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山下芳生君 初めに、私
たち日本共産党は、
オンブズマン制度の創設については基本的に
賛成であります。一九七九年にはこの件での
法案大綱も発表をしております。しかし、もう既に二十年近くたっているわけですので、それをそのまま当てはめるというのは、これはいささか無理があるということも承知しておりますので、私はこの間の情勢の
変化、経過や、あるいは当
調査会におけるこれまでの
調査を踏まえて考えを述べたいというふうに思うんです。
まず、
会長の御
提案にあった新
制度導入の
必要性についてであります。今なぜ
国会に
オンブズマンを設置する必要があるのか、
国民にこの問題をわかりやすく説得力ある形で
議論をすることが大切だというふうに思います。当然のことながら、なぜ、何のために新
制度をつくるのかということを
議論することは、これはどんな
制度をつくるのかという
議論の土台にもなるわけですし、しかも、私
たちはこれは全面的に
賛成はしていないんですが、
行政改革という名のもとに今
行政機構の統廃合や
定員削減が進められている中で新たな
制度を創設することになるわけです。これはやはけり、今なぜ、何のために
国会に
オンブズマンを置くのか、だれもが納得する
議論がされなければ
国民的な合意は得られないんじゃないかというふうに思います。
私は、
二つの角度から
国会オンブズマンの
必要性を今
感じています。
第一に、
国民の目の届かないところで国の
行政機構が不正、腐敗の温床にされている、そういう
実態があるという問題です。清潔で公正な
国民本位の
行政を実現するために、
国会による
行政監視の
体制、
機能を強化することが必要だというふうに思います。この点は、当
調査会においで願いました
参考人の各
先生からも、例えば
関西学院大学教授の
平松毅さんはこうおっしゃっています。
一般国民が
オンブズマンに期待している問題は、今問題となっております住専問題とか
官官接待などを、マスコミのように単に
国民感情をあおるのではなく、
第三者的立場で事実を解明し、その事実に基づく理性的な
判断資料を議員に提供して審議の充実を図ることにあるのではないかと思われます。
あるいは、
国民が
オンブズマンに期待しているのは、住専問題とか
官官接待の問題について
自分たちの
意見を反映できるような
仕組みを設けてもらいたいということではないかと思われます、とお述べになっています。
ほかにも、
慶応義塾大学教授の
小林節氏なども、
官官接待、
薬害エイズ、それから
ゼネコン汚職等も挙げられて、きちんとした
行政に対する統制がさいていなかったからこそ起きていること、新しい
制度か既存の
制度の運用の問題に工夫が必要だという
意見を述べられています。
歴史的に見ましても、我が国において
オンブズマン制度に対する関心を高める契機になったのは
ロッキード事件であります。きょうは
皆さんのお
手元に参考
資料として一九五七年以降の主な疑獄事件の一覧表と証人喚問の実績の
資料を配付させていただきました。この
資料の証人喚問の実績は、参議院の
委員部調整課、衆議院の
委員部総務課から提出いただいた
資料に基づいて作成をしてあります。
これにも示されておりますけれども、
ロッキード事件では
国政調査権が見事に発揮をされたと私は思います。一九七六年二月から六月にかけて、衆参両院で延べ三十三人の証人喚問が行われました。喚問が進むにつれて疑獄
関係者の逮捕も進んで、七月二十七日には田中角栄前首相が逮捕をされたわけです。
これ、私
自身の体験になるんですが、
ロッキード事件当時、私は高校生でして、今でもはっきり覚えているんですが、学校の食堂で証人喚問のテレビ中継を見ておりました。食事をしながらテレビの画面にみんな、私だけじゃありません、食い入るように見ておったことを覚えております。そのときの中継はまだ画面が動いておりましたので、非常に
国会の
状況がよくわかりました。それを見ながら当時の私が思ったのは、
国民に対して悪事を働いたら
国会がちゃんとお裁きをしてくれると、不正は許ざない、
国会とはそういうところなんだということを本当に感動的に受けとめたというふうに記憶しております。すかっとしたわけですね。
ところが、
国政調査権を行使した疑獄事件の真相の解明は、その
ロッキード事件を頂点にその後低調となっております。これは、
資料にお示ししてある証人喚問の回数もやはり低下をしているんです。回数もさることながら、
内容の面でも真相の解明まで徹底して行うということにはなかなかなっていないんじゃないか。
例えば、これは
資料にお示しすることができなかったんですが、尋問の時間を調べてみますと、七六年六月、
ロッキード事件で参議院は六人の証人喚問を行いました。尋問時間は当時一証人につき百九十三分、三時間余りかけております、平均的に。それに対して、先日行われました住専問題での参議院での証人喚問、これは四人に対して行いまして、一証人当たりの尋問時間は百三十五分となっております。
ロッキード事件と比べて一時間減っているわけですね。回数も減少しておりますし、
内容、時間も低下をしているというのが事実であります。
なぜこういうことになっているのかということですが、これはいろんな理由があると思いますが、やはり時々の政党の
力関係に証人喚問の回数やその
内容が左右されてきたという側面は、これは否定できないんじゃないかというふうに思うわけです。
そうなりますと、そういう証人喚問に関する
国会の
運営上の
改善、これはやらなければなりません。同時に、
運営上の
改善とあわせて、
国会の
国政調査権の充実した行使を保障、補完するための
制度として
オンブズマン制度の
必要性を、こういう証人喚問の実施
状況の経過が示しているんじゃないかと考えるわけであります。
例えば、今日の住専問題、
薬害エイズの問題でも、
行政の中枢にあって事件に深く関与してきた人物の証人喚問はほとんど行われておりません。その結果、真相解明がなかなか進まずに、
国民が不満を
感じている。もし
オンブズマン制度があれば、そしてその
オンブズマンに
国会議員の付託に基づいて独立して
行政の
内容を
調査する
権限を付与するなど行っておれば、政党の
力関係に左右されずに
国民の期待にこたえて必要な人物の証人喚問を進めることもできるんじゃないかと。これは非常に重要なことではないかと思います。
平松教授の言葉をかりるならば、
自分たちの
意見を反映できるこうした
仕組みが設けられてその
機能が発揮されるならば、
国民の政治に対する信頼を高めることができるであろうと思います。とりわけ、私
自身が高校
時代そうであったように、若い
皆さんにとっても政治に対する関心や信頼感が高まるんじゃないか、そのことを非常に期待しているものであります。これが第一の理由です。
二つ目の
必要性として、現代社会において
国民はさまざまな面で
行政上の規制を受けたり、あるいは逆にさまざまな
行政サービスを受けております。
国民生活と
行政との接触が深まれば深まるほど、
国民にとってみずからの
行政上の扱いに対する苦情がふえてくるのは、これはある
意味では当然だと思います。
国民の権利や利益を擁護するために、
国民の
立場に立って苦情の解決、
救済を図る
制度が必要になっているのではないかという点です。
この点も、
参考人からやはり
意見が述べられております。東海大学政治経済学部長の宇都宮氏はこう言っております。「
行政の大規模化、複雑化、専門化に対応するために、
行政執行が公正に行われるように
行政組織全般を中立的な
立場から
監視統制する新しい
仕組みが必要になってきた。」「
行政に対する苦情は年金、税金、医療問題、それから騒音、都市計画などにわたって広範囲にあらわれる傾向が出てきております。二十一世紀を展望いたしまして、超高齢化社会を考えていきますと、
行政に対する苦情が噴出してくるのではないかということが予想されます。」「類似
制度を補完しながら、有機的に連携を図りながら、新しい
時代へのニーズに対応するために
オンブズマン制慶が必要になってきている。」と、こういう
行政に対する苦情処理、解決を図る面からも
オンブズマン制度が必要になってきているのではないかという御
意見。
私、
一つだけ最近の事例を見てみますと、やっぱりこういう
制度があった方がいいんじゃないかということで、きょうは地下鉄サリン事件の被害者の
皆さんの置かれている今の
現状、これを紹介したいというふうに思うんです。
昨年の三月の事件ですからもう一年以上経過しておりますけれども、ことしの三月、毎日新聞では「地下鉄サリン キズなお深し」という記事も出されました。心的外傷後ストレス障害、PTSDの典型症状を示している被害者の方がたくさんいらっしゃる。共通する症状は、フラッシュバック、事故の惨状を突然思い出すという精神的な被害、おびえる、過敏に反応する、落ちつかない、そういう症状が出てくるそうです。そして、その恐怖を回避する方向に進んで、ついにはみずから無感動や無気力、忘れっぽくなったり、それで体力の衰えを訴えるようになる。それが身体化をするということで、精神障害が身体面にもあらわれて、頭痛や目まい、そういったことから、仕事をすること、日常生活さえ困難になるという
状況があるそうです。
こういうサリン事件の被害者の
皆さんがどういう治療を受けるかということですが、これはもう自分で医者に行って自分で治療費を払って受けるしかないという
状況に今置かれております。犯罪被害者等給付金
制度というのがあるんですが、これは障害を受けた場合の給付はあるんですが、これは極めて重い障害に特定されているわけで、心的外傷の後遺症というのはこの犯罪被害者等給付金
制度で
救済対象になることはないということだそうです。
これは非常に深刻な問題でして、被害者、患者の
皆さんたちは切実な要望として、この問題について国が被害者の
現状をしっかり把握して、そして後遺症に悩む
皆さんに対する医療費の負担の問題、さらに進んで精神的カウンセラーの問題、こういう全面的な
救済対策を整えてほしいということをお訴えになっておりますが、残念ながら厚生省もそういう
実態はなかなか把握していない。それから法務省の方も、検察当局においても事情は聴取しておりますが、これはやっぱり捜査という面での把握になっていると。
そういうことを考えますと、やっぱり被害者が自分で治療費を払っているという問題、これは残念ながら今の
制度ではいかんともしがたいという問題なんかが
現実にあるわけですけれども、例えばこういう問題でもし
オンブズマン制度があって、直ちにそういう問題を
調査し、
意見を表明したり
勧告をするということがなされておれば、一年以上たっているわけですけれども、もう少し早く
救済の手が打たれたのではないかなというふうに思っております。こういう事例がたくさんほかにもあるんじゃないかということであります。
以上、
二つの角度から私なりに
オンブズマン制度の
必要性について
意見を述べさせていただきましたが、ぜひ当
調査会でも活発な
議論を
展開いたしまして、
国民にわかりやすい形で
問題提起する機会になればというふうに思っています。
最後に、私
たちがどういう
権限、
組織にしようと考えているのかということは、二十年近く前の
法案大綱に私
たちはこだわるつもりはございませんが、ごく簡潔な骨子だけ御紹介させていただきますと、
国会の
国政調査権の充実した行使を保障、補完する。そして、
行政監督権を実効あるものとするために、
国会の附属機関として
国会に
行政監視の機構を置くことにしてはどうか。そして、
国会が任命する
行政監視官に主として議院あるいは
国会議員の付託によって
行政内容を
調査させて、これを
報告させ、
行政監視の
体制、
機能を強化して、
行政の過誤や不正、腐敗の防止を図ろうというのが大きな骨子となっております。
ぜひ活発な
議論で
国民のためになる新たな
制度あるいは現行の
制度の
改善がされることを期待いたしまして、
発言とさせていただきます。ありがとうございました。