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関本参考人 きょう私が出てまいりました
立場は、
経団連の副
会長ということと
日本電気の
会長ということでございます。ここにおられる
先生方には
大変お世話になっておりますことをこの
機会をかり
冒頭厚く
お礼を申し上げたいと思います。
ということと、私が今から申し上げることは、例えば
経団連では
意見が必ずしも一致しているとは言いがたい問題であります。それだけ
円高の
要因であるとか
対策であるとか、それぞれの
企業がそれぞれの
立場でいろいろ
検討をし、一生懸命頑張っている、この姿があるわけでありまして、いろいろな角度からの
検討を進めておるということを申し上げ、きょうの私の
発表はその中の
一つである、こういうふうに御
理解賜りたいと思います。
まず
冒頭に、昨年七月のナポリ・サミットにおける
蔵相会議におきまして
特別声明が
口頭で
発表されました。その内容は御高承のとおりでありますが、次のとおりであります。
各国は最近の急激な
ドル安を懸念している、
市場の
投機的な思惑を否定し、
各国の
ファンダメンタルズを反映した相場となるよう
協調介入を
中心に
各国が緊密に連携して
措置をとるべきであることということが
蔵相会議の中での
口頭での
発表であります。
しかし、その後の
為替は
ファンダメンタルズを残念ながら無視した
動きをしております。特に今月に入ってからの
円レートの
動きは異常でありまして、一週間のうちに七円強の
円高となっております。これは
資料一を
ごらんになれば明らかでございます。本当にあっという間にこの三月の三日あたりからだあっと落ちまして、落ちたというか円が高くなったわけであります。しかも、
東京外国為替市場では一日でほぼ二百億
ドルの
売買が動いているわけであります。この問題については後でちょっと触れたいと思います。
最近の過度の
円高は、主なる
要因としては、何といっても
日本に大幅な
貿易黒字があるから
円高は必至である、あるいは
円高によって
黒字は縮小されるはずであるのでその結果が出るまでは
円高が進むというようなことで円が買い進められておるということでもあります。もちろん一面、
メキシコ経済の問題というようなことも
ドル安の中には含まれていることはあるわけでありますが、
日本における
基本的なそういう円の買い進めは今言った理由が主としてあるわけであります。
しかし、この十年余りを見た場合にこの説には私は疑問を抱かざるを得ない。それは
資料二を見ていただきたいと思います。
アメリカの
貿易赤字というのは、この絵にありますように、これは
米国の商務省の統計でありますが、全体の
赤字は八五年九月のG5
プラザ合意以後縮小しまして、九一年には六百六十七億まで縮小しました。しかし、その後再び
拡大いたしまして、八八年の千百八十五、九四年の千五百十一、こういうふうに、
ドルが安くなったにかかわらずふえております。しかし、対日ということについて言うならば八五年以来ほとんど
変化がなかった。しかも最近においては、九一年以後は急激な
円高、ここにある百二十七円の
平均値、それが百十一円になり、百二円になっております。それに対して四百九十六億
ドルの
赤字が五百九十四億
ドルの
赤字になり、六百五十七億
ドルの
赤字、こういうふうに
反対の相関になっておるわけです。
この
原因は、私は前からこういうことを申しておりまして、「G5から一年」という題で、八六年の九月二十三日、朝日
新聞で目下公人さんと
大場財務官と
座談会をしました。そのときに明確に指摘したわけであります。
円高の成果は出ないのではないか、それは弱くなる一方の
ドルで表示することも
原因であるけれども、
日本と
アメリカの文化が違う、文明が違うところに問題があるような気がする、
アメリカは
ソフトウエア社会であり、
日本は完熟した
工業社会なんだ、
為替の
調整で
貿易は均衡しにくい、約十年前に私はそう予言したわけであります。
基本は
日米は
協力し合っているんだ、補完し合っているんだ、助け合っているんだ、これが
ポイントであります。これは、例えば
資料の三を
ごらんになれば、ここに
日本の
輸出の
構造が、九三年でありますが、
輸出総額が千五十四億
ドルのうち、
米国でほとんど生産していない
製品、
VTR、ファクス、
ビデオカメラなどが百四十二億
ドルあります。それから
資本財、これが、
ICとか
工作機械でありますが六百二十三億
ドル、約六〇%がいわゆる
資本財なのであります。ここのところが
基本的な
ポイントであります。
これは少し古い話でありますが、
VTRなどにつきましては、一九八三年から五年間に百六十九億
ドルの
VTRがハードとして
日本から
アメリカに
輸出されました。一方では、
アメリカで百八十二億
ドルの
VTRソフトの
市場が生まれました。だから、百六十九億
ドル輸出しておりますが、
アメリカの中では
ソフトとしては百八十二億
ドルの
市場が生まれたというようなこともこの面から言えるわけであります。すなわち、これをマクロで見ますと、今私が申しましたように
資料三がそのことの一端を示しておるわけであります。
それから次に、今度は
資料四、五というのを参照していただきたいと思います。今私が言いましたような
アメリカでほとんど生産していない
製品、ファクシミリとか
VTRとか
ビデオカメラとかというものは、
円表示をいたしますと九〇年ぐらいをピークにして多少落ちてきております。この問題は、ある意味においては実は
NIES諸国、特に
韓国との
競争力の問題であります。
アメリカではつくっておらないのです、しかし
韓国はだんだんと
高級品をつくり始めてきておる、これが我々にこういう
影響を与えております。しかし
ドル表示、弱い
ドルで表示する限りは百三十八が百四十二になり百四十三、ほぼ
横ばいであります。量は減っております。しかし弱い
ドルで表示しているのですからこれだけ、余り減らないということであります。
それが、
資料の五を
ごらんになっていただきたいと思います。
資料の五は今度は対米の
資本財であります。
ICだとか
精密機械だとかロボットとか等々、それはこういうふうに九二年、九三年、六・八兆円というようなところで
横ばいになっておるわけであります。やはりあちらは必要なわけです。それだけの数量は要るわけであります。
円表示においてはほぼ
横ばい、しかし
ドル表示になりますとまことに百億
ドル近い
赤字がふえるという、ここに問題の本質があるわけであります。こういう点からいきまして、
日米の
貿易の
インバランスという
数字は、決して
日本が不合理なことをしているんじゃない、
押しつけ等をしているんではない、これはむしろ
アメリカの
社会に、
産業界にあるいは個人の生活、それに
貢献をしているんだ、こういう自信を持って私は
基本的には
対応すべきであるというのが私の
意見であります。
しかし、じゃ五百億
ドルを超える
黒字があるならばそれをどうするのかという問題であります。私は、これは
貿易外というところにおいて、すなわち観光等々の
数字が今上がっております。
経常収支ベースで議論すべきである、これが
一つであります。二番目は、やはり
経常収支でも現在
黒字になっております。それをいかに
世界に還元するかということが私は大変重要な
ポイントだろうと思います。
現在でもODAは九二年で百十一億
ドルという、これは絶対値としては
世界一の
数字になっております。絶対値としては
世界一であります。ただ、
GNP比が〇・三%でありまして、国連などで言われておる〇・七%を目指そうやというその
数字からいえばなお半分であります。だから、これは我々の許された範囲の中で逐次この
数字を上げていくべきだ、これが
一つてあります。
それと二番目に、やはり
先進国との
国際協力の問題であります。例えば
日米欧、あるいはロシア、カナダとかまで含めたそういう
先進国との
国際協力問題、これは例えば宇宙基地問題であるとか、これは二、三年前に衆議院で全員が賛成されました
熱核融合の
実験炉の開発の問題とか、そういうようなところにやはりもっと
お金を私は出していくべきではないか、そのための
予算措置ということをやるべきじゃないか。そういう形の中で
黒字還元というようなことをはっきりと打ち出して、
世界に我々は
輸出でもって
貢献しているのみならず、そこで出た
黒字をもって
貢献するんだ、こういう態度を私は明確に出していくべきではないかというのが
基本的な問題であります。
そもそも、それでは
為替レートは何で決まるのかという問題であります。これは幾つかの
要因があるんです。これはそのときそのとき違います。私もこの十年間、
為替レートの
変化をずっと見てまいりました。そのときそのとき違うんです。
貿易の
収支が大して問題にならないときと大変問題になるときがあります。一方では政治不安であります。いわゆる中近東で問題が起こったというようなときは強い
アメリカということの中で
ドルが買い進められるわけであります。あるいはもちろん
内外の
金利差、
米国の
金利高、
日本の
金利安のような形の中で
ドル高あるいは
円安の
要因になるようなときもありました。また
反対のときもありました。確かに
内外の
金利差も
一つの
要因であります。とともに、今言いました
貿易の
インバランス、
日本の
黒字が大きいんだよということを
原因にした、そういう思い込みの中で
為替の
売買が行われるというときもあります。今まさにそれが
中心になっていると思います。とともに、もちろん
ファンダメンタルズ、
経済の
基盤的条件、
経済成長、インフレ、
金利あるいは
貿易インバランス等々のそういう
ファンダメンタルズということが注目されるときもあるのです。したがいまして、
要因というのは今言った四つ、五つあるわけでありますが、必ずしも
ファンダメンタルズだけで動いているんじゃないというところに問題があるわけであります。
そこで、
資料の六を
ごらんになっていただきたいと思います。
資料の六というのは、これは一九九三年の
東京の
外国為替市場の
出来高ということであります。四兆二百億
ドルでありましたが、
貿易の
取引は、この下にも書いてありますように、
輸出が三千五百十三、輸入が二千九十八、両方合わせて約五千五百億
ドルであります。あるいは
貿易外の
収支あるいは
長期資本収支、この辺を合わせますと一兆五百五億
ドルなんです。ということは、二六%の値はこういう実需ですね、実際の
取引で
お金をかえよう、輸入したあるいは
輸出した、
お金をかえようというようなところで起こっておるわけですが、残りの七四%はまさに
投機とか
介入というようなことで行われているというのがこの
データであります。しかもこの
データは、いわゆる
出来高は
ブローカー経由の
取引しか含まれておりませんで、銀行間の直接の
取引等々を含めるとこの
数字は大変大きくなるということであります。
私は、第一図で、この三月の初めの一週間に
平均二百億
ドルずつの
取引がありましたと申し上げました。大体
ワーキング日を二百日といたしますと、二百倍すると約四兆ですね。だから大体これに合うわけなんですね。約四兆というものが確かに年に動いております。しかし、そのうちの約三兆は実は
投機、
介入であります。
それが何を目的に、何をトレンドとしてやるか。現在は
貿易の
黒字がある、それが減らないというような形の中で今行われている。
テレビに絵が出ます
ディーラー、若い
ディーラーがこう指を出したり、コンピューターを扱っております。あの
ディーラーが本当に何のためにあのオペレーションをやっているか。
日本の
円高によって
日本の
貿易の
インバランスをというようなことでやっているわけじゃありません。もうけるか損するかです。もうけるためにどうすればいいか。売る方がいいのか買う方がいいのか。要するに、
変化があるところに利益が出るわけです。そのかわり損をしている人もいるのです。だから、ゼロ・サム・ゲームであります。しかし、一生懸命それをやっておる。
これによって一番問題なのは、そこで決定された
為替レートで我々のような
製造業、今近藤さんからもお話がありました
中小企業、これが努力の積み重ねをして得た外貨があっという間に減ってしまうことであります。例えば、わかりやすく言えば、一億
ドルというものを当社が商売したといたします。百円ならば百億円です。それが九十円になりました。九十億円なんですね。十億円というものがあっという間になくなるのですね。この厳しさということは、本当に我々
製造業、殊に
輸出業にとって大変な問題だということを御
理解賜りたいわけであります。
そういうことの中で、今もお話がありましたが、回復に向かっている国内景気に実は冷や水を浴びせかけているというような問題もあります。さらに、この
円高を放置すればさらに
空洞化が進んでいくという問題もあります。まさに雇用問題であります。私は、政の
基本は雇用問題だと日ごろから言っております。幾ら
経済的な
数字がよくても、雇用がどんどんどんどん悪くなることは決していい
社会ではない。政の
基本は雇用問題の解決だという点からいえば、まさにこの
円高問題の解決というものが大変重要な問題だと指摘したいと思います。
特に、
日本の
製造業を支えてきたのは
中小企業であります。
中小企業とともに我々もまた大きくなってきまして、
中小企業の持っているすぐれた技術というものが
日本の国の
製造業の
発展に大きく寄与したということは間違いもない事実であります。大
企業ならば
海外に進出していく、これも可能でありますが、
中小企業の
立場に立ったら仕事がなくなるということであります。この辺のところを私は指摘して、今近藤さんがおっしゃったような意味での
対策を本当に打っていただきたい。
基本的には、我々が望むのは
ファンダメンタルズを反映した適正な
為替水準に安定することを望むわけでありますのでは、そのためにはどうあるべきか。これは最後のプレゼンテーションになるわけでありますが、まずG7がリーダーシップを発揮して新たな
為替制度の
確立に向けて努力をしていくべきではないか、こういうことであります。
戦後の通貨制度の枠組みの中で、ブレトンウッズ体制というのが昨年七月で五十年たったわけです。その前半の二十六年間は固定相場制、残りの二十五年が変動相場制でありましたが、現在は
ファンダメンタルズをあらわさない相場にあります。ある意味では、この変動相場制が成功したとは言いがたいわけであります。
昨年のブレトンウッズ改革
委員会がまとめた報告書では、緩やかな変動幅を持った相場圏の創設や
為替監視機構の設置によって通貨安定を図る構想がブレトンウッズ改革
委員会からも出たわけであります。
昨年の七月のナポリ・サミットの
経済宣言では、
五十年前、ブレトン・ウッズにおいて、理想あふれる指導者たちは、我々の国に二世代にわたり自由と繁栄をもたらした諸機関の設立を開始した。彼らの努力は二つの偉大な、そして普遍的な原則−民主主義と開かれた
市場−に立脚するものであった。二十一世紀に近づきつつある現在、我々は、これらの機関を再生し再
活性化するとともに、
世界じゅうに新たに登場しつつある
市場経済を指向する民主主義国家の統合という課題に取り組む責任を自覚している。という宣言がありまして、それを果たすために、
我々の国を含む
世界の諸国民の繁栄と福利の増進のために、二十一世紀の
世界経済がよい職と
経済成長と
貿易の
拡大をもたらすことをいかにして確保できるか。
二十一世紀におけるこれらの課題に対処するためにどのような機関の枠組みが必要であるのか。我々は人々の将来の繁栄と安全を確保するため、いかにして既存の機関を適応させ、新たな機関をつくることができるのか。「既存の機関を適応させ、新たな機関をつくることができるのか。」とまで書かれております。しかし、残念ながら、ここで
為替の安定を目指すということの明言はなかったわけであります。その中の一部には入っていると思います。
こういうような意味で、緩やかな変動相場圏構想の実現にはもちろん多くの問題があると思います。値をどうすべきかとか
変化をどうすべきか、これも
一つあります。
二番目に、欧州においては一九七九年に、
各国通貨はいわゆるERM、
為替調整メカニズムによって一定の中でとどまっておりました。
中心レートからの乖離率がプラス・マイナス二・二五%。イギリスとスペインが六・五でありました。ところが、七九年から続いたその制度が九二年七月のドイツの公定歩合で崩壊したというか、その幅が大きくなって一五%になりました。しかし、ある期間においては、それはある意味において有効に働きました。
三番目に申し上げたいのは、マーストリヒト条約というのがあって、これで一九九八年、これはもうギブアップだとこの間も言っております。大体一九九九年をターゲットにして欧州の通貨統合に努力しようと言っておる時代であります。そうなってくると、当然EUの通貨が二〇〇〇年のいつかには統合されるわけであります。その方向に行きつつあるわけであります。したがって、
ドルとあるいはまた円が何かの形でそういうことに対しての準備をすることは私はあっていいのではないかな。
とともに、例えば小国ではありますがアルゼンチンが、九一年四月に一ペソが一
ドルの固定相場にいたしました。兌換法を
実施いたしました。それによって、九〇年の二二四四%のインフレが九一年には六四%になり、九二年には一七・五%になり、九三年には七・三%と一応減って、大変いい
状況になっています。また別の意味で
海外の準備金が減ってきているという問題はあります。
ともかく私は、この
機会に変動相場制というのが至上、最善の選択ではないということを認識して、この際、これらの今までの経験を生かして、ある意味での目標相場圏への模索、これは模索であります。私は今ここでどうあるべきかと言うだけの知識はありません。模索すべきではないか。これが
一つ。
それから、円の
国際化への努力あるいは円建て契約の推進、それから
ドルからマルクヘのシフト、外貨準備なども
ドルからマルクヘ多少はシフトしていくというようなこと。
最後に、今やまさに一
ドルが百円という時代になっておるわけでありますから、二、三年前に景気回復のために私が申し上げましたいわゆるデノミ問題であります。一
ドルが新しい一円という形へ持っていったときに、〇・九新円ということはあるいは起こらなかったかもしれない。これは私の二年前の
一つの予測であります。
以上であります。どうもありがとうございました。