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高山公述人 高山でございます。
公述人として
意見を述べる
機会を与えていただきましたことを大変光栄に存ずる次第でございます。
今回の
改正案は十年に一度の大
改正という名にふさわしい
内容を持っているというふうに私は考えまして、
基本的に本案には賛成でございます。
その主たる
理由三つを述べたいと思いますが、まず、
世代間の信頼を築く上で最も重要なネットスライド方式への切りかえが
提案されているということ、長年の懸案であった
支給開始年齢問題に決着をつける
内容となっていること、社会経済あっての
年金制度という
基本的スタンスが確認され、二十一世紀の社会経済を展望し、そこから
年金制度の側での対応を幾つか図ろうとしていること、この
三つが今回の
改正案を高く
評価する
理由でございます。
以下、重要と思われる点、三点について
意見を述べさせていただきます。
まず第一点ですが、マスコミの報道等によりますと、
年金改革問題は
支給開始年齢問題にどちらかというと偏りがちでございました。また、最近におきましては
国庫負担問題に集中している嫌いがございます。ただし、私が見ますと、今回の
年金改正において最も重要な
項目は、実はネットスライドヘの切りかえということではないかというふうに考えております。
給付水準は、長期的に見ますと、税、
社会保険料を除いた
手取り賃金をベースにして設定されることになります。また、その
給付の
改善についても同じインデックスに基づいて
改善を図っていくということになります。従来とは全く違ったやり方を今回導入しょうとしているわけでありまして、その
意味をやはりここで確認しておく必要があるのではないかと思います。
公的
年金は、御案内のように、一つのパイを現役とOBでどう分けるかについてのルールを定めるものでございます。ネットスライドヘの切りかえは、このルールを安定化させ、
世代間の信頼関係を厚く、また強固なものにする機能がございます。ネットスライドヘの切りかえは、
高齢化に伴う公的な
負担増を現役だけでなくOBも等しく引き受け、分かち合うということを実は
意味しております。このような新しい
原則が
年金の世界で確立されることは、まさに画期的でございます。
今後、単に
年金改革だけでなくて、税制改革、あるいは他の社会
保障分野においてもこのような
原則が
参考にされることを強く願っております。
実は、
世代間の信頼をつなぐ上で最も重要なことは何かということですが、それは現役のサラリーマン、現役の人たちが生活水準の上昇を常に実感するということでございます。親の
世代より豊かになれないという思いを子供の
世代が思い始めましたら、
世代と
世代の助け合いの
制度を円滑に維持していくということは難しくなります。そういう
意味で、今後とも経済成長を持続的に図っていくことが重要になります。
二点目は、
年金財政対策ということから、従来いろいろな
年金制度に関する
改正というものが
提案されてきたのですが、今回の
改正は、確かに
年金財政の観点も考慮はされているのですが、それよりももっと大きな問題、社会経済あっての
年金制度ではないか、その社会経済がきちんとする、しっかりすることの方がはるかに重要だということであります。
二十一世紀の
日本の社会経済を展望する、これはどういうことかといいますと、もう十年ぐらいたちますと
日本人の総人口は減り始めます。その中で、働く人たちの人数も減ってくるということです。これは皆さん既に御案内だと思うのですが、特に若い
世代、三十歳未満の
労働者が激減するということなんですね。その中で、持続的に経済成長を図っていくということが次第に容易でなくなってくるということでございます。そうした中で、労働力の落ち込みをできるだけ回避する、
高齢者の
就労促進だとか
女性の就労を支援する、あるいはもう少し子供を産みやすい環境をつくり、子育てが容易になるような環境をつくるということが大事でございまして、その点について今回
年金制度の側からいろいろな取り組みがなされたということではないかと思います。
特に、
在職老齢年金の
改善あるいは
失業給付との併給
調整、
遺族年金の
改善、
育児休業期間中については
保険料の
本人負担分を
免除するというようなことが
提案されております。この点を高く
評価いたしております。
また、
支給開始年齢問題についても決着が図られる見通しになっております。
給付の一階
部分はオールジャパンの
制度にする、それで六十五歳
支給開始が
原則である、二階
部分はサラリーマンに固有の
年金であり、六十歳
支給開始だという形になりまして、年全体系は非常にわかりやすくすっきりしたものになりました。この点につきまして、決着に向けた関係者の
努力を多といたしたいと思います。
三点目は、
費用負担問題でございます。欧米の工業先進国と比較をいたしますと、
日本人の支払っている
年金保険料は、今のところ決して高いとは言えません。一方、
給付水準はどうかといいますと、むしろ高目だと言うことができると思います。
保険料を今後とも
引き上げていかざるを得ないという状況に変わりはないわけであります。
ただし、
保険料負担あるいは
国庫負担の問題をめぐっては、一体適正
負担とは何かということが問われると思います。
その適正
負担には
三つの要件があると思います。その一つは、今後とも持続的に経済成長を続けていくことが大事なんだという観点から見ますと、成長を大きく阻害しないような財源を選択するということです。それから二点目は、異なる
世代間での
負担の公平が図られるかということ。三点目は、同一の
世代内での
負担の公平を図るということでございます。
ボーナス保険料を導入するということは、同一
世代内における
負担の公平に資することになりまして、その
意味では新たな前進になったと思います。長期的には総報酬制への切りかえを含めて、さらに
検討を進めていただきたいと思います。
厚生年金につきましては、
保険料率の
引き上げについて、スピードアップが
提案をされております。五年間に二
段階での
引き上げを図る、この法案が成立した直後に二%を
引き上げる、その二年後に○・八五%
引き上げるという
内容になっております。これは
高齢化が従来以上のスピードで進んでいること、また、今皆で歯を食いしばって
負担増に耐えていけば、将来の
負担はそれだけ楽になるということでございまして、そういう観点からの
提案であるというふうに理解をしております。
ただし、
負担増をめぐりましては、単に
年金財政上の観点からだけでの
検討ということではやはり不十分だというふうに考えざるを得ません。むしろ社会経済全体にとってこの
負担問題はどうかという観点、そういう
考え方が必要なのではないかと考えます。
現在政府が
提案しているのは二%の一挙
引き上げでございます。この二%の一挙
引き上げについては次のような見方がございます。
まず、現役のサラリーマン本人にとりましては、事実上
手取りが一%減ることを
意味しております。先日、新聞報道によりますと、昨年における
日本のサラリーマンの
賃金は総じて名目額が減ってしまった。
手取りで見ましても、標準的なサラリーマンについては
実質的に
所得が低下したということになっております。
もう一つ、
所得の上昇期待が弱い現在において、一挙に
保険料を二%上げるということでよいかどうかということです。ことしの春闘におきましても賃上げを見送らざるを得なかったところが少なくありません。あるいは定期昇給を凍結しているようなところもございます。そうした中で、
手取りを確実に一%減らすような
方法でいいのかどうかという問題です。あるいは企業にとっても、今回の
保険料引き上げは事実上一%の
賃金アップをしたのと全く同じ効果を持っております。
また、マクロ的に見ますと民間部門から政府部門への資金の移転ということになりまして、これは共済グループの
保険料引き上げいかんによるのですが、恐らく、国民
年金の
保険料アップも総合的に換算しますと、平年度ベースで今回の
引き上げ分は
総額で三兆円台だというふうに考えております。今回税制改革で恒久減税分は三兆五千億円というふうに決められまして、この大半が
保険料の
引き上げによって相殺されてしまうということであります。
現在
日本の経済にとって最も重要なことは景気回復を着実なものにすることでありまして、その点から見て今回の
引き上げの
内容でいいのかどうか。経済は現在貯蓄不足の状態にはありません。強制貯蓄を従来どおり続けていくという必要性は特にありません。また、今回
提案されている
給付改善は、一挙に
保険料を
引き上げなくても支払いが可能でございます。そういう観点からいいますと、
保険料は
引き上げなければならない、しかしそのスピードについては別の
考え方もあるということでありまして、毎年小刻みに
引き上げていくという方式もあわせて御
議論を願いたいと思います。
将来の
世代から見て高い
評価に値するような
議論をこの厚生
委員会でお願いをいたしたいと思います。賢明な選択だと言われるような形の決着をつけていただきたいと思います。
今回の
年金改正法案は、実は三月に
国会に提出されておりますが、まだ
国会における決着を見ておりません。
給付改善を首を長くして待っている人たちが少なくございません。一日でも早くこの
年金改正について皆様の合意を取りつけてほしいと思っております。
以上でございます。(
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