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参考人(
富山洋子君)
富山洋子でございます。
本円は、当
委員会で
意見を述べさせていただく
機会を与えられましたことを感謝いたします。私は、今まで述べられたお二方とは違った観点から
規制緩和について
意見を述べさせていただきます。
現在進められている
規制緩和政策に対しまして、
規制緩和さえやれば
国民生活は向上し、
経済は活性化され、
経済摩擦は解決し、
日本の
経済社会にとってすべてよしと、マスコミ、
経済界あるいは学者の
方々がはやされております。その
推進に水を差すような発言、例えば
日本消費者連盟などで
規制緩和によって私たちの暮らしの安全性や命にかかわる問題はどうなるのかなとというような発言をいたしますと、
消費者のニーズにこたえていない
消費者団体などとマスコミに書かれたりします。でも私は、本日与えられました
機会に
規制緩和がすべてよいのか、あえて疑問を呈したいと存じます。
大胆な
規制緩和の必要性を時の
細川首相に答申した
経済改革研究会、いわゆる
平岩研究会の中間報告には、
規制緩和は
経済社会の一部には短期的な苦痛を与えるとそのデ
メリットに
一言触れてはいますが、
規制緩和政策を進めるに当たって、そのデ
メリットについての評価あるいは詳細な議論を避けて通ってこられたという感があります。
確かに、現在の
公的規制のあり方に大いに問題があるということは私も認めます。
行政が握っている強力な
許認可権は、政官財の癒着の構造を生み出す温床になっているととらえています。しかし、その癒着の構造が現在進められている
規制緩和で氷解するとは思えません。そして、
経済社会の仕組みを公正に保つためには必要とされる
規制があると考えています。
市場の原理だけでは、公害、環境汚染、過疎過密、人権、福祉、高齢化問題、貧困などは解決できないでしょう。
日本消費者連盟では、食の自給と安全を目指す基本法制定のための全国行動という運動の一端を担っていますが、その基本法の試案には、食のあるべき姿は自給と安全及び
価格の安定であるとし、
市場の原理だけではそれらを全うすることはできないとうたっています。
規制緩和の一環として食管法を
廃止し、いわゆる新
食糧法がこの十一月をめどに制定されようとしていますが、この法律には食の安全保障として最も重要な食の自給と安全が担保されていません。
このたびの
規制緩和を
推進する第一の目的として
国民生活の質の向上を目指すことが挙げられていますが、
市場の原理、
自己責任原則が強く打ち出された
規制緩和の
推進が私たちの生活を真に豊かにする決め手とは考えられません。また、自己責任だけを
消費者に求められても、単独の
消費者の力が及ばないところがございます。安全を求める
消費者の権利として適切な
社会的
規制が望まれます。
これから具体的な事例を挙げながら、
経済的規制、
社会的
規制にかかわる
意見を述べさせていただきます。
経済的規制については、既得権を得ている
企業の権益が温存され、
新規参入が不可能な
状況のみが強調されていますが、
企業活動の公正さを保つ観点からは、資本力で優位に立っている
企業が
市場を独占していかないような仕組みが大切なことは言うまでもありません。独占禁止法がまさにその考えに立っております。
経済改革研究会の報告が現在進めている
規制緩和の効果を上げるためにという立場からであるとしても、独占禁止法の運用強化を挙げているのは注目に値しますが、持ち株会社の禁止条項を外せというような
意見も財界にある
状況ですから、独禁法そのものが骨抜きにされないことを求めます。
アメリカ
政府からも
日本における
規制緩和を強く求められています。そのアメリカは、七〇年代後半から
規制緩和を進めています。この結果、アメリカの
社会経済はどのように変貌したのでしょうか。もちろんアメリカと
日本は
社会経済的にも地の利においても条件が違いますのでアメリカの
状況をそのまま
日本に当てはめることはできません。しかし、そこから学ぶべきことはあると思います。
アメリカの
規制緩和は、まず航空業界から始められました。一九七八年、カーター大統領は航空自由法にサインする際に次のように述べたといいます。すべての人々がこの法案がもたらす健全な競争によってサービス、
価格といった面で恩恵を受けるでしょう。大都市だけではなく小さな都市、村も航空
産業の伸長によって恩恵を受けるでしょう。
消費者と航空業界にとってこの法案は偉大な一歩となります。しかし、カーター大統領がスピーチで述べた内容とは全く違った事態になったのです。
まず、恩恵をこうむるはずだった小さな都市は、逆に運航が打ち切られ、交通手段を失いました。航空自由法を進めたスタッフの一人、ポール・デンプシー氏の
調査によれば、最初の一年で七十の小都市が路線を完全に失い、次の一年でその数は百以上にふえたといいます。
規制緩和以前は路線の撤退については航空
委員会が公共性の観点から厳しく取り締まっていたのが、全く自由化されたため、航空会社は利益を出さない路線を次々に放棄したのです。一九八七年までに交通手段を失った小都市の数は百四十三になるといいます。
さらに、航空会社の間ですさまじい競争が展開され、その結果、航空業界の寡占化が進められました。当時、
規制緩和はビジネスチャンスを広げ、新たに航空業に
参入する者にとって大きな
メリットになると考えられていましたが、
新規に
参入した航空会社は数年ではたばたと倒産しました。確かに最初の二、三年はうまくいったようですが、次第に競争が激化し、各航空会社は利益が出ないところまでチケットの値段を下げ、互いののどをかき切るような、カットスロートと言うようですけれども、破壊的競争に突入しました。
この破壊的な競争の勝敗を決したのはコンピューター・リザベーション・
システム、CRSと、フリークエント・フライヤー・プログラム、FFPという、大
企業がとったこのような手段でした。何よりも
新規航空会社が太刀打ちできなかったのはFFP、つまり飛行距離を貯金のようにしてためていき、ただのチケットと交換するというサービスでした。顧客は当然のことながらより多くの路線、国際線を持っている大手航空会社のFFPに入りたがりました。九二年までの時点で破産を宣告された航空会社は百十七に上ると言われます。
規制緩和がなされた七八年には航空会社は二十八社でした。ですから、いかに多くの
新規参入した航空会社が脱落したかがわかります。
規制緩和のうたい文句として
規制緩和が広げるニュービジネスにはだれでも参加できることが強調されていますが、アメリカの航空会社の経験は、ビジネスは
新規参入者にではなく
既存の大手
企業にとって広がったことを物語っています。寡占が進行しているのが雄弁な証拠です。一九七八年に六八・八%だった大手五社の
市場占有率は九二年までに七九・七%まで上がり、大手十社で見ると、七八年には八八・九%だったのが九二年一月の時点で九九・七%に上昇しています。さらに、破産した航空会社の従業員の生活の破綻、存続してはいるものの総費削減のための労働強化などを見逃すことはできません。
では、
消費者にとってはどうだったのでしょうか。
規制緩和後の二年間で運賃は一挙に二六%下がったとはいいます。しかし、寡占に伴って運賃の下げ幅は低くなり、ついには上昇傾向に転じています。
規制緩和以前十年を見ると、運賃は平均二・七%の割合で下がっていましたので、一九七八年から八八年の十年では下げ率は一・九%で、
規制緩和直後の値下がりも
もとに戻ってしまったわけです。そして、割引なしの正規運賃、つまり当日の乗車運賃で見ると、
規制緩和後、ウナギ登りになっています。
消費者にとって深刻なのは、安全性にかかわることです。
規制緩和と安全性の問題について、ある学者は、
規制によって安全が保障されるわけではない、逆に
規制緩和をすれば安全が損なわれるという証拠もない、激しく競争している
企業は安全には特に留意するものである、なぜなら安全でないと思われたが最後、競争に勝ち残れる可能性はないと述べておられますが、
市場の原理に任せていては安全性が阻害される例をアメリカの航空会社USエアに見ることができます。
米国第五位のUSエアは、七八年の運賃路線の
規制撤廃によってもたらされた大競争を規模の拡大の
メリットで勝ち抜くために二社を合併しました。そして、その後のことですが、それまで死亡事故を起こしたことのなかったUSエアは立て続けに事故を起こすようになってしまいました。ニューヨーク・タイムズ紙は、精力的な
調査の結果、頻発する事故は競争の激化による経営不安、経営削減のための安全面のチェックの簡素化、訓練体系の違う航空会社の合併による混乱が
原因と発表しました。この報道は他のメディアも取り上げ、この結果、USエアはキャンセルが続出、株価も暴落、十億ドルの赤字を抱えて危機に立っています。確かにUSエアは淘汰されようとしています。しかし、事故によって死亡した二百三十二人の命は返ってきません。安全でないと判断されるまでに多くの犠牲を払わねばならなかったことを忘れてはならないと思います。
市場の原理が強調されていく
状況の中では、
自己責任原則だけでは命や健康は守れないんです。
市場の原理は
地域格差をも広げていきます。その例を
日本における航空業で見ていきます。
一九九四年六月、航空審議会は、
日本国内の航空業について運賃、路線、雇用の三点で
規制緩和の
方向を打ち出しました。その結果、予想される離島路線などの総営問題については、不採算路線は休
廃止もやむを得ないと答申しました。
規制緩和を進めようとしている人たちは、不採算の航空路線は
廃止してもやがて小規模なコミューター会社が生まれてその
地域の規模に合った交通手段が生まれるだろうというふうに観測していましたが、それは絵そらごとにすぎないことがわかりました。既に鹿児島と沖縄の離島路線ではコミューター会社による経営が十一年ぐらい前から行われているんですけれども、その結果、運賃はウナギ登りになっています。そして、離島から離島への移動が非常に困難になっております。
ちなみに申しますと、例えば喜界島には総合病院がないんですけれども、そこから名瀬市の病院に行くための運賃がかつての二千九百八十円から六千五百円ぐらいに上がったと言われています。それから、東京などに来ている方が帰省するために往復する運賃が三十万円ぐらいに上ってしまうと言われています。そして、そこの人たちがこのコミューターを利用するしかほかに交通手段がないということを考えるべきだと思います。この間、都市間の運賃は多少、少々ではありますが下がっています。
このように
規制緩和は
地域格差を広げる面があるということを十分に肝に銘じたいというふうに思っております。離島振興法には、島民生活の
利便性を向上させるため交通の確保、充実には特別の配慮をするように書いてあることを航空審議会の
委員の
方々に思い出していただきたいと思います。離島の
方々は、交通手段を失ったばかりでなく、離島の
産業も衰退しています。例えば、花を出荷されている農家への打撃が大きい、それによって
地域の
産業も総体的に衰退している、そのような
状況がございます。
社会的
規制についても
規制緩和が進められようとしていますが、安全や環境の保全の見地から行われる
規制についても最小限の範囲、内容にとどめるとしています。しかし、
市場の原理により
輸入拡大が進められている今こそ安全面や環境に与える負荷などを考えて
規制を厳しくしなければならない面があると考えます。
一九九四年六月にまとまった石油審議会の中間答申により、九六年から石油製品の
輸入の自由化が決まりました。石油製品には有害物質が含まれています。その中でガソリンに含まれているベンゼンは発がん性が指摘されており、
米国が大気浄化法で九五年一月より一部
地域で含有率一%を打ち出すなど厳しい措置がとられています。
日本では、審議の過税でその
規制が危ぶまれていましたが、それは「
消費者リポート」の九百十五号を御参照ください。昨年十二月に出された答申では五%以下に抑えるということが示されました。
日本におけるある石油会社のガソリンのベンゼンの含有率は一%に抑えられているといいますが、
規制は五%にとどまりました。これにはいろいろな理由があるとは存じますが、ガソリンから抜いたベンゼンはいろいろ
市場に出回っているんですが、ガソリンからベンゼンを多く抜くとベンゼンの市況が下がるというような理由も挙げられているというふうに言われています。聞くところによりますと、
国会である
国会議員の方の質問により環境庁がいずれ三%以下に抑えるということを約束したということですが、早急に厳しい
基準が望まれます。そうでなければ、石油製品の
輸入の自由化の中で、ベンゼンの含有率の高いガソリンが
日本に入ってくる可能性があります。
食料も
輸入拡大が目指されていますが、食料関連の
基準につきましても
規制緩和が進められています。例えば農薬の新しい残留
基準です。今までは
原則禁止であったポストハーベスト処理を認める、ADI、一日摂取許容量が設定できないとされている発がん物質、発がん性があるというふうに指摘されている農業の残留
基準も決める、
基準値を大幅に
緩和する、そのような
規制が進められているわけです。また、日付表示が製造年月日から期限表示にこの四月から移行されました。これらの措置はガット・ウルグアイ・ラウンドを引き継ぐWTO協定の受け皿づくりにほかならないと考えますが、グローバル化が進む今こそ、命や健康を大切にするという
視点に立った厳しい
基準が求められます。
食品衛生法の改定に当たっては、農薬の使用についてネガティブリストからポジティブリストに移行させるべきと
消費者団体は主張してきましたが、入れられませんでした。しかし、衆参両院の附帯決議では、ポジテイブリスト制の導入を検討することが挙げられています。これはささやかな一歩前進だとは評価しますが、早くポジティブリストを採用されることを望んでおります日
また、食品添加物の指定につきましては、国際機関における安全性の評価を踏まえ進めるとして、指定の手続の迅速化、
透明化などして要請があった場合には速やかに食品衛生
調査会に諮問するなど迅速な手続をとるとされています。つまり、国際機関の評価に従って安全
基準を速やかに決めるということですが、食料の貿易拡大を目指すWTOの
もとではその
基準は低きにつくおそれがあり、現在三百四十八種指定されている合成添加物がさらに増加する可能性があります。私どもは、健康を守るという観点から食品添加物がこれ以上ふえることには反対しています。
食品衛生
調査会の審議に用いた資料については公表をするとされていますが、私どもは審議の過程から
消費者の意思が十分に反映されるような仕組みをつくるべきだと主張しております。
先ほど申しましたように、政財官の癒着の温床の構造を生み出すような
規制緩和にはメスを入れるべきだというふうに考えております。
規制緩和をすべて反対しているわけではありません。しかし、
行政手続の
透明化が担保されるためには情報の公開が必須の要件です。私たちは国における真の情報公開法を望んでいます。
いろいろ申し上げたいことはあります。宅地の、土地にかかわる
規制緩和につきましても、やはり長い目で住民の
視点に立った観点から、
行政と住民ともに町づくりをするという、言うなれば
地域主権の
もとでその
基準が決められるべきだというふうに考えております。聞くところによりますと、建設省は、今自治体において検討されております容積率などにつきまして、
緩和するようにというふうに指導をされると聞いております、
公正な
社会、中央と
地方、中小と大手、弱者と強者、金持ちと貧困、そのような二極分化しない
社会こそが民主主義の土台であると考えております。私どもは、このようなことが担保される真に公正な
社会の
制度づくりのために、それこそ
消費者も財界もそして官庁も力を合わせでそのような
政治づくりこそ目指していくことだと考えます。
やみくもな
規制緩和には賛成しかねます。しかし、すべてに反対するわけではない。私たちにとって本当に必要な
規制緩和は何であるべきか、そして
規制緩和とともに
規制強化も進められるべきだというふうに考えております。今は述べております時間がございませんが、アメリカのPURPA法はこれについて多くの示唆を与えていると考えます。
ありがとうございました。