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公述人(
鶴田俊正君)
専修大学の
鶴田でございます。
参議院の
予算委員会の
公聴会で
公述の機会を与えていただきまして、大変光栄に思っております。ありがとうございます。また、
最初にお断り申し上げたいんですが、私は重度の
花粉症にかかっておりましてお聞き苦しい点があると思いますけれども、お許し賜りたいと思います。
きょうお話し申し上げますのは、私が
日本経済のマクロ、ミクロの
実証研究に携わっておりますから、そういう
観点から
公述をさせていただきたいと思います。お
手元に簡単なメモを用意してございますが、それに沿った形でお話し申し上げますが、何分時間が限られておりますから要点だけを申し上げて、お話し申し上げない点につきましては後の質問時間でお答えしたいというふうに思っております。
〔
委員長退席、
理事伊江朝雄君着席〕
予算を見る場合に、短期、中期、
長期の
観点から考えなければなりませんが、きょうは
景気対策、
震災対策、
行政改革、あるいは超
長期の
都市形成をどうするかというような
観点からお話を申し上げたいと思います。
まず、
景気対策としてこの
予算を評価する視点でございますけれども、
景気回復を定着させることとそれから
内外不
均衡を是正するということがこの
予算に課せられた大きな
課題だと思います。
景気回復につきましては、
御存じのように、バブルがはじけて以降、
大変長期の
不況に
日本は直面いたしました。丸三年弱の二年
数カ月の
長期にわたる
不況でございましたが、今回の
不況を顧みますと、長さといい深さといい、戦後
最大級の
不況であったというふうに私は思っております。したがいまして、一昨年の十月を底にして
景気回復過程に現在ございますけれども、しかしその
回復の歩みは非常に遅々としております。これほど
景気回復が緩慢な姿となりましたのは、戦後の
日本の
景気回復過程は非常に珍しい現象ではないかなというふうに思っております。したがいまして、この
景気回復を定着させることが
予算に、
財政に課せられた大きな
課題であります。
また、
内外不
均衡、これは後で申し上げますけれども、
日本経済は非常に
内外の大きな不
均衡に直面しておりますから、それを是正しなければなりません。その
内外不
均衡を考える場合に、よく私
ども経済学者はアブソープションモデルというのを使います。おもちゃみたいなものでございますけれども、
考え方を整理する上で大変便利でございますから、そういうものをお
手元に掲げてあります。
左側がいわゆる
貯蓄投資バランスを示しております。右側が
輸出入バランスであります。
貯蓄投資バランスは、
民間貯蓄と
政府貯蓄の和から
民間投資と
政府投資を引いたものは
輸出入の差に等しいと、こういうことでありまして、これはしばしば引用されるモデルでございますから
先生方は
御存じだと思います。この
民間貯蓄というのは
家計貯蓄、
企業貯蓄の和であります。
政府貯蓄というのは
一般の
貯蓄の概念と多少違っておりますけれども、税収等々も
貯蓄に入ってくるということであります。そして、その
貯蓄を
住宅投資あるいは
企業設備投資に割り当てます。また、
政府の
公共投資に割り当ててまいりますが、
日本の場合にこの差額が非常に大きいことは御案内のとおりであります。
貯蓄超過経済であります。したがいまして、
内外不
均衡の内の不
均衡というのは、この
貯蓄投資バランスが
貯蓄超過状態になっているということであります。
ちなみに、
日本は
貯蓄超過経済でございますが、アメリカは
投資超過経済、
非対称形になっているということでございます。そういうふうにこの
恒等式を前提といたしますと、当然
貯蓄超過分だけ
日本の
経済は
輸出超過経済になっている。いわゆる
対外不
均衡の側面であります。したがいまして、この国内不
均衡と
対外不
均衡というのは相互に密接に
関連しているわけでございますから、したがいましてこれをいかに是正していくかということが
予算に課せられているわけであります。
特に、今回の
政府の
経済見通しを見ますと、
実質で二・八%を想定しております。一月二十日
閣議決定でございますから、
震災が一月十七日でございますけれども、これがつくられたのは
震災前でございますから
震災等々の影響は全部入っておりませんけれども、二・八%の
経済成長を目指しているわけであります。当時の
民間の
予想は大体二%前後でございましたから、
一般の
経済見通しよりやや高めの
見通しになっているということであります。
また、この中身を見ますと、
民間最終消費に四・二%、
実質でございますが、
企業設備四・〇%を割り当てております。中でも注目されますのは
企業設備でございまして、現在のところ非常に
景気回復が緩慢でございますからこの四%が実現するかどうかということはまだ何とも言えない
状況でございますから、したがいまして
投資として確実に増加が見込めるのは
政府投資というふうになると思います。
そういうふうに考えますと、
貯蓄投資バランスを改善するためには
政府投資の底上げをするということが非常に大事でありますし、また
景気回復を定着させるという点からいうならば、所得減税というものはやはり重要な位置を占めているというふうに思うわけであります。
特に、最近の顕著な円高を見ておりますと、
日本のファンダメンタルズ、つまり基礎的条件であります、これは先ほど申し上げました
貯蓄超過等々を示しているわけでありますが、ファンダメンタルズを改善することがいかに重要かということがわかります。円高はこのファンダメンタルズと投機的な資本移動によって起こるわけでありますから、投機的な資本移動というものもその国の基礎的条件に左右されるということを考えますと、ファンダメンタルズの改善が非常に重要だというふうになるわけであります。
そういう
観点から
予算を見ておりますと、所得税減税を継続するということは非常に重要でございますし、また絶対にこれを行わなければ、冒頭に申し上げました
景気対策としての
課題、
景気回復を定着させるという上でもこの所得減税が必要だということになります。
もう
一つの、
貯蓄投資バランスを改善するという
意味で社会資本
投資はどうだろうかということでございます。いわゆる
政府投資はどう評価したらいいかでございますが、いろいろな見方がございますけれども、私はやや過小だなという印象を持っておりました。と申しますのは、
一般会計公共事業関係費が四・一%増であります。財投にいたしますと〇・七%増でありますからやや控え目な、つまり冒頭に申し上げました
貯蓄投資バランスを改善するという点からいうならば控え目な
予算編成になっているのではないかなというふうに思います。
この点は
政府の
経済見通しにもはっきり出ておりまして、
政府の固定資本形成は
平成六年度の、五・九%から三・八%に落ち込むというふうに、伸び率が小さくなるというふうになっております。やはり、
民間の
投資なりが不確実である段階では着実に増加が期待できるのは
政府投資でございますから、当時、これは
震災が起こる前でございますけれども、私は補正
予算を編成してそして
景気回復を定着させていくことが重要かなというふうに考えておりました。そういう
意味では、税収難でございますからいろいろ制約があるにしても、
日本は非常にあり余るほどの
貯蓄を抱えているわけでございますから、
政府が公債を発行してそして
政府投資を拡大していくということは私は不可欠な命題であるし、またそれを行うことが今日の
政府に課せられた役割ではないかなというふうに思うわけであります。
さて、
震災対策の方に移ってまいりたいと思いますが、今、
黒川先生からお話しいただきましたけれども、
予算面から見ますと、早速九四年度で第二次補正
予算が編成されましたが、これによって
神戸の市民の
方々のサポートをするということが非常に大事だなというふうに思っております。
この
震災対策費をどういうふうに
予算に反映させるかということでございますけれども、本来でいえば、予期しないことが起こったわけでございますから、社会資本
投資も含めて歳出の中で不急不要なものを見直して、そしてこの
震災対策に重点的に
予算を配分していくというやり方が私はオーソドックスだろうというふうに思います。特に、我が国は民主主義国家でございますし、三権分立が
原則でございますから、大蔵省がつくった
予算をそのまま国会が認めるというのではなくて、やはり新しい事態に対して国会が
予算の組み替えをしていくというくらいの強い姿勢あるいは積極的な姿勢をお持ちになるのが妥当だろうというふうに当初は思っておりました。
不幸にして、不幸にしてといいましょうか私の考えからすればやや物足りない感じを持ちますが、既に衆議院で九五年度の
予算が成立しております。現在の憲法ですと衆議院の議決が優先いたしますから九五年度での組み替えは不可能かと思いますけれども、しかし
震災対策として九五年度に
かなり大型の補正
予算を組まざるを得ないというふうに思っておりますから、少なくとも九五年度補正
予算の段階で事実上の組み替えを行うような努力をされていただきたいなというように思います。その場合には、やはり
震災対策に重点を置くわけでございますから、今までの歳出の中で見直すものがあるなら極力見直していく、あるいは社会資本
投資でもあるいは新幹線
整備計画等々につきましても見直しをしていくということが私は必要じゃないかなというふうに思います。
問題はその財源でございますけれども、いろいろ議論されておりますけれども、
一つの案として、所得減税を当初の見直しをして、そしてそれを財源に充てたらどうかという議論もないではありません。しかし、第一に申し上げましたように、現在の
日本経済は景気の
回復を定着させることに非常に大きな役割がありますし、また雇用の安定という
観点を考えますと、私は減税を継続することが必要だろうと思います。この減税につきましては、既に時間差をもって
一般消費税で財源に割り当てるというふうになっているわけでございますから、したがいまして私は減税を優先させるべきだ、実際に実行すべきだというふうに思っております。
そして、もう
一つの案として増税案が出ております。しかし、私は増税に対しては基本的には反対であります。なぜかといえば、
神戸の
震災対策として増税を行った場合、これは
震災対策が一段落したらその財源はそのまま恒常化してしまうという危険性があります。また、後で申し上げます
日本の抱えております
行政改革についてもそれをおくらせるということになりかねないと思います。
したがいまして、私は当面は国債発行で対応するのが望ましいと思います。特に、冒頭で申し上げましたように、
日本は相当、十兆円を超える規模での
貯蓄超過経済でありますし、それが円高の大きな引き金になっているわけでございますから、こういう事態に直面いたしましては
政府が公債を発行してそして市中にある余剰な資金を吸収して、それをもって
震災対策に割り当てていくということが必要だろうと思います。しかし、中期的に考えますと、後で申し上げます行革を推進して、そしてそれを財源に割り当てるということが不可欠だというのが私の
考え方であります。
そこで、私は行革について申し上げたいと思いますけれども、行革といいますと何か
政府の省庁を統合するとかあるいはいきなり特殊法人を統廃合するとかいうところに議論が入っていきがちでございますけれども、やはり
行政改革をするためには官僚の仕事を整理しなければいけないだろうというふうに思うわけであります。そのポイントは規制緩和を推進するということになると思います。
この規制緩和につきましては、現在の
政府が大変な御努力をなさっておりますけれども、また今月中に五カ年
計画が発表されるやに聞いておりますけれども、今散見しております資料等々から推測いたしますと、どうも規制緩和は不十分だなという印象を持たざるを得ません。大変な御努力をしていると思いますけれども、規制緩和、規制の見直しというのはまだまだ入り口であって、これからが本番だなという印象を私は持っております。
規制緩和と申しますと、中には
政府がもう何にも仕事をしなくていいんだというふうな印象を持つ方もいらっしゃるかもしれませんけれども、私たちの住んでおる社会は混合
経済体制でございますから、
政府がやるべき仕事というのはいっぱいあります。これから高齢化社会を迎えていくわけでございますから、福祉政策の側面とか
環境保全とかあるいは公共財の供給とか、今度のような地震が起これはその
震災対策とか、いろんな仕事があるわけでありますが、しかし我が国の
政府の仕事を見ておりますと、残念ながら
政府がやらないでもいい分野に余計なエネルギーを注ぎ込んでいるという印象があります。
したがいまして、規制緩和というのは、ある
意味では混合
経済体制における
政府と
民間の役割はどうあったらいいんだろうかということを問い直すのが規制緩和だというふうに私は理解しております。そういう
意味では、ほかの言葉で言えばいわゆる二十一
世紀の高齢化社会に直面して
政府はどういう役割を果たしたらいいんだろうか、不急不要なところからどういう分野に仕事の重点を移したらいいのかという問題にかかわっていくテーマだというふうに私は考えているわけであります。
また、今日の規制緩和を考える視点としては、私は、歴史軸とそれから国際軸という二つの視点が必要だろうというふうに思います。
国際軸というのは、言うまでもなく現在の
日本経済というのは国際社会の中で大変大きな役割を担っておりますが、そういう
意味では
日本の行政の仕事を簡素化して、そしてアメリカを含めたあるいはアジアを含めた国々との相互依存関係を一層推進していくという
観点から規制の見直しが行われなければなりませんし、歴史軸というのは実は、私の感じでありますが、戦後改革でいろんな改革をいたしましたけれども、
政府と産業との関係においては実は戦時体制がそのまま残ってしまっている、それを今の二十一
世紀に向けて見直すというのが規制の緩和だというふうに思うわけであります。
そう考えますと、規制の問題では次の三相に考えるべきテーマがあります。
一つは、電気料金のように
政府が何らかの形で料金決定に介入しなければならない分野が多々ございますけれども、しかしその分野でも非常に過剰な規制が残っている。この過剰な分をとらなければいけないという分野が
一つあります。それから二番目は、
政府が何にも介入する必要がない、そういう分野に余りにもごてごて仕事を
政府がやり過ぎる、この分野をどう整理するかという問題があります。それから三番目の問題は、
都市計画のように本来は規制が必要でございますけれども、規制が余りにもぬる過ぎる、緩過ぎるという面があります。
したがいまして、そういう
意味で過剰な規制をそいでいく、また
政府がやらないでもいい分野についてはもう全部撤廃していく、そして本来
都市計画のように
政府がやるべきことはきっちりやる、これが規制緩和のテーマだというふうに思うわけであります。そういうふうに考えてまいりますと、現在の規制緩和五カ年
計画が余りにも手ぬるいものであって、もっと根本的なところに踏み込んでいかなければいけないなというふうに思いますし、そういう根本的なところに踏み込んでいく過程の中で行政の仕事が整理されていって、結果的に
行政改革が推進されていくんだというふうになると思います。
それから特殊法人の見直しでございますが、今般の議論を見ておりますと、唐突的に開銀、輸銀を統合するんだとかいうような議論がいきなり出てまいりましたけれども、やはりこれは
財政投融資制度をどうするんだと、そういう根本から議論をしていかなければなりません。あるいは郵貯とか簡保とか郵便事業等々資金の入り口のところ、これをどうするかという議論を行って初めて特殊法人の整理の問題に答えが出てくるはずであります。
私の結論を申し上げますと、郵便貯金というのは非常に重要な役割を果たしましたけれども、もう明治、百二十年であります。もう大変な国立銀行と言ってもいいと思いますけれども、その当初の役割はもう終わっているわけでありますから、むしろ民銀を圧迫し過ぎているという
観点から見るならば、私は郵貯を民営化していくということが必要でありますし、民営化する以上、資金の自主運用を行っていかなければならないだろうというふうに思います。
当然簡保の見直しも必要でございますけれども、あわせて郵便事業の見直しも行う必要があります。今日、宅配等々
民間のメールが大変発達しております。郵便事業も国営でなければならないのか、この点も
先生方に根本にさかのぼって考えていただきたいと王います。過疎地の郵便については第三セクター等々をつくって、その過疎地の郵便事業が円滑にいくようなことを考えればいいわけでありまして、ベースは民営化をしていくことが必要であります。
そして、出口のところの
政府系金融機関とか公団等々でございますが、これも現在不急不要のところにお金が使われている可能性がないではありません。したがいまして、ここも基本的には民営化して、マーケットの中でどの事業が必要なのかということを評価させることが必要だろうというふうに思います。ただ、それでも公団あるいは特殊法人の中で
政府がコミットする必要のある分野がないとは言えません。その場合には利子補給等々あるいは信用保証等々をすることによって公共的な性格を持たせることは可能じゃないかなというふうに思います。
そうしますと、資金運用部も郵貯等々から資金を確保するのじゃなくて、いわゆる財投債のようなものを発行して、そしてマーケットから資金を調達し、それを元にして公団等々民営化された企業に資金を供給していくというようなことを考えていくことが必要じゃないかという気がします。あるいは場合によっては個々の民営化された企業が債券を発行することも考えられますけれども、公的性格を多少なりとも持たせる必要があるとするならば、そういう財投債のようなものを考えてもいいのではないかという気がいたします。そうなりますと、郵貯は郵貯で資金の自主運用が可能でございますから、財投債をマーケットの中で引き受けていくというようなことを考えていけばいいわけであります。
そういう
財政投融資の抜本的な見直しを行って、特殊法人、公団等々、あるいは郵貯、簡保、郵便事業等々の民営化を図りながら、そしてその成果を
行政改革につなげていくということが私は必要ではないかなというふうに思います。
最後に、「
都市型福祉社会の創造を」と書いてございますけれども、私たちが住んでいる
日本は、既に
都市に非常に多くの市民が住んでおります。しかも、近い将来に高齢化社会が到来すると言われています。高齢化社会といいますと何か非常に抽象的に問題をとらえがちでございますけれども、実は
都市の中で高齢者が多数存在するようになるということであります。しかし、残念ながら
日本の
都市を見ますと、健常者用の
都市が圧倒的でございまして、ハンディキャップを負った
方々が
都市の中で安心して市民
生活ができる
状態ではない。したがいまして、これからの
課題というのは、
都市の中で高齢者ないしはハンディキャップの
方々が安心して市民
生活を送れるような、そういう町づくりを行わなければいけないし、また
震災の
復興計画においてもそれを生かしていくことが必要じゃないかなということを
最後に申し上げて、私の
公述を終わらせていただきます。
ありがとうございました。(拍手)