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公述人(
田尻嗣夫君)
東京国際大学の
田尻でございます。重ねてのお招きをいただきましたことを心から感謝申し上げたいと存じます。
さて、本日、私が申します
見解の前提といたしましてぜひ御認識いただきたいことがございます。現在必要なことは、
平成金融危機と言われる
危機に対してどう対応するかということでございます。
金融危機対策というのは、単に
預金者の取りつけ
騒ぎが起こらなければよろしいという、
パニックを回避するための方策だけであってはならないということでございます。
その
理由は以下のとおりでございます。
預金者の取りつけ
騒ぎが起こって
銀行の前に行列ができるというのは
金融危機としては
最終局面でございます。それよりもはるか早い
段階で
マーケットにおきまして、例えば
銀行間市場、国際的なあるいは
国内の
銀行間市場におきまして取りつけ
騒ぎが進行するわけでございます。あるいは
企業金融の面でも
混乱が先行するわけでございます。
つまり、
金融危機対策というのは、
預金者の
パニックを回避するということだけでは極めて危険なことでございまして、それ以前から
市場対策に注意深い手当てが必要であるということが第一の
理由でございます。
第二の
理由は、仮に
銀行間市場あるいは
企業金融面で
混乱が起こらない場合でありましても、通常の
マーケットにおきまして、
金利の
変動、
為替相場の
変動、個々の
銀行取引あるいは
企業取引におきます
信用のリスクの問題等々を通じまして、それが
国内の物価にはね返る、
資金コストにはね返るという形で、
国民に最終的にはそれらすべての
コストが転嫁されていくというメカニズムがあるからでございます。
つまり、
パニックは起こらない、世の中は静かに見えているけれども、その
危機の本質がもたらしております
コストの上昇ということが
国民生活に直接
間接にはね返りつつあるのが
現実であるということをぜひ御認識賜りたいわけであります。
第三番目は、
住専処理の問題、特に
財政資金の
投入問題に関連いたしまして大変長い時間
論議が続いておるわけでございます。しかし、後ほど申しますが、
財政資金の
投入よりもはるかに大きな
金額が、一般的な
公的資金、広い
意味での
公的資金と申しますが、
中央銀行等から既に
投入されておるわけでございます。
不良債権問題の
処理は先送りすればするほど極めて高いものにつくというのが
欧米社会の教訓でもございます。そういう
意味で、早急に手を打つと同時に、
公的資金の
投入についての
原則と申しますか基準と申しますか、そういう
ルールを早急に打ち立てることが必要でございます。
一般会計からの
財政資金投入にせよ
中央銀行等からの
資金投入にせよ、どのようなルートを経過いたしましてもすべては
国民の資産が消費されるということに変わりはないわけでございます。
四番目は、
日本の
金融産業と申しますか
金融業界におきます
技術革新、
経営革新の大幅な立ちおくれが、
日本国民の資産を次の世代に引き継いでいくという重要な役割、使命に将来響きかねないような状況に今なってきておるわけでございます。これは、
日本国民が将来の利益を得る機会を現在目に見えないところでどんどん失いつつあるということでございます。そのような観点から
金融危機対策というのは取り組まれるべきものでございまして、
預金者保護ができれば、あるいは
パニックが起こらなければ、それで時間をかけていいんだということでは決してないということをまず申し上げておきたいと存じます。
さて、本
委員会で御検討されておられますいわゆる金融六法案についての
見解でございます。
これら六法案は、先ほど申しましたような観点から申しますと、
危機対策のごく部分的な対応でございます。つまり、これは
不良債権問題の
処理としてもまだ入り口の
段階でございまして、第二次
損失の問題あるいはノンバンク等々、予想されます金融
破綻の展望というのは、考えれば考えるほど大変な事態に今あるということでございます。そういう
意味で、
危機管理の体系が現在まだ見えていない、そういう状況で、この入り口の
段階でこれ以上時間をかけることは適当でないと私は考えております。金融六法案は、そういう
意味で緊急性が極めて高いものでございます。
いろいろ指摘されております
決定プロセスに至る
国民感情の問題もございます。さらには、
内容的に種々の不備もあることは私も承知いたしております。しかしながら、今必要なことは、我々が金融六法案をスタート台にいたしまして、
危機対策を体系立ったものに早くつくり上げていくということが何よりも必要かと存じます。
住専処理法案について申しますれば、先ほど申し上げましたように、
公的資金の
投入は既に
巨額に上っております。
国民の関心が六千八百五十億円に集中しておりますけれども、申しましたように、それをはるかに上回る
金額がなし崩し的に
投入されている
現実の方にも注意を喚起いたしたいと存じます。
この
公的資金が直接
間接に
危機対策として
投入されているルートを簡単に申し上げますと、まず第一に、年金資金とかあるいは簡易保険の資金が株式
市場対策として
投入されてきた、いわゆるPKO資金の問題でございます。
二番目は、
日本銀行が特別融資をいたしております。これは、中央
銀行として当然の
最後の貸し手機能を発動したものでございます。しかしながら、法的に疑義のある出資にまで既に及んでおるわけであります。今般、新しい
追加負担に絡みまして、新しい基金に
日本銀行資金を動員するという構想も出てきておるやに仄聞しております。
第三番目は、
日本銀行による通常の貸し出しあるいは公開
市場操作の場におきまして、問題
銀行との
取引シェアがどうなっておるのかという点も明らかにされる必要がございます。
四番目には、
預金保険機構からの資金贈与、出資、融資が既に
巨額に上っておることでございます。
五番目には、都道府県からの
財政資金の
投入が続いております。
六番目は、共国
債権買取機構などをつくることによって、税法上の恩典をフルに活用するという形での税の減免
措置がとられておるわけでございます。そして、今般、
一般会計からの
財政資金の
投入問題が
論議されておるということでございます。
そういう広い
意味での
公的資金全体として問題をとらえていく必要があろうかと思います。理論的には、
債務超過をいたしました
金融機関の
処理をいたしますには、
預金を切り捨てるかあるいは
公的資金を
投入するか、そのどちらかの選択しかあり得ないわけでございます。現在、五年間
預金の切り捨てをしないという方針が有効である限りは、
公的資金の
投入はこのポスト
住専の展望を考えますと、もはや避けて通れない事態に我々は立ち至っておるわけでございます。したがいまして、一日も早く
公的資金の
投入についての
原則、基準を確立することが先決であると私は考えております。
次に、今回の一連の金融
破綻処理について申し上げたいと存じます。
現在、
追加負担等の問題をめぐりまして当局と関連業界との間でいろいろ
論議が続いております。この過程を見ておりますと、三つのことが教訓として引き出されようかと存じます。
第一は、事態が発生してから奉加帳を回すような、そういう
破綻処理の方式というのは完全に行き詰まったということでございます。次なる
危機の場合におきましては同じような手法はもはや使うことができないということでございます。
二番目に考えますことは、その話し合いをまとめる
段階におきまして当局と業界の間に見えないところで新しいいわゆる貸借
関係、貸し借りの
関係が発生していくということでございます。これは、もう言うまでもなく、護送船団行政をそのまま延長していくだけのことでございます。
三番目は、問題の
処理を官僚の調整能力というものに全面的に依存した、そういう形での解決方式というものが
国民感情の上でももはや限界に来たということでございます。そういう
意味で
市場の規律を活用する
処理方式というものを早急に確立していただく必要があろうかと存じます。
金融システムは極めて大切なものでございます。これは、健全な通貨を実現する基盤であると同時に、経済社会の資源配分を効率化することによりましてマクロ経済を拡大していくというフローの面での重要な機能を帯びております。もう
一つ、我々の労働の成果を次の世代に引き継いでいくためのストック面の役割が極めて大きくなってきておることでございます。そういう
意味で金融改革問題と
政府、議会の役割というのは極めて大きいものがあるわけでございます。
市場の規律を活用するには何よりもまず
政府の規律が必要でございます。
その中身は何かと申しますと、第一には、規制の緩和ではなくて規制の撤廃をしていただきたいということであります。
段階的な規制の緩和は新たな行政指導、新たな規制を生むだけのことでございます。
二番目は、
金融機関あるいは商品、サービスを選別淘汰するという作業は
市場にゆだねていただきたい。そのために十分な
情報開示をする必要がございます。
三番目は、官僚の裁量主義による業者行政をやめまして、
ルール主義による
市場行政に転換することでございます。規制は撤廃をし、監督は強めていく必要がございます。それは、
市場の失敗は起こる可能性が高くなるからでございます。
市場の失敗は
政府が補正する役割を帯びております。ところが、
政府にも政策の失敗、
政府の失敗という事態が必ず発生をいたします。
それでは、
政府の失敗をだれが補正するかと申しますと、これは議会でございます。議会が体系的、主体的、戦略的に金融問題をお取り上げいただき、その将来を方向づけていただく場が必要になってくるわけでございます。私は、
大蔵省改革、
日本銀行の独立性の強化と並びまして、議会における金融問題に取り組まれる体制づくりが不可欠であろうかと思います。
平成金融危機対策というのは、そういう
意味で大蔵改革、
日本銀行の強化、そして議会の体制づくりがいわゆる三点セットとして
国民の前に示されるべきだというふうに考えております。
ありがとうございました。