○宮内公述人 ただいま御紹介にあずかりました宮内でございます。本日は、行政改革の諸問題につきまして考え方を述べさせていただく
機会を与えていただきまして、まことにありがとうございます。
実は、国会の場で行政改革について
意見を述べさせていただくのは二回目でございまして、一昨年、
平成五年の十月に、当院の規制緩和に関する特別
委員会におきまして、規制緩和につきまして、
経済界の考えや取り組みなどを御説明させていただきました。
その後、細川、羽田両内閣から現在の村山内閣に至るまで、歴代の内閣は規制緩和に重点的に取り組む姿勢を示されており、この間、約一千百項目に上る規制緩和策が政府より打ち出されております。また、政府では、三月末までに向こう五年を期間とする規制緩和のアクションプログラムを策定することとしておりますので、規制緩和は順調に進んでいるようにも見えます。
しかしながら、これまで取りまとめられました規制緩和策の中には、陸上と海上で別になっていたオットセイの猟獲許可を一本化し、猟獲報告の廃止と合わせて都合二件の許認可件数を
削減したといったような、何ら実効性がない、単なる数合わせ的なものも少なくありません。
また、私自身、政府の行政改革推進本部の下に置かれました規制緩和検討
委員会に参加させていただいておりますが、規制緩和をめぐる
議論には際限がなく、いまだに、ためにする反対論もやむことのない状況にございます。
そこで、本日は、行政改革の諸問題の中から、まず規制緩和に重点を置いて御説明させていただき、さらに、
地方分権や特殊法人等の問題について触れさせていただきたいと存じます。
規制緩和の最大の意義、目的は、これまでの官主導、中央集権型の国家システムを転換し、
国民や民間企業を中心とした新たな市民
社会を構築することにあります。
政治の世界では、戦後長らく続いてきたいわゆる五五年体制が崩壊したと言われますが、
経済、
社会の
分野では、戦時中や戦後復興期に形成された体制、すなわち官が民間企業の活動や
国民生活の隅々までを統制、管理するいわゆる四〇年体制が、基本的には続いております。
例えば、現在、規制緩和検討
委員会で検討している項目の中でも、
保険業法、
昭和十四年、食糧管理法、
昭和十七年、食品衛生法、
昭和二十二年、証券取引法、
昭和二十三年、古物営業法、
昭和二十四年など、極めて古い法律によるものが多くあります。
食管法はさきの臨時国会で廃止が決まり、本年秋より新食糧法に衣がえすることになっておりますが、それ以外の多くの法律は、小手先の変更はされても、基本的枠組みはそのまま残っております。その結果、
一つの例でございますが、盗品が横行したやみ市の時代を背景につくられ、また私どものようなリース業の展開など予想もしていない時代につくられた古物営業法が、中古品の円滑な売買やリース業の
障害となり、現在急務となっておりますリサイクルの進展を妨げるようなことも起こっております。
二十一世紀を展望した今、このような規制による官の統制、管理から
国民、企業を解放し、独禁法等の公正競争確保のためのルールと自己
責任原則とを基本として、
国民、企業が、公開された情報をもとに行動を選択するという新たな時代を創造していくことが求められております。同時に、景気低迷が続く中で、
経済改革による内需主導型の景気回復をもたらすため、また、将来の
日本経済の推進力ともなり得る新規事業、新規産業を創造するため、今こそ、大胆な規制緩和を実行すべき時期に来ていると存じます。
しかし、規制緩和を妨げる問題の
一つに、
議論が具体化すればするほど、総論賛成、各論反対、このような傾向が強くなることがあります。
規制緩和によって
消費者の選択の幅が拡大すること、あるいは利便性が向上することは、
国民に大きなプラスになります。内外価格差が縮小して、商品、
サービスの価格が下がれば、それだけ実質所得が向上することにもなります。事実、一月十五日に総理府が発表した物価問題に関する世論
調査では、六六%の
国民が商品の低価格化を歓迎しており、規制緩和の
効果としての内外価格差の縮減に対する
国民の期待は大きなものがあると考えております。
しかし、問題は、規制緩和を求める一般
国民の声が政治を動かすほど広範に結集されにくい一方で、各論反対の声は少数ながらも極めて声高なことです。政府規制で守られ、既得権を持つ人
たちにとっては、規制緩和が進めば死活問題にもなりかねず、強力な反対運動を展開しております。
このような中で規制緩和を進めていくためには、政治が規制緩和を進める原理原則を確立し、強いリーダーシップを発揮して、聖域を設けることなく、各種の規制に原則を当てはめていくことではないかと考えております。
この原理原則とは、言い古されたことではありますが、第三次行革審の最終答申や
経済改革研究会、いわゆる平岩研究会の規制緩和報告にあるとおり、
経済的規制については原則自由、例外規制とすることであります。
具体的には、各種業法等に基づく需給調整の
観点から行われている参入規制や設備規制、あるいは輸入規制、価格規制を早期に廃止することであります。
例えば、需給調整の
観点から行われている参入規制は、現在、酒、米、たばこの小売販売や電気通信等の
分野で行われております。
第二は、設備等の新増設規制であり、需給調整を目的とする銀行等の店舗規制や、バス、タクシー事業における台数規制、あるいは中小小売業者の事業
機会の確保との名目で行われている大店法の規制などがこれに当たります。
これらは、スケジュールを決め、早期に廃止すべきであり、同時に、必要な構造改善対策や
雇用対策等は重点的に講じていくべきであると考えます。
第三の規制は、たばこの小売価格や生産者、
消費者米価、電気・ガス料金や鉄道、航空運賃等の価格規制であります。
公共料金など、すべて自由化するということはできませんが、何らかの規制を行うとしても、規制の方法としては、幅価格制とか上限価格制を導入すべきであると考えます。
輸入規制としては、乳製品、でん粉等の輸入数量制限品目、米、麦等の国家貿易品目、さらには特定石油製品輸入暫定措置法によるガソリン、灯油等への規制がございます。
輸入数量制限品目については、ガット・ウルグアイ・ラウンド農業合意に伴い、九五年四月一日をもって関税割り当て
制度に移行する予定であり、特定石油製品輸入暫定措置法については、九六年三月末をもって廃止されることになっておりますが、これらについては、関税水準の引き下げや登録要件の緩和を通じ、確実に輸入や新規参入の促進を図るべきであると考えております。
他方、
社会的規制については、自己
責任を原則に必要最小限とせねばなりません。
社会経済環境は時代とともに
変化し、技術も日進月歩で進んでいるわけですから、不断の見直しが必要となります。
経済的規制と
社会的規制についてこのような方針を確立し、政治が
責任を持って規制緩和策を具体化していくことが不可欠であります。
同時に、規制緩和を進めていくための最も重要なかぎは、
国民や企業の自己
責任原則の確立てあります。これまで何か事故などが発生すると、すぐに
国民が行政の監督
責任を追及し、マスコミもこれに追随する傾向が強く、これが官庁に民間活動へ介入する口実を与えてまいりました。今後は、安易な行政依存体質を正していくことが求められます。
要するに、行政は、例えば災害時の緊急時においても、硬直的になったり縦割りとなることなく、
国民の側に立って真に行わねばならないことを
責任を持って実施すべきであり、民間にゆだねるべきことは思い切って任せていくことであります。そのためには、
経済界としても企業行動の見直しや自己
責任原則の徹底を図りながら、痛み覚悟で規制緩和に取り組んでいくことを決意しております。何とぞ御理解のほどをお願い申し上げたいと思います。
しかしながら、冒頭に申し上げましたとおり、最近の政府の取り組み姿勢から、私どもでは、三月末までとされる政府の規制緩和五カ年計画の取りまとめ作業が難航するのではないかと非常に懸念しております。
例えば、政府では、内閣総理大臣の指示ということで、去る一月十八日に「各省庁の所管行政に係る規制の見直し状況(中間取りまとめ)」を公表いたしました。ここでは、五カ年計画で規制緩和を予定している項目は約五百事項であるとしておりながら、公表されました資料に明らかにされた具体的な規制緩和事項は百十六項目にすぎず、五百項目の全体像は、五カ年計画を検討している規制緩和検討
委員会にさえ示されておりません。
また、昨年十二月二十五日の閣議決定では、今回の規制緩和五カ年計画では、既に閣議決定した規制緩和策に盛り込まれながら実施の時期や内容が明確でないものはその具体化を図るとともに、新規事項も積極的に盛り込むとしております。
しかし、「中間取りまとめ」で公表されました百十六項目の中でも、二十四項目が依然「時期未定のもの」に分類されております。また、規制緩和検討
委員会で検討している事項についても、各省庁は、今はその時期ではないとゼロ回答に終始しており、このような閣議決定違反まがいのことが公然とまかり通るようでは、今回の五カ年計画の取りまとめ作業の行方についても悲観的にならざるを得ません。
規制緩和検討
委員会として、二月中にまとめる報告書を簡潔でめり張りのきいたものにするよう全力を挙げたいと考えておりますが、報告書の原案に対する
委員の不満は強く、明朝開催されます最終取りまとめの会合がどうなるか、予断を許さない状況にあるかと考えております。
さらに、報告書がまとまっても、これが政府の作業にどこまで反映されるか不安であります。少なくとも、規制緩和検討
委員会の中で
委員の
意見が一致したこと、民間から多く出されている要望事項については、ぜひとも政府の施策に盛り込んでいただきたいと存じております。
立法府の皆様には、あらゆる場面を活用して、ぜひとも行政府の作業を監視していただきたく、よろしくお願い申し上げます。
なお、規制緩和検討
委員会で検討した項目は、内外から寄せられました要望の中の極めて限られたものであり、今年度中に取りまとめられる政府の五カ年計画からは積み残しとなるものも少なくないかと存じております。したがいまして、本年四月以降の課題は、これらをどう政府の施策に盛り込み、五カ年計画の充実を図っていくかであります。
そのため、規制緩和検討
委員会では、規制緩和を検討するための常設機関を行政改革推進本部の下に設置すべきことを提案する
方向で
議論しております。
御案内のとおり、政府における行政改革の推進体制は、実行機関と監視機関の二本立てとなっております。すなわち、内閣に設置された、総理を本部長とする行政改革推進本部が規制緩和五カ年計画や
地方分権大綱の策定などの行政改革の諸方策を立案、実施するとともに、行政改革
委員会が政府の施策の実施状況を監視し、
意見具申等を行うこととなっております。
この二本立ての組織は、第三次行革審、平岩研究会等での、規制緩和等行政改革は
議論の段階は過ぎ、今は実行の段階になっている、したがって、総理が陣頭に立って政府の
責任において行革を実行すべきであり、そのための本部と、それを外部から強力に監視する第三者機関を設置することが適当との問題意識によるものであります。
したがって、規制緩和を実行すること、すなわち規制緩和の五カ年計画を内容のあるものとすること、さらに、改定、新規項目の追加等で内容の充実を図ることは、一義的には実行機関である行政改革推進本部の役割であり、ここに民間の
意見を反映させるため、引き続き行政改革推進本部のもとに、民間人を入れた検討組織、例えば規制緩和部会のようなものを設置していただきたいと存じております。
なお、行政改革
委員会があるからこのような組織は必要ないとの
意見もあるようです。もちろん、行政改革
委員会がみずからの問題意識で規制緩和問題を検討し、
意見具申を行うことはまことに結構なことであり、ぜひ積極的に取り組んでいただきたいと考えております。
しかしながら、先ほど申し上げましたとおり、規制緩和を実行するのは一義的には政府の役割であり、総理を先頭に内閣が
責任を持って規制緩和を計画的、継続的に推進すべきであります。その作業を第三者機関に全面的にゆだねるのは政府としての
責任放棄ではないかと存じております。
次に、
地方分権の問題について申し上げます。
昭和五十六年の土光臨調発足以来、
地方分権は、規制緩和と並ぶ行政改革の二本柱として位置づけられてまいりました。しかしながら、
地方の時代が喧伝されながら、抜本的な
地方分権は遅々として進んでこなかったというのが実感であります。幸い、一昨年六月に衆参両院において
地方分権の推進に関する決議がなされて以来、長年の課題でありました
地方分権についても、ようやくその機運が高まっております。
昨年十二月には
地方分権大綱が閣議決定され、それに基づき、
地方分権推進法案が二月末ごろまでに国会に提出されると承っており、私どもとしては、その内容に注目するとともに大いに期待しているところでございます。
〔
委員長退席、三野
委員長代理着席〕
地方分権推進法案の内容で特に私どもとして関心を持っておりますのが、この法律に基づき設置される
地方分権推進
委員会の権限や機能であります。
地方分権推進
委員会に勧告権のような強い権限が付与されるのか、あるいは独立の事務局を持つようになるのか、
地方分権大綱では必ずしも明確にならなかった事項であり、ぜひともこれらの点につきまして、立法府の皆様に厳しい監視をお願いしたいと存じます。
次に、中央省庁の再編や特殊法人の問題につきまして、
意見を申し上げさせていただきたいと存じます。
まず、中央省庁の再編問題につきましては、第一に取り組むべきことは、中央省庁が果たすべき役割を明確にすることではないかと存じております。すなわち、官から民へ、国から
地方へとの改革理念に基づき、規制緩和と
地方分権を徹底的に進めること、あるいは法令に根拠を持たない不透明な行政指導を一切禁止すること等により、中央省庁のスリム化を図ることであり、これこそ行政改革のかなめであると存じます。
第三次行革審の最終答申では、中央省庁を六省庁に太くくりに再編したイメージを提示しておりますが、この最終答申自身が指摘しているとおり、現行のままで中央省庁の再編を進めれば、超巨大省庁ができてしまい、今以上に省内の縦割りがひどくなると存じます。
繰り返しになりますが、国がまずもって取り組むべきことは、規制緩和と
地方分権の徹底であり、これを官僚任せにするのではなく、政治がリーダーシップを発揮して重点的に取り組むべきであると考えております。立法府の皆様には、余りにも肥大化した官僚組織の機能を政治の手に取り戻し、政治主導の政策決定を実現していただきたいと存じます。そのために、国会の各種
委員会の積極的活用や、政府
委員答弁制の制限なども検討していただきたいと存じます。なお、昨年夏に与党三党が合意した公務員の一括採用については、縦割り行政是正の
観点からも、ぜひ進めていただきたいと存じます。
また、今回の震災への対応にも明らかなとおり、内閣の情報機能、政策調整機能を強化することが急務であり、このためには、何よりも総理の政治的リーダーシップが発揮されることが不可欠であると存じます。
最後に、特殊法人の問題でありますが、特殊法人は特定の政策目的の実現のために設置されているものであり、その改革のためには、まずその背景にある政策の是非についての
議論が不可欠であります。例えば経団連が昨年十一月にまとめました規制緩和要望の中でも、価格規制の見直しの一環として、乳製品、砂糖等の農産物の価格支持
制度の見直しなど特殊法人に関連する問題を指摘しております。
また、特殊法人を考える上で、公的金融
制度の
あり方全体について総合的な検討をすることがぜひとも不可欠であります。郵貯、簡保、
年金資金といった入り口から、個々の政府系金融機関という出口まで、公的金融システム全体の
あり方についての総点検が必要であり、そうでなければ、幾ら個別の特殊法人を論じても単なる数合わせ的な改革に終わってしまうと存じます。
特に、郵便貯金、簡易
保険については、臨調、行革審の場で、官業は民間事業の補完に徹するべきことが明確に打ち出されましたが、いまだに抜本的改革への着手がなされたとは言いがたい状況であります。郵便貯金の残高が、昨年十月未で百九十一兆円と、
個人預貯金の三分の一に達しているなど、公的金融の
規模は、市場原理に基づく金融自由化の進展を阻害しかねないところまで肥大化しております。
零細な庶民の貯蓄手段として郵貯、簡保が重要な
意味を持っていることは事実であります。しかし、今やその役割の
重要性は薄れつつあります。郵貯については、長期貯蓄性と流動性をあわせ持つ定額貯金の商品性見直しを早急に行うとともに、目標期間を定めて、市場原理に基づいた金融システムを阻害しないまでの範囲にそのシェアを引き下げていくか、さもなければ分割・民営化を図るべきであり、簡保についても、少なくとも現在以上の
規模拡大、商品保
サービスの拡充は回避するなど、民業の補完という本来の役割に徹することが必要であると考えます。
また、このような入り口の拡大に伴い、
財政投融資の
規模も、
平成七年度
財政投融資計画では四十兆二千四百一億円、四十兆円を超えようとしており、政策金融が真に必要な
分野を逸脱して自己肥大化し、民業の圧迫ともなっております。戦後の
経済発展の中で、各
分野の政策金融が果たしてきました役割は高く評価すべきであっても、
経済社会の一層の発展のためには、金融市場においても市場原理を貫徹していくことが求められている中で、第二の
予算と化した巨大な
財政投融資の
あり方について抜本的な見直しが不可欠な時期でございます。
この際、公的金融システムについて、入り口から出口までを徹底的に見直すべきであり、我が国全体の中で公的金融が果たすべき役割を明確に限定し、それに基づいて個々の特殊法人の役割を見直していくことが結局は最も効率的な検討になるのではないかと存じます。また、各政策金融機関を初めとした特殊法人について、その関連組織をも含めてディスクロージャーを徹底し、
国民の前に実態を明らかにするように立法府の持つ機能をフルに発揮していただきたいと存じます。
二月十日に取りまとめられる特殊法人の見直しは、統合などにとどまるとの報道がなされておりますが、これはあくまでも第一歩であり、特殊法人改革を一過性の取り組みに終わらせるべきではありません。なお、七日の新聞報道では、財投や特殊法人の抜本的見直しのために、総理の私的諮問機関を設置されるとのことでありますが、このような重大な問題は、権限の不明瞭な諮問機関ではなく、ぜひとも総理を本部長とする行政改革推進本部において、政治の
責任で腰を据えてこの問題に取り組んでいただきたいと存じます。立法府の皆様にも政府の監視を心からお願いいたしたいと存じます。
以上、規制緩和を中心に行政改革をめぐる課題につきまして、若干私見を交えましてお話し申し上げました。
以上で終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。(拍手)