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参考人(高木安雄君) 高木でございます。
本日は、お手元に資料をお配りしておりますが、
高齢化社会における医療保障の課題について、サービスと財源の
総合化という観点からお話しさせていただきたいと思っております。
柱は三つほどございまして、第一番目に「
高齢者医療の費用と
社会保障の問題」、第二番目に「
高齢者医療の現状と保健・福祉との連携の課題」、三番目に「
高齢者医療の今後の課題―在宅や介護サービスヘの取り組み」という三つの柱でお話しさせていただきたいと思います。
結論的には、急速な
高齢化の中で、我が国は
高齢者ケアの充実のためには施設も在宅も同時に整備していかなければならないということが私の結論であります。そのためには、現在の医療保障を初め、保健・福祉の各サービスを総合的に
高齢者のニーズに対応して提供できるような体制の整備が必要であるということでございます。
我が国は、御承知のように、戦後輝かしい高度成長を遂げたわけですけれども、その輝かしい高度成長の果実を二十一世紀の
高齢化社会に生かす方策をぜひ御検討いただきたいと思ってきょう参りました。
まず第一に、「
高齢者医療の費用と
社会保障の問題」について述べさせていただきます。
お手元の資料、図1に示しましたように、
高齢者の一人当たり
医療費は昭和五十二年度以降着実に上昇しております。ここで見ますと、六十五歳以上の一人当たり
医療費は平成三年度において五十万九千八百円となっております。全年齢平均の三・三倍というレベルにございます。昭和五十二年度は二十一万九千円ですので、この十四年間に二・三倍も伸びたことになるわけであります。
こうした結果、
高齢者人口の増加と相まって
医療費に占める
高齢者の
医療費の比重も当然大きくなっております。六十五歳以上の
医療費の構成割合を見ますと、平成三年度においては四一・八%に上っており、
医療費の約半分近くが
高齢者によって消費されるという時代がすぐそこまで来ているわけであります。同じく五十二年度の割合を見てみますと二一・七%と、現在と比べますと約半分程度の比重で済んでおりました。六十五歳以上の人口の割合というものは、この間九・一%から一二・〇%にふえておりますが、これから明らかなように、それ以上の
医療費の増加になっており、これは医療保障にとっても大きな財源的な問題を生んでくるわけであります。
〔
理事竹山裕君退席、会長着席〕
高齢者の医療について考えた場合、問題はこうした
高齢者の大きな
医療費がどのような疾患で支出されているか、使われているかという問題でございます。下の図2に示しておりますが、ここでは疾患別上位五つの疾患についてその推移を示しております。それによりますと、循環系の疾患が二四・〇%、四兆五千五百九十五億円を占めております。次いで消化系の一〇・六%、新生物の九・七%などとなっております。
医療費の約四分の一が循環器系によって支出されているという状況でございます。
これを六十五歳以上の
高齢者について見ますと、循環器系の割合はさらに大きくなっておりまして三八・九%と約四割を占めております。次いで新生物の一〇・三%、次に筋骨格系及び結合組織の一〇・二%という状況でございまして、呼吸器系の
医療費のシェアというのは小さくなっております。ある意味では
高齢者特有の疾患が
医療費にも反映してくると言えると思っております。
こうした
高齢化による
医療費支出の変化、すなわち循環器系の疾患の比重が大きくなるということは医療保障にとって大きな問題を生んでくるわけでございます。御承知のように、これら循環器系の疾患というものは長期に慢性化してきます。しかもいつ治るかなかなか判断がつかない。また、本人のふだんからの健康管理とか
生活習慣がその治療とか治療効果に大きな影響を及ぼす疾患でございます。そうしますと、だれもが確率的に平等に病気になるという、ある意味では急性期の疾患というのはそういう疾患でございますが、そういう時代から、循環器系の疾患がこれだけの比重を占める時代というものには、例えば本人の健康管理の
努力を援助する、支援するような保険
給付の設計とか患者
負担の
あり方の
見直しとか、例えば
保険料賦課の
あり方についても旧来の保険の設計では合致しなくなっているという時代に来ておるわけであります。そういう意味では、医療保障全体が
高齢化によって私は
見直しを迫られてきていると思っております。
さらに、
高齢化による
医療費の支出の特徴について述べますと、入院
医療費の増加というのが指摘できます。
ここにそのデータは示しておりませんが、
国民医療費に占める入院
医療費の割合というものは平成三年度は四〇・五%でございます。二十年前の昭和四十六年と比べますと、昭和四十六年が三五・六%ですので、五%ポイントほど大きくなっております。十年前の昭和五十六年と比べますと、そのときの構成割合が四一・三%でありまして、今日よりは大きいのですが、これは老人保健施設という新しい
高齢者のための施設をつくりましたので、入院の一部がそちらに移行した結果であります。平成三年度の老人保健施設の
医療費に占めるシェアというのは二・八%ほどございます。これに入院
医療費を足しますと合わせて四三・三%となりまして、十年前よりはやはりシェアは大きくなっておる。
高齢者の医療は長期慢性化しやすく、また介護サービスの
部分がふえてきますので、入院の長期化による
医療費の増大、そのための
負担という問題が大きく今日起こってきているわけであります。
もう一つ
高齢化に関しまして
社会保障との関連で御説明したいと思います。
平成三年度の一人当たり
社会保障給付費は四十万四千円と初めて四十万の大台を突破しました。このうち
年金とか老人医療、老人福祉などの
高齢者関係
給付というものがございまして、これについても平成三年度初めて六〇%を突破しております。
社会保障の大きな
部分が
高齢者のための
給付に変化している。昭和四十八年の
高齢者関係
給付のシェアを見ますと二五・六%でございました。この間
社会保障の基本的な性格が貧困や病苦の予防、救済という性格から、
高齢者のための
給付へという非常に大きな変化を遂げているわけでございます。
問題は、この
社会保障給付費から見た
高齢者関係
給付における医療、
年金、福祉というそれぞれの組み立ての問題でございます。
高齢者関係
給付費の構成割合から見ますと、
年金は昭和四十八年度の六八・八%から平成三年度の七七・三%までその比重を拡大しております。これはやはり、
高齢化の中で
高齢者のための
所得保障が
社会保障の中で優先されてきた結果だと私は思っております。他方、老人医療の
部分について見ますと、同じ時期に二七・四%から二〇・五%まで低下しております。老人福祉について見ますと、もともとこの比重というのは小さいわけですが、昭和四十八年度の三・八%から平成三年度の二・二%まで小さくなっております。これはこの後お話ししますけれども、医療に偏重して
高齢者ケアのサービスを提供した結果、老人福祉の
部分のシェアが小さくなったと考えております。もっともこの老人福祉についてもゴールドプラン、
高齢者保健福祉十カ年戦略が始まりまして、ここ三年間の比重だけを見ますと、ようやく上昇傾向に変わってきているということに注目したいと思います。
次に、本日の本題であります「
高齢者医療の現状と保健・福祉との連携の課題」について申し述べたいと思います。
まず、我が国の六十五歳以上の
高齢者ケアの現状について概観させていただきます。次の表1に示しております。表1には病院、診療所、老人保健施設という医療関係の施設とともに、特別養護老人ホーム、養護老人ホーム、それから軽費老人ホームなどの老人福祉関係の施設、あわせて入院患者、入所者の推移を十年置きに示しております。それによりますと、施設にいる
高齢者の割合は一九六〇年の一・六%から一九九〇年の六・五%にふえ、この間の施設収容の割合というのはアメリカよりも高いと言われております。六十五歳以上の人口の六・五%の方が何らかの施設に入所している。
アメリカの状況については、一枚めくっていただきましたページ、表3に示しております。ここではデータの関係では一九七〇年以降の数字を比較しておりますが、ここで見ますように五・六%と、アメリカの施設収容の割合というのは同じ数字で推移しております。アメリカの
高齢者を対象とするメディケアという保険がありますが、これはそもそも長期のケアを対象としておりません。その結果が大きく影響していると思っております。その点、我が国とこれが一番大きな違いと言えますが、しかもアメリカの場合は老人の長期ケアのほとんどがナーシングホームで行われているということが大きな特徴でありまして、我が国では表1に示しましたようにさまざまな医療施設、そして福祉施設で幅広く展開されているというのが大きな特徴と言えます。
ここに見ますように、アメリカでは長期ケアに関する病院の比重は低下しておりまして、むしろナーシングホームだけが唯一の施設になっているということが言えます。
初めの表1に戻っていただきたいと思います。このように我が国における医療と福祉という二つの分野で
高齢者ケアを提供しているわけですが、医療部門が特にかなりの
部分を担っております。施設収容全体で見ますと七六%を占めておりまして、このうち九〇%が病院、六%が診療所、四%が新しく創設された老人保健施設でございます。
このように我が国では病院が老人の長期ケアの大きなサービス提供主体となっておりまして、その結果、病院全体の平均在院日数も五十一日に上っております。しかも、入院患者の四六%が六十五歳以上の老人という実態でございます。さらに、老人患者の四三%は六カ月以上の在院期間であり、五年以上という長期の入院も九%ほどおります。
診療所も病院と同様に老人のための長期ケアの機能を担っております。入院患者の四八%が六十五歳以上の
高齢者でございまして、本来診療所というものま四十八時間の収容を目的にした入院施設でございます。それにもかかわらず、老人患者の三八%は診療所に六カ月以上も入院していると
いう実態がございます。
老人保健施設は我が国で最初に創設された中間的なケアの施設でございます。病院を退院した患者が地域や家庭に帰る前に、より快適な環境の中でリハビリテーションなどのサービスを受けるという目的でスタートしました。このため、ここに入所する
高齢者は三カ月以内に退所する方針を
厚生省では掲げておりますが、現在データを見ますと、その六三%は三カ月以上の入所を続けております。
老人の長期ケアのもう一つは
社会福祉によるサービスでございます。全体の入所者の残り二四%を占めております。そのうち六七%は特別養護老人ホームに、二七%は養護老人ホーム、七%が軽費老人ホームに入所しております。御承知のように、養護老人ホームと軽費老人ホームは安い費用で
生活サービスの提供を目的としておりますので、アメリカのナーシングホームに相当するものは我が国では特別養護老人ホームであると言えます。
しかし、問題はこれらのさまざまな医療及び福祉施設がそれぞれ独立に開設され、しかもその機能は連携していない現状にあります。こうした現在の
システムはなぜこうなったかと申しますと、やはり
高齢者ケアのニーズの急速な拡大に対応しながらも制度的な体系を持った整備が行われてこなかったと私は考えております。歴史的に最初に生まれたのは
社会福祉による特別養護老人ホームでございますが、御承知のようにその建設費と運営費は補助金に依存しておりますので、その後の整備というものは財政的な制約がかかってゆっくりとしか進まなかったということがこの表1のデータでおわかりいただけると思います。
一九七三年、老人
医療費無料化が実現されたわけでございます。これによって、
高齢者の長期ケアに対する超過需要に対して病院が供給するように変化させられていきました。医療保険の財源によって
高齢者が無料で医療サービスを受けられるようにしたわけでございますが、これは決してマイナスばかりではなくて、従来の福祉という貧しい者へのサービスというマイナスイメージを払拭して老人に医療サービスを提供できた、こういう背景が私は指摘できると思います。
この結果、
高齢者の長期ケアのための病院、いわゆる老人病院ですが、次々と開設され、また中小病院が老人病院化していったという状況がございます。
しかし、病院というのは本来
高齢者の長期ケアの施設としてはつくられておりません。設備、人員配置も最低限にとどまっているわけでございます。さらに、このような老人病院で長期ケアを行う際には有資格の看護婦を確保することが困難でございます。その結果、付添看護を余儀なくされ、患者さんには保険外の財政
負担を強いてきたという現実がございます。
一九八八年には老人保健施設が創設されました。
厚生省は病院の幾つかはこの老人保健施設に転換する意図を持っておったわけですが、実際の転換は少ない現状にあります。その理由としては、老人保健施設の施設療養費の金額が低いということが挙げられます。もう一つは、老人保健施設の設備構造基準が従来の既存の病院にとっては厳しい内容で設定されているということが指摘できると思います。例えば一床当たりの面積について見ますと、病院は四・三平米でございますが、老人保健施設は八・〇平米という二倍のスペースを必要とするわけでございます。しかし、二十年以上の歴史がある軽費老人ホームの入所者がずっと停滞しているのと比べますと、この老人保健施設というのは着実に成長していることが御理解いただけるかと思っております。
この老人保健施設には相対的に短期の入所施設という本来の目的があるわけでございますが、これを実現するのはなかなか難しい。その一つには、在宅ケアがまだ不十分であるということに加えて、
高齢者のための長期ケアに関する恒久的な施設はどこなんだということが片づいていないことから、老人保健施設がその役割を担わされている
部分も私は存在していると思っております。特別養護老人ホームもこのゴールドプランによって二十四万人分の整備計画が立てられておりますので、全体的な
高齢者ケアの整備充実の中でこのような全体的な統合が私は進むことを期待しております。
さらに、
高齢者ケアのこうした状況の中で注目したいことは、
厚生省は平成二年度に診療
報酬改定を行いまして定額支払いによる老人病院の制度を導入しました。この制度に関して若干御説明させていただきますと、一定以上の介護職員を置いて介護力の強化を行いなさい、付き添いは認めませんということで、出来高払いによる支払いはリハビリ、画像診断処置など一部に限定しまして定額払いの老人病院をつくったわけでございます。しかも、この定額払いの金額自身が相対的に高く設定されておりますので、老人患者の割合が高くてしかも看護婦さんが少ない病院にとっては、経営的には有利な状況がつくられたわけであります。
問題は、こうした介護力強化の老人病院ができたということは、既存の特別養護老人ホームや老人保健施設にとって新たな問題を生み出したと私は考えております。すなわち定額的な支払いの場合、要するに軽症の患者のみを入院させてしまう。この方が施設にとっては楽なわけですので、そのようなインセンティブが働いできます。もちろん特別養護老人ホームについて申しますと、福祉事務所による措置という一定の行政処分を行いますので勝手に入所者を選ぶことはできませんが、一般的に施設側の自由裁量もかなり働くと言われております。これはどうしてかといいますと、重い
高齢者ばかり入所させますと施設側にとっては過大な
負担となりますので、全体的な
バランスをとる必要がある。措置の中とはいえ一定の自由裁量が働いているという現実がございます。このような中で介護力強化病院が新しく加わっても、逆に言いますと軽い患者が容易に入ってしまうという可能性があります。その結果、重症患者は常に入院困難な状況に置かれてしまうということが予想されてくるわけであります。
しかし、この定額支払い制度の病院についてコメントさせていただきますと、一つは、薬剤費、検査費を大幅に減少させました。これは出来高払いが生み出してきました検査づけ、薬づけというものから、介護の充実に対して新しいサービスの転換を図ったと私は考えております。看護婦自身も、検査、薬という医師の診療介助から食事の介助、身体の清拭などのサービスに転換しますので、これが老人自身のADLの向上につながるということが考えられます。
しかも、出来高払いというのは、御承知のように医師が行った診療行為に対してすべての費用保障をするわけでありますので、ある意味では過剰な検査、薬を生みやすい。しかし、この定額払いのもとで行いますと、患者にとって最も必要な薬剤とは何か、最も必要な検査とは何かという
コスト意識を提供者側に植えつけるというメリットもございます。そうした意味では、老人医療の
あり方についてこの定額支払い制度というのは劇的な変化を私はもたらしたと思っております。
もちろん、先ほど指摘しましたように、重症患者の入院拒否あるいは困難という課題もありますが、現在のところ、私の見た限りではそのような例というのは見られておりません。むしろ、将来的には、そのような重症患者の入院困難というものに対してどのような制度を用意していくかというのが今後の検討課題になると思っております。
こうして見できますと、医療の福祉化という大きな流れの中で、
高齢者の介護サービスはかなり入り組んだ形で展開されているのが御理解いただけると思います。これが我が国の
高齢者の医療の特徴だと思っております。
こうした状況を改善するには、重症患者の特性に応じかつ公平に支払う
システムが求められていると私は考えております。さらに医療施設、福祉施設による
高齢者の長期ケアに関する現在のばらばらなサービス提供の
あり方を改めまして、全体の調整、統合を進めながら、その症状に応じて効果的なサービスを提供できるようにする連携と統合が求められていると私は思っております。将来的には、このような現在の病院、老人保健施設、特別養護老人ホームという制度的な区分を再検討するとともに、それぞれの施設に入っております
高齢者の重症度、費用、マンパワーの配置についても同じ尺度で評価、判定して、老人ケア全体のサービスと施設体系を再調整することが大きな課題であると思っております。
さらに、
高齢者の医療に関しましては、平成四年四月から老人訪問看護制度がスタートしております。これは老人のQOLの確保を中心に、家族や外部からの支援によって住みなれた地域、家庭で療養できるようにするという目的があるわけでございまして、在宅ケアの主軸として大いに期待できるサービスと考えております。
では、このように次々と生まれてきました
高齢者ケアに関する施設でございますが、それぞれの施設にいる
高齢者の重症度はいかなるものかというものを見たのが表2のADLの比較でございます。この表2を見ますと、ADLの違いを見ることによって、それぞれの施設やサービスの特徴あるいは類似性が明らかとなります。ここで介護必要度と定義しておりますが、これは一部介助と全介助を合計した数値でございます。
例えば食事について見ますと、介護必要度が一番高いのは老人訪問看護サービスの対象者で六五・一%となっております。在宅も四一・六%と高いのがおわかりいただけると思います。他方、特別養護老人ホーム、介護力強化老人病院と施設入所の
高齢者のADLは、むしろよくなっている現状にございます。
しかし、入浴について見ますと、老人保健施設、特別養護老人ホームが九〇・一%、八八・〇%となっておりまして、老人訪問看護サービスの九二・〇%は横におきまして、在宅が七五・七%ですので、施設よりもADLが高くなっております。同様に歩行について見ますと、老人訪問看護サービスの八四・〇%は横に置きまして、特養六一・九、老健五七・二と比べまして在宅は四二・六とADLがよいことが明らかでございます。
このようなデータから見ますと、在宅において訪問看護サービスを受けている
高齢者のADLは低く、より必要なサービスを求め、また供給しているということがおわかりいただけると思います。しかし、在宅の要介護老人全体を見ますと、入浴とか歩行のADLについては施設の
高齢者よりもよい状態にございます。しかし、食事のADLは低く、家族もそのための介助をしているということが言えます。
ここからは推測になるわけですが、食事というものは家族にとって非常に介助しやすいものであります。逆に言いますと、家族は手をかけ過ぎている、もっと自立できるのではないか。さらに加えますと、専門的な介護技術が家庭に入っていけば、老人が自立できる環境は整っている、そして家族の介助も少なくて済む、楽になる可能性が大きい、そのように私はこのデータから言えるのではないかと思っております。
さらに、全体的に見ますと、老人病院や老人保健施設にいる
高齢者のADLがほかの老人福祉関係の施設、在宅などと比べて高いということが指摘できます。それだけADLのいい人が入っているというわけでございます。これをどう考えるかということでございますが、老人保健施設については本来病院から家庭へ、病院から福祉施設への中間的な施設ということでADLが相対的にいい人がいるということも考えられます。この定額払いに関しては、今後より多くのデータを集めて判定、考えていくしかないと私は思っております。
ただ、ここで注意したいことは、表2のデータはあくまでADLという
高齢者の日常
生活動作の能力に着目したものでございます。ここに医療サービスの必要度という新たな尺度を加えますと、
高齢者全体のケアに関するニーズというものは変わってきます。
例えばどのようなことかといいますと、重度の
寝たきり老人に対してはリハビリテーションなどのサービスは行えません。現実的にもう
寝たきりですから行えません。ですから、リハビリという医療の必要度は低く出てくるわけです。投薬、処置などの医療サービスも同様でございまして、ADLだけで
高齢者ケアの全体的なニーズを判定することは危険でございます。
それゆえに
高齢者の医療、介護にかかわるニーズの総合的な判定の指標の開発が求められておるわけでございまして、現在私どもも幾つかの研究を行っております。もちろん、医療と介護の線引きというのはなかなか単純ではございません。これが医療かこれが介護かというのはそう簡単でございませんで、総合的な判定の指標といっても苦労しているところがございます。
最後に、こうした現状をもとに「
高齢者医療の今後の課題」について若干お話しさせていただきたいと思います。
まず第一に強調したいことは、老人病院、特養、老健施設、このような各施設の入所判定とそこで行われるサービスの調整、統合化の必要性でございます。これには、さきに申しましたように、
高齢者の持つ医療や介護のニーズについて一つの共通の尺度で判定して、それぞれにふさわしい資源を投入していく、このようなことが必要なわけでございます。
現在は、御承知のように、サービス量が絶対的に不足している中で各施設がそれぞれ
努力しているという現状にございます。福祉は、例えばホームヘルパーも含めて公的枠組みでございます措置制度で判断され、医療サービスに関しては医者の往診、そして訪問看護のサービスに関しても医師の指示というものを必要としています。サービス提供の決定者がそれぞればらばらでありまして、これを一体的に運営することが私は肝要であると思っております。
これと同時に、在宅における看護、介護のサービスについてもその統合、
総合化が必要だと考えております。医療、福祉という現在の縦割りのサービス提供では、残念ながら
高齢者のさまざまなニーズにこたえられません。
例えば、よくある話でございますが、訪問看護婦が在宅に行った日がたまたまよく晴れた日であった。その際、
高齢者からいいますと、せっかく晴れたのだから布団を干してほしい、洗濯物を干してほしいという希望が出されます。実際、訪問看護婦さんも家事援助の仕事をしてしまいます。その際、あしたホームヘルパーが来ることになっているからといって断れないのが現場でございます。これは当たり前でございます。しかも、あしたホームヘルパーが来るからといって晴れる保証というのはございませんので、
高齢者のニーズというのはやっぱりその場で満たしてくれるのがまさに必要なわけでございます。
在宅のサービスというのはこのようにさまざまなニーズを持っておりまして、前もってきょうのサービス量が決まっているというものでもありません。非常に不定量でございまして、さまざまなニーズを
高齢者は抱えている。だからこそ私はサービスの統合を含めた全体のコーディネーションが大切であると思っております。
次に強調したいことは、在宅ケアのより一層の整備でございます。
ゴールドプラン以後その整備が進められておりますが、まだ足りない現状でございまして、もっと充実する必要があると思っております。もちろん、在宅でどこまで可能かという問題がございます。そういう問題もございますが、可能な限り在宅でサービスを提供して、どうしてもだめな場合には施設につないでいくという一連のサービス体系を築く必要があると思っております。
よく介護サービスについても家族か公的サービスかという議論もございますが、現在の我が国の急速な
高齢化を考えますと、多分家族も公的サービスも両方とも必要ということで進めていくしかないと思っております。在宅か施設かという問題もございますが、すべてを在宅でサービスすることは不可能なわけであります。むしろ、多様なサービスを用意しまして、最終的には
高齢者本人の選択に任せるのが私は妥当であると思っております。
その際に問題となります重要なことは、費用
負担の
バランスの問題がございます。在宅だから
負担が大変である、施設にいるから
負担が楽という状況では適正な選択が行われませんので、この現状というのは改める必要があると思っております。やはり利用者に不公平にならない
負担の
あり方を考えていく必要があります。
その点からも、
高齢者ケアについては家族の介護力とか費用
負担の能力などを見きわめながら、そして
高齢者の希望を踏まえながらさまざまなサービスを統一的一体的に提供できる、そのようなコーディネーターの役割を果たす人がぜひとも私は必要になってぐると思います。
日本においては、
高齢者との同居が多いために家族介護の基盤は諸外国と比べてまだ私は残っておると思っております。しかし同時に、家族の介護が女性、特に長男のお嫁さんに大きな
負担になっているのも事実でございまして、女性に限らず家族の介護力を支援するという方策は今後とも進める必要があると思っております。
ここで最後の表4をごらんいただきたいと思いますが、ここでは介護提供者に関して日本とアメリカの比較をしております。
これを見ますと、例えば介護提供者の割合で言いますと、妻の比重というのはほぼ同じでございます。夫がアメリカの一三%に対して日本が八%、娘がアメリカの二九%に対して日本が一四%と少ないことがおわかりいただけると思います。その分長男の嫁というか、子の配偶者という定義でデータをとるのですが、嫁に
負担が偏っているのがおわかりいただけると思います。息子がだめなのはもう日本もアメリカも同様でございまして、夫の提供が少ないというのは、やはり夫婦のみの
高齢者世帯が少ないことと同居世帯が多いということで、同居すれば嫁さんに任せちゃって夫はやらないという現状がこのデータから推測できるわけでございます。
次の問題として、こうした
高齢者ケア全体を公的に行うのか民間で行うのかという議論がございます。これについては我が国でさまざまな取り組みがございますが、一つの自治体の病院が総合的に
高齢者ケアの提供を行う、施設も在宅も行って成功しているところもございます。他方、さまざまなサービス提供主体を前提にしまして、それぞれの持つ情報を開示しまして、それをネットワーク化して連携、連結して総合的なサービス提供を行っているところもございます。この問題で重要なことは、
高齢者のニーズに対応したサービスを総合的に提供していくということでありまして、先ほど申しましたコーディネーションが大切なことは言うまでもありません。そういう意味では、公的、民間は私は余り問題はないのではないかと考えております。
ただ、その際サービスの質の担保をどうするのだという議論がございます。これに関しては、
高齢者に選択させる、サービスの提供主体を多様化させるといっても、質はどうなるのだという議論がよく出てきております。ニーズに対応したサービスが基本でありまして、それを効率的に提供できれば公的、民間の区別は私は必要ないと思っております。むしろ
高齢者の利用者
負担とも関連してきますが、効率的にサービスを提供して、コストを削減してサービス提供ができれば利用者の
負担も軽くなるわけでありますので、効率性と質の問題というのは、施設においても在宅においてもますます重要な課題となってくるわけであります。
訪問看護サービスなどの話を聞きますと、この
高齢者のニーズと
負担の問題についておもしろいケースが時々聞かれます。どういうことかといいますと、
高齢者が自分の選択の意思を在宅においては表明するということでございます。
具体的に言いますと、気に入らないからこの看護婦さんはかえてほしいという希望をセンターに言ってまいります。目の前で、あなたは気に入らないからあしたから来なくていいというはっきりした意思を表明する
高齢者の方もおられます。他方、気に入ったからもっと来てほしい、お金は自分で払うからもっと来てほしいというニーズを表明する
高齢者もございます。
高齢者が、自分たちに提供されるサービスに対して自分の希望を述べるというのは、これは非常に私は歓迎すべきことだと思っております。これが施設であればなかなかそのような意思を表明することは容易でありませんので、これが私は在宅ケアの一つのよさだとも思っております。
サービスを公的に提供することは大切なことですが、時として本人の意思とか希望を無視しましてお仕着せのサービスを提供してきたのではないかという反省も私にはございます。もっと
高齢者を中心としたサービスを展開するためには、
高齢者自身のニーズ、希望をまずはっきりつかまえる必要がある。それにこたえることなくして利用者
負担の議論はできないわけでございます。これについては、施設や在宅に関係なく、
バランスよくサービスを提供できる体制を整備させて
高齢者のニーズにこたえていくということが、私は今後ますます重要になってくると思っております。
このように
高齢者の医療保障を考えてきますと、成人病の時代を迎えまして、これまでの医療保障の大きな制度変革を必要とされております。御承知のように、従来の出来高払い・現物
給付方式というものでは、薬、検査が優先されまして、本当に必要な介護、看護のサービスというのはなかなか評価しにくいという問題がございます。このためにさまざまな改革をしてきたわけですが、やはり目指す方向は、これらの各サービスの全体的な調整、統合、そして利用者
負担の統一的な
見直しというものを私は進める必要があると思っております。
ただ、
高齢者の医療というものは、看護とか介護とかの重要性が高まるわけでありますが、すぐれてサブジェクティブ、主観的な満足にかかわるサービスでございます。医療の場合は、検査をすれば異常値が出て、これを正常値に近づけるための投薬、処置、必要なサービスを投入する、このような
仕組みが可能なわけですが、看護、介護というものはなかなかそのようなものが可能と言えない状況にございます。
こういう難しいサービスに対して公的な
システムを本格的に構築するというのは、これまでの
社会保障は取り組んでこなかったと私は考えております。もちろん、福祉とかヘルスの一部では取り組んできましたが、
高齢者という大きな問題はこれからの問題でございます。この
高齢者の介護の問題は、先進国共通のテーマとなっておりまして、ある意味では二十一世紀の
社会保障を占う最重要課題でございます。御承知のように、これに関しては、先進国いずれを見ましても解決のためのモデルはございません。我が国がこれからどう取り組んでいくか、一九六一年の
国民皆保険・皆年全体制から三十余年が過ぎまして、もう一つ新しい時代の
社会保障の再構築を私は求められていると思っております。
しかも北欧諸国、施設の整備が一段落してから在宅に取り組んでいったというゆっくりした
高齢化の国と異なりまして、我が国では
高齢化が急速な分だけ施設も在宅も同時に進めていかなければならない状況にございます。それゆえに、これまでは福祉の不足分を医療サービスがある意味では穴埋めしてきたという現状だと私は思っております。逆に言いますと、病院に本来の機能を発揮してもらいまして、急性期医療を充実させる。そして
国民全体の健康を保持していく。
高齢者、中高年、児童、さまざまに区別なく全体に対してよりよいサービスを提供していく。こういう中で、
国民全体の
高齢化社会を乗り切るための基盤整備を進めていく。そのための医療保障の改革はこれから本番を迎えるのではないかと私は思っております。
以上で私の話を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。