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参考人(
柏木孝之君) 今、御紹介にあずかりました
文理情報短期大学の
柏木でございます。
専門は、
中小企業論、
経営管理論それから
経営立地論が本来の
専門ですけれ
ども、
経営立地論に基づく
地域開発あるいは
都市計画という
あたりで
中小企業を二十数年にわたりずっと勉強させていただいてまいりました。
本日は、
中小企業の直面する諸問題と対応する方向というふうなことで
課題をいただいていますが、特に一番問題になっていることというのは、
中小企業が急激に減っているという問題だと思います。
なぜ急激に減っているか。ちなみに申しますと、
大田区の
機械工業ということで
大田区だけに限りますと、約九千が七千ぐらいに減っています。極端な例を最初に申し上げましたけれ
ども、そういう形でなぜ減ってきているか。
一番の問題は、
円高とか
不況とかという問題よりは、
むしろ工業とか
商業に共通している問題というのは
後継者の
不足です。ですから、
後継者がすごく減ってきているということで、
むしろ後を継ごうとする
人たちがいない。これは
息子であっても、例えば
企業に入っている人でもそうなんですが、そういう人であっても
創業者の後を継ごうという意欲が非常に少なくなってきているというのが基本的に申し上げますと一番の問題であるというふうに思っております。
なぜ後を継ごうとしないか。
現象的に申しますと、例えば
中小企業の
工場を見ていると、
皆さん方も多分いろいろなところを見ておられると思いますけれ
ども、
両親があれだけ十二時間とか十六時間働いていても、例えば
大田区なり港区の
企業、あるいは
地方の
企業へ行かれても、マシニングセンターとかNCという
数値制御の
機械を入れて一生懸命働いて
努力しているにもかかわらず車一台を維持できないような
状況である。
ということは、もっと言えば
付加価値が上がらないという問題があるわけです。
付加価値が上がらないということは、端的に申しますと粗利、もうけが出ない。ですから、車一台も持たずにホンダの
カブあたりで
部品を運ばなきゃいけないという
状況が
中小零細には極めであるという問題がある。それを見ている
子供たちあるいは
一緒にやっている
人たちは、
おやじの後を継ぎたくないというのが非常に大きい。
特に統計で見ますと、三人以下とかあるいは九人以下というその辺の
クラスですと三〇%ぐらい、ちなみに
東京都のアンケートで申しますと、
東京都の
機械工業で三〇%ぐらいは
後継者がいないという結果が出てきています。これは非常に大きな問題です、三分の一がいないというんですから。
それから、そこにまつわる問題としては何かというと、
一つは
仕事が少ない、
単価が安いという両方の追い打ちをかけられています。なぜ安くなるかというのは、
人件費が若干高いという問題もあるんですが、基本的に申しますと
国際競争の中で
単価が決まってくる
製品が
工業の場合は非常に多うございます。したがって、
国際競争の中で価格決定されたものの
加工ということとかあるいは
平成品づくり、サブアッセというふうに申し上げるんですけれ
ども、サブアセンブリーという
あたりは非常に安くなってきているというふうな問題がある。
そういうことを含めますと、どうしても
息子の方はサラリーマンを志向してしまう。
むしろ一カ月当たり幾らもらえるというふうなものがいいじゃないかと、
おやじがあんな苦労しても難しい、もうおれはあれは継ぎたくないというふうな
意思決定が先ほど申し上げた三分の一あるということです。
ところが一方、
地方を見ますと、
中小企業が徐々に伸びていって比較的
経営者らしい
企業になり得るんですね。例えば、三人とか四人であったのが、割と大手の
量産工場の下請なんかをやりますと二十人、三十人の
工場になってきて、若干社長らしい待遇ができるということで比較的
息子が継承します。
ただ、継承しますけれ
ども、この
円高で、
地方に出ていったのは何かというと
ハイテク量産製品、非常に
技術的に確立された
マスプロ生産、
量産製品が多いわけですね、例えばICにしてもステレオカセットデッキにしてもテレビにしても何にしても、
技術が確立されていますから、その
技術が確立されたものはそのまま
海外へ
生産を移行することが可能であるというものが多い。
単価的に
日本の
労働費よりも他の国々の方が非常に安いという問題ですから、これが下手をすると、この
状況の中では
地方のそういう中
クラスの
企業もかなり揺さぶりをかけられて、後を継ぎたくないというふうなことを言い出しかねないという
状況に今あるということです。
ですから、そういった
意味で、
工業の場合に一番急激に減っている
原因というのは後を継ぐ
人間がいない。
もう
一つは、特に
大都市部でそうなんですけれ
ども、
経営者が比較的
高齢化しているということです。大体戦後に
創業して、昭和三十年代、四十年代に
創業した
人たちが五十代、六十代、ひょっとすると七十代になってきているという
状況で、
後継者不足と
経営者の
高齢化という両面相まってかなり減ってきているという
状況になってきている。これからもその
傾向は続く
可能性があるかなというふうなことを思っております。
一方、
商業の方を見ますと、これも極めて深刻でして、
両親の方は、やっぱり
商店街で、例えば何間の
店構えというふうに
皆さん地方でも
東京でもおっしゃいます。何間の、これだけの
店構えがあるんだからというふうなことをおっしゃいますけれ
ども、これだけの
店構えがあっても人が来なきゃだめなんですね。客が来なかったらどうしようもない。ところが、
両親にしてみればおれは
呉服屋でこれだけの
店構えがあるんだからすごい
財産だと思っているのと、一方
息子はそれは
財産だと思っていない、この
ギャップが一番問題なんですね。
したがって、その
ギャップのことを
本人たちは考えない、しかも
ライフスタイルはモータリゼーション化してきて、それから
買い物自身がまとめ買いになってきた。だから、
商店街に行ってわざわざ
井戸端会議をやってあちこち歩いて
買い物をするんじゃなくて、スーパーに行ってまとめて買ってきちゃう。それで車に乗って週一回しか行かないという
状況が
ライフスタイルとして多くなりました。したがって、
商店街というのは、
両親の方は
店構えと、ところが
息子たちはそういうのは
財産じゃないというふうに思っているという
ギャップで基本的にはそれを継がなくなってきている。これが
商業が減ってきている極めて大きな
原因です。
ですから、もっと言いますと、
郊外の
ショッピングセンターに店を出したところは、例えば
キーテナントがあって、
キーテナント以外の
商店街が
一緒に出たところは比較的そのまま継続的に
息子が継いでいるというふうな
傾向がありますけれ
ども、従来の
商店街のままに居続けているところは、
地方の
商店街をよく見ていただければ、歯抜けの
現象、途中途中がほとんど閉店しているという
状況がかなり出てきていると思います。
ですから、これは意識の差、それから
後継者の方の判断が僕は合っているというふうに思っていますので、こういう
現象もやっぱり続くんだろうというふうに思っています。
じゃ、なぜそういう
中小企業が減ってしまうかというふうなことで、その減る
現象というのは基本的にはこれからも続くだろうというふうに判断した方がいいと思います。なぜ続くかといいますと、
一つは
業態が先ほど申し上げたように変化しているということです。
ですから、ただ単に売るだけじゃなくて、いろんな説明をしたりいろんな形で
提案をしたりするようなものになっていく、あるいは使うもの自体が非常にファッショナブルなものになったりいろんな物の形の考え方がついてきたりというふうなことでいいますと、
業態がかなり変わってきている。ただ単なる
加工だけでは成り立たないというふうなものとか、
商業でも一品だけを売っていてはだめで、
一つの
提案型のものがない限りはだめだということでだんだん衰退して客が来なくなる、あるいは
商店街が変わってきているということで廃業はかなりふえてくるので、これからもさらにふえてくるだろうと。
〔
委員長退席、
理事中曽根弘文君
着席〕
それは、
商業でいえば
ショッピングセンターで
郊外化がさらに進みますから、当然
商店街の方は減ってくるだろうというふうなことがあると思います。
もう
一つ、一番問題なのは、新しく
創業する人、
清成先生風に言いますと
起業ですね、
起業する
人たちが少なくなってきちゃっているという問題があります。新たに業を起こす
人たちが四十年代、五十年代とかなりふえてきたんですが、それが少なくなってきているということが非常に問題だということで、かなりこれも減ってくるだろうと思います。
それから
三つ目としては、やはり先ほど申しました
円高に伴い
ハイテク量産品が
海外に
生産を移行してしまうという問題がありますので、きょうの日経の一面にもありましたように
海外からの
部品調達の方が安くなるというふうな問題もありますので、そういった問題で地元の
企業あるいは
地域の
企業あるいは
大都市の
加工屋さんというのもその分減ってくるだろうという問題があります。
円高よりもっと深刻なのは
不況による減少です。利が乗らない、利益が出ない、やっていてもしょうがないというという
不況の、やっぱり
市場の
経済循環の中での
付加価値がとれないという問題で当然廃業するというふうなことが出てくると思いますので、そういった問題がもう
一つあると思います。
最後に、ちょっとこれはここで論ずるのがどうか問題なんですが、我々が
地方を歩いていて一番問題なのは、従来の
補助金で
補助率のすごく高かった、こんなことを言っては恐縮ですが、
農業機械なんかが極めて疲弊しています。これは北海道あるいは
山形あたりの
農業機械の二十億とか三十億の
企業が非常に疲れています。これは何かといったら、そもそも必要以上の
補助があったためにその
企業の
市場調査が非常にあいまいだったということがあって、その
農業機械とかそれ以外も含めて、
補助金のかなりついた
工業に関しては物すごく疲弊しています。これは結果としてよかったか悪かったかは私は判断できませんが、すごく疲れていることだけは事実である。
それらが多分減ってくるだろうという問題も含めると、どうしてもそれらも含めてこの五つぐらいの問題の中でやっぱりまだまだ
中小企業は減ってくるだろうというふうに言えるかと思います。
じゃ、どう対応するかというふうなことで申しますと、基本的には
工業も
商業も、
空洞化という問題というのは我々
日本経済を戦後生きてきた者の中でいいますとこれは成長のあかしであって、当然
経済原理からして
空洞化してくるのはしょうがない。そうすると、それをどう乗り越えるかというのを考えなきゃいけない。考えない
企業は廃業するだろうし、減るだろうし、衰退するだろう。これは前提と踏まえた中でどういう
努力をしていくかというのがかなり重要であると思います。
努力をしている
企業は基本的にはまだまだ生き残っているし、
帯広あたりでも、非常に労働集約的なものが一部
内需拡大型の
電子部品産業を含めて、一部
手加工を入れた中で安くつくるというふうな
生産システムをつくって、そういう形で生き延びているというふうなのがあったり、あるいは山口の
小野田あたりへ行っても
真空技術を使いながら残ったりというふうなことで、例えば
帯広で先ほど申し上げた
農業機械の
市場限界があるんですけれ
ども、そういう
市場限界を突破するような
企業というものが必ず出てくるということです。
ですから、もっと言いますと、大体
建設業とか
農業機械なんていうのは
市場限界を突破できませんが、それを突破するような
企業がかなり出てくるというふうなことで、そういう
企業は
育成すると。
それから、ぜひ
ベンチャー企業をふやしてほしい。ということは、
ハイテク量産品が
海外生産へ移行すると
ベンチャーとか
研究開発型企業をかなり伸ばさなきゃいけないということでいいますと、その
技術が、昔私が十年前に歩いたときには
大田区には十ぐらい五十億なり百億になりそうな
企業があった。だけれ
ども、今歩くと二
企業とか三
企業しかないというふうなことで、そういうふうな
企業が減ってきているということが非常に問題なんで、
ベンチャi企業をふやすような
仕組みをどうつくっていくかというのをぜひ
日本国全体として考えていきたいというふうに思います。
それから三番目は、やはり新しく業を起こす
創業者をふやしたいというふうに思います。それには
金融の問題がかなり問題でして、基本的には土地を
担保にしか金を借さないという
金融システムがどうしてもずっと続きます。
技術を
担保に金を貸さない。これが多分
創業をすごく少なくしている
原因だと思います。ですから、そういう
金融システムに対しても何らかの形でそういうふうなことが
担保されるような形、
技術あるいは
人間を
担保にできるというふうな
仕組みをつくっていただくと、もっともっと
創業がふえて
日本経済が
中小企業から刺激を与えながら活性化していくんじゃないかというふうに学んだ学問の中では思っております。
以上です。