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公述人(
石弘光君)
一橋大学の石でございます。
時間の
関係もありますので、特に重要と思われるものにつきまして、以下四点、私の
考えを述べさせていただきたいと思います。
林さんと少しダブる点もあるかもしれませんが、ただ私は、今回の
税制改革につきまして当然
評価できる点もあるのであります。
議論のためというわけではございませんが、どういう点が問題かという
批判点ということにより重点を置いた形の説明をさせていただきたい、このように
考えています。そういう
意味では、林さんと同じ問題を取り扱いましても若干見る角度が違う、こういう
議論も可能かなという点でお聞き取りいただければと
考えております。
まず
最初に、第一点は
総論的なことでございますが、私は、
高齢化社会の到来が目前に来ている、もうすぐ目の前に来ている場合に、
直間比率の
見直しという
方向は避けて通れない。そういう
意味では、今回の
税制改革、一応
所得税減税、
間接税を
アップするというパッケージにしたわけでございまして、私は基本的な
方向としては正しいし、この点は一応
評価いたしております。と同時にもう
一つ、
財政の
健全化というのは避けて通れない話でございまして、そういう
意味では
増減税一体化処理をしたという点、言うなれば
直間比率の
見直しと
増減税一体処理という
二つの大きな
道しるべは大いに
評価してもいいのではないかと
考えております。
ただ、細部を見ますと、かなり問題ありと言わざるを得ません。そういう
意味で、その点につきましてこれから順次触れていきたいと思います。
総論的にもう
一つ踏み込んで申しますと、やはり
消費税率五%というのがまずありきではなかったかという
印象をはたから見ているとぬぐえない。
現行は三%、例の
国民福祉税が七%でありまして、結果的には五%だったんでしょうが、しかし、どうしても五という数字が
最初にあって、その結果、
所得税減税も二階
建てになったのではないかという
印象をぬぐえないというのは
国民の中にも随分あるんじゃないかと思います。その結果、
直間比率の
見直しか不完全に終わったという点は恐らく指摘できるのではないか、
総論的に申しますとこういう
印象を持っております。
以下
各論につきまして、
所得税、
消費税、それから残された問題、そこで
企業課税とか
資産課税を述べたいと思いますが、主として三点に力点を置きまして述べさせていただきます。
所得税は、
景気刺激ということもございまして、
先行減税になったこともあってか俗に言われる二階
建てで三・五兆円の恒久的な
減税と二兆円の
特別減税に分かれました。私は、できればこれは
一体化として五・五兆円の
恒久減税にしてもよかったと思っております。その点、当然のこと、
消費税五%で済まなかったかもしれません。それは恐らく六%か七%になったかもしれませんが、新ゴールドプランも含めまして、
福祉という点についてしっかりした計画を練って、
国民にそれを提示し、言うなれば思い切った
所得税の
減税とそれに見合った
消費税の
アップ、
プラス福祉充実という
組み合わせで私は問うべきではなかったか。そういう
意味では、今回はそれに至る
一つの
道しるべであったという
意味では
評価できるかもしれませんが、中途半端に終わったという点は避けられない、このように
考えております。
そこで、その問題の一番大きい点は、
累進税率の
緩和が不十分ではなかったかという
印象がぬぐい切れないからであります。と同時に、
特別減税二兆円が一九九七年に言うなれば
廃止になって、
消費税アップというのはどうしてもダブルパンチ的な
印象での
税負担がふえますので、この時期になったときにどういう反応が
国民の間から出てくるか。これはやっぱり問題であろうと思います。
それから、林さんが申されましたように、今回また
所得控除を上げて
課税最低限を
引き上げましたが、私は元来、もう使命の終わった、あるいは雑多にさまざま組み込んでおります
所得控除を整理すべきである。これは
課税ベースの
拡大ということでございますが、
累進税率を
緩和するということは、ある
意味で
所得税の
累進度を減らし、言うなれば社会的に見て
公平感を失わせるという結果もございますが、ただ、
課税ベースを
拡大しろということにおいてかなり
累進性は回復できるんです。
最後の点で申しますが、キャピタルゲインであるとかあるいは
利子配当、それを
課税ベースにもっともっと入れるということによって
累進性の回復もできますし、あるいは
租税特別措置でかなり隠れた
減税として行われております
所得控除とかその種の
処理も
廃止することによりまして、実は
所得税がいい姿として再生することも可能でございます。
そういう
意味で、今回の
所得税の
減税のやり方は、
累進税率の
緩和が不十分であったとともに、本来
所得税の中で
改革ができる点を少し見逃した。恐らく、
租税特別措置の
廃止であるとか雑多な
所得控除の整理は
増税に結びつきます。ただ、この
増税というのは、
課税ベースを広げるという
意味で実りのある
税負担の増大だと思いますので、これを
累進税率の
緩和の方に向けてもよかったのではないか、そう思っております。最終的には、仮に
総合課税というのが実現するならば
最高税率は本来もっと落としてもいい、こう
考えております。
そういう
意味で、今回の
組み合わせは
所得税の
減税がどうも部分的に過ぎ、あるいは本来ねらったよりはかなり後退したという
印象を免れない。
批判点を表に出しますとこういうことになろうかと
考えております。これが第二点でございます。
それから第三点は、
消費税の
見直しにつきまして
二つ特に強調しておきたいんですが、やはり三%から五%になったということは、俗に言われます
益税の対策が不十分でありますとますます
益税の悪い影響が
国民あるいは
消費者の間に及んでくるわけでございます。そういう
視点から見ますと、今回
限界控除を
廃止したというのは、これはある
意味で一番の
益税の代表的な例でございますから結構だったし、
簡易課税の
適用区分を四億円から二億円に下げるのは結構でございます。
ただ、残る一番の
益税として、家庭の
主婦あたりから非難されております非課税の
水準三千万円ですか、これがそのまま残った。これはいろいろ政治的な
要請もあると思いますが、三千万円というのは
ヨーロッパの
諸国に比べますと三倍も四倍も高いわけであります。恐らく
零細企業あるいは
中小企業の
特例として政治的に浅さざるを得なかったのだとは思いますが、これはもっともっと私は切り込んでいい。端的に申しますと、三千万円を半分ぐらいに下げてもいいのではないか、そういう
印象を私は持っております。
それから、もう
一つ言われておりますインボイス、仕入れのところの
税額控除の問題でございますが、今回は、インボイスという名前で日本型という名称をつけておりますが導入しようということで、納品書であるとか領収書であるとか、いわゆる仕入れの額を証明するものを保存せいという形で一応インボイス
制度というものを導入いたしましたが、これはやっぱり不十分であります。これまた恐らく課税業者の特定であるとか、あるいは非課税業者に仕入れ控除を認めないと取引において不利になる等々の問題もあったかと思いますが、私は、今後、
消費税率アップがもっと進むような事態になりますと、恐らく俗に言われますEC型
付加価値税がやっておりますようなインボイスという売り上げ・仕入れ、売り上げ・仕入れという流れを追求するだけのしっかりとした
制度的な担保が必要ではないかと思います。
消費税を導入するときのいろいろな経緯もございますから急には無理かもしれませんが、この点と、それから非課税
水準三千万円についてはまだ対策として
見直しか完全でなかったという
印象を持っております。
それから、
消費税の
見直しでもう
一つ。
これは
地方消費税、林さんも触れられましたが、今後の
高齢化社会、あるいは
地方の方に
福祉の役割が回るということも踏まえ、
地方に独立
財源を与えるということは非常に重要である、私はそういう
意味では林さんと全く同じであります。目的は結構なんですが、手段において
国税である
地方消費税をどこまで使いこなせるかというのが恐らく今度の焦点であったと思います。
私は、多段階の売上税を
地方に回すということが理論的に見てかなり難しいと前から見ておりまして、これは税調の小
委員会でもかなり
議論いたしました。これも
議論が専門家の間でも分かれたところでございます。そもそもメーカーから卸、小売、
消費者とくる各段階において空間が置かれているものを
国税として取る分には問題ないんですが、
地方税として取るときにはどこにそれを
配分し直すか。つまり、
消費地と納付地の違いがございまして、これは非常に問題がございました。
ただ、今回は府県間で清算をしようということで、
消費関連基準でやるというあたりが恐らく最後に出てきました妥協の知恵であると思いますが、
消費関連基準でやるということは、ある
意味で各府県の言うなれば最終的な
消費、別な言葉で申しますと小売売上税的な要素を入れてきたという
意味においては
一つ妥協の産物としてはまあまあ受け入れられるかなと思います。ただ問題は、府県が受け取った
消費税の半分、二分の一を市町村に配るときに、やはり
消費関連基準というのは統計上は得られませんので、従来どおり人口とか従業員にしなきゃいけないというところ、このあたりが私は今回の
地方消費税の
一つの泣きどころだと思っております。
つまり、市町村に渡るときには別に
地方消費税という装いは凝らせなくて、単に一種の交付金みたいになってしまうという点でございますので、そういう
意味で
地方消費税、結果的にはこれしかなかったのかもしれませんが、理論的な検証、実際的な検証、これからまだまだ多くの改善すべき点が残っていると
考えております。
理論的には、小売売上税しか実は
地方が売上税を使うというのはあり得ないと思っております。つまり、アメリカの州政府がやっておりますような単段階の最後の
消費者段階での小売売上税ということでございますが、今、
国税と同じ
課税ベースを使い、それから納税方法も使っておるわけでありますが、恐らく納税者の立場を踏まえ簡素化という点だったらこれしかないのかもしれませんが、
地方独自の税源が欲しいということならばそれは
地方独自でさまざまな工夫を凝らす必要があろうと
考えておりますので、この
地方消費税というのは、
第一歩としてはこれしかなかったかもしれませんが、今後改善すべき余地は随分あるというふうに私は
考えております。これが第三点であります。
第四点は、今回の
税制改革の中で漏れた問題で、今後二十一世紀を目指したときにどうしても避けて通れない問題という点で、
企業課税の問題と
資産課税、あるいは資産
所得課税の問題について最後にちょっと数分触れたいと思います。
企業課税の問題、特に
法人税、
国税の
法人税あるいは
地方の法人
事業税等々は、
直間比率の
見直しという陰に隠れましてここ数年ほとんど実質的な
議論は税調においても行われておりません。そういう
意味では、産業の
空洞化も問題になりますし、
企業課税の
負担というのは国際的なタックスハーモナイゼーションからも重要な問題でありますので、今後
企業課税の問題は避けて通れないだろう。
例えば、配当の二重課税の調整は今のままでよろしいか。あるいは
税率そのものの
負担水準はドイツと並んで高いんですが、それでいいのか。それから法人
事業税というのはこのままでいいのか、つまり赤字法人の問題。それから、林さんが触れられましたが、そういうような問題を含め
外形標準化の問題があるのではないか。あるいは、どうも法人関連の税は
地方の方でほかの国に比べて圧倒的に頼っている。逆に言えば、
地方政府は法人関連の方にやや偏り過ぎているんじゃないかという税源
配分上の問題もあります。そういった問題を含めて、
国税、
地方税ともに
企業課税のことをやらなきゃいけないと
考えております。
それから最後に、やはり
直間比率の
見直しはどうしても逆進性になってきますので、逆進性の解消の仕方としては、資産あるいは資産所得、この
税負担をふやして
税制全体で
累進度を回復するという手法がどうしても必要でございます。このために、
資産課税で申しますと相続税とか地価税とか固定資産税とか、こういうものをどういうふうに位置づけて、どういう
負担を課して、言うなればストックの段階での資産再分配を図るかという
視点は今後ますます重要になると思います。私はこれは強化すべきだというふうに言っているのでありまして、最終的には経常財産税みたいな方式も
議論としてはあっていいし、遠い将来、あるいは近い将来かもしれませんが、それの導入ということが行われても結構だと
考えております。
と同時に、今度はフローの段階で発生いたします利子とか配当とか、あるいは株式のキャピタルゲインとかいうものに対してどう課税するか。これはやはり私は、納税者番号を入れて
総合課税に持っていくというのが恐らく今後の
一つの重要な課題になると思いますので、時間がございませんのでこれ以上触れませんが、この
方向を探りつつ
直間比率の是正から発生いたします逆進性、逆進的な
税負担というものを解消するという
方向の一助にすべきであろうと
考えております。
時間が参りましたので、これで終わらせていただきます。