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清水参考人 私は東京弁護士会の弁護士ですが、薬害エイズの弁護団も七年間やってきた者ですが、この
事件についてはまた後に弁護団のほかの弁護士が、
情報を隠すということがどういう問題をもたらすかということを詳しく
説明すると思います。
私からは、ごく日常的な
事件としての、健康茶というお茶がよく出回っていますけれども、そのことに関する
情報公開について、ごく普通の一市民がかかわった
事件に私も代理人としてかかわりましたので、そのことについて御報告させていただきます。手元にB5のレジュメを用意してありますので、御参考にしてください。
今回私がここで言いたいことは、秘密を
判断するということを果たして実施機関である
行政機関が常に適切になし得るのかということに対する問題提起をしたいというふうに思います。
事件の
経過ですけれども、
平成三年五月二十四日に新聞に、輸入健康茶から農薬が検出されたという報道がされました。この報道を受けて、この原告の方は六月十八日に東京都に対して
情報公開請求をしました。これは東京都の検査結果としての報道だったものですから、東京都がこの
情報を持っているはずであるということでの
情報公開請求をしたわけです。
その動機としては、この原告の方、請求者の方は、お母さんもそれから本人も健康にかなり気を使っているというか、体の弱い方なものですから、健康食品とか健康茶には関心を持っていたということで、この
情報公開請求をして、一体どういう商品からどういう農薬が検出されているのかということを知りたいということで、個人的な思いで
情報公開請求をしたわけですけれども、東京都はその月、六月二十三日に全面非公開の
決定をしました。つまり、何も見せないということです。これは、その当該商品名とか検出量とか、そういう
部分の問題ではなくて、およそ何も見せない、そういう
決定を下したわけです。
当然のことながら、これに納得できないということで、八月二十七日に
異議申し立てをしまして、審査会の方は、翌年の七月までかかりまして、七月十四日に一部開示の答申をしました。ところが、この答申でも当該商品名を除くというものでした。この答申を受けて東京都の方では
決定を出したわけですけれども、これも同じく当該商品名を除く一部開示というものでした。
請求者としては、商品名がわからなければ
意味がないということで、その年の十一月十三日に提訴をし、ちょうど二年たった
平成六年の十一月に全面公開の
判決を受け、二週間の控訴
期間を待たずに東京都の方は控訴しないという意思表明をされ、
確定をしました。
ここで、東京都の最初の
判断と審査会の
判断と
裁判所の
判断、これが三つとも違うわけですけれども、それぞれどういった
理由なのかということが問題になるかと思います。
東京都が全面非開示にした
理由としては、ここに書きましたように、開示すると営業者の競争上または事業運営上の地位その他
社会的地位を損なうおそれがあるというものでした。それは、もうちょっと具体的に言うと、この検査はすべての商品に行ったものではないし、また食品衛生法上の基準の
範囲内にあるものであるので、そういった商品名や検出量を公にすることによって、本来は法的に何も問題ないにもかかわらず、その業者が不当に営業上の不利益を受けることになるということが
理由だったわけです。
これに対して、審査会の一部開示
理由のところでは、簡単に言いますと、商品名さえわからなければ別に出してもいいではないかということで、商品名を除いた
部分の開示をしたということになります。
それに対して、
裁判所がどういうふうに考えたかといいますと、商品の品質、性状に関する客観的な
情報は、流通に置いた後はもはや事業者が秘匿する合理的な
理由はなく、実際にも秘匿することはほとんど不可能である。つまり、一たん商品として出てしまうと、それは民間でも研究所で分析することは可能ですので、企業秘密だと言ったとしてもそれは無理なのだということを
裁判所はまず言っています。そして、かかる
情報の公表により消費者が商品を比較するために事業者の営業に影響が生じるのは当たり前であって、事業者はこれを甘受しなければならないのだというふうに言っています。つまり、消費者が出回っている商品についていろいろな性状、品質の
情報を得て自分がどれを選ぶかというのは、消費者の行動としては当たり前のことであって、またそれを防ぐことはできないのであって、東京都がその商品について集めた
情報は当然全部出しなさいということを言ったわけです。
問題ですが、本件の場合、実施機関の最初の
判断は全面非公開だったわけです。それが最終的には全面公開になり、かつ実施機関もこれを納得しました。納得したというのは、控訴をしなかったということにはっきり態度にあらわれているわけです。
では、その全面非公開をした背景はどんな考え方があるのかというと、
裁判の
経過、それから
異議申し立てをしてきたときの相手方の
答弁書の内容などからしますと、専門家、すなわち実施機関こそが最も適切な
判断をなし得るという自信に満ちています。自分たちこそが適切な
判断ができるのであるから、素人である消費者、国民が意見を差し挟む必要はないのだという態度がはっきりあらわれています。
それから、もう
一つその反対側の問題として、実施機関が
情報公開
制度を十分に知らないという、
制度についての理解がないということが非常に問題です。つまり、東京都は
情報公開条例をつくってもう十年以上になるわけですけれども、実施機関でありながら、この
情報公開
制度のもとでは基本的に
情報を公開しなければいけないのだという考え方がまだ身についていないということが出ています。そのために広報と
情報公開の区別がほとんどついておらず、広報として出している
情報の
範囲内、あるいはそれに若干プラスアルファ程度のものでいいのではないかというような安易な考え方が一般的にあるように感じられます。
それは、具体的には安易な非開示
理由への当てはめというところにあらわれ、具体的には、非開示
決定の用紙には非公開の
理由を書く欄があるのですけれども、ここに非公開の
理由が書かれることがほとんどありません。実施機関の方としては書いているつもりなのかもしれませんが、数年前までは非開示の
理由欄には該当条文だけが記載されていて
理由は書かれていませんでした。どの条文に該当するかということと、なぜその条文に該当するのかということは全く別問題です。この条文に当たるのだというだけでは、それは結論でありまして
理由ではないわけです。しかし、そういったやり方が一般的になされていました。
別の
事件ではありますけれども、私が代理人として最高裁まで行った
事件がありますけれども、東京高裁、最高裁で、こういった
理由の記載の仕方は
理由の付記になっていない、
理由を記載したことにならないということで、東京高裁でも最高裁でも否定をされております。
しかし、その後も、非開示の
理由につきましては、本来であれば個々の項目ごとにどういうことが、中身そのものを指摘するのではなくて、どういうことが書いてあって、そのためになぜ開示できないのかということが具体的に指摘されなければならないにもかかわらず、そういったことがなされている非開示
決定というのはほとんどありません。多くの場合が、条文の摘示とその条文に書かれている文言ですね、例えば正当な事業者の営業に影響を生じるおそれがあるんだとか、その条文の文言をそのまま引用したような
理由が書かれているものが、あるいはそれと似たような書き方しかしていないものが非常に多いわけであります。
つまり、開示をしないということが、公開をしないということが本来は例外的に認められていることなんだ、したがって、それは説得的な
理由をきちんと書かなければいけないという考え方が実施機関に浸透していません。そのために、
異議申し立てをされるケース、それからさらには
情報公開の
裁判、
処分取り消しの
裁判というものに発展していくことが多いわけですけれども、きょうはちょっと資料を持ってこなくて申しわけないのですけれども、この
異議申し立てをした場合に、かなりの割合で全面非公開の場合は一部公開になりますし、一部公開でも公開の
範囲が拡大されるというのは、
情報公開をやっている者にとってはこれは日常茶飯事です。それから、
裁判になる場合でも全面非公開のものが一部公開、一部公開が拡大される、これも日常的です。
通常、
行政訴訟では、なかなか原告代理人は、原告側は
裁判には勝てないと言われていますけれども、
情報公開の
裁判、
異議申し立てでは、多くの場合、五割以上と言っていいと思いますが、原告側が勝っています。これは、ほかの
行政事件からすると異常な事態だと思います。それは、審査会の
委員の先生方やそれから
裁判所から見ると、従来の
情報の秘密のあり方というのは非常に間違っているのではないかというふうに見られているわけです。決して請求者、
情報公開を請求している者、原告だけが異常だというふうに考えているのではないということであります。
それでは、本件の場合、実施機関が心配していた本当のところはどういうことかといいますと、まずこれは
情報集めのときに協力してもらっている事業者との
関係が悪化するのではないかということを心配していました。しかし、この点に関しては、公になると崩れてしまうような信頼
関係というものを東京都と業者が持っていいのかどうかということを、担当の実施機関と私どもで話し合ったことがありました、この
裁判の後ですけれども。そして、そういった
関係そのものを
改善していくというのが
情報公開の考え方だというところで意見の一致を見ることができました。
それから、マスコミに過大報道されることに対する懸念ということを表明されていましたけれども、これはマスコミ
対策をきちんとするということで対応すべきではないか、
情報を出さないということで対応するのは間違いではないかということで、これも意見の一致を見ることになりました。
文書提出命令等の
関係について言いますと、本件の例に見るように、秘密
判断を実施機関が間違えるということが決してまれではない、それも全面非公開が全面公開になるということがあるということであります。そうしますと、秘密の
判断について実施機関にゆだねてしまうようなあり方は問題があるのではないかというのが私の問題提起です。
以上で終わります。ありがとうございました。