○小野
委員 中川大臣におかれましては、一月初旬に御就任以来これで一カ月余りになろうかと思います。その間に、「もんじゅ」の視察を初め、中間取りまとめの報告、そしてまた指導改善、またスペースシャトル・エンデバー・ミッション、そしてJI、先ほど
原田委員の方から話があったハイフレックスの実験と、もうこの一カ月の間に随分いろいろな業務を精力的にこなしてこられまして、その真摯なお姿にまず敬意を表し、今後の御活躍を御期待申し上げたいと思います。
先ほど申しました、このわずか一月余りにも、これほどマスコミにたくさんの
話題が提供される今の時代の
科学技術の姿、これはまさに現代という時代が
科学技術に対して大変大きな期待を寄せていると同時に、
科学技術庁の任務の重大さを示しているものかと存じます。ぜひ長官を初め、
科学技術庁の皆さん方がこの社会的
ニーズにおこたえをいただきますように心より御期待を申し上げたいと思います。
さて、本論に入る前でございますけれ
ども、一冊取り上げてみたい本がございます。それは、比較文化論の
研究者でございます森本哲郎氏の著作「ある通商国家の興亡」という本なのでございます。この本は、お読みになっておられる方も随分おられるかと思いますけれ
ども、紀元前のアフリカ北部に隆昌をきわめましたカルタゴのその発展と衰亡の歴史を追いかけてきた本でございます。なぜあれほど発展を遂げた通商国家カルタゴがあえなく滅亡の道を歩まねばならなかったのか。その問題をテーマに取り上げている本でございます。その本の中で、余談のような部分でございますけれ
ども、おもしろい話が紹介されているのでございます。
それは、昔この著者森本哲郎氏が将棋の大山名人にインタビューに行ったことがあったのだそうでございます。そのときに、大山名人、あなたの得意な手は何ですか、こうお尋ねをしたところ、その大山名人は、「得意の手? そうねえ、アマチュアの人なら得意の手いうのあればいいですがね、プロには得意の手あっちゃならんのです。アイツ、あれ得意や、いったら、ねらい打ちされますもんね」こういうような話でございまして、森本氏はその話を聞いて、名人というのはさすがだな、こう感銘を受けたんだと言われるのであります。
この話というのがまさにこのカルタゴ滅亡の話というものと密接に関連をしているわけでございまして、当時のカルタゴは
世界で一番の経済力を持った国であったということであります。しかしながら、その経済力の優秀さゆえに周辺の諸国の恨みを買い、嫉妬心を買い、そしてまた周辺諸国からは脅威を感じられてきた。その過程を通し、ローマ帝国の力によってカルタゴという国が滅亡させられるわけであります。
このカルタゴ滅亡に関して森本氏はこんなふうに述べております。「カルタゴの歴史は文明の浅薄さと脆弱さをはっきり示している。それは彼らが富の獲得だけに血道をあげて、経済的な力のほかに、政治的な、知的な、倫理的な進歩をめざそうと、何の
努力もしなかった、ということである。」
実は私も、この
科学技術委員会に所属してからはまだ日数はわずかでございますけれ
ども、この永田町の方に当選してまいりまして二年半余り
科学技術行政を見てまいりました。また、
科学技術庁の姿を拝見させていただいてまいったわけでございますけれ
ども、その
科学技術庁が持っている問題というものが、どうもこの森本氏が
指摘している問題と非常に関連しているような気持ちがしてならないところがあったわけでございます。
科学技術庁の皆さんは大変純粋な思いを持って取り組んでいただいていると思います。
一つの決まったスケジュールが立てられますと、その上に懸命に
努力をいただいていると思います。そして、科学と
技術の進歩のみをみずからの使命として、本当に私
ども敬意を表するほどに熱心に追求していただいてまいりました。これは大変とうといものだと私は敬意を表しております。
しかしながら、
状況が大きく変わってくる中にあって、
科学技術という問題が、一番最初御
指摘申し上げましたとおり、もう既にこの
日本の国の中における単なる一部分ではなくて、非常に大きな部分になってきているんだ。それは単に
日本の国のみならず、
世界の中においても、
日本が果たすべき役割、またその責任というものについては大変大きなものが生まれてまいっておりまして、
科学技術創造立国を標擁し、
世界の中で
科学技術大国に今なっているということを
考えましたときに、単に科学、
技術の進歩のみが目的であるということでいいのだろうかという気持ちがしてまいったわけでございます。
先ほど
原田委員の方からも、
科学技術のあり方という問題での
指摘がございました。
宇宙開発、「もんじゅ」の問題、さまざまな問題に対して世論が必ずしも
科学技術庁の取り組みに対して拍手を送っているのみではないということ。そして、もっと広く
考えてまいりました場合には、二年前には、若者の
科学技術離れということを
科学技術庁が旗を振ってこの国に問題提起をなさったわけでございますけれ
ども、このような問題を
考えましたときに、
科学技術庁自身も、何かこの潮流の中で
考えるべきものを持ってきているのではなかろうかと思うのであります。
森本氏は、この問題について、先ほどのものと重なりはいたしますが、こんな言葉を書いております。カルタゴが富の追求に熱心だったことが悪いのではない、これは大変いいことだ、しかしながら、彼らの過ちは、それ以外に何も求めなかったところにあるのだと。ライバルの、当時ギリシャと商売にかけても競合し合うわけでありますが、それを比較する中で、こんなふうに文章を書いておるのですね。
早くからカルタゴのライバルであったギリシア人も、商売にかけては、じつにしたたかだった。カルタゴ人以上に狡猾だったともいえる。そのギリシアも、ローマの支配下に置かれてしまったが、彼らの創造した「文化」は二千年後の今日まで、輝かしい光芒を投げている。ギリシア文化は、現代にも生きているのだ。
なぜだろう。ギリシア人は金銭を手段とみなし、富によって文化を創造することを、はっきりとした人生の
目標に据えていたからだ。それゆえ、ローマに征服されても、ギリシアは文化によってローマを征服した。そして、人類に比類のない遺産を贈ることができたのである。
カルタゴの悲劇は、輝かしい文化を生みだしたギリシアと対比することによって、鮮やかに浮き彫りにされる。カルタゴが残したのは、ただひとつ、〝遺書〟だけであった。身をもって書き残した歴史の遺言。それには、〝人間は金銭のみに生くるにあらず〟という教訓が、鮮血をもってしたためられているはずである。
こういう文章でございまして、これは
科学技術庁の問題として御
指摘申し上げておりますけれ
ども、
日本の国に対する警世の書として森本さんは書かれたわけであります。
中川大臣は、大変博識の方と平素より私も尊敬している方でございますし、先日
大臣が出されましたこの「首相補佐」という本、拝読させていただいたわけでございますけれ
ども、この中にも、二十一
世紀のリーダー像について書かれる中で、六つその特徴を挙げる
一つ、一番最初に、これからのリーダーには、
科学技術を十分に理解する人でなくてはならない、こういう一項を挙げていただいております。それほどに
科学技術という問題を重視され、そしてそれに理解を持たれる
大臣でございますから、現在の
科学技術庁の持っている体質というものにも、現代というこの時代性の中で
考えましたときに、少し問題を感じ、また時流との間の違和感、ギャップを感じるものをお持ちになっておられるのではなかろうかと思います。
さまざまな
課題が今
科学技術庁に投げかけられているわけでございますが、これは決して
科学技術庁に対して、この活動を否定するというよりも、むしろこのような問題を通して新しい時代に
科学技術庁が脱皮するように、その改革を進めるように勧めるサインが世の中から送られているんだろうと私は
考えている次第でございます。
私は、
科学技術庁が単に先進
技術を
開発して科学的知見を広げる省庁というだけではなくて、
国民生活や、ひいては二十一
世紀の
日本国家を左右する主要省庁としてもっと総合性を高めて、また
国民の中に存在感を持って、また社会的な影響力を十分に有する省庁に育っていかなくちゃならないんだ、それほどに
科学技術という問題はこれからの時代に大きな意味を持つものになってくるんだ、こう
考えている次第でございまして、非常に幅広い問題提起でございますけれ
ども、
大臣、就任早々でございますが、御見解をお聞かせいただきたいと思います。