○
公述人(
小野毅君) ただいま御紹介にあずかりました
オウム真理教
被害対策弁護団の
弁護士の
小野と申します。
一九八九年の六月ごろから、今は亡き坂本君とともに
オウム真理教の問題などの相談にあずかりました。
オウム真理教の問題、それから
霊感商法の問題あるいは霊視商法の問題というものが
宗教被害としていろいろ言われておりますけれ
ども、そのほかにもたくさんの
宗教関連の
被害の相談が来ております。そういった意味で、
宗教問題に対するいろいろな相談事というのが非常に多い。そういった立場から、今回の
宗教法人法改正の問題について
意見を述べさせていただきたいというふうに思っております。
まず、私個人としましては、一般的な日本人と同じように、習俗的な意味でしか今まで
宗教の問題にかかわっておりませんでした。そういう意味で消極的な無神論者と言えると思います。しかし、いろいろな相談を受けているうちに、改めて
宗教の
重要性というものを認識するようになってきたというふうに思います。
人間の精神の形成の上ではいかに重要であるか、あるいは中には
宗教がなくては生きていけないという人もいる、こういう
実態を私自身実感しております。そういう意味では、特に現代日本の社会では極めてプラグマティックな
考え方というのがはびこっているように思います。そういった中で、改めて
宗教の
重要性というものを再認識する必要があるんではないか、またそういう中で出てくる倫理観、そういったものが改めて問い直されるべきではないかというような感じを持っています。そういった意味で、
信教の自由という
憲法上の
人権につきましては、十分な上にも十分な
配慮が必要だろうというふうに思っています。
とはいえ、相談を受けている実感としましては、
信教の自由を悪用している
宗教団体、これも少なくないということも事実だと思います。その割合というものは極めて低いかもしれません、あるいはその規模は小さなものが多いでありましょう。しかし、かなりいろいろな形での宣伝媒体などを利用して大きな宣伝を行っています。ある意味で諸社会への
影響というのは少なくないわけです。
オウムにしてもあるいはいろいろな問題のある
宗教団体にしても、その宣伝のやり方は非常に巧妙であります。
このような意味で、現
段階で
信教の自由の
重要性というのを位置づけながらも、なおかつ実情にそぐわない点を
検討するために、改めて
宗教法人法その他の
関連諸法というのを見直すべき時期に来ていることは間違いないと思います。
その上で、現在の私の
宗教法人法改正問題に関する結論を申し上げれば、一応
賛成ではあります。しかし、これだけではまだ不足なのではないかというふうに思っております。その不足の最大のポイントは、
宗教法人法八十一条一項に定める
解散命令について保全
措置が定められていないという点でございます。
現在この
解散命令については東京高裁で審議されております。しかしながら、一方では
オウム真理教はたくさんの財産隠しを行っております。私
どもが個別的な保全
措置をとったもの以外については、ほとんどその不動産については名義が別名義に変えられています。私
ども弁護団にとってはこの問題が一番焦眉の問題なわけです。
このような保全
措置をとったからといって大きな
影響が与えられるというふうには思いません。一応、会社更生法の保全
措置をとるのが適当ではないかというふうに思っていますけれ
ども、それにつきましては通常業務程度の業務及び支出は許されます。したがって、万一
解散命令の申し立てが棄却されるというようなことがありましても、それによる支障というものが生じるとは思えません。また、安易に保全
措置がとられるという批判もあり得ましょうが、これはきちんと裁判所の審理が行われ、申し立ての
理由と保全の必要性というものを
検討するのですから、
運用の問題として十分対処し得る問題です。
宗教法人法八十一条一項の
解散命令につきましては、保全
措置の規定が欠けているというのは、逆に私
どもとしては法の不備ではないかというふうに思っております。
被害救済という立場から見た場合、必ずこの保全
措置というものは必要だと思います。速やかに補完されるということを望みたいと思います。
今回の
改正のポイントについて述べたいと思います。
まず第一に、
所轄庁の
報告徴取あるいは
質問権というものにつきまして、この
議論は現在私
どもとしては納得できるような
議論がなされるとは思っておりません。私個人としては、
従前、
現行法でもこの程度のことは
解釈の問題として当然可能なことと考えておりました。
立入調査権という問題が討議されておりましたけれ
ども、この点につきましては当然激論が予想される問題であります。立法の問題として十分
議論の上、
検討していただきたいというふうに思っておりましたけれ
ども、
質問権という問題については、
解散命令の申し立て権などが認められている以上、その前提としては当然
調査権限があります。その一部として当事者に対する
質問権というのは当然あるものだというふうに考えておりました。ところが、一連の
議論の中で私の
解釈は誤りであったということが判明して、非常にびっくりしている状態でございます。
宗教法人法につきましては、いわゆる性善説という
説明がなされております。しかし、七十八条から八十一条に定める規定、事業
停止命令、
認証の
取り消し、あるいは
解散命令というものは明らかに性悪説を前提とした規定でございます。このような場合に、正規の手続に入る前に直接
関係者に調査を行う、これはあらゆる
行政措置において当然のことなのではないでしょうか。立入調査権のような半強制的な
措置についての是非はともかく、
一定の疑いを前提として事前に
質問することを認めるのは当然のことだと思います。少なくとも、突然正規の手続に入られてしまうというよりも、よっぽどよいのではないかというふうに思うわけです。
また、
所轄庁の問題について
議論されております。複数の都道府県にまたがる
宗教団体につきまして国が
所轄庁になる、
文部大臣が
所轄庁になるということについては全くおかしくないのではないでしょうか。むしろ、運営上有為なものであるというふうに私
どもでは思っております。
オウム真理教の問題につきまして、私
どもは
認証が出ました当初から東京都に陳情を行い、いろいろな
対策を練っていただくことをお願いしてまいりました。ところが、
認証当時から
オウム真理教の本当の本拠地は静岡県であり、あるいは熊本県に移り、あるいは山梨県に移っていったわけです。そして、山梨県の上九一色村や富沢町あるいは熊本県の波野村など、さまざまなところで地域住民とのトラブルを起こし、
被害を与えてきました。
都議会への陳情に当たって、
被害者の会や私
どもの方ではいろいろな懇談会を都の
関係者と持ちました。その際に、山梨県の方々あるいは熊本県の方々も一緒に陳情に上がっております。しかし、その懇談会等の中で本当に関心を持っていただけたのは都内のことだけだったのではないでしょうか。上九一色村の人たちの苦しみというものをどれだけ都の人たちは考えていただけたのでしょうか。
もちろん、東京都に何ができたのかという面については非常に疑問があるところではあると思います。しかし、そういう
被害実態の調査ということ、あるいは
被害実態を酌むということですら東京都の方では十分に行っていなかったのではないかというふうに思います。それは何よりも管轄の問題が一番大きかったのではないかと思うからです。そういった意味で、
所轄庁の問題もやはり当然なことではないだろうかというふうに思っております。
財政
報告、
帳簿閲覧の問題について若干述べます。
ただ、この問題で例えば
オウム真理教の問題が解決できるかというと、そうではないと思います。とはいえ、こういった
オウム真理教の場合あるいは
霊感商法などの場合、
宗教団体が
宗教団体独自でそういった
活動をしているという場合もあるのかもしれませんが、多くの場合は別会社などを所持し、その別会社などを使いながら
宗教団体と別会社が混然一体とした処理をされている、こういう
状況があるわけです。
そういった面から見れば、
一定の財政の
運用あるいは
帳簿閲覧権というものを規定することによって、
宗教団体自体が混然一体とした
措置をとることを抑制する、そういう効果が出てくるのではないか、事前に心理的に抑制効果があればこういった
宗教被害というものがより少なくなっていくのではないかという期待はあると思います。ただ、これだけで済むものだというふうには思っておりません。
相談を受けている
弁護士として
運用の面のお願いがこの中ではあります。というのは、
閲覧権として
利害関係人あるいは
信者というものが考えられているわけですが、役所の方に
帳簿等が届けられるわけですが、多くの場合、
行政庁は届け出られた
帳簿その他の
関係書類を
閲覧権者に対しても見せることをしておりません。
例えば、会社の就業規則などが
労働基準監督署に届けられているわけですが、従業員の方から就業規則を見せてもらいたいと思った場合に会社が拒否する、仕方なく労基署に行った場合に、労基署の方でもこれは会社で見せてもらいなさいと言われて拒否する、結果的に就業規則はわからない。場合によっては退職金などの裁判をやる場合があるわけですけれ
ども、こういった場合見られないというようなことがあるわけです。結果的にはそういったことでわからずに泣き寝入りをしてしまうことが多いわけです。
今回の問題でも同様なことが考えられます。願わくは役所におきましても
閲覧権者には
閲覧をさせる、こういう
運用をしていただきたいというふうに思っています。
私
どもとしては、少なくともこの
改正で
オウム真理教のような
事件が防げる、あるいは事前に察知できるというふうには到底思っておりません。
オウム真理教の問題の再発を
防止するために、そのための
対策としましては、
宗教法人法の問題だけではありません。さまざまな問題、建設、開発、
労働、
教育、福祉あるいは保健、こういった
オウム真理教にかかわるさまざまな
行政諸分野、そして捜査の問題、こういったものも含めて
問題点を総花的に
検討して、その中で
現行法は何ができたのか、事実上できたとしても対処が本当に可能であったのか、役所がそういう機能を持っていたのかどうか、そういったものを
検討する必要があると思います。その上で改めて立法が必要であるかどうかということを
検討すべきものだというふうに思っております。
残念ながら、現
段階では捜査による成果というものは必ずしも明らかにされておりません。そのためにまた十分な
検討は不可能でありますけれ
ども、しかしはっきり判明しているものは先ほど申し上げました
解散命令申請時の保全
措置の問題でございます。もしこの
改正が早ければ、現在の
オウム真理教にも適用が可能だったかもしれません。手続法です。今からでも可能だという部分もあるわけです。
私個人としましては、今回の
改正に当たりましては、修正などをしてこの問題も加えてほしいと思っております。もしそれができないのであれば、
オウム真理教の問題、全体的な問題をきちんと論議をしていただいた上で、改めて
宗教法人法の問題についても
改正の
議論をしていただく、こういう確約をいただきたいというふうに思っております。
以上です。ありがとうございました。