○清水
参考人 私は、
参考人の、
東京弁護士会に所属しております弁護士の清水直でございます。本日は、金融関連六法案につきまして意見を述べさせていただく機会を与えていただきまして、大変光栄に存ずる次第でございます。
さて、私どもといたしましては、この法案についての法律家としての専門的な
立場からいろいろ検討もいたしましたし、また私の友人あるいはまた後輩、こういった多くの弁護士の知恵も集めましていろいろ検討させていただきました。その結果について本日申し上げるわけでございます。
まず、
予算委員会での審議の場合もそうでございましたが、なぜ国民が六千八百五十億円の支出について同意しないか、納得しないかということは、一私企業の倒産の
処理になぜ公的
資金が使われなければならないのだ、これは納得がいかない、これが国民の意見であります。
私は、三十四年間にわたりまして、中小企業の再建に二百数十社関与してまいりました。公的
資金を補助してもらったことは一回もございません。興人のときには、関連下請を助けるために、平松
大分県知事が副知事の当時でございましたが、
大分に飛び、あるいはまた熊本に飛びしながら、下請の中小企業のおじさん
たちをそれぞれ十五分、二十分置きに呼びつけて、そしてこれらの人から
資金繰りを聞きながら、また、
静岡のカナサシ造船所のときにも、同じように下請企業のおやじさん
たちに次々に聞きながら、労働組合の要求の一時金を払う前にまず下請を助けるということをやってまいりましたので、私が今日までにやりました事件で連鎖倒産は一件もございません。
私は、中小企業庁の倒産対策
委員を拝命しておりました間に、中小企業の倒産防止のための保険あるいはまたいろいろな法律の作成に関与いたしました。これにおきましても、結局、信用保証協会の保証枠を広げるとか、あるいはまた無担保・無保証で貸し付けるということの制度はできましたが、倒産関連企業の救済のために公的な
資金を補助金として出すということは、これまでに一度もございません。
やはり倒産事件については、倒産に関連あるものが自己の責任において
処理する、これが鉄則でございます。他の者の
債権を払うためにさらに融資をするということは銀行は絶対にいたしません。したがいまして、他の
債権者の
債権、元金、利息を払うために金を貸してくれと言って借りられたことは一度もございません。合理化をするための退職金あるいはまた設備投資の
資金、こういったものを借りるということはできますけれども、他人の
債権の弁済のための借り入ればできないのでございます。
また、会社更生法で更生
債権を更生計画で支払う場合も、裁判所は、更生計画で定めた更生
債権を払うために共益
債権としてさらに他の
金融機関から金を借りるということを絶対に許可いたしません。したがいまして、更生会社は自己の力によって、営業収益または資産によって弁済をするというのが、これまた鉄則でございます。
にもかかわらず、住専に限り六千八百五十億円からの公的
資金が導入されるということに国民は納得しないのでございます。もちろん、私は預金者保護、金融システムの維持ということについては、
皆さん方と同じ意見でございます。そのためには、五兆円かかっても十兆円かかってもやる必要があると私は思っております。しかし、住専の
処理のために六千八百五十億円が出されるというこの一点に限って、国民は納得していないのでございます。
そのために、今日これだけ長い期間の審議が行われ、そしてまたこの
住専関連法案、
本当はこの関連法案の審議こそ三月、半年かけてもよろしい内容なのでございますけれども、いかんせん六千八百五十億円の審議で長期間かかりましたために、この法案の審議は短い期間になってしまったということは大変残念でございます。しかしながら、いろいろな点を考えてまいりますと、私はやはり、本件については早期
処理をする必要がある、こういうふうに考えます。
私の結論といたしましては、六法案中のいわゆる住専
処理法案と
時効停止に関する法案、この二つは廃案にすべきものであると考えます。そして、あとの四法案は、健全化法案にいたしましても、公認会計士等による監視を入れるというふうな点を見てまいりますというと、健全化法案などは当然のことでございますし、それからまた
預金保険法あるいは貯金保険法、こういった
関係の法律につきましては、これは早期にこれを成立させて、そしてその上で、今盛んに金融システムの崩壊、あるいはまた不安と言われている部分を早く解決しないと、農協の預金が減少しているということも言われております。第二地銀の預金が少なくなっているということも言われております。
これは国民が、やはりじわりじわりと預金者保護ということが果たして行われるのかどうかということについて不安を持っているということを示すものでございます。その
意味におきましても、国際的な信用を回復するためにおきましても、早くこの金融関連の法案につきましては成立させる必要があると思うのでございます。
それとあわせまして、私どもは、今回の法案を検討させていただきました結果、やはり政府といたしましても短い期間にこの法案を作成されたと見えまして、学識経験者からの意見の聴取、あるいは法制審議会における審議、こういったことが十分になされないままにこの法案ができたような節が多々見られるのでございます。
そしてまた、私どもは、
東京と大阪の倒産
関係にベテランの弁護士が集まりまして、年二回研究会をしております。これはもう既に十年ぐらい続いております。その中でも、破産法、会社更生法、和議法、商法のこの四つの法律、手続的には五つあるのでございますが、これが古い。会社更生法が最も新しゅうございますが、破産法、和議法等になりますというと明治時代からできた法律でございますので、今日の時代の要請に合わない。したがって、これを今の時代に合うように改正する必要があるということをすべての
関係者が言っております。
そこで、私は、どうかこの
委員会、この
国会におきまして、この住専あるいはまた金融関連法案の決議に際しまして、この法案を成立させると同時に、また破産法、会社更生法、和議法、商法の既存の倒産関連法の改正を行いまして、そして今回の特例法との整合性を保ち、もって時代の要請にこたえるようにすべきである、この点についての附帯決議をしていただければ大変幸いである、かように考える次第でございます。
次に、住専
処理法案について簡単に述べますというと、これは
予算委員会のときにも私は若干触れさせていただいたのでございますが、住専の各社に
管財人を送り込めば、
管財人が直接取り立てもするし、責任追及もするし、証拠も直接集められるから、最も迅速でかつまた的確に行えるということを申し上げたのでございますが、これが住専
処理機構に一たん移る、それからまた住専
処理機構で取り立てが難しいものは今度は預金保険機構に行くと、二重、三重に取り立ての手続が移行するわけでございます。その段階で間接的になっていく。
特に、法案を読んでみますというと、隠ぺいその他難しいものについては、これは預金保険機構にやってもらいなさいと書いてある。そうすると、住専
処理機構は、まあほどほどに、余り努力しなくても、暴力団と渡り合ってなんて危険なことをしなくても、簡単に回収できるものだけ回収して、難しいものはどんどん預金保険機構に御連絡申し上げてそちらにやっていただく。預金保険機構は、またこれは委託を受けて取り立てるのですから、
自分の
債権債務ではない。他人のものをかわって取り立ててあげるということですから、これまた取り立てに腰が入らない。
ですから、住専
処理機構もいいかげんならば、預金保険機構もいいかげんになるのは間違いないのでございます。やはり住専そのものに
管財人が入れば、
管財人は
自分の責任とそれから権限において取り立てをするというのでございますから、極めて迂遠な制度をつくってしまう。その結果、際限なく公的
資金が導入されるという構図ができ上がっている。まさに無責任体制をつくるものであると私は思います。
それから、すべての手続の着手が遅過ぎると私は思います。私が、住専について会社更生法によって
処理すべしと申し上げたのは一月でございます。
予算委員会で申し上げたのが二月でございます。既にそのときからはや三カ月、四カ月たっているのでございます。去年の十月、住専についての方針をお決めになったその時点でもし更生法の適用申請をさせていたならば、今日では既に
更生手続を開始し、
管財人あるいは保全管理人による
債権の取り立ても行われ、
債権調査も進み、そして
管財人の調査
報告で住専の
実態をきちんと国民にわからしめることができていたと思います。
その
意味におきまして、これからやっとこの法案が成立し、それから住専各社について解散あるいは営業譲渡の決議をし、そしてその上でこの手続が始まるということになりますというと、営業譲渡の決議につきましても、これまた公取の手続も要るでございましょう。このようなところを考えてまいりますというと、
本当に住専
処理機構が動き始めるのは、ことしの九月かあるいは下手をすると十二月ごろにならないと実際の活動はしないのじゃないかというふうに思うのでございます。
この間に、前の
予算委員会でも申し上げましたが、住専の資産の状態は日に日に劣化しております。新聞
報道にもございますように、もう既に二〇%の社員がやめていっている。大体こういう場合には、やめるのは優秀な社員からやめるのでございます。
そして、金融
関係者に言わせますというと、結局は住専
処理機構ができたときには現在の社員でやることは非常に難しいと。みんなそれぞれに解雇するなり再就職させて、母体行から全然新しい社員を住専
処理機構に出向させるのでなければ仕事はできないだろう、こういうふうに言っております。いかに住専
処理機構というものが
関係者にとって魅力のない存在ということになりつつあるかということについて、御
記憶願いたいのでございます。
それから、住専
処理機構につきましては、先ほど申しましたように、
債権の取り立てについてだれも責任を負うべき
立場の人がいないということでございますので、このために、無責任体制ができ上がるということは言えると思うのでございます。難しい
債権は預金保険機構にやってもらいましょうということでございますから、また預金保険機構は単に委託を受けてやるだけでございますので、
自分のものではないというところにもう
一つ腰が入らないということになりますので、無責任体制ができ上がってしまうということになろうと思うのでございます。
それから、住専
処理法案につきましては、否認権もございませんし、調査権限も弱くて、いろいろな点で会社更生法あるいは破産法よりも権限が弱いのでございます。したがいまして、十分な成果を上げられるか甚だ疑問でございます。
それから、
関係者に意欲をかき立たせるスキームもございません。そのために、
関係者は傍観視するような
立場でしか協力しないのではないかということが言えると思うのであります。
次に、
時効停止法案について申し上げたいと思います。
時効停止法案につきましては、これはこの権利の性質によって一年、二年等の定めがございますので、その
時効停止についてこの法案で決めましても、それは法のもとの平等に反するのではないかという意見もございます。それからまた、その特定の者に限り有利に認めるというところに問題があるのでございまして、この
時効停止についての法案というのにつきましては、非常に大きな問題があるということを申し上げたいと思うのでございます。
そして、今日、住専
処理法案がこれだけ長くかかってまいりましたために、日々に財産は劣化し、それからまた
関係者の意欲もそがれつつございます。このような状態の中で、今回各関連法案が審議されるわけでございますが、この中で特に申し上げたいことは、やはり預金者の保護ということは大切でございますけれども、その預金者保護ということの美名が、それが曲げて使われているという面がございます。
それにつきまして、例えば農協系の預金者の保護ということにつきましては、それはそれでそういった手だてを考えればいいのでございまして、住専は預金がないのでございますから、したがいまして、住専そのものについての
処理はドライに
処理しても大丈夫と私は思うのでございます。この点につきましては、私は、先般著書におきまして、住専につきまして十五年間のシミュレーションをいたしたものを発表してございます。それをごらんいただけばわかります。金利を払って全部弁済できるということが記載してございます。その
意味におきまして、この点を十分御検討いただきたいと思うのでございます。
私どもの持ち時間としましてもう余りないようでございますので、
最後に申し上げたいと思いますが、この
住専関連法案及び今回の各種の法案につきましては、それぞれの必要性はございますけれども、特に先ほど申し上げました二つの法案については、これは廃案とすべきものであって、あとのものにつきましては、それぞれしかく御検討願いました上で成立させていくべきものであると考える次第でございます。(拍手)