○
松田参考人 おはようございます。
松田でございます。
今回の
兵庫県
南部地震では、
活断層が動いて
大震災となりました。このようないわゆる直下の
地震というのは本当に未曾有の
大震災でしたけれども、実は、
活断層が動いてその直上で
被害の出た
地震というのは決してまれではない。
明治以後だけでも、濃
尾地震以来、今回のように
地表で
断層が動いたのが観察された例だけでも八つもございます。百年足らずの間にそのくらいありますので、
平均しますと十年か十五年に一度はこういうことが起こっていたわけであります。ただ、真上に近代的な都市があったという点で、今までの例とは違っていたわけであります。きょうは、その
活断層のことをお話しして、御
参考になれば幸いと思います。
ちょっと
地震のことから御説明いたしますけれども、御存じのように、
地震というのは
断層というものから起こります。
断層というのは
岩盤の中にあります境目みたいなものでして、二つの部分が接している。そこで、その両側の
岩盤が
ずれ動いたとき、そのときの
地響きが
地震であります。その
ずれ動いた面のことを
断層と言っております。本当は
断層面というものなんですけれども、その面を省略して
断層と言っております。
面ですから、それが
地表まで届きますと
地表面との
交線になりますので、線になります。それで私
たち、よく
断層、
断層と言っていますけれども、今申しましたように実は面である。だけれども、その面の位置を示すときには、
地表との
交線、線を一本書きまして、これが
断層だと言っております。実はそういうわけで、その線のところから
地下に
断層面が延びている、そういう関係にあるわけであります。それで、
断層の長さと申しますと、それはその
断層面の差し渡しみたいなものですけれども、便宜上は、それが
地表を切っているときの
地図の上でのその線の長さを
断層の長さと申しております。
それで、
一つの
地震、ある
地震が起こった場合に、それに関与した
断層の
ずれた面、その面の大きさはさまざまです。本当に小さな
地震の場合には小さな
範囲が少し動いただけ、大
地震の場合には広い
範囲で大きく
ずれた、そのときの
地響きで、その
地響きを発生した
断層面の大きさと
ずれの大きさによって
地震の大きさが決まるというわけです。
ごく大ざっぱに言いますと、
マグニチュード八、濃
尾地震がそうでしたけれども、そういうものでは、長さが八十キロとか百キロ前後、それから
奥行きというか深さ
方向には十キロとか二十キロとか、そういったスケールです。ですから、
マグニチュード八ですと、百キロ掛ける数十キロ、そういう
範囲の
岩石がお互いに
ずれ動くというわけです。
マグニチュード七でも大
被害地震になります。今回も
マグニチュード七・二でしたけれども、そうですと、普通は長さが二、三十キロの
範囲で、
奥行きの方も二十キロぐらいですか、そこで一、
ニメートル岩盤がすれ違うと、
マグニチュード七と言われるような
エネルギーが出てくるというわけです。今回も
マグニチュード七・二で、長さが三十キロとか五十キロ、
ずれた量が一
メートルとか
ニメートルと推定されますけれども、そういう
意味では大体標準的な
地震だったわけであります。
それで、今お話ししたのは
断層のお話です。
断層一般の話ですけれども、その中で
活断層という、活という
言葉がついた
断層がございます。
日本には広い
意味で
断層というものはもう至るところに無数にあります。その中には、
地質学者である私から見てもずっと過去に動いただけで、最近では、地質学的な
意味でもう全然動いていない、まるで死んでしまった、将来のことを考えるときにはもう考えなくてもいいというような死んでしまった
断層もあります。
実はその方が多いと思いますけれども、そういう死んでしまった
断層に対して、広い
意味でいえば、現在も生きている
断層がある。つまり、割に最近の過去に繰り返し
活動しておりまして、したがってこれから先も同じ
調子でまた
活動するんじゃないか、
活動というのは先ほどの
ずれ動くことですけれども、そう思わせる、そういう
証拠を持った
断層もあります。そういうものは今後も動くかもしれないと考えられるわけですから、
活断層、生きている
断層だ、今おとなしくてもそれは実は生きているんだという
意味で、そういうのを
活断層と呼んでいるわけです。
この
活断層という
言葉は、何か最近よく言われるようになりましたけれども、実は、我々の
仲間では一九二〇年代に、ですからもう今から七十年以上も前にアメリカから輸入されたもののようですね。
アクティブフォールト、
アクティブというのを活というふうに訳したわけです。しかし、一九六〇年代、今から三十年前になって
日本の
地震予知計画というのが立てられまして、そのとき、
予知に有効な
調査項目の
一つとして
活断層を
調査するという
項目が載ったわけであります。ちょうど私もそのころ
地震研究所に勤めておりまして、私の専門に近いものですから、結局、そういう
地震予知計画の
一つとして
活断層の
調査に携わってきましたし、そういう
世の中の動きに応じて
活断層の
調査が進んできたわけであります。三十年も前から我々の
仲間では進めてきたわけであります。
一九七〇年代になりますと、十年ぐらい
たちまして
世の中でも
活断層という
言葉が、
言葉というか内容が問題になりました。例えば、
原子力発電所の安全問題だとか、一九七四年の
伊豆半島沖地震で
活断層が動いてということを新聞が報道したりしましたもので、
活断層というのは何だということでちょっと
世の中の注目を浴びまして、それで我々
活断層をやっていた者が、
余り連絡が悪くてもいけないというので
連絡をとり合って
活断層研究会というものをつくりました。
それで、
全国の
活断層を一定の基準で、カタログのようだ、
戸籍簿みたいなものをつくろうというわけで、七〇年代の後半から数年かけまして、一九八〇年に
全国の
地図帳みたいな、百数十枚に区切ってありますけれども、
全国の
活断層の
分布図をそういう形で出版いたしました。これが、現在
改訂版が出ておりますけれども、
日本の
活断層の
分布とそれに関するデータを盛り込んだ分厚い本になっているわけであります。
一九八〇年代になりますと、大体七〇年代でそういうふうに
分布がわかりましたので、八〇年代はどういうことをやっていたかというと、そのわかった
活断層について、地面を
断層のところで掘りまして、その
地層に記録されております過去数千年間のあるいは数万年間の
活動の
様子を、掘ったその
地層の断面から読み取ろうという
作業が始まりまして、
活断層の
活動の
歴史をより具体的に知るようになってまいりました。
それから、
分布がわかりましたし、そういう
性質がある
程度わかりましたので、それを使って
地震危険度図をつくろう、それはいろいろの人の考えによって何
種類もありますけれども、そういう
危険度図を発表する人々が出てきたわけです。
それから、先ほど言いました
分布図というのは、
全国を百何枚の
地図に分けてありますけれども、やはり
自分の町のどこを通っているとかという場合にはよくわかりませんので、町の中、
市街地図の中でどこを通っているかを私
たちがわかる
範囲でそれを図示して、せめて自治体などにはお知らせしておくべきではないかということでつくり始めております。それは
作業中でございます。
そういうわけで、一九八○年代が終わったところでこの大
地震にたったわけであります。
そういうわけで、大体一九八○年代の初めに
日本の
活断層の
分布の
様子がわかりまして、その本によりますと二千くらいもある。その二千に
一つ一つ名前がつげてあったり、長さがどうだ、過去の
活動の
様子はどうだと書いてあるわけです。
最初の
地震予知計画の意図としては、どこにどんな
活断層があるのかを明らかにするのがまず精密な
地震予知の
観測に必要だという趣旨ででき上がったわけですけれども、二千も、そんたにたくさんあるのじゃどうにもならないと余り評判がよくたかったのですが、
自然界にそのくらいあるのですからやむを得ないと思っております。
お手元に
資料があるかもしれませんけれども、二千のうちの主だものをこういう小さな
日本列島の
地図に示すと、主なものだけ書きますとこの
程度で、二千というふうにはありませんけれども、百くらいにまとめることはできます。
さて、
地震というのは
地下のそういう
岩盤の切れ目が
ずれ動くと申しましたけれども、すべての
地震でその
地下て
ずれ動いた結果が
地表まで届くとは限りません。どういうものが
地表に届くかといいますと、ある
程度地震の
規模が大きくないと、
地下て
ずれ動いても
岩石というのは結構
融通がきくらしくて、
地表まで来る間にだんだん消えてしまうのですね。消えたいと、どこかで動いたらもう全地球まで及んでしまうわけですけれども、そういうものじゃなくて、
岩石は
融通がきいて途中で消えてしまう。
だから、
断層にも大小さまざまあるし、それから
地表まで届くのはある
程度大きく
ずれてくれないと困るわけで、大きな
地震の跡を
地表で見ることができる、それを我々は
活断層と言っているわけです。大きくても何十キロとか何百キロの深いところだとちょっとだめですので、今回の
地震くらいの十キロとか二十キロくらい、そういう大きくて浅い
地震の跡を我々は
地表でつかむことができるわけで、それを観察することによってさっきのような
分布図をつくったわけです。
大きくて浅い
地震といいますと、つまりこれは
被害地震です。ですから、
活断層の
分布を知っだということは、過去の浅くて大きな
地震の跡、つまり
被害地震がどこで起こったかということを知ったということであります。逆に言いますと、
マグニチュード六クラスでもローカルには
被害が出ますけれども、六クラスだと、ちょっと
活断層だけ見ていますと見落としてしまうということになります。今我々が
活断層を手がかりにしようということは、
マグニチュード七クラスか八、まあ七クラス以上であるということで、万能ではないわけですね。もう特に大きな
マグニチュード七とか八の
証拠を我々はつかみつつあるというわけであります。
どうして過去にその
断層が繰り返し繰り返し
活動していることを知ったかといいますと、それは、例えば
丹那断層の例をよく引くのですけれども、
伊豆の
熱海と三島の間のちょうどJRの
トンネルの真ん中に南北に
丹那断層という
断層があって、それが
昭和五年の
北伊豆地震のときに二
メートルほど動きました。つくりかけの
トンネルが二
メートルちょっと
ずれてしまったわけですね。そこを
調査しますと、
ずれた
方向と同じように、つまり
熱海側が
北の方に二
メートルほど動いたのですけれども、千
メートルも昔のものは
ずれている。昔の地形だとか
地層は、千
メートルも
ずれているのですね。ですから、
昭和五年のときに二
メートル動いたけれども、これは、千
メートルというと五百回分同じ
方向に動いた跡なんだろうということになります。
では、千
メートルずれたのは、何年前真っすぐだったものが今千
メートルずれているのかというと、地質学的には五十万年前くらいだろうという見当、あるいは三十万年くらいかもしれませんけれども。五十万年としますと、五十万年の間に千
メートル、
ニメートルが千
メートルですから、五百回
ずれたということになるわけですね。五百回というのが五十万年の間だろうとすると、割り算しますと、千年に一回二
メートル動けば、そういう
自然界の
証拠を説明することができるというわけですね。
そういうことがわかったために、
新幹線トンネルをつくるときに、
活断層をぶち抜いてつくるべきか、
在来線のそばにつくるべきか離すべきかという議論のときに、その知識によって、千年に一度というものが
昭和五年に動いたばかりだから
新幹線トンネルつくっても当分大丈夫だろうということで、また
活断層をぶち抜いて
トンネルができているわけであります。
それで、今の積もり積もって千
メートルと言いましたけれども、五十万年で千
メートルですけれども、
断層によっては、同じ期間をとっても千
メートルじゃなくてその十分の一の百
メートルのオーダーのこともあるし、それからさらに十分の一の十
メートルのこともあります。つまり、
断層によって、その実績、つまり過去の
活動度が一けたも二けたも大小さまざまあるということです。一番活発なものが、割り算したときに
平均千年
当たりメートルで動いている。
さっきの
丹那断層でいいますと、五十万年に千
メートルということは、
千年当たり二
メートル動いていることですね。それで、
メートルというけたにたったものを
A級の
活断層と呼んでおります。千年
当たりメートルになるようなものが
A級でして、それより一けたのろい、
千年当たり数十センチの割合で過去何十万年の間動き続けてきた
活断層は
B級と言っているわけです。この
資料にあります。
C級と言っているのは、さらに一けたのろいものです。そういうように、
活断層といってもさまざまあるということであります。
A級、
B級、
C級で、けたが一けたずつ違うくらい
活動の
程度が違うわけであります。
それでは、
活断層の
性質をちょっと列挙しておきます。そういう
調査の結果わかりました
性質を言いますと、まず第一は、
活断層というのは全くふだんはじっとしているということです。間欠的にしか動かない。ふだんは
地震観測をしても、精密な測量をしても、何の異常もない。
トンネルをつくっても、何の異常もございません。ただし、動くときが来ると、そのときだけがばっと一
メートルだ、何
メートルだと動くわけですね。そのときが
マグニチュード七あるいはそれ以上の大
地震になる。ふだんは何にも動いていない、間欠的に動くという
性質。
それから二番目は、今申しましたように、同じような
性質の
ずれを繰り返し行っていてもとに戻ることはありませんので、それが積もり積もっているということでありますね。その積もり方によって過去の
活動の
程度が、さっき言いましたようにA、B、Cに分けられているということですね。
それから三番目ですが、その間欠的に起こるということはどのくらいの間欠的かというと、一回に
メートルで動くのが、今回もそうですし
丹那断層のときもそうでしたけれども、
マグニチュード七ですね。ですから、千年
当たりメートルで動くような
A級の
活断層についていえば、
メートルで動くようなものは千年
平均だということになります。よく
活断層は千年に一度動くと言いますけれども、それはそういう
意味ですね。
平均しますと
A級の
活断層では、千年
当たりメートルという
A級では、逆に言えば、
メートル的た事件が千年に一度の
平均で起こるということであります。
平均と言いましたけれども、実は
地層を掘ってみて、
平均というとばらばらでも
平均すると千年ということがありますけれども、本当に千年
ごとに起こっているといってよさそうであります。
丹那断層の場合には、実は千年じゃなくて七百年ぐらい
ごとに、
平均じゃなくて、
ごとに起こっているということがわかりました。
それから、もう
一つ大事なことは、
断層はいつも同じ
調子で起こしているという
性質があるようです。
平均して千年ではなくて、さっき言いましたように、
自分は千年
ごとに
マグニチュード七を起こしてやってきましたという
断層と、私は五千年ため込んでから
マグニチュード八を起こしますという、まれだが大
地震を起こす、そういう
種類のものもあるし、それから、もともといつでも私はのろまに、まれにしか動きませんというような、とにかく
個性があるということですね。そういう
規則性があるということ、気まぐれでないということが
地震の
予測、
予知問題に役に立つ重要なことであります。
それではそのくらいにして、
地震の
予知というか
予測に役立つ
性質を今の
性質からちょっと拾い上げますと、まず、
活断層というものは浅くて大きな
地震、つまり大
被害地震の
発生源でありますので、そのことをしっかり知れば、例えば、
関東地方の近くでいえば
群馬県よりも
神奈川県の方が絶対大
被害地震がより多く頻繁に起こりますよ、そういうことが言えるわけですね。時期はとにかくとして、頻度は
活断層の多いところで余計であるということです。
実際に
明治以後の大
被害地震をプロットしてみますと、本当に
活断層の多い
地域、この
資料の
二枚目にありますが、その黒く塗ってあるところでは非常にたくさん起こっているのですね。この黒いところで起こる
可能性の方がそれ以外のところよりも四倍
可能性が高いのです、今までの
明治以後の起こり方を見ますと。ですから、今後も、この黒いところがそういう起こりやすいところだたと思っていいのじゃないかと我々の
仲間に言っているわけです、どうせ精密な
観測をするならこの黒いところでやったらどうでしょうと勧めているところであります。
群馬県よりも
神奈川県と申しましたけれども、関西の方でいえば、
岡山県なんというのは
活断層は少ないですね。その隣の
兵庫県は、今回のように
活断層の多いところですけれども、
岡山県は本当に少ないところです。そういう
場所ごとに随分
断層の
分布の有無、密度が違うということですね。
それから二番目は、今のは
場所の
予測の問題ですが、
規模の
予測もある
程度できます。というのは、先ほど申しましたように、大きな
地震は長い
断層が関与して
エネルギーを出す。だから、今度は逆に、長い
断層を見つけた場合には、これは大きな
地震を起こすことができるんだなというふうに我々は見ます。ですから、長い
断層のある
地域は大きな
地震を想定しなければいけないということになります。
それで、濃
尾地震の場合には
マグニチュード八でしたけれども、八十キロの
断層が動きました。
根尾谷断層ですね。そのくらいの長さの
断層は
日本全国でどこにあるかといいますと、この
二枚目の
資料の右上にありますように、
中部地方と
近畿地方なんですね。だから、その
地域では
マグニチュード八までは覚悟しなければいけない。逆に言いますと、その他の
地域では八まで想定しなくてよろしい。特に
マグニチュード七というようなところもございますので、つまり、そういうようなところでは余り長い
断層がないのですね。ですから、七まで想定すれば十分じゃないかなというような、そういう
規模の
予測というか、
規模の差も
日本列島の中にございます。
それから三番目は、
断層は
自分の
個性で動いているんだと申しましたが、その
性質を使いますと、先ほどのように千年
ごとに動いてきたという
断層を見つけたら、例えば
昭和五年に動いたばかりだから当分大丈夫だという、そういう当分大丈夫だ、いわば安全な
活断層と、それから千年目あるいは五千年目がそろそろという、そういう
要注意の
断層とを区別することができるわけです、
資料がある場合には。そういうことで、十五年ほど前に私が当時の
資料でもって
要注意の
断層を幾つか挙げておいた、そのうちの
一つが今回の有馬―高槻―
六甲断層帯だったわけですね。そういうように、
活断層のうちでも当分大丈夫だろうという
断層と
要注意の
断層とある。
ここでちょっと申し上げますけれども、千年に一度でしょう。今問題になっている
東海沖とか
南海地震というのは、大体、今までの起こり方を見ていますと、
歴史時代の記録を見ても、百年に一度ぐらいですよね。それでも
プラス・
マイナス十年ぐらいの誤差があって、来年起こるかもしれないけれども二十年先かもしれないなんて言っておりましたけれども、それでも
プラス・
マイナス十年となるとこれだけ社会が準備しております。それで、今私のお話ししているのは千年に一度の話ですから、そうしますと、当然我々の
調査も十分でもないし、それから
自然界もそれほどきちんといきませんから、千年に一度だったら、先ほどの百年で
プラス・
マイナス十年だったら千年のものは
プラス・
マイナス百年ぐらいは当然ある。百年以上あるかもしれません。ですから、来年かもしれないけれども百年先かもしれないわけですね。
要注意断層というのはそのくらいの
意味の
要注意ということですね。
来年かもしれないけれども百年先かもしれないなんて私が言うと、そんなこと心配していたってしようがない、そんなのは
予知なんて言わないぞとしかられたのですけれども、でもとにかく百年だってあっという間に
たちますし、こういう
首都圏の問題は百年のことを考えておられると思いますので、ぜひその
活断層の
プラス・
マイナス百年を、私はしばしば笑われてきましたけれども、恐らくちゃんとまじめに受けとめなければいけないことじゃないかと思います。
その
資料の
右下に
関東地方の
分布図がありますけれども、それで見ますと、
立川断層とか
荒川断層とか
伊勢原断層とか
関東地方の
活断層があります。大概、今わかっている限りでは当分大丈夫ではないかと言える
断層ですが、
一つだけ残っているのが、
国府津-松田断層と書いてありますが、小田原の
北の方、
神奈川県西部にあります
断層はそろそろ、さっきから言っていますけれども、そろそろというのが百年だと言って笑われたわけですけれども、そういう状態にある
要注意断層は、東京の近くではこの
国府津-松田断層ではなかろうかと思っております。
そういうことで、
プラス・
マイナス十年が今までの扱いかもしれないけれども、これからは
プラス・
マイナス百年の
活断層のことを御注意いただきたい。
今、
日本の
地震予知というのは直前の
予知に非常に力を入れています。逆に言うと直前しかやっていたいようなもので、東海
地震の場合でも直前のために非常に詳しい
観測網を張っております。それで、千年に一度
活断層が動くときにも当然その直前の
予知が必要なわけです。
それで、今までの、千年ぶりにいよいよ
活断層が動き出すときのその直前にどんなことが起こったかを見てみますと、例えば、
明治より少し前の、最近の百五十年ぐらいの間に十ぐらい内陸の
活断層が動いた
地震がございます。善光寺
地震が一八四七年ですが、それから安政の伊賀上野
地震、それから
明治の濃
尾地震、それ以来十ありますけれども、そのうちの半分が、その
活断層のそばに住んでおられる方々が
地震計がろくにたい時代でもその一週間前あるいは二、三週間前からおかしいおかしいと言って、例えば
明治二十九年の陸羽
地震では、秋田県、岩手県の間ではもうみんながおかしいおかしいと言って、村長さんが村に大
地震の前ぶれかもしれないから注意したさいという告示を出したということもあります。
それから伊賀上野
地震でも、古文書というか当時の記録を見ると、みんなおかしいおかしいと言っていた。
それから根尾谷の濃
尾地震でも、近くに住んでいる人は何かこのごろどかんどかん音がすると。それで、これは、各務原という陸軍の演習場がございましたね。そこで何か訓練でも始めたんだろうかなんて言っていたら、当時測候所が岐阜にできまして、その記録を見ましても、そのころばかばか起こっているんですね。今から見るとずっと頻繁に起こっていて、やっぱり濃
尾地震もそういう前兆があった。
それから
北伊豆地震の場合も、
丹那断層ですね。先ほどの
トンネルが食い違った周辺の部落では、おかしいおかしいというんで家を補強したり、ある家ではおばあさんが夜庭に出て御飯炊き始めたんで、おばあさんちょっと狂っちゃったのかななんてみんな言っていたら、おばあさんはやっぱり危険を感じて御飯を炊いておかなければと思ったらしくて、その夜明けに
丹那断層の
北伊豆地震が起こったわけですね。
そういう
地震計もないころに十例のうち五例が、三河
地震もそうなんですが、ありました。その他の五つの例は、今回の
地震も含めてどうも前兆らしいものはなくて突然やってきたわけですね。今回は
地震計があったんだけれども、
地震計のない時代も含めて、五〇%がそういうもう明らかにおかしいと普通の素人でも思うようなことが起きております。今やいい
観測設備を持ってますので、その五〇%が七〇%、八〇%になるかもしれない、これからの
地震については。ですから、千年に一度で
プラス・
マイナス百年があっても、その
活断層のところを集中して注意していれば、そういう直前の
予知の成功率は随分いいんじゃないか。決して私は悲観は、内陸は
地震の
予知は難しいと言うけれども、そんなことないんじゃないかと思っております。
そういうわけで、なるべく
要注意断層か安全
断層かの区別をしたいわけですが、なかなか
調査はし切れません。とりあえず、もし起こったときの
被害のことを考えますと、地方の山の中よりはやっぱり都会、
活断層のあるそういう都市について注意を払うべきだと思います。
そういう
意味で、皆さんの
資料にあるかもしれませんが、既にわかっている
活断層で都市の直下にある
断層、それを書き出してみましたら、主な都市八十、それはある基準できちんと選んだわけじゃありませんけれども、かなりの数の
断層が市の中心部から五キロ以内のところに、既に出版されている我々の
活断層分布図によると
断層があるわけですね。特に、五キロ以内どころかもう市街地の真下に
断層がある都市というのも二十ぐらいあるわけです。しかも、その二十のうちの半分の十一は府県庁所在地だということですね。
そのうちの
一つの神戸が今回やられてしまったわけですけれども、そういうわけで、県庁所在地だけ見ましても、半分ぐらいは周辺には全然
活断層はなくて直下なんか考えなくてもいいという町もありますし、本当に役場の下、すぐそばに
活断層が埋もれている、その真上に都市ができてますよという都市もあるわけでして、そういう点も考慮されて防災を考えたらいいんじゃないかと思っております。
以上でございます。