○鴨下一郎君 新進党の鴨下一郎でございます。
私は、新進党を代表して、ただいま
議題となりました
薬害エイズ問題に関して、
総理大臣並びに
厚生大臣にお考えを伺いたいと思います。
まず初めに、非
加熱製剤を介して
エイズに
感染し、既に亡くなられた方、重篤な症状と闘っておられる
方々、さらに
HIV陽性でいつ
エイズが発症するかに大きな不安を抱いて毎日を過ごしていらっしゃる
方々とその御
家族の皆様に心よりお見舞いを申し上げます。
さて、
エイズという疾患は、一九八一年にアメリカで初めて
報告されました。翌年、アメリカの
血友病患者の
症例が
報告され、
治療薬として使われた第Ⅷ、第Ⅸ因子の
血液製剤が売血を原料とすることによって
感染の
危険性をはらんでいることが指摘されました。
当時、日本では、
血液製剤の原料の多くを輸入に頼っており、
エイズ日本上陸の
危険性が危惧されることとなってきました。
厚生省は、八三年に
エイズの
実態把握に関する
研究班を発足させ、この危険に対して
体制を整えたかに見えました。
しかし、この時期からさらに三年間も、つまり製薬会社による一応の
自主回収が終わったとされる八六年夏まで、危険な非
加熱製剤が使われ続けたのです。その結果、日本人
血友病患者五千人の中で約二千人が
感染し、既に四百人を超す人が亡くなり、さらに、発症直前に陥っている
患者さんが増加しており、極めて
対策には緊急を要する問題として現在に至っております。
今回の
薬害エイズの問題は、なぜそのような結果に至ってしまったのか、その
責任はどこにあるかというところにあります。
総理はどのようにお考えになっておられるか、お聞かせください。
血友病患者、
家族の
方々は、八九年、国、
製薬企業に対し損害賠償を求めて
訴訟を起こされました。九六年三月には、
厚生大臣が国の
責任を認め
和解は
成立しましたが、その疑問はいまだわかっていません。
さきの
厚生委員会に参考人として出席いただいた川田龍平さんは、「十歳のときから死について考え、そして友達にも
感染の事実を隠して生きてきました。でも、この
薬害を多くの人に知ってもらいたいと思い、実名を公表しました。僕たちのような苦しみはもうだれにも味わわせたくないと思っています。この
国会ですべての真相が明らかにされることを期待します。この
国会しかすべての真相が明らかにされる場はありません」と思いを語ってくださいました。
総理は、このような
患者さんの声を聞き、
真相究明についてどのような感想を持たれていらっしゃいますか。
エイズ薬害の悲劇は、濃縮製剤が
開発され、八三年の二月に自己注射という家庭療法が医療保険でできるようになり、製剤の消費量が増加してきたころから始まります。
患者さんはQOLが高まることに大きな期待を持ちました。製薬会社も、これで
使用量が大幅にふえると皮肉にも予測していたにかたくありません。この家庭療法の
推進に、当時、橋本
総理は積極的に尽力なされたと聞いておりますが、いかがだったのでしょうか。
その六月には、
エイズ研究班が生物製剤課に設置されました。当時の課長郡司篤晃氏は、非
加熱製剤の
危険性を参考人の
意見の中でも述べています。しかし、濃縮製剤が有用だという
意見が多く、さらに国内メーカーへの打撃を懸念することなどから、一転して
危険性よりも有用性をとる
方針となりました。しかし、非
加熱製剤が
エイズ伝播の
危険性があるという前提でなければ、当時の生物製剤課に
研究班を設置し、血友病の専門家である安部英氏を班長にするという必然性が
説明できません。
厚生省は
エイズ研究班をなぜ生物製剤課に設置したのか、その
目的、
研究結果についての
責任の所在、
責任者についてお答えください。
そして、なぜ第一号の認定がおくれたのか。意図的な問題がなかったのでしょうか。
八三年六月の
エイズ研究班のときに
帝京大症例が
エイズとして認定されていれば、濃縮製剤の
危険性が明らかになっていました。しかし、第一号
症例は留保されてしまいました。
その後、
エイズサーベイランス
委員会が設置されて塩川さんが
委員長になり、八五年の三月二十二日に本邦第一例が認定されます。この例は、
診断、
経過、受診動機、予後などあらゆる面で疑義あることが参考人の供述などで明らかになっています。参考人の松田重三氏は、
帝京大症例を認定しなかったのは
行政に汚点を残さないため、また、本邦第一例はでっち上げと供述しています。なぜ
血友病患者が
エイズに
感染しているということを明らかにしなかったのか、
帝京大症例をなぜ認定しなかったのかということについて、
総理はどうお考えになっているのでしょうか。
さらに、
厚生省は、非
加熱製剤の
危険性を知りながら、その
使用を容認していくことになりました。それはなぜだったのか、
総理はどのように御理解なさっておられるのか、お聞かせいただきたいと思います。
加熱製剤の治験中にも、
危険性に対する
認識は八三年、八四年、八五年とより明確になっていきました。
スピラ博士が、
血友病患者の
エイズ発症、死亡を
診断したとき、ギャロ抗体検査が判明したとき、非
加熱製剤の
危険性は十分に推察できたはずです。
厚生省は、
エイズが予後不良で重篤なビールスによる
感染症であり、さらに非
加熱製剤に混入している
可能性があると
認識したのは一体何年何月なのか、公式に示していただきたい。
厚生委員会において、八四年十一月
エイズウイルスが固定された時点とお答えになりましたが、御確認をいただきたいと思います。
もし八四年十一月以降に
認識されたのであれば、さまざまな副作用
情報がある中で、
情報収集に関して
行政としての怠慢であり、厳しく
責任を問われる問題と言わざるを得ません。また、そのときだとすれば、それ以降、非
加熱製剤の回収または
危険性につき
行政としてしかるべき役割を果たす必要があったはずです。行われていないとすれば、重大な
責任を問われなければなりません。
危険な非
加熱製剤の回収を
指示すべきだったのに、企業の
自主回収に任せたのは一体なぜなのでしょうか。
総理並びに
厚生大臣、それぞれの御
所見をいただきたい。
患者さんも、非
加熱製剤の
危険性の
情報開示が行われていれば
加熱製剤の
使用を開始することも可能でさらなる
感染を防ぐことができたはずであります。その辺の罪は非常に重いと考えます。
総理はその
責任をどう感じているのか、お聞かせいただきたいと思います。
また、自己注射による家庭療法導入後に非
加熱製剤の
使用量がどう推移していったかについて、
厚生省に示していただきたいと思います。
非
加熱製剤メーカーの一つ、ミドリ十字は、
厚生省薬務局ミドリ十字分室とも言われているように、薬務局長以下数多くの官僚が社長、役員等に天下っています。官業の癒着構造がメーカーの得になる非
加熱製剤野放しの
原因になっていた
可能性がある点も、厳しく問われなければならないと思います。
厚生省からミドリ十字、日本臓器など非
加熱製剤メーカーへの天下りの実態を、過去二十年間にさかのぼり具体的な数を示していただきたいと思います。
今回、随所に良識ある官僚もしくは学者がアドバイスをしたり、非
加熱製剤の
使用を中止しようと
発言した人もありました。しかし、政官業の癒着構造の大きな流れの中で、医学的正論が通らないような雰囲気がありました。その中で、メーカーの論理に抗し切れないで、これほどの大惨事になっていったと思われます。実際、ミドリ十字などにくみし、政治献金をもらって暗黙のあるいは無言の政治的圧力をかけた政治家の罪は非常に重いと考えます。まさしく今言われている政界、業界、官界の癒着構造がもたらした典型的な病理現象と考えます。この点について、
総理はどのようにお考えになりますか。
総理、あなたは
参議院予算
委員会で、ミドリ十字から献金をもらっているという御答弁をされていますが、それは事実ですか。また、薬業界全体からの献金は過去十年間でどのようになっていますか。さらに、衆議院予算
委員会で、当時ミドリ十字の社長である、薬務局長を歴任した松下廉蔵さんとの交際もあるとお話しされていましたが、これも事実ですか。厚生族の重鎮として隠然たる存在と言われる
総理、この事実確認と
責任とをお聞かせいただきたいと思います。
厚生省には、資料隠しや不都合なものは出さないんじゃないかという疑念など、さまざまな思いがあります。
和解後に資料が出てきたことなどは、明らかに作為的としか思いようがありません。資料公開の不明瞭さについて、
総理並びに
厚生大臣はいかにお考えでしょうか。
さらに、今後の
課題として、
薬害エイズの
患者さんたちに対する
恒久対策、第四ルートの解明、またメーカーに対する
行政処分、
責任の明確化などに対する
総理並びに
厚生大臣のお考えをお示しください。
医学の祖とされる古代ギリシャの医学者ヒポクラテスの誓いの中に、「私は、自分の能力と判断の限りを尽くして
患者の利益になると思う養生法をとり、悪くて有害と思われる
治療法は決して行わない。頼まれても死に導くような薬は与えない」とあります。すべての医療にかかわる人間はこの誓いをもう一度心に銘記すべきであり、より
患者中心の医療を実践していく上でも今回の
薬害の大きな犠牲を決してむだにしてはなりません。
最後に、これからいかに
国民に対し
信頼を回復していくかということについて、政府及び
厚生省はどう
反省し、総括し、これから次なる
行政を進めていくためにどうしたらいいとお考えなのか、また、今回の
責任の所在、
責任のとり方について
行政としてどう考えているかについて
総理と
厚生大臣にお伺いして、
質問を終わります。(
拍手)
〔内閣
総理大臣橋本龍太郎君
登壇〕