○今井澄君 どうも御苦労さまでございます。
私は、先月の二十五日から八月五日までの十二日間、参議院海外特定
調査の第三班のメンバーとして、マレーシア、インド、ネパール、シンガポールの四カ国を訪問して、
我が国の
ODA、経済
協力の実情について
調査をする
機会を与えられました。その際、在外公館、JICA、OECFの在外事務所の皆さんには
大変お世話になり、
調査に御
協力いただき、この場をおかりして感謝を申し上げておきます。
報告書はいずれ正式に院の方に提出をすることになっておりますが、この
調査の際ネパールで、私はアライアンス・フォー・エナジーといういわゆるNGO、正式には登録していないそうですが、NGOの技術者を含む四人の人々にお会いしました。懇談した
内容は、実は今回の
調査の対象にはなっておりませんでしたが、水力発電の問題であります。
日本政府はこれまでもネパールの水力発電については随分
援助をしておりまして、例えばクリカニ第一発電所、第二発電所、合計約百五十億円の借款を供与しておりまして、この二つの発電所で合計の設備容量が九十二メガワット、現在のネパール全体の設備容量の約四割の発電をしているということなわけですが、現在、今度は世界銀行の主導のもとにネパールの東の方、ネパールは東西に長い国でありますけれ
ども、その東の方のエベレストのふもとに近いところにアルンⅢという水力発電所の建設を
計画しております。
これは設備容量は二百一メガワットということで、古い言い方をしますと二十万キロワットでしょうか。
日本の常識からしますと二十万キロワットというのは大して大きなものではありませんが、そう言ってはなんですが、ネパールという大変貧しい国においては極めて巨大なプロジェクトということになるわけであります。総
事業費は七億六千七百万ドル、うち一億六千五百万ドル、百六、七十億円相当でしょうか、それが
日本の分担ということで
予定されているわけですが、NGOの
人たちと話し合ってみますと、これは大変今のネパールにとっては巨大過ぎるプロジェクトではないか。反対するわけではないがむしろ我々は代替案を持っている、中小の発電所を全国各地に必要に応じてつくっていくことが必要ではないかと。非常に説得力のある
お話でした。このときおもしろいことにこういう例を出されたんです。貧乏人に象を贈られても困る。象はうちの周りのものをみんな食い荒らしてしまって貧乏人はますます貧乏になる。それよりはむしろウサギをいただいた方がありがたいんだという
お話でした。
そこで御
質問したいわけですが、まず第一点は、先ほ
どもちょっと言いましたけれ
ども、ネパールはまだ電化が進んでおりませんで、
日本の
援助した二つの水力発電所で四〇%を満たしている程度で、それが九十二メガワットですね。その倍のものをつくろうというわけなんですが、これは二〇〇二年に完成なんです。これから二〇〇二年までの間はどうするのか。二〇〇二年に一挙にわっと今の倍のものをつくってその受け皿があるのかどうか。一体、産業に使うにしろ、家庭電気に使うにしろ、やっぱり徐々にふやしていくことが大事なんで、こういう巨大プロジェクトをぽんと持っていくことは一体どうなのかということを第一点
お尋ねしたい。
二番目には、これは有償ですね、借款なわけですから返済しなければならないわけで、既に聞くところによりますとネパールの予算の三分の一近くが債務ということでありまして、そうしますとこれは当然ネパールの国民負担になってくるわけです。ネパールは一人当たりの国民所得が百八十ドルという恐るべき
アジアでも最貧国、世界的にもそういうところに属するわけですね。
こういう問題について、これはちょっとうわさですからこういう場で言うのはなにかもしれませんが、世銀の主導で進められて何とか
日本を引っ張り込んでという話があると。その裏には、
日本はこういう、もしネパールが返せない、苦しいというときには延ばしてくれるんじゃないか。最後は何か返さなくてもいいようになるんじゃないかということで期待されているような話もちょっと聞くんですが、これは一体どういうことなのかということです。
三点目は、実はクリカニの第一、第二水力発電所も、これまで二回の災害でいろいろダメージを受けて、それは
日本の
援助でまた復旧しているわけですが、つい昨年もまた洪水で埋まっちゃったんだそうですね。それの復旧がまだ今完全にできていないと思います。非常に災害の多発するところで、雨季があって大変なところです。
たまたま向こうへ行ってコイララ首相にお会いしたんですが、御承知のとおり、コイララ内閣は総辞職を七月にいたしました。選挙が十一月というんですね。何か向こうでは総辞職の後の総選挙は六カ月以内にやればいいというんです。何でそんな、六カ月間というのは非常に不安定なんです。それはどうしてかといったら理由は大きく二つある。
一つは有権者を確定するのに大変だと。選挙人名簿なんてないわけですから、それに時間がかかるということと、もう
一つは六カ月というのは雨季を避けなければならない、選挙期間を。雨季になりますと全国寸断されて投票所に人が集まってこれないというんですね。そういう国なわけです。
そうしますと、この巨大なと申しますか、確かに大きな発電所をつくることはインフラ整備という
意味で非常にいいとは思うんですけれ
ども、もしそれをつくってそれがだめになっちゃったら困るんですね。中小のものをつくっておけば、
一つだめになっても国全体としてはダメージが少ないと。そこで、そういう
意味で非常にリスクが大きいんじゃないだろうか。特にこのアルンⅢの上流の方には氷河湖というのがたくさんあるんです、チベットの方まであります。この氷河湖は二、三年に一度は必ず決壊をして大事故を起こすということが言われております。そうしますと、こういう大きなプロジェクトというのはリスクが大き過ぎないかなということを感じますのと、もう
一つは、やっぱり大きな発電所をつくって全国に、全国かどうかは知りませんが、東の外れですから送電線をずっと張らなきゃならないんですね。そうすると、これもそういうふうに雨季には全国が寸断されるような
状況のもとで道路も整備されていない、そういう中で送電がうまくいくんだろうかというのを私はやっぱり非常に心配をしているわけであります。
もう
一つまたNGOの
人たちが言いますのには、向こうにもだんだん地元の技術が育ってきた、中小のものだったら結構自力でできるところもあるんだけれ
ども、巨大プロジェクトになると結局は
外国の会社に、ゼネコンなんかにお任せということになると、これはネパールの企業の育成ということにつながらないんじゃないかというふうな話を
一つ聞きましたし、技術移転も巨大プロジェクトというのはスムーズにいくんだろうかということについての疑問があるようです。
ただ、この技術移転の問題は、プロジェクトが大きい小さいにかかわらず、インドにしろネパールにしろまだカースト制が残っておりますね。そうすると、この技術移転をする相手のチームの編成というのは非常に難しい、私これする人、あなたこれする人ですからね。
日本流に技術移転というのはできないということを考えますと、これは大きな
援助をすることも大事なんですけれ
ども、これは内政干渉になるかもしれませんが、ネパールでカースト制度がだんだんなくなっていくという、そういう民主化されて非常に近代的な産業国家にふさわしい宗教、文化、そういう社会的インフラが整ってくるのに合わせて
援助するということも大事だと思うんですね。
それから、最後にはもちろんこういう大プロジェクトに伴う自然破壊の問題も言っておりましたが、幸いこれはダム式ではなくて流れ込み式ということですので立ち退きの人も少ないしあれですが、こういった問題もあるようです。こういうふうないろいろな問題点があると。
それで、何か向こうの人に聞きますと、世銀は要するにこれでなきゃ金をくれない、中小のものを寄せ集めてそのぐらいの規模の七億何千万ドルというのには乗ってこないというんですね。そこにどうも先進国の一方的な何というのか思い込みといいますか、よかれと思ってやることがさつきの象の話じゃありませんけれ
どもそういうことがないんだろうかということで、せっかくの
援助ですからむだにならないようにと思っているんですが、その点、五点ほど
お尋ねいたしましたけれ
ども、いかがでしょうか。