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参考人(
田中清隆君) 弁護士の
田中でございます。
私は、最初に、私の手元にあります二通のファクスを御紹介させていただきたいと思います。これはいずれも海外のマスコミから寄せられたものでございます。
一つはウォール・ストリート・ジャーナルからでございます。
暴力団、総会屋などの裏社会が、
日本経済の改革を進めていく中で、いかに大きな障害になっているのかということについての特集
記事を企画しています。つまり、経済やくざがどのような形で規制緩和などの動きを妨害し、場合によっては貿易障壁を生み出し、結果的に
日本経済の低迷の
原因になっているかに焦点を当てた
記事です。
金融業界の改革を阻害している
一つの大きな要因はやく、ざだと言われております。他にもこのような業界が数多くあるのではないかと思います。
こんなような書き出しで幾つかの
質問事項を述べております。
もう
一つ御紹介します。ワシントン・ポストです。
質問事項
いわゆる暴力団絡みの
不良債権はどれくらい大きな問題なのでしょうか。
不良債権全体に占
める割合、貸出残高など、概算ではどのくらいですか。
金融機関と暴力団の接点ほどこにあるのでしょうか。都市
銀行から
ノンバンク(
住専も含めて)など、あらゆるレベルに広がっているのですか。
途中省略いたしますが、
住専と暴力団の
関係は、どのように
表現するのが最も正確でしょうか。大口融資先として挙げられている
企業についてはどうでしょうか。こういうファックスが寄せられております。これだけではなくて、ほかにも同趣旨の照会が海外のマスコミから
日本弁護士連合会あてに昨年の末以来多数寄せられておったわけでございます。
私は、これに対して大変なショックを受けたわけでございます。海外のマスコミは、
日本の経済界、とりわけ
住専問題につきましてこんなふうに見ているんだということを知ったわけでございます。もちろん、こうした海外のマスコミの取り上げ方というのはまことに針小棒大であり的外れである部分もございます。しかしながら、私
どもの実感といたしましては、これもまたすべてを否定し去ることができないということも事実であるように思われます。
私
どもは、こうした不名誉をそそぐために、何とかよい解決案をと
考えまして、
日本弁護士連合会の民事介入暴力対策
委員会の有志とともにいろいろと
不良債権処理の問題に関しまして提言をしてまいりました。そうした御縁で本日
参考人として御意見を述べる機会を得たものだというふうに理解いたしております。しかしながら、私が本日申し上げる意見は、これは日弁連としての意見ではございませんで、あくまで有志の代表としての意見というふうにお受けとめいただきたいと思います。
こういった視点からいたしまして、私
どもは、
住専問題の持ちますさまざまの側面がございますけれ
ども、主として
債権の回収をどう進めるのか、暴力団等に不当な、不正な利益を残させないためのシステムづくりをどうするのかという
観点を中心に意見を述べさせていただきたいと思います。
こうした
観点から、第一に
住専の
処理スキームのあり方について、第二に現在提案されておりますこの法案をもとにした、その上で生じてまいりますでありましょう幾つかの法律的な問題点という順序で申し上げていきたいと思います。
まず、この
処理スキームでございますが、この
住専処理につきましてはあくまで法律的な
処理によるべきである、破産、会社更生によるべきであるという強い御主張がございます。これは一面でまことにもっともなことだと思います。しかしながら、私は、少なくとも現時点におきましては、残念ながらこの法的
処理策というのは時期を逸したのではないかというふうに思っております。この法的
処理によるべきという
考え方の中心は、やはり財産の早期保全ということにあったわけでございます。しかしながら、この
住専関連の債務者につきましては、私
どもがマスコミ等でいろいろ拝見する限り、あるいは仕事の上でいろいろ感ずる限りでは、既に相当の
資産隠しが進行してしまっている、こういう状態であろうというふうに
考えておるわけでございます。
まさに目の前にあるお金をポケットに突っ込もうとするときにそれを回収するということは、これは確かにいわゆる民事的な手続、法的
処理によることが適当だと思われます。しかしながら、どこへ隠したかわからない、どこへ行ったかわからない
資産を捜し出してこれを回収するということになりますと、これは通常の民事的な手続のみでは非常に困難でございます。例えば破産管財人といえ
ども、あるいは更生管財人といえ
ども、特別な権限を持っておるわけではございません。これについては、あくまで国税あるいは警察、こういったところのノウハウ、こういったものを含めました総合的なバックアップがなければ実際上回収は非常に困難だというふうに
考えております。
その点におきまして、今回の
住専の
特別措置法案の第三条一項六号だと思いますが、強力な調査権限が与えられております。これについて私
どもは、まことにふさわしいものである、ぜひこういった調査権限をもとにして財産の隠匿を発見し、回収に努めていただきたいと
考えておるものでございます。
先ほどの法的
処理について若干敷衍して申しますと、法的整理というものは、率直に申しましてあくまで経済的合理性の範囲内、端的に申しますと採算の範囲内で行われるのが実情でございます。破産管財人の費用あるいは競売申し立ての費用、こういったものも回収見込みとの見合いで制約をされるわけでございます。私は細かい数字は存じませんけれ
ども、例えば競売の申し立てをいたしますと、合計一兆円の競売申し立てをいたしますと千分の四で四十億円、印紙代だけでございます。これに一件当たり数十万円の予納金、例えば不動産鑑定人の費用、執行官の費用、こういったものを一件当たり数十万円、裁判所によって違いますが、こういったものを納めなきゃならぬ。仮にこれが数千件あったとしますと、これだけで十億円近い金額になってしまうわけでございます。こういったものをどうするか、そういう問題もあるわけでございます。
さらに、管財人といたしましては、こういった
債権回収に直結しないところの刑事
責任の追及、あるいは回収見込みの薄い後順位の抵当権、こういったものについて多大な努力や費用を使うということは実際上困難であります。
また、警察や検察あるいは国税の協力を得るということも当然
考えられるわけでありますが、今までこうしたことが実際に円滑に行われてこなかった現実がございます。それが制度的な改革なくしては、これが直ちに行われるということは
考えがたいわけでございます。
委員の先生方の中にも弁護士経験をお持ちの方がいらっしゃいますので、多分破産管財人の御経験もおありだと思います。私が申し上げた今の点は十分御理解いただけるものと思います。
さらに、根本的な問題といたしましては、今回の
住専問題をどう決着をつけるか、ここに何を求めるかということでございます。私たちは、この
住専問題の
処理を単なる
企業の清算の問題ということで終わらせてはいけないと
考えております。ある程度の財産が回収できて、そしてそれを配当して一件落着ということで一体よろしいんでしょうか。私はそのようには
考えておりません。多くの国民の本音も同じであろうと私は思っております。私
どもは、この
住専の問題は非常に根が深い問題であるというふうに思いますので、この機会にこそ
関係者の
責任の明確化、隠匿
資産の発見と回収、さらに暴力団等の不当な利得の剥奪、競売妨害の対策の確立、健全な
金融システムの確立といった、
一言で言いますと公正な社会の再建を何とかここで図りたい。少なくともその第一歩を踏み出したいという願いを持っておるわけでございます。先ほ
ども申し上げました海外のマスコミの論調に非常に屈辱を感じる私の思いもまさにそこにあるわけでございます。
ただ、国民といたしましては、そうは申しましても、具体的な展望のないままに
税金がむだ遣いされるんではないか、あるいはそういった公的資金がやみからやみへ消えるんじゃないかという不信を持っておることも事実でございます。ぜひとも立法府とされましてはこの国民の願いを正しく受けとめられまして、そしてまたその危惧感をぬぐい去るような努力と工夫を尽くす責務を負っていただきたい、このように
考えております。
こうした
観点から、現在の
住専処理のスキームを前提といたしまして幾つかの問題点を
指摘させていただきたいと思います。
まず第一点といたしましては、
預金保険機構は
住専処理機構が買い取った
債権のうちで回収困難なものの取り立てを行うということになっておりますが、この
預金保険機構の具体的な組織及び作業
内容ということが私
どもにはまだ明らかに見えておりません。警察官あるいは国税の職員、検察官等も入るということを言われておりますが、単にこういった人たちが入ってにらみをきかすということだけでは国民は納得いたしません。
ここがもし作業をいたしますとすると、一体どういうことを具体的にやるのか。例えば、直ちに刑事的な
対応を要するような場合には、これは当然警察、検察等の本体が
対応することになります。また、多くの民事
事件につきましては、例えば財産の差し押さえ、競売の申し立て、
損害賠償の請求、こういったものは実際には弁護士がやることになります。そうしますと、
預金保険機構の方々は何をするか。
私は、これまでの状況から見ますと、こういった出向された職員の方々は、まさに
住専の債務者やその
関係者の
資産隠しゃ、それから
住専役員あるいは職員に対する
損害賠償請求のためのさまざまな調査、資料の
収集、競売現場における実態の把握と妨害者
情報の
収集あるいは資料提供、さらに
債権回収に関するマニュアルづくり、こういったものをぜひとも進めていただきたいというふうに
考えているわけでございます。
弁護士には、既に述べましたとおりに格別の調査権限、強制権限がございません。もし
預金保険機構の方でこういった調査がなされまして資料が提供されますならば、弁護士にとっては回収に向けて極めて大きな力になるというふうに
考えておるわけでございます。
また、現実に大部分の回収事務を扱います弁護士の選任についてでございますが、この役割が極めて重要であることは申すまでもございません。したがって、その選任につきましては、いわゆる一本釣りという形ではなくて、
日本弁護士連合会と十分協議をして適切な推薦を受けるということが必要であろうかというふうに思っております。
第二に、
住専は
資産を譲渡してほとん
どもぬけの殻のような状態になるわけでございますが、
住専自体の解散の問題も残っております。
現在の
処理スキームに対する批判の
一つは、
住専が
資産を譲渡してしまえば後はもう
責任追及がなおざりになるんではないかという不安が
指摘されておるところでございます。もっとも、
損害賠償請求権な
ども実際には
住専処理機構の方に移されてしまいますから、したがって具体的な権利行使は
処理機構によって行われるということになりますけれ
ども、ある程度の
情報あるいは端緒、こういったものはやはり
住専側から提供されませんと実際には実行は困難でございます。この
情報の提供というのが、具体的には
住専の清算人から提供されることになろうかと思います。
そういうことになりますと、清算人の人選といたしましては、通常は清算会社の元代表取締役がなるわけでございますが、これでは不適当でございます。裁判所によって適当な清算人を選任するという
規定がございますので、その
規定により適切な選任がなされることが望まれるわけでございます。そして、この清算人が
預金保険機構あるいは
住専処理機構と密接に連絡をとりまして、適切な清算を通じて
関係者の
責任の明確化に協力すべきであるというふうに
考えます。
第三に、
住専処理機構自体の役員構成等につきましても、元の
住専やあるいは
関係金融機関の役員であった方々は不適当だと
考えられます。可能性といたしましては、この方々に対しては現在まだいろんな民事、刑事の
責任の問題が残されておる可能性があるわけでございます。そういったことで利益相反という問題が起きる可能性もありますので、こういった方は不適当であろうかというふうに
考えております。
第四に、
最後でございますが、この
住専処理の問題につきましては、私
どもは競売妨害対策ということをぜひとも強力に確立していただきたいということを
考えておるわけでございます。そして、競売妨害対策の決め手は三つございます。
一つは、民事執行法の改正でございます。二つは、競売絡み
犯罪の取り締まりであります。三つ目は、裁判所、とりわけ執行官の
体制の強化でございます。
その点で私は現在の民事執行法の改正の動きを非常に高く
評価しておるところでございますが、従前の、もともと競売絡みのこういった
犯罪がなかなか摘発されなかった、最近はかなり摘発されておりますけれ
ども、かってなかなか取り扱われなかった背景には、競売手続というものが非常に複雑でございましてなかなかわかりにくい、一方、妨害する方はしょっちゅうこれはやっておりますから非常に詳しいということがありました。そこで、先ほど申しましたように、
預金保険機構等による実態調査あるいはマニュアルづくりというものがなされていきまして、これと
捜査機関との間における密接な連携、こういったことによって競売妨害対策が確立されることを望みたいということでございます。
実は、私自身も競売現場で何度も危ない目に遭ったことがございます。また、私の同僚も競売妨害に絡んで暴行、傷害を受けた弁護士もございます。
住専の問題を機としてこういった競売妨害の実態、さらに加えて申しますと、私の実際の体験でも、お国が売った物件だから大丈夫だと信じて買った七十四歳のおばあちゃんが、実際にはそこには悪質な占有者が住んでおりまして、せっかく買ったのに何千万と要求されて、本当に泣きの涙になってしまった。最終的には数百万で和解しましたけれ
ども、そういったケースもある。また、大学の先生が何も知らずに買ったところ、それは暴力団の組長の家であったということで、最終的にあきらめて申込保証金五百万円損しちゃったというようなケースもあるわけでございます。そういったことも
考えまして、
住専問題を機としてこの競売問題についての対策が確立されることを強く望みたいと思っております。
裁判所、とりわけ執行官の
体制については省略をいたします。
以上、時間の制約もありまして大まかな点を申し上げましたが、
最後に重ねて申し上げますけれ
ども、
住専の問題は本当に社会的不公正の縮図であるというふうに私
どもは見ております。この問題を解決するかどうかが、まさに
日本の公正なシステムの回復ができるかどうか、そして国際的な信用が取り戻せるかどうかということの分かれ道でございます。
日本の国民も国際社会もこの点についてまさに注目をしておるわけでございます。どうかそのような認識に立っていただきまして、一日も早く強力な立法をいただきますようお願いを申し上げます。
ありがとうございました。