○松沢成文君 新進党の松沢成文でございます。
私は、ただいま
趣旨説明のありました
国連海洋法条約及び関連国内法
改正案等について、
総理及び
関係大臣に
質問をいたします。
我が国は、四方を海に取り囲まれた主要な
海洋国家であり、海からとれる幸を有効に活用し、かつ海運により発展を遂げてまいりました。歴史的に見ても、また現在においても、海は常に我々国民とともにあり、切っても切れない重要な存在であります。
元来、
海洋法秩序の形成は、ヨーロッパ古代と中世の
海洋大国間の取り決めや慣行がその支配のもとで定着したものと言われております。当初は各時代の海事慣行を基礎に不文の国際慣習法として定着しておりましたが、近代に至り次第に
条約がこれにかわるようになってまいりました。それは、
海洋の利用と
規制をめぐる各国の政治、経済、軍事上の利害関係の対立と協調が反映したものと言えるでしょう。
第二次世界大戦後、国際連合は、
昭和三十三年、第一次国連
海洋法会議を開催し、ジュネーブ
海洋法四
条約を採択しましたが、その後の政治経済情勢の変化及び科学技術の発展に合致するよう、ただいま審議しております
海洋法条約が
昭和五十七年の第三次国連
海洋法会議で採択されました。本
条約は、採択されて以来十四年を要して初めて
我が国の国会にその
承認のために提出されましたが、何ゆえに採択から国会提出まで十四年の歳月を要したのか、また、
我が国が本
条約を
締結することによりいかなる具体的な利益を享受することができると考えているのか、まず
総理の御見解をお尋ねいたします。
次に、竹島領有権問題についてお伺いいたします。
去る二月七日、
政府が本
条約に関する
排他的経済水域の二百海里
全面設定方針を決定したことに対し、
我が国の出方をかなり以前から警戒していた
韓国では、官民挙げてのすさまじいばかりの反応が示されました。
韓国外務省は、翌八日、
日韓両国が長年領有権を主張し合っている竹島に港湾施設をつくることを公表し、領有化を一歩進める構えを見せました。これに対して池田
外務大臣は、竹島は日本の領土である、工事は日本の
主権侵害であり許すことはできないとの当然の発言をいたしました。この発言に対して
韓国では、日の丸を踏みにじったり、池田大臣に似せた人形を火あぶりにしたり、異常とも思える抗議運動が燃え上がりました。
こうした経過の後、三月初めのASEMの会合で
日韓首脳会談が実現いたしました。この会談において、両首脳が竹島問題を棚上げし、対立が決定的になることを避け、
漁業協定の
締結を優先することに合意して以来、
韓国側の反応に鎮静化が見られます。
竹島の領有権について、
我が国は、
昭和二十七年一月二十八日に李承晩ラインの
設定に対する抗議に関連して
我が国の領有権を主張したことに始まり、最近では、昨年七月までに合計五十回以上の口上書を
韓国政府に対し発出しております。また、
昭和二十九年には国際司法裁判所への提訴を
提案しましたが、この
提案に対して
韓国は拒否する姿勢を示し続けており、国際司法裁判所での解決は極めて難しい
状況であります。
本
条約では、
紛争解決について幾つかの
選択肢が示されておりますが、領土問題については直接的な解決手段を示しておりません。したがって、
政府は、本
条約の
締結によっては竹島領有権問題について何らの影響も及ぼさないことになると考えているのか、それとも何らかの有効な解決方法が見出せるとお考えなのでしょうか。今後の竹島領有権問題解決に向けた方針とその見通しについて、
総理の御見解をお伺いいたします。
次に、尖閣諸島問題についてお尋ねいたします。
この問題は、
我が国が抱える領土問題の中では最も新しいものであります。すなわち、北方領土、竹島の両問題は、第二次世界大戦及び
昭和二十六年のサンフランシスコ講和
条約を契機としたものでありますけれども、尖閣諸島問題は、
昭和四十三年十月から、国連アジア極東経済
委員会、エカフェによる東シナ海における地球物理学調査が行われたことにより、突然起こったものであります。同調査の結果、東シナ海の
大陸棚には石油資源が埋蔵されている可能性があるとの指摘がなされました。これが契機となって尖閣諸島が注目を集めることになり、
昭和四十六年に中華民国、次いで中華人民共和国がこれを自国領であると公式に主張し、実効支配を続ける
我が国に抗議をしたことに始まったものであります。
その後、日
中国交回復、日中平和
条約締結の際にも取り上げられてきましたが、
平成四年には
中国が尖閣諸島を
領海法に自国領土として書き込んだことにより、改めて注目を集めることになりました。
ところが
政府は、今回の日中非公式
漁業交渉において、領土問題を切り離して
漁業交渉を進めようとしております。領土問題を切り離すということは、棚上げに同意したことになり、ひいては
中国側の
交渉のぺースに引き込まれることにつながり、結果的には、領土問題解決の先送りが将来の日中関係に暗雲をもたらすことになりはしないかとの憂慮を禁じ得ません。
政府の態度は一見、一貫したものであり、その解決方法を見据えたもののように見受けられますが、果たしてそうなのでしょうか。尖閣諸島問題は他の領土問題と異なり、
我が国が現に支配しているのが現状であります。したがって、
我が国が「日中間に領土問題はない」との態度をとり続けるのであれば、領土問題の切り離しあるいは棚上げなどあり得るはずがないのではありませんか。尖閣諸島領有権についての
政府の明確な姿勢と今後の
中国との
交渉姿勢について、
総理の御見解をお伺いいたします。
この尖閣諸島問題に関連して、日中間の
大陸棚境界画定問題が存在しています。
我が国は、
大陸棚条約には未加盟でありますが、同
条約の六条を援用して、日中間の
大陸棚の境界画定については従来より中間線を主張してまいりました。一方、
中国側は、
大陸棚の自然延長を主張し、沖縄の西にある沖縄トラフ付近までを自国の
大陸棚であるとしております。
昨年十二月から今年の二月まで、
中国の石油掘削船が東シナ海の日中中間線を越えて停泊し、石油の試掘作業を行ってきたことが確認をされております。また、今年二月には、
中国の石油掘削船の活動による石油ガスの燃焼が
海上保安庁により確認されております。このままでは、
中国側による石油採掘の既成事実が
進行することになり、その既成事実を盾に
中国側が境界画定
交渉に臨むことが考えられ、
我が国にとって不利益になることは明白であります。このことから、本格的な石油採掘作業が行われる前に、早急に境界画定が望まれるところであります。
さらに、四月下旬から、
中国とフランスの
海洋調査船六隻が沖縄近海の東シナ海で調査活動を行っております。その後、フランス船は日中中間線を越えた
我が国海域での調査は中止したようでありますが、無
許可で
我が国の
海域で活動した事実は消し去ることはできず、国際慣習法上許される
行為ではありません。この事件に関しては、
中国及びフランスヘの厳重なる抗議がなされてしかるべきだと考えますが、
政府はいかなる対応をとってこられたのでしょうか。
また、日中中間線を
設定する際の
基線のとり方及び境界画定についての
交渉の進捗
状況並びに今後の
交渉の見通しについても、あわせて
外務大臣にお伺いいたします。
ところで、
橋本総理は、先月モスクワで開催された原子力安全サミット出席のためロシア訪問中、エリツィン大統領と会談されました。この会談で同大統領は、
我が国が従来より強く求めていた
放射性
廃棄物の
海洋投棄の禁止に関して、低レベルを含めた
放射性
廃棄物の
海洋投棄を全面的に禁じた
ロンドン条約改正議定書を今年中に受け入れる考えを表明いたしました。また、それまでの間も
海洋投棄はしないと約束をいたしました。これに対して
橋本総理は、最高のプレゼントだと高く評価されましたが、
我が国の
立場としては当然のことであると軽く受け流してもよかったのではないでしょうか。
国連海洋法条約加盟により、
排他的経済水域内での
天然資源の探査、開発、
保存及び
管理のための
主権的権利のみならず、あわせて
海洋の科学的調査、
海洋環境の
保護及び
保全に関する
管轄権も
我が国は有することになるのであります。日ロ首脳会談時には、本
条約は既に
閣議決定後国会に提出されており、
総理が本
条約の
趣旨を十分に踏まえておられたのであれば、身勝手な核
廃棄物海洋投棄に対してもっと断固とした姿勢で臨むべきではなかったでしょうか。剣道の達人の
橋本総理としてはいささか腰が引けておられたのではないかと残念であります。
総理の御所見をお尋ねいたします。
さて、
我が国は、
排他的経済水域を
設定することにより、国土面積の十倍以上に及ぶ面積の
海域において
海洋環境の
保護及び
保全に関する
管轄権を有することになります。また、
通関上、財政上、
出入国管理上または衛生上の
法令の
違反を
防止し
処罰することができる
接続水域が、従来の十二海里から二十四海里に拡張され、その守備
範囲も広がることになるわけであります。
そこで伺いますが、本
条約の
締結に際し、
排他的経済水域内での
管轄権行使及び
接続水域の拡張に関連して、
政府は
海上保安庁などの関連機関のどのような強化充実策を考えておられるのでしょうか。
船舶等の補充、人員の増強、さらには
取り締まり強化のための装備の拡充などが必要だと思いますが、
運輸大臣の御見解をお尋ねいたします。
次に、国際海峡についてお尋ねいたします。
領海法の一部
改正案では、
特定海域すなわち国際海峡について、本
条約の第三条で認められている
領海の幅である十二海里を採用せず、従来どおりの三海里としております。
我が国の安全保障の観点から、
領海の幅を極力ふやし、シーレーンの防衛に努めることの必要性は改めて言うに及びません。なぜ
政府は国際海峡については極力十二海里に近い
領海を持とうとしないのか、疑問を持たざるを得ないのであります。
条約のどこに、
領海の幅をふやしたときには通過通航権を認めなければならないと
規定されているのでしょうか。当該国際海峡において自由に通航できる
海域を
設定しさえずれば、ふえることになる
領海も含めた
海域では無害通航権のみを認めることになると考えるものでありますけれども、
総理の御見解をお伺いいたします。
海洋法の
批准をめぐっては、以上述べてきましたように、近隣諸国との間に難題をはらむ
交渉が待ち受けていることでありましょう。しかし、この
条約の大原則は、関係する
国々が平和的に共存共生することを前提に、各国が国益と
海洋秩序とを調和させ、海を人類発展の源とすることであります。多くの識者も指摘していますが、
海洋法の
批准によって一時的に隣国間の利害対立が表面化することがあったとしても、それを逆に対話強化のチャンスとすることもできるのであります。
東アジアの政治的な安定にもあるいは経済的な発展にも、海の平和と
秩序の確立が必要であり、
海洋法の理念をその礎としなければいけません。
国家と国民の利益を守るとともに、日本が尊敬と信頼を集めて世界の中で生きられるよう、日本外交の毅然とした取り組みが不可欠だと考えますが、
総理の御所見をお伺いして、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔内閣
総理大臣橋本龍太郎君
登壇〕