○小渕恵三君 私は、自由民主党、
日本社会党・護憲民主連合及び新党
さきがけの
与党三党を代表し、まさに
総理御自身がおっしゃるとおり型破りのスタートを切った新たな
連立政権のリーダーたる
村山総理に、山積する内外の諸
課題について質問をいたしたいと存じます。
成熟の度を深めつつある
我が国の
社会において、すべての面でいよいよ変化、
変革のスピードは高まってまいりました。とりわけ我々
政治の
世界では、イデオロギーによる東西対立の構図が崩壊したこと、人間一人一人の価値観が多様化しつつあることなどを
背景として、激しい変化の波が次々と押し寄せております。
例えば私自身、
与党三党を代表する形で、しかも実に四十六年五カ月ぶりに誕生した
日本社会党委員長の首班に対して質問を行うということは、つい三週間前まで夢想だにしていなかったことでありました。私の前に質問をされた羽田新生党党首も、まさか二カ月で攻守所を変える立場に立たされようとは
思いも寄らなかったことでありましょう。だれが悪かったのか、どこが間違ったのか、これから申し上げますが、羽田党首には衷心より御同情申し上げる次第であります。(
拍手)
ともあれ、我々
政治家は、この変化の激しい
時代の荒波の中で、
国民の
皆さんがもっと安心して暮らせる
社会をつくり出していく努力を続けていかなければなりません。お聞きしたところ、
村山総理、あなたは最後の最後まで首班の座を固辞されたと伺っております。権力をめぐって激しい闘争が繰り広げられるこの
世界では、常に「乃公出でずんば」とか「夢よもう一度」とか、最高権力を目指すのが常識であり、私どもは、
村山総理の謙虚でみずからに誠実な
姿勢にはほとほと感服をいたしました。(
拍手)
しかし、
総理、もはやあなたは
世界をリードする経済大国となった
日本の最高
責任者であります。二十一
世紀まであとわずか、あなたには、いわばプレ二十一
世紀体制とでも申し上げるべき安定した新しい
政治システムの構築を開始しなければならないという
責任があります。私は質問を始めるに当たり、まずこうした
認識に対し
総理がどうお
考えになっておられるかをお尋ねするとともに、以下、当面する諸
課題についての質問に、時には大分弁でも結構でございますから、自分の
言葉で率直な御答弁をちょうだいいたしたいと存じます。
まず第一に、
村山連立政権そのものについて
伺います。
三党の
連立、とりわけ
自社連立の
成立は、
国民の
皆さんには、オーバーに申せば驚天動地ともいうべき衝撃を与え、この
政権は一体うまくやっていけるのだろうかという不安の声も沸き起こりました。今回の政変過程においては、旧
連立再構築やいわゆる保保連携の動きもありましたが、今にして私
たちは、この
連立の
成立が、ベルリンの壁の崩壊がもたらした歴史的必然とも申すべきものであり、これよりは
国民生活に実をもたらし、
国民の
皆さんからも本格
政権としての
評価を得るよう、全精力を傾注していくべきものと
考えるのであります。(
拍手)
細川、羽田両
政権は、いわゆる
政治改革を唯一の命題として編成された暫定
政権とでもいうべき存在でありました。旧
連立各党の間の相違、強権的な
政治運営の手法をめぐる
各党間の反目が主な原因となって、その枠組みは一年ももたずに崩壊したのであります。その不安定さ、不統一性、弱体ぶりは、いわゆる
政治改革は別としても、その他の
政策面では、
予算成立がかつてないほどおくれたため、
国民に対するきめ細かな施策を実現し得なかったことからも明らかであります。不況の深刻化、
円高の急激な進行、雇用情勢の悪化、日米経済
関係の行き詰まりなど、数々の負の遺産を後継
内閣に引き渡す結果となってしまいました。
我々三党の連携は、
平成六年度
予算が
成立したのを受け、もうこれ以上
政治の混乱は許されないという
認識からスタートしたものでありました。そして、
思い切って古びた殻を打ち破り、ダイナミックに
国民のための
政策を決定、推進する
政治システムを創造するという基本合意が三党間に
成立し、私
たちは安定した本格
政権への第一歩を踏み出したのであります。(
拍手)
これを野合と批判する向きもありますが、むしろ、一年前の、私
たちよりももっと多くの
政党政派の寄り集まった旧
連立政権の経験を経て、昨年七月以来の政界再編成の着地点と見ることの方が正しいのではないかと
評価するものであります。(
拍手)
以上申し述べたことにつきまして、私は、
村山総理を初め、河野副
総理・
外務大臣には自由民主党総裁として、また武村大蔵
大臣には新党
さきがけの代表として、その
認識、
考え方をそれぞれお示しおきいただきたいと存じます。
「大きなニュースは束になって来る」とよく言いますが、七月九日、十日の土曜、日曜にかけてビッグニュースが
世界を駆けめぐりました。
金日成主席の死去、
ナポリ・
サミットの開催、そしてスペースシャトル・コロンビアの打ち上げ成功がそれでありました。
「私は、やっぱりこんなすばらしい地球に生まれて、その地球の一員であるということに誇りを持っています。それは多分、ふるさとを離れたときに、そのふるさとを自分が振り返ってすばらしいところだったなと思うのと同じ気持ちだろうと
思います」、これは、コロンビアの向井千秋さんと
ナポリでの河野
外務大臣、東京の田中科学技術庁長官の三人の対話の中で向井さんが言われたすてきなせりふでありました。向井さんはまた、生まれ故郷の群馬県館林市の中学生とも十四日に交信し、「天女になったような気分です。
皆さんがどんどん私の後に続いてくれればいいと思っています」と若者を励ましてくれました。
こうした向井さんの姿は、見方を変えれば、今日の
日本及び
日本人がいかに地球規模で物を
考えなければならないか、また、
国際社会でいかに積極的な役割を果たすかを期待されているかの象徴とも受け取れるものでありました。そこで、私は、田中長官に、向井さんとの対話の印象と、どんな感慨をお持ちになられたかを、この際、向井さんの無事帰還をお祈りするメッセージとともに、ぜひ伺っておきたいと
思います。(
拍手)
総理、
総理は
就任されて十日もたたないうちに、
ナポリでのクリントン米大統領との間での
日米首脳会談、それに続く主要先進
国会議という
外交のひのき舞台を踏まれ、「
外交は継承、内政は
改革」というわかりやすい
言葉で
アメリカを初め
各国の不安や誤解を氷解させることに成功されました。
言うまでもなく、
我が国外交の
基軸は日米の友好
関係にあります。戦後五十年になろうとする今日、
日米安保条約の堅持により
我が国の平和と繁栄が
維持され、その結果、両国で
世界のGNPの四割を占めるという事実が何よりもこのことを明らかに示しております。
総理は、
日米首脳会談後の記者会見で、
外交政策の継承、
日米安保体制の堅持、内政面での積極的
改革路線の推進を
表明し、そのためにも安定
政権が必要であると説明されたと承っておりますし、「今後は、
言葉だけではなく、約束したことは必ず守るという誠実な態度で日米の友好を推進していく」とも
発言されております。そこで、私は、
総理に対し、
日米関係に関する基本
認識を改めてお示しをいただくようお願いをするとともに、包括経済
協議の進め方や急激なドル安・
円高対策など、当面する日米間の問題解決のための手だてについて明らかにしておいていただきたいと
思います。
次に、
ナポリ・
サミットについてであります。
総理は、お疲れの余り
サミットの場で体調を崩され、我々も大いに心配したところでありますが、幸いにもすぐ回復され、
ロシアが加わりた
政治問題の議論には
出席されたとのことであります。初めて
出席された
総理の
サミットに対する
評価と、
我が国はどのような点を主張し、どのような成果があったとお
考えになるか、また、明年のカナダ・ハリファックスで三巡目を終わる
サミットそのものの継続についてどのようにお
考えになるか、河野
外務大臣にもお
伺いいたしたいと
思います。
次に、今最も
国際社会の関心が集まっている北朝鮮の
核開発疑惑についてお尋ねいたします。
九日、
金日成主席死去のニュースは我々を驚かせました。カーター元大統領の訪朝にこたえ、第三回米朝高官
協議が再開され、二十五日からはピョンヤンで南北
首脳会談が開かれるというや
さきの突然の訃報であり、日朝交渉の
早期再開を望む我々としても悔やまれる死去であります。
ただ、金主席死去以降、今日までの動向のミステリーさは、核疑惑についても国際世論をますます増長させぬかと心配であります。後継者と言われる
金正日書記については、残念ながらその素顔を知る資料が乏しく、肉声もほんの数秒しか聞くことができません。願わくば金主席亡き後も北朝鮮の国内が安定し、新
体制が
国際社会に融合する方向を明確にいたし、南北の非核化の実現や核開発問題が平和的話し合いの中で解決されることを望むところであります。
しかしながら、北朝鮮の
対応が前向きに行われない場合、
国連安保理における制裁等の措置が検討されると思われますが、
我が国としても
憲法の範囲内で
国連に従うべきものと
考えます。この点については、当然
サミットにおいても
論議がなされたと
思いますが、どのような内容であったか、今後の
政府の
対応とあわせて
伺いたいと
思います。
ここ数日、
朝鮮半島において、双方の非難の応酬を憂慮いたしております。
総理は、二十三日から韓国を訪問されると承知しておりますが、南北朝鮮による北東アジアの平和と安定についてどのように
対応されるのか、日朝交渉の再開に対する
方針とともにお聞かせ願いたいと
思います。
世界経済の持続的成長は、平和と安定の新たな枠組み構築のために必要不可欠であることは言うまでもありません。
我が国としても、目に見える経常収支の黒字削減策を実施することが極めて重要なことであります。このためには、
規制緩和による内需振興型の持続的経済成長の実現、市場アクセスの開放を進めること等が重要だと
考えますが、
総理はいかがお
考えでありましょうか。
また、ウルグアイ・ラウンド交渉の結果、合意された
世界貿易機構を設立する協定については、明年一月一日に発効させることが目標となっておりますが、
我が国としても秋の臨時
国会において一日も早い協定の一括批准が重要ではないかと
考えますが、
総理はいかがお
考えか、あわせて御
所見を
伺いたいと
思います。
我が国は、
国連加盟以来、一貫して
国連中心外交を展開してまいりましたが、
冷戦後の
世界にあって、
国連の果たすべき役割は増大しております。各地の地域
紛争を初め、軍縮、開発、環境といったさまざまな分野に取り組んでいる
国連は、
機能強化のための
改革がなされようとしております。
我が国も、昨年七月、
国連に提出した
意見書において、
安保理においてなし得る限りの
責任を果たす用意がある旨述べておりますが、この問題に関して、
政権がかわるたびに消極的であったり積極的であったりと、
我が国の
姿勢が揺れているかのごとく対外的に受け取られているようであります。この際、
政府の
方針を明確にしておいた方がよいのではないかと
考えます。
総理は、
就任の記者会見で「消極的になっていると思われては困ります。決してそういうわけではないのです」と話されましたが、
外交政策の継続という点からも、この
方針に変更がないことを明確にすべきだと私は
考えます。この点について
総理はどのように御
認識をされているか、
伺いたいと
思います。
次に、当面する経済及び
国民生活に直接結びつく景気の問題について
伺います。
我が国の経済は、バブル経済の崩壊後、低迷を続け、今なお不況の中にあります。こうした
状況を一日も早く打開し、景気の回復を図ることこそが今日最大の
政治課題であります。また、最近では、一ドル百円を大きく割り込んだ急激な
円高の進行によって、
日本経済への影響、特に
製造業や中小企業への影響が懸念されております。幸いにも個人消費には最近明るい指標も出てきておりますし、設備投資の落ち込みも来るところまで来たのではないかと
思いますが、急激な
円高でまだまだ予断を許さない
状況にあります。
したがいまして、大規模な所得
減税など総合経済対策の着実な実施や、
さきに
成立を見た
平成六年度
予算を円滑かつ着実に執行し、消費や設備投資を盛り上げ、回復に向けて動き出した
我が国経済を本格的な回復へ移行させることが今最も望まれることであります。
総理は、
ナポリ・
サミットにおいて、
世界経済に
協調するため、
減税の継続や公共投資の積み増しなど内需拡大策を約束されたと伝えられておりますが、景気の
現状をどのように
認識し、今後どのような
政策運営を行っていくつもりか、
総理の
所見をお
伺いいたします。
また、雇用問題は
世界経済においても重要な問題となっております。
ナポリ・
サミットでも経済面での主要
課題でありました。
我が国としても、構造
政策の中で、技術革新、
情報・通信インフラ等の整備により雇用の拡大を図ることが目標とされていますが、
サミットでの議論も踏まえ、雇用問題について
政府はどのように取り組むおつもりか、お尋ねいたします。
また、さしあたりの問題として新規学卒者の雇用問題が大きな問題となっております。早くも来年の新規学卒者の雇用情勢が報道されていますが、一流企業も軒並み三割から四割ダウンが報ぜられ、特に女性の新卒者に非常な不安をもたらしているところであります。就職難の
時代になると、改めて
我が国の学歴偏重
社会の弊害が指摘されたり、企業の側からは、不況のときの方がよい人材が集まるとの声も聞こえますが、それはあくまで企業の論理であり、雇用不安は
社会不安を招く最も大きな要因となることも事実であります。したがって、これを防ぐためには景気を回復することが最大の施策となるわけでありますが、
政府はこれにいかに取り組んでいかれるか、労働問題にも詳しい
村山総理の御
見解をお尋ねいたします。
次に、
税制改革についてお尋ねいたします。
本年度は景気に配慮して約五・五兆円の規模の所得税、住民税の特別
減税を実施いたしましたが、その法案
審議の際、「
平成七年分以後の所得税については、「速やかに、
税制全般の在り方について検討を加えて
税制改革を行い、抜本的な所得税の
減税を行うものとする。」という附則第五条を全会派一致で追加いたしましたことは御承知のとおりであります。また、
村山新
政権の樹立に際しては、新しい
連立政権の樹立に関する合意事項」の中で、
税制改革について「総合的
改革案を提示し、
国民の理解を求めて、今年中に関連法案を
成立させるよう努力する。」と書かれています。
我々
与党としても、
税制改革の実現を目指し、基本的な
税制のあり方、福祉に関する
国民負担、
行政改革による経費の節減等を視野に入れ、
与党の
政策調整
会議のもとに
与党税制改革プロジェクトチームを設置し、九月中旬を目途に結論を得るべく既に検討を開始しております。また、今回
政権の座からおりられた
野党各党も
税制改革を進めることには異論はないでありましょう。
このように、一見すると
税制改革に向けての機運は盛り上がっているように思えますが、年内に果たして
税制改革が実現するのだろうかと疑問に
考えている向きもあります。このような
状況のもと、
政策決定、
政策遂行に対する
連立政権の
意思、能力を国の内外に示すためにも、まずもって
政府サイド、すなわち
総理、蔵相の強い
リーダーシップが示されることが重要であると
考えます。
サミットにおいてどのように
我が国の
方針を説明したかも含め、
税制改革に向けての
総理、蔵相の基本的
考え方を
伺いたいと存じます。
次に、
政治改革について
伺います。
与
野党最大の懸案であった
政治改革関連法案は去る三月四日に
成立し、先月には衆議院議員
選挙区画定
審議会から区割り案の
基本方針が
国会に報告され、目下、小
選挙区の区割り案作成のため
審議が重ねられているところであります。こうした具体的な
政治改革の進行は、当時の細川首相と我が党の河野総裁のいわゆるトップ合意に基づくものであり、私
たちはできるだけ早く
政治改革の完結をなし遂げなければならないことは当然であります。
我々は、小
選挙区
区割り法案の
成立に全力を注ぎ、
国民の
皆さんの理解が得られるに足る十分な周知期間を置いた後、正々堂々と新
選挙制度のもとで有権者の信任を受けたいと
考えております。
総理も、小
選挙区
制度が確立するまでは解散・総
選挙を行わないとまで明快に
表明されました。
政治改革に取り組む
総理の
決意のかたさを示すものと
評価するものでありますが、今日の新
制度は七十年ぶりの大
改革ですから、その周知のためどの程度の期間が最小限度必要とされるか、人権をお持ちの
総理のお声に耳をそばだてたいと
思います。端的に申せば、いつ
国民に信を問うかということであります。
さて、
総理、私はこれまで、当面する内外の諸問題のうち最も重要なものについて質問いたしてまいりましたが、最後に申し上げたいことがございます。
ベテラン議員の
総理でありますから釈迦に説法ではありますが、いかなる
政治運営も、またいかなる
政策展開も、すべては
国民の
皆さんが
政治や
政治家に
信頼を寄せているところから始まることは申すまでもありません。この一年間の旧
連立政権下で、残念ながら
国民の
政治不信は解消されませんでした。もちろん、
総理もこのことを民主主義の危機と
認識され、
所信表明演説では柔和な人柄と風貌にふさわしい「人にやさしい
政治」を説かれたものだと存じます。
国民の
皆さんには、
総理の真剣な
演説や本日の
質疑をテレビや新聞その他で見て、少しでも
政治への
信頼をよみがえらせてくださるように願いますが、事は、残念ながらそう簡単ではありません。我々は、
政権発足当初の世論調査の厳しい結果を謙虚に受けとめなければなりません。
私は冒頭で、この私
たち三党の連携は歴史的必然だと申し上げましたが、このことを
国民に正しく理解してもらい、
政治に目を向け直していただく作業は容易なことではないと
考えます。私
たちはまず、
時代の歯車を逆戻りさせないという
決意から出発し、三党それぞれが
自己改革をなし遂げ、理想的な
政党政治のシステムを創造するという気概を持って
政権を
支持してまいります。(
拍手)
最後に、
総理も御存じのことと
思いますが、次の
言葉を贈らせていただき、終わりたいと
思います。
「
政治が目指すものは、人間の可能性を未来に向かって開花させることである」。
村山総理、あなたが師事され、
政権取りを夢見ながら、ついに果たし得なかった江田三郎氏の残された
言葉と聞いております。今あなたは、それを実現できる立場にあるのであります。
総理におかれましては、これまで同様、無私の心境に立ち、
野党の声にも耳を傾け、重々御健康にも御留意をされ、
我が国の未来のために御奮聞いただくことを心からお願いして、私の質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣村山富市君登壇〕