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高橋参考人 日本薬剤師会の
高橋でございます。
本日、私の陳述は、要旨をお配りしてございますので、一応その順に従って
意見を述べさせていただきたいと思います。
初めにお断りしておきますが、私自身、この法案
改正の引き金となった
医薬品安全性確保対策検討会の
委員でございますし、その後、
中央薬事審議会の
薬事法改正等特別部会の
委員もやっておりますので、原則賛成の
立場でお話し申し上げることになると思います。
今回の
改正の趣旨は
医薬品の
安全性向上ということを目的としたものでありますから、この観点から考えますと、今回の
改正案の骨子であります
臨床試験につきましては、
医薬品の人に対する
有効性、
安全性評価の第一段階である
臨床試験の適正化を図るために、その
実施基準である
GCPの遵守が
法制化されるということは極めて有意義だと考えます。
殊に、現在、日米EU三極の
医薬品審査のハー
モナイゼーション国際会議、ICHの
GCP案が今ちょうど国内規制の制定を目前にしておりまして、そうした
意味では非常に時宜を得た法
改正であると考えます。
しかしながら、
ICH-GCP案には、三極の国情の違いから、
我が国の
現状とややかけ離れている部分もありまして、国内規制に当たっては、
実施可能な具体性と同時に、やはり近未来の展望を踏まえた弾力的な施策運用が望まれるということになります。
本日の
参考人には、
臨床試験の権威の方あるいは
臨床薬事の
専門のドクターの
方々がおそろいでございますので、余りこの部分については詳しく述べませんが、
欧米各国で
日本の
臨床試験というものが余り信用されない幾つかの
問題点、例えば、インフォームド・コンセントの不徹底、多施設共同
試験での施設当たりの症例数の不足、あるいは
企業と今までの
治験総括
医師、病院内のIRB、院内
治験審査委員会等の
責任分担というものが明確でないこと、それから、
試験データの生物学的統計処理に合理性に欠けるものがあり、また学問的に考えまして、
評価される論文として余り発表されていないということ、これがやはり諸
外国から見て
日本の
治験に疑問を投げかけるゆえんだと思います。こういった面の
改正をされることを期待しております。
次に、再
審査制度についてでございます。
医薬品の
副作用というのは、
臨床試験でそのすべてを発見することは不可能でございます。これはもう症例数が明らかに不足で、
臨床試験というのは大体五百例から二千例ぐらいにとどまっておりまして、まれに起こるとされる〇・一%の
副作用を発見するためには明らかに例数不足でございます。したがって、再
審査によってこれが検証される必要があります。
また、実地
医療の場では、管理された
臨床試験とは異なった状態でいろいろな事象が発生します。
副作用と断定できない有害事象もこの中に含まれるわけでございます。この
安全性確保の引き金になった
ソリブジン事件、この
薬物相互
作用は、極度に併用薬を禁止している今の
臨床試験ではなかなか発見できない問題でございまして、この相互
作用の検証ということも今後の
治験における大きな課題であろうと思います。
また、現在の
臨床試験では、
対象患者の年齢層とか臓器健康度などに偏りが出ます。実地
医療の場ではこういった
患者に対して適用されるわけでございますので、
市販後
調査でこういうことも精密に調べていき、こうした事象を早期に発見して
対策を講ずるということが
安全性確保の上で非常に重要であると思います。
この観点から、再
審査制度における
市販後
調査が基準に従って
実施されるということは、精度の高い
安全性情報の
収集に大いに寄与するものと考えております。
市販後
調査に関しましては、
市販後
調査検討会という
委員会がございまして、そこの中間報告が出されましたが、この中では、
市販直後にいろいろな
副作用が集中的に発見されるということにかんがみまして、今後、
市販直後の重点的な
情報の提供あるいは
収集、そしてその
データの公表ということを考えておられるようで、この点の推進をぜひ期待したいと思います。
ただ、問題となりますのは、
市販後
調査というのは既に発売された
医薬品の追跡
調査でございますので、
現実にドクターが余り興味を示さない、そういう
意味でまた協力が得にくいという面から、現在、その推進に当たっている製薬メーカーが非常に苦慮しておりまして、こういう点の協力
体制をどのようにとっていくかということが必要な措置だろうと思います。
それからもう一つ、皮肉なことでは、まじめなメーカーが緻密な
市販後
調査をやりますと、
副作用の発見数が高くなります。ずさんにやった方が発見率が低い。このことが、精密な
調査をやったまじめなメーカーの製品の方が
副作用発現率が高いような錯覚を起こさせてしまうわけです。
安全課では、この再
審査制度に関して新しい再
審査制度をスタートさせております。まだ新しい制度によった製品の例が上がってきておりません。これを二、三年待って、この製品の
データがどうなるか、やはりメーカー問の格差をなくすということがこの再
審査の重要課題だろうと思います。
次の課題の再
評価制度でございますが、
医学、薬学の
進歩に伴いまして、いろいろな病態生理が解明され、
治療法が変遷していきます。また、その間に、新しい
医薬品の
開発などによって、
承認時に非常に有用だと考えられた
医薬品でも、
評価がだんだんに変わってまいります。また、過去において有効と考えられたものが、真に
治療学的には余り意義がないということも今までに例がございます。
こういった点から、
承認後一定期間ごとに
医薬品を再
評価するということは、有用性が低下した
医薬品を
医療の場から排除するという
意味で非常に有効だと私は思います。この再
評価資料の基準というものが
法制化されること、これは私は賛意を表する次第でございます。
また、こうした諸
審査制度を円滑に推進するために、現在の行政
機構ではとても対応が困難であるということから、これを補完する
意味で
機構法の
改正が並行して行われまして、
厚生省の
業務の一部を分担することが考えられました。私は、これは現時点で最善の選択だろうと思います。
今回の法
改正は、
医薬品の
安全性確保だけでなく、
承認審査の迅速化とか
相談制度による
開発の効率化などが志向されておりまして、これらの実効ある制度
改正を実現するためには、関連する省令とか通知等の適切な運用が望まれる次第でございます。法律というのは骨組みでございまして、この骨組みのでき上がったものに魂を入れるかどうか、あるいは骨抜きにするかどうかは、やはり省令、通知等によってその効力が違ってまいります。弾力的な運用を期待したいと思います。
また、この
医薬品機構の利用につきましては、屋上屋を重ねるというような
意見も一部にございますが、これは行政が分担することが不適当な部分を
機構が分担するということで、十分
活用できるのではないかというふうに考えます。
私は、こういった
機構の
承認審査の迅速化等で
日本の
製薬企業の育成ということも並行して行っていただきたいと考えております。
日本のような資源の少ない国で、高付加価値の製薬産業、また技術的にもかなりの高水準にありますので、こういった
承認審査の合理化、効率化、迅速化ということでぜひとも
製薬企業に側面からのバックアップをしていただきたいと考えます。
今回、緊急に必要な
医薬品の特例輸入等の許可が盛り込まれましたが、これは本
改正案の条件を満たす範囲で当然の措置だと私は考えます。
次に、
医薬品の
安全性の確保ということは、
情報の
充実が大変重要であります。この観点から、
副作用情報の迅速な報告、適正
使用に必要な
情報の
収集、提供を製造業者に求めたことは当然の措置であると思います。同時に、努力規定ではありますが、
医薬品販売業者にも販売時に適切な
情報提供ということが明文化されたことは、生命関連商品としての
医薬品の特性を考慮した妥当なものと考えます。
ただ、
情報媒体の課題としては、現在一番頻繁に、また、ある
意味では公的な
意味で用いられております
医薬品の添付文書というものの性格がまだあいまいな部分があると私は思います。
承認事項以外は、メーカーの自主的な作成あるいは改訂に任されております。
御承知のように、一月二十三日の最高裁判決で、ペルカミンSによる事故について
医師側の過失を認定いたしました。これは、添付文書に二分ごとに血圧測定をするということが書かれておりまして、それが、当時の
医学的常識である五分ごとの血圧測定で行った
医療側に過失を認めたということで、添付文書に書かれてあるという事実がこういった判決に影響するということ自体、添付文書内容というものにかなりの
科学性を私は求めたいという気がいたします。
このほか、薬局管理者の、これは管理薬剤師でございますが、保健衛生上の職務
責任を明確かつ
強化して、薬局開設者はその
意見を尊重しなければいけないということが今度盛り込まれました。これは、現在薬剤師会が進めております適正な医薬分業の推進に非常に有用なことであろうと思います。管理薬剤師が責務を自覚する、また
責任の重さを自覚する必要があると思います。
既に、クラフトとか
日本調剤、余り好ましくない大型調剤薬局チェーンが不適正な一つの業態を露呈いたしました。この中にも管理薬剤師がいるわけで、この薬剤師が本当に職能的な理念あるいは倫理を持って自分の
責任感を自覚し、何とかこの開設者に
意見を述べることができなかったのだろうか。被用者でありますからここには非常に難しい問題もあろうかと思いますが、やはりこういったことを法に記載していただいて、薬剤師の倫理観の
向上を期待したいと思っています。
また、今回の
薬事法改正に関連いたしまして薬剤師法が
改正されました。これは、きょう
参考人として出ている唯一の薬剤師である私どもにとっては非常に重大な問題でございます。
薬剤師法の一部
改正は、薬剤師が調剤した場合には、「調剤した薬剤の適正な
使用のために必要な
情報を提供しなければならない。」という一文でございます。これは、従来の薬剤師法では、
医師の処方の、氏名、用法、用量を薬袋に記載すればよかったわけで、これと比べますと
情報提供に対する比重がかなり拡大いたしまして、我々の職能範囲の拡大、またその内容の高度化が求められたというふうに解釈しております。
しかし、これは
医薬品の適正
使用を推進する上で薬学
専門職である我々が当然果たすべき責務だと思いまして、その遂行にこれから全力を傾注する所存であります。
ただ、ここにおける大きな課題は、
医薬品の適正
使用とは何なのか。私どもは、
医療に携わる人間として、
医学的に適正か、あるいは
治療学的に適正かという
評価、これが
医薬品の適正
使用の
評価だろうと思いますが、現在の高齢慢性疾患の場合の
治療薬の
評価というものは、本当にエンドポイントがまだ明確にされていない薬剤がまだ
使用されているということ、あるいは、延命効果あるいはQOLの
向上といった疫学的な
調査を必要とする
データが
日本に余りないとうことで、
医学的な適正ということの判断は非常に難しいというふうに感じます。
それから、必要な
情報の範囲というのはどの程度なのだろうか。これは言ったら切りがないかもしれません。しかし、二月末の高松高裁における逆転判決と言われる例では、高知の
医療機関が退院時に
患者に投与した薬剤によって極めてまれに起こる障害が起こって死亡した、これに対して高松高裁は、具体的にその障害の予兆となることを告知しなかったということで
医療側の過失を認定しているわけでございます。
こういった
意味では、これからの
情報提供というのは非常に難しくなるということで、これがまたさまざまな理解の能力の違う
患者さんにどうやったら効率的に告知できるかということは、これは私ども薬剤師にとっても非常に重要な問題でございます。こういった問題を解決しないと、この法案
改正の実効が上がらないということになります。
今我々は、こういったことに関しましては、病院では入院
患者を
対象とする病棟薬剤師活動を行っており、開局者は既に薬歴を管理して服薬
情報を提供しております。しかし、これではまだ足りないということになると思います。
こうやって
現実に
業務を考えますと、病院なんかで外来
患者が多数受診いたしまして、一日に二千、三千枚というような調剤を行っておりますが、果たしてこれから病院調剤というのはできるのだろうか。すべての調剤に
情報提供するとなったら、今のような、スピードをかなり要求される病院調剤というものは成り立たなくなるのではないか。そうなれば、やはりこれは院外処方発行をせざるを得ないのではないかということも我々病院の
立場では考えております。
すべてこういった法
改正というものが
患者の利益というものを直視して行われておりますので、その道のりがいかに困難であろうとも、私どもは一応この効果的な実現に向けて努力したいと考えております。今後のいろいろな政省令その他の運用にまた期待する次第でございます。
以上で陳述を終わります。(拍手)