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角田参考人 御指名をいただきました
角田と申します。
私は稲と稲作の研究に携わって四十年ほどになりますが、二十五年くらい前からは、国が主宰をいたします米の
検査規格、
流通、銘柄等に関する研究会にも参加をさせていただいております。それらの会への
出席を通じまして常々感じておりますことは、米のポストハーベストに対して我が国の
措置が極めて綿密であって、しかも、時代の流れや要求に沿っていこう、そうした
努力が明らかにうかがわれることでございます。時には、国がここまでかかわりを持たなくとも、そう思う面もございますが、
主要食糧である
米麦に対しこれほどきめ細かな
措置が講じられている国は数少ないのではないか、そのように思っております。
米を
主食とするアジアの国々を旅をいたしまして、米の売り場をのぞいてみましても、売られている米の素性はほとんどわかりません。箱やおけにばら積みされたお米に、単位重量当たりの
価格、例えば中国ですと、戸当たり何元といったような値段が示されているにすぎません。原材料の
内容が克明に記載をされ、きれいに包装された日本のお米に比べて、大変大きな違いを感じております。
顧みますと、国としての農産物
検査が行われるようになりましてから既に五十年余りになりますけれ
ども、それによって産米の
改善、
信頼による
流通取引、
一定品質の
米麦供給といった所期の目的を十分に果たしてきているように思います。
一
消費者の
立場から申しますと、常に素性の明らかな米が供給されることによりまして、毎日口にしている米に対して絶対の安心感を持つとともに、
品質や
価格について客観的なよりどころが示されている、そうした点に大きなメリットを感じます。
さて、このたびの
検査法の
改正ですが、近年における
生産、
流通、
消費をめぐる諸情勢の
変化、
品質や
安定供給に対する国民の関心の高まり、それに新
食糧法の
制定など、
米麦をめぐる諸情勢の推移を考え合わせますと、今回の
改正は時宜にかなった
措置ではないかと思います。
以下、改革案の幾つかの部分及び
関連する事柄についてコメントさせていただきたいと思います。
第一は、
任意検査導入の問題です。そのうち
計画外流通米に対する
任意検査については、
計画外流通米もまた
計画流通米と同じように
消費されることから
義務検査にしたらどうか、こういうような考え方もあろうかと思いますが、新
食糧法における
計画外流通米の位置づけとその
内容、それに
義務検査に及ぼす業務的影響などを考え合わせますと、やはり
任意検査とするのが現実的な選択ではないか、そのように思っております。
ただ、
流通業者が介在をして大量に
流通するものについてはやはりできるだけ受検することが望ましいと思いまして、そのためにはやはりそうした雰囲気といいますか、環境づくりが必要になってくるのではないかと考えます。
また、
流通段階での
任意検査の導入についても、
米流通が多様化していること、
品質に対する
ニーズが高まっていること、米の備蓄
制度の導入、それらを考え合わせますと、適当な
措置ではないかと思われます。
第二は、
成分検査の問題です。
まず、麦について考えてみますと、麦、特に小麦の場合には、米の場合とは違いまして、食糧用のほとんどが製粉用として使われております。原料小麦の粉質によって粉としての製品が異なり、さらにその粉質の違いによってパン用、めん用、菓子用など用途が大きく変わってまいります。その際、麦の粒質、粉質、そして用途に大きなかかわりを持つのが原料小麦のたんぱく質含量です。わずか二、三%の違いが用途にまで大きな影響を及ぼしてまいります。そのほか、麦についてはでん粉の構成
成分であるアミロースの含量等も
食味や製めん歩どまりに非常に
関係があるとされております。
したがいまして、世界的に見て、小麦の大
産地であり、また輸出国でもあるアメリカ、カナダ、オーストラリアといった国々では、既にこれらの
成分についての
検査が行われ、その結果が活用されているのが現状かと思います。したがって、小麦についてはその
成分検査というものは、用途を決め、
検討する上で大きなよりどころとなり得るものと思われます。
一方、米についての
成分検査は、専ら
食味を意識した
措置ではないかと思います。
これまで米の
食味にかかわる理化学的要因といたしましては、たんぱく質を初めアミロース、脂肪酸、カリウム、マグネシウムといった微量
成分の含有量、それに炊飯、つまり炊いたお米の諸特性など、数多くの要因が挙げられております。
しかし、
検査の
実施に当たりまして、今後こうした数多くの要因についてすべての値を明らかにすることは、時間的にも、また経費的にもかなり難しいのではないか、そういうぐあいに思われます。したがって、数多くの項目の中からどういう項目に絞って
検査を進めたらよいのか、これは一つの問題ではないかと思います。
さらに、考えてみますと、最終的に米の
食味を決めるものはやはり人間の感覚そのものではないかと思います。それは、見た目、香り、舌ざわり、歯ざわり、風味、そういった感覚要素が総合されたものであろうかと思います。したがって、そこにはかなりの個人差というものも見られるかと思います。米の理化学的特性というものがこうした人間の
食味感覚にかかわりを持っていることは確かでございますが、それらの値が
食味感覚のすべてではないという点をやはり心しておくべき必要があろうかと思います。したがいまして、
成分検査結果の取り扱い、例えば
精米の任意
表示等に利用される場合には、それらの値が過大
評価されないよう十分意を用いてほしいと思います。
なお、米の
食味に関してつけ加えさせていただきたいことは、毎年発行されている資料に「米の
食味ランキング」というものがございます。これは毎年、日本穀物検定協会から公表されるものでございまして、
全国の
産地、
品種、銘柄を
対象として、特A、A、A'、Bといったランクづけがなされております。非常に経験豊かで舌の確かなパネラーによる
食味テストでございますので、その結果はかなり
信頼性が高いものと考えてよいかと思います。
既に米の
流通取引の世界では、こうしたランキングの結果が有効に利用されている、そのように思いますけれ
ども、一般の
消費者にとってはこうした資料があることさえ知らないのがほとんどではないか、そのように思われます。今後は、こうした
食味ランキングの結果が何らかの形で
精米販売の段階でも有効に活用されてほしいと思っております。
第三は、
精米の
表示にも
関連する米の類別の問題です。
現在、
販売用の
精米については、
品種区分や原料構成を明記することが義務づけられておりますが、具体的には原料米の類別区分とその構成割合が示されております。しかし、この類という言葉は、一般
消費者にとってはなじみの薄い言葉でして、どこまでその
内容を理解しているかという点についてはいささか疑問に思います。
もともと類別区分の設定というものは、
政府買い入れ米に銘柄格差を導入するための
措置であり、具体的には自主
流通米としての
流通実績そのものが類別の判定
基準にされてまいりました。こうした類別格差の導入による良質米の奨励効果は明らかでございまして、自主
流通米の出回り比率は年々高まり、現在その比率は
政府管理米の六ないし七割にも及んでいるのが現状かと思います。
こうした実勢を踏まえまして、新
食糧法では、
計画流通米のうち、
政府米は主として備蓄用、自主
流通米が
流通のほとんどを占めるといった方向が示されております。そうなると、これまで
政府米について格付されてきた類別区分というものをそのまま自主
流通米にも適用し、一〇〇%自主
流通米を原料とする
精米についても類別によってその構成を
表示をするというやり方には問題があろうかと思います。
事実、自主
流通米の
取引では、二類が一類よりも高い
価格で
取引をされているケースも見られますし、また、先ほどの穀物検定協会の
食味ランキングを見ましても、三類、四類でありながら一類、二類と変わらない
評価を受けている
産地、
品種もございます。さらには、
産地、
品種、銘柄についてかなりの関心と知識を持ち合わせている
消費者の方々もふえてまいりました。
こうした諸事情を含めて考えてみますと、今後は、
精米の必要
表示に当たりましては、類別区分を用いるよりも、むしろ端的に、
産地、
品種、
産年、そしてその構成割合を示す方がより
消費者の理解を得やすいのではないかというぐあいに考えております。
そして、今後、新
食糧法のもとでは、
流通の多様化、弾力化、広域化というものが図られようとしておりますが、これらを考えますと、改めて類別区分の
見直しを含めながら、
精米の
表示には
全国的な統一
基準が設けられるのが望ましいかと思います。
第四は、輸入米の問題です。
これから年とともに増加していくであろう輸入米の
品質、
価格、
安全性等については、国産米に準じた
措置が講ぜられていくものと思われますが、
消費者にとってやはり一番大きな関心は、というよりは懸念されるのは、
安全性の問題です。
検査法とは直接かかわりのない問題かもしれませんが、ぜひ他の諸機関とも連携を密にされ、
安全性の
確保には行き届いた
対応と
措置を
お願いしたいと思います。
なお、輸入
精米の
表示については、国産米のようなきめ細かな
表示は望みませんが、
品質や
安全性の面から見て、産出国とともに産出年はぜひ併記していただきたい、そのように考えております。
第五は、農産物
検査業務の
効率化の問題です。
かつては、食糧事務所の定員や
検査官の数が行政的にもかなり問題になったというぐあいに伺っておりますが、最近の資料を拝見しますと、昭和四十二年当時に比べ平成五年現在では、食糧事務所の定員数で四〇%、
検査官数で二六%と、大幅に減少をいたしております。
この理由としては、玄米のばら
検査、抽出
検査の比率が増大をしたこと、
検査場所数の減少が図られたこと、それに、食糧
検査官のOBを食糧
検査士という名で補助業務に登用したこと、それらのことが挙げられまして、
検査業務の
合理化、
効率化に対する国の
努力はそれなりに高く
評価されてよいかと思います。
今後も、こうした
合理化、
効率化のための
対応をさらに強化してほしいと思いますが、
検査そのものにつきましても、より科学的な手法を取り入れるなどして、
改善を図ってほしいと思います。
以上、私なりに気づいた幾つかの点を取り上げ、コメントいたしましたが、
最後に一言つけ加えさせていただきたいと思います。
農産物
検査にかかわる業務というのは、一見大変地味でして、縁の下の力持ち的な仕事というぐあいに感じます。しかし、その役割は大変貴重でして、
生産、
流通、
消費の三者を
信頼という糸で結ぶ大切な鎖ではないかと思っています。それだけに、
検査法の
改正を討議するこの
委員会におかれましても、将来の日本の米の姿を十分に展望されまして、
生産、
流通、
消費、三者の
立場を公平にとらえた総合的な視野から
検討を重ねていただければ幸いかと存じます。
以上で
意見の発表を終わらせていただきます。(拍手)