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公述人(丸尾直美君) こういう機会を得まして非常にありがたいと思っております。できれば、こういう機会があったり、あるいは
政府の
委員会に入らなくてもこういうような資料が時宜を得て学者や大学にさっと配布されればどれだけいい
議論ができるのかと、ちょっと残念に思われます。今後、できれば、こういう公述をしたり審議会等に入る人以外にも即時に資料が手に入れられるような仕組みを考えていただきたいと思います。余分なことをまず最初に申しましたけれ
ども、本論に入ります。
社会保障といいますと、二十一世紀の
福祉ビジョンというのが
一つの柱になっていると思います。ですから、そこと関連させながら話させていただきたいと思います。
まず、二十一
世紀福祉ビジョンは、私の理解では、
所得税減税と
消費税率等の
引き上げと三点セットになっている、いわば一種のポリシーミックスであると考えております。
所得税減税に加えて
消費税引き上げとセットになりますと、
所得税減税は
所得の低い人には恩恵がありませんし、あるいは少ないし、他方、
消費税は低
所得者にむしろ重くかかるということですから、これを考慮しますと、低
所得者層に有利な政策をセットにしないと不公正になるということで、低
所得者に有利な
福祉政策を組み合わせるという形で二十一
世紀福祉ビジョンが出てきているというような感じを持っております。そういう意味で、
三つは総合的に考える必要があると思っております。
ただし、
所得税減税と
消費税率
引き上げを同時に行えば、総需要曲線を右上方にシフトさせながら総供給曲線を左上方にシフトさせることになりまして
景気回復効果を相殺しますから、
景気回復を待って、必ずしも
消費税ではないけれ
ども増税をするというのが
方向としては妥当であると思いますし、そのときやはり需要拡大に役立つ
所得税減税と
福祉充実を先行させるというのは妥当な
方向であると思います。ただ、そのままで
財政収支の
均衡をやりませんと責任ある
政府ではありませんから、
景気の回復を待って早目に何らかの形の
増税をするということが必要であると思います。
それから、今回の二十一
世紀福祉ビジョンを機会に、
政府の
福祉政策の最もおくれていると思われていた二つの分野、
一つは老人の介護、それからもう
一つは育児期の女性と家族に対する家族政策が重視され、
一つの理念に革命的な変化が起ころうとしているということは歓迎すべきことであると思います。
老人
福祉サービスに関しましては、ゴールドプランによって既に選別主義から普遍主義の
方向に動いておりました。しかし、女性とその家族に対する家族政策に関しましては、いまだに保育に事欠くような人を対象とした形で
社会保障の中に普遍主義的な位置づけを持っていませんでした。それが今回、
社会保障として普遍主義的な
方向を位置づけられたということは好ましいことであると思っております。
これはまた男女の雇用の平等という
観点からも、あるいは長期的には、もし女子の就業率が上昇しないで労働時間が非常に短縮していきますと、
生産年齢人口が
低下する段階で
景気がある
程度維持されていれば労働力不足が生ずるという問題もありますし、将来の
社会保障負担に重要な影響を与えるということもありますから、やはり一方で女性の就業を促しながら、他方で
出生率の
低下を阻止して若干回復させるという政策をとる上からも、今、家族政策に大きな焦点が当てられたということは非常に結構なことだと思います。
皆さんのところに配られている資料、これ、非常にミスプリが多いまずい資料ですけれ
ども、二ページにグラフがありますように、これは偶然かもしれませんけれ
ども、初婚年齢と
出生率との間には明瞭な逆相関
関係がありまして、この初婚年齢が就業率と正の相関
関係があります。ですから、就業率が高まると
出生率が下がるという
一つの傾向があることは否定できないわけですね、今の
制度のままですと。ただ、北欧などの例に見ますように、就業率が男性と数%ぐらいしか違わないほど非常に高まりながら
出生率を回復した国もありますから、そういう国の政策をも十分に配慮して政策を講ずることは非常に好ましいことであると思います。
しかし、その他いろいろ二十一
世紀福祉ビジョンには長所がありますし、数字をいろいろと大胆に示してくださったということも非常に結構なことであります。ただ、いろいろな点でまだ問題が残っておりますので、そういう点に関しまして、ぜひ
政治の方で間に合うものは今回の
予算でも具体化していっていただきたいと思います。
まず第一に、老人
福祉サービスと育児期の家族政策の
ビジョンは非常に結構であるし、そしてマクロの数字も示されたということは非常に画期的なことでありますが、その割には具体的内容がはっきりしない。特にお金がかかると思われる高齢者の介護保険の
方向が
社会保障制度審でも示唆されております。それからもう
一つは、出産・育児期の女性の
就業者が休業したときの休業の給付、この
制度を保険にするのかどういう形にするのか、そして給付率はどれくらいにするのかというのがあいまいなままにマクロの数字だけ出てきているというようなところは
かなり問題を残している。そういう点を具体化していく必要がありますし、今回の
予算の中にもできる限り反映していくということが必要であると思います。
それから、
社会保障給付費の中の公費
負担がどれくらいになるか。機械的
試算でも、一応機械的
試算ですから余り変えないでやっておるわけですけれ
ども、四ページの図表2に見ていただけますように、近年、
社会保障給付費に占める公費
負担の比重は一九七八年ごろから傾向的に
低下してきているわけです。この傾向がもしある
程度続くとすれば、そして老人介護も保険化されれば、そしてまた育児休業も
社会保険化されれば、公費
負担の比重が今の大蔵省
試算のほどにはならないという計算が出てきます。そうしますと、大蔵省が出している
消費税率の数字が必ずしも必要でないとこの点だけからは言えます。
もっとも、
負担自体が
社会保険に転嫁されるわけですから全体として
負担が減るわけではないわけですし、大体私は、二十一
世紀福祉ビジョンが出している
社会保障給付費の対
国民所得比は二〇〇〇年の数字も二〇二五年の数字も大体妥当な線だと思います。実は私がいろんなところに書いている数字とほぼ一致しておりますから、それが間違っていると言うわけにはいかないわけですけれ
ども、あれくらいの線にはなると思います。
ただ、その
構成比に関しましてもうちょっと見ていきますと、次に図表3があります「
社会保障給付費の
構成比の動向と予測」、そこで御承知のように、全体の
社会保障給付費の中の医療と
年金の部分が
構成比が下がりますね、要するにその他が上がりますから。二〇〇〇年までは上がるということ、これはわかるんですけれ
ども、その後再び
構成比が下がってきます。そして、医療費は二〇一〇年から再び
構成比が上がりますけれ
ども、この二〇〇〇年以後のなぜこうなるかについては二十一
世紀福祉ビジョンも具体的には示していない。その辺のところの根拠づけが必要であろうかと。私自身も
福祉ビジョン懇談会の
委員でしたから余り批判的なことを言うことはできないわけですけれ
ども、この辺のところはまだ十分詰めてないということで、将来予測をする場合にはこの辺をもう少し詰める必要があると思います。
それから、将来の
国民負担率につきましていろいろ
議論があります。今度の二十一
世紀福祉ビジョンは、大胆にも二〇二五年には
国民負担率が五一%ぐらいにはなるであろうということを示唆しています。公的支出のデフレーターはちょっと大きいと。公的部門は
生産性の上昇率が低いから、相対的に物価が上がることを考えますと、あれ以上、五一%以上に
国民負担率がなるという
可能性は大きいわけです。
国民負担率
議論というのは、いろいろ
議論される割には内容がはっきりしていないということで、ここに
国民負担率を左右する技術的要因というのを六項目ぐらい挙げておいたんですけれ
ども、こういう要因を考慮しないと、単に
国民負担率の数字を五〇%以下にしなければならないというようなことが義務づけられますと、例えば何か給付をするかわりに
所得控除方式にしていく、そうすれば
税金を払っている人は場合によってはその方が得になったりしますけれ
ども、
税金をもともと払っていないような低
所得者には損になったりしますから、余りに
国民負担率という数字にこだわることは若干問題があるということです。
もしそれで数字を出すならば、ここに入れましたような六項目の数字をきちっとどういう想定の上で計算したかということを出してやる必要がある。私はむしろ、
税金の限界は何%ぐらいか、
国民所得の何%かというよりも、手取りの実質
所得が
税金がかかったにもかかわらずふえていくということが必要であると思っています。そういう動態的な基準を示していく方がいいんではないかというふうに考えています。
今度の
福祉ビジョンにおきましても、あるいは
政府の方針としまして
税金や
負担を出す場合に、やはり一方において給付がどれだけになるということで給付を受ける人々に安心感を与えるということ、そして、それが長期的持続可能であるということを
財政的に示して安心感を与えると同時に、
負担をする人にとってもどれくらいの
負担になるか、そして、それだけ
負担があっても
経済が成長していけば手取りはちゃんとふえていくんですよと、そこを見せてあげることが必要であると思うんですね。
単に
負担率が高くなると言いますと、時々講演をやる先生方の中にもおかしな先生がいたりして、スウェーデンは
国民負担率が七七%だ、それじゃ給料をもらっても七七%
税金と
社会保険料で取られてしまうなら働きがいかないというようなことを言っていますけれ
ども、実はスウェーデンでも八割の人は三〇%以内の
税金で直接税はやっているわけですから、そういう点、非常に誤解があるわけです。
五〇%以上の
国民負担率になると言うと、
税金が半分以上取られるんじゃないかというようにサラリーマンは思ったりしますけれ
ども、恐らく
国民負担率で五〇%といっても、
消費税率がある
程度上がっていけば実際に勤労世帯にかかる
税金と
社会保険料の
負担率は今の一五、六%が三〇%に近づくという
程度で、決して五〇%なんかなるわけではないですか。そして、その場合に手取りがどれくらいになっていくか、そこの数字を
試算して示してあげるということが
負担をする人に安心感を与えるわけです。少なくとも実質手取りが減っていくような、そういう政策をやったらおしまいだと思うんですね。それを可能にするには
経済の安定成長が必要で、私の計算ですと
経済が二%以上成長していけば手取りはふえていくと思います。
一九七五年から九一年まで、結構我々は豊かになったと思っていますけれ
ども、その間でも勤労世帯の実質手取りは一%ぐらいしかふえていないんですね。それくらいずつ実質ふえていればまあまあいいわけですから、これからは
負担が重くなるとしてもその
程度はふえるんだというような、そういう数字をもうちょっと出してあげる方が
国民負担率が何%かと言っておどかすよりいいんじゃないかという感じを持っています。
それで、
政府の数字、いろいろ出していただいて
試算したわけですけれ
ども、どうしても一部の人しか
試算ができないということで、さっき言いましたように、私もいただいて急いでコンピューターに入れていろいろやったんですけれ
ども、十分な
関係をつくって確たる
試算をするまでには至らなかったんですけれ
ども、だんだんとコンピューターは発達してきていますし、こういう因果
関係というのは全部数式になるんです、数字になったものは。ですから、きちっとこの因果
関係が、言葉で示すと同時に数式でも全部示されて、もうこごが何%動けば
消費税率に何%反映するかというような、そういうのを裏できちっとつくる必要があると思うんです。そういうことは、そういうことが得意な学者をうまく協力させれば、資料さえ出してあげれば自動的に
かなりの人がいろいろやるでしょうし、
議論が沸き起こるでしょうから、そういう点でも今後
情報公開というようなことをもう少しお考えになっていただくと、もっと実りある
議論が出てくるわけです。
学者というのは確かに余り、一河先生もおっしゃいましたように余り当てにならない予測をしておりますけれ
ども、事後的には、二、三年たってからあのときはこうだったということは出るんですけれ
ども、大体統計がおくれて出ますし、
社会保障統計は三年ぐらいおくれて出てきますから、それを使っていろいろやっていたんではいい予測ができないのは
当たり前なんですよね。
そういうことをお考えいただきまして、
予算編成や
景気予測にも、たまたま審議会に参加できたりあるいは公聴会で資料をもらったりしただけが参加できるんではなくて、多くの有能な若い学者な
ども参加できるような機会をつくっていただきたいと思います。
今回のこの
福祉ビジョン、もうちょっと
問題点としまして幾つかあるんですけれ
ども、やはりだれもが言うとおり、これは
社会経済生産性本部で加藤税調会長が講演されたんですけれ
ども、やはり一般の庶民の感じとしては、
行財政改革とか規制緩和とか、いろんな外郭団体がいっぱいできたり、いろんなところを考えていきますと、そういう点でまだ効率化できる面があるんではないかとかいろいろ疑問ありますし、その他、やはり
政府は
所得と
消費と
資産の
バランスを考えた公正な
税制を考えよと、税調にも細川前首相はそういうふうに諮問しているわけです。
やはりさっきの三点セットの中の
消費税等の等をもうちょっと重視していただいて、
資産課税とか、それから
環境税とか、国によっては既に
環境税をエネルギー税まで入れますとGNPの三%まで取っている国がありますが、それがいいかどうかはともかくとして、そろそろ
環境税もGNPの一%ぐらいは寄与できるようにもなってきています。
今は
景気が悪いんですけれ
ども、しかし長期的には
資産というもの、
資産課税は確かに割に
比率は低いけれ
ども、しかし、
日本は
国民所得、GNPに対する
資産の
比率が非常に高いわけですから、
バランスということが単にほかの国と比べて
比率がどうかということじゃなくて、
所得、
資産との
関係でどうかということも考えますと、長期的には
資産課税ということがもうちょっとあっていいと思います。
そういうことをセットにして考えていきませんと、先ほどのような三点セットだけでは、まだ必ずしも納得は得られてないと思います。私、個人的にはやはりその三点セットは必要だとは思っていますけれ
ども、その辺の御配慮をぜひお願いしたいと思います。