○尾身
委員 政府が今国会にこの
住専問題の解決案を提案をされているわけでございますが、この案の中におきまして、特に六千八百五十億の
財政支出について
国民の
理解が十分に得られているとは言えない
状況であります。そして他方、
総理大臣や
大蔵大臣は、関係
金融機関等に新たな寄与を求めたいという
ような趣旨の
発言をされているところでございます。
そこで、私は、この
質疑におきまして、
政府の
住専処理案の基本的性格、それからまた新たな寄与についての
政府の御見解を伺いまして、
国民の皆様によりよくこの問題を
理解をしていただく、そういうことにしていただきたいと考えている次第でございます。
いわゆる
バブル経済がはじけた後、いわゆる
不良債権問題は、
我が国経済を本格的な回復軌道に乗せるためにはどうしても避けて通れない、解決をしなければならない問題であります。
不良債権問題というのは、例えて言えば、
バブルの最中に、十億円の
土地を持っていた会社がその
土地を
担保にしてビルを建てる、そしてそのビルを売るなり貸すなりしたいということで、
土地の値段は十億円でありますから、八億円借りてその上にビルを建てたい、こういうふうに考えたとする例があるわけであります。それに対しまして
銀行は、当時、今の価格が十億円のものは来年は十二億になる、再来年は十五億になる、
土地はどんどん上がっていく最中でありましたから、八掛けの八億円ぐらいならば絶対大丈夫だということで、安心して
お金を貸しました。
ところが、
バブルがはじけて
土地の値段が十億円から五億円にどんと下がってしまった。もちろんビルを建てるどころではなくなって、
お金も使っちゃった。それで、貸していた
銀行が、
土地を
担保にしてありますから、これを回収しょうと思ったら、十億円だった
土地が五億円になっちゃって、八億円貸していた金が五億円しか戻ってこない、こういう
ようなことになってしまったわけであります。
この
ようなものがいわゆる
不良債権でございまして、今
不良債権が
日本経済全体でどのくらいあるか、大変大きな額でありますが、先ほど
銀行局長のお話ですと、最近の、三月の調査では三十四兆七千億あるというお話でございました。この
数字を信用すればそのとおりでありますが、一説によっては四十兆とか五十兆とかいう
不良債権があるというふうにも言われているわけであります。この
数字は、一年間の
日本経済のGNPの約一〇%、一割に相当する大変な額であります。
この
住専関係の
不良債権は、
大蔵省の試算でありますと約八兆円と言われているわけでありますから、
日本全体の
不良債権の大体四分の一から五分の一ぐらいだと考えているわけでありますが、その内容が実は極めて悪質なものでありまして、
日本全体の
不良債権の
処理における最大のがんである。したがって、この一番の中心の
住専の
不良債権問題を解決しないと、
日本経済は立ち上がれない、立ち直れないということになるわけであります。
したがいまして、この
住専問題をどうしても解決しませんと、
日本経済に対する国際的な信用にも響き、そしてまた
景気の本格的な立ち直りも実現できない。そういう意味で、現在の最大の政治課題とも言っていいと思うわけであります。
少し復習をさせていただきますと、
住専、七社でありますけれ
ども、もともと
住宅金融専門会社ということで、マイホームローンをやるために設立されたわけでありますが、その後、マイホームローンがだんだんだんだん
銀行に仕事をとられて、不動産融資にのめり込んでいった、そして
バブルがはじけて大変な
経営状態になったということでございます。
昨年の夏に
大蔵省が調査をされましたら、
住専については、七社合計で、一方で十三兆円の借金がある、借金といいますか、具体的には借金と
資本金でありますけれ
ども、債務と
資本、そういうものがある。片方で、名目的には十三兆円の資産が同じくバランスシートに立っているわけです。
しかし、その十三兆円の資産をよく調べてみたら、実は甘く見てもそのうちの六兆四千億ぐらいはもう戻ってこない。先ほど申しました
ような意味で、
担保を競売にしてその金を取り戻すということにしても、六兆八千億ぐらいしか戻ってこない。したがって、ネットで六兆四千億が丸々赤字になっている。債務が十三兆円あって、ネットの資産が六兆八千億しかない。したがって、借りている
お金と貸している
お金の差額が六兆四千億もあるということで、大変ないわゆる債務超過になっているわけであります。
そういうわけでありますから、もとよりこの
住専は
経営を再建するなんということは到底できませんで、つぶれる運命にある。また、つぶさなきゃならないわけでありますが、先ほど申しました
ように、損失、債務超過の規模が六兆四千億という非常に巨額な額になっているために、そのつぶし方、あるいはこれを考えて、
社会的摩擦をできるだけ少なくする
ような形でこの
住専をつぶして、そして
日本経済を正常化させなければならない、そのつぶすときの摩擦及び
国民の
負担を可能な限り少なくしなければならないということで考えた案が私は
政府の
住専処理策であると思うわけであります。
その
処理策の中身は、七社合計、合わせまして名目で十三兆二千億、実質で六兆八千億しかない
住専の全体の資産を特殊会社であります
住専処理機構に売却をする。売却する価格は、十三兆円はネットでないわけでありますから、六兆八千億がネットの実質的な価値、甘く見て六兆八千億でありますから、その六兆八千億で売り渡して、そして
住専七社の権利義務関係をすべてこの
住専処理機構で継承をして、そして
債権回収あるいは整理を図っていこう、こういう考えであります。
それで、この問題が大変深刻な話題になりました昨年の十二月に、六兆四千億穴があいているわけでありますから、今までの債務が十三兆あるということは、ほかに、つまり貸している方が、会社が十三兆円分の、十三兆二千億分の
債権を持っているわけです。それを六兆八千億にまで縮めなければいけないということでありますから、どうしてもその段階で、六兆四千億をこの
債権者のうちだれが
負担をするかということを決めなきゃならない。
そこで、片方で母体行と
一般行と言われる
銀行側、それからもう片方で農協系統と言われる農業関係者で、いろいろとどういうふうに
負担をするかという
議論を昨年の秋からしたわけであります。農業関係者、農協系統の方は、もともと
金融機関の一〇〇%子会社なのだから、その
金融機関、母体行が中心となって
責任を持って六兆四千億を全部
負担してもらいたいという主張をいたしましたし、片方母体行側は、これは
債権の額に比例して比例配分的に
負担をするのが商法原則であるということで、実は意見がまとまらなかったわけであります。そこで、先ほどの、解決しなければならない六兆四千億のいわゆる債務超過の
負担をどこでだれが持つかということについて、どうしても手が握れない、話し合いが決裂という状態になりました。
その話し合いが決裂したときにどういう手段が我々
政府あるいは
政治家の方であったかというと、私は三つあったと思うのであります。
一つは、今
政府が
提出している
ような
住専処理案を決めること、もう
一つは、そのまま問題を先送りすること、それからもう
一つは、破産
処理手続、
法律的手続でどんどん破産
処理にしてやってしまう、そういうふうな三つの選択があったと思うわけであります。
しかし、その中で、最初のそのままほっておいて先延ばしするということは、後でも申し上げますけれ
ども、非常に大きな摩擦と混乱を起こす。それから、破産
処理手続でやるかどうかについては、これをやったらまた大変なことになるということで、結局、一番コストが安く、
社会的摩擦も少ない、
国民の
負担も少ない方法として今の
政府の提案がなされたというふうに考えるわけであります。
そこで、
住専の
処理策において六兆四千億の損失の
負担についてどうやったかというと、実質的に
経営をコントロールしてきた母体行に対しましては、設立の経緯とかその後の支配の
状況等、実質的な非常に重い
責任を考えて、母体行が出資している額全額と、それから
住専に
貸し付けている
債権の全額、三兆五千億を全部放棄していただく。それから、直接かかわっていないけれ
ども、
一般行と言われている
銀行等については、一兆七千億の
負担をしていただく。農林系統については、もともと親会社の大
銀行を信用をして五兆五千億という融資をしたわけでありますけれ
ども、しかし、融資の額が五兆五千億という非常に大きなものでありました。そしてまた同時に、農林系統の体力、支払い能力等も考えて、最大限の
負担、五千三百億をしていただいたというのが実態であります。しかし、それを全部合わせてもなお六千八百億不足していた、そこを
財政資金で穴埋めをする、我々の
税金で穴埋めをするという構想になったわけであります。
私は、この考え方というのは、講談にあります大岡越前守の三方一両損という考え方と似ていると思っております。昔、江戸
時代に、
お金を三両落とした人がおります。拾った人がいる。拾った人が落としたところの人に三両を持っていきました。あなたの
お金を私が拾ったからお返ししますと。そうしたら、落とした人が何と言ったかというと、いや、これは一たん落としたものだから私の
お金じゃありませんから、一たん落とした
お金は受け取れませんと言いました。拾った方の人は、冗談じゃない、私は自分のものじゃない
お金を拾ったんだから、落とし主の方に三両どうしても受け取ってもらわなきゃならない。
大騒ぎになりまして、裁判になった。大岡裁判であります。大岡越前守裁判長は、自分が懐から一両出して二人に二両ずつ分けて、自分が一両出す、落とした人は三両落として二両しか戻ってこないから一両損、拾った人は三両拾って二両しか手に入らないから一両損、そして私も一両出すから一両損で、三方一両損で、これで決着をし
ようという名裁きであります。
これは、この深刻な
住専の問題の例え話としては大変不謹慎であるという感じもするわけでございますけれ
ども、そして問題は、この裁判と違うところは、両当事者がこの
負担をしたくない、
お金を出したくないといって頑張って、どうしても
お金が足らないという
状況になったわけであります。
そのままほっておくと、両者の話し合い、つまり農協系統側と母体行側の話し合いは決裂をして、
住専の
処理策は、先ほど申しました二つの別の案、そのままほっておくことになるか、あるいは破産
処理手続の法的な手続に入るか、どちらかしか選択がない。しかし、その選択をとった場合には、
日本経済に大変な
負担をかける。結果的には
国民に非常に大きな
負担をかぶせることになる。したがって、どうしてもここで話し合いをつけて
処理案を出さなければかえって
国民全体に大きな
負担をかけるということで、この
処理案ができたというふうに
理解をしているわけであります。
私は、この
住専処理案の一番のポイント、基本的な性格というのは以上の
ようなことであるというふうに考えているわけでございますが、この点につきましてどうお考えか、
総理のお考えをお伺いしたいと思います。