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武田邦太郎君 文部
大臣にお伺いします。
前回、文部
大臣から、農水省と十分
相談をしながら研究教育をハイレベルにすると、こういう力強い御返事があったわけでありますが、さらにきょうはそれについてやや具体的にお願いをしたい、こういうふうに思います。
農業では、ややもすると特殊性を重んじまして、例えば工業と農業は非常に違うとか、そういうふうに考える人が多いし、それは間違いではないんですけれども、しかしまた、同じ経済行為であり
産業の一部を持つわけでありますから共通のエレメントがたくさんあるわけですね。
ちょうど大蔵
大臣もお見えになりましたので御一緒に聞いていただくとありがたいんですが、お配りしていただきました二枚目のペーパーです。これは農地基盤
整備です。田んぼや畑、果樹園も中に入ると思いますけれども、それをいかにハイレベルにつくり直すかというのが農地基盤
整備ですね。
それで、このペーパーは水田の場合で、圃場の区画が広くなればなるほど生産性が高くなる、こういうことを示した
数字であります。これは年として私の研究所の若い
人たちが農村を歩き回って集めた
数字でございますが、一番上の、圃場区画が十アール、一反歩の場合、十アール当たり
労働時間がどれぐらいかかるかというと百七十時間かかるというんです。
これは主として昭和三十年前後のころの実態でありまして、現在はやや少なくなっているかと思いますけれども、大して変わってはいない。三十年ごろには十アール当たりの生産量が三百キロから三百五十キロでありますから、
労働一時間当たりにしますと一・八キロから二・一キロがそのころの生産性だったわけですね。
その後、圃場区画は広くなりまして。二十アール、三反歩になりました。これも農家の腕によっていろいろでありますけれども、まずまず稲作地帯で米づくりで
生活を立てているという程度の農家でありますと、十アール当たり二十時間から二十五時間でやっております。そして、四百五十キロから五百キロ、腕のいい農家ですと六百キロぐらいとっております。そうしますと、
労働一時間当たりにしますと十八キロから二十五キロとるという
数字になります。これは概数でありますから大体そういうところだと、こういうふうに御了解願いたいと思います。それで、やはり田んぼの大きさが変わったことを一番大きなエレメントとしまして、
労働一時間で十倍あるいはそれ以上生産するということがこれで明らかであります。
今度、緊急農業農村
対策本部の計画では、大体一ヘクタール、一町歩を主としてやろうということになって、大体十三時間のような
数字になっておりますけれども、実際に一ヘクタールでやっている農家を歩いてみますと大体十アール当たり八時間から十時間ぐらいでやっておりまして、収量は五百キロから六百キロぐらいとっております。したがって、
労働一時間にすると五十キロから七十五キロ、これは十アール当たりの時代と比べると雲泥の相違と言ってもいいくらいの
労働生産性の違いがあります。
しかし、これぐらいではまだ国際競争というわけにはいかないんですね。どこまで行けばいいかというと、アメリカやオーストラリアですと何十ヘクタールというような区画がありますけれども、実際はそれほどしなくても、三町歩、三ヘクタールにしますと二、三時間。三時間はかからない。
秋田県の大潟村、八郎潟ですね、あそこのは一・五ヘクタールでありますけれども三時間以下でやっている農家がだんだんおりまして、九俵半、五百七十キロとっている実績がありますから、三町歩になれば一時間当たり百六十六・七キロから三百キロと。二百五十キロぐらいとるようになると大体国際的第一級であります。三百キロになれば恐らくアメリカを凌駕する生産性であります。ですから、日本の稲作が
労働生産性においてアメリカに絶対がなわないということは迷信でありまして、そんなことはありません。
それで、午前中見ていただきましたように、平野部の田んぼが二百万ヘクタールあるわけでありますから、これは全部三ヘクタール区画につくり直すことが可能であります。現在、十アール当たり五百キロ、一ヘクタール五トンでありますから、二百万ヘクタールであればこれは一千万トン。大体日本の国民が今一年間に消費するのは一千万トンでありますから、日本が持っている田んぼの平野部をハイレベルにつくれば最高の生産性をもってお米は国内で完全に自給できる、こういう目安が成り立つわけであります。
ただし、これも申し上げましたが、今、毎年三万ヘクタールから四万ヘクタールずつ減っているんですね。これは重大問題でありまして、何とかして農地が減らないように、日本の国土の利用計画は何回か繰り返しておりますけれども、今度こそは本当に思い切ったレベルの高い国土計画をやりまして、そして今の農地は今後少なくとも三十年、五十年は農業として使うんだと、こういうところの面積あるいは場所を
決定する。
これは
田中内閣の列島改造のとき、私、農業側の
委員でありまして、持ち出して、
田中総理は非常に賛成されて、ああそうだ、永久農地だねと、こう言われたことがありますけれども、その後もどんどん農地が減りました。このあたりで
田中総理のいわゆる永久農地が設定できないのか。
今、五百万ヘクタールちょっとありますが、これを四百七十万まで減らしても、もうこれだけは今後三十年、五十年は農業以外に使わないと、大体今農地がつぶれていくのは、道路、それから新幹線的なもの、それから宅地、特にふえているのはオフィス用地であります。そういうものが最高級の田んぼの中を虫食い状に食い荒らしていく。
こういうことはもう農業だけじゃなくて国の土地の使い方に非常なマイナス要因になりますので、農地というものは今後三十万ヘク減ったらそれ以上は減らさないんだ、そういう国土計画を何とかしてつくってくださいませんと、これは日本の国民の食べ物を、私どもの計算では今、二二%しか内給していないけれども、七五%前後の自給率までは高めることが可能であります。それぐらいやっておりませんと、アメリカから食い物をやらぬぞと言われたらもうおしまいなんですね。
だから、ドゴール大統領が食糧の独立なくして民族の独立なしと、こう言ったのは、現代ではややクラシックでありますけれども、日本にとっては余りに食糧の自給率が低いということは民族の独立に影響することは間違いない、こう言っていいと思います。したがって、農地は今後三十万ヘク以上は減らさない、こういうことを何とかして今度の計画でやっていただきたいと思うのであります。
そういうことで、大蔵
大臣にお願いしたいのは、同じようにお金を使っても、こういうように
労働生産性が何十倍になりましても単収は下がらない。広い面積を一人の人間が余計やったら作業が粗末になって単収が減るだろうというのは間違いでありまして、単収はむしろ増加します。でありますから、これは工業その他に対する設備投資と全く同じでありまして、同じ金額の設備投資をやってどれだけの生産性が高まるのか、これが設備投資をやる場合の一番の問題でありますが、農業にとっての設備投資はこの農地基盤
整備が九割を占めております。
ですから、これをいかに上手に使うかということがこれから先の財政上の一番大事なところでありまして、もちろんこれは大蔵省はその点は十分注目されて、私どもがいい基盤
整備をやっているなというところは大体大蔵省から主計官が行かれまして調べておられます。調べておられますけれども、現実には農水省に遠慮なさって、これは金の使い過ぎじゃないか、こうすればもっと安くて生産が上がるじゃないかという御注意を大蔵省から農水省におやりになったことはまだ聞いたことがありません。ありませんけれども、ここのところは何とかお互いに縦割りをなくして、大蔵省に要求すべきものは断固として要求する、大蔵省の方は文句を言うところは断固としてこれは出せない、こういうふうに言っていただくと非常にありがたいと思うのであります。
そこで、ペーパーにも書いてありましたが、第四次土地改良長期計画はおととしから出発しまして十年間に四十一兆円の
事業費を見込んでおります。これは恐らく今までの例からいえば一五%から二〇%が
地元負担になって、八割から八割強は国が負担する格好になるんじゃないか。これは私、確認しておりませんけれども、多分そうなるんじゃないかと思いますが、そうなると大蔵省としては、三十何兆円のお金を十年間で、平均すれば三兆円ですね。今までの基盤
整備の予算というのは大体年間一兆円くらいであります。それが今度はこれでいくと三兆円になる。そうすると最初の方が一兆円か一兆五千億円で出発したとしても終わりごろは三兆円、四兆円になりかねないわけでありまして、これは財政上非常にやりくりが難しいんじゃないかと、財政は私、素人でありますけれども、想像するのであります。
それが早く進行すればするほど日本の食糧の自給率も高まりますし、まあ話は飛び飛びになりますけれども、一人当たりGNPは世界一なのに国民はその
生活実感がないというのは、最大の問題は食べ物が高いのと土地が高い、したがって住宅が高い、こういうことになるわけでありますから、農業の合理的な運営によりまして食べ物はうんと安くなる、そして土地もうんと安くなります。
でありますから、これは大蔵省としては農水
大臣と十分の御連携をとっていただいて、この農地基盤
整備費を財政事情の許す限りスピードアップして、そして効率の上がらない設備投資はやらない、こういうようにやっていただくと大変ありがたいと思います。
それで、この高度成長期の製造業の跡を振り返ってみますと、大体、私どもの研究仲間が能率協会あたりにおりますけれども、あの時代は従事者一人当たりの年間生産量が十倍以上にならなきゃイノベーションと言わなかったというんですね。十倍、二十倍がざらであって、優等生の鉄と自動車は三十数倍になっちゃったと。これがイノベーションで、しかも品質はよくてコストが安い、これでなけりゃイノベーションではない、こう言ったものでありますけれども、これは私は非常に教訓的だと思いまして、農業に当てはめて考えるとやっぱりこれは全く同じであります、製造業と農業は。
イノベーションによって一人当たり十倍、二十倍、それ以上つくって、そして品質がよくなってコストが下がる、これでなければ農業イノベーションじゃないということをはっきりさせて、それに即して大蔵
大臣の方から設備投資のお金を出していただく、こういうことになると大変ありがたいんでありますけれども、大蔵
大臣、ちょっとお願いできますか。