○
亀井国務大臣 第百三十六回国会に臨み、当面の
運輸行政の諸問題に関し所信を述べ、各位の御理解と御支援を賜りたいと思います。
まず、所信に先立ちまして、一言申し述べさせていただきます。
既に御承知のとおり、二月十日に一般国道二百二十九
号北海道古平町
豊浜トンネルの坑口部で大規模な岩盤の崩落によりトンネルが崩壊する事故が発生し、北海道中央バスが運行する路線バスの乗員、乗客等約二十名の方が事故に巻き込まれた模様であり、他に一名の方が落石で負傷されました。事故に巻き込まれた方々及びその御家族の皆様並びに負傷された方には心よりお見舞い申し上げます。
私といたしましては、事故発生後速やかに
北海道運輸局に指示して、同局長を本部長とする
事故対策本部を設置させ、
バス事業者や関係機関との連絡調整、
情報収集等に当たらせたほか、
バス事業者に対し乗員、乗客等の御家族の
支援対策に万全を期すよう指導させました。また、十二日には、
北海道運輸局を訪れ、
事故対策について最善の努力を行うよう
事故対策本部員を督励いたしました。
さらに、十三日には、今回の事故にかんがみ、鉄道等において同種の事故が発生しないよう、
鉄道トンネルの坑口部等について斜面等の状況を緊急に点検し、必要に応じて
監視強化等の措置を講すべき
旨鉄道事業者等に対し指示したところであります。
続きまして所信を申し述べます。
まず、阪神・
淡路大震災による
運輸関係施設の被災につきましては、各補正予算における措置を通じ、復旧の支援を行ってまいりました。この結果、鉄道は昨年八月に全線で運転が再開されました。また、港湾については、
外貿コンテナ取扱貨物量で見ると震災前の約七割の水準にまで戻ってきておりますものの、全面復旧には平成八年度末までかかる見込みでありますので、引き続き復旧に全力を挙げてまいりたいと考えております。
この震災を契機として、運輸省としても災害の恐ろしさ、災害に対する備えの重要性を改めて強く認識したところであり、犠牲者の方々とその御遺族に改めて深く哀悼の意を表すとともに、地域と共同して生活再建、
経済復興等を一層促進するという観点から、引き続き被災地域の復興を全力で支援してまいります。
戦後五十年を経て、我が国は大きな転換点に差しかかっております。高齢化の急激な進展、
国際環境の激変等に対応して、政治、行政、経済、社会のあらゆる面で変革を実行し、二十一世紀にふさわしい新しい
システムを創出することにより、活気と自信にあふれた社会を創造していかなければなりません。運輸は国民の日常生活や経済活動の基盤としての機能を果たすものであり、この橋本内閣の使命である変革と創造を実現していく上でも、その果たす役割は極めて大きなものであります。
私は、このような課題にこたえるために、安全の確保を基本としつつ、二十一世紀に向け、陸・海・空にわたり整合性のとれた
交通体系の形成と安定的で質の高い
運輸サービスの提供とを目指し以下のとおり所要の施策を積極的に展開してまいる所存でございます。
まず第一に、豊かで安全な
社会づくりへの貢献であります。
運輸関係社会資本は、国際的な交流の拡大、豊かな
地域社会の形成などの我が国の将来を見据えた政策課題に対応するため不可欠なものであり、その整備を着実に進めてまいります。
鉄道につきましては、
鉄道整備基金による補助の拡充等により、
幹線鉄道及び
都市鉄道の整備等を推進してまいります。特に
整備新幹線に関しましては、平成六年十二月の
関係大臣申し合わせに基づき、三線五区間の建設を着実に推進するとともに、未着工区間の整備のための新しい
基本スキームについて本年中に成案を得るべく努力してまいりますほか、
主要幹線鉄道について高速化、
新幹線直通運転化等を推進してまいります。また、
都市鉄道につきましては、混雑緩和による快適な通勤環境の確保、優良な宅地の供給等を図るため新線の建設、既設線の
複々線化等を推進してまいります。
次に、港湾につきましては、
我が国経済の
発展基盤及び
国際交流基盤となる大
水深コンテナターミナルの整備、災害に強い
港湾システムの構築、
廃棄物海面処分場の整備等の緊急を要する諸課題に的確に対応するため、平成八年度を初年度とす
る第九次
港湾整備五箇年計画を策定し、重点的かつ効率的な
港湾整備を進めてまいります。また、市民に開かれた豊かなウオーターフロントなど、環境と共生する港湾の形成に取り組んでまいります。
海岸につきましては、平成八年度を初年度とする第六次
海岸事業五箇年計画を策定し、その整備を推進してまいります。
空港につきましては、平成八年度を初年度とする第七次
空港整備五箇年計画を策定し、
国際ハブ空港を初めとする
大都市圏における
拠点空港の整備を最優先課題として推進するほか、
地域拠点空港、
地方空港等についても、既存施設の高質化などの所要の整備を推進してまいります。特に、成田空港については、「
成田空港問題円卓会議」の結論を最大限尊重し、地域と共生できる成田空港の整備に積極的に取り組んでまいる所存であります。また、
関西国際空港につきましては、平成八年度より二期事業に着工することとしており、積極的に整備を推進してまいります。
また、
輸入促進地域等における施設の整備の推進に取り組み、貨物流通に係る
国際輸送ネットワークの整備を図ってまいります。
さらに、鉄道、港湾、空港等における耐震性の強化など、災害に強い
交通システムの整備に取り組むとともに、海上保安庁の巡視船艇、航空機の充実等による災害への即応体制の整備、気象観測・予報、地震・
火山観測等の
気象業務体制の充実などにより
危機管理体制を構築して、災害の国民生活に及ぼす影響を最小限にとどめるための各般にわたる災害対策に積極的に取り組んでまいります。
第二に、ゆとりと優しさを実感できる暮らしの実現であります。
まず、高齢者、障害者の方々が安全かつ円滑に移動できるよう、鉄道駅における
エレベーター、エスカレーターの整備や低
床スロープつきバスの導入を初めとする各種の高齢者・
障害者対策等を強力に推進してまいります。
また、
大都市圏における鉄道の通勤混雑の
緩和対策につきましては、
都市鉄道の整備に加え、企業の
労使代表等による協議会等を通じて、時差通勤、
フレックスタイム制の拡大に積極的に取り組んでまいります。
地域住民の日常生活を支える
地域交通の
維持整備につきましては、都市バスの
活性化対策に取り組むとともに、地方鉄道、
地方バス、
離島航路、離島航空に対する助成等を行ってまいります。
さらに、ゆとりある生活にとって観光の果たす役割も重要であることから、旅の
総合見本市や「
観光立県推進会議」の開催、
観光基盤施設の整備に取り組むほか、連続休暇の普及や充実した休暇を過ごすための環境の整備に努めてまいります。なお、阪神・淡路地域においては、関係会議の開催や地元が行う
観光客誘致活動への支援を行い、観光の早期の復興に努めてまいる所存であります。
さらに、物流分野におきましては、環境問題、
道路交通混雑等の制約の中で円滑な物流を確保していく必要があり、このため、幹線輸送において、効率的な輸送機関である鉄道、海運を活用する
モーダルシフト施策を推進するとともに、トラックの積み合わせ輸送や幹線運行の共同化の推進、物流拠点の整備、共同集配のための
システムの構築により、物流の一層の効率化を進めてまいります。
地球環境問題につきましては、
地球温暖化対策として、自動車の燃費改善を推進するとともに、
公共交通機関の利用の促進、
モーダルシフトの推進等により環境への負荷が少なく
エネルギー効率のよい
交通体系の形成を図るほか、観測・監視・予測体制を整備してまいります。また、
海洋汚染対策として、監視、
取り締まり等を
充実強化するほか、大規模な汚染事故への対応に係る
国際協力の推進、国内体制の整備に取り組んでまいります。地域的環境問題につきましては、トラック、バス等に対する
使用車種規制を的確に実施するとともに、低公害車の普及を促進するほか、
共同輸配送等による
自動車使用の合理化を促進してまいります。
第三に、
国際環境の変化への対応と調和ある対外関係の構築であります。
まず、
国際競争の激化等に対処し、安定的な
国際輸送を確保できるよう、
日本籍船及び
日本人船員を確保するための
国際船舶に係る諸施策の円滑な実施、拡充等による
我が国商船隊の
国際競争力の向上を図ってまいります。
また、海洋の法的秩序に関し包括的に定めている
国連海洋法条約の早期締結を目指し、国内法制の整備及び
海上保安業務執行体制の
充実強化に努めてまいります。
人及び物の国境を越えた移動の活発化は、
国際運輸サービスに対するニーズの増大及び多様化をもたらしております。このような状況に対応して、
世界貿易機関における
海運継続交渉への対応やOECDの場で合意された造船協定の的確かつ円滑な実施に自由貿易を確保する観点から積極的に取り組んでいくとともに、目覚ましい成長を遂げつつあるアジアの発展にとって重要な
運輸関係社会資本整備や
運輸産業の健全な発展が図られるよう、
APEC等多国間政策対話を推進してまいります。
このほか、二
国間運輸ハイレベル協議、
運輸技術協力等を通じて的確な
国際運輸行政の推進を図っていくこととしており、特に現在進行中の
日米航空貨物協議においては、引き続き日米間の不平等及び不均衡の是正という日本側の
基本的立場を堅持して、粘り強く米側と交渉を続けてまいりたいと考えております。
さらに、
観光交流の振興による地域の国際化を推進するための施策や
外航客船旅行の健全な発展を図るための施策を推進してまいります。
国際協力の推進につきましては、
開発途上国の実情を十分把握しつつ、鉄道、港湾、航空等の
輸送インフラ整備、人材養成や
環境保全に関する協力を引き続き推進してまいります。
第四に、交通の安全と次世代に向けた
技術開発の推進であります。
安全の確保は
運輸行政の基本であります。
交通安全対策につきましては、平成八年度を初年度とする第六次
交通安全基本計画の策定に参画し、引き続き
交通安全施設の整備、輸送機器の安全性の確保、適切な運行管理の確保、
踏切事故防止対策の推進等に努めるとともに、
航行安全対策の推進、
航空衛星システム整備の推進により、交通安全の確保に全力を投入してまいる所存であります。特に、海難事故及び海洋汚染の未然防止を図るための外国船舶の監督につきましては、
国際的動向を踏まえ、一層の強化に努めてまいります。また、
航空機検査制度について、
民間事業者または外国が行う検査の活用等その見直しを図り、航空機の安全性の向上を目指す所存であります。
技術開発の推進につきましては、人に優しく、安全で、高速、快適、低廉な
運輸サービスを求める利用者のニーズに適切に対応した新たな
運輸サービスを提供するため、
超電導磁気浮上式鉄道、
先進安全自動車、超
大型浮体式海洋構造物等の研究開発のほか、
テクノスーパーライナーの
事業化支援のための
総合的調査などを進めてまいります。
第五に、経済社会の変化に対応した
運輸行政の展開であります。
許認可等の規制につきましては、
経済社会情勢の変化に応じるとともに、利用者の声を十分に反映した
運輸行政を展開するため、そのあり方を常に見直す必要があります。運輸省は、
物流コストの削減、
旅客輸送サービスの向上、
国際輸送の競争力の確保、国際基準との調和の四つの視点に立って、積極的かつ計画的に規制の見直しを進めており、その見直し結果に基づく
規制緩和推進計画に沿って着実な実施に努めてまいります。特殊法人に関しても、効率的かつ効果的に
運輸行政を展開できるよう既定の方針を踏まえ
整理合理化等を行っていくほか、地方分権についても適切に対処してまいります。
また、
経済社会情勢の変化に適切に対応した
運輸産業の健全な発展のため、次のような施策を講じてまいります。
まず、海運につきましては、内航海運業の
構造改善対策や内航船の近代化を推進するほか、近代的な
外航船舶の整備を促進してまいります。
造船業につきましても、
国際競争力の維持強化、産業の魅力化、国際的な協調体制の確立を通じて
基盤整備を図ってまいります。特に、経営基盤が脆弱な
中小造船業について構造改善を推進してまいります。
船員問題につきましては、雇用の安定と確保及び船員養成を図るとともに、労働時間の
短縮等労働条件の改善を推進してまいります。
航空につきましても、ダブル・
トリプルトラック化等の
競争促進施策を着実に推進するとともに、昨年末に導入した幅運賃制への迅速かつ円滑な移行等を通じて一層の経営の効率化及び運賃の多様化を進めてまいります。
海上保安業務につきましては、災害発生時の対応を初め、けん銃・麻薬等の密輸入、
不法入国等の社会問題化している事案や広大な海域における
捜索救助等に的確に対応するほか、
航行安全対策の推進、
海洋調査、海洋情報の充実、航路標識の整備等に努めてまいります。また、これらの業務の的確な遂行のため、船艇、航空機の計画的な
代替整備、
海上保安通信体制等の整備を推進してまいります。
最後に、
国鉄清算事業団の
長期債務等の処理については、国鉄改革の総仕上げという観点からも重要な課題であり、これまでも資産の早期処分に取り組んでまいりましたが、いよいよ土地の
実質的処分の終了期限とされている平成九年度を目前に控え、その保有する土地とJR株式の早期売却を一層推進し、
長期債務等の減少を図るべく最大限努力してまいります。
このほか、
運輸行政をめぐる課題は数多くありますが、私は、
長期的展望に立ちつつ、各課題の解決に向けて積極果敢に取り組んでまいる所存であります。
以上、
運輸行政の当面する諸問題につき述べましたが、これらは申すまでもなく委員各位の深い御理解を必要とする問題ばかりでございます。終わりに当たりまして、重ねて皆様の御支援をお願い申し上げる次第でございます。(拍手)