国になる可能性を秘めているということであります用意思があるかどうかは別であります。そういう意味では一種の不安定要素でありますので、私たちはそれを注意しなければいかぬだろう。  それからもう一つつけ加えますと、例の台湾問題で演習をやりました。近々また演習をやると言いますけれども、台湾に一番近いのは日本の与那国島でありまして、八十キロしかありません、台湾から。台湾と中国本土との間は百四十キロもあるわけです。ですから、台湾に一番近いのは日本だと思っていただきたいと思います。その日本の領土のすぐそばで先般は大軍事演習をされたわけです。ですから、都心と高尾山のあたりとの距離だと思います。そのぐらいのところで大演習をされて黙っている日本も私はおかしいと思うのですが、やはりこれは少しやめてくれと私は言ってもいいと思うのです。  アメリカは、きのうかきょうか、ウオーニングを出しておりますね。中国がそういうような冒険をしてはならない、軍事的な手段を見せびらかしてやってはいけないということを言っております。私は、そういうこととは別に、みずからの領土のすぐそばでやられておる、ですから中国が台湾に対しては、さっき言いました主権のことに対しては非常に冒険主義に出るという、ここをやはりこらえてもらうように日本は言うべきだと思います。日本の領土の近くだし、日本の船がたくさんそこを通っているし、台湾にも中国本土にもたくさんの日本人がいるわけですから、そこで武力衝突が起こるということは何としても避けてもらいたいというようなことぐらいは、私は国家として言ってよろしいと思います。  それから、台湾に対しては、はた迷惑にならぬように、そういう独立路線を、人の国のものを利用しながら、てこを利用しながら前へ進むようなことはやめて、独自の力でしっかりとした基盤をつくって、中国本土と話し合いの上で最終的な決着をつけられる、解決をつけられるようにしていただきたい。  だから、台湾には忍耐を、中国には武力に訴えるような冒険はやめるということを日本はどんどん言っていくべきだと思います。  以上でございます。
  64. 永野茂門

    永野茂門君 ありがとうございました。  次は、中西先生、お願いします。  中西先生、先ほど来国の対中政策として、エンゲージメントポリシーとコンテーンメントポリシーとを上手に両用しておる、こういうお話でありましたけれども、その中のコンテーンメントポリシーの方でございます。私は、コンテーンメントポリシーというのはアメリカだけがいろいろ苦労しても成果は上がらないんであって、対ソ・コンテーンメント、封じ込め政策をやったように世界の主要な国が協力をしてやらなきゃいけない、こう思いますけれども、対中封じ込めということになりますと、日本はこれは大変に従順な国ですから、そういう表現をするといけないかもしれませんけれども、とにかくアメリカと余り違った政策はとらないだろうと思いますけれども、アジア周辺の諸国、ロシアあるいはヨーロッパはそれぞれ余り中国に対する封じ込め政策には協調しないんじゃないかという感じがするんです。それについてどういうような御見解をお持ちでしょうか、お伺いします。
  65. 中西輝政

    参考人(中西輝政君) アメリカの対中封じ込め的なニュアンスというのは、私が先ほど申し上げたとおりでございますが、近年、エンゲージメントとコンテーンメント、その中間をうまくとってどちらにでも傾けるようにしようと、フレキシブルな対中戦略をとっているというふうに見ます。ただ、この政策は何かの突発的なことあるいは計算違いによってどっちかに傾く可能性が非常に高いわけです。  私は、台湾の問題もさることながら、やはりことしの後半から香港の問題で、香港の返還が一年を切ってくる、つまり最後の土壇場に来るわけですが、恐らくイギリスにかわってアメリカが香港の将来の問題で中国と渡り合う、前面に出てくるんじゃないか、そういう可能性がなくはないというふうに思っております。その意味で、米中の摩擦はさらにことしから来年にかけて香港も合流してきてふえるというか、熱気を帯びる方向にどちらかといえば行くと思っております。  そこで、やっぱりアメリカが一番気にしているのは中ロの接近の可能性なわけで、ロシアの政治情勢が非常にアメリカの戦略専門家にとって関心が深いのは、一つにはロシア中国と結ぶという可能性でありまして、中ロ同盟論というのは欧米の戦略問題に関心を持つ人たちの一種の悪夢として今あるわけです。先ほどどなたかがお触れになられましたが、英国のエコノミストという雑誌は、繰り返してこの中ロ同盟をつくり出させてはならない、そして長期的には中ロは必ず対立関係になるんだから、そうなれば強大化した中国が非常に御しやすくなる、ロシアを引きつけておくことが西側、ザ・ウエストの長期的戦略として極めて重要だ、こういう議論を繰り返して行っていますが、果たしてそれが可能かどうかということは、やっぱりアメリカの対中政策の出方によって決まるわけです。  非常に性急にぐっと出ると、今のロシアの状況から考えましても、やっぱりロシアが中ロ接近的なそういうジェスチャーないしはスタンスを徐々に深めていくということは十分に考えられる。ロシアにとってはやはり中国はいつでも組める相手にしておきたい。アメリカがそういうふうに動いたからといってすぐには、むしろロシアの国益を増進させる上で好機来たれりというふうにロシアは考える。東南アジア諸国にとっても、アメリカが現在以上の封じ込め的なスタンスに入ることには非常に懸念を持っていると思います。東南アジア諸国はやはり御承知の南沙諸島問題もあるし、もうちょっと大きな意味で中国の脅威ということは現実に考えているわけです。  しかし、東南アジアにとっての中国の脅威というのはいつもあったわけです。オールウエーズ・ゼアと言いますが、やっぱりこれは強大な文化的な存在、あるいは国内に華僑糸の市民がいる、経済が握られている、あるいは毛沢東時代の革命の輸出、こういう悪夢があったわけで、そういうものも全部とらえた上で中国の脅威ということを言っているわけで、これは冷戦が終わってすぐに中国の脅威という話が出てきたわけでは必ずしもない。東南アジアにとっては常にあったものが中国の脅威であり、それが今いろんな形で議論されている。日本あるいは北東アジアにおいてはちょっと違う文脈があることをいつも知っておくことが大切だと思います。  ただ、私は、中国が軍事大国となるかということを重ね合わせて考えてみますと、歴史から国際関係を考える私の立場としては、やはりなると考えるのがノーマルだというふうに思います。ならない可能性はもちろん排除できませんが、なると考えるのが私の場合はノーマルだというふうに感じられます。  しかし、今の中国で起こっている変化は四千年の歴史の中でも第一級の大きな変化だろう。つまり、いわゆる中華帝国、帝国としての中国というものが二十世紀に崩壊し、ネーションビルディングに一世紀かかって、もたもたしながら間違ったイデオロギーに染まって文革のような大変悲惨た経験をした。そして今の改革、開放ということでネーションステートという格好に初めてなろうとしている。そういう意味では中国も初めて普通の国になろうとしていると、こういう言い方がいいかもしれません。  そこで考えるのは、そういう中国を我々はマネージできるのかと。軍事大国志向が決してなぐはない中国をどうやってマネージできるか。それは取り込むという意味のいろんな可能性はありますが、私は究極的に決してアジアにおいてそういう構図が出てきてもらっては困ると、最初に申し上げたとおりで、冷戦の構造が終わっても、非常に露骨な対峙的な勢力均衡の構図というものが浮上することは私はアジアの安全保障にとって最大の脅威だと思っております。そういった意味で、やはり地域協力の選択肢というのが非常に日本にとって重要で、日米の同盟関係というものは現在はかなりリライアブルであるけれども、しかし二十年後の日米安保体制というものを確固としたものとして構想できるような人はほとんどいないんじゃないか、この部屋にもいないんじゃないかと私は思っております。  しかし、その場合にやはりロシアの存在あるいは相対的には現在よりは相当やっぱり引いていっているアメリカにしてもアジアには大きな利益はあるわけですね。いわゆるワン・オブ・ゼムに近つきつつあるアメリカ、それに加えてASEAN10が、ASEAN、東南アジア諸国がASEAN10になり、非常に緊密な政治的な協力を進めていこうとしている。この流れは南から中国をバランスするという歴史上かつて一度もなかった、そういう地政学的構図が生まれるわけです。  そういう意味で、中国を封じ込めるという今の非常に短いスパンの話ではなくて、もっと大きなスパンで考えてみても我々は強大化する中国をもう到底マネージできない、だからということになると大変私は、いわゆる予防戦争、プリベンティブウオーみたいな発想になってしまって、じゃ今のうちにという発想、これはアメリカ人の一部には確かにあると思うんです。これは浅井先生がおっしゃられたところは近年のアメリカでは見聞きするところではありますが、しかしそれはアメリカの全体ではない。そしてまた、私が言うこういう新しい構図も浮上してきている。  やっぱりいろんなオプションをオープンにしておくということが冷戦後の過渡期の時代の非常に重要な安全保障を考える姿勢ではないかというふうに私は思っております。早急に結論を出さないという情勢と密着した強靱な姿勢みたいなものが非常に大事かなということであります。
  66. 永野茂門

    永野茂門君 ありがとうございました。終わります。
  67. 上田耕一郎

    上田耕一郎君 きょうは一二人の参考人の方々からそれぞれ違ったユニークな、しかも明快な御意見をお伺いしまして、大変参考になっておりますが、時間も余りありませんので、お一方一問ずつちょっとお伺いさせていただきます。  志方参考人の御意見は、日米安保体制の再定義、これがアジアの安定、平和に役立つというお考えなんですけれども、私ども根本的に反対の立場なんですけれども、やっぱり平和を侵すのは民族自決権を侵害する覇権主義だと思うんですね。  二十世紀を考えてみますと、二十世紀の前半は、日本帝国主義、覇権主義の中国侵略と太平洋戦争、これが二千万人以上の被害をアジアの諸国民に与えた最大の問題だった。戦後は、朝鮮戦争はあったけれども、あれは内戦が国際戦争に発展したんで、国家間の戦争としてはアメリカ帝国主義、アメリカ覇権主義のベトナム侵略が最大のアジアの平和の破壊だったと思うんですね。  日米安保体制というのは、その最大の覇権主義のアメリカと従属的覇権主義の日本とが一緒になった軍事同盟なんで、これはもう覇権主義の二重化みたいなもので大変危険だと思うんですね。  多国籍企業のアジア進出、日本多国籍企業の進出に対してもこれを擁護しようと、自衛隊も出ていきたい、進出した国の反動政権を支援する等々で、これが僕はアジアの不安定、さまざまな問題の一番の根源だと思うんです。  そこで、端的にお伺いしますが、日本の対中国戦、日中戦争、太平洋戦争並びにアメリカのベトナム戦争、これは侵略戦争だったと志方参考人はお考えになるのか、それともそうでないとお考えになるのか、これを端的にお伺いしたいと思います。  それから、浅井参考人には南北問題についてお伺いしたいんです。  ソ連の崩壊で東西対決が一応なくなると、国際政治、国際経済構造の中でやっぱり南北問題、これは構造的に極めて大きな問題としてあるわけですね。  私、最近、スーザン・ジョージの「債務ブーメラン」という本を読んで大変おもしろかったんですが、巨額の債務を第三世界の国々が受けて、そこへ世界銀行、IMFが物すごい厳しい債務取り立て政策を押しつけて、南の国々の債務問題、南北問題の深刻化というのは非常に激しい、それがブーメランのように北に戻ってくるというんですね。北の国々のさまざまな問題もずらっと集団調査で書いているんですけれども、最後の章は、武力紛争、戦争もこの債務問題がかなり根源になっている、イラクのクウェート侵略もイラクのクウェートに対する債務がやっぱり根源にあった等々ずっと分析している。  アジアも、経済発展はなかなかのものだけれども、やはりこの南北問題の深刻化というのは依然としてあります。インドを見てもバングラデシュを見ても。そうすると、日本が何ができるかというと、日本がやっぱり安保条約をなくして、私どもは非同盟諸国会議に参加してという主張をしているんですけれども、アジアの国として、またこれだけの経済力、技術力を持った日本として、非同盟諸国会議、今百十三カ国参加していますが、そこに参加して南北問題の解決に日本貢献するというのは非常に大きなアジアの安定、経済発展に役立つのではないかと思いますので、浅井参考人にその南北問題についての御意見をお伺いしたいと思います。  それから、中西参考人には、安保条約の問題についてお伺いしたいんですが、短期的には当面維持したい、二〇二〇年ごろにはもう前提がかなり変わっておられるだろうと言われました。私は、短期的、中期的にも安保解消の段階に今日本が入っているんじゃないかというのを、十二月に沖縄に一週間調査に行きましてつくづく感じたんです。  簡単に言いますけれども、十月二十一日の県民集会の実行委員長は自民党の県会議長なんですね。そのぐらい島ぐるみなんです。今度、県は二〇一五年までに沖縄の基地を全部なくすアクションプログラムを発表しましたけれども、日本全国のアメリカの専用施設の七五%が沖縄にあるわけですから、それを全県的に島ぐるみでこれを返還してほしいという行動に立ち上がっているわけですね。  かなり前のアメリカの国防白書の中には、外国の軍事基地が住民からの支持を失うと長期的には維持するのが困難だと書かれていたことを私今思い出しているんですけれども、ですから、日本米軍基地の七五%を持っている沖縄で全県民的に返還の運動が起きているということは、やはり私は沖縄の米軍基地の撤去のプロセスが、どのぐらいかかるかわかりませんけれども、もう始まりつつあるんじゃないかと。防衛庁のある幹部は沖縄基地全面返還は安保廃棄と同じだということを新聞で述べていましたけれども、そういう点では、中西参考人のおっしゃるように非常に状況変化しているんですけれども、その変化が二〇二〇年を待たないで今度の沖縄問題でもう始まりつつあるんじゃないかと。  日本の世論も、日経の調査で四〇%安保解消、それから産経とギャラップの共同調査で四四%が米軍撤退、それから二二%が米軍維持で、一三%米軍撤退の方が上回るというような急激な変化も生まれているので、そこら辺の世論の変化や沖縄での基地返還の運動、安保廃棄までは沖縄では自民党の方もいらっしゃり言っておりませんけれども、そういう動きが生まれているんですけれども、コメントをいただけたらうれしいと思います。  以上、三点。
  68. 志方俊之

    参考人(志方俊之君) 日米安保の意義でございますが、我々から見て好ましい中国の姿というのを考えますと、経済的には開かれて安定成長を続ける中国、それから外交的には国際的ルールを守る中国、CTBTに早く調印して批准して禁止する、こういうような国際ルールを守る中国、政治的には民主化された中国、そして軍事的には自衛の範囲を超えた軍備を持たない、軍事的覇権を求めない中国、こういうことを考えますと、本当にそういう中国とっき合っていくためには日米安保がない方がいいのかあった方がいいのかということを考えますと、私はやはりあった方がいいと思います。そうすることによって好ましい中国中国人にとってもこれは好ましい状態だと思いますが、そういう中国がとるべき選択肢というものがだんだん狭まって我々があってほしい方向に行ってくれるであろう、そしてそれが中国人民の幸せにもつながる。  それから、アジアにとって日本の好ましい姿ということを考えますと、アジアの国から日本を見た場合に、日米が非常にぎくしゃくした関係である方がアジアにとって好ましいか、あるいは安保の面でも経済の面でも非常にしっくりいっている日本がいいかということを考えます。それともう一つ、アジアが日本に望んでいるのは、今言ったように日米がしっかり結ばれているということと、それと日本が軍事大国にならないということと、そして中国に対して対等な外交をするというこの三つがアジア諸国にとって望ましい日本の姿だと思います。そうだとすれば、日米安保があった方が望ましいのかということを考えますと、これはやはり望ましいということであります。  それで、私は、決してこれは軍事同盟、軍事だけにつながっているものではない。産経新聞の古森さんが書いていましたように、もしこの日米安保体制というのがなければ日米の経済協調ももっともっと悪くなるだろうということを言っております。それがアメリカとイギリスとの関係とアメリカと日本関係の違うところだと思います。米英関係というのは非常に経済がまずくいっても何とか許し合えるところがあるけれども、日米関係というのは、やはり軍事的に結ばれているということが一つの大きな柱になっているということであります。  それから、戦争の解釈でありますが、まず日中戦争、これは私は日本の侵略戦争だと思います。日本中国に覇権を求めたのだと思います。そうしなければほかの国が求めたからだろうと思います。  それから、太平洋戦争は、やはりあの帝国主義拡張時代に、西に進むアメリカ、南に進もうとする日本がフィリピンで衝突した、こういうものであります。したがって、やはりあれは帝国主義拡張の両方の勢力がぶつかったものであります。なかなかとめることはできなかったかもしれません。  それから、ベトナム戦争は、これは非常に近い、もう帝国主義というものがだんだんと時代のものでなくなってきた時期のものでありますけれども、これはアメリカの誤算だと思います。アメリカが介入したのは、当初反対していたのにだんだんと入っていったのは、やはりあの時期には共産主義の拡大していくドミノをとめようという意図があったんだと思うんです。そして、フランスがもう一回あそこに植民地をつくろうとしたときに反対したのはアメリカであります。ですから、アメリカがベトナムに対して、ベトナムを植民地にしようというようなことだけが私は動機ではないと思います。やはり共産主義のエクスパンションをあそこでとめなきゃいけないということ、それとベトナムの人たちはそういうことよりも民族自立ということで戦ったんだと思うんです。ですから、対ドミノと民族自立というものが交差したわけです。交わらなかったというか、こういうぐあいになっている。そういう意味でアメリカにも反省が私はあるんだと思うんです。  しかし、戦争が正しかったか正しくなかったか、それ以外にも方法はなかったのかという判断になりますと、私はベトナム戦争については二〇五〇年ぐらいの歴史学者がどう考えるかということも考えてみなきゃいけないと思います。もしあのときアメリカがあそこで五万人の青年の命を捨てて共産主義の拡大をとめなければ、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシアは恐らくあの当時共産化してしまったと思うんです。そうすれば、今のASEANの一九九〇年代における経済のテークオフはなかったろうと。今のベトナムよりもっとひどい状態になっていたかもしれない。  そういうことを考えますと、戦争がよかったか悪かったかということは、十年、二十年あるいは四十年とか、このぐらいのことで決めるものではないんではないかと思います。アメリカにおいては、やはりベトナム戦争はよくなかったというのが今のアメリカの理解でありますけれども、五十年たてば、やはりアジアの国々は今のASEANはなぜあったかということを考えますと、やはり共産主義にならなかったからというのも一つの原因だと思います。  以上でございます。
  69. 浅井基文

    参考人(浅井基文君) 時間がございませんので、ごく簡単に申します。  南北問題については、七〇年代まではかなり真剣に取り組む雰囲気があった。それが八〇年代になってからレーガン大統領のレーガノミツクスなどがございまして、しかも南側が足腰が弱くなったということで非常におかしくなってしまったという背景がございます。  しかし、近年の状況を見ておりますと、例えばリオの国際環境会議を筆頭に、非常に工業化その他の先進国のこれまでの政策、経済政策等がいろいろなグローバルイシューズと称せられる問題の大きな原因となっているということがもうわかってきているということでございまして、やはりそういう問題に対して先進国がどのように責任感を持って対処するのかということが今非常に問われているときであろうと思います。残念ながら、今の先進国におきましてそういう問題に対して主体的に認識し、主体的に取り組むという雰囲気がたい、これが非常に大きな問題であります。  日本もそういう点で私は非常に大きな問題を抱えていると思いますが、しかし冒頭に申しましたように、日本はもう紛れもない大国である、非常に大きな国家であって、したがってその日本が大国になったのはまさに戦後の国際社会あってのことであるということと、それから今後の日本の平和と繁栄を考える上で、冒頭では、アジア太平洋という問題だったので、アジア太平洋の平和と繁栄なくして日本の平和と繁栄もあり得ないと申しましたけれども、広く言って、今の日本の国際的な地位からいって、国際社会全体の平和と繁栄なくして日本の平和と繁栄もあり得ないということを考えれば、私は日本が目の色を変えてこの南北問題に取り組む、イニシアチブを発揮する、リーダーシップをとるということが非常に望まれているし、日本が今アメリカに次ぐ経済大国として本気で目の色を変えて取り組めば非常に大きな影響力を持つということは信じてやみません。  具体的な方策でございますけれども、私はやはり日本はIMF、WTO、OECDでも非常に大きな発言力を持っているわけですね。実際にはそれを行使してこなかったという大問題はありますけれども、やはり私は、そういう新しい視点に立って、日本がそういう既存の先進国主導の体制の国際組織においても積極的に発言し、方向性を変えていくというところでリーダーシップを発揮すべきだろうと思っております。  また、UNCTAD、国連貿易開発会議につきましては、アメリカなどではこれはもう不要だ、要らないといってつぶせという議論まで出てきておりますけれども、これは私はとんでもない話がろうと思います。やはりUNCTADを初めとした南側の発言が正当に反映される機関についても日本は重視すべきであろうと思っております。また、そういうところを重視すれば、UNCTAD等については恒常的に組織する仕組みとか人員とかそういうものも持っておりますので、やはり知は日本がそういう中で活動する場合に、フォローアップその他の点からいっても、非常に使える国際組織として位置づけることができるだろうと甲います。  最後に一言だけ。非同盟運動、非同盟会議につきましてですけれども、これは国際組織としては極めてソフトなものでございまして、まだ常設機構というふうにもなっていないわけです。したがって、そういうところで決議をつくったり問題提起をすることはできるにしても、本当に経常的に動くような仕組みになっていない。今後なるのかもしれませんけれども、今の段階で直ちに非同盟諸国会議によってこういう南北問題に対して取り組むという体制は、非同盟諸国の会議そのものが国際組織としてまだ持つに至っていないという問題は踏まえるべきではないかと思っております。
  70. 中西輝政

    参考人(中西輝政君) 安保条約の見通し、行方ということでありますが、最近、アメリカのナイ・レポート、東アジア戦略報告という国防総省の日米安保にかかわる言及部分は今後二十年という期限をつけており、これはナイ国防次官補がそういう言及を繰り返しています。二十年というスパンが触れられている。  そして、議員が今お触れになられた沖縄県の基地の返還に関するいわゆるタイムテーブルが先般出されましたが、それを見ておりましても、二〇〇一年までに那覇軍港、普天間等ですね、それから二〇一〇年までにキャンプ・ハンセン、それから二〇一五年までに嘉手納と、まあ重立ったところだけを拾い上げるとそういうことですが、これも私が見ますにややねじれた構造になるなと。つまり、二〇一五年まで嘉手納、あるいは二〇一〇年までキャンプ・ハンセンをアメリカは置いてくれるだろうかといいますか、それが現実であろうかと思っておりますので、沖縄県のあの提案はナイ・レポートを下敷きにした格好でストレートに出てきているというふうに考えますが、我々政治学者はそのねじれた特徴みたいなものを感じ取ってしまうわけです。  しかし、私はやはり沖縄の今の基地の返還は守保廃棄と同じだと、全基地を返還ということになると。それは現在の日米安保の役割ということを考えればそのことは確かに言えると思います。しかし、恐らく二千十何年という時点で日米安保の特質、役割、アイデンティティーが現在のままであるかということがやっぱり問題であります。  それから、簡単に話を終わりたいと思いますが、短期ないし中期的に私は安保条約というものは日本にとってやっぱり安全保障の柱として不可欠であるというふうに考えておりますのは、先ほど来幾つか挙げましたけれども、北朝鮮の問題あるいは中台、南シナ海の問題等々ありますが、もっと大きな問題にやっぱり日本人は目を向けなきゃならない。つまりそれは、やはり日本問題の解決の一つの手段として国際的枠組みとして日米安保体制というのがあるわけですね。つまり、日本、東南アジア諸国を含めてアジアの国々で日米安保を廃棄してくださいと言う国は、先ほどどなたかお触れになられたように北朝鮮しかありませんが、北朝鮮も現在では非公式に、例えば在韓米軍等の言及において態度を非常にフレキシブルにこの問題に触れ始めました。この問題、非常に我々にとっては難しい問題であります。  また、日本の国内論争、国内の分裂、安保問題に関する問題、憲法の問題ということがありましょう。それから恐らく日本の経済、国際的なかかわり方という問題がありましょう。先ほど志方さんが触れられましたが、日米の経済、特に日本企業がアメリカで活動できる、これは同盟関係があるからこれほど自由にできるんだ。確かに個々の面ではそういうことがあるかもしれませんが、全体としてグローバライゼーションの進んでいく現在、中国やマレーシアの企業もアメリカの中ではほぼ日本企業に近い活動が許されている。それは大きく言えばそう言えるんですね。  ただ、この問題の関連で言えば、やっぱり国際通貨システムの問題は私は日本にとって日米関係の非常に大きな柱であろうという気がします。円高のオプションというのがやっぱり政治的にも意味を持つことがあるわけで、こういった点を考えていきますと、やはりずっときょうお話の主たる話題でありましたが、朝鮮半島の問題、東アジアの不安定問題、それは冷戦の終息プロセスであるという視点が重要であって、私はいつも難しく思うのは、先ほどのナイ・レポートもそうですし、沖縄県の基地返還プログラムもそうなんですが、あるときまでにこうなるよ、この時期にこうなるということを言えば、それまでの間に変化が望ましくない形で起こってしまう。それまでには必要だけれども、そこから先は別の手だてを考えなきゃならないというのがこの問題をめぐっての難しい究極の問題だと私は思っております。したがって緩やかに、まさに日米安保を長期的に二〇一〇年代に向けていかにソフトランディングさせていくかという表現がいいのかもしれません。  中国の問題よりも我々にとってもっと重要な問題で、恐らくこの安保は必要ないと今すぐ言及することが引き起こすネガティブな結果、それはやっぱり私の考えからいうと、こういった問題をどうマネージするかということが二十一世紀に向けて日本人の資質が問われている問題だと。  何でもっと問題をはっきりできないのかという考え方もありましょうが、やはりそれはもう日本という国の置かれたある意味では非常に中途半端な立場、つまり世界の大国と言われるようなそんな地位はどう転んだって日本には与えられない。しかし、みずから非常に大きなローカルパワーとして存在している。また歴史の過去というものがあり、国内の分裂というものがある。そういうものを全部考えていった上でこの問題を考えれば、いかにスムーズにこの問題を、日本にとっての安保という選択を新しい全く変わってしまった世界に軟着陸させていくかと、こういう大変難しい対応が迫られて、私はそういう意味で日本の歴史上始まって以来難しい対応といいますか、我々の成熟した対応が求められる問題だろうというふうに思っております。  どうも失礼しました。
  71. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) まだまだ質疑もあろうかと存じますが、予定した時間が参りましたので、参考人に対する質疑はこの程度といたします。  志方参考人、浅井参考人、中西参考人に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、大変お忙しい中、長時間御出席をいただき、貴重な御意見を賜りましてまことにありがとうございました。本調査会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。  本日はこれにて散会いたします。   午後四時四十分散会