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参考人(木間
昭子君) 本日の
テーマは高齢期の消費者被害の実情と対策でありますけれども、被害の全般的なことにつきましては概略を申し上げるにとどめまして、
介護を商品化した有料老人ホームを中心にシルバービジネスの問題点を
お話し申し上げたいと思います。
もしシルバービジネスが消費者の権利を認識せずに進められるならば、高齢期の消費者被害というのは急速に広がるであろうと思っております。なぜか。その背景にはさまざまなことがありますけれども、そのうちの三点を挙げれば、第一は健康
状態の悪い人がふえてくる後期高齢期、すなわち七十五歳以上の人口増であります。健康
状態の悪い人の増加がなぜ消費者被害の広がりにつながるかといいますと、健康
状態の悪い人をターゲットとする業者がいるからです。このターゲットとする業者というのは決して悪質業者に限ったわけではありません。加えて、脳疾患ですとか心臓の疾患とか高血圧とか、そういうふうに健康
状態が悪くなりますと、これまででしたらもう決してそんな話にはだまされなかった、そういう話にもだまされてしまって数十万円とか数百万円もするような不要の商品を購入させられるということがあるからです。
第二は、自分の財布を持ってお金の管理を自分で行う
高齢者がふえてきているということです。となれば、当然被害に遭う率も高くなります。八十歳を超えても可能な限りお金の管理は自分で行う、あるいは自分で行わなくても
配偶者が行う、ほとんどの人がそうであります。私ども
国民生活センターでは毎年
高齢者の
調査を行っているんですが、こういう
調査を行いますと、もう健康である限りとにかく
子供には任せようとはしていません。
このような自分の財布を持つ
高齢者の増加を企業が見逃すはずはなく、第三はシルバービジネスの浸透であります。
このような三点を見ただけでも、
高齢者の特質を踏まえた対策がなされなければ被害の拡大は必至と言えるのではないでしょうか。
個人差はあるものの年をとれば視力、聴力は低下し、言語や反応速度も遅くなり、そういう人
たちというのはどういう被害に遭っているのか、その被害の特徴とはどのようなものがあるのでしょうか。消費者相談と
高齢者の
生活実態
調査の二つの側面からとらえますと次のようになります。
消費者相談から見た被害の特徴でありますけれども、どのぐらいの件数から見ているのかといいますと、
国民生活センターのコンピューターに入力されている全国の消費者相談機関で受け付けた相談件数を見ますと、このレジュメの一ページのところに書いておきましたが、この棒グラフの一番上でありますけれども、一九九二年度には約十九万件あります。そのうち六十歳代は約一万四千件、七十歳以上は約七千五百件であります。
そういう相談から見た被害の特徴、実はたくさんありますけれども、二つだけ挙げるとするならば、
一つは、高齢の男女については問題発生率は大差がないということです。よく
女性の相談者は
男性より多い、だから
女性は被害に遭いやすいんだと言われます。私はちょっとそのことに疑問を抱きまして そうなんだろうかと思って調べてみました。確かに、七十歳代の相談者の男女比を見ますと、おおよそ
男性四対
女性六と
女性が多いんです。ところが、国勢
調査結果においても実は同じような比率でした。
男性四対
女性六であります。ということは、問題発生率に高齢の男女においては大差なしと言えるんではないでしょうか。
相談から見た被害の特徴の二点目は、七十歳以上の
高齢者は健康関連商品の被害に遭う比率が高いということであります。
高齢者というのが何歳からということで、六十歳という切り方はおかしいんですけれども、ちょっとコンピューターに入っていますのがそういう分け方になっていますので、年齢別に六十代、七十代と分けてみましたら、七十代になりますと急激に健康関連商品の被害に遭う比率が高いということがわかりました。
健康関連商品というのは、健康食品ですとか、磁気マットレスとか羽毛布団とか健康機器と言われる商品が多いんですけれども、そういう商品についての苦情というのは、高いお金を出して結局は不要な商品を買ってしまったという経済的な被害が
一つなんですが、その経済的被害だけではなくて、かえってぐあいが悪くなってしまった。健康食品を食べることによって、飲むことによって気持ちが悪くなったとか、動悸がひどくなったとか、血尿が出たとか下痢が出たとか、そういう健康上の被害も見られます。こうした
高齢者の健康への不安とか孤立感をついた販売による被害はどうも少なくなる気配はないと見ております。
もう一点特徴を挙げますと、お金がもうかると言われたのに損をしたという被害が多いということです。金融、保険にかかわる相談を見ますと、悪質業者に限らずに、違法とは明らかに断定しにくい販売行為によって被害に遭っているケースがあります。例えば証券会社とか保険会社とか銀行などによって被害に遭っているという人
たちの存在が少し気になるところであります。
次に、
国民生活センターが実施してきた
高齢者の
生活実態
調査から健康関連商品と資産運用にかかわる被害について見ますと、購入した商品やサービスに不満を抱いている人というのは多いんですけれども、じゃ不満を解決するためにどうしたかというと、何もしていないという人が多いんですね。
例えば健康食品とか羽毛布団とか磁気マットレスなどについて私どもの
調査結果から見ますと、
男性の三割とか
女性の四割は購入しているんです。ところが、そのうちの
男性の三割、
女性の四割は不満に思っている。不満があった人はどうしているかというと、
男性の六割、
女性の七割は解決のために何もしていないという結果が出ております。お金に関する被害についてはどうかというと、資産運用、利殖話にかかわる被害も実は同様でありまして、資産運用とか利殖について約半数が勧誘されているんでありますが、これはそううまい話があるはずはないと思う人も多くて、申し込んだ人は一割程度であります。ただし、失敗した人は六割と多い。にもかかわらず、半数近くは解決のために何もしていません。
消費者被害につきまして私ども
国民生活センターでは、悪質商法に限らず、保険、証券、銀行など金融機関に関する消費者問題も毎年
調査しております。例えば株式や公社債を買ったり勧誘を受けたことがあるか、そういう質問に対して六割ぐらいの人はあると。じゃ、それでどういう経験をしましたかというと、
かなりの人が損をしたとか迷惑に思っているとかいう結果が出ております。
この
調査結果の中から最新のものを本日のレジュメの五ページと六ページに掲げておきました。この説明は、本日は省略させていただきます。
次に進ませていただきます。有料老人ホームの問題であります。高齢の消費者が高額で購入する有料老人ホームという商品を取り上げて、その消費者被害の実態を
お話しいたしたいと思います。
今、
高齢者は商品に不満があっても多くは解決のために何もしていないと申し上げました。有料老人ホームについてはどうでしょうか。有料老人ホームの苦情というのは、その多くは解決の道を閉ざされています。なぜかと申しますと、有料老人ホームの入居者の大半は不動産を売って入居しています。解約して戻ってくるその返還金の少なさ、その額を思いますと、退去もままならず、居づらくなるのを恐れて
意見を言うことさえ控えているのです。心身
機能が衰えて
介護を要する身であれば、もう訴訟を起こす体力も時間もありません。
私のところによく手紙をよこしたり電話をかけてきたりする入居者あるいは退去者がいるんですけれども、泣きながら訴えるのには、とにかく
意見を言ったら出ていくように言われた。それはどういう方か、まさかそれは経営者ではないと思うんですが、いろいろ世話をしてくれる方なんですけれども出ていくように言われたとか、非常につらい思いをしております。風邪を引いたときに食事を運んでくれるように頼んだらそれもしてくれないとか、それは両方の
意見を聞かないとわからないということはありますけれども、私のところにはそういった
意見が寄せられています。
今、有料老人ホームについて
お話を申し上げましたけれども、
先生方御存じとは思いますが、有料老人ホームというのはどういう規定がされているのか簡単に申し上げますと、老人
福祉法第二十九条に「常時十人以上の老人を入所させ、食事の提供その他日常
生活上必要な便宜を供与することを目的とする
施設であって、老人
福祉施設でないものをいう。」と規定されています。
一九九三年七月一日現在では有料老人ホームは二百六十一あります。そのうちの半数近くは株式会社でありまして、残りが
社会福祉法人とか財団法人であります。入居者は二万人弱といったところです。この有料老人ホームの大半は終身利用権型と言われるものです。終身利用権型とは、入居金を支払うことにより終身の利用権が手に入るというもので、所有権は移転しません。入居金は一千万円台から四千万円台といったところが多いんですけれども、これほどの大金を支払うのに、この入居金というのはいかなる性格を持つものなのか、
介護とは何をするのか、
介護費用とは幾らなのか、終身利用権とは何なのか、そういうものがあいまいなままに取引が行われて入居してしまうという実態がございます。その結果、最後まで
介護するかのように表示してある。パンフレットを信じて数千万、中には一億円をも超す入居金を前払いして有料老人ホームに入居したのに、いざ
介護が必要になるとほかの
施設に移されてしまったり、雑居部屋に移されたり、病気でもないのに診療所に移されるといったケースが出てきています。
お金に関するトラブルも実は多いんです。トラブルに触れます前に、お金が幾らぐらいかかるのかということを簡単に申し上げますと、今申し上げました数千万円の入居金のほかに、入居時に健康な人が入るホームの場合ですけれども、毎月食費が一人一カ月四万から五万ぐらいかかります。それから、管理費が一人一カ月三万円から十万円といったところが多いようです。この管理費というのはホームの職員の人件費とか共用
部分の維持費などが含まれているものですけれども、このほか
介護費用が必要になるわけです。中に入居金に含んでいるところもあるんですが、この
介護費の支払い方というのは大別すれば二通りあります。
一つは、入居時に数百万円を一括して支払う方法です。二百万から五百万といったところが多いようです。もう
一つは、
介護が必要になった時点でその都度支払う方法です。この
介護費が入居金に含まれているのかいないのか、別途なのか、それがあいまいなために、入居金に含まれているかのように表示しながら実はいざ
介護が必要になると別途に徴収されたというケースがあります。
レジュメの二ページをごらんいただけますでしょうか。これは公正取引
委員会が一九九三年十二月二十二日に、有料老人ホームの一部の業者に対して表示を是正するよう警告を行ったものです。公正取引
委員会が不当景品類及び不当表示防止法第四条第一号及び第二号の規定に違反するおそれがあるとして警告を行った表示とは、二ページの下の方に書いてあるものです。
一番は、ホームの中で重度の
介護を実施できるかのように表示しているけれども、実際には、アの
部分です、重度の
介護はしていない。ホームの中で
介護を実施できるかのように表示しているけれども、重度の
介護をしていない。
介護をしなかったら生きては、けません じゃどうしているのかというと、イのところに書いてあります。
介護が必要になったら、入居者が費用負担をして付添人をつける必要がある。私、このパンフレットを見ましたが、本当にわかりにくいですね。よくよく読んだらわかります。確かに
介護が必要になったら自分で付添人をつけて費用は負担してくださいとは書いてありました。それであれば、公正取引
委員会が言いますように、ホームの中で
介護を実施するという表示はいかがなものかという感じがいたします。ウに書いてありますが、提携
施設に移しているとあります。重度の
介護をホームでするようには表示しているけれども、いざというときには提携
施設に移しているところがあるということです。
二番目が、二十四時間体制の
介護を実施しているかのように表示しているけれども、実際には
介護を要するようになると、ホームに附属している診療所に入院させて
介護を実施しているということであります。その診療所というのは、行きますとわかるんですけれども、外側からは確かに診療所とは書いてあるんですが中側からは廊下でつながっていまして移せるようになっているというホームも私は見たことがございます。
三番目が、
介護費用が入居金に含まれているかのように表示しているが、実際には別途追加費用を徴収しているという、先ほど申し上げた点であります。こうした点はもう数年前から消費者団体やマスコミなどによっても指摘されていた点であります。
この警告にありますように、消費者被害の大半は契約前に正確な情報提供がなされていないということに起因していると言えます。その情報提供に関する問題点を
三つ挙げますれば次のようなことになります。
一つは、入居金と
介護費用の表示の不徹底さです。パンフレットに入居金は幾らですということは書いてありますけれども、入居金を払ったら何が買えるのか。お金を払うんですから何かを買うわけなんですけれども、その内容がはっきり書かれていないところが少なくないということです。
介護が必要になったらどのようなことをしてくれるのか。それも非常に何か抽象的な、テニスウエアなんか着ましてラケットを持った元気なお年寄りがパンフレットには表示してあるんです。そういうのを見て
介護のことをよく考えないで入ってしまう方も悪いのかもしれませんけれども、
介護のことをよく書いてない。よく考えないで入ってしまっている。そしていざとなれば今言いましたような被害が生じているということであります。どんな
介護かがわからないだけではなくて、費用が幾らかを表示してあるものも少ないということであります。
では、
介護基準の表示というのはどうか。
介護基準といいますのは、ちょっと大ざっぱに言ってしまいますと、おむつは何回取りかえるのかとか、どういう
状態になったときにおふろへ何回入れてくれるのか、体の
状態、心身
機能の
状態によってどんなお世話をしてくれるのかといった基準であります。それが「心のこもったお世話」という
言葉じゃちょっと困るわけです。これはもう商品、売買なわけですから、どういうことをやったら幾らですよ、何回やったら幾らですよということを明確にしてくれなくてはいけないんですが、どうもその辺が難しいというホーム側の言い分がありまして、明示しているホームが少ないということであります。
実際私も幾つかホームへ行きまして
介護基準を見せてほしいと言ったんですけれども、ほとんどのホームが見せてくれません。私は自分の所属するところとかなんか名乗りませんで、なるべくそういうところはおばさん風にして行くといいよと言われて、私も十分おばさんではありますけれども、おばさん風にして、それで私の親がという言い方をして行くんですけれども、もう大体のところが、こんなうるさい娘がいる親なんてとても預かる気はないということで、もうおたくは結構ですとほとんどのところで言われまして、
介護基準は見せてもらったことがありません。
二つ目の問題としては、ホームにおけるいろいろなサービスがあるんですけれども、そのサービスというのは例えばお部屋のお掃除とかぐあいが悪いときに食事を届けてくれるとか、それから
介護、医療サービスがあるんですが、それはどういうもので幾らかという表示もしているところは少ないです。それが管理費に含まれるのかその都度払うのか入居期に払うのか。いずれにしたって有料老人ホームは
福祉でやっているわけじゃない、商売でやっているわけですが、有料にもかかわらず何をやったら幾らかという表示がない。そうすると、表示がないとただなんだろう、ただのはずがないのにただなんだろうと思ってしまう。表示をしているところはかえって高いというイメージがある。そんなことからも、どんなサービスが幾らであるかという表示がないということが
一つ問題であります。
それと
三つ目は、契約内容の公開と書面の交付といいますか、それが不十分な点です。
契約すると意思表示をするまでは、そして申込金を払うまでは契約書を渡さないというホームがたくさんあります。そうしますとどういうことが起きるかというと、申込金というのは十万円ぐらいのところもありますし、
かなり高いところもあるんですが、申込金を払って契約書をもらって、こういうものをもらってきたと
家族に見せる、あるいは知り合いに見せる。これは大変なことだと言われたときに、その申込金は戻らない。解約しようと思っても戻らないというホームがほとんどだということです。ともかく契約書を渡す時点が非常に遅いということが問題であります。
必要で正確な情報が提供されていないということがきっかけになりましてさまざまなトラブルが発生しているわけですけれども、とりわけ入居金と終身利用権の性格、終身
介護サービスの中身の表示があいまいなために、取り返しのつかない被害が生じています。
そこで、終身利用権と終身
介護にかかわる問題の中から三点ほど指摘しておきたいと思います。
一つは、終身利用権について消費者と事業者の認識に食い違いが見られるということです。
パンフレットにあります終身利用権の表示というのは、利用権方式とは入居金をいただくことで、
一つは居室、もう
一つは共用
施設——共用
施設というのはロビーとかおふろとかいろいろ楽しむお部屋とかあるんですが、居室、共用
施設、そしてもう
一つ介護及び日常
生活上のサービスを利用できる権利のことだと、こんなことが書かれています。こういうふうなことが書かれていて、それの回りに、心のこもったお世話をいたします、老後の
生活はお任せくださいといったような表示があるわけです。その。パンフレットを見まして、さらに実に巧みなセールストークを聞けば、消費者側としては体が不自由になっても終身、最後までホーム内で
介護をしてもらえると思うのは当然ではないでしょうか。
ところが、身の回りのことが自分でできなくなると、老人病院であるとか
介護専用型のホーム、それから老人保健
施設、
特別養護老人ホームに移されている例が多々あります。契約書の中には、体が不自由になられたら入院して終身
介護が受けられます、そこまで示をしているものもありました。終身
介護をうたいながら、病院とかほかの
施設に移すようなことをこのような
表現で盛り込むというのは、余りにも事業者に有利な契約内容と言えるのではないでしょうか。
二つは、
介護室をめぐる問題です。
大金を支払って得た利用権であるにもかかわらず、
介護室はごく一部のホームを除き雑居部屋であるということです 外に出さないで自分のところで面倒を見るというところの
介護室の問題でありますけれども、有料老人ホームというのは契約のときに、例えば一〇一号室なら一〇一号室の終身利用権を得るということが契約書に書かれます。ということは、法的にも雑居部屋であってはならないんじゃないかと思うんです。ですから、一〇一号室という契約をするんであれば、その部屋の排他的な 独占的な利用は認められたと法律的には解釈してよろしいんではないでしょうか。となれば、もう可能な限り自分の部屋で
介護を受ける権利があると思います。
どうしても
介護室に移らざるを得ないという場合があります。その場合は、これまでのお部屋と同じ大きさの居室が提供されてしかるべきだと思うんです。もしそうでなければ、終身利用権というのは借家権的性質の強い権利でありますし、入居金が家賃の前払い的要素があるんですから、もしその途中で十五坪から十坪の居室に移されるのなら、五坪分の家賃の前払いの
部分は返して当然だと思うんです。そうしたこともほとんどのホームがしていません。それどころか、雑居部屋に四人とか六人とか、多いところですと十六人とか二十五人とか、そういう雑居部屋に移しているところがあるということです。もしこれが健康な人が、ある日突然、家賃を一生分前払いしているのに、あなたあしたから雑居部屋に行きなさいと言われたらみんなすごく怒ると思うんです。それが当然のごとく行われているという実態があるということです。
三つ目の問題は、自分の部屋から
介護室とかほかの
施設に移る基準が非常にあいまい、不明確だということです。
介護に手がかかるようになるということはすなわちお金がかかるということです、ホーム側にとってみれば。そうなれば外に出したいと思うホームもあるわけです。そういう事業者と、いや私はここの利用権を払ったんだからずっとここにいたいという消費者。事業者と消費者の利害が相対立するわけです。にもかかわらず、だれが何を基準に別の
施設にあるいは
介護室に移すのかという基準が不明確だということです。ホームによりましてはそのホームの医師が判断するというところもあるんですけれども、事業者が指定する医師というのは果たして第三者と言えるのかどうか、これはちょっと疑問であります。やはり消費者の利用権が保障されるためには、自分で意思を決定できる場合は
本人の同意が必要でありましょうし、自分の意思決定ができない場合は身元保証人の同意が必要ではないかと思います。
私は、今後、有料老人ホームの入居者の被害というのは拡大化、深刻化するのは必至であると見ております。なぜなら、全国各地のホームで入居者の平均年齢が上がります。有料老人ホームの入居者ってとても長生きするんです。いいことなんですが、どうしてかというと、食事も医療も、お医者さんも週二回ぐらい来ますし、それから何といったって温度、湿度が管理されておりますので、実にいいことですが、長生きします。となれば、
介護を要する人の比率も高まるということでありますが、
介護についてこれだけの問題を抱えていれば、消費者被害の拡大化、深刻化というのは必至ではなかろうかと私は見ております。
有料老人ホームに対する行政的関与というものは、九一年の四月から非常に規制は強化されました。強化されながらなぜこういう問題が起きるのか。実際、有料老人ホーム設置運営指導指針という行政指導によって指導されているんではありますけれども、その中から類型表示という
一つだけを取り上げまして、それが消費者にとってはどのような
意味を持っているのかを御説明したいと思います。
三ページの表1の左側をごらんいただけますか。そこに「終身利用型」という
言葉が一番上と二番目にあります。終身利用型といっても、同一
施設内
介護と提携
施設に移して
介護するホームがあるんです。もっとも、同一
施設内
介護とあっても他の
施設に移しているホームがあることは公取の警告にあるとおりなんでありますが、これは
かなりわかりにくい類型ではなかろうかと思います。
次のページ、四ページの表の2は埼玉県のホームの類型です。埼玉県は、類型1にありますように、終身ホーム内で
介護するホームだけが終身ホーム内
介護型と規定されていてとてもわかりやすい表示であります。行政の規制、行政的関与につきましては、この
一つをとりましてもちょっと問題があるのではなかろうかと思います。
実際、ホーム側は厚生省の行政指導に従い表示をしているのかといいますと、なかなか表示をしていません。表示をしていないんだったら、この際埼玉県のような終身ホーム内
介護型と、非常にわかりやすい類型にしてもいいんではなかろうかと思います。
最後に、高齢消費者被害未然防止のためにはどうすればよいのかということを申し上げたいと思います。
まずは、個々の問題にきめ細かな
対応策をとることが重要ではないでしょうか。有料老人ホームについていえば、わかりやすい表示の徹底を望みたいと思います。
一つは、わかりやすい誤解のない類型表示。二つは、
介護の中身と料金の明示。
三つは、入居金を払えば何が買えるのかという表示です。
特に
介護に関しては、
介護を受ける場所、
介護の中身と費用、
介護職員数、居室から外に移すことを判断をするのはだれかといった表示が必要ではないでしょうか。
介護を受ける場所も
かなり具体的な表示をさせるということを指導してみてはどうかと思うんです。ホームの中なのかホームの外なのか。ホームの中であれば、自分の部屋なのか
介護専用室なのか。そしてそこは個室なのか雑居部屋なのか。そういったことを細かに表示をすれば、もう消費者が誤解をして入るということはなくなると思うんです。
それと、
介護職員数であります。量で質を判断するというのは難しいことでありますけれども、
介護者数というのは
介護の質を左右します。やはり大勢いればいるほど手厚い
介護はできると思います。となれば、
介護者数の表示というのも必要ではなかろうかと思います。
こうしたものをB4一枚ぐらいの紙に大きな文字で書いてわかりやすく表示をして、あの分厚い高価なパンフレットの中の一ページのところに挟み込むとか、そういった指導がなされればよろしいんじゃないかと思えるんです。
実は厚生省も、契約締結前に重要事項説明書を入居希望者に渡しなさいよ、説明を行いなさいよということは指導しています。ただ、その厚生省が言う重要事項説明書というのは
かなり難しいものでありまして、その内容について批判するつもりはありませんけれども、もう少しそれをわかりやすい
表現の、今私が申し上げましたようなものでできないだろうかと思います。
それじゃ、どうして厚生省がその指導をしていても重要事項の説明、その作成すら行わないホームもあるのか。そしてそれを手渡さないホームもあるのか。なぜ徹底しないのか。私はその規制のあり方に少し疑問を持っています。
消費者利益確保のためには何もかも法律による規制が望ましいというわけではもちろんありませんが、規制緩和の是非というのは問題の性質によるのではないでしょうか。事業者の自己
責任と緩やかな行政的関与により
対応すべきという
考え方は、高齢の消費者が高額で購入する有料老人ホームという特殊な商品についてはいかがなものでしょうか。有料老人ホームにおける消費者被害を防ぐには、今後、法的強制力を背景とした実効性のある行政的関与を検討してよいのではなかろうかと思います。
次に、有料老人ホームに限らず高齢消費者被害の未然防止対策全体について見るならば、財産管理・保全サービスシステムの整備にあります。成年後見
制度が検討されていると聞いておりますけれども、
高齢者のみ
世帯が増加していく中で財産の管理・保全サービスシステムを整備していくということは被害の未然防止に大いに役立つのではないかと思います。
この問題を消費
生活という側面から見ますと、意思能力がなくなった、痴呆という人ではないちょっと手前の人
たちでも消費者被害というのは
かなり起きています。ですから、心身
機能が衰えつつある人、痴呆とは言えないような人
たち、そういう人
たちの権利擁護も必要であると思います。そのためには 今東京都の一部の区とか
福祉公社などが実施している財産管理・保全サービス、そういう援助の全国的な広がりというのは
意味を持ってしょうけれども、消費者問題というような側面からだけ見れば、例えばシルバービジネスを展開する企業というのは
高齢者の特質と消費者の権利というのをもう少し認識してほしい。金融業界を例にとれば、
高齢者には安全性の低い商品は勧めないでいただきたい。電話による勧誘は自粛していただきたい。非常に事業者側にとってはきつい言い方かもしれませんが、
高齢者をビジネスの
対象として銀行や証券会社が安全性の低い商品を勧めたり、電話によって何だかわからない英語というか単語をばっと並べてわからないうちに契約させるようなことは少し考慮していただけないものかと思います。
もう
一つは、
地域における
福祉サービスの供給体制と消費
生活サポートの体制がそれぞれ連携し合っていくことがこれからは肝要ではないかと思います。
それにしましても、どこに住んでいてもどこにいても、それは我が家でも入院して病院にいても、特別擁護老人ホームにいても有料老人ホームにいても、どこに住んでいてもだれでも
介護サービスは公費で賄われるというシステムができれば高齢期不安の中の経済的不安は和らぐことになりましょう。そうなれば経済的不安をついたシルバービジネスによる消費者被害は減少するのではないかと思っております。
以上です。