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1995-03-10 第132回国会 参議院 予算委員会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成七年三月十日(金曜日)    午前十時閉会    委員の異動     —————————————  三月九日    辞任          補欠選任     下村  泰君      西川  潔君  三月十日    辞任          補欠選任     鈴木 栄治君      岩崎 純三君     篠崎 年子君      山口 哲夫君     高崎 裕子君      吉川 春子君     西野 康雄君      翫  正敏君   出席者は左のとおり。     委員長         坂野 重信君     理 事                 伊江 朝雄君                 片山虎之助君                 成瀬 守重君                 山崎 正昭君                 穐山  篤君                 山本 正和君                 藁科 滿治君                 猪熊 重二君                 井上 哲夫君     委 員                 遠藤  要君                 大塚清次郎君                 木宮 和彦君                 沓掛 哲男君                 斎藤 文夫君                 下稲葉耕吉君                 野間  赳君                 野村 五男君                 服部三男雄君                 宮崎 秀樹君                 大渕 絹子君                 大脇 雅子君                 北村 哲男君                 瀬谷 英行君                 竹村 泰子君                 堀  利和君                 本岡 昭次君                 山口 哲夫君                 渡辺 四郎君                 荒木 清寛君                 北澤 俊美君                 都築  譲君                 寺澤 芳男君                 中村 鋭一君                 和田 教美君                 磯村  修君                 武田邦太郎君                 有働 正治君                 吉川 春子君                 西野 康雄君                 西川  潔君    政府委員        大蔵政務次官   石井  智君        大蔵省主計局次        長        兼内閣審議官   武藤 敏郎君        大蔵省主計局次        長        中島 義雄君    事務局側        常任委員会専門        員        宮本 武夫君    公述人        筑波大学社会工        学系教授     黒川  洸君        専修大学経済学        部教授      鶴田 俊正君        静岡県立大学国        際関係学部教授  中西 輝政君        ジャーナリスト  大宮 知信君        日本労働組合総        連合会総合政策        局長       中川 宏一君        財団法人連合総        合生活開発研究        所副所長     井上 定彦君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○平成七年度一般会計予算内閣提出、衆議院送  付) ○平成七年度特別会計予算内閣提出、衆議院送  付) ○平成七年度政府関係機関予算内閣提出、衆議  院送付)     —————————————
  2. 坂野重信

    委員長坂野重信君) ただいまから予算委員会公聴会を開会いたします。  本日は、平成七年度一般会計予算平成七年度特別会計予算及び平成七年度政府関係機関予算につきまして、お手元の名簿の六名の公述人方々から項目別に御意見を伺います。  まず、午前は二名の公述人にお願いいたします。  この際、公述人方々に一言ごあいさつ申し上げます。  お二方には、御多忙中のところ本委員会に御出席いただき、まことにありがとうございます。委員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。  本日は、平成七年度総予算三案につきまして皆様から忌憚のない御意見を拝聴し、今後の審査の参考にいたしたいと存じますので、どうかよろしくお願いいたします。  次に、会議の進め方について申し上げます。  まず、お一人二十分程度で御意見をお述べいただき、その後で委員の質疑にお答え願いたいと存じます。  それでは、まず防災復興につきまして、黒川公述人からお願いいたします。黒川公述人
  3. 黒川洸

    公述人黒川洸君) 筑波大学黒川でございます。よろしくお願いします。  私は、本日は阪神・淡路大震災復興計画について私なりの意見を述べさせていただきたいと思います。  最初に、私自身、今回の震災が発生しましてから、一月二十二日から二十五日の間、土木学会という学会の第二次調査団の一員として現地に入って被害状況について調べましたが、私の担当の都市計画とか都市施設という分野について調査をしてまいりましたので、その範囲の中のことについてきょう御意見を述べさせていただきたいと思います。  最初に、今回の震災で我々は、土木施設とか建築物予想以上に被災をしているということについては、専門の領域の一端をなす者として非常にショックを受けて、こんなにまでも被害が大きかったかということで、予想を超えていたということでございます。  それで、現在の急務は、現地で十万人以上の方が避難テント生活を強いられているということで、そういう意味では、まず人間として最低条件生活を強いられている方々を何とか救済するというのは、救済としては非常に大切な急務でございますが、その後に続くのが復興の問題だというふうに我々は理解しております。  現在、建築基準法の八十四条というもので建築制限をしたり、あるいは特別立法されました被災市街地復興推進地域というような形で四市一町十四カ所、三百三十七ヘクタールについては、今、都市計画決定されようとする最後の段階に来ておりますが、これは復興計画のうち最も緊急だと思われているところについてその計画が先に行っているわけでございますが、それ以外の地域一般地域についての復興の問題が次に出てくると思います。家屋の倒壊でありますとか、火災で焼失した地域が散在しているということでございます。  そういう意味では、このような地域復興はその地権者方々自分たちで何とか家を建てたり建物を建てたりということも必要でございますし、点在している地域を何とかしてまとめていくということでは行政側も協力が必要だというふうに考えております。今のままほうっておきますと、単にもとのところに家を建てたりするということで、復興ではなくて復旧のレベルになって、もしかすると前の状況より悪い状態が発生するおそれがある。そういう意味では、もう少し復興としてはよい都市環境をつくるようなことが行われなければいけないということになりますと、区画整理等の面的な整備事業を、この際、そういう地域に対してもやらなければいけないということになると思います。  そうなりますと、現在の県でありますとか市の職員だけではとても手が回りませんし、全体の復興をやるためにはその人の財産の問題もありますので、弁護士の方でありますとか税理士であるとかそういう方も一緒にそれぞれの個人的な御相談を受け付けて全体の面的整備事業に当たらなければいけないということでございますので、こういう専門家をボランティアの形で持っているだけでは復興計画としては多分できないということで、県とか市がそういう専門家の方を雇ったりあるいは市の嘱託の職員にする等の、ある程度専門家に対して責任があるような状況で事に当たらないとうまくいかないのではないかという気がいたすのであります。そういうことがこの全体の復興計画の中で必要な状況ではないかと思います。  さらに都市基盤施設について考えますと、先ほど言いましたように多くの構造物が崩壊したわけでございますが、これを全部同じように一律に耐震設計に基づいたものにするということになりますとかなり膨大なお金がかかってくるということになりますし、現在残っている施設についての補強もするということになりますと、それもかなり大がかりになってくるということなので、現在、復興するときには全地域、全施設を全部やるということではなくて、重点的に耐震構造にするということと同時に、例えば東西防災軸みたいなものをつくるときは沿道建物もそういう構造にふさわしいものにしていかなければ実際の効果がなくて、そういう建物が崩壊して道路をふさぐみたいなことも起こっておりますので、沿道建物一緒に考えながら整備をするということが必要なのではないかと思います。  それから第二点は、防災復興計画ということになりますと安全性が非常に強調されます。そういう格好で物がつくられていきますと、平常時にかえってかた苦しいといいますか、そういうものが都市の風景として出てくるおそれがありますので、良質な環境をつくるというような精神のもとにこういう復興計画は考えていかなければいけないのではないかと思っております。  それから、具体的に少し、都市施設のうち都市構造を規定するような大きな施設についての意見を述べたいと思います。  まず最初に、道路につきましては、今回の大震災で国全体にまたがるような交通ネットワークであります国土幹線自動車道中国縦貫道被災をされたために、全国ネットワークからこの地域に来るところが遮断されてしまったということが大きな問題でございます。そういう意味では複数のそういう路線がこういう大地域には整備されるべきではないか。そういうことで、具体的には第二名神という道路あるいは近畿道敦賀線というようなものが整備されていると、救援あるいは復興の特に大きな力になるのではないかあるいは安全性が増すのではないかと思います。それから、そういう全国ネットワークから来るものに附属しまして、この地域に入ってくる南北の自動車専用道路的な高規格の道路整備がこの地域安全性を増すためには必要なのではないかということでございます。  それから鉄道に関しては、現在、日本ではこういう鉄道は多くの場合、民間鉄道事業者というものが経営しているということでございますが、日本大都市の特徴は、鉄道というネットワークがないと成立していないという状況でございます。そういう意味では、大都市の活動を復興する意味では、こういう鉄道公共施設並みに扱うべきではないか。要するに、今度の復旧に当たってかなりの、厚い手当てを考えておられますが、公共施設と同等ぐらいのところまで考える必要があるのではないかと思います。  それから、ちょっとお手元に配った資料にミスがありますが、次にライフライン、供給処理施設関係について一言敷衍します。  ちょうど神戸地域というのは、前面が海で後ろ側が六甲山という山に囲まれて、東西に細長い地形をしているわけですが、ここの供給管の全体のシステムが樹木の、ツリー状になっているということで、その幹の部分がやられてしまうと末端の方がすべてだめになるという構造になっていますが、これをもう少しネットワークとして、幾つかのラインが切れてもどこかから救援ができるような構造にしていく必要があるということと、もう一つは、こういう処理施設を少し地下化しなければいけないのではないか。地下に置かれました共同溝の中では今回余り災害が起こっておりません。そういう意味では、構造的にも地下に入れてしまうとかなり安全であるということが言われておりますので、こういう共同溝化をする必要があるのではないかということでございます。  この一週間で円が非常に高くなってきておりまして、多分また円高差益還元ということが出てくると思いますが、私の意見としては、そういう差益還元利用者末端還元するということも一つの案かもしれませんが、こういう社会的基盤整備にその還元の仕方を変えた方が日本経済としてもいいですし、そういう生活環境利便性が高まるという意味でも還元の仕方としてはそういう方法を考えるべきだというふうに思っております。  それからさらに今度はオープンスペース公園とかそういうものについてのことですが、今回非常に特徴的であったのは、今回の場合は火災が多発しなかったために近隣公園避難場所として十分活用できたということでございます。もう少し敷衍をしますと、ふだん公園として使っているような公園避難地としてよく使われておりますが、ふだんから人が余り使わない公園は実は避難地としても使われていないということがあります。  それから、今回のように鉄道が運行できなくなったために、かえって今度は駅前広場がありますとそこは救援物資配送拠点になるというようなことがありますので、単に公園というだけではなくて、オープンスペースというのはそういう駅前広場もある意味ではオープンスペースというふうに考えますと、そういうものを今回の復興の中でさらに大きく確保するというような姿勢が必要だと思います。これは、単に防災のためにオープンスペースを確保するのではなくて、ふだんの生活の中で都市環境としてよりいい環境をつくるためにオープンスペースを確保して、それも非常時には防災拠点となるような施設整備をあわせて行うというような形が必要かと思います。東京の関東大震災のときは小学校の隣に近隣公園をつくるというような形で復興しましたが、今回のこの地域についても何かそういう考え方が必要なのではないかということでございます。  それからもう一つ、いろんな公共施設を立地させるときに、これは縦割り行政の悪いところといつも言われるわけですが、それぞれの部局がそれぞれの御都合でいろんな施設を建てていくのをある程度集約するような形になれば、そこは災害時には防災上安全なところとして一つの安全な街区を形成することができるので、そういうような考え方公共施設の立地を考えていくということも必要だと思います。  それから、今後の復興に向けて現在一生懸命議論されていますが、往々にして被災者方々住宅をどう確保するかという問題になっていますが、もう少し先を考えますと、その人たち生活が安定するというのは働く場がちゃんと確保されていくことが非常に大きな問題ですので、要するに職場としての生産機能をどう復興するかということについても急がれる大きなことではないかと思います。そういう意味では、やはり神戸の町というのは港湾都市神戸というイメージがありますし、実際に神戸に働いている人の二割が港湾関連に従事しておりますし、神戸経済の四割はその関連のところから生産が起こっているということでございますので、港湾復旧というのをかなり急いでいかないと、神戸の町というのは住宅復旧されても職場がうまく見つからないというような状況が出てくるおそれがありますので、そこのところを考えていただきたい。  それからもう一つは、神戸港というのはアジアの中の一つ拠点港ということになっておりますが、この復興がおくれますと、例えば今のコンテナの荷物が、例えば韓国あるいは台湾というところの港湾がもしサービスがよければそっちへ行ってしまうおそれがあります。それは、一回そっちへ流れてしまうとなかなかその商習慣を変えるのは難しいということになりますので、そういう意味でも港湾復旧というのが急務でございます。今、港湾施設整備というのは利用者の負担によってやるという原則日本の場合原則となっておりますが、こういう特定の港湾についてはもう少し公共施設というような位置づけにした整備の仕方を考えなければいけないのではないかというふうに思っております。  それからもう一点交通の問題に触れますが、今、非常に神戸の町の道路は渋滞しておりますが、そのほとんどは瓦れきを搬出するというような交通でございます。そういう意味では、今後復旧なり復興が行われますと、復興のための今度資材を運び込む交通が出てきます。それから、先ほど私が言ったように、もし職場が確保されるということになりますと、今度は生産のための交通が出てくる。あるいは皆さんが平時になったら通勤の交通が出てくるということになりますと、ふだんより何割か多い交通需要が発生してまいります。それでなおかつ道路は全部は復旧できませんから、かなり交通渋滞が今後近未来、数カ月から一年ぐらい私は続くのではないかと思いますが、それをかなり覚悟した対策を考えなければいけないのではないかというふうに思います。  それで、最後の方になりますが、今回の復興計画ですが、現在のように日本地方分権なりという方向に全体の流れが来ておりますが、そういう意味ではこういう計画地元である県、市あるいは住民というのが主体となって策定するのが筋だというふうに思います。  しかし、それに対してでは国はどうしたらいいのかというときに、国としてこの計画をどうするこうするということよりは、地元が考えるときに、こういう制度でこういうことができるというような、地元が選択できるようないろんな施策を国としては整備する。今回の特別立法なんかもそうでございますが、そういう形で選択肢をいっぱいふやして、それをどう組み合わせてつくるかは地元で考えるというような形のやり方がふさわしいのではないかと思います。そういう意味では、国が対策選択肢をふやすことと、それに伴った財政的な裏づけについて国がやるべきではないかというふうに考えております。  もう時間がありませんので最後に。  今後こういう復興計画を考えていくときには、被災された方も含めて地域人たちが、二十一世紀に向かってこういう復興なら我々の夢も希望もあるというような内容を含んだ計画をつくるべきだと思いますし、さらに経済大国と言われる日本というふうな立場から見ますと、世界各国はこの地域に対してどういう復興をするかというのをある意味では非常に興味深く見ておりますので、二十一世紀に向かってこの復興計画は、なるほど経済大国日本はこういう理想を掲げたような都市を目指すというふうなイメージがわかるような復興計画をつくるべきだというふうに考えております。  私の意見は以上でございます。(拍手)
  4. 坂野重信

    委員長坂野重信君) ありがとうございました。  それでは次に、財政・税制につきまして、鶴田公述人にお願いいたします。鶴田公述人
  5. 鶴田俊正

    公述人鶴田俊正君) 専修大学鶴田でございます。  参議院の予算委員会公聴会公述の機会を与えていただきまして、大変光栄に思っております。ありがとうございます。また、最初にお断り申し上げたいんですが、私は重度の花粉症にかかっておりましてお聞き苦しい点があると思いますけれども、お許し賜りたいと思います。  きょうお話し申し上げますのは、私が日本経済のマクロ、ミクロの実証研究に携わっておりますから、そういう観点から公述をさせていただきたいと思います。お手元に簡単なメモを用意してございますが、それに沿った形でお話し申し上げますが、何分時間が限られておりますから要点だけを申し上げて、お話し申し上げない点につきましては後の質問時間でお答えしたいというふうに思っております。    〔委員長退席理事伊江朝雄君着席〕  予算を見る場合に、短期、中期、長期観点から考えなければなりませんが、きょうは景気対策震災対策行政改革、あるいは超長期都市形成をどうするかというような観点からお話を申し上げたいと思います。  まず、景気対策としてこの予算を評価する視点でございますけれども、景気回復を定着させることとそれから内外均衡を是正するということがこの予算に課せられた大きな課題だと思います。  景気回復につきましては、御存じのように、バブルがはじけて以降、大変長期不況日本は直面いたしました。丸三年弱の二年数カ月長期にわたる不況でございましたが、今回の不況を顧みますと、長さといい深さといい、戦後最大級不況であったというふうに私は思っております。したがいまして、一昨年の十月を底にして景気回復過程に現在ございますけれども、しかしその回復の歩みは非常に遅々としております。これほど景気回復が緩慢な姿となりましたのは、戦後の日本景気回復過程は非常に珍しい現象ではないかなというふうに思っております。したがいまして、この景気回復を定着させることが予算に、財政に課せられた大きな課題であります。  また、内外均衡、これは後で申し上げますけれども、日本経済は非常に内外の大きな不均衡に直面しておりますから、それを是正しなければなりません。その内外均衡を考える場合に、よく私ども経済学者はアブソープションモデルというのを使います。おもちゃみたいなものでございますけれども、考え方を整理する上で大変便利でございますから、そういうものをお手元に掲げてあります。  左側がいわゆる貯蓄投資バランスを示しております。右側が輸出入バランスであります。貯蓄投資バランスは、民間貯蓄政府貯蓄の和から民間投資政府投資を引いたものは輸出入の差に等しいと、こういうことでありまして、これはしばしば引用されるモデルでございますから先生方御存じだと思います。この民間貯蓄というのは家計貯蓄企業貯蓄の和であります。政府貯蓄というのは一般貯蓄の概念と多少違っておりますけれども、税収等々も貯蓄に入ってくるということであります。そして、その貯蓄住宅投資あるいは企業設備投資に割り当てます。また、政府公共投資に割り当ててまいりますが、日本の場合にこの差額が非常に大きいことは御案内のとおりであります。貯蓄超過経済であります。したがいまして、内外均衡の内の不均衡というのは、この貯蓄投資バランス貯蓄超過状態になっているということであります。  ちなみに、日本貯蓄超過経済でございますが、アメリカは投資超過経済非対称形になっているということでございます。そういうふうにこの恒等式を前提といたしますと、当然貯蓄超過分だけ日本経済輸出超過経済になっている。いわゆる対外均衡の側面であります。したがいまして、この国内不均衡対外均衡というのは相互に密接に関連しているわけでございますから、したがいましてこれをいかに是正していくかということが予算に課せられているわけであります。  特に、今回の政府経済見通しを見ますと、実質で二・八%を想定しております。一月二十日閣議決定でございますから、震災が一月十七日でございますけれども、これがつくられたのは震災前でございますから震災等々の影響は全部入っておりませんけれども、二・八%の経済成長を目指しているわけであります。当時の民間予想は大体二%前後でございましたから、一般経済見通しよりやや高めの見通しになっているということであります。  また、この中身を見ますと、民間最終消費に四・二%、実質でございますが、企業設備四・〇%を割り当てております。中でも注目されますのは企業設備でございまして、現在のところ非常に景気回復が緩慢でございますからこの四%が実現するかどうかということはまだ何とも言えない状況でございますから、したがいまして投資として確実に増加が見込めるのは政府投資というふうになると思います。  そういうふうに考えますと、貯蓄投資バランスを改善するためには政府投資の底上げをするということが非常に大事でありますし、また景気回復を定着させるという点からいうならば、所得減税というものはやはり重要な位置を占めているというふうに思うわけであります。  特に、最近の顕著な円高を見ておりますと、日本のファンダメンタルズ、つまり基礎的条件であります、これは先ほど申し上げました貯蓄超過等々を示しているわけでありますが、ファンダメンタルズを改善することがいかに重要かということがわかります。円高はこのファンダメンタルズと投機的な資本移動によって起こるわけでありますから、投機的な資本移動というものもその国の基礎的条件に左右されるということを考えますと、ファンダメンタルズの改善が非常に重要だというふうになるわけであります。  そういう観点から予算を見ておりますと、所得税減税を継続するということは非常に重要でございますし、また絶対にこれを行わなければ、冒頭に申し上げました景気対策としての課題景気回復を定着させるという上でもこの所得減税が必要だということになります。  もう一つの、貯蓄投資バランスを改善するという意味で社会資本投資はどうだろうかということでございます。いわゆる政府投資はどう評価したらいいかでございますが、いろいろな見方がございますけれども、私はやや過小だなという印象を持っておりました。と申しますのは、一般会計公共事業関係費が四・一%増であります。財投にいたしますと〇・七%増でありますからやや控え目な、つまり冒頭に申し上げました貯蓄投資バランスを改善するという点からいうならば控え目な予算編成になっているのではないかなというふうに思います。  この点は政府経済見通しにもはっきり出ておりまして、政府の固定資本形成は平成六年度の、五・九%から三・八%に落ち込むというふうに、伸び率が小さくなるというふうになっております。やはり、民間投資なりが不確実である段階では着実に増加が期待できるのは政府投資でございますから、当時、これは震災が起こる前でございますけれども、私は補正予算を編成してそして景気回復を定着させていくことが重要かなというふうに考えておりました。そういう意味では、税収難でございますからいろいろ制約があるにしても、日本は非常にあり余るほどの貯蓄を抱えているわけでございますから、政府が公債を発行してそして政府投資を拡大していくということは私は不可欠な命題であるし、またそれを行うことが今日の政府に課せられた役割ではないかなというふうに思うわけであります。  さて、震災対策の方に移ってまいりたいと思いますが、今、黒川先生からお話しいただきましたけれども、予算面から見ますと、早速九四年度で第二次補正予算が編成されましたが、これによって神戸の市民の方々のサポートをするということが非常に大事だなというふうに思っております。  この震災対策費をどういうふうに予算に反映させるかということでございますけれども、本来でいえば、予期しないことが起こったわけでございますから、社会資本投資も含めて歳出の中で不急不要なものを見直して、そしてこの震災対策に重点的に予算を配分していくというやり方が私はオーソドックスだろうというふうに思います。特に、我が国は民主主義国家でございますし、三権分立が原則でございますから、大蔵省がつくった予算をそのまま国会が認めるというのではなくて、やはり新しい事態に対して国会が予算の組み替えをしていくというくらいの強い姿勢あるいは積極的な姿勢をお持ちになるのが妥当だろうというふうに当初は思っておりました。  不幸にして、不幸にしてといいましょうか私の考えからすればやや物足りない感じを持ちますが、既に衆議院で九五年度の予算が成立しております。現在の憲法ですと衆議院の議決が優先いたしますから九五年度での組み替えは不可能かと思いますけれども、しかし震災対策として九五年度にかなり大型の補正予算を組まざるを得ないというふうに思っておりますから、少なくとも九五年度補正予算の段階で事実上の組み替えを行うような努力をされていただきたいなというように思います。その場合には、やはり震災対策に重点を置くわけでございますから、今までの歳出の中で見直すものがあるなら極力見直していく、あるいは社会資本投資でもあるいは新幹線整備計画等々につきましても見直しをしていくということが私は必要じゃないかなというふうに思います。  問題はその財源でございますけれども、いろいろ議論されておりますけれども、一つの案として、所得減税を当初の見直しをして、そしてそれを財源に充てたらどうかという議論もないではありません。しかし、第一に申し上げましたように、現在の日本経済は景気の回復を定着させることに非常に大きな役割がありますし、また雇用の安定という観点を考えますと、私は減税を継続することが必要だろうと思います。この減税につきましては、既に時間差をもって一般消費税で財源に割り当てるというふうになっているわけでございますから、したがいまして私は減税を優先させるべきだ、実際に実行すべきだというふうに思っております。  そして、もう一つの案として増税案が出ております。しかし、私は増税に対しては基本的には反対であります。なぜかといえば、神戸震災対策として増税を行った場合、これは震災対策が一段落したらその財源はそのまま恒常化してしまうという危険性があります。また、後で申し上げます日本の抱えております行政改革についてもそれをおくらせるということになりかねないと思います。  したがいまして、私は当面は国債発行で対応するのが望ましいと思います。特に、冒頭で申し上げましたように、日本は相当、十兆円を超える規模での貯蓄超過経済でありますし、それが円高の大きな引き金になっているわけでございますから、こういう事態に直面いたしましては政府が公債を発行してそして市中にある余剰な資金を吸収して、それをもって震災対策に割り当てていくということが必要だろうと思います。しかし、中期的に考えますと、後で申し上げます行革を推進して、そしてそれを財源に割り当てるということが不可欠だというのが私の考え方であります。  そこで、私は行革について申し上げたいと思いますけれども、行革といいますと何か政府の省庁を統合するとかあるいはいきなり特殊法人を統廃合するとかいうところに議論が入っていきがちでございますけれども、やはり行政改革をするためには官僚の仕事を整理しなければいけないだろうというふうに思うわけであります。そのポイントは規制緩和を推進するということになると思います。  この規制緩和につきましては、現在の政府が大変な御努力をなさっておりますけれども、また今月中に五カ年計画が発表されるやに聞いておりますけれども、今散見しております資料等々から推測いたしますと、どうも規制緩和は不十分だなという印象を持たざるを得ません。大変な御努力をしていると思いますけれども、規制緩和、規制の見直しというのはまだまだ入り口であって、これからが本番だなという印象を私は持っております。  規制緩和と申しますと、中には政府がもう何にも仕事をしなくていいんだというふうな印象を持つ方もいらっしゃるかもしれませんけれども、私たちの住んでおる社会は混合経済体制でございますから、政府がやるべき仕事というのはいっぱいあります。これから高齢化社会を迎えていくわけでございますから、福祉政策の側面とか環境保全とかあるいは公共財の供給とか、今度のような地震が起これはその震災対策とか、いろんな仕事があるわけでありますが、しかし我が国の政府の仕事を見ておりますと、残念ながら政府がやらないでもいい分野に余計なエネルギーを注ぎ込んでいるという印象があります。  したがいまして、規制緩和というのは、ある意味では混合経済体制における政府民間の役割はどうあったらいいんだろうかということを問い直すのが規制緩和だというふうに私は理解しております。そういう意味では、ほかの言葉で言えばいわゆる二十一世紀の高齢化社会に直面して政府はどういう役割を果たしたらいいんだろうか、不急不要なところからどういう分野に仕事の重点を移したらいいのかという問題にかかわっていくテーマだというふうに私は考えているわけであります。  また、今日の規制緩和を考える視点としては、私は、歴史軸とそれから国際軸という二つの視点が必要だろうというふうに思います。  国際軸というのは、言うまでもなく現在の日本経済というのは国際社会の中で大変大きな役割を担っておりますが、そういう意味では日本の行政の仕事を簡素化して、そしてアメリカを含めたあるいはアジアを含めた国々との相互依存関係を一層推進していくという観点から規制の見直しが行われなければなりませんし、歴史軸というのは実は、私の感じでありますが、戦後改革でいろんな改革をいたしましたけれども、政府と産業との関係においては実は戦時体制がそのまま残ってしまっている、それを今の二十一世紀に向けて見直すというのが規制の緩和だというふうに思うわけであります。  そう考えますと、規制の問題では次の三相に考えるべきテーマがあります。一つは、電気料金のように政府が何らかの形で料金決定に介入しなければならない分野が多々ございますけれども、しかしその分野でも非常に過剰な規制が残っている。この過剰な分をとらなければいけないという分野が一つあります。それから二番目は、政府が何にも介入する必要がない、そういう分野に余りにもごてごて仕事を政府がやり過ぎる、この分野をどう整理するかという問題があります。それから三番目の問題は、都市計画のように本来は規制が必要でございますけれども、規制が余りにもぬる過ぎる、緩過ぎるという面があります。  したがいまして、そういう意味で過剰な規制をそいでいく、また政府がやらないでもいい分野についてはもう全部撤廃していく、そして本来都市計画のように政府がやるべきことはきっちりやる、これが規制緩和のテーマだというふうに思うわけであります。そういうふうに考えてまいりますと、現在の規制緩和五カ年計画が余りにも手ぬるいものであって、もっと根本的なところに踏み込んでいかなければいけないなというふうに思いますし、そういう根本的なところに踏み込んでいく過程の中で行政の仕事が整理されていって、結果的に行政改革が推進されていくんだというふうになると思います。  それから特殊法人の見直しでございますが、今般の議論を見ておりますと、唐突的に開銀、輸銀を統合するんだとかいうような議論がいきなり出てまいりましたけれども、やはりこれは財政投融資制度をどうするんだと、そういう根本から議論をしていかなければなりません。あるいは郵貯とか簡保とか郵便事業等々資金の入り口のところ、これをどうするかという議論を行って初めて特殊法人の整理の問題に答えが出てくるはずであります。  私の結論を申し上げますと、郵便貯金というのは非常に重要な役割を果たしましたけれども、もう明治、百二十年であります。もう大変な国立銀行と言ってもいいと思いますけれども、その当初の役割はもう終わっているわけでありますから、むしろ民銀を圧迫し過ぎているという観点から見るならば、私は郵貯を民営化していくということが必要でありますし、民営化する以上、資金の自主運用を行っていかなければならないだろうというふうに思います。  当然簡保の見直しも必要でございますけれども、あわせて郵便事業の見直しも行う必要があります。今日、宅配等々民間のメールが大変発達しております。郵便事業も国営でなければならないのか、この点も先生方に根本にさかのぼって考えていただきたいと王います。過疎地の郵便については第三セクター等々をつくって、その過疎地の郵便事業が円滑にいくようなことを考えればいいわけでありまして、ベースは民営化をしていくことが必要であります。  そして、出口のところの政府系金融機関とか公団等々でございますが、これも現在不急不要のところにお金が使われている可能性がないではありません。したがいまして、ここも基本的には民営化して、マーケットの中でどの事業が必要なのかということを評価させることが必要だろうというふうに思います。ただ、それでも公団あるいは特殊法人の中で政府がコミットする必要のある分野がないとは言えません。その場合には利子補給等々あるいは信用保証等々をすることによって公共的な性格を持たせることは可能じゃないかなというふうに思います。  そうしますと、資金運用部も郵貯等々から資金を確保するのじゃなくて、いわゆる財投債のようなものを発行して、そしてマーケットから資金を調達し、それを元にして公団等々民営化された企業に資金を供給していくというようなことを考えていくことが必要じゃないかという気がします。あるいは場合によっては個々の民営化された企業が債券を発行することも考えられますけれども、公的性格を多少なりとも持たせる必要があるとするならば、そういう財投債のようなものを考えてもいいのではないかという気がいたします。そうなりますと、郵貯は郵貯で資金の自主運用が可能でございますから、財投債をマーケットの中で引き受けていくというようなことを考えていけばいいわけであります。  そういう財政投融資の抜本的な見直しを行って、特殊法人、公団等々、あるいは郵貯、簡保、郵便事業等々の民営化を図りながら、そしてその成果を行政改革につなげていくということが私は必要ではないかなというふうに思います。  最後に、「都市型福祉社会の創造を」と書いてございますけれども、私たちが住んでいる日本は、既に都市に非常に多くの市民が住んでおります。しかも、近い将来に高齢化社会が到来すると言われています。高齢化社会といいますと何か非常に抽象的に問題をとらえがちでございますけれども、実は都市の中で高齢者が多数存在するようになるということであります。しかし、残念ながら日本都市を見ますと、健常者用の都市が圧倒的でございまして、ハンディキャップを負った方々都市の中で安心して市民生活ができる状態ではない。したがいまして、これからの課題というのは、都市の中で高齢者ないしはハンディキャップの方々が安心して市民生活を送れるような、そういう町づくりを行わなければいけないし、また震災復興計画においてもそれを生かしていくことが必要じゃないかなということを最後に申し上げて、私の公述を終わらせていただきます。  ありがとうございました。(拍手)
  6. 坂野重信

    委員長坂野重信君) ありがとうございました。  以上で公述人の御意見の陳述は終わりました。  それでは、これより公述人に対する質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言願います。
  7. 沓掛哲男

    ○沓掛哲男君 では最初に、黒川先生にいろいろ質問させていただきたいと思います。  私は、今回の阪神の大震災被害が非常に大きかったのは、もちろん一つには未曾有の大震災であったということ、それからもう一つはこの地区が大変過密な都市であったということ、住宅地等であったということ、それから三番目にこういう大規模な地震に対する事前の準備がハード、ソフトの面で必ずしも十分でなかったというふうに思います。ここで復興していく場合においては、何といっても今申しました三つのうちの過密都市の解消をどういうふうにしてやっていったらいいのかというのが一つの重要なテーマだと思います。  先生今おっしゃったように、今回の通常国会で被災市街地復興特別枠置法がもう既に成立されて、そして推進地域を指定することによってその中における権利を二年間ある程度すべて許可制にしていくというようなことで進めようとしているんですが、この法律だけでいいのかどうか。また、この特別措置法は二年という期限を切っているわけですが、これについてそれまでにうまく面的整備等がみんな順序よく入っていくのかどうか。そういう点をひとつ最初に御質問したいというふうに思います。  それから二番目に、先生今おっしゃったように、現地においては住民の権利それから財産、そういうものとこれから公的ないろいろなものをなそうというところでの衝突が起こるわけですから、それに対していろいろな専門家をぜひ現地でしたらどうかという御意見でございますが、私も全くそのとおりです。  現在まで政府がやってきたことというのは、阪神・淡路復興委員会復興本部をつくることをやってまいりました。いずれもこれは中央のことであり、復興委員会というのは、総理大臣の諮問機関ですから、復興方針をこうしたらいいじゃないかとかいろんなことをアドバイスする。また、復興本部というのは、現地からいろいろこういうものをやろうということが出てきたら、それが各省庁に権利がまたがるようなときは調整しましょう、財源等についてもいろいろ検討しましょう、また立法が必要ならばそれも検討しましょうということで、あくまでも中央の話で、現地の方に対する補強というのは余りない。  これを政府に質問いたしますと、非常災害対策本部から現地本部を出していると言うのですが、あれは兵庫県の知事室の隣にいるわけでございまして、先生今おっしゃったように実務的な面でのものは非常に弱い。この復興を円滑に進めていく上において、中央とそれから現地のそういう機関の両輪がやっぱり必要だというふうに思います。  私もいろんなところで、与党災害連絡会議等々で、やっぱり現地に特殊法人を一つセットして、そこへいろいろな地方公共団体その他からの専門家的な方を呼び込む、そういう受け皿をきちっとつくる。そしてこれはまさに兵庫県や神戸市と一緒になって仕事をしていく、場合によってはそういう理事長は兵庫県知事でもいいというふうに思いますが、そういうものをぜひつくっていったらいいと思います。  そこで、先生おっしゃったのは、県や市でそれを雇用して支弁するというのではなかなか硬直している面があるので、今申し上げました関東大震災に倣えば帝都復興院のようなものを現地につくる、そういうことがぜひ必要だなと私は思っているんですが、そういうことに対する先生の御意見をいただきたいと思います。  それから三番目に、いわゆる焼けた地域と残った地域でございます。不幸にして被災され、そして焼けた、そういう地域についての復興は、やりやすいわけではございませんけれども、必要が迫っておりますから進むということになるんでしょうが、被災を受けなかった地域との関連をどうしていくかという、このことがやっぱり非常に重要な課題だと思います。残った地域についても、例えば今回避難所になったような学校施設とか公共的な施設については、補強してまた何かのときにはぜひそういうものを利用する、そういうことも大切だというふうに思います。  この間、活断層の専門家に、活断層というのは一度起こると数百年のタームでしか来ないからと言うので、じゃ今回来たので当分は大丈夫ですかと聞いたら、いやいや、ここには山手側に六甲・高槻活断層というのがあるので、これは全然今回動かないのでそういうわけではありませんということもございました。  そういう点で、いわゆる被災をしなかった地域におけるそういう補強というのをどういうふうにしていくか。特に、私も今申しましたように避難所ですね、そういう避難施設の耐震性を強くすることが必要じゃないかというふうに思います。  実は、こういう建物の強度を強くするには基礎をきちっとすることが必要です。いわゆる薬液注入で尿素系というのがあって、諸外国ではみんな耐震性を増すためには基礎を尿素系の薬液で固めています、この前もサンフランシスコで学校等そうやっていましたが。残念ながら、我が国では薬液注入は水ガラス系を除いて昭和五十年に禁止したわけでございます。禁止するにはいろんなことがあったんですが、二十年たっていろんな是正もしているので、そういうものももう一回見直したらいいのじゃないかなというふうに思います。ちょうど私はその規制をするとき建設省で担当しておりまして、国会へ呼ばれてもっと厳しくやれといういろんな御指摘も受けたものですが、そういういろんな手法ももう一度見直して、今回の大震災の教訓を生かしながら地震に強い既存の部分についても対策を打つべきではないかなというふうに思うので、それについての先生の御意見をいただきたい。  それから、確かにツリー構造からネットワークヘということで、これは随分前から渡部輿四郎先生とか並木さんとかも盛んにダブルネットワークにすべきだと言っていたんですが、どちらが安いかとなるとやっぱりこのツリーの方が安いものですから、どうしてもそっちの方に計画が流れていったという反省がございます。こういう点についてひとつやっぱり大胆にやっていかなきゃいけないなと。  そういう点で、今また出るんですけれども、帝都復興院においては、後藤新平がみずから東奔西走して帝都復興院をつくり、当時として四十億円を超える計画をつくりましたが、財政当局から締められてそれが七億円余に縮減される。しかし、当時の予算が十四億円弱ですから相当なものをつくっている。しかし、そのおかげで現在、昭和通り、永代通り、隅田公園などが残っているわけですから、そういう遺産残しのためにもしっかりしたものをつくるにも何といっても財源が要るので、そういう財源の確保とあわせて、先生あおっしゃるダブルネットワークネットワーク構想を実現すべきだなと思いますが、それについても先生の御意見を。  それから五番目にいわゆる地下化のお話ですが、確かに私は、今現在、自民党の災害対策委員長代理をしておりますので地震等があるとどこへでも一番先に飛んでいって見ているんですが、地下構造物で大きな被害があったのは今回が初めてでした。これも地下鉄などにまで及んでおりましたが、しかしここには先生のように共同溝化をすればということですが、この共同溝化をするのも物すごいお金がかかるんですね。そのことがなかなか進まない隘路なんですが、これについても、先生の今おっしゃったようなことを踏まえて、思い切ってやっぱりやっていくべきだなというふうに思います。  差し当たってこの五点ほどについて先生の御意見をいただければと思います。
  8. 黒川洸

    公述人黒川洸君) 今五点ほど御質問がありましたが、最初の過密であるのではないかというのは、事実我々も過密であったということは思いますが、ではどうするかというときに、逆にここで被災に遭った方々だけをどこかへ移転するということにしますと、今までそこの地元に地縁があるという人たちを強制的に移転するというのは非常に難しいのではないか。むしろ、過密であったというのは密度が非常に高いということでございますから、それはどちらかというと、例えば住宅でいうと、平屋建てでずっと密度が高かったというものをやはり空間を少しあけるためには立体的にした密度構成にするというようなものと、それから出ていってもいい人が出ていきやすいような形の、今度の特別立法やなんかで区画整理事業で換地で区域の外へ出ていく人については土地と建物を両方つけて出していくというようなメニューをつくったのは、私は非常にいいことだと思っております。そういうことでは、出ていきたい人には出ていくようなオプションもあり、残りたい人には残れるような形の対策が必要だというのが私の趣旨でございますので、そういう意味では過密をなくすのは大賛成なんですが、強制的になくすことは非常に難しいだろうというのが意見でございます。  それから、この特別措置法は二年を限ってということでございますが、この中には、従来ほかの地域でもこういうことができたらもう少し都市整備がうまくいくのにというようなものもございますが、この二年間で神戸なりほかの市あるいは町でこういう形でうまくいくならば、物によってはその後、一般的な中でできるようなふうに法制度を改革していただけるといいのではないか、あるいはそういう意味ではこの二年間が一つの実験的な時間であるというふうな理解をしたらいいのではないかというのが私の意見でございます。  それから、二番目の復興院みたいな特別なものをつくるのがいいのではないかということですが、私自身も、私は県と市がと言うのは、現在の法人格を持っているものでいくと国ではなくて県とか市という言葉でございますが、そういう意味では特殊法人というのがいいかどうかは私はちょっと答えに窮しますが、現地に何かの形で専門家がある責任を付与できるような形で動ける組織が欲しいという意味では、その形態が特殊法人になるのかあるいは県とか市の中に臨時につくるのかというのが議論になりますが、現地に行った専門家がある責任を持って行動できるような組織体系が必要だというふうに私はお答えしておきたいと思います。  それから次に、三点目は基礎構造を強化するということで尿素系の薬液注人が禁止されたということでございますが、私はこの中身、詳細には存じ上げませんが、見直しをすることは必要だと思います。そのときには、我々ヨーロッパとかアメリカで見ておりますのは、おびただしい土壌汚染が全体の環境問題として非常に大きく取り上げてこられているところがありますので、そういう意味環境上の問題を十分今から見直して、問題がなければ私はそういう形での基礎の強化というのは町自身を構造的に強くするための必要性からは何かの方策は必要だと思いますが、尿素系をやめる、緩和しろということについては、むしろ環境上の問題がないもので補強すべきだというふうにお答えしたいと思います。  それから四番目のダブルネットワーク化というのは、要するに今までこういうものがどちらかというと日本も戦後の復興していく中で経済性と効率性を非常に重視して日本国をここまで大きくしてきたわけでございますが、ある意味で、先ほどの鶴田先生の御発言にもありますが、社会資本が今までの効率性等だけで整備されるよりは、もう少しゆとりのある社会形成という意味では、今までは効率上若干むだであるというふうな言葉で言ったものを、むしろ安全性を高めるとかゆとりをつくるという意味で今後考えていくべきではないかというふうに思います。そういうための費用については若干、もう少し余裕の投資という概念が出てきてもいいのではないかということでございます。  五番目の地下でございます。今の共同溝をつくるもとは、掘り返しをして道路交通が障害になるのでというのが法律をつくった趣旨でございますが、今後の共同溝の法律は、そういうことだけで共同溝をつくるのではなくて、もう少しライフラインを強化するという意味で、例えば道路特別会計だけで、原因者の負担というコンセプトではなく、一般会計まで導入するような方向が可能性がありやなしやということまで含めてこういう地下整備をしたらどうかというのが私の意見でございます。
  9. 沓掛哲男

    ○沓掛哲男君 では次に、鶴田公述人に質問させていただきたいと思います。数点させていただきますので、よろしくお願いいたします。  まず景気ですけれども、現在の我が国の景気情勢というのは、循環的な面での上向き、いわゆる構造的な面での停滞、そういうものが綱引き状態だというふうに思います。マクロ的に見ると確かにすべての数値は昨年の秋ごろから非常によくなってきておりますが、ミクロ的な面では必ずしもそうでない。そういう面の引っ張り合いがあって、しかし構造的な面のマクロ的な面が全体としていいですから、これからさらに上向いていくんだなというふうに思います。  そこで、昨年は、平成六年度予算はずっと成立がおくれて、実施されたのは六月の末ごろだったというふうに思います。今回は、今度安定政権もでき、そして今回早く衆議院で予算も成立しており、四月一日から間違いなくこの予算が動き出す。この景気に及ぼす予算が非常におくれて実施される場合と、ことしのようにちゃんと四月に実施されるということが読める、そういう状態でどういうふうな影響があるのかそういう点をちょっと一つお尋ねしたいと思います。  それから二番目でございますが、これからの予算を見てみますと、今はまず先ほど来話のあります阪神復興のためにもお金が要りますし、ウルグアイ・ラウンドによる農業対策としてもお金が要りますし、また新ゴールドプラン、エンゼルプランもことしからまたいろいろ実施します。それから新幹線も実施するなどなど、非常に財政需要が増大しておるわけでございます。  それへの対応については、先生今いろいろ行政改革、規制緩和、そういうことによって行政のスリム化をしていったらどうか、そしてさらに財源面からはいわゆる国債を発行したらいいのじゃないかという、そういうふうなお話でございました。確かに一時的に増税するよりも、後世代の方々も使える社会資本等を整備するわけでございますから年代間の負担ということで、そういうことだと思います。  しかし、それについても私は、既に国債発行残高が七年度末には二百十三兆円ぐらいになるはずですが、そのほかにもう一つ、国には隠れ借金というのがございまして、大蔵省の人でなければなかなかわからないような非常に巧妙な、すぐれたのかどうか、その辺はいろいろ見方があると思いますが、隠れ借金も相当の額になっております。私は、もうここまで来たら、やっぱり国として二百十三兆円の国債のほかにこれだけある、全体としてこれだけ大きな負担、借金を背負っているということを明確にすべきではないか、いわゆる主権在民の国民が幾ら借金があるのかわからないというのはちょっと問題ではないかというふうに思います。この隠れ借金も含めた国の借金を明確にしたらどうかという点が一点。  それともう一つ、いわゆる金融機関のディスクロージャーというものも私は必要じゃないか。我が国の中で一番クローズされた機関は、私は金融機関のように思えてならないんです。今回もこの問題でいろいろ問題が出ております。実は、バブルがはじけた後に不良債権をたくさん金融機関が抱えて、それをなくするために共国債権買取機構というのをつくったわけですが、そのとき私もいろいろな委員会で、やっぱり財政もある程度援助してそういうものを処理する必要がある、それには当然金融機関もいわゆるディスクロージャーすべきだという、私以外の方も多くそういう意見を言われました。それに対して金融機関は、ディスクロージャーするくらいなら、おれらはそういう財政援助は要らないといって断ったわけです。  どれぐらい今、共国債権がいろいろ機能したかといいますと、この三月一日で買い取ったものは買い取り価格で三兆三千億、しかし実際売ったものは千八百六十九億、五・五%しか売れていない。借金がここに肩がわりしているだけというような感じになっておりますので、これからやはり金融機関についてもディスクロージャーをきちっとすべきじゃないかというふうに思いますが、その点についての先生の御意見をいただきたい。  それから次に、急速な円高が起こっております。八十円台という異常な状態にもなったわけですが、この異常な円高そのものが我が国の経済に与える影響、特にこの為替レート行き過ぎに対する対策としてはどういうものが考えられるのか。また、我が国経済のファンダメンタルズからいってどの範囲ぐらいの、一ドル幾らという範囲ならば適当と思われるのか。そういう点について、この円高に関連して教えていただきたいというふうに思います。  それから次に空洞化の問題でございますが、先生の書かれたものを読んでみますと、空洞化は今の状況ではまあまあ大したことはないと。例えば、我が国の現在海外進出している千四百六十社の海外生産比率は九二年度で六・二%、九三年度も出ておりましたが、今度はこれは六・四%となっている。しかし、アメリカは二七・五%、ドイツは一九・六%ということです。しかし、これは今は六%程度であれば空洞化ということをそれほど気にはしなくていいんでしょうが、現在の円高あるいはまたいわゆる我が国のいろんな高い供給構造、そういうものからこれからどうしてもアジア等へ出ていくものが多くなっていく。そうしていった場合どのくらい、今この率で言うのは無理かもしれませんが、例えば一〇%ぐらいまではいいんだけれども一五%を超えるようなことは余り好ましくないとか、そういうようなものがあるのでしょうか。あるとすればどういう数値なのか。  私もアジアとかいろいろ行ってそういう企業等を見てくるんですけれども、やっぱり非常に心配する面もございます。というのは、やっぱりアメリカは外交的にも政治的にも、またその背景となる軍事的にも強いものがあるんですけれども、我が国はそういう面は非常に少ない。マレーシアや中国の深圸なんかへ行っている企業の方のいろんな話を聞いてみると、これはどんどん日本の支社を外国でつくって、それで一体うまくずっと続いていくのかどうかという気もいたしますので、そういう点、先生の御所見をお聞かせいただければありがたいというふうに思います。  それから、この直接投資関連して、十年ほど前、国際分業については水平あるいは垂直分業というようなことがいろいろ言われておりました。大体十年ほど前は工程間分業、すなわち部品とか半製品の貿易により多段階にわたる生産工程の一定部分を他国と分業して完成品をつくるという、そういうものがこれからふえていくのじゃないかということでしたけれども、私はこの直接投資を通じてこの工程間分業が非常にうまくいくような気がするんですが、そういう点は、分業という面から見たらこの直接投資はどういうようなものなのでしょうか。    〔理事伊江朝雄君退席、委員長着席〕  それからもう一つ最後にお尋ねしたいんですが、外国からの対日投資、外国の人の日本への投資というのは非常に少のうございます。九三年度末でのその数値は日本では一対十七。日本が外国へ投資するのが十七、向こうがこちらへ来るのが一ですから非常にアンバラになっています。そういうものはアメリカでは大体一対一・一一とか、英国でも一対一とかいうふうにバランスがとれているんですが、これからの我が国は外国から来る投資をふやしていく、そういうことが必要なのかどうか必要とすればどういう手の打ち方がいいのか。そういう点について先生の御指導をいただければと思いますので、よろしくお願いいたします。
  10. 鶴田俊正

    公述人鶴田俊正君) どうも盛りだくさんの質問をいただきましてありがとうございました。非常に多岐にわたっておりますけれども、簡潔にお答え申し上げたいと思います。御質問の逆から参りたいと思います。  先生おっしゃるように対日投資残高とそれから対外投資残高の比を見ますと、日本の場合に対内直接投資残高が一であって、対外直接投資残高が十七で、非常にアンバランスであります。諸外国の場合ですと大体一対一、出る方も入る方も均衡しておりますが、先生おっしゃるように大変不均衡であって、したがって外から見ておりますと日本は貿易収支で大変な黒字を出している、直接投資でも出るばかりであって、そういう意味では膨張主義的なイメージを海外諸国に与えているわけでございますから、海外資本が日本に入ってきて一層活発な事業活動を日本で行うことが期待されております。  それは、いろんな条件があってそういうふうになっているんだと思いますが、例えば日本は土地価格が高過ぎるとかいうのがございますが、もう一つは、やはり政策レベルで申し上げますと、政府規制によって参入規制が行われている、参入に対して非常に大きな制約が課されています。そのことが対日投資をおくらせている非常に大きな要因だと思います。したがいまして、規制緩和というものも、先ほどは国際間の相互依存関係を促進するという観点からということを申し上げましたが、ある意味では対内直接投資を増加させるという観点からも参入の大幅な見直しをしていくということが必要だということであります。規制緩和のエッセンスも実はそこにあるんだということであります。  それから空洞化でございますけれども、これは一九八六年度の通商白書によりますと、海外直接投資の増加によって生産と雇用が減少するような事態を空洞化というふうに呼んでおります。そういうことに関して私は、先生が御案内いただきましたようにやや批判的な論文を書きましたけれども。また、昨年発表されました今年度の経済白書では、均衡為替レートの状態であるならば空洞化というのは余り問題ないよということを言っているわけであります。私も論文の中で示唆しておきましたけれども、為替レートが異常に円高になってしまう、そのスピードが速過ぎるとやっぱり国内の雇用なり生産に与える影響が大きいわけでございますから、したがって為替の安定化を図っていくことが非常に大事だというふうに思っております。  ただ、海外直接投資につきましては為替レートを安定化させることが非常に重要でございますけれども、しかし直接投資それ自身は、特にアジア諸国との分業関係を促進して、アジアの発展に非常に貢献する部分が私はあるだろうというふうに思っております。今日アジアの産業化が非常に急速に進んでおりますけれども、恐らく二十一世紀においてアジアのこの産業化が、日本だけじゃなくてミャンマー、インドとかあるいは大洋州とかアメリカに対してもっともっと大きなインフルエシスを与えるというふうに思いますから、日本の直接投資がアジアの産業化の促進を通し、そして日本とアジアとの交易関係を増進することによって地域の発展を促していく、そういう積極面を私は評価したいなというふうに思っております。  それから円高対策でございます。八五年のプラザ合意以降、急速な円高が進みましたけれども、八〇年代の日本の政策運営の基本は、財政が出なくて金融だけに依存した経済運営が行われていたというこの一点であります。八五年直後の円高期に財政が出たときもございますけれども、大体十年間通して見ますと、財政が余りにも出な過ぎて奥に引っ込んでしまっている、金融に過度に依存した政策運営が行われて、それがいわゆる内外均衡をどんどん拡大していった大きな背景でありました。つまり、冒頭に申し上げましたように、貯蓄投資バランスから見ると、日本政府投資が非常に抑制ぎみであったがために貯蓄超過経済が定着してしまう。そのことによって輸出超過になって、これが円高の基礎になっているわけでございますから、短期的というよりは中長期的な観点からやはり金融と財政のバランスをとっていくことが非常に大事であるし、特に先ほど意見具申し上げましたけれども、財政支出に関して社会資本投資をもう少し積極的に拡大していくことが私は必要だなというふうに思っております。  それから金融機関のディスクロージャー、これは先生のおっしゃるとおりでございまして、金融機関というのは私的企業でございますけれども公的性格を持っております。したがいまして、銀行、信用金庫を問わずすべての銀行、金融機関が先生のおっしゃるとおり財務内容等々についてのディスクロージャーを一層推進して、国民経済の安定に寄与していくことが私は必要だというふうに思っております。  それから、財政に関しての隠れ借金の問題でございます。まさに主権在民でございますから、国が借金をどのくらい抱えているかということは国民にわかりやすく説明するのが筋であります。私たち経済専門家であっても一体隠れ借金はどのくらいあるのかということがわからないんですね。新聞報道によって、ことしは三兆幾らありますよ、ああこんなにあるのかというふうになります。多分、これは勘ぐりかもしれませんけれども、大蔵省が隠れ借金をつくるということは、財政の健全性を訴えることによって行政改革をおくらせることになっているのじゃないかそういう手段に使われているのじゃないかということを懸念いたしますけれども、そうじゃないことを期待いたしますが、やはり借金はしかじかこれだけあるんだということを財政運営の透明性という観点からも明らかにすべきだというふうに思います。  それから最初の景気の問題でございますが、昨年は公共投資あるいは減税が行われて、景気に対しては財政が下支え効果を持っだということは評価できると思います。ことしもそういうスタンスを一層明確にして減税を行い、そして社会資本投資も、補正を恐らく編成することになると思いますから、そういう面から景気を下支えしていくということ、それがやや即効性は乏しいかもしれませんけれども中期的に言えば円高対策にもなるんだということを申し上げておきたいと思います。  どうも御質問ありがとうございました。
  11. 沓掛哲男

    ○沓掛哲男君 どうもありがとうございました。  以上をもって終わります。
  12. 瀬谷英行

    ○瀬谷英行君 社会党の瀬谷であります。  最初黒川先生からお伺いしたいと思っております。  今いろいろとお伺いしておりましたが、単に復旧じゃなくて復興が大事だということを言われました。もっともだと思うんです。何といっても、復旧ということになるともとのもくあみになるおそれがあるし、いろいろと土地問題に絡んで難しいことがあると思うから、これはやはりかなり英断を持って立派な都市計画というものを立てて、そして昔よりもっと立派な都市づくりをやるということが行われないと、これは何にもならないというふうに思います。  そこで、いろいろと考えていってみますと、そうは言ってみても、道路なんというのはそう簡単に広げたりあるいは新設したりということは難しいんですね。じゃどうしたらいいかということも当面の問題として考えなきゃいけないと思うんですね。  そこで関東大震災、これは大正十二年で、たまたま私も四歳のときに関東大震災を東京で体験しました。それで、父親が持っていたメモを見ますと、今度の阪神の大震災と非常に似ているところがあるんです。どこが似ているかというと、火災です。当時は密集木造住宅が主でしたから、火災が発生をした。ところが水道が壊れ、消火栓が七千二百だかあったのがみんな故障して消火の水が使えなくなった。ただし、当時としては井戸はあったんですけれども、井戸水をバケツにくんで水をかけるぐらいじゃもう間に合わないですね。あっちこっちに火災が発生して、それが一つに合流をして、被服廠跡では一遍に三万何千人という人が焼死したという、こういう事実があるわけです。今度の阪神の大震災でも、消火栓が壊れて水が使えなくなった、消防団が幾ら頑張ってもこれはどうにもならぬ、それから自衛隊が駆けつけてきてもこれまた手の施しようがなかったと、こういう事実があるわけです。だから、それを考えると、初期消火という点については関東大震災の場合も今回も類似点があったんです。  それから、たまたまきょうは三月十日ですけれども、東京大空襲があった日なんですね。このときも、震災とはまた事情は違いますけれども、もうやられっ放しで、実に何十万の人が焼き殺されたという事実があります。  火に対してはなかなか思うようなことができません。この防火対策という点を考えたならば、どうしたらいいかということなんですけれども、同じことを繰り返していたのではしょうがないので、まず防火という点からどのようにお考えになっているかということをお伺いしたいと思います。  それから都市計画ですけれども、今、多くの人が罹災をすると、まず学校へ収容する。校庭に収容する、あるいは体育館とかそういうところに収容すると。この寒いのに大変だということでありますが、東京なんかの場合は、この近辺に永田町小学校という小学校があるけれども、あれはもう生徒はいないんですよ。空っぽになってしまったんです。廃校同様です。校庭もあるし校舎もあるけれども、かといって壊すもならないでそのままになっている。私どもの地元の市長さんが話しておりましたが、どんどん生徒が減っていく、だからああいうことを考えると、校舎にいろいろな非常の場合の食料その他の備蓄品を蓄えるということを考えたらどうかということを言っておりました。  そういうこともありますので、私ども、今までの委員会でやはり御意見がありましたが、高齢者、老人を収容するのに船を使ったらどうかと、こういう意見が出ました。私も同感で、自民党からも二、三人そういう意見がございました。  船を使うということは、例えば運輸省でいうと航海訓練所の練習船というのは五千トンの船があります。これは遠洋航海もできるんですね。それから海上自衛隊あるいは海上保安庁の巡視船、三千トンクラスになりますとみんなヘリコプターが使えます。そういうヘリコプターも使えるような船というものを使えば、寒いところに、ああいう廊下に寝るというようなことをしなくても、お医者さんも看護婦さんもあるいは付き添いもみんな一緒に船の中で、急造の病院船としてこれが活用できるのじゃないか、こういうことも考えてみたのであります。  それらの点について御意見がございましたらお伺いしたいと思います。
  13. 黒川洸

    公述人黒川洸君) どうも御質問ありがとうございました。  今の第一点目、防火対策というのはいかがかということでございます。  一つ今回の地震を見ていまして、我々も気がついているんですが、関東の地域は割と地震が来るということで防災対策かなりいろんな準備がされている。それに比べて関西地域は、むしろそういう地震の問題は自分たちのところは余り来ないのじゃないかというような全体の、行政だけではなくて民間方々の意識の中にもそういうのがあったという形でありましたので、いわゆる消火栓が使えないと。あの消火栓はふだんの火災のための消火の道具として考えられておりまして、こういう大地震のときの多発型の火災については多分役立たないだろうということでございます。  そういう意味では、初期消火ではやはり井戸というのは今でも有効ではないかというふうに我々は考えておりまして、井戸水が少しでもあれば初期消火ができたかもしれないということでございますが、もう少し大きな火災になりますとこれはどうしようもない。東京を例にとりますと、これに関しては耐震性を持った水槽をかなりの場所にもう既に設置して、こういう多発型のときにはそこを水源にして、普通の水道の消火栓は多分使えないだろうということを想定して今整備をしている。そういう意味では、この阪神地域に今後の復興の中でもそういう形の整備がもっと必要になるだろうということでございます。  それから、多分実際の今回の災害の中での消防は、いわゆる火を消しとめるのではなくて延焼をとめる。要するに、火が次のところに飛ばないように途中でそこにある建物、焼ける物を壊して、それでそこに空間をつくってとめるというような、いわゆる破壊消防ということをもう少し活用しないといけない、あるいはそれをやらないととまらないという状況が起こるのではないかというふうに思っております。  防火対策は、今回は我々から見ると幸いにして大火にならないで焼けどまっている。というのは、多分全部の家が崩壊してつぶれてしまったので、燃えるときの煙突効果みたいなものが少なかったから余り燃えなかったのではないかというふうに言われておりますが、今後のことを考えますと、耐震性の防火水槽をつくること。それから一方では、河川が本当は消火の水源としては非常に有効なんですが、なかなか使えなかった。そういう意味では緊急に川をせきとめられるような、これも人力でせきとめられるような道具を少しつくったらどうかということを我々は今提言をしております。  そういうことでお答えにさせていただきたいと思います、  第二点の避難所の問題でございますが、これについても、関東地域では小学校とか公園を一時避難所にして、そこにある程度の避難物資をもう備蓄している例がありまして、横浜市はかなりそういう公園にそういうものを用意したりしております。永田町小学校みたいな例が挙がりましたけれども、我々もこういう小学校が、人が少なくなったから廃校して何かにしてしまうというのは非常にもったいない。非常に貴重な公共スペースですから、これをどう使うか。というのは、非常にまじめに、小学校としての機能はなくても都心部ではこういうスペースが必要だということで、これの活用を考えたらどうかというふうに思っております。  それから第三点の船を使ったらどうかということについては、我々もこういう提言をしておりまして、こういうことで防災用の船を一隻ぐらい日本で持っていたっていいじゃないかぐらいの意見を言う我々の仲間もおります。  ただ、今回の被災者の中での御意見を見ますと、例えば自分が被災した土地を持っている方は、その土地が被災後ちゃんと自分の土地として確保できるのかあるいは借地人は自分の建てた建物が自分の許可なく破壊されてしまうのではないかあるいはたな子の方は自分の大切な財産があるのにその建物をどこかでだれかに壊されてしまうのではないかということで現場から離れられないという形の仕掛けになっている方々もおられて、そういう方は逆にこういう船を用意してもそこには動けないという形で現地にいる方もありますので、これがあれば全部が解決するわけではないんですが、こういう船があれば有効であると私は思います。  以上でございます。
  14. 瀬谷英行

    ○瀬谷英行君 ありがとうございました。  鶴田先生にお伺いしたいと思いますが、その中でちょっと私もこれはなるほどと思ったんですが、不急不要の予算の見直しをすると。これは確かに、こういう破天荒な事件が持ち上がった場合には、今まで前例のないことだから、財政の問題でも思い切ったことをやらなきゃいけないのじゃないかなという気がいたしますが、さて問題は、今の円高なんですね。  円高の原因としてファンダメンタルズの改善が不可欠だということを言われておりますけれども、ゆうべの九時半だったかNHKのニュース解説のようなものがありまして、この円高問題に触れておりました。事の起こりはメキシコだと。メキシコのペソががたがたになった、こういうことから始まっておると。それが日本の円からドイツのマルクからことごとく影響してきた、こういう意味のことを言っておられました。  円高ということは、もう国会でも随分いろいろな人から言われているのでありますけれども、これを要約しますと、川柳でやると「上がるほど値段の下がる円相場」、こういうことになっちゃうのじゃないかと思うんですがね。ほかのことと違って日本の政治の手の及ばないところでいろいろなことが起きている。協調介入、いろいろ言われるけれども、協調する相手が知らぬ顔をしているのじゃこれまたどうにもならないし、そういう場合にはどこが非協調的なのかそれに対して我々はどういうふうに対応したらいいのか。こういう国際的な問題にも関連をしていくことなんですが、それらの点について一体どうしたらいいのかというようなこと、時間も少なくなりましたのでその点特にお願いしたいと思います。
  15. 鶴田俊正

    公述人鶴田俊正君) 瀬谷先生、御質問ありがとうございます。  まず最初予算の見直しでございますけれども、私は今まで、第二次世界大戦後の財政運営を見ておりますと、余りにも大蔵省のつくった予算がそのまま通り過ぎているというふうに思っています。議会で、予算委員会で審議されますけれども、議会の場で予算が組み替えられたというケースは本当に珍しいと思うんですね。やっぱり行政と国会とはそれぞれ役割、機能が違っておりますし、いわゆる議会制民主主義を採用しているということを考えますと、議会が予算を修正して、日本経済なりあるいは市民が求めている仕事に予算を重点的に配分していくという、こういう慣行をやっぱりつくっておかなきゃいかぬなというふうに思います。  そういうことがまずベースにあって、とりわけ今回の場合ですと阪神大震災という予期もしないことが起こっているわけでありますから、したがいまして政策の優先順位が変わってくるわけです。それまで一義的にこれが大事だと思われていたことも震災復興が優先されなきゃいかぬ。であるならば、その優先順位を変えて震災の方に重点を移して、そして余裕のある仕事については若干時間をずらすと、こういうことを考えていくことはやっぱり議会制民主主義の基本じゃないかなというふうに思うわけであります。  今回の場合、残念ながら衆議院を通過しておりますから、少なくとも九五年度の補正段階で抜本的な組み直しをされていくのが、またそういうふうに見直しを行うことが国会の本来の機能じゃないかというふうに私は思っております。  それから二点目の円高の問題でございますけれども、確かにメキシコのペソが今回の円高のきっかけになっております。ペソからドル安が誘発されて、それがマルク高に波及して、そして円高に来ている。そういう意味では直接的なきっかけはメキシコのペソでございますけれども、しかしこれは投機的な資金移動のきっかけであって、じゃなぜ投機的な資金が日本に入ってくるかといいますと、それぞれアメリカなり日本なりに、ドルを売る要因、円を買う要因があるからだと思うんです。  その基本は何かといったら、ファンダメンタルズだというふうに私は思うわけです。少なくとも日本のファンダメンタルズの場合、一九八〇年代からドルの累積黒字の段階が始まっています。多分、中曽根内閣ができたころには国際収支は均衡しておりましたが、そのころからどんどん黒字に入っていくわけです。そして、一九八六年度にピークに達して、日本円にして十四兆円ぐらいの要するに国際収支が黒字になっていました。その後、若干減少する過程がございましたけれども、九〇年代に入るとまた増勢をたどり、この一両年十数兆円の国際収支の黒字になっているわけです。  こういうものがなぜ発生しているかというと、貯蓄投資バランスが崩れているからでありまして、そういういわゆるファンダメンタルズの基礎があって、そして日本経済は世界で最高の債権国になっているわけでございます。したがって、その投機的資金も、日本の円を買っておけばこれは安心だということから日本の円を買うというふうになっておりますから、差し当たってということになりますと、妙案はございませんけれども、日本のファンダメンタルズを改善することが大事であります。  それから同時に、国際為替レートというのは、日本だけの要因じゃなくてアメリカの要因でもこうなっていますから、日米構造協議あるいは日米の包括協議等々で日本政府も主張していることでございますけれども、やはりアメリカの財政赤字を抜本的に改善する、解消するということを絶えず発言し、そしてアメリカのファンダメンタルズの改善を通してドル安に歯どめがかかるようなことを考えておかなければいけないだろうというふうに思うわけであります。  そういう意味では、協調介入はもちろん必要でございますけれども、為替レートが動きます背景にあるファンダメンタルズを日米ともども改善していくということも私は中長期的には円高対策に有効だろうというふうに思うわけです。  以上でございますけれども、よろしゅうございますでしょうか。
  16. 瀬谷英行

    ○瀬谷英行君 時間もちょっと中途半端になりましたから、これでやめておきます。
  17. 中村鋭一

    ○中村鋭一君 黒川先生に一つお尋ねをさせていただきます。  この間から神戸市の方は、新しい防災計画と新しい都市計画に基づいて神戸の町をもう一遍立派なものにするんだということで、既に地元の住民との話し合いに入っております。例えば、神戸市内のある区画については今度の新しい町づくりは道路を拡幅しようということで、全被災者に対して一律一〇%の自分の土地を供出しなさいと、こういうことの同意の取りつけの作業に入っているわけですが、これに対して住民からは猛反発が起きて、既にある町では四千人を超える住民の署名が集まったと。    〔委員長退席理事伊江朝雄君着席〕  その人たちは、それは都市計画もいいけれども、やっぱりこの辺の住環境というのは親から、おじいちゃん、おばあちゃんの時代から住みなれていたんだから、そういう町を、もう一遍住みなれた町をつくり上げたいと。  どうもやっぱり、先生の先ほどの公述でもそうなんですけれども、行政側とか学者の方は、この際だから私権制限をしても文字どおり百年の大計で立派な防災都市であり環境を大切にする新しい都市をここに再生するんだという気持ちがあります。住んでいる方は、やっぱり自分の土地だ、親代々住んでいたんだ、住みなれた町だ、とりあえずもう一遍家を建ててここに住ませてくれということが起きるわけですが、先生、その辺はどういうふうに考えていったらいいでしょうね。現実の問題、役所の方も本当に困っていらっしゃるわけですね。
  18. 黒川洸

    公述人黒川洸君) それではお答えいたします。  今のところ一〇%減歩で反対が出ているということでございますが、多分それはその絵柄がそのとおり実現するという一種の誤解が少し発生していることだと思います。  一つは、今現在非常に役所側が急いでやっているのは、今の法律でいきますと、建築基準法八十四条の建築制限というのは、大臣の認可があって一カ月延ばされても三月十六日で切れてしまうということになりますと、それをつなぐ形にするにはこの区域を区画整理という事業なり再開発事業という地区として指定しておかないとだめだという意味で急ぎ、そのときに何にも絵柄がないと困るというので、一つのサンプルとしての絵をつけて地元に説明しているのであるということが一つです。ですから、今度区域が計画決定されますと、じゃそのときはその中で道路をつくったり家をつくったりするのはどうしていったらいいだろうかというのは、それからそこに権利を持っている方々と相談しながら合意をとってつくっていくので、これはもう少し時間をゆっくり、それぞれの合意をしなければいけない。  そういう意味では、私が先ほど言った税理とか弁護の専門家が必要だというのは、そういうときに地権者がそういう人と相談をしないと、自分の財産が何か一方的にとられてしまうように誤解されるのが困るという意味で、私は、そういう専門家をぜひつけて、なるべく早く復興できるような環境にすべきだというのが私の趣旨でございます。  ただ、もう一つその中に、これは私個人の意見ですが、今まで借家人として入っている人なんというのが一番被災を受けているわけですが、もし大家さんの方が新しい建物に建てかえてしまうと、家賃は民間のままで任せておけば、今までの文化住宅ですと一カ月二万円とか二万五千円で借りられていたものが、新しくなったものを全部資金を大家さんが回収するとなると多分八万円とか十万円の家賃を取らなければいけなくなってきてしまうということになります。そうすると、前いた人が住めなくなってしまうという問題があるので、そこについてはさらに公共的な資金で建てる住宅みたいな形で、ここに長らく住んでいてもっと住みたい方にはそういう環境で住めるような方策をしなければいけないというのが私の考えでございます。そのためのいろんなメニューを国レベルで用意して、それをどう組み合わせるかは地元レベルにした方がいいというのが私の意見でございます。  以上です。
  19. 中村鋭一

    ○中村鋭一君 重ねて先生の基本的なお考えをお伺いいたしますが、先ほど伺った中でも、例えば新しい都市交通、それから道路のアクセス、こういうものをしていく、全く新しい町を、防災都市を建設する。そこに実際住民の方の本当に千差万別のいろいろな利害というものが錯綜してまいりますね。  この間も、やっぱり今度の地震で物の見事に全壊している中に、本当に不思議なんですけれども、ぽつぽつと全くほとんど被害を受けていない建物があるわけですね。私も現地へ何回か入らせていただいておりますが、見ておりますと、つくってからどう見てももう二十五年以上たっているような鉄筋の四階建ての市営住宅が全く何の損傷もない。その隣の本当に新しい大きなビルが三階部分と四階部分がぺしゃんとなって倒れている。だから、住宅街でもそういうことがあるわけですね。  ですから、そういう人からすれば新しい町づくりのためだからと。この間も新聞でその方の談話が発表されておりましたが、つくって一年にもならない、しかも全く損傷も受けていないのに、市役所の方が来て、新しい町づくりのためにこの家は取り壊していただきます、こうおっしゃったわけです。それはそうでしょう、新しい町をつくるためには幾ら損傷を受けていなくたってその家一軒だけがあればほかのことは全部できなくなりますからね。だから、そういう場合の公共の全体の利益というもの、将来に備えての本当の改造計画復興計画というものと私権とが真っ向から衝突をした場合には、先生のお考えはそれはもう私権制限あってしかるべしと、こういうお考えでございますか。
  20. 黒川洸

    公述人黒川洸君) 今のところは非常に難しい問題でございますが、一般論としては、新しい都市環境をつくるという意味では、そういうところがぶつかってくることは起こり得るということでございます。  今、日本の中でやっているような区画整理事業みたいな場合ですと、建物を全部取り壊すということをしなくても、あるいは建物をどうしても残したいということであれば、移動するということをちゃんとその事業の中で保証してやることができますので、絶対取り壊さなきゃいけないというふうにはぶつからないと思います、実際には。あとは少し調整が必要だというふうに私は理解しております。  それから、本来、公権と私権がどうかということに関しては、私は、いい町をつくるときの条件でいけば、ヨーロッパの町でいえば、それは当然公権が私権より上になるところがあるというような常識がある社会と、日本はどちらかというとかなり私権が強くて公権はそれよりかなり低い関係になっているのは、もう少し是正すべきだというのが私の考え方であります。
  21. 中村鋭一

    ○中村鋭一君 鶴田先生、先生のこの財源対策ですね、減税はやりなさい、増税はしちゃいけません、当面国債で対応しなさいと。非常に明快でわかりやすくて、こういけば結構だと思うんですが、先ほどもそういうお尋ねがございましたけれども、どうも私はこれは少し無理があるのじゃないかと思いますので、もう一度その点をひとつお教え願いたい。  それからもう一つは、「財投・特殊法人・公団の見直しの視点」の中に「郵貯・簡保・郵便事業の民営化」、こう先生書いていらっしゃいますが、これは書けば一行ですけれども、実際にやるとなると、郵政省の中でこれは郵政事業の根幹でありますから、三事業は。それを民営化しなさいというのはこれは大変なことじゃないかと思うんですが、先生の頭の中にあります具体的なこの郵政事業の民営化の、それこそ今はやりの言葉で言えばスキームとでも言いますかそれをひとつ教えていただきたいと思います。
  22. 鶴田俊正

    公述人鶴田俊正君) 御質問ありがとうございます。  財源対策で、所得減税について言えば財源対策は既に終わっていると思います。近い将来消費税を割り当てるというふうになっていきます。  問題は、要するにこれからの阪神復興を含めて社会資本投資についてどうするかということでございまして、その部分について私は、国債発行で充当するのが妥当であって増税するのはまかりならぬと申し上げました。それは、やっぱり増税することは、例えばそこで大蔵省からすれば税収が安定的に入るのかもしれませんけれども、そのことによってむしろ財源が恒常化してしまって、例えば阪神復興が終わった段階でも増税分が残ってしまう。したがって、当面やはり国債を発行していくのが必要だということであります。  ただ、それでは借金だけ膨らむじゃないかということでございますけれども、やはり私は、今、国民の中で合意を得られている考え方というのは、行政改革をきっちりやりなさいということだと思うんですね。それをやらないで負担だけを市民に押しつけてくるのはけしからぬよというところに私は市民の声が凝縮されているのじゃないかというふうに思います。  したがって、規制緩和にしてもまだ入り口のところでございますから、抜本的に見直すところがいっぱいあるところを放置しておいて、それで増税だけというのはけしからぬという考え方が基本にありますから、ともかく当面は国債発行をしなければ阪神の復興が成り立ちませんから、それは国債発行しておきながらも行政改革を徹底的に見直して、そして歳出の削減を図っていくということが私は必要だろうということであります。  それから二番目に、郵貯、簡保、郵便事業の民営化について、確かにおっしゃるとおり大変なことだと思うんです。大変なことですけれども、昭和二十八年、一九五三年度にできた財政投融資制度というものを、戦後五十年たった今、やっぱり抜本的に見直す時期に来ているだろうというふうに思うんですね。  財政投融資制度というものは、日本の戦後の復興に非常に大きく貢献したことは私は率直に認めたいと思います。しかし、公団と特殊法人を含めて、もう社会的、経済的役割は終わったと思われるものはたくさんございます。したがって、それを見直すということは必要でございますし、特に特殊法人について先般御議論されておりますけれども、しかし特殊法人だけを議論していても結局らちが明かない。やっぱり財投の根幹までさかのぼって考えなきゃいけないし、その場合にやはり郵貯の民営化ということ、あるいは簡保の民営化ということはもうかなり前から指摘されていることでございます、官が民を圧迫していると。特に官と民との関係で言えば、イコールフッティングでないという基本的な問題があると思うんですね。  さらに、郵便事業というふうになりますと抵抗があるかもしれませんけれども、しかし郵便事業でさえも国営でなきゃいけないのか。やっぱり宅配便等々はあれほど発達している。そういうものを考えますと、郵便事業でさえも民営化を考えていい時代じゃないかと。  確かに郵政省は自分のいわゆる前庭の事業を全部とられてしまったら自分の存在感がないじゃないかというふうに思うかもしれませんけれども、先ほど申し上げましたけれども、郵政省にしても厚生省にしても建設省にしても旧内務省が分割されたものですね。それで自治省にも分割されている。これは戦後で改革されたものですけれども、しかしその事業の内容について言えば、やっぱり戦争中の、戦前の考え方をそのまま踏襲している部分が多々あります。したがいまして、郵便事業でさえも、これほど宅配が発達していることを考えれば、民営化ということも考えていいじゃないか。そして、民間とのイコールフッティングの中でこういう事業を考えたらいいじゃないかということだと思います。  ただ、郵便事業の場合は過疎地対策があります。過疎地に郵便がちゃんと配達されなければいけません。この部分について言えば、やっぱり第三セクター等々をつくって過疎地の皆さん方のナショナルミニマムを確保することが必要だろうと思います。  いずれにしても、特殊法人の投げかけた問題というのは財政投融資制度を抜本的に見直さなきゃだめですよということを示唆しているのだと思います。すぐにということは難しいかもしれませんけれども、国会の場で先生方も知恵を絞って将来の日本の行く末を考えていただいて、そこまで踏み込んだ御発言をいただければというふうに思って申し上げた次第です。  ありがとうございました。
  23. 中村鋭一

    ○中村鋭一君 ありがとうございました。終わります。
  24. 井上哲夫

    井上哲夫君 新緑風会を代表して質問をさせていただきます。きょうは、黒川先生に一つ、それから鶴出先生に一つ質問をして、非常に短時間しか持ち時間がありませんので、よろしくお願いします。  いろいろ伺いましたが、例えば阪神・淡路大震災復旧ではなくて復興だと。これに一番適当な、例えば世界の中で非常にうまく復興を果たしたと、災害を糧として。そういうところが一つ二つあればお教え願いたい。といいますのは、やはり国から地方自治体、さらに住民も力を合わせた復興でなければならないということになると、今なかなか行政だけに頼って復興はできない。したがって、例えば災害対策に関与している国会議員がそういうところを目の当たりに見てきて、帰ってきて大きな声を上げないと、私は先生がおっしゃるような復興というのは悲観的なのでございます。だから、ぜひ一つか二つそういうところを摘示願いたい。  それから鶴田先生、先ほどからおっしゃってみえるんですが、公債発行で大胆な財政をという御意見でございますが、御承知のように国債残高は二百十三兆円ですか、先ほど沓掛委員も質問しましたが。日本の国が背負っている借金は総額五百兆円ではないだろうか国民総生産をオーバーしているというようなところから、実はそういう公債を発行して財政を出動させるということで日本の国家財政自身が例えば心配をされるような面はないんだろうかというふうなことについて御意見を承りたいと思います。よろしくお願いします。
  25. 黒川洸

    公述人黒川洸君) 先生の言う適当な復興の例ということでございますが、災害からの復興というのではないんですが、逆に言うと第二次大戦でヨーロッパの例えはドイツの町なんかはほとんど戦災を受けております。ところがあの復興は、要するにそれぞれの町がそれぞれどの時代の自分たちの町をつくろうかということの合意をとって、それで復興しているという意味では、ドイツの町へ行ってどうしてそういうふうにやったのかというのを見られるのが一番いいのではないかというのが私の意見でございます。
  26. 鶴田俊正

    公述人鶴田俊正君) 確かに膨大な国債発行残高が存在することは私も存じておりますけれども、ただ国債発行残高の大きさだけというのは余り意味がないので、日本経済規模との関係で言いますと、日本のGNPが約四百七十兆ございます。しかも、国債残高がマクロ経済的に見て問題になるのは要するに国債費の負担です、利子率、利子負担になりますけれども。この利子率が成長率よりも高くなるとマクロ的に非常に大きな問題がありますけれども、成長率の範囲内に入っている限りはそれほどいわゆるマクロ経済バランスから見て経済の足を引っ張るということはあり得ないことだと思うんですね。  したがって、今日のように貯蓄超過経済、特に十数兆円の過剰な貯蓄が存在しているときには債券を発行してそれを吸収して国が事業を行うというのはケインズ以来の考え方であり、また第二次大戦後多くの国がそういうことを踏襲しているわけですから、そういう意味でまずマクロ経済面から見て必要だということが一つ。  それからもう一つは、一度つくられた社会資本投資というのは世代間、世代が異なってもサービスを提供することができるわけですから、負担を現代の世代だけじゃなくて将来の世代もその負担を担っていくことは合理的な考え方であります。そういう意味で私たちが、企業でもそうでございますけれども、企業もお金を借りて資本ストックをしてサービスを生産しますけれども、同じように国も民間から金を借りてストックを形成してサービスを提供していくということは許される行為でございますから、先生が御心配になるようなことは私はないなというふうに思っております。  ありがとうございました。
  27. 井上哲夫

    井上哲夫君 ありがとうございました。終わります。
  28. 吉川春子

    吉川春子君 日本共産党の吉川です。質問させていただきます。  黒川公述人にお伺いいたしますが、行政改革について過剰な規制はやめ、政府がやらなくてもいい部分もやめて、しかし都市計画は行政の責任でやるべしと、こういうお話でした。  阪神・淡路大震災復興に関する問題について伺います。  東北の酒田の大火のときに、その直後建設省が乗り込んで直ちに都市計画といいますか案を示して、非常に広い道路をつくって区画整理等も行って、今日その評価についてはいろいろあるようでございますが、道路が広くなることと都市が栄えるということとは必ずしも一致しない例かもしれません。  第一に、都市復興計画を作成する上で住民参加が非常に重要であると思いますが、道路が広くなっても住民が快適に生活できないのでは何もなりませんので、その住民参加の点、どうお考えでしょうか。  それから、区画整理を行う場合に、現在の二〇%から三〇%の減歩率というのは非常にこれは負担でございまして、住民が住み続けられなくなるおそれもありますが、一般庶民の負担をなるべく少なくする方法で、例えば減歩によらず買い上げ方式などが考えられるべきではないかと思いますが、その二点についてお伺いいたします。  さらに鶴田公述人にお伺いいたしますが、産業の空洞化について公述人は、日本のアジア地域への直接投資がアジア地域経済発展に貢献しているだけでなく日本経済への発展も寄与していると、こういうふうに「エコノミスト」ですとかに書かれておられますけれども、雇用の点から見ますと、この空洞化が日本の労働者に大変な打撃を与えております。  例えば、大手自動車メーカーは、従業員の五〇%以上海外工場の外国人労働者で占められていますし、また電機についても、これはある大手企業の例ですけれども、ヨーロッパ、アメリカを中心に数十社、海外に生産拠点を設け数千人の労働者を雇用しているんですね。その結果、国内ではリストラで、パートは既に解雇、中高年は出向、早期退職、高校生は卒業を直前にして、私の埼玉では五〇%以上の高校で一〇〇%の就職率になっていないんですね。それから、女子学生の就職難の問題はマスコミでも取り上げられました。  こういうことを考えますと、雇用対策をどうするのかという問題ですけれども、企業を誘致する場合に、例えば地元ではもう税制上から土地からさまざまな補助金を含めて物すごい優遇措置をして呼ぶのに、じゃさよならといって出ていかれたのじゃこれは本当に地域経済に与える影響からいってもとんでもないことで、私はそういう点を十分に事前に情報を提供させて……
  29. 伊江朝雄

    ○理事(伊江朝雄君) 吉川君、時間ですので。
  30. 吉川春子

    吉川春子君 その点についてどうお考えなのか、ちょっとお伺いしたいと思います。
  31. 黒川洸

    公述人黒川洸君) 住民参加については、私は今後ほどんどん住民参加がふえていく方向に日本も来ているということを思っております。そのためには、今度逆に住民側には権利と同時に義務が発生するという問題がこれからの日本の社会では大きな問題になると思います。  それから、買い上げ方式をもう少しやって減歩を減少させたらどうかということですが、これはもう実際に減価補償という制度でやっておりますので、先買いができればそういう形で減歩を下げるというやり方は今の仕組みの中でとられておりますということだけ追加させていただきます。
  32. 鶴田俊正

    公述人鶴田俊正君) 簡単に御説明申し上げます。  失業率は九〇年、九一年と二・一%でしたが、最近は三%までになりましたのがやや改善されて二・九%になっております。これは、失業の問題というのは海外直接投資だけによって発生しているのじゃなくて、平成不況という非常に大きな不況を背景として発生しているわけですね。女子学生の就職難もまさにそうだと思います。したがいまして、現在労働市場で起こっておること、すべて日本の海外直接投資の増加によって引き起こされているというふうに考えることはやや一面的であって、むしろやっぱり総合的な景気という現状から考えるべきだろうというふうに思います。  将来にわたっての雇用対策という意味では、やはり経済成長率をある一定程度確保していくことが全体の雇用を確保する意味で非常に大事でございますから、そういう意味では先生方にも日本経済の安定成長をいかに実現するかという観点から予算審議をしていただきたいなというふうに思います。  ただ、為替レートが余り過度になりますと、対外直接投資にスピードをかけ過ぎてしまって、その面から産業に非常に大きな問題が出ることは事実でございますから、為替レートも安定させていくということが間接的に雇用対策になるということをつけ加えて申し上げさせていただきたいと思います。
  33. 吉川春子

    吉川春子君 終わります。
  34. 西野康雄

    西野康雄君 黒川先生にお伺いをいたします。  私も西宮で、被災地なもんですから、いろんなところで町づくりのこと、再建について御相談を受けたりもいたします。復興するときに区画整理をいたします。そのときに、今までならば二、三〇%の減歩をいたしましても、それで都市がよくなって土地の値上がりもあるから十分カバーできるんですよという説得の仕方ができたかと思うんです。ところが、バブルがはじけてからというものは、そういう説得の仕方がだんだんにできなくなってまいりました。そうするときに、安全な町づくりの面では減歩という部分もひとつ必要であるということで、どんな説得の仕方が今有効なんだろうかということのお知恵の拝借をしたいと思うこと。  もう一つは、道路を広げることが果たして正しいんだろうか。JRのたしか小倉駅は四車線を二車線にしてケヤキの道にしまして、これが避難路だというふうな形で住民に提示したかと思います。そうすると、今、神戸市がやっていることというのは、道路をとにかく広げるんだ、これで大丈夫なんだという考え方ですね。それではないんだというふうな形のものが住民から提示されて、現実のJRの小倉駅ではそういうふうな機能を果たしていると。道路を広げることがよいのか、それは間違いなのか、その二点だけお伺いできればと思います。
  35. 黒川洸

    公述人黒川洸君) 今の点でございますが、最初の点は、減歩が土地の値上がりとかそういうのでは説明できないということでございますが、多分今回の場合は減歩は余りできない状況ですから、むしろ生活再建のために土地を売りたい方の土地を買わせていただいて、公共側がそれで充当するという形で必要な道路をつくるというのが基本的な考えだと思います。  それから、本当に広い道路は要らないのかというのは、私は骨格としては絶対要ると。ただ、どこにでも要るわけではなくて、街区の中の道路はその地域人たちの住みよいような道路をつくればよくて、その街区の外側はちゃんとした道路が必要だと。両方必要だというのが私の意見でございます。
  36. 西野康雄

    西野康雄君 ありがとうございました。
  37. 西川潔

    西川潔君 よろしくお願いいたします。私も三分でございますので、鶴田先生には御無礼ですが、黒川先生にお伺いしたいと思います。  災害弱者についてお伺いしたいのですが、今回の震災によりましてたくさんのお年寄りの方々が犠牲になられたということでございます。女性の方も大変多うございました。震源地の淡路島の北淡町の方では消防員の皆様方が、どこの家のお年寄りはどの部屋に休んでおられるかというのも十二分に把握をされて救助に当たられたということでございますけれども、これからは超高齢社会を迎えるわけでございます。災害弱者と言われるお年寄りや障害者の方々に対する防災対策、これを先生にお伺いしたいと思います。  そしてもう一つ防災ボランティアについて、こちらも御意見がございましたら先生にお伺いをしたいと思います。災害発生時に災害弱者にどのような我々は対処していけばよいのかということをお願いしたいと思います。
  38. 黒川洸

    公述人黒川洸君) 非常に難しい問題でございまして、都市というのは逆に言うと周りの人との関係がある意味では切り離されているのが都市的に楽しいことだという片一方で持っている概念がありますから、その中でこういうときにはお互いがどういう連絡をしているかというのは、昔の町内会とかそういうものがしっかりしているところというのは多分今回うまくいったところなんだと。町内会が余り強くないところはそれぞれがうまく連絡がとれなくて災害が大きくなったのではないかと思いますので、我々もう一度別な意味での町内会的な町のつくり方というのを今後は考えていかないといけない。その中には実はボランティアとか自分たちの町のことは自分たちでというようなコンセプトが日本人の中にもう一度返ってこないといけないのではないかというのが基本的にございます。  それからもう一点、ボランティア活動でございますが、私は、日本の中のボランティア活動というのは若干言葉が間違って入ってきているように思います。それは、そういうものは全部無料奉仕だという言葉になっていますが、本当のボランティア活動のときはそれなりに報酬が得られないと決してうまくないということでございまして、もう少し日本の中でボランティア活動なりボランティア組織をどういうふうに社会の中に位置づけるかということを考えなければいけないと思います。  そういう意味では、ボランティア協会なるものが一つの法人格を持ってちゃんとしているのがアメリカとかヨーロッパでございますから、ああいうノンプロフィット・オーガニゼーション、NPOというものを日本の中にもちゃんと位置づけていく必要があるというのが私の考えでございます。  以上でございます。
  39. 西川潔

    西川潔君 ありがとうございました。
  40. 伊江朝雄

    ○理事(伊江朝雄君) 以上で公述人に対する質疑は終了いたしました。  この際、公述人方々に一言御礼を申し上げます。  本日は、長時間にわたり有益な御意見をお述べいただきましてまことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。御苦労さまでございました。(拍手)  午後一時まで公聴会を休憩いたします。    午後零時二分休憩      —————・—————    午後一時一分開会
  41. 坂野重信

    委員長坂野重信君) ただいまから予算委員会公聴会を再開いたします。  平成七年度一般会計予算平成七年度特別会計予算及び平成七年度政府関係機関予算につきまして、休憩前に引き続き、四名の公述人方々から項目別に御意見を伺います。  まず初めに、二名の公述人にお願いいたします。  この際、公述人方々に一言ごあいさつ申し上げます。  お二方には、御多忙中のところ本委員会に御出席いただき、まことにありがとうございます。委員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。  本日は、平成七年度総予算三案につきまして皆様から忌憚のない御意見を拝聴し、今後の審査の参考にいたしたいと存じますので、どうぞよろしくお願いいたします。  次に、会議の進め方について申し上げます。  まず、お一人二十分程度で御意見をお述べいただき、その後で委員の質疑にお答え願いたいと存じます。  それでは、まず外交・国際問題につきまして、中西公述人からお願いいたします。中西公述人
  42. 中西輝政

    公述人(中西輝政君) 中西でございます。  私は、外交・国際問題についてお話をさせていただきますが、きょうちょっと風邪を引いておりまして、途中聞き苦しいところがございましたら御容赦願いたいと思います。  特にレジュメを用意しておりませんが、二十分の時間で三つほど大きなポイントについてお話ししたいと思います。  第一点は、冷戦後の世界情勢が全体として今どういう状況にあるのかという点を大きくまず押さえてみたいと思います。第二点として、そういう現状にある国際情勢の中で、どういう問題点が日本あるいは世界が今直面している問題なのかという現状と問題点についてお話をさせていただき、最後に、日本が取り組むべき課題ということで話を進めてまいりたいと思います。  まず第一点の、冷戦後の世界が国際関係において今どのような状況にあるかという私の認識でございますが、思い起こしてみますと、ベルリンの壁が崩壊して五年余りたちました。あるいは湾岸戦争が終えんしてちょうど四年、さらにはソ連が崩壊してやはり三年余り年月がたちましたが、これだけの期間を経過してみて、現状、冷戦後の世界がどのような世界になっていくのかということでは、依然として不透明な国際情勢という一言でこれまでさまざまな評価が行われておりますが、やはり考えますところ、それだけではもはや今後の世界に対処する意味のある指針にならないのではないかというふうに私は思っております。  ある意味では、現在、冷戦後の時代つまりポスト冷戦期という時期が一つ終わろうとしてきている。この九五年という時期に入って、やはり九〇年代後半へ向け世界はまた大きな変化の加速の時期に入ったのではないか。つまり、九〇年前後にベルリンの壁の崩壊、ソ連の消滅という形の変化があった。しかし、数年間のインターバルを置いて今また今度は別の局面で大きな変化が生じ始めているのではないか。  例えば、ヨーロッパの地域秩序について、安全保障の体制をどうするか、地域統合の問題をどうするかあるいはアメリカの冷戦後の世界への関与をどうするかということで、いわゆる西側諸国の中でも新しい議論が今起こり始めております。  あるいは後で申し上げます国連を中心としたグローバルなシステムが、当初の期待どおりには必ずしも機能していないというところもわかってまいりました。そういう意味で、こういったグローバルな枠組みをどのようにやはり再活性化していくかという問題も重大な課題として今浮上してまいっております。  そういった意味で、私は、恐らく冷戦後の世界の現状を考える上で、これまで我々はともすれば性急な見方でこの世界像を描いていたのではないかという気がいたします。私が個人的に思っておりますのは、やはり冷戦後の世界の変化というのは、かなり長い過渡期を経て新しい何らかの秩序に到達していくのではないか。そういうことがやはり数年たってわかってきた。いわゆる段階的移行というような考え方を持っております。  つまり、ベルリンの壁が崩壊し、ソ連が消滅していったあの時期、これはやはり第一段階の変化だったと。それに対して九〇年代の後半、さまざまなやはり国際的枠組みも変化と再調整を経ていくだろう、これが第二段階。さらに二十一世紀に入って、恐らく、私が思っておりますのは二〇一〇年ごろに至ってより安定した秩序、特に地域を中心に再編されていく秩序、ヨーロッパあるいはアジア、米州といったような地域秩序の再編、それからさまざまの国連を中心としたグローバルな枠組みの再活性化というようなものが、やはりそれぐらいの時間が経過しなければ安定した機能を発揮していけないのではないかというように考えております。  そのように見てまいりますと、現在の国際情勢が直面している問題というものも、私が重要だと思われるものは、やはり三点ほどあるように思われるわけです。  まず第一点としてこの場で取り上げたいのは、やはり国連の機能というものが、現在、当初の期待に必ずしもそぐわないさまざまな問題点に直面しているということも含まれております。二つ目には、世界情勢、特に大国、主要国の動向が不透明になり始めております。あるいは新しい論議が国内で起こっております。三つ目には、日本の周辺つまりアジア地域において極めて歴史的に見て注目すべき大きな変化が起こっております。この三点について、現在の国際情勢を見てまいりたいと思います。  国連の機能でございますが、やはりこの三月にソマリア派遣のいわゆるソマリアPKO、これが当初の成果をほとんど上げることなく撤退という状況に追い込まれたわけでございます。これは、やはりつとに指摘されておりますように、いわゆる国連の平和執行、武力行使を伴ったいわゆる平和維持活動という新しいコンセプト、この平和執行を伴うPKOという方向が大きな挫折に直面したんだという見方が一般的でございます。その点については私もっとに、平和執行という考え方が、状況を無視して非常に大きな問題点をはらんだ考え方であるというふうには思っておりましたけれども、このように早く、しかもソマリアのような状況の中でこういう問題が浮上するというふうには、やはり少し予測を超えたものがございました。  しかし、それよりもなお深刻な問題としては、やはりボスニアをめぐる問題が挙げられると思います。こちらの方はむしろ、現在クロアチアに派遣されております国連のいわゆるPKO部隊は、伝統的なPKO活動、つまり紛争両者の間に割って入って紛争を一時的に押さえ込むという機能を果たしているそういう国連部隊であります。これはボスニア派遣の部隊と少しミッションが違いますが、このクロアチア領内の国連部隊がやはり撤退を迫られるという状況があります。これは、平和執行からさらに平和維持伝統型PKOといいますか、そちらに傾斜した役割を持ったミッションでございますが、これが実際には、紛争対立状態を固定化するということでもって、紛争の当事者の一部であるクロアチア側から撤退を迫られている、この事実はやはり重く受けとめる必要が確かにあると思いますが、もちろん、つとに指摘されておりますキプロスのPKO活動、これが紛争を固定化してきた、数十年にわたる状況を単に凍りづけにしてきただけだったという批判が今上がっております。  こういったことをすべて含めて私が思いますのは、現状の国連が直面している問題は、やはり政治機能というものに余り重きを置いてこなかった。つまり、いろんな枠組みをつくったり、ミッションを、PKO部隊を派遣したりするさまざまな動きはたくさん演じてきたわけですが、紛争を政治的に解決するという国連本来の機能というものが必ずしも十分に意識されてこなかったということであります。また、旧ユーゴの問題では、ロシアがやはり安全保障理事会で拒否権を発動するという事態が既に今起こっております。また、イラクに対する制裁解除問題ではアメリカも解除の動きには拒否権を発動すると。大国の拒否権発動ということが再びまた課題に上がってまいりました。  こういったことでは、やはり国連の問題を考えるときに国際政治の側面というものをもう一度見直して見ていく必要があるということがよくわかったわけであります。つまり、いろんな役割を持った国連でございますが、安全保障、特に重要な国際問題にかかわるときには、やはり政治的側面、紛争の解決を政治的にどのような話し合いで、どのような枠組みで進めていけばいいのか、何が本当にその紛争の根本原因になっているのかという、こういった側面が重要になってきております。  しかし、同時にまた、これを支える国連全体への各国のコミットメントというものがやや弱くなっている。ここはやはり我が国としても真剣に対処しなければならないところでございます。特に、人道支援あるいは伝統的と言われます、いわゆる日本的に申し上げると、五原則を踏まえたPKOの活動というものが今後とも重要な機能を果たしていくとしたら、課題はどういうところにあるのかということを現在の状況に即して考えていく必要があろうと思います。  あと、やはり言うまでもなく開発、環境に関する国連の役割、民生面の役割と言われますが、こういった側面で国連の役割というのは、つとに指摘されておるとおり重要性を増しております。  さらには、兵器の不拡散という役割、この役割においても、国連の機能あるいはその他の国際枠組みを通じた機能ということでは、日本が非常に重要な役割を果たし得る問題領域ではないかと思います。  さらに、目を日本の周辺に引き寄せてみますと、今までにない、周辺地域、特にアジアの情勢の変化が大変目につくわけであります。アジアはやっと長い歴史の過程を終えて、今本当の意味で国際社会がアジアに成立したという状況が生まれているんじゃないか。大戦前の植民地のアジア、冷戦期の二分されたアジアというものを乗り越えて、好情的で非常にノーマルな国際関係、国際社会というものがアジアに今現出しつつある。これは恐らく、歴史的に言えば十八世紀以来の大きなアジア史の転換が起こっているというような視野が必要かと思います。  それから、第二点としてアジアの変化に注目しなければならないのは、言うまでもなく活発な経済成長の動きでありますが、これは一つにはやはり日本の近くに世界一の成長市場が生まれている、言うまでもないことでございますが。しかし、もう一つ言えることは、アジアの経済発展に伴うアジア社会の近代化、高度化というものが、日本がアジアのリーダーとして、あるいはかつてはアジアの盟主として優越的立場というものを自然に前提としてアジアを見る目があったわけですが、そういう歴史的な文脈が恐らく不可逆的に、もう後へ戻る可能性がない形でなくなってきつつある。つまり、日本がアジアのリーダーということを当然視することができない状況が生まれている。  これは言いかえますと、今、日米関係でよく使われる言葉ですが、アメリカは日本をバッシングするのではなくパッシングする、日本バイパス論というのがよく言われますが、私は、このアジアの側から見ても、日本をバイパスしてもアジアの一つの秩序をアジアなりにつくっていける、そういう自立性というものが域内に生まれつつあるということは重要な認識ではないかと思います。  第二点に、今のことと関連いたしますが、アジアの各国にある意味での新しい文化的一体感というものが今まさに生まれつつあるというように私は見ております。  それは、新しいアジアの成長に伴う中産階級の登場、あるいはアジア的な感性を中心とした新しいアジア文化、アジアの映画あるいはカラオケや日本のポップスがアジア一円に非常に広がりやすい感性の土壌が認識されるようになりました。さらには、アジア的な価値観というものがやはり従来の多様性とかあるいはお互いに対峙していた、対立していたような状況を超えて、もうちょっと広い視野でアジア全体の価値観とは何かということを考える気風が生まれております。  しかし、アジアには言うまでもなく問題点もございます。  日本として認識しておかなければならない問題点は、第一に、やはりまだアジアには冷戦の残滓、残りかすと言えるようなものが残っております。言うまでもなくやはり北朝鮮の問題、それから中国と台湾の関係というものが、日本として対応に重要な注意が必要な問題としてあると思います。  二つ目に、やはりアジア全体として日本をどのように見ているかということが日本の政策として特に前提にされていなければならない点が三つほどあります。一つは、経済的に日本が大き過ぎる存在である、アジアの中にうまくはまり切らないという現状、これをアジア諸国がどう見るかということ。それから二つ目に、戦争の、いわゆる歴史の問題というものがやはり常に前提としてあろうと思います。三つ目に、やはり日本外交の従来のあり方がアジアに対してはどちらかといえば無関心で、欧米寄りに日本外交が推移してきたのではないかという前提といいますか先入観がアジアの側にあるわけであります。  こういったアジアの認識に日本としてどうこたえるのかということが、この新しいアジアの秩序を考えていくときに日本に課せられた課題だと思います。  最後に、このアジア以外の世界との関係を日本がどう取り結んでいくかということも忘れてはならない点だと思います。  これは主として欧米が、アジアが過度に一体化することに対して最近やや警戒心を見せ始めております。それからさらに、インドとか極東ロシアといったアジアの周辺といいますか大きな範疇でとらえたときのアジアといったところに必ずやはりインド、極東ロシアを位置づけていかなければなりません。日本としてアジア・太平洋、APEC等のさまざまな協力の枠組みがございますが、こういったところで新しい大きなアジア、それから内なるアジアといいますか、いわゆる日本周辺の東アジア地域、これをどのようにつなぎ合わせていくのかということが、現在いろいろに論議されておりますAPECとかあるいはEAECと呼ばれる構想等にもかかわってくる日本の基本的視座ではないかというふうに思っております。  まだ必ずしも述べられない問題もございますが、後で御質問等の中で補足できれば大変幸いに存じます。  私の方は以上で終わらせていただきます。(拍手)
  43. 坂野重信

    委員長坂野重信君) ありがとうございました。  次に、行政改革地方分権につきまして、大宮公述人にお願いいたします。大宮公述人
  44. 大宮知信

    公述人(大宮知信君) 大宮でございます。  国会へ来て話をしなさいという御連絡を受けましたときに、証人喚問と間違いましてどきっとしたのですが、そうじゃなくて地方分権について何か言いたいことがあったら言いなさいということなので、ほっとして出てきた次第です。  私は一介のジャーナリストでございまして、皆様から取材をするのが、御意見を伺うのが仕事でございまして、こういうところで意見を述べるというのは生まれて初めてなものですから、とんちんかんなことを口走ってしまうかもしれませんけれども、その点御容赦をいただきたいと思います。  地方分権分権とにぎやかに今議論が高まっておるわけですが、どうも私にはその議論の中身がよくわからないですね。何をどうしたいのか、あるいは何をどうすべきなのかということですね。地方分権推進法案というものが今国会に提出されておるようですけれども、新聞に出ていた法案の趣旨を読んでもどうもよくわからない。  例えば、その機関委任事務、国にかわって地方がやるという機関委任事務がありますね。その取り扱いにしましても、法案では整理とかあるいは合理化の措置を講ずるというふうに書かれているだけで、表現というのは極めてあいまいです。廃止するなら廃止すると、あるいは廃止なんかとんでもないよということであれば廃止すべきではないと、はっきりそう言っていただければすっきりしますし、よくわかるわけですね。是非はともかくとして、何がポイントなのかというのはよくわかるわけです。  ところが、法案を見ても、新聞などの地方分権の記事を幾ら読んでも、政府の偉い人が何を考えていらっしゃるのかよくわからない、政党の皆さんが何をお考えになっているのかもよくわからない。ましてや中央のお役人たちがどう思っているのかということもわからない。私の勉強不足ということもありますけれども、どうもわからないわけですね、今の議論の中身というのが。  私自身、多少地方の取材をしましたけれども、じゃどういう権限を移譲すべきであるかというその具体的なプログラムを持っているかと言われると、私は地方行政の専門家ではございませんので、そういうプログラムは私自身ないんです。ただ、取材をした過程で感じた感想を少し言わせていただこうと思いますけれども、私は、現状のままでの地方分権には必ずしも賛成ではないんです。むしろ反対と言った方がいいんじゃないかと思います。現状のままというのは、要するに地方自治体の今の権力構造のゆがみとかあるいはその地方の責任において解決しなければならない問題をそのままにしてということですけれども、そういうことをそのままにして権限だけ移譲するということには反対だということなんです。  地方自治の確立が阻害され、我が国の社会にさまざまなひずみが生じているのは、行政の権限が国に過度に集中しているからだという意見があります。だから地方分権が必要なんだと多くの人がそう言っていますね。それは確かにそういうことは言えると思いますが、じゃ国が持っている権限を地方に移せば問題は解決するのかということですが、私は非常に悲観的でございまして、どうもそういうふうにはならぬのじゃないかと。  実は私、茨城県に住んでおりまして茨城県民なんですが、茨城というところは非常に政治家あるいは役人のスキャンダルが多いところで、つい最近も北茨城の方でゴルフ場の開発に絡んで市長さんが東京地検に逮捕されるという事件がありました。一億五千万という収賄金額の大きさもびっくりしましたけれども、二代続いて市長さんが逮捕されるという事態にはもう唖然としまして、茨城県民として何にも言うべき言葉がないという感じすらするわけです。ここだけじゃなくて、その前は知事あるいは市長とか町長、それから自治体職員の不正も次から次に発生していると。何か茨城の政界というのは悪魔にでも取りつかれているんじゃないかという感じさえするほどです。郷土に愛着を覚えるどころかもううんざりしているほどですね。  こういうのは茨城県だけじゃなくて、そういう地方政界の腐敗というのは至るところで汚職事件やらスキャンダルが発生しているわけです。そういう地方政界の汚れたうみが一挙に吹き出たのが一連のゼネコン汚職だったわけですけれども、そういう問題があります。そういう地方自治体の不正、腐敗が相当進んでいるんじゃないかと。そういう状態のところへ権限だけを単純に移したらどうなるんだろうか。まず私はろくなことにはならぬのだろうという気がします。これは私だけじゃなくて多くの国民もそう思っているんじゃないかと思います。  きょうは自由に発言してもいいということで勝手なことを言わせていただきますが、自治体関係者は二言目には地方には権限がないんだ、金がないんだと、だから何もできないんだというせりふをしばしば口にします。しかし、本当にそうなのかどうかということですね。私には、それがどうも言いわけといいますか甘えにしか聞こえないんですね。もちろん、国の方が強い権限を持っていることは確かですけれども、地方にだってそれなりの強い権限はあるわけです、そんなことはもう私が言うまでもなく皆さんの方がよく御存じなわけですけれども。  滋賀県知事を務められた武村さんは、知事というのは地方の大統領だ、その権限は総理大臣よりもパワフルだというようなことをマスコミで語っておられます。そういう強い権限があるから汚職事件などもたびたび引き起こされるわけですね。一連のゼネコン汚職が発生したのもそういうことですし、あるいは今の問題になっています鈴木都政、いろいろ大胆な計画を立てられましたんですが、それが結果的に財政的に非常に厳しい事態を招いてしまっているという事実がありますね。これは鈴木さんが権限がなかったわけじゃなくて、権限があったからこういうことができたわけで、思う存分腕を振るった結果がこういう今の事態を招いてしまったのではないかなと思うわけですね。  例えば、知事には専決処分というものもあるんだそうですけれども、緊急事態には議会の審議も経ないで独断でできる、そういう強い権限もあるわけです。あるいは、今度の信用組合の問題にしても直接東京都が監督責任を持っていたわけですね。東京都がきちんとそういう権限を行使していれば大騒ぎにはならなかったと。だから、権限がないんじゃなくて、それが正しく使われているのかどうかということなんじゃないかなと思います。  今だって、地方はやりようによってはかなりのことができるんじゃないかと思います。何もできないんじゃなくて、何もやろうとしないだけじゃないかと、極論すればですね。そういう権力が正しく使われていないからこそ、いろんな問題が発生してしまうんじゃないかなと思うんです。地方分権の前提として、地方には権限がないから中央から権限を移すべきだという、そういう議論がありますので、地方には権限がないのかいや、実際はあるんじゃないかなという意味で私はそういうことを申し上げたわけですけれども。  これは余談ですが、政治家を志すといえば、昔は国会のこの赤じゅうたんを踏むということが目標だったわけですけれども、どうも最近は政治家志望の青年とか官僚の皆さんは、国会議員よりもむしろ地方自治体の首長ですね、知事とかそういう方に何か熱い視線を送っているというふうなことをある人から聞いたことがありますけれども、なぜそういう地方自治体の首長が魅力があるのかというのは、それだけ強い権限を持っているからだと思うんです。要するに魅力があるから皆さん知事に競って争ってなりたがるわけで、この参議院の議長をお務めになられた方まで知事に転身されたということもあるわけで、権限がなくて何もできなかったら知事になろうなんという人はいないんじゃないかと思います。  予算、お金だって地方にないわけじゃなくて、東京都などは約七兆円ですか七兆円に近い、巨額の予算があるわけですね。外国の一国の予算と同じぐらい、あるいはそれ以上の予算があるわけです。ほかの自治体だってそれなりにお金はあるわけですね。外国の人から見たら、例えば発展途上国の人から見たらうらやましくなるぐらい潤沢な金がある。だから、金がないんじゃなくて使い方を誤っているだけなんじゃないかという気がします。  例えば、よく引き合いに出されます豪華な建物ですね。東京都は建物だけで一千五百億ですかかけて新宿に豪華なデラックスな庁舎を建てました。チャウシェスク宮殿と皮肉られるほどの超デラックスな庁舎ですね。これは別に東京だけのケースではなくて、全国至るところでむちゃくちゃデラックスな庁舎を建てているわけですね、一流、有名な建築家に設計を依頼して大建築会社に建築を頼んでですね。こんなに庁舎に金をかけるのは恐らく日本ぐらいじゃないかという気がします、私も時々外国に行くんですけれども。  先日、朝日新聞の記事を読んでいましたら、上智大学の先生、外国から来られた先生ですが、この方が豪華な庁舎を見て、官庁が自分自身のためにお金を使い始めたら欧米の納税者は即刻首にします、この点日本はまだ後進国ですと、そういう意味のことを述べておられるんですけれども、これは庁舎だけでなくて、例えばデラックスな文化会館とか体育館とかいわゆる箱物、そういうものにどんどん金を使って、そのために財政的ににっちもさっちもいかなくなって借金を抱えてしまっている自治体も幾つかあるやに聞いています。あるいは住民が何もだれも望んでいない余計なイベントを始めて莫大な借金をつくってしまった自治体の首長もおります。  そういういいかげんな金の使い方をやって、それで金がない金がないと、とんでもない話だと思うんですよね。我々税金を支払う側にすればもう腹立たしい限りです。そういう住民の意思とは全くかけ離れてしまっているような施策を平然と進める首長に対して待ったをかけるのが議会なわけですね、地方議会です。ところが、この地方議会が我々の目には何とも頼りなく映るわけです。議会が本来の役割であるチェック機能を何ら果たしていない。  なぜそうなってしまうのかということですが、これは私が言うまでもなく、皆さん御存じのように、議会がオール与党化、共産党を除いて総与党化。最近は何か自民党と共産党が一緒になるという話もあるようですが、そういう総与党化がふえているわけですね。そのために、議会に緊張感がなくなっている。与野党の対立という意味では国会の方がはるかに激しい緊張感があるわけですね。今もそうですけれども、激しい攻防、まあ激しいかどうかやっているわけですね。その点、地方議会は何か執行部の不正とか知事の暴走を追及しようという意欲とか気力があるのかなという気がするわけです。今度の東京都の信用組合をめぐります救済策を盛り込んだ補正予算案は珍しく議会がいちゃもんをつけたわけですが、ああいうことが議会本来の役割、あり方だと思います。そのおかげで武村さんが窮地に陥っちゃったわけですけれども。  なぜ総与党化するのかということも、私が言うまでもなく皆さん御存じのように、その方がいろいろ何かと都合がいいと。地方議会というのは与党も野党もないのが本来のあり方だと思うんですけれども、現実にはそうなっていない。オール与党の方が議会は運営がスムーズにいきますし、知事の提案もすぐにまとまると思いますけれども、そのかわりなれ合いで物事が決められて政治腐敗の下地もできてしまうということになるわけですね。そういうチェック機能を果たしていない地方議会は私に言わせれば無用の長物でしかないのではないかという気がします。  議会とかあるいは首長だけじゃなくて職員の質的な問題もありますね。そういういいかげんな金の使い方というのは末端の方でもそういう傾向がありまして、相変わらず公費乱脈の事件が後を絶たない、空出張とか派手な接待行政とか。  つい最近も、前の知事が不祥事を起こした宮城県庁で派手な接待行政が明るみに出ております。報道なんですが、六人の宴席で日本酒が二十六本、ビール三十六本飲んだと。六人でよくもこんなに飲んだものですね。あるいは一人二万五千円の料理に一本一万五千円のワインを十本飲んだと。どうしたらこんなふうに飲めるのかなと思う。不思議ですね。そういうケースもあるわけです。もうまさにでたらめもここにきわまれりという感じがします。この宮城県では前の知事のときに裏金をつくるために空出張をやっていたという事件もあるわけですね。それも明るみに出ています。そういう記憶もまださめやらぬうちにまたまたそういう乱脈の騒ぎを引き起こしている。これは宮城県だけじゃないわけです。もう至るところでこういう騒ぎが起こっていると。高知県の方でもあったようですね。  自治体にはそういう公金支出をチェックする監査委員制度というのがあるんですけれども、それも形骸化していると。監査委員が不正を摘発するケースはほとんどないという状態です。ですから、そういう状態のところへただ権限だけを単純に移しても私は余りいい結果にはならないのじゃないかと思います。  私は、必ずしも地方分権そのものには反対ではないんですけれども、むしろ国の中央統制を少なくして、国の支配を極力減らして権限を移すべきだとは思うんですけれども、その前に徹底した地方の行革なり不正防止の確立を進める必要があるんじゃないか、その上で地方分権について議論を深めていくべきではないか、そう思います。  もう時間ですのでこれであと御質問がありましたら。(拍手)
  45. 坂野重信

    委員長坂野重信君) ありがとうございました。  以上で公述人の御意見の陳述は終わりました。  それでは、これより公述人に対する質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言願います。
  46. 野間赳

    ○野間赳君 野間赳と申します。  本日は中西先生、大宮先生、大変御苦労さまでございました。ただいまそれぞれのお立場で貴重な御意見をお聞かせいただきまして、大変にありがたく思っております。  それでは、まず中西公述人さんにお尋ねを申し上げたいと思います。  お話にも出てまいっておりましたが、近年のアジアの発展というのは大変目覚ましいものがあるわけでありまして、これからの国際情勢、外交を語るときにはアジアを抜きにしては考えにくいということでなかろうかと私は思っております。  日本は日米安保体制のもとで親密に日米関係を基軸とした外交を展開してまいりまして、今日の日本、誤りのない発展をしてきたと思っております。しかし、今後の外交を考えてみましたときに、先生からお話しのとおり、朝鮮半島の問題、また台湾、中国等々、アメリカ追随だけではやっていけない。日米関係を基本とすることは無論変わりはないわけでありますが、アジアの一員として直接アジアに顔を向けた外交が必要になってくるのではないかと考えております。  公述人は、アジアの各国の情勢を踏まえどのような外交姿勢が望ましいかそのことをまずお聞かせいただきたいと思います。  それと、先般、先生のお書きになっておられました著書を拝見させていただいたのでありますが、昨年、アジアを歴訪なされまして、そのコメントで、アジアは一方では潜在的な問題を抱いて慎重な楽観主義の流れの中にある、こういうふうなことを述べられておるのでありますが、そのことをもう少し具体的にお尋ねを申し上げたいと思います。  以上、とりあえず二点、お願いします。
  47. 中西輝政

    公述人(中西輝政君) 前半の御質問でございますが、やはり私も日本のアジア地域に対する対応というものが日本外交のこれからの中心的な課題になってくるという認識でございます。ただ、その場合に、いわゆる日本外交の基軸としての日米関係というものを踏まえていくということも引き続きあわせて重視しなければならないことでございます。  ですから、私は、アメリカ基軸ということとアジア帰属ということとが矛盾しないということを日本のアジア政策の大前提に立てなければならないというふうに思います。この点については日本は譲歩する余地はないということを、アジア各国に対しても、あるいはアメリカに対しても、あるいは第三国に対してきちんと意思表示をしていかなければならない、これが出発点でございます。  そして、今お尋ねの問題では、やはり日本がこれまでと違った姿勢でアジアのいろんな課題に対応していく必要があるということでいえば、一つは、具体的に、朝鮮半島を中心にした北東アジアの地域安保の機構といいますかシステムをつくっていこうという動きが、最近ですとアメリカの国防総省の報告書、いわゆる東アジア戦略報告という、俗にジョセフ・ナイ次官補の名をとってナイ・イニシアチブと言われております二月に出ました報告書、この中でも非常に力点が置かれております。朝鮮半島は動き出す、いわゆる日米中ロ、それに南北朝鮮ということで多国間の地域安保体制が動き出す、またアメリカはそのイニシアチブをとっていくという意思表示をしておるというふうに見て差し支えないと思います。したがって、朝鮮半島の安定化と同時に新しい北東アジアの秩序づくりという方向が動き出したという認識が非常に大事であり、日本の役割というものを考えていかなければなりません。  あわせて南シナ海の問題に対しても、やはり今インドネシアやタイが利害にかかわっておらない立場ですから、その立場で中国とベトナムあるいはフィリピンといった関係国の間の合意づくりに努力を始めております。恐らく日本がインドネシアやタイのような仲介的な役割で幾つかの機能を果たすことができるんだろうと思います。  さらに、アジアの経済統合の流れに日本がどのようにかかわっていくのかということ、こういった問題で日本が果たす役割というのは新しい視覚で、新しい視点で見詰め直していく非常に重要な時期に今あるんではないかというふうに思っております。
  48. 野間赳

    ○野間赳君 どうもありがとうございました。  先生も申されましたが、日本に対します風当たりというのが日米関係におきまして少し気になるものの一つであります。日本バッシングからパッシングに、素通りに変わりつつある、そういう見方をされて、その目がアジアの方に向きつつあるということでなかろうかと思っておりますが、その日米関係、今後のことにつきまして先生の御意見がございましたらお聞かせをいただきたいと思います。
  49. 中西輝政

    公述人(中西輝政君) アメリカの対日政策というものは、やはりクリントン政権になって過去二年間、経済中心で非常にこれまでと違ったアメリカの対応というものが多くの日本人を戸惑わせた側面が確かにあったと思うんですけれども、しかしその基本にあった、つまりアメリカの外交安全保障を担当する部局の中では対日政策を根本的に変えようというそういう立場では必ずしもなかったわけです。二年たって現在、やはり日米関係を経済だけではなくて安全保障あるいは外交、政治といった側面をトータルに踏まえてとらえ直していかなければ経済の問題も進歩、進捗しない、アメリカから見て解決しない、こういう考え方が出てまいりました。そういった意味で、対日政策をアメリカはバランスをとろうという動きが政権の中に生まれてきているということであります。  他方、アメリカ議会の中ではやはり共和党の進出ということが一つ大きなファクターになっておりまして、これがまだ十分にどういう対日態度をとるのかというのが見定められない側面が一つあるわけですけれども、ただ一つはっきりしているのは、自由貿易という考え方は共和党の立場として、少なくとも共和党指導部は遵守していくといいますか民主党よりもむしろそのコミットメントをはっきりさせるという流れを示しております。ただ、現在の共和党は、指導部と下部といいますか一般議員との意向が非常に離れやすいといいますか、そういう流動性が高いものですから、この新しい共和党勢力の動きというのは注目していかなければならないと思います。  しかし、この一月にクリストファー国務長官の演説、あるいは先ほど述べました国防総省の報告書、東アジア戦略報告等を見ておりますと、やはり安保面の重視ということも、この二年間のトーンを変える形で、むしろかつての共和党政権に、ブッシュ政権に近い形に半歩戻ろうというところが見えております。  そういった意味で、やはり日米関係を再調整していく時期が今訪れているということで、この時期をやっぱり逃してはならないという気はいたします。ただ長期的に見ますと、やはり九六年の大統領選挙、これを見ていく必要があるだろうという気がします。  それから、先ほどちょっと私お答えするのを忘れて申しわけございませんでしたが、慎重な楽観主義というアジアの現在の状況、これは経済を中心にした非常に活発な成長、あるいは我々が今初めて世界の動きの主役になってきたんだという、東南アジアとかあるいは中国、台湾、朝鮮半島を中心にしたアジアの各国の意欲の高まりというのは御承知のとおりだと思います。  しかし同時に、アジアの交流を意識すれば、やはり各国に存在するいろんな問題も自覚されてきているわけです。朝鮮半島、台湾の問題は言うに及ばず、例えばタイやマレーシアの国内であればASEANの将来の一体性をどう保っていくか。あるいはインドネシアであれば、スハルト政権以後の継承問題といいますか、そういう長期的な視野で民主化の問題をどう進めていくのか。あるいは中国の国内あるいはミャンマーやベトナムの中、それぞれに経済発展をするがゆえに、そして世界から注目を浴びているがゆえに問題も起こってきている。  しかし、これらは何としても慎重に解決していかなければならない。間違っても武力に訴えるというような過去のパターンで動乱のアジアという逆戻りの構図を描いては元も子もなくなるということで、経済発展、経済成長中心のメンタリティーが非常に慎重な楽観主義という気風を今アジア全体に定着させてきている、こういう私の見方でございます。
  50. 野間赳

    ○野間赳君 APECのことで一つお尋ねをさせていただきます。  インドネシアで昨年十一月ボゴール宣言の採択をいたしまして、先進国では二〇一〇年、途上国で二〇二〇年という目標が設定をされまして、これに向かって貿易、投資の自由化を進めていくということでありますが、二〇一〇年といいますと、もう十五年先、目標年次がもう目の前ということであります。ことし十一月には大阪でいよいよ閣僚会議を開いて、日本が議長国を果たしていくという極めて重要な役割を担うことになります。その行動指針をここではっきりとしなければならぬということでありますが、二月十三日から高級事務レベルでの会合が開かれて調整が始められたわけでありますが、各国の思惑がいろいろ入り乱れて交差をしておると思います。  そこで、公述人中西先生に、APECのあり方、日本の果たしていく役割、そういったことにつきましてお教えをいただきたいと思います。
  51. 中西輝政

    公述人(中西輝政君) APECの問題は非常に幅広い観点から考えていかなきゃならないと思っておりますが、今お話しのように二〇二〇年、途上国の場合でも自由化のスケジュールというものが昨年ボゴールで唱えられたわけです。しかし、このことはあと十五年ということじゃなくて、つまりある産業分野についてはもう自由化が、例えばことしの大阪で合意されれば明くる年に、あるいはもう二年後に、ある業種によって、ある国に関しては自由化していかなきゃならないということでございますので、十五年というリードタイムは最大限ということですから、アジアの各国の立場から見ますと、これは大変な宿題といいますか非常な問題を背負わされてしまうという危機意識が実はあるわけであります。  しかし、同時にまたアジアの複雑なところは、自由貿易をいかに確保していくかということ、特に先進国中心に途上国からの輸入に対する保護主義というものが一つの大きな脅威として地平線上に見えてきておりますから、アメリカが中心になって自由化ということを推進しておる流れというのは必ずしも否定的に見ることのできないといいますか、アジアとしてはある程度歓迎されることなんですね。したがって、ジレンマがそこにあるわけです。  恐らく日本としてはAPECの原点というものをしっかり見詰めていくことが重要で、それは一つは自由化でありますが、もう一つはやはり貿易の円滑化といいますかいわゆるさまざまな貿易の手続、システムといった面がお互いに各国で違う、それが貿易を妨げる働きというのは非常に大きいんですね。関税ばかり幾ら下げても、貿易が円滑に進むかというと、これは必ずしもそうでない場合もあります。それから、何といってもAPECの出発点の一番大きなアイデンティティーであった経済協力という、三つの重要なAPECの柱があるわけです。  日本は、大阪サミットは一番重要なことはAPECの原点を、やはり自由化も重要である、しかし同時に円滑化、特に経済協力ということで、私は個人的には人づくりという意味でアジアの中小企業等、いわゆる経済発展を支えるアジアの経済的足腰を日本がいかに強化していくかそういう役割を果たせるかということを大阪へ向けて日本が意思の発信をしていかなければならないというふうに思われるわけです。  そういった意味で、日本の役割というものが自由化一辺倒で推進されるというようなことになったときには、恐らくアジアの側からの反発というものが非常に強くなる。しかし、その自由化から全く逃げてしまおうというようなアジアの国はいない。また、アメリカからもカナダ、オーストラリアからも恐らく日本は大きな期待を向けられているわけですから、また日本にとって貿易の自由化は非常に大きな国益でもあるわけですから、そこのやはり三本柱を、特に集約して言えばもう二本の柱ということになるんでしょうか、これをいかに両方を打ち立てていくかということで強い日本の指導力ということが問われておりまして、この意味ではいわゆる日本のアジア帰属ということをより鮮明にしていく非常に重要な時期ではないかという気が私はいたしております。
  52. 野間赳

    ○野間赳君 もう一点、中西先生にホットなところで、きのうKEDO、朝鮮半島でありますが、設立準備総会が開催をされまして、アメリカ国連代表部でそれが発足、調印をされたということであります。総会には二十四の国・機関が出席をした、こういうことでありますが、中国は不参加ということで、大変私はこのことは残念に思っておるわけであります。  こういったことを含めて、KEDOの組織、運営、日本としての対応、御意見がございましたらお教えをいただきたい。
  53. 中西輝政

    公述人(中西輝政君) 朝鮮半島エネルギー開発機構、KEDOの運営でございますけれども、これは北朝鮮に軽水炉の供与をするということを目的に設立された組織でございます。そういった意味では、やはり中国が参加していないということは、ある意味でこれが日米韓という一つの流れの中で出てきた構想であって、中国がそれに乗っかるということはどちらかと言えばみずからのイニシアチブといいますかその主導権を失ってしまうことになるんじゃないかという考え方があるんじゃないかという気がします。  つまり、朝鮮半島に関しては、中国は米中フィフティー・フィフティーの影響力をやっぱり保っていくような方向にその進路をとりたいわけですね。もちろん将来的には恐らく、先ほど申し上げたように、朝鮮半島の問題は米、中、日本、そしてロシアという周辺国がいろんな形でかかわっていき、南北朝鮮の関係を調整しながら地域の安定を図っていくという、こういう方向がどうしても必要になってくると思いますが、当面は米中がそれぞれ他の国々よりは大きな影響力を保って南北朝鮮の安定化に役割を果たそうという、こういう意欲が両国に見えるわけですね。そういう意味で、このKEDOの運営というものはアメリカが中国に突きつけている一つのシグナルであるというふうに見て中国側は不参加ということになっているのかもしれません。ここに米中関係の難しさが一つあると思うんです。  私は米中関係は必ずしも対立の図式だけではないというふうに思いますが、いずれにしても、この運営に関して日本としてはやはり核兵器という問題がある意味で絡んでおるわけで、非常に近い地域に非常に大きな、また地球大に重視されなきゃならない問題ですから、そういう意味で日米関係の枠組みを踏まえて資金あるいは原子炉の供与という側面で重視していかなければならないと思います。  そういった意味で、今アメリカの国内にもこの米朝合意を見直せという機運があったりしますが、恐らくこのアメリカの議論はいろんな紆余曲折がまだあるんでしょうけれども、結局赴くところはアメリカの国益から見ても、中国、北朝鮮の立場から見てもこの合意以上にそれぞれの国益に資する選択というのはないわけですね。そういった意味で、アメリカの特に共和党の反対論というものもいずれ収束していくだろう、そういう見通しのもとに日本政府もこのKEDOの事業に積極的にかかわっていくという姿勢で間違いないんじゃないかという気がいたしております。
  54. 野間赳

    ○野間赳君 大変どうもありがとうございました。  それでは、大宮公述人にお尋ねを申し上げたいと思います。  昨年の十二月十五日に地方分権閣議決定をいたしまして、二月二十八日に、今国会に提案をされておりますのが地方分権法であるわけであります。先ほど先生は一刀両断、無用の長物というような感じで切り込まれたわけでありますが、私も実は地方議員を長くやりまして、志を抱いてこの赤じゅうたんのところに参上させていただいております。  地方は大変財政的には難儀をしております。先生が御指摘でありました東京都の例をとりますと、これは日本の東京でありますから財政力指数につきましてももう何ら心配のないところであります。私は四国の愛媛県選出の者でございまして、地方の県というのは、また県以下の市町村は大変財政に苦しんでおります。そういうふうなことで地方分権を叫んでまいりまして、自治法が制定されて四十八年経過をいたしておるわけでありますが、そのことがやっとここまでたどり着いた、到来をしたということに我々は一定の喜びを感じつつあるところであるわけでございまして、何としてもこの法案を仕上げて、まさに文字どおり地方復権、地方の時代を進めていかなければならぬと、こういうふうに思っておりますので、ひとつ今後ともよろしく御指導のほどをお願い申し上げたいと思います。  知事の権限のことにつきまして大宮先生はかなり御関心をお持ちになられて、そのことに御指摘が多かったように思うわけであります。知事は直接選挙で、大統領制の選挙でやります。そういう関係で一定の権限というのはそこに与えられてまいるわけでございますが、それは大いに政策を掲げて頑張ってやっていただかなければならぬわけでありますし、県議会、また町村議会、監査委員の制度、また場合によってはオンブズマン、また選挙という洗礼の場があるわけでありますから、そういう一つずつのものがよく機能して地方を支えていかなければならないものであると私は思っております。悪い茨城県の例をお出しいただいてそういうふうな御指摘であったわけでございますが、そういうふうなことがたび重なるということは決してよくないということであります。そのことが即地方分権に結びついたのでは私はいかがかなというような気持ちを実は持っておるわけでございますが、今後ともひとつよろしく御指導のほどをお願い申し上げたいと思います。  以上、そういった願いを込めての私の意見であるわけでございますが、そういったことにつきまして何かまた先生の御意見がございましたらお聞かせをいただきたいと思います。
  55. 大宮知信

    公述人(大宮知信君) 私が先ほど申しましたチェック機能の問題ですね、地方にはいろんなチェック機能があるわけで、議会もその一つなわけです。それから、公金支出の問題では監査委員制度というものがあります。しかし、そういうチェック機能がほとんど形骸化している、私はそう思うんです。その監査委員制度にしても、みずから不正を摘発したケースというのはほとんど皆無だというふうに聞いていますし、住民が監査請求をするということもできるわけですけれども、それにしてもほとんど門前払いになっている。だから、そういう機能があっても全く機能していないということです。ですから、そういう状態をそのままにして機械的に分権を進めても、あるいは権限とか財源を含めて進めても大した効果は得られないのではないかという気がするだけです。ますます地方が混乱するだけじゃないのかなと。  じゃ地方もどこまで地方分権を望んでいるのかということも、私は何かどうも疑問のように思うんです。民間経済界などは規制緩和を強く主張して、我々ジャーナリズムにも積極的に研究の成果を発表しているわけですね。こういう規制を緩和すれば経済成長がこれぐらい望める、あるいは雇用がこのぐらい生まれると、とにかく規制緩和を事あるごとに主張しているんですが、地方自治体の方からはそういう熱意といいますか努力というのがこちらの側にはもうさっぱり伝わってこない。むしろ中央の国会の先生方は議論をなさっておられるようですが、地方の方は、まあ何かお考えになっていらっしゃるんでしょうけれども、研究もされていると思うんですが、どうも伝わってこない。具体的にどういう権限を移譲したら我々の暮らしがどれだけよくなるのか、物価が安くなるのか、あるいは例えば市営住宅に入居しやすくなるのかそういうことがさっぱり伝わってこないんですね。  それは地方分権推進法案にしても中身は推進するべきであるというふうなことで大変立派なことが書かれてありますけれども、それによって国民の暮らしがどう変わるのか、地方がどう変わるのかということのイメージがどうも伝わってこない、そういうことなんです。
  56. 野間赳

    ○野間赳君 ありがとうございました。  以上です。
  57. 大渕絹子

    ○大渕絹子君 きょうはお二方の公述人の皆さん、本当に御苦労さまでございます。大渕絹子です。どうぞよろしくお願いをいたします。  まず、中西公述人にお尋ねをいたします。  先ほど来からいろいろお話しをいただいているわけですけれども、今ポスト冷戦時代、そしてもう間もなくそのポスト冷戦も終わろうとしている過渡期であるというふうなお話がございました。このポスト冷戦の中で、今、世界じゅうに本当に民族紛争というようなものが大変激化をしておりますね。このことに日本政府は、いわゆる日本外交が見えないというふうなお話があるわけですけれども、日本政府はどのようなかかわり方をしていったらいいのかなというようなことの中で、チェチェンの問題についてなんです。  ロシア軍の侵攻によって死者二万四千人以上、この中には十五歳未満の子供が三千七百人、それから十五歳以上の女性が四千六百五十人も含まれているというような中で、全く市民に対する攻撃が行われているということですね。そして、公式の発表でも十四万八千人以上もの難民が生じているというこの事態を私たちは深く憂慮するわけです。  エリツィン政権のチェチェン政策に対して、ロシア国内にももちろん批判の声が上がっているわけですけれども、日本の国民の中にもこのロシアの侵攻に対してこれはもう明らかにやめさせていくべきだという声が起こっていると思うのです。  この話し合いの解決というようなことに対して日本政府は、人道的な支援、お金を与えていくだけではなくて、何らか助言をしていくような態度をとるべきでないかというふうに私は思うのですけれども、公述人はどのようにお考えでしょうか。
  58. 中西輝政

    公述人(中西輝政君) チェチェンの問題は大変ジレンマに富んだ難しい問題だろうと思います。  と申しますのは、やはりこの問題に関しては、昨年十二月にロシア軍の本格的な侵攻という形になったわけですが、市民が巻き込まれて非常に大きな被害が出ていたわけですけれども、アメリカあるいは西ヨーロッパ各国の政府も対ロシア批判という形で声を明確に出すのを非常に長い間はばかったわけですね。これはひとえに大国としてのロシアの地位、これがロシアを余り敵対化させたくない、つまり国連の運営に当たっても、あるいはロシアそのものの動向、特にエリツィン政権の弱体化がかえってまずい、もっと悪い政権をロシアに生んでしまうのではないか等々といったいろいろな思惑があって、ほかのいわゆる人権が明白に侵されているような事態に対してなかなか明確な態度をとり得ないという、このジレンマがチェチェンの場合には劇的に出たと思うんですね。  この問題はさらにもう一つ難しい視点がございますのは、これがいわゆるイスラム対スラブ、あるいはキリスト教圏の紛争であるという側面がございます。したがって、この問題ではヨーロッパ諸国もジレンマがございます。イスラムの問題というものが絡んできたところで、日本の場合ですと特に中東地域にかかわる問題、あるいはマレーシアやインドネシアといったアジアのイスラム諸国もございます。そういった意味で、政治的には大変難しい。  しかし、人道という立場で日本がどういう対応をとるべきかということに関しては、日本政府が遅まきながらこのチェチェン侵攻に対する批判、それから先日のコズイレフ・ロシア外務大臣の来日に際して日本政府はある意味では公式にこの問題について抗議をしているわけですね。そういった意味では一応の意思表示はしている。しかし、実効性はどこまであるかということがやっぱり今後問われていかなきゃならないだろうというふうに思っております。
  59. 大渕絹子

    ○大渕絹子君 ありがとうございました。  世界的な軍縮の流れの中で、残念ながらアジア地域には平和の配当が及んでいないのではないかというふうに言われます。  例えば、先般開かれた中国での全人代の会議では、対前年比で二一・二%増の国防予算が示されました。激しいインフレとの対比で実質的伸びはそれほどでもないという見方もあるわけですけれども、この中には輸入してくる武器とか正面装備とかそういうものは含まれていないというふうにもお聞きをしているわけですけれども、大変懸念をしなければならない問題であろうというふうに思っています。また、先ほど公述人も触れられましたけれども、南沙諸島をめぐるトラブルというようなことも憂慮をすべきことであるというふうに思うわけでございます。  アジアにおける信頼醸成のシステムづくりに求められているのは一体何なのかまたこれに対して日本が果たすべき役割というのはどういうことなんだろうかというふうなことをお聞かせいただければと思います。
  60. 中西輝政

    公述人(中西輝政君) アジア地域におけるいわゆる軍拡的な傾向、これはやはり注意していかなきゃならない問題だと思います。  ただ、現状を見ますと、中国の場合はまた別に論じなければならない点もありますが、東南アジア諸国に目を向けますと、これはやはり軍拡というよりはいわゆる軍備近代化という文脈にまだおさまるだろうというふうに思っております。つまり、経済的に豊かになったASEAN諸国が、これまでですと海岸線から十キロも沖合に出ていくような軍事機能を持った艦船を一切持っていなかったような国がそれを持てるようになったということで、当然ながらそれを装備しようということで動いている、こういう側面、これは近代化というふうに言えるかと思います。  他方、中国の問題に関しましては、やはり軍事予算の増加率というのは大変大幅な増加率でございます。ただ、この問題が例えば直ちに中国が軍備拡大をしてどんどん特に海洋進出を果たしていって、そして南沙問題というか南シナ海の問題につながっていくのだという、いわゆる中国の軍拡脅威論みたいな形にストレートに結びつくかどうかというと、これは非常に私は問題を含んでいるだろうと思います。  特に、やはり何といっても、中国のそういう動向を考えるときには台湾問題の存在というのを避けて通れないわけです。言いかえますと、中国としては台湾の問題を解決せずして南シナ海あるいは東南アジア方面あるいは東シナ海方面に軍事的に戦略的なコミットメントを持って進出していくのかそういう対外的な姿勢をとり得るかというと、これはあり得ないわけです。そういった意味では、台湾問題を中国がどう解決するかということが、こういった問題でも中国の動向を知る非常に大きなリトマス試験紙といいますか踏み絵として我々は注目していかなきゃならないということだろうと思います。
  61. 大渕絹子

    ○大渕絹子君 我が国のODAのあり方というものも今後の日本外交と大きくかかわってくるのではないかと思われます。  今、村山総理も出発をされているわけですけれども、コペンハーゲンで社会開発サミットということの中で、その中心課題一つが貧困の撲滅というようなことで取り上げられているわけですね。過大な軍事費を削減して社会開発に回すということがうたわれているわけですけれども、その中で、経済援助の部分で二〇−二〇の協定ということを今それを盛り込めるかどうか、非常に激しい折衝が今行われているというふうに聞いているわけです。開発途上の国は自分の国の予算の二〇%を人間開発のために使う、また援助国はその援助の総額の二〇%を社会開発のために拠出していくべきだという論議なんですね。  そういう中で、日本実質的には世界一のODA大国になっているわけですけれども、社会開発の分野に拠出をしているのはわずか三・四%にすぎない。デンマークでは既にもう二五%をODAのそこの部分に拠出しているというようなことが言われているわけですけれども、この点。  それからもう一点は、ミャンマーに対してまだ軍事的な制裁が非常に強い中でODAの再開が決定されたというようなニュースが出ているわけです。これに対してはアメリカからちょっと人道的な立場から慎重であるべきだというようなコメントも来ているということですけれども、そのことをも含めまして日本のODAのあり方というようなものについて、残り五分のところまでにお話しいただければと思います。
  62. 中西輝政

    公述人(中西輝政君) それでは、前半の社会開発にかかわる日本の援助、これはまさに日本のODA政策がこれから目指さなければならない一つの方向性だと思います。あわせて環境、あるいはより広い意味のいわゆる民生、人権とかも含んだ多角的なODA政策の展開ということが今必要になっているんだろうというふうに思います。  その中で特に、先ほどの中国の軍備の話とかもかかわるんですが、いわゆるODA四原則というものを日本として掲げておりますが、今お話しのミャンマーの場合も民主化あるいは人権の問題として考えなければならないインプリケーションがあるのではないかということでございます。恐らくこの問題でいけば、中国の核実験の問題だとかインド、パキスタンの核開発疑惑の問題だとかベトナムに関しても民主化問題が皆無では必ずしもないわけでありますが、インドやパキスタンあるいはイラン、ベトナム、それからミャンマーの事例も含めまして、私はやはりこういったODAの民生あるいは社会開発、環境といった新しい側面への移行とあわせてこの問題をもう少し多角的に見ていく必要があるだろうという気がします。従来の古い形で、人権だけでこの問題を拘束的に考えていくということはかえって特にこのアジア地域においては問題の解決につながらないだろうという気がします。  ミャンマーの問題はまさにそういう時点で、スーチー問題というものは、私個人の見方ですが、これはやはり今のミャンマーの軍事政権とスーチーさんとの関係というのはある意味で七〇年代の韓国での朴正煕政権と金大中氏との関係に似たような状況、つまり徐々にソフトランディングしてくるそういった種類の人権問題であって、現在の北朝鮮なんかの問題とは異質なものだというふうに見ております。したがって、ODAの規模の限られた再開ということは、ミャンマーの現在の市場経済化の進展ということを考えますと、時宜にかなったものでないだろうかという気がいたしております。
  63. 大渕絹子

    ○大渕絹子君 もう一点。  先ほど日本がアジア外交を展開していく中に、残された問題の一つに歴史の問題があるというふうにおっしゃいました。私もまさにそのとおりだと思いますけれども、この歴史の問題を解決していくためにも、今、国会では不戦平和決議というようなものをつくっていきたいというふうに願っているわけですけれども、公述人のお考えはどうでしょうか。
  64. 中西輝政

    公述人(中西輝政君) この問題は、やはり日本としていわゆる大戦の問題、アジア政策においては避けて通れない問題だという認識を私は持っております。アジアの諸国にとっては、やはり日本が大戦の問題でとっている立場はある意味では、最近のアジアの知識人の多くが述べることですが、米欧等のいわゆる旧連合国のいわゆる押しつけられた解釈というものとまた別の解釈を日本はどうも持っているかもしれない、それはそれではっきりさせてもらったらいいだろう、その中でアジア人同士として対話していこうじゃないかということをアジアの知識人、私どもがよく接触する人たちは語り始めております。そういった意味では、五十年というのはアジアにとって非常に長い、もう五十年前の話というのはある意味では歴史以前のといいますか独立以前ですから、そういう意味の非常に古い話なわけですね。  その観点から、やはり我々はこの大戦の問題というものを決して避けて通るのではない、しかし日本として、恐らく日本人が、国会で政治家が解釈をしてそれが日本の解釈だという形で成り立つまでに議論が熟しているかどうかということは、私個人としてはまだだと考えておるところでございます。
  65. 大渕絹子

    ○大渕絹子君 大宮公述人にお尋ねをいたします。  大宮公述人はジャーナリストとしていわゆる子供のいじめ問題にも深くかかわって執筆をされているというふうにお聞きをしているわけですけれども、戦後日本経済効率中心の経済発展を遂げていく中で、いわゆる効率主義を迫い求めていく中で教育の現場までもゆがめられてきたという基本的な流れがあると思うんです。  そういう中で、この行財政改革に絡んで教育の現場も直していくべき問題が多々あると思います。その点について大宮公述人の思っておられることを、残り三分になってしまいましたけれども、どうぞ思いのたけを述べていただきたいと思います。
  66. 大宮知信

    公述人(大宮知信君) 私、先ほども申し上げましたように、必ずしも地方分権そのものには反対じゃないということを申し上げました。いろいろ不正防止の問題を解決すればどんどん国の統制を外して地方に権限を移すべきだと。  私、いじめなんかを取材しているわけですけれども、いじめの原因というのは一つじゃなくて、いろんな原因があると思います。これは一言で言えないんですが、やっぱり教育行政の問題は非常に大きいだろうなという気はしているんです。というのは、教育というのは、やっぱり地方も地方によっていろんな実情がありますし、地方によって表情が変わっているわけで、人も同じなわけで、もうみんなそれぞれ人が違うわけです。ところが、それを国が一元的に管理、指導を強めていくということが、いわゆる画一化教育ですね、どうもそれが教育の現場を非常にゆがめているんじゃないかと。  ですから、むしろ教育というものはもう国がやることではなくて、例えば文部省を極端に言えば解体して、諸外国なんかは文部省というのは、むしろそういう政府はないように聞いているんです。ですから、そういう教育はもう地方の方に任せて地方の自由な発想で展開すべきではないか、それがいじめの防止にも役立つのではないかなという気がしております。
  67. 大渕絹子

    ○大渕絹子君 ありがとうございました。  終わります。
  68. 北澤俊美

    ○北澤俊美君 長い時間、どうも御苦労さまです。  私は平成会の北澤でございますが、十五分の時間をちょうだいしていますので、よろしくお願いをいたしたいと思います。  先に中西さんにお聞きをいたしますが、冷戦後の現状と先行きをお述べいただいたわけでありますけれども、先ほどお話を聞いておりますと、二十一世紀、二〇一〇年ぐらいには安定的秩序が醸成されるだろうというふうに、私もいろんな方の話を聞いていますが、久方ぶりに明るい見通しをお聞きしたわけでございますけれども、いささか私どもが考えているのとどうかなと、こういうふうに思うんです。  御案内のように、先ほど分析されたベルリンの崩壊から始まったこの新しい世界情勢でありますけれども、今までこの状況を的確に予測した人間というのはほとんどいなくて、ブレジンスキーがこれに先立って一年ぐらい前に「大いなる失敗」という論文を書いて的確にこれを見通して、しかもその後に来るのは宗教的な対立、それから民族的な対立だと、そしてそれがかなり長く続くだろうと、こういうふうに言われたわけでありますが、この状況が二〇一〇年で秩序を保ち得るとすれば、だれがどんなリーダーシップをとってどんなふうになるかということをちょっとお願いをいたしたい。
  69. 中西輝政

    公述人(中西輝政君) 私は、特に今お話しのブレジンスキーとか欧米の識者がいわゆる湾岸戦争直後には世界新秩序、あるいはフランシス・フクヤマというアメリカの評論家の場合は「歴史の終わり」ということで、自由民主主義の最終的勝利だと、あるいは市場経済が普遍的価値として世界じゅうに確立されると非常に楽観的な像を描いた。ところが、昨今になりますと、今のブレジンスキーの場合もそうですが、欧米の識者は今度は世界無秩序論に振り子がぐっと逆に振っておるような傾向を非常に感じるわけであります。これは、やはり欧米の思考からしますと、一つの理念が貫徹されないと秩序が成り立たないんだといういわゆる普遍主義思考みたいなものですね、普遍的価値思考みたいなものが非常に強い。そういう中から国際秩序の考え方を導いてくると恐らく宗教が対立し民族がお互いに対峙し合う、これはもう無秩序に違いない、こういう西欧思考の一つのバイアスがそこにあるわけで、我々はそれに影響される必要はない。特にアジアの情勢を見るときには、そういう見方に煩わされることはかえって害をもたらすというふうにも思うわけです。  具体的に自治上げてどういった枠組みが、国連が再び非常に権威を確立し、あるいはアメリカが再び一極体制といいますか超大国としての影響力をこれまでにない形で再建し、等々といった形のリーダーシップという意味では私はそれほど大きなものは期待できないだろうという気がします。ですから、リーダーシップがなければ無秩序になるのかと、今度はそこがポイントになるんだろうと思います。  そういった意味では、時間の関係で簡単に私の結果論的な見方を申し上げたいと思いますが、やはり二〇一〇年ごろの、つまり世界秩序のある意味一つ均衡点というのは、地域秩序が再編されていくだろう、そして各地域の秩序の再編がグローバルな世界秩序を支えていくという、何本もの柱が世界にできていってこの間にお互いの関係が取り結ばれるようになってくるだろう。  それがやはり安全保障の面でもヨーロッパのNATOのようなのが、やはりヨーロッパの柱とアメリカの柱、日本の柱という考え方。日米安保に関してもアジア安保の支柱としての日米安保、つまり地域化しているわけですね。あるいは現在起こっている通貨危機に関しても、ドルは世界の基軸通貨ですが、ますます米州貨、ラテン、南北アメリカの通貨という側面を非常に強く持った態様になってきている。あるいは貿易のブロック化、経済協力の地域化といったもの、あるいは文化的な、あるいは文明的な側面で非常に地域中心に収れんする力が強いわけですね。しかし、それはどこかでやはり均衡されなければならない。  そういった意味で、私は、さらにこの傾向が二十一世紀に入って地域間の提携という形として相当、まだ十年ほどの移行期間がかかるだろう、非常に大ざっぱでございますが、簡単に申し上げてそういう結論でございます。
  70. 北澤俊美

    ○北澤俊美君 今、先生もお触れになったように、フランシス・フクヤマ氏が歴史はとまったと。これはナポレオンが専制国を征服したときに、ちょっと名前は忘れましたが、それを言ったと、こういうんですけれども、そこに言われているのは、自由主義イデオロギーだけがこの地球上を覆えばこれはもう歴史は本当にとまって時間的な空間だけが拡大していく、そうすると限界が来る、こういうようなことを言っておるわけです。  ちょうどそのころ文芸春秋に、余り正確に覚えていませんが、江藤淳さんが論文を書かれて、今、地平線上にはこの資本主義イデオロギーにかわるものは影も形も見えてない、こういうことを言っておったんです。  今、私は、新しいものがもし出るとすれば人口とか環境について新しいイデオロギーが出てくる、必ず出てくるだろうというふうに思うんです。日本や先進国は少子化が国の重大事項であるけれども、地球的な規模でいえば人口の爆発が相矛盾した形で最大の課題になっているわけですから、これを解決するイデオロギーが出てこないということはないので、先進国のおごりで少子化なんて、言っている時代はそう長くはないと、こう思うんです。そういう時代を見通して先生が二〇一〇年と、そこまで含めておっしゃったのかなと、こう思うわけです。  国連に対する期待は非常に大きいんですけれども、もう国連は今本当に破綻の危機にあるわけですね。これをだれがどうして救うのかという問題があるんですけれども、見通しはないと思うんですね、日米ともにもう財政赤字は大変なことでありますから。みんなが逃げちゃったら国連はなくなるんですけれども、国連中心外交を国是としている我が国として展望が開けるのかどうかということはどうでしょうか。申しわけございませんが、時間がありませんので短くちょっと教えていただきたいと思います。
  71. 中西輝政

    公述人(中西輝政君) それでは国連のことだけに限ってお答えしますが、恐らく国連の本来の役割というのは、冷戦中も冷戦が終わっても本質的には変わっていないというようなところがあるわけです。それは何かというと、やはり話し合いをするフォーラムとして、お互いの主張をぶつけ合う場としてこれが常に用意されているということは大きな事実ですね。  ですから、紛争の調停機能というものがやっぱり国連の本来の機能であったわけで、国連が武力行使をして、武力行使の主体になって事態を切り開いていく、そういった意味の世界秩序の主役というイメージ、これは確かに崩壊したわけで、今後もそれは再建されるという可能性は非常に薄いと思います。  しかし、やはり紛争当事者を一堂に会し、政治的な調整を行いながらさまざまな解決を図っていくという、こういうフォーラムとしての国連、あるいは調整機能としての国連ということは非常にますます重要になってきていると思うんですね、民族紛争一つを取り上げても。そういう意味では、日本が果たすべき役割というのは今後むしろそちらの方にも意を用いた形の、あわせて開発とか環境とかいった面、これが日本の方向ではないかという気がします。
  72. 北澤俊美

    ○北澤俊美君 最後に、もう一つだけ。  東南アジアについて御指摘がありましたけれども、東南アジアに対する姿勢というのは私は福田ドクトリンが生きておるというふうに思います。これは我が国はきちっと守っていかなきゃいかぬと、こういうふうに思います。  東南アジアの経済発展というのは確かに著しいものがありますけれども、これは御案内のように、世界的な投資をして、東南アジアと中南米がやって、中南米はもう全く失敗したわけですね。これは御案内のように教育のあり方でありまして、中南米はエリートに教育の投資をして、こちらは日本的な底辺の広いものにした。ここまでは成功した、経済も発展してきたけれども、課税客体をきちんとしていないということが東南アジアの問題じゃないか。税金を日本のように広く取るというところに意を用いなかったのでその分野で危機が来るのではないか、こういう指摘もあるんですけれども、これちょっと簡単に先生の御見解を教えてください。
  73. 中西輝政

    公述人(中西輝政君) 福田ドクトリンが日本の東南アジア政策の基本理念であるべきだというのは全く賛成でございます。つまり、心と心、ハートとハートのあり方、つまり日本外交が新しい次元を持つという非常に重要なポイントだろうという気がします。そういった意味で、明治以来のいわゆる日本外交にあった脱亜入欧といいますかそういうアプローチとは少し違うものが既にもう福田ドクトリンの中にあらわれている。しかもそれは戦前の大東亜共栄圏型ではない平和主義の理念もその中に含まれているということで、依然としてこれが重要な意味を持っているというのは強調したいと思います。  今の課税客体の話ですが、この九〇年代に入って東南アジア、ASEAN諸国の中に起こってきている中産階級の勃興というものは、やはり新しいアジアの諸国の財政を担っていく階級がその中から生まれつつあるという楽観論も他方あるわけですね。ただ、各国の財政の制度そのものに実は問題があって、課税客体を育成してこなかったことが問題がどうかということでは私は疑問を持っております。
  74. 北澤俊美

    ○北澤俊美君 大宮公述人にお聞きをします。  先ほど来お話をしておりますが、お仕事柄、庶民感覚で地方自治を見ておられる。そういうふうにしますと、知事の権力というのは非常に強いから、権力はイコール悪であるということから地方自治をごらんになると先ほどおっしゃったようになるわけでありますけれども、国と地方団体と住民という形で見ると全くまた違う切り口になってくるというふうに思うんですね。  それで、金がないのではなくて使い方の問題だと、こういうふうにおっしゃったけれども、これはもう私も長いこと地方議会におりましたけれども、地方公共団体の、市町村も含めて、予算は国の金であって、自分の金であるという認識が非常に薄いんですよ。必ず面倒を見てもらえると、こうなる。国の言うことを聞いていれば面倒を見てくれると、こういう感覚でありまして、そういう面でまた改めて健筆を振るっていただければ大変ありがたいなと、こう思うんです。  それともう一つ、我々は立法府でありますけれども、地方議会は条例を発議することができるわけです。  ちょっと調べましたら、十年間に七十六、政策的なものですね、委員会の定数とかそういうのは除きますと七十六の否決があって、二十だけ政策的な条例が、二十しか、十年間にですよ、日本じゅうの都道府県で。東京都の場合は四十七件で可決は五件と、こういうふうになっている。ここいらに地方の問題が集約されているような気がするんですけれども、先ほどのお話をちょっと私らの方からは少し違った角度で地方分権というものについて御意見を聞かせていただければと、こういうふうに思います。
  75. 大宮知信

    公述人(大宮知信君) やっぱりお金がないということをおっしゃいますね、地方の人たちは。ですから、権限というよりもむしろ金だと、金をくれという意見の方が強いんじゃないかと。今はやりの言葉で言えば、同情するなら金をくれということですよね。ですから、地方分権は必要なことだとは思うんですけれども、やっぱり例えば受け入れ態勢の問題とか、あるいは人材育成の問題とかいきなりぽんと権限だけ移しても受け入れ態勢がなければ戸惑うだけで、混乱するだけだと思うんです。  先ほど監査委員の問題にちょっと触れましたが、なぜ監査委員が機能しないのか。あれは天下りという問題が一つありますよね。身内だからチェック機能を果たさないと。ですから、例えばそういう監査委員の天下りを禁止するとか、あるいはもっと言えば知事の多選を禁止してしまう。要するに、権力は長くなればなるほど腐敗していくというのは、これはもう歴史的な必然でございまして、何らかの多選を禁止する法律をつくって腐敗を防止する。あるいは地方の議員も同様に、それは異論があろうかと思うんですけれども、長くその議会に携われば携わるほど議会のボスというのが生まれてくる。したがって、これも何らかの形で抜本的な改革をする必要があるんじゃないか。  ですから、いろんな意味で地方の今の現状をとにかく革命的に変えなきゃいけないんじゃないかそれから地方分権を議論を深めていく必要があるんじゃないかという気がしております。
  76. 北澤俊美

    ○北澤俊美君 どうもありがとうございました。
  77. 有働正治

    ○有働正治君 まず、中西公述人にお尋ねします。  最近、アメリカ国防総省の報告、あるいは議会に対する日米安保の役割等についての報告等々が発表されています。その中で、日本の安全への脅威に備えると歴史的に言われてきた安保条約の理由づけにつきまして、ソ連の崩壊で失われたということを指摘しています。また、別の報告の中では、日米安保条約が六〇年一月十九日に調印された当時と同じ意味を持つ、アメリカの利益を守る明確な条項があるということが強調され、日本の安全のためという安保条約のこれまでの建前が崩れた趣旨の言動も見られるわけであります。    〔委員長退席理事伊江朝雄君着席〕  アメリカ側から見ますと、安保条約の役割、地球的な役割というのはますます強調されていますが、私がお聞きしたいのは、一連の報告を見ますと、日本側から言えば安保条約の中に言われていました日本の安全に寄与等々の論拠が薄れてきているということが言えるのではないかと。この点についてどうお考えになっておられるか。  それから、大宮公述人にお尋ねします。  今、地方財政危機は厳しい状況にあります。その中の一つの大きな理由に私は大型プロジェクトの問題があるのではないかなと、臨海副都心の問題、その他全国的にも財政破綻の一翼に私はなっていると思いますが、この点についてどう思われるか。残り三分でございますので、ひとつ端的にお答えいただければ助かります。
  78. 中西輝政

    公述人(中西輝政君) アメリカの議会報告書等の言及で、安保条約の理由づけということですが、ソ連の崩壊で消えたというだけの結論で終わっている叙述ではないと思うんですね。つまり、ソ連の脅威に備えるという面では、これはなくなった。しかし、別の存在理由があるんだということで、例えばアジアの安定というような側面、あるいは日本の、これは日本の防衛政策を補完するというようなそういう言い方をしておりますけれども、そういった言及としてはあります。ただ、日本の安全それ自体を守るという言及が減ってきているということは間違いない事実でございます。
  79. 大宮知信

    公述人(大宮知信君) 要するに、ひもつき補助金がよくないんだということだと思います。金を出すかわりに国が余計なことを、くちばしを入れると。地方も金が欲しいためにどんどん国の押しつけの大型プロジェクトを受け入れてしまう。その典型が茨城県の前の知事さんだったと思うんです。  ですから、何が必要なプロジェクトで何が必要でないかというのが中央の考えだけで地方に押しつけられていく。その結果、地方が財政的に行き詰まってしまう。ですから、建設省の今のプロジェクトも含めて、そういうプロジェクトの進め方をやっぱり再検討する必要があろうかという気はしております。
  80. 有働正治

    ○有働正治君 どうもありがとうございました。
  81. 西川潔

    西川潔君 きょうは御苦労さまでございます。  私は、大宮公述人にお伺いしたいと思います。  今週、たまたま市町村合併特例法案の審議がございまして、私も地行に所属いたしておりまして、これから超高齢化社会を迎えるに当たりまして、地方分権が進んでいく中で、当然ながら分権が進めば進むほど市町村が担う役割と責任が重くなってくるのはこれは当然ですけれども、そうした中で今後どういった姿の地方自治のあり方が望ましいのか、また住民サービスの基本に立った市町村の課題と役割というんでしょうか、どういう点があるのかお聞かせいただきたいと思います。  また、福祉の観点から一つお伺いをしたいんですけれども、望ましい人口規模、どれぐらいが適当とお考えになっておられるのか、そのあたりもお聞かせ願えたらと思うんですが、よろしくお願いいたします。
  82. 大宮知信

    公述人(大宮知信君) 難しい御質問なんですけれども、先日どこかの地方でお年寄りが、高齢者がクーラーを外されたと、かわいそうな気の毒な事件がありましたですね。ああいう事件を見ますと、今の首長もそうですし職員もそうなんですが、住民の血税を使っている、それを住民のために使うという基本的な精神が欠けている。要するに、古い言葉で言えば公僕という意識ですね、公僕という公衆に奉仕するという意識が根本的に欠けているんじゃないか。それは先ほどから申し上げています権力の前に業者が群がり、それによって私腹を肥やすという首長が多いわけで、そういう金権体質に職員の方も汚染されている、それが公費の乱脈なんかにもつながっているのではないかなと思うんです。  それをどういうふうに改善すべきかというのはこれは非常に難しいことなんですが、例えば今の人事制度、公務員の採用の問題にしてもそうですが、人事のあり方から根本的に変えてしまう。公務員はしばしば天下りということをやっているわけですけれども、例えば天下りじゃなくて民間から有能な人材を天上がりとして登用する、途中採用するということも必要なんじゃないか。そういう人材、教育から含めて抜本的な改革を進める必要があるんじゃないか。それと、どういう自治のあり方が望ましいかというのは、これはやはり学校教育から、とにかく国民の血税、住民の血税を住民のために使うんだというのを学校教育から培っていく必要があるんじゃないかそんな気がしております。
  83. 西川潔

    西川潔君 ありがとうございました。
  84. 伊江朝雄

    ○理事(伊江朝雄君) 以上で公述人に対する質疑は終了いたしました。  この際、公述人方々に一言御礼を申し上げます。  本日は、長時間にわたり有益な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。(拍手)
  85. 伊江朝雄

    ○理事(伊江朝雄君) 速記をとめて。    〔速記中止〕    〔理事伊江朝雄君退席、委員長着席〕
  86. 坂野重信

    委員長坂野重信君) 速記を起こしてください。     —————————————
  87. 坂野重信

    委員長坂野重信君) それでは、引き続き二名の公述人方々から項目別に御意見を伺います。  この際、公述人方々に一言ごあいさつを申し上げます。  お二方には、御多忙中のところ本委員会に御出席いただき、まことにありがとうございます。委員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。  本日は、平成七年度総予算三案につきまして皆様から忌憚のない御意見を拝聴し、今後の審査の参考にいたしたいと存じますので、どうかよろしくお願いいたします。  次に、会議の進め方について申し上げます。  まず、お一人二十分程度で御意見をお述べいただき、その後で委員の質疑にお答えいただきたいと存じます。  それでは、まず経済・雇用につきまして、中川公述人からお願いいたします。中川公述人
  88. 中川宏一

    公述人(中川宏一君) 連合の総合政策局の中川でございます。  労働組合あるいは勤労者の立場からこういうふうな機会を与えていただきまして大変ありがとうございます。厚く御礼を申し上げたいと思います。  レジュメをちょっとお渡ししていると思いますが、四点について申し上げてみたいと思っております。  第一点は、九五年度予算案に対する総括的な意見でございます。第二点は、円高ドル安に対する緊急の対策についてでございます。第三点は、景気と雇用について連合がどのように考えてきたかということについてお話をさせていただきたいと思っております。第四点は、非常に先行きが見通し難の中でともすれば方向性を見失いがちであるという現状から、次の日本経済社会をどのように考えていくかということについてでございます。  十分に御意見を申し上げることができないかもしれませんが、お手元の資料で御参照をいただき、意のあるところをお酌み取りいただければというふうに思っております。  まず第一点ですが、連合はバブル崩壊後の長引く平成不況からの早期脱出ということを掲げまして、賃上げや時短による個人消費の底支えから拡大、それから国民生活重視の内需主導型の経済社会の構築と完全雇用、こういったことを強調してまいりました。  加えて、民間の設備投資が冷え込んでいる状況の中では、積極的な財政政策の展開が不可欠であるということで、事実、三回にわたって不況対策が実施されましたが、減税の三年継続ということもおかげさまでなされました。我々としては歓迎もし、賛成をしてまいったところでございます。  また、財源についても、確かに財政の健全化は必要ですが、つなぎ国債もやむなしという考え方をとってきたわけであります。今回の阪神大震災復興対策においても、むしろ増税ではなく国債で賄うべきだというふうなことを強調してまいりました。これは国内での貯蓄過剰、投資不足が貿易黒字をもたらしているという一般的な考え方が定着していると思いますが、そういうふうな考え方を踏まえているところであります。もちろん、といって財政がばらまきの形になってはいけないということは当然でございまして、規制緩和や行政改革地方分権、さらには情報公開など、これまでの政治、経済あるいは行政のシステムの転換を図りながら財政のむだを省くということを強く求めてきたわけであります。  こうした観点から予算案を見ると、幾つかの歓迎できる点と、またどうかなというふうに感じている点とがございます。詳しくはお配りした資料をごらんいただきたいと思いますが、減税の継続、新ゴールドプランの予算上の頭出し、それから防衛費の抑制、公共投資重点枠の設定と配分比率の変更など歓迎すべき点も幾つか見られるわけあります。限られた財源枠の中で財政需要がメジロ押しの中で、人にやさしい政治を掲げる村山内閣としての苦心のほどを理解したいと思います。  しかしまた、多くの注文や意見もございます。  第一に、景気の緩やかな回復過程のもとではありますが、果たしてこれで政府の掲げる実質経済成長率二・八%目標は達成できるかどうかということであります。いわば、景気刺激型からの転換が妥当であったかどうかということでございます。  連合は、国民生活の改善を重視し、景気回復と完全雇用の達成に向けて積極型財政経済運営を要請してまいりました。そのためにも、六百三十兆の公共投資計画についても配分のあり方や重点のあり方を再検討するとともに、生活関連社会資本への重点化を進めていくことを加えて、資料にございますように百万人雇用創出に向けて新しい産業育成などについて強調してまいりました。  しかし、予算案の現状を見ますと、既得権を前提にした予算配分、あるいは農業対策整備新幹線などの着手が行われています。いささか全体の枠の中で突出しているんではないだろうかというふうな考え方をしているわけであります。また、財政のあり方を不透明にする隠れ借金体質の拡大や、雇用対策や円高空洞化対策などが若干不十分じゃないかなというふうに思っているところであります。  第二の予算と言われてきた財政投融資計画は、一般財投も低い伸びに抑えられることになりました。この面でも景気刺激型からの転換が見られるわけであります。財投は特殊法人など政府機関を通ずる事業でありますが、その特殊法人の多くが重複や機能上の立ちおくれなどによって必ずしも十分な役割を果たせていないと言われています。行革としての特殊法人の見直しは財投の見直しでもあります。年度内には政府系金融機関の整理統合問題が一応の決着をするというふうに聞いておりますので、それに期待をしたいというふうに考えているところであります。  以上、総括的に申し上げれば、九五年予算案については不満な点もありますが、さらに幾つかの課題の実現を求めながら、基本的には早期成立の上で、阪神大震災及び円高での景気失速にならないように早急に補正予算を組むべきだというふうに考えております。また、今後も村山内閣の政治理念と経済政策を具体化するため、さらにめり張りのきいた政策の提起と実行を求めていきたいと思っております。  第二に、ここ最近の円高問題についてでございます。  メキシコの金融危機に端を発したドル安に伴う円の急騰は、非常に深刻な問題になっております。これが回復過程に入った日本経済の足取りを重くさせるとともに、輸出産業はもとより製品輸入増に悩む産業、また対応力に乏しい中小企業に少なからぬ不安と衝撃を投げかけております。十年前のプラザ合意ではドル暴落を各国が阻止しました。今回はドルの信頼が崩れてきているというふうに思っております。  この意味では、ちょっと専門的なことは十分にわかりませんが、例えばIMFなど国際機関が全体としてドルに対する規制あるいは監視を強めていくなど、新しい機能と役割が必要ではないかと思っておりますが、いずれにしても他の先進国と緊密な連携のもとにG7などを早期に開催されましてドル安是正対策を講じていただきたいというふうに思っております。  後に関連して、当然のこととして内需拡大政策を一層進めなければなりません。そういう意味で、阪神・淡路大震災の思い切った復興対策といったことが非常に重要になってくるわけでありまして、補正予算の早期の成立というふうなことをひとつぜひともお願いしたいと思っております。金融政策の適切な発動もあるかとは思いますが、これについては我々、老人その他預貯金者のことも考えなければなりません。しかし、適切な発動も含めまして総合的な円高対策を策定していただきたいと思っております。  なお、連合は賃金の引き上げと労働時間の短縮が内需の拡大と経常黒字の減少に最も効果があると確信しつつ、春闘の山場に向けて取り組んでいることをつけ加えておきたいと思います。  第三点は、以上申し上げました景気の関係と雇用の問題でございます。  雇用関係の指標は、御承知のように景気に対してタイムラグがあります。しかし、依然として回復がおくれております。日本実質GDPは、九二年一・一%、九三年〇・一%、九四年は〇・八から一%程度で推移をすると言われています。つまり、この三年間極めて低位に推移をしてきたわけであります。成長率が非常に低位に推移をしてきたということになります。一方、雇用の指標で言えば、失業率は、九二年二・二、九三年二・六、九四年は十一月で二・九%であります。有効求人倍率は、九二年一・〇、九三年〇・七一、九四年十一月が〇・六四となっております。  右肩上がりの成長を前提として日本の企業運営がなされていることを考えると、この三年間の企業の雇用維持に対しては、リストラとか海外展開とかいろいろあるにしても、あるいは政府の雇用支援トータルプランなどの成果もあり、ちょっと手前みそになるかもしれませんが、総体的には労使の努力もあってよく耐えていると言わなければなりません。  しかし、阪神大震災の影響、そして今また円高ということになりますと、景気の回復のおくれが危惧され、あるいは海外展開しか道がないというふうな考え方に陥ってしまいかねません。国内の投資マインドが冷え込むおそれがあるわけであります。そうなりますと、雇用問題がさらに長期的に深刻になっていくということになりまして、非常に危惧をしているところでございます。  連合はこの点を重視し、九三年には不況脱出プランを提案いたしました。早期に実質三%成長に乗せるための提言もし、それから昨年末には百万人雇用創出を提言し、阪神大震災復興計画については、当面の復旧対策とともに復興対策として総額十兆円程度の補正を組むべきだと政府や与野党に申し入れてまいりました。本来なら九五年度予算を組み替えるべきでございますが、景気回復への軌道に順調に乗せるためにも予算を早期に成立させ、その上で改めて九五年度の補正をやるべきだという考え方をしたわけでございます。  ドルの全面安が急速に進んでいるときに、それぞれの国の経済の基礎的条件に違いがあるということだけで放置するのではなく、今こそオーソドックスに内需主導で国民生活重視型の経済運営を積極的に進めていただければというふうに思っております。  したがいまして、公共投資もある意味では不況対策観点から脱却して本格的な展開を求めたいと思っております。道路整備新幹線などハード面ばかりを重視するのではなくて、人材育成などを含めたソフト面の手だてを尽くす必要があると考えております。  若干横に外れますが、昨年十月に出ました経企庁の公共投資基本計画も社会資本整備研究会の提言も、地震など防災、耐震の観点一つも入っていません。防災、耐震の関係については何も兵庫県や神戸市だけではないことにある面で言えば気がつき愕然といたしました。ひとつ御検討をいただきたいと思っております。  いずれにしましても、アメリカは実質経済成長率が四%、ドイツもほぼ三%と上昇に向かっています。先進国で最もおくれて景気後退に入った日本が九五年には着実な内需拡大の条件を整えれば、最後のランナーとして世界の同時不況から同時好況に向かうのではないだろうか。しかしながら、設備ストック調整がまだ十分に進んでいないことなど構造調整を必要としています。そういう意味では自律回復力が弱いと言わざるを得ません。そういう点で、ぜひとも政府経済政策の運営についての充実強化をお願いしたいと思っております。  連合としては、国内消費を支えるための適度の賃上げによる所得の上昇、震災復興への積極的対応を含む政府財政金融政策の展開によって着実な内需拡大がなされ、景気回復局面からさらに三%強の中長期成長路線への景気上昇に入っていくことが課題であると思っております。  懸念されているのは、アメリカを初め世界景気が拡張、過熱している中で、日本のみが景気回復がおくれ、財政緊縮と勤労者の所得が抑えられるような事態になれば、低賃上げ、低消費、円高の悪循環が、今再現しているわけですが、再現してしまうことになります。その点で、ぜひともマクロ経済政策の運営について政府及び国会の積極的な対策をとっていただきたいと思っております。  第四点に移りたいと思います。この構造調整過程を通じてどのような日本の社会あるいは経済社会をつくるかという問題でございます。  第一に、勤労者生活の問題点は御承知のようにいっぱい抱えております。確かに名目所得は高くなりましたが、ゆとり、豊かさ、社会的な公正がありません。将来の老後生活への不安が貯蓄をふやすことになっております。住宅もそうであります。景気が悪くなるとローンがずっしりこたえるようになっております。阪神大震災被災状況を見ますと、特に大都市では果たしてこれまでの持ち家政策がよかったのかどうかという問題もあります。そのほか子供の教育費の高さ、長時間労働による仕事、職場に偏った生活、高齢化、少子化などでの男女の役割分担の問題、いろいろと多くの課題がございます。  これらはどの問題をとらえましても構造的なあるいは制度的な問題を抱えておりまして、当然社会保障政策のあり方、住宅政策のあり方、教育政策のあり方、あるいはこれは我々も責任がありますが、労働生活の質のあり方などが問題となって底流にあるわけであります。いわば、戦後五十年が問われているわけでありまして、また明治維新あるいは戦時統制経済体制までも引きずっている現在の政治、経済あるいは行政のシステム転換が問題になっていると思っております。  私たちも今日の延長線である企業中心、現状維持型がもはや限界に来ている、そこからの脱却をどうするかということを考えているんですが、といって今はやりの自己責任、市場万能型がよいと思っているわけではありません。  連合はことしを高度福祉元年ととらえ、中期的なスタンスで高度福祉経済社会を目指していきたいと考えております。それには社会的な仕組みが制度的にも確立していなければなりません。福祉、介護問題が次第に大きな社会問題になってまいりました。先生方の御努力に心から敬意を表したいと思いますが、個人がいろいろな制度や社会的枠組みに支えられて初めて個人の選択権が広がり、人権が尊重されるということになると思います。  百万人雇用創出のプログラムを見ていただいてもわかりますように、むしろ社会や国民のニーズに対応した産業や雇用の創出を強調しているところでございます。そういう意味で、産業優先から生活重視の視点へ政府の政策運営が求められていると思います。生活大国五カ年計画経済成長などの基礎的条件の変化に伴い、経済審議会で見直されようとしています。五カ年計画住宅をいつまでにどの程度と極めて具体的に各項目に書かれておりました。国民には非常にわかりやすく、方向性もイメージできました。ぜひともこれを後退させることなく、新たな観点から具体的に精査されるようにお願いをしたいと思っているところでございます。  少し時間がありませんが、第二に人的資源開発の問題です。ヒューマン・ポジティブ・マンパワー政策とでも言いたいところですが、デトロイト・サミット、ナポリ・サミットなどで先進国共通の課題である成長と雇用、とりわけ雇用問題が大きな課題となりました。日本がアメリカと違って製造業の衰退ではなく技術・技能立国として製造業を維持するとすれば、アジア諸国の台頭とも相まってより付加価値の高い製品、産業への移行を多くの産業で推進していかなければなりません。そのためには、安定した雇用と連動した人的資源開発が重要だと思っております。  連合が八百社の中小企業に熟練技能の問題点を調査いたしました。熟練技能の社会的評価が低いこと、製品単価が抑制されることなど、労働条件が悪く、技能を育成したり教育していく場がないなどの回答がございました。その結果、産業基盤が空洞化すると考えている中小企業が実に六〇%に達するのであります。御承知のように、学校教育が既に多くの問題点を持っております。また、民間の研究開発投資かなりの額に上り、既に技術輸出国になっていることも事実ですが、産業空洞化がこうした中小企業の中で起こっていることを考えると、我が国の質の高い労働力の再生産が次第に難しくなっているのではないかと思います。ノーベル賞を受ける科学者が日本は少ないということも問題ですが、科学技術を含めて将来の日本の社会のあり方を踏まえつつ、総合的な人的資源開発が中期的にも極めて重要であります。  学校教育、基礎研究の充実などが予算上増額されておりますことは評価をいたします。しかし生涯教育は、欧米の労働者の技能陳腐化に対するさらなる技能形成の政策として実体化されましたが、日本での受けとめ方は必ずしもそうはなっておりません。職場、学校、地域社会を通じた体系的な人的資源開発が大変重要になっていることを申し添えて発言を終わりたいと思います。  どうもありがとうございました。(拍手)
  89. 坂野重信

    委員長坂野重信君) ありがとうございました。  次に、社会保障につきまして、井上公述人にお願いいたします。井上公述人
  90. 井上定彦

    公述人井上定彦君) 本日は、こういう機会を与えていただきまして厚く御礼申し上げたいと思います。  私は、連合総研というところに所属しておりまして、連合総研は確かにバックとしては連合による支援がございますけれども、現在、東大、慶応を初めとして、経済企画庁、労働省等の専門家の協力をいただきまして、大体年間で百人を超える御協力をいただいております。独立した法人として、経済、社会、暮らし、福祉、地球環境、いわゆる人間の総合的な生活開発にかかわる研究をブラッセルのETYあるいはドイツのWSI等の研究所と提携して研究をしております。したがって、本日、私が述べる見解は多少連合とは異なるかとも思いますけれども、そういう研究所の立場であるということを御案内申し上げておきたいと思います。  まず第一に、ここ一年の福祉や社会保障の動きというものを私自身の十五年ぐらいの経験から見ますと、本当に歴史的な大変化が進んでいるんだなということを実感するわけであります。よく、日本の社会や政治はなかなか変わらない、機能しない、そういう議論がありますけれども、この一年間の社会保障にかかわる歩みというのは非常に歴史的なものであったと思います。  昨年の三月には二十一世紀福祉ビジョンが発表されました。つまり、健康、老後所得、介護、子育て、雇用、教育、住宅の総合的な視点から少子・高齢化社会を展望する対策を打ち出したわけであります。  また、九月には社会保障制度審議会が、その中で社会保障将来像委員会の第二次報告を出しました。これは、二十一世紀に通用する社会保障像を現在の欧米の福祉国家の困難の中から再査定をするという大変なお仕事をなさっておるわけでありまして、非常に意欲的なお仕事だと思います。  さらに、一九八九年のゴールドプラン以来約五年経過いたしまして、その後、折り返し地点からもう一回わずかあと六、七年後に迫る二十一世紀に対してどのようなアプローチが必要かということで、各自治体の調査を踏まえた新しいニューゴールドプランという構想が出されました。  そして、十二月にはこれをさらに具体化して高齢者介護・自立支援システムに関する研究会報告というのが発表されておりまして、この一年間の歩みというのは恐らく過去、今世紀日本の社会構造の変動と社会保障のあり方に関する歴史的なステップという点では、先ほどもお話があったようでありますが、私は一九七三年、残念ながら石油ショックによって途中で挫折した福祉元年というものが今回こそは新しいステップを踏み出したのではないかと非常に強く期待しておるところでございます。  やはり近年における生活者重視の政治、前川レポート以来の内需主導型経済の定着と生活の質の向上という発想が国民的にやはり議論され、こういう形で実現されているという点では、私は日本の社会や政治に対する期待を改めて持つことができるというふうに感ずることができるわけです。  さて、そういう背景になる二〇〇〇年代、わずかあと数年後に迫る二十一世紀の世界、これは本当に大きな、私どもが日本の歴史上かつて経験したことがないというふうにまで言えるような大きな変化でございます。すなわち、江戸の中期に日本の総人口は三千万台になりましたけれども、それがその後の人口爆発によって現在一億二千数百万、これが今のままの状況でいけば非常に高い確率で二十一世紀半ばには人口が半分近くに下がっていく危険がある。いわゆる少子・高齢化社会というのはそういうイメージを秘めたものであります。  すなわち、その中に出生率の低下という問題がございます。あるいは女性の自立と社会への参加と個人の確立という日本近代以来の大きなテーマが今具体化しつつあるということをその背景に持っているわけです。自立した個人を支えるためには、もとの村や家や旧型のシステムとは違った新しい社会の再生産のシステムを我々の知恵と力でこれからつくり出すという課題を、私どもこの二十世紀の末から二十一世紀の初頭にかけて負っておるわけであります。そういう点では、恐らく本当は政治であるとか国家であるとか、基本にかかわるような変化が起こっている、大きなテーマが生じているときに、実際にこのような形で新しい一歩が踏み出せたということを国民の一人として大変私は期待ができる、率直にそう感じているわけであります。  この九月に発表された社会保障制度審議会の将来像委員会第二次報告という中身を読みますと、二十世紀における福祉社会の発達というのは通常一九四〇年代のイギリスのビバリッジ報告というものを想起するわけでありますが、恐らくそれ以降発達した福祉、しかし福祉国家の発達はさまざまゆがみももたらします。そこへの問い返し、果たしてこれでいいのかという長い議論を積み上げた上に、もう一回その一人当たりGNP水準で世界の先端におよそ並ぶ、あるいは国連の人間行動指標というのをとりますと日本は本当に一位であります。幾分実感ともずれないわけではありませんけれども、現実の指標が示すそういう日本において、次の二十一世紀にこの十九世紀、二十世紀の産業社会が生み出したさまざまなひずみを是正していく、その装置としての福祉社会と連帯の制度的なものを二十一世紀にどのように新たに展開できるかということについて、非常に大胆なチャレンジをしたものだというふうに受けとめました。  そういう点では、いわば第二次のピバリッジ報告というものが日本において今構想され、大討議されていると。そして、できることならこれが本当に今世紀末までのあとこの数年の間に日本の中で着実に歩むということは大変大きな意味を持つというふうに感ずるわけであります。  つまり、過去十年、十五年、私が覚えておりますのは、日本社会は欧米とは違うんだと。私も違うとは思います。しかしながら、果たして自立した人間が都会で生活し、女性が自立し、一人一人の自立した人間がその社会の中で自立しながら生きていくときには、どうしてもそこに横型の新しいコミュニティー、横型の連帯型のシステムというものをつくり出さなければ支えられないわけであります。  それに対してかつてある見方では、日本は家型社会である、そういうことは必要がない、それは先進社会の病理であるという議論がございました。しかしながら、幸いにおいてこういう形で現実に自立した個人を支援するシステムとしての基盤的な保障という意味を含めた福祉制度発達を始めているということ、私はこれはウォルフレン氏を初めとする、日本が異質である、日本は先進社会とは違うんだ、特殊性を持った社会だという批判があるとすれば、それに対するみずからの答えである、私どもは最も標準的な人類普遍の法則に沿った社会システムづくりを今着手している、こういうふうに感じるわけであります。  そういう点では、日本の後、中国がもっと大変でしょう。中国は今一九六〇年代の日本のような実質経済成長率一〇%を超える水準であります。恐らく、しかし近づく中国社会の構造変動は、あそこは一人っ子社会でありまして、日本の後をかなり速いテンポで追うことは私は目に見えていると思います。  ここで、欧米とは違うアジアではなくて、人間が同じ法則性にのっとって連帯した社会制度を、自立した個人を支えるシステムをアジアでつくるんだと、まず日本からできたではないか。欧米が、ヨーロッパが福祉が揺らぐときに日本で新しい効率性を持って支え合える新しい福祉制度ができたじゃないか、これはすばらしいことじゃないかこういうふうに大いに誇ってみたいものでございます。  そういう点では、今回の社会保障の将来像委員会の第二次報告、さらにそれを受けて今議論されている老人、高齢者の介護保健問題における例えば隅谷三喜男先生、宮沢健一先生が展開されている新しい福祉と経済、社会の理論というのを私は本当に新しいものが日本で生まれつつあるなという点で非常に心強く思っております。  つまり、福祉における現在の普遍化という論理と経済社会との連動化という二つのキーの概念をそこで宮沢先生は指摘されておりまして、福祉というのは例外的な弱者において妥当するものだけではない、むしろ自立した人間が生涯にわたって安定し品位のある社会、しかも社会に対する責任感の持てるそういう人間を育てていく枠組みとしてどうしても必要なんだと。福祉というのは普遍的なものである、普遍主義の原則に立つということが一点。  第二点に、福祉というものは負生産的あるいは社会の効率を乱すものではなくて、それは福祉自身が新しいニーズ、人間的なニーズ、ヒユーマン・ディベロプメント、人間の能力の発達という点においてもその基盤を支えるだけではなくて、次の二十一世紀がいわゆるナリッジ・ベースド・エコノミー、知的情報というものを基盤にした、つまり物的生産のウエートが相対的に下がって、人間の福祉であるとか医療であるとか地球環境であるとか人間の創造的な行為の価値が上がっていく、情報価値が上がっていくその社会の中で非常に大きな意味を持つ。つまり、例外的な、経済に対して従属変数的な、あるいはいわば足を引っ張る福祉ではなくて、人間の福祉が次の社会の発展を切り開いていく、そういう連動化という側面を強調されたことを私は非常に評価するわけであります。  つまり、今までの日本社会はいわゆる企業型社会という批判を受けてまいりました。つまり、従業員の雇用と暮らしを守るために退職金制度を発達させ、暮らしの枠組みとしての中高年になると生活のコストが上がるためにそれに対して年功賃金で対応する、いわば社会的コストを企業が負うというシステムでございました。つまり、社会保障と企業と雇用システムというものは内的に連動するものでございます。これから、より流動的でしかもダイナミックな人間社会を形成して、そしてそれに見合って生涯にわたって人間能力を発展させていくような、そういう人材開発というシステムを考えれば考えるほど、近代的な社会保障を確立することは日本の二十一世紀経済発農の基盤的な保障をなすという視点が大事だろうと思います。  そういう点では、いわば福祉は資本主義の修正というかつてのような発想ではなくて、二十一世紀社会経済の新たなルールづくりとその秩序形成の機能を持つという側面が注目されるべきだろうと思います。  さて、そこで私ども、ここで新たに提起されている高齢者介護の問題について考えてみたいと思いますが、この新しく発表された研究委員会報告では六つほどの視点を強調しております。  一つは、人間の自立性と可能性を高めていく、生涯にわたってそれを支えていくためにやっぱりノーマライゼーション、つまり福祉をどこかに例外的な片隅に追いやるんではなくて、日常的な一人一人が向き合う課題として置くということが第一点。  二番目に、単にミニマム、例外的な弱者の最低限の保障というよりも、むしろ標準的な質の高い福祉というものを選択できるということであります。したがって、第二の原理は選択する福祉という視点も大事になるわけです。  さらに第二には、公的福祉から、つまり公的なものですべて賄うということではなくて、公的なものと民間の福祉市場というものと、それから第三セクター的なNPOというものと相互に競い合って新しい福祉の最適ミックスをつくり出していく、そういう発想でこれからの福祉を形成しなければならぬということであります。  さらに、それを実行する主体としては、地域、自治体を軸にして、市町村をやはり軸にいたしまして、そこで地域福祉の新たなネットワークづくりを考えなきゃならぬ。そしてネットワークを支える拠点として、在宅福祉センターあるいはケアチームというものを全国津々浦々にそういうオルガナイザー、組織、機構というものをつくっていかなければならない。さらにこれから大切なことは、福祉の比重が上がるだけに企業経営と同じように福祉のマネージメント、公、民、そしてNPOを含む最適のベストミックスをつくり出す効率的な福祉経営のマネージメントという発想法が重要だということであります。  その視点に立って、私は近年の、一九九〇年代に入って以来の日本における福祉や社会保障制度の歴史的な発達を見るときに、これだけ具体的な処方せんを国会で採択していただいた。これを今もう一回、先ほど申し上げた第二のビバリッジ報告に見合うような形でもっと理念的にも明確にしたらどうだろうかという意味で、福祉基本法とかあるいは介護基本法というような新しい理念的な制度をもう一回理論的に整理してつくる。特に、社会保障制度審議会の最終報告ができた段階でそういうことを工夫していただければありがたいというふうに思うわけでございます。  振り返ってみますと、かつて日本においても、福祉元年と申しました一九七三年、それ以降福祉というものが揺らぎました。それはもちろん非常に難しい、二回にわたる石油ショック、そして大規模な円高という経済の背景もございました。しかし、それと同時に、福祉というのが公的なところから給付される以上、一体これが信頼に足るものかどうかという非常に残念な悲しい議論が一般的であったということも否定できません。  つまり、福祉というものが健全に発達し、基盤的なしっかりしたものになっていくためには、やはりそこに国民の参加と情報の公開と国会におけるチェックと、それから行政の高い効率、モラルというものが相まって初めて実現するものであります。欧州における福祉の停滞は、社会の経済活力との相互の見合いがあるだけではなくて、そういう福祉に対する確信の揺らぎもあるわけであります。そういう我々の経験を踏まえて、人類における二十世紀の経験を踏まえて福祉の意味というのをもう一回問い返したときに、私は日本の市民社会、いやモラルというものをもう一回考えてみる、そういう時期に来たように思います。  つまり、福祉社会をつくるには、どうしても新しい価値を共同で市民社会の中でつくり上げていくという大変難しい、しかし避けることのできない課題があるんではないか。つまり、このような形で欧米、特に北欧よりも速いテンポで高齢化が進む。そのときに、通常考えますと、日本経済はちょうど成熟化して欧米並みの低成長に入っていく。欧米並みの低成長に、欧米を超える高齢化比率に入っていくということは、その経済社会を客観的に見る限り本当にそんな社会の再生産がきくのだろうか。人類史の先端の実験を日本がやるという羽目になっておるわけであります。そして、今までの日本の倫理といいますか市民社会の道徳から見て、こういう相互に支え合う、横型で支え合うという、自立しつつ支え合うという新しい倫理が果たしてどこまで育つかということを考えざるを得ないわけであります。  つまり、私どもの研究所のたどり着いた一つの重要な概念はそこでございまして、お手元にきょうこのような分厚い報告書を配らせていただきました。その主張点は、この中に、二、三ページ目にこういうB4判の一枚の開いた紙がございます。(資料を示す)どうしてもここに社会のモデルと社会の公共精神と連帯という価値を強調しなければならぬということであります。  「しあわせの未来形」、これは私どもこの不透明な社会だからこそ我々は新しいビジョンを持って未来に挑戦するんだ、漂流する世界だから新しいビジョンを持った方が勝ちだというメッセージを発しまして、こういうフローチャートもつくったわけですが、この下の方にこれからの社会の選択肢が大きく言えば三つあるだろう。一つは「企業中心・現状維持型」、下の方の左側にございます。そういうあり方ではやっぱり問題があるんじゃないか。日本経済社会システムのあり方についての問い直しから見ると、やはりもっと違った、自立した個人を軸にした考え方が必要ではないか。  つまり、一つは、個人を中心としてアングロサクソン型の、市場というものに全面的にアクセントを置いた、そういう透明なシステムをつくることが必要ではないか。この考え方も非常に有力でございます。社会保障よりも市場の長期的な均衡が最適の福祉をもたらすというのは経済理論の一部が示すところでございます。  しかし、私どもは、どちらかというとそれだけではなくて、やはりインフレや経済の変化やいろんなさまざまの人間社会の構造変動を考えたときに、もう少し安心できる社会システムが要るんじゃないだろうか。つまり、個人尊重、社会連帯という発想法の上に新しい制度、政策を積み上げていく、それを二十一世紀に積み上げていく、何百何千という制度を積み上げていく、改革を積み上げていく、それによって新しい社会モデルをつくり出すという考え方もあるんではないだろうか。  そして、そこでどうしても必要なことは、やはりこれまで戦後民主主義の中でどこまで育ち得たかということを、じくじたるものを禁じ得ない民主主義と責任の問題、市民の自立と連帯の問題、新しい市民的な道徳を、連帯する力を社会の中に育てていくということをもう一回強調すべきではないかというふうに感じたわけです。  それにかかわって一点、国民負担率という悲しい概念があります。私は、社会保険の方式でいくとそれは相互に、これは取られるんではなくて支え合ってつくる社会だという概念がより明確になる。加えて、しかし考えてみたら税というのは我々が取られているんだろうか。国家が江戸時代のように五公五民で収奪しているという発想法に立つならば、国民負担率という、公共的に負担する私的に負担する、私的に負担しようと公共的に負担しようと効率さえそこに問題がなければ、実は同じように暮らしを支え同じように負担するわけであります。ただ、配分の仕方と組み合わせの仕方が違う。  果たして、なぜこのような変な概念が定着したかと思い当たるときに、やはりこれは市民社会と政治に対する信頼というのをもう一回日本は二十一世紀に向けて再構築しなきゃならぬのじゃないか。本当に社会保障というのは収奪だろうか、いやそうじゃないはずだと。では税というのはどうだろうか。今の民主主義国家というのは、私たちの暮らしを支え安定させるシステムとして税というものがあるはずであります。そういう開かれた透明な税制度や財政制度になるということが福祉社会形成の大きな基盤である、そのことを強調いたしましてとりあえずの報告にさせていただきます。  どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)
  91. 坂野重信

    委員長坂野重信君) ありがとうございました。  以上で公述人の御意見の陳述は終わりました。  それでは、これより公述人に対する質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言願います。
  92. 斎藤文夫

    ○斎藤文夫君 自民党の斎藤文夫でございます。  中川、井上公述人、きょうは御高説を拝聴させていただきまして、まことにありがとうございました。今お話を承っておりまして、実はいろいろ考えてはまいりましたものの、新しい発想によるいろいろなまたお話を聞かせていただきましたので、言うならばぶっつけ本番式にお尋ねをさせていただこう、このように思います。  まず、中川公述人にお尋ねを申し上げますが、経済と雇用、文字どおり車の両輪、表裏一体でございまして、先ほど御指摘がございました急速な円高、一瞬風速とはいいながら八十八円。もう私ども、三百六十円の固定レートになれ、しかも実質一ドル五百円ぐらいの、今から四十年前の時代のことを承知いたしておりますが、もうただただ目をみはるばかりでございます。  こういう中で今一番私どもが懸念をいたしておりますのは、産業の空洞化の問題であります。一九六〇年代、アメリカは製造手段を中心に海外へどんどんと企業が流出してまいりました。我々はその状況というものを十分承知しておりますし、その轍を踏まないように努力いたしてまいっておるところでございますけれども、今、日本における製造にかかわるファンダメンタルズは世界のいかなる国で生産をするよりも生産コストが高い。人件費においては、もう御承知のとおり、今、世界一と言われるほど上がってまいりました。まあ実際の購買力平価から見れば低いと、こういう御意見もありますが、とにもかくにもドルの今日の状況から見れば世界一は間違いございません。  昨年、中国に参りましたが、モンゴルで人件費が一カ月二千五百円、三千円、こういう状況でございます。日本の初任給とお比べをいただければ、もう中国の人たち日本の初任給で六十人、場所によっては百人雇える。最近ベトナムのホーチミン市、あの周辺が新たな日本投資の焦点になっておりますけれども、一説によりますと、日本の従業員一人当たりの人件費で二百人から三百人、しかも相当レベルの高い労働力を確保することができる。  こういう話を聞いておりますと、土地あるいは建物住宅、乗り物、いろいろありとあらゆる製造にかかわるものを比較いたしますと、残念ながら諸外国で生産をした方がはるかに日本国内で生産するより安い。したがいまして、今テレビでも既に六五%を超すテレビが海外で生産され、日本に輸入をされてくる。大企業はリストラだと言ってどんどん海外へ新たな生産拠点を設けます。これは生き抜いていく、生き残っていくためにはもうやむを得ない状況なのかなと。  では、それにまつわる中小零細企業が一緒に海外へ流出をして部品生産ができるというシステムが国内と同じように整うならばそれは結構でございますけれども、残念ながら相当な力のある企業でなければ出ていけません。となると、国内において残念ながら仕事があすから打ち切られる、こういう状況下にこれから一層私は置かれていくのではないか。  円高けしからぬというわけではないんですけれども、しかし残念ながらこれについての、今、日本政府にも早くG7開いて打ち合わせをして何とかドルを高くするように、世界の通貨安定を図れと、こうはいうものの現実には何としても日本の企業が海外へ出ていく可能性がある、またどんどんと行っている。この現状を見たときに、果たして国内における雇用はいいのかなと、こういう不安がもう非常に大きく今出てくるわけであります。  ましてや、先ほど来お話のあります高齢化・少子時代、二十一世紀を展望するまでもない、ますますもう目と鼻の先に仕事を欲しい、とりわけ定年でおやめになった六十歳前半の人たちが健常な体で、そして今まで長い間蓄積したノウハウも持っている、にもかかわらず仕事はない、こういう状況下でございます。  御承知と存じますが、六十歳以上六十四歳までの有効求人倍率は〇・〇八であります。ということは、ないというのと等しいということでございます。今、失業率が二・九、選ばなければまだ雇用はあると思いますから、フルエンプロイメントです。しかし、これは世界の一流工業国で比べてみればなるほど日本はすばらしい、こういうことで胸を張ってまいりましたけれども、これから今世紀末、とてものこと日本はやがては四%、五%の失業を抱える時代が来るのではないか。  意見を長々と申し述べましたが、中川公述人、海外へ流出する国内産業空洞化、これらの問題をめぐっての雇用に及ぼす影響、またそれを何とか防止して雇用を創出していこうと、また後ほど百万人の雇用創出についてはお尋ねをいたしますが、この一点、御意見を拝聴したい。
  93. 中川宏一

    公述人(中川宏一君) 先生がおっしゃることにはほぼ同感でございます。そういう意味で我々も危機感があるわけです。  ただ、日本は割と危機感が好きだ、危機意識が好きだと。考えてみますと、貿易の自由化のときもわいわい言いましたし、資本の自由化のときもそう言いましたし、ガットについてもそう言いましたし、今回もまたそう言う。ところが、日本はその間に技術力あるいは国際競争力で非常に高いレベルになって、ほぼあらゆる産業で国際競争力としては余人をもってというか、余国をもってかえがたしという形に私はなっていると思うんです。したがって、本来ならばもっと自信を持つべきだということでございます。    〔委員長退席理事伊江朝雄君着席〕  もう一つの問題として、為替レートが何で決まるかという話が、我々も専門家でございませんから余り詳しいことは申し上げられませんけれども、相対関係は生産性の上昇率とインフレ率で決まるというふうになっております。そうしますと、日本の製造業を中心にする生産性は欧米に比べて非常に高い。ましてアジアではどうかといえば、これも高いと思います。インフレ率もどうかといえば低い。要するに基本的なところはすべていいわけです。しかも、なおかつ海外展開をしなければならないパラドックスということを我々としては何とか阻止していきたいというふうに思っているわけですが、そのためにも内需主導型ということを定着させたいというのが我々の考えてあります。  同時に、それが国民生活あるいは、先ほど福祉の問題もございましたが、高齢化、少子化あるいは情報化と言われるような新しい二十一世紀へ向けての社会と産業とがマッチするということを通して今の日本の技術力を強めていくといいますか維持していき、それが結果的に製造業を残すことになっていくんではないだろうかというふうに感じているわけであります。  そういう面で、経営者側の方がこれだけ円高になったから賃金はゼロだというふうなことは結果的に円高を促進するのではないだろうかと我々は考えており、またこの十年来そのことを強調してまいりました。しかし、にもかかわらずこういう結果になっているわけでありまして、そこに全体として日本経済運営あるいは社会のあり方についての転換が求められているというふうに言わなければならないだろうと思うわけです。  今度のドル安に関して、ドイツは景気が過熱するということもあって受け入れるという話を新聞記事で見ています。悲鳴を上げているのは日本だけなわけです。その日本がなぜこういうふうになるのかということをやはり考えていかなければならないと思っているわけです。労働組合として言えば、今、経済的規制の自由が言われていますが、同時に社会的な規制をやっていかなきゃならない。円高になったら本来ならば製品に価格を転嫁する仕組みができていくはずであります。ところが、現実は中小や下請に対してなおコストダウンを求めるということであります。その中小企業の経営者の下に労働者はいるわけでありまして、そうなってきますと、今までのように基準法の問題やら最賃法の問題やら、こういうことをもっと強めない限り、要するに、下請単価の問題も中小企業庁が指導しておりますけれども、それも中途半端になっている、あらゆることが一人一人の生きる人間に対して底支えがないといいますかそういうことになっているところが一番問題ではないだろうかというふうに感じておりまして、ちょっと十分なお答えになっているとは思いませんが。  同時に、経営者側の方は、購買力平価と為替レートの関係を追求し、購買力平価が一八〇、為替レートが一〇〇とすれば、一八〇を一〇〇にするというふうなことを育っているわけです。しかし、その購買力平価の一八〇の中にはさまざまな人たち生活がかかって価格が決まっているわけでありまして、場合によっては経営者側が言うように一挙にそういうことを進めていけば失業が大量に出てくる、商店街からあらゆるところから失業が出てくることは必至であります。だとすれば、そういう意味では確かに我々が生活している衣食住の生活基盤の価格が非常に高いわけですけれども、同時にそれは個々の市場原理に任されて解決つくものでもないわけです。  例えば、内外価格差で半分ぐらいは土地関連サービスです。オフィスのテナント料とか家賃とかというふうなところが内外価格差の半分を占めます。しかし、これは基本的に土地問題を解決するという視点がない限りは、内外価格差の半分を占める土地問題あるいは土地関連サービス問題はそううまくいかないだろと思うわけです。  そういう意味で、基本的なところをひとつぜひとも御理解をいただきながら、ベースのところをどうするかということを通じて国際競争力を高めていただきたい、あるいは製造業の空洞化を阻止したい、こういうことであります。
  94. 斎藤文夫

    ○斎藤文夫君 もちろん定説があるわけじゃありませんが、本当に共通する御意見でございまして、お互いに頑張りたいと思います。  時間がないものですからちょっとまとめます。  先ほど百万人の緊急雇用創出、ちょっと資料を拝見したわけでありますが、日本経済のこういう現状の中で二十一世紀新産業は何か、マルチメディアの時代だよ、新しい産業は重厚長大が軽薄短小に変わった、そういうふうにまた新しい産業構造というものが生まれてくるんだよ、そうすれば百万や百三十万雇用創出はできるよ、あるいは行革を進めていけばそれに見合う雇用創出ができるよと。意見としては私もそのとおり、こう思うわけでありますけれども、もうまさに六年後に新世紀を控えておって、それで今のこの極めて長引いた景気不況の中、しかも一%前後の低成長、そして高齢化・少子時代、日本の前途には多事多難な大山がいっぱい控えておる、こういう状況ですと、雇用創出、新産業創出と言うけれども本当に現実にできるんでしょうか。  また、いろいろパターンをお決めいただいて、それぞれでこういう産業、新しい分野を開きましょうと。理念としてはわかりますが、本当にそういうように政府もこれから努力するわけでありましょうけれども、皆さんの方もその辺についての見通しというか、思いを一言お聞かせいただきたい。
  95. 中川宏一

    公述人(中川宏一君) 実現していきたいということが我々の思いでございます。  そういう一味で、今そこに出しております資料は、産構審でいろいろ議論されたことの我々なりの整理の仕方というふうに御理解をいただきたいと思います しかし、今まではサプライサイドといいますか 供給側から産業を見ていたということになると思います。そういう意味では、国民生活の需要側から産業を見るというふうなことがあっていいんではないだろうかというふうに思うわけです。そのことが、ずっと産構審やらいろいろなところで議論されてきた経過を見ましたら、産業を中心に考えるんではなくて生活者を中心に考えるというふうなことのつながりになってくるんではないだろうかというふうに思っていまして、サプライサイドだけで物事を見ないで、国民のニーズに対応した新しい産業あるいは新しいシステムというふうなものもぜひともつくってみたい、お願いをしたいというふうに思っています。
  96. 斎藤文夫

    ○斎藤文夫君 中川さんに最後一つお尋ねします。  大体、労働組合が今大きく変貌しています。そこで、私の持論を交えて御意見を一言お聞きします。  今までは、勤めると終身雇用、年功序列、そしてまた学歴偏重、こんなような中で個性のないサラリーマンというのができてきたと、私はこう思うんですね。また、一昔はブルーカラーとかホワイトカラーとかわけのわからない区別をした言葉もありましたが、これは適当でなかったのか、いつの間にか消えてきた。思想的にも、階級闘争、階級意識、そんなのは一部の人のことであって、全体が企業と協調、協力をしよう、大きくさまが変わってきました。労働時間も二千三百時間、四百時間、それが今千八百、千七百を目標に努力する、しかも男女共同参画社会。先ほど福祉のお話もありましたが、新しい社会が開けつつある。このときに、実は私は連合の皆さんが政治の上においていろいろ御関心も持って御活躍をいただく、大いに拍手をもって歓迎いたしますが、そこで私の持論なんです。  そのくらい労働組合、勤労者も変わってきた。我々自民党も変わった。保守自民党を支持する労働組合があってもいい。これが私が戦後終始一貫して、メーデーのときに自民党の宣伝カーを持っていって唱えたことがあるんです。だからこそ、私は連合の皆さんが自民党というものに対して期待とか御忠言とか、そういうことをこれから遠慮なく、心と心を通えるようにしてもらいたい、こう思っておりますが、いかがでございますか。
  97. 中川宏一

    公述人(中川宏一君) ありがとうございます。積極的に伺わせていただきたいと思います。  そういう意味で、我々の方も自民党がどういうふうにお変わりになるのかあるいは変わっていかれたのか、少し検証もさせていただきたいと思いまして、今度の介護休業法については社会党さんと自民党さんで政府法案を出されていますが、そこら辺も含めてひとつ我々としても十分御相談をさせていただきたいというふうに思っております。
  98. 斎藤文夫

    ○斎藤文夫君 期待をしております。  遅くなりました。時間がございませんが、井上公述人にお尋ねをいたします。  大変格調の高い日本の社会福祉のあり方についてお教えをいただいたところでございます。行革審の答申で、将来の国民負担率がどうしても上がっていかなければならない。紀元二〇〇〇年には四〇%、二〇二五年の高齢化ピーク時にはうっかりすると五〇%を超えちゃうから何とか五〇%に引き下げようよ。この中にも違った数字、別のデータが出ておりましたが、こういうようなことが今後これからの福祉を展望したときに果たしてこの程度の負担率で御期待されるような福祉社会、今まで日本は福祉国家を標榜していましたが、これからはお言葉のように福祉社会、こういうものをつくり上げていけるのかどうか。それと同時に、各種のばらつきの年金があります。この年金の支払いについて、今の掛金では当然やっていけませんから、計画的に年金負担率を上げていくわけであります。  このいただいたご本の中の百七十一ページに厚生年金の収支予測の表がございます。これで見ますと、基金残高が既に過去五年間で何と大変な金額、二十一兆四千億減になってきている。これが紀元二〇二五年になるとさらに二十兆減になる。もう天文学的な数字でございまして、果たしてこういう基金がなくなっていく傾向はこのとおりだと私は思うんです。それに対応できるのかどうかどんなに立派な福祉をお互い努力しても、やはり経済の支え、経済力の活力がなくなれば、残念ながらこれだけの状況のものが今後でき上がらない、こう思いますときに、お尋ねをいたします。
  99. 井上定彦

    公述人井上定彦君) まず第一に、国民負担率というのは、従来ですと税の負担と社会保障負担、社会保険の自己負担を示しているわけです。  しかしながら、私、確かにOECDでこういう統計のとり方をすることはできますけれども、ほかの国で日本の使っているような概念としての国民負担率の比較の議論は余り伺ったことはありません。むしろ年齢構成が高度化したり、個人が自立して支え合う近代社会になっていったときに、それを市町村のレベルで持つのかそれとも地域社会で持つのか、それから個人の市場ベースで持つのか、それから国家のレベルで持つのか多元的な持ち方がありますけれども、その社会の再生産、ソーシャルリプロダクションを可能にする条件をどのようにつくるのかということが大切で、国のレベルの国民負担率というところだけの表層で比較するのはいかがかと私は思っています。  つまり、個人の生活を私の代、父の代、そして子供の代と比較したときに、それを世代間の連帯として支え合っていくときにどういうやり方がいいのか。ある部分は自己負担、ある部分は地域での支え合い、ある部分は自治体で相互に支える、そしてある部分は国で全国的に支え合う。例えば老後の介護を考えますと、その介護をどうやって負担するかというときに、これから共働きが普通になり、子供が一人でかぎっ子になる、そして年寄りは四人という人的構成に日本社会は次第に多数派がなるわけです。年寄り四人、共働きの夫婦二人、そして子供一人、これを支えるためには、従来個人がそれぞればらばらに払ったものを共同でストックして、より効率的な福祉システム、ネットワークとしてつくった方が効率的ではないか。  こういうふうに考えますと、昨年の二十一世紀福祉ビジョンの中で出されたシナリオの中での標準ケース、あれで見ても、これは正確な推計をする人は余りおりませんけれども、五十数%になると思います。そして、六五%に上がったときの高負担ケースも私どもで計量モデルで分析をしてみましたけれども、それでもかなり成長率が今後低下すると考えても、手取りの所得は、私的所得は伸びます。わずかではありますが、二〇二五年にかけても伸びます。  問題は、さらにもっと経済の成長率が下がっていく、一%を切ってゼロになるという可能性もありまして、それもチェックをしたわけですが、これからの二十一世紀経済社会というのは、やはり国の中における情報と人材開発のいわばシステム間競争に国家間はなるのではないか。そのときにしっかりした社会の質、しっかりした社会の基盤を持つということが社会の生産力の基盤ではないかという、例えばロバート・ライシュ氏の議論、そういうものを参考にして広いヒューマン・パワー・ポリシーみたいなものを軸に、先ほどの話ですと基盤的なとおっしゃいましたが、そういう新しいタイプの産業経済政策を考えるべきではないかと思っております。
  100. 斎藤文夫

    ○斎藤文夫君 時間でございますので、両公述人、ありがとうございました。
  101. 大脇雅子

    ○大脇雅子君 きょうは示唆に富みますお話をいただきまして、どうもありがとうございました。  期せずして感銘を受けましたことは、将来の二十一世紀を展望いたします日本の未来の中で、中川公述人はまさに人的資源の開発こそキーだとおっしゃいましたし、井上公述人はまさに自立しつつあり支え合う市民社会をいわばつくり上げていくことだという点で、まさにヒューマンパワーこそ我が国の最も重要な、いわば資源といいますか価値といいますか、すべての基礎だということを期せずして言われたと思います。物から人中心  へ、経済から生活中心へという時代の流れの中で、今私たちが考えなければならないことというのはまさにお二人の御指摘のところにあるのではないかと感じ入った次第でございます。    〔理事伊江朝雄君退席、委員長着席〕  まず、中川公述人にお尋ねいたしたいのですが、例えばドイツの労働組合あるいはスウェーデンの労働組合などは、それぞれ労働組合自体が大きないわば労働者の研修機関といいますか教育機関といいますかそういうものをしっかり持つことによって企業に取り込まれない自立した労働者をつくっていくという、そういう歴史があったのではないかと私は思います。  その場合、日本は、いわば小学校、中学校、高校、大学にかけてまさに受験競争の中で、言ってみれば人間性を切り取られたような教育で、本当の職業教育というのがジョブトレーニングのようないわば企業内における実地訓練にゆだねていたということがやはり非常に大きな将来に対する危惧を生んでいるのではないかというふうに私は常々考えておりまして、この人的資源の開発のいわば具体的なプログラムなどを連合の方はどのようにお考えか、お伺いいたしたいと思います。
  102. 中川宏一

    公述人(中川宏一君) 具体的と言われますとちょっと面映ゆい感じなんですけれども、我々連合の方も研究機関あるいは教育機関を、研究機関は、これはそれぞれ人格は別ですが連合総研を持っておりますし、それから教育文化協会というものをつくりまして、これも別組織ではありますが、系統的に労働組合の研修をやっていこうというふうに考えているわけです。  もちろん、それぞれの労働組合、産業別の労働組合では、例えばゼンセン同盟は岡山に大きな研修機関を持っておりますし、それから情報労連はやはり伊豆に持っています。そういうふうに自動車の方もいろいろ持っているわけです。ですから、それぞれのところは産業別レベルでそういうふうなことを充実した形でやっているわけですが、これから、連合ができまして五年ですので、そろそろそういうふうにナショナルセンターレベルでどうするかということを考えていかなければならないということで実行に移しております。  ただ問題は、先ほども申し上げましたように、今の日本の労働者の生涯教育のあり方は、こう言っては怒られますけれども、家庭の主婦あるいは老人の生涯教育になっているわけです。本来、リカレント教育というのは、労働者の技能の陳腐化に対応して再訓練あるいは再教育するための生涯教育といったことが一つの柱になっていたと思うわけです。そういう意味で、ILOでは有給教育訓練休暇制度というのが一つの条約、勧告になって問題提起をされている。しかし、これを今までの政府あるいは労働省あたりは、結局、一般的な職業教育はいいけれども、例えば労働組合の教育はだめだと言って適用しないというふうに言ってきたわけであります。  そういう点で、職業教育と労働者教育とが接点になるところがかなりあります。我々としては、そういうものを労働組合がもっと積極的に介入して積極的に対応していくことが、技能教育の横への広がり、あるいは社会的な仕組みをつくる基盤になるのではないだろうかとは思っているわけです。しかし、今までの政府は、それをやってまいりませんでした。可能な限り企業内に技能教育を形成させることだけを考えたわけであります。そういう点で我々は非常に不満に思っているわけです。  また、今回の規制緩和のところで、商工会議所が職業紹介事業あるいは人材派遣事業を商工会議所にくれということを言っています。しかし、これとても、本来ならば労使あるいは労働者も入った形での組織立った、あるいは社会的な職業紹介あるいは職業訓練といったものが仕組みとして出てこなければなりません。ドイツがマイスター制度を持っているように、日本もまたそういうものを企業の外に持つ必要があったわけであります。  しかし、現実の、例えば職業訓練学校の現状あるいは専門学校の現状などを考えますと、結局横への、例えば社会的な評価をつくり上げていくための一つの仕組みをつくったということにはなっていないわけです。そういう点がこれからの戦後五十年の中で、不戦決議とかいろいろ言われますけれども、同時にこういった問題について洗い直しをしていただきながら、一つの新しい社会に向けての政策形成をお願いしたいということでございます。
  103. 大脇雅子

    ○大脇雅子君 私も、ぜひもう少し一貫した職業教育というものが学校教育の中に取り込まれて、そして現場の労働組合がアクセスしながら質の高い技術と識見を持った労働者をつくり出すということが日本の将来に非常に重要だというふうに考えているわけです。  そうした労働者が、市民としていわば自立し支え合う社会というものはどのようにつくっていったらいいか。市民社会の競争、効率中心の今までのシステムから人権、生活中心のシステムヘ組みかえていく、人の意識を組みかえていくいわば枠組みというのは一体何かということを私は常々考えるわけです。  私がスウェーデンに参りましたときに非常に心打たれた二つのシステムがあります。これは、例えば幼稚園ですと、日本の幼稚園あるいは小学校の低学年というのは年齢ですべて横に割るわけですけれども、その保育園は一切もう本当にゼロ歳児から五、六歳児までが一クラスになって、下の者は上の人に世話をさせながら上がって成長していく。そして二つ目に、労働組合の賃金分配率が、要するにウェージソリダリティーといって、賃金を低い方へ厚く配分していくというのがそこの中での組合の原則になっていた。私はこの二つが非常にスウェーデンの福祉社会を育てているというか持っている本当は根っこのような気がしてならなくて、自分では論証しないでただ直観でそう思っているだけでございますけれども。  井上公述人にお尋ねしたいのですが、今まさに高齢化社会に向けてアジアの先進たるべく社会をつくり上げようとしているときに、どういう形で新しい価値を市民の中でつくり上げていけるんでしょうか御意見を伺わせていただけたらと思います。
  104. 井上定彦

    公述人井上定彦君) 今、スウェーデンのウエージソリダリティー・ポリシーのお話がございました。スウェーデンの場合、低い層の賃金を優先的に引き上げるということは、社会の中での賃金水準を平準化し、その後高位に持っていく条件を整えるためのものでありまして、それは産業構造上何を意味するかというと、生産性の低い産業がより高いものになっていくために貨金をむしろ装置として使う、賃金の平準化を装置として使うということだと思うんです。  ですから、日本内外価格差にあらわされているような産業の二重構造の是正というものは、実は規制緩和も大切でございますけれども、その底辺をなす賃金、社会コストを平準化させることによって効率のいい産業構造へと転換させていく装置として、経済政策の一環として位置づけることを私は非常に感銘を持って観察いたしました。日本も今、私はそういう位置にあるということを考えております。それは中小企業や農業にとっては大変難しい条件ですが、それに対する構造的な政策的な支援というものも規制緩和と同時に必要だと思います。  さらに、そのような連帯できる社会がどのようにしてできるか。私はこれこそ政治であり、社会の合意形成、日常的な合意形成の仕方にあると思います。つまり、さまざまの考え方、多元的な物の見方、多様な社会的な主体というものが相互に拮抗し合いながら同時に同じ社会を支え再生産していくという、いわば拮抗と協調というそのルールを比較的早目につくってきたということだろうと思います。  私、今、日本の政治や社会はその過渡期に来ている、近代社会になっていく重要なステップに入っていると思います。そのためにこそ、特に福祉が発展している現在、個々についての情報の公開と国民の参加と厳しいチェック、透明性をどう担保するか。福祉が発展する段階であるがゆえに、決して個々に将来腐敗であるとか不信が起こらないような装置を今のうちにビルトインしていくことが大事である。何よりもその信頼の第一歩は政治である。政争の具につまらないテーマをしない。国民が政治というのは信頼に足るんだ、十分なそういう信頼に足る議論をいつもしているんだ、一つ一つの政策選択のその場において政治家が気概を持ってそれを中長期にわたって責任を持ってやっていくんだと、そのことが私は民主主義を育てるものだと思います。
  105. 大脇雅子

    ○大脇雅子君 ありがとうございました。  国に対する信頼というか政治に対する信頼、そして社会が公正であるという信頼を打ち立てていくこと自身がやはり社会にとって一番必要だと思うんです。  今、若い人たちなどのいわば国民年金への支払い率というものが、非常に不払いがたまっておりまして、それに対してその理由を聞いたりいたしますと、払ったからといって将来自分たちに返ってくるとは限らないではないかという若い人たちの考えもあります。それから第三号被保険者のいわばサラリーマンの妻の、夫が一人分で妻の遺族年金を支えるというシステムに対して、共働きの女性たちからそういうフリーライダーというのは果たして公正かという声が上がり始めていると思うわけです。ですから、やはり国に対する信頼というのは、公正であり平等である社会というものに対して国民がその感触をしっかりと自分の中で意識化しているということが大事だというふうに思うわけです。  そうした平等の社会に向けての何か一番ここが肝要だというような一つの御提言などございましたら、もうあと一分しかございませんので、一言ずつお願いいたします。
  106. 井上定彦

    公述人井上定彦君) 私、最近ちょっと教育問題に関心を持っておりまして、日本の戦後教育というものが一体連帯する力という最も人間社会で大切なものをどこまで子供のときから、さらに大人になっても、大人の社会の中でも確かに競争は大切であります、活力として。しかし、そこに競争と連帯というバランスのとれた原理を日本社会はこれまでどこまで育てたか。そのことをぜひ社会全体で育てたいと思います。
  107. 中川宏一

    公述人(中川宏一君) ちょっと思いつきません。我々の方としては、とにかく今の春闘に全力を尽くすのみだというふうに思っております。
  108. 大脇雅子

    ○大脇雅子君 どうもありがとうございました。
  109. 寺澤芳男

    ○寺澤芳男君 きょうは中川公述人、そして井上公述人、大変お忙しいところありがとうございます。そして大変貴重な御意見を開陳していただきまして、本当にありがとうございます。  私は、日本が好むと好まざるとにかかわらず、これから発展途上国型の経済から先進国型の経済に移っていくんじゃなかろうか。当然のことながら市場経済の中で、特に先ほどからいろんな方々がお話しになっておられますように厳しい円高、そして起こり得るかもしれない急速な産業の空洞化というあらしの中でますます日本国有の労働慣行、あるいは制度というのが見直されてくるような時期になっているのではないかと思います。  中川公述人に御意見をお伺いしたいんですが、例えば日本の終身雇用、年功序列、終身雇用というのはちょっとうそがありまして、終身雇用というといわゆる死ぬまで終身だから勤められるのかと思うとどっこいそうはいかないわけで、大体五十歳から五十五歳ぐらいになりますと肩たたきが始まるのが現状ですから、決して終身雇用じゃないんですが、そういうふうなことが日本の労働慣行というふうに言われております。この慣行が変わる可能性が多い。例えば会社に入って、これはアメリカなんかですとしょっちゅう転職をいたします。アメリカでは超エリートというのは三回転職をする人だと言われておりまして、一度も転職をしなかった人はお呼びがなかったわけですからエリートではない。五回も六回も転職する人はやはりやり過ぎだということで、三回か四回が一応はどのよい転職の数というふうに言われております。  企業に対する忠誠心ということにいたしましても、例えば日本で道端で遊んでいる子供をつかまえて、お前のお父さん何をやっているんだいと言うと、うちのおやじは富士通に勤めているとかトヨタに勤めているとか言いますが、アメリカで同じような質問を少年にいたしますと、うちのおやじはエンジニアなんだと、うちのおやじはアカウンタントなんだと、会計士なんだというようなことを言います。というのは、アメリカではきょうはIBMのエンジニアかもしれないが、あしたはGEのエンジニアに軽く普通なるわけでありまして、IBMに勤めているという意味は余りありません。ということになると、職業という、ジョブということがやはり会社単位よりも、極端に言うと職業別労働組合という、アメリカの場合は会社別労働組合よりも、これはもう専門家に申し上げているわけですから釈迦に説法ですが、どうしても職業別労働組合ということになる。  今後、産業の空洞化等々で各企業の企業間の利益の出し方、これはもうさまざまになってくると思いますし、非常にまた従業員の転職の問題も起こってまいりますと、企業別、会社別という日本の労働組合の考え方がまたこれは変わってくる可能性もある。そうなっている場合に、まず産業別に移行して、それから職業別ということになるのか今後の激しく変わる社会経済、そういう中での労働組合のあり方について御意見をお伺いしたいと思います。
  110. 中川宏一

    公述人(中川宏一君) 終身雇用や年功序列の問題は、高度成長期のときにどちらかといえば長期に定着させるため、あるいは若い人たちを我々の言葉で言えばより安く使うために制度的なあれから生まれてきたんだろうと思っております。  ただ、賃金の水準を除けば、どの国でも終身雇用というふうな表現はするかどうかは別としまして、年金年齢になるまでかなりの人がそこの職場で働くという形になっていると思いますね。先生おっしゃるように、超エリートが受け入れられる風土が日本にないといえばそれまでですが、そういう転職が一つの美徳というふうなところまで、私も欧米のあれを十分に知らないので何とも言えませんけれども、ごくごく人間の常識から考えて、次から次へと渡っていくのが果たしてそう生活的に安定しているのかどうかというふうな感じがしているわけです。  したがいまして、日本の終身雇用も実際には官公庁、公務員、あるいは民間の大手のところを主体にして、労働者数としてどのぐらいでしょうか、二割から三割のところがなっていると思います。その上に、中小企業の方も、やはり実際はともかくとして、終身雇用や年功的な形を望んで慣行的にそれが確立してきた経過がございます。そういう意味で、六十歳定年とかあるいは六十歳以下の首切りはだめよというふうな法律が定着するんではないだろうか。本来ならばもっと年齢差別をアメリカのようにしていかなければいけないのかもしれませんが、そういうふうに感じておりますので、終身雇用や年功序列が私はそう簡単に崩れないだろうというふうに感じるわけです。  ただ、現在のそれぞれの企業で行われている年俸制の動きやら、あるいは職能部分をできるだけ比重を高めるというふうなことを考えているように聞いておりますので、そういうことの変化の中でこれからどうなっていくかという問題があると思います。  ただ、今度は中小企業から考えますと、三種の神器というか企業別組合、終身雇用、年功序列を日本はどちらかといえば制度的にそれを保障してきたというふうに言えると思います。安い社宅、あるいは退職金はできるだけ勤続の長い方にカーブさせる、それからいろいろな意味でのフリンジベネフィットがあったわけです。それは大企業だけでして、中小企業の労働者はどちらかといえば政策的な制度での保障しかなかったわけで、公共住宅に入ったりあるいはそういうふうな生命保険に入ったりして自衛してきたということになります。そういう面で、多くの労働者はやはり必ずしも終身雇用や年功序列になっていっていない、実態的には。  というふうに考えますと、会社人間から社会人間へというふうな転換が今日叫ばれているわけですから、むしろ中小企業の労働者がいろいろ悩んでいるあるいは問題にしている政策面の展開の充実こそが一つのかぎではないかなというふうに感じてもいるわけです。なかなかそう簡単にいきませんが。  それからもう一つの労働組合のあり方について、今それぞれの産業別の労働組合は、単に鉄道というふうなだけではなくて、いろいろな労働者層を抱えて、ゼネラルユニオン化というふうに言いますが、一般労働組合化をしております。あるいは管理職についても課長は組合員の範囲にするとかパートをどうするとかいうふうなことで外延的に広げていっているわけです。そういうふうな形になっていますので、大ざっぱに言って労働組合は一番組織的には保守的なところで、ですから一挙に例えば職能組合になるなんということはちょっと考えられないというふうに考えております。  AFL・CIOが統合したときに職能から産業別労働組合へと変わった経過を日本日本状況に合わせた対応をしているというふうに思っているところでありまして、より中小企業に組織率を伸ばしていかないと、日本の今の特殊な大企業、中小企業の労働者のそれぞれ置かれている客観条件の違いが労働組合の考え方あるいは政策等の意見に対して違いが出てくることを非常に危惧しているわけです。そういう意味で、より働く階層に向けての政策提言ができるような労働組合になっていかなければならないというふうに考えておるところでございます。
  111. 寺澤芳男

    ○寺澤芳男君 どうもありがとうございました。
  112. 井上哲夫

    井上哲夫君 新緑風会の井上哲夫でございます。きょうは中川公述人井上公述人、本当にありがとうございます。私の方の与えられた時間はわずか五分でございますので、二つお二人に質問したらもう時間がない。  そこで、井上公述人にお尋ねをいたしたいと思います。  先ほど大変示唆に富む、そして二十一世紀の展望についていろいろとお話をいただいて、私も随分勉強させていただいたと思っておるんですが、これからは国家よりも社会あるいはネットワークといいますか自立した個人がどのように日本の社会を形成していくかそれはしょせん各国の激しい生存競争の中でも最終的にはそういう問題が勝負を決めるんだというお話で、そうなると、一つは私は、例えば日本はこの戦争の直前に源泉徴収制を採用しまして、税金が全部ほとんどの方は勝手に取り上げられてしまって納税者意識が損なわれておるという声もあるわけですね。  今、井上公述人は負担の問題について非常に意味深い御示唆をいただいたわけですが、そういうことは地域社会、自立した個人ということなら、戦時統制経済国家体制を抜け出した今、源泉徴収もやめてもいいんじゃないかというようなことも感じた次第であります。  そこで、きょういただきました本の中でさらに強調いたしたいところがあればおっしゃっていただきたいと思います。よろしくお願いします。
  113. 井上定彦

    公述人井上定彦君) 福祉社会をともに築くためには、同じようにプライバシーを大切にしながら、しかしなおかつ透明な相互のルールが必要だと思います。そのためには、納税者番号であるとかあるいは社会保障番号によるプライバシー保護をきちっと守った上での公正な制度を確立することが新しい時代に必要だと考えております。
  114. 井上哲夫

    井上哲夫君 それじゃ、そのあとこの連合総研の配付をいただいた本の中で、井上公述人が三ページで図表を示されましたが、ここの中のシステム、シナリオの選択のところですね、これについて少しお話を願えませんか。二分少々しか時間はありませんが。
  115. 井上定彦

    公述人井上定彦君) ともに自立し、しかも責任感を持った社会をともに築くというためには、やはり開かれた民主主義という合意形成のルートが非常に大切であります。  そういう点で、下の方の「個人尊重・社会連体型シナリオの選択」というところ、この図表の一番最後でありますが、第一に産業民主主義の確立、これは多元的な拮抗と協調という、それぞれ違った立場でのさまざまな組織の意見を労使対等あるいは消費者あるいは供給者の対等の立場で詰めていく、そういう考え方を強調し、そういう上で初めて社会的負担への合意が立つのではないか、そしてそういう場合の負担の形態というのはさまざまにあるだろう。  そのことも十分国民的な議論と透明性を担保した上で初めて可能になるだろうということでありまして、こういうプロセスを経ないと、恐らく世界一の高齢化社会ということは、いわば世界一の高負担になるわけであります。その高負担を家族の高負担、それとも社会の高負担、それとも国家の高負担、この三つをベストミックスにして組み合わすという重大なシナリオ選択が今我々に迫られてきたわけでありまして、これから議論される高齢者介護の問題はその最も先端を行く重大な課題だと考えております。
  116. 井上哲夫

    井上哲夫君 どうもありがとうございました。
  117. 有働正治

    ○有働正治君 中川公述人にお尋ねいたします。  日本でもリストラによる、雇用の一層の深刻化が予想されている中で、雇用対策をめぐるEU、欧州連合の動きについての見解をお尋ねいたします。  それは一昨年九月、社会労働相理事会で最終採択されましたEU規模企業における従業員に対する情報提供協議を目的とした欧州労使協議会またはこれはかわる手続の設置に関する指令です。私流に説明させていただきますと、加盟国内で少なくとも一千人以上等の従業員を雇用している企業やグループは、生産の移転とか合併、企業や事業所の縮小、閉鎖、大量解雇などについて事前に情報を提供し、労使で協議する労使協議会を二年以内に設置するよう義務づけているようであります。  こうした制度確立は、従業員や地域経済が一方的に犠牲にならないような一つの民主的な方策として示されたのではないかと考えるわけでありますけれども、これについての御見解を。  それから井上公述人、社会保障と財源の関係。  政府は、社会保障の充実という点で消費税を導入され、また昨年は三%を五%にアップされる、同じような理由でございました。この消費税の導入、税率のアップ等について、やむを得ないとお考えなのか、あるいは福祉充実に使われているとお考えになっておられるか。  残り三分でございますので、端的にお願いいたします。
  118. 中川宏一

    公述人(中川宏一君) EUの労使協議のことは我々の方も十分勉強しておりませんけれども、賛成でございます。本来ならば日本は雇用対策法がありますが、大量解雇の制限問題については非常に形骸化をしているわけです。判例で積み上がってきた程度になっていると思います。これを、地域あるいは産業でかなり組織立った展開をする必要があると感じております。  そういう意味では、事業円滑化法についても労使協議を入れていただきましたが、本来ならば業種指定の計画の段階で我々は相談にあずかるべきだというふうに考えているところであります。
  119. 井上定彦

    公述人井上定彦君) 福祉の財源を一体税から支払うべきか、それとも共同の負担としての社会保険からがいいのかという議論がございます。これは、私は十分議論すべきことであって、つまり仮に消費税率を上げることによってそこから出せるとすればそれも一つの方法だと。しかしながら今の国民的な合意は、有働委員のおっしゃるように、なかなか難しい面があるとすれば、今回の介護社会保険というような考え方も非常に有力なものだと思います。問題は、どこまで本当にそれが我々の国民の側にきちっと返ってくるかどうかそこのところについての相互の討議と了解が必要だと思います。
  120. 有働正治

    ○有働正治君 どうもありがとうございました。
  121. 西川潔

    西川潔君 御苦労さまでございます。  私は、まず中川様には、先般二〇二二年から厚生年金の六十五歳支給が決まったわけですけれども、このことは少子化、高齢化のスピードを考えますとやむを得ない措置だというふうに思うわけですけれども、退職から六十五歳までの生活をどうするのかという点について不安です。国は明確な方向性も余り示していないようですから、この点ついてひとつお考えをお聞かせいただきたい。  そして井上様には、介護保険のよき方法などがあれば一点お伺いしたいなというふうに思います。よろしくお願いいたします。
  122. 中川宏一

    公述人(中川宏一君) 六十歳前半層については前国会で非常に争点になって、我々の方はやむを得ず基本的に与野党の御尽力を多としておさめたわけですが、問題は、もう一回財政再計算のときがあります、九九年だったと思いますが。そのときには、基礎年金の引き上げの問題もどういうふうにしていただけるのかということを考えなければなりません。  その兼ね合いで、先ほども年金財政が二十兆とかいうかなり多額なあれになっておりますけれども、実際そういうふうなことでやっていくのがいいのかどうかも含めまして考えなきゃなりません。今のところ、六十歳前半層について九九年のところで我々としてはもう一回見直してもらいたいという気持ちていることは事実ですが、事態がどんどん先行していく経過を踏まえて、これは個々の企業の中での六十歳前半層の雇用促進をどういうふうに進めていくか。既に労働省の方でいろいろ手当てをしていただいているわけですが、継続的な雇用を充実させていくことしかないと思っております。  ただ、我々としては、低賃金の労働者層をたくさんつくることがいいと思っておりません。だから、むしろ逆に言えば、部分的な年金、部分的な就労を通して結果的に年金財政が軽減されるというふうなことを考えているわけです。そういう意味で、我々ももう一度整理をしますが、十分検討しながら今後の対応を考えていきたいというふうに思っております。
  123. 井上定彦

    公述人井上定彦君) 介護保険につきましては、第一にやはり現在の高齢者が必ずしも苦しいというか貧困層ばかりではございません。むしろ豊かな層もございます。やはり高齢者間の同一世代の中の連帯と助け合いというのが一つ、それからやはり半分ぐらいは現役世代の中の世代間の助け合い、こういう哲学でくみ上げていくのがいいのではないか。また、何よりもその実行する主体、自治体の力が問われております。  つまり、自治体の福祉ネットワークをどのように張りめぐらせるか。率直に言って物すごく大きな市町村間の格差が生まれております。これは本当に自治体間の競争だと思います。それとコアになるケアチーム、つまり福祉と医療、両方に目配りのきくそういうケアができるコアみたいな、そういうケースワーカーのチームがその地域の各中学校区にいるわけです。そういう人的な配置がとても大切だと思っております。
  124. 西川潔

    西川潔君 ありがとうございました。
  125. 坂野重信

    委員長坂野重信君) 以上で公述人に対する質疑は終了いたしました。  この際、公述人方々に一言お礼申し上げます。  本日は、長時間にわたり有益な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。(拍手)  次回は来る十三日午前十時に委員会を開会することとし、これをもって公聴会を散会いたします。    午後四時五十一分散会