○花房参考人 淡海
環境保全事業財団の副
理事長の花房でございます。昨年度まで滋賀県の生活
環境部長を務めておったわけでございます。本日は、私
どもの意見を御聴取いただく機会を与えていただきましたことに対しまして、厚く御礼を申し上げます。
意見を申し上げるに当たりまして、順序として、まず琵琶湖における
水質の現状を
お話し申し上げ、次いで滋賀県で琵琶湖の
水質を
保全するためにどのような取り組みをしてまいったかを御
説明し、その上で本
法案に対する
考え方、さらに国へのお願いについて述べさせていただきたく存じます。
御承知のように、琵琶湖はその名が示しておりますように楽器の琵琶の形をいたしておりますが、大きく深い主湖盆を北湖と、また小さく浅い副湖盆を南湖と呼んでおります。参考
資料に図面がございますが、この下の方に線で引っ張っておるところが琵琶湖大橋でございまして、ここを境に北を北湖、南を南湖というふうに呼んでおるわけでございます。
琵琶湖の水は、唯一の流出
河川でございます瀬田川から、宇治川、淀川を経て最終的に大阪湾に注ぐわけでございますが、その間に、京都、大阪、兵庫を含む千四百万人の人々の飲料水、工業用水、農業用水などとして利用されております。このように、二百七十五億トンの貯水量を誇る琵琶湖の水が近畿一千四百万人の生活と経済を支える水源となっておりますし、かつ琵琶湖と滋賀県民とのかかわりは、私
どもにとりましてもある種の精神文化とも呼べる独特のつながりを持っておりますので、滋賀県では従前より琵琶湖の
水質保全を県政の重要課題の
一つに位置づけまして、その
水質保全対策を積極的に推進してきたところでございます。
とりわけ琵琶湖は飲料水としての利用がございます淀川水系の最上流部に当たりますことから、人の健康に係る
環境基準項目として指定をされております
物質につきましては、厳しい上乗せ
排水基準を設定するなどの対応をしてまいりました。その結果、
平成五年三月に追加指定されました
項目を含めまして、すべての
項目で
環境基準を達成しており、この点に関する限りは全く問題のない
状況にございます。
琵琶湖は滋賀県面積の約六分の一を占める非常に大きな湖でございますので、北湖と南湖では
水質や生息する生物が多少異なっているところでございます。湖沼の
水質指標として最も代表的なCOD濃度で申し上げますと、琵琶湖は国立公園内にございます阿寒湖や尾瀬沼と同じレベルの濃度の比較的きれいな湖の
一つでございます。しかしながら、生活
環境項目に係る
環境基準の達成
状況から見ますと、北湖の燐のみが達成しているだけの
状況でございます。
近年の
水質動向といたしましては、この
資料にもございますが、おおむね横ばいに推移をしている
状況にありますものの、毎年のように春先に淡水赤潮が発生をいたしておりますし、COD濃度の漸増傾向が続くなど、予断を許さない厳しい
状況にあると認識をいたしておるところでございます。
琵琶湖の
水質保全に対するこれまでの取り組みについて御
説明を申し上げます。
さきにも申し上げましたように、琵琶湖の水は滋賀県と京都の飲料水源として直接利用されておりますほか、下流の
淀川流域千四百万人の飲料水として利用されております。このため、滋賀県が昭和四十七年に制定をいたしました上乗せ条例
において、健康
項目に関する上乗せ
排水基準を厳しく設定し、水源として万全の
措置をしているところであります。また、滋賀県公害
防止条例を昭和四十八年に全面改正する際、
水質及び大気に係る有害
物質を使用する製造業につきましては、
工場の設置、施設や
排水量等の変更に知事の許可制を導入し、より厳しい排出に対する監視を図るとともに、有害
物質の使用即排出の可能性を基本理念といたしまして、
工場を指導してきたところでございます。
琵琶湖におきましても、過去
においてはPCBや水銀などによる汚染問題が発生をした時期がございましたが、さきに申し上げましたような施策を推進してまいりました結果、現在では問題は発生をいたしておりません。
次に、富栄養化
防止対策について御
説明をいたします。
約百年前に琵琶湖と京都を結ぶ京都疎水と呼ばれる運河が掘られまして、この水を利用した発電により我が国最初の市電が京都で生まれたことは、つとに知られているところでございます。現在もこの疎水を通じまして送られた水が京都市民の飲料水源となっているところでありますが、昭和三十四年に植物プランクトンの大量発生が
原因となって、琵琶湖の
利水上の初めての障害として、京都の
浄水場でろ過障害が発生しております。その後、昭和四十年代の半ばからは
カビ臭が発生するようになったところでございます。また、昭和五十二年からはウログレナによる淡水赤潮の発生を見るようになっておりますが、この淡水赤潮の発生時には
水道水に生ぐさ臭がつくことが問題となっております。
このように、琵琶湖での富栄養化の進行が徐々に顕在化してまいったところでございますが、何と申しましてもその深刻化を印象づけたのが、昭和五十二年に初めて発生をいたしました淡水赤潮でございます。この淡水赤潮の発生を契機といたしまして、粉石けんの使用推進運動に象徴されます琵琶湖を守ろう、きれいな琵琶湖を次代へ引き継ごうという県民運動が展開されるようになったところでございます。このような県民運動を背景といたしまして、
全国に先駆けた窒素、燐の
排水規制や、燐を含む家庭用
合成洗剤の使用や販売の禁止を中心とした富栄養化
防止条例の制定を見たところでございます。
富栄養化の
原因物質であります窒素や燐は、単に
生活排水や
工場排水だけが汚濁発生源となるのではなく、農業
排水はもちろんのこと、例えば雨水に含まれている窒素、燐濃度は琵琶湖の濃度より高いことに代表されますように、自然系の負荷もかなりの量となっております。したがいまして、滋賀県では従前から、窒素、燐を除去する高次処理装置を備えた下
水道や
農業集落排水施設の整備、あるいは県下すべての
市町村を
水質汚濁防止法に基づく
生活排水対策重点
地域に指定して推進している
生活排水対策や、窒素、燐
対策を含む
工場排水規制などを
実施してまいったところであり、主な発生源に対して現行の
法制度下
において講じることが可能な施策は可能な限り
強化を図ってきたところでございます。
しかしながら、人口の増加比率や第二次産業の構成比が
全国一の内陸工業県であります滋賀県の実態や、豊かさや利便性を
求める社会趨勢の中で琵琶湖の
水質保全を図っていくためには、これまでの
生活排水対策や
工場排水対策に加えまして、小規模
事業場の
排水対策あるいはこれまで取り組みが困難とされていた農業
排水対策や面源
対策にも取り組む必要があるものと考えております。
とりわけ、琵琶湖の
異臭味問題のうち、被害日数等から見て最も大きなものは南湖における
カビ臭でありますので、この解決を図る方策の
一つとして南湖
水質改善
対策に取り組んでいるところであります。
その
内容といたしましては、最も
カビ臭が着臭する水域での底泥
対策、琵琶湖流入
河川の河口部周辺での負荷削減
対策などを講じることを予定しているところでございますが、
実施に必要な枠組み、あるいは膨大な
事業費に対する財源
措置が確立していない等の問題点の解決に苦慮をいたしているところでございます。
次に、今回の
特別措置法についてでございますが、これまで申し上げてまいりましたように、琵琶湖が近畿一千四百万人の飲料水源であることを念頭に置いた
水質保全対策を講じてまいった滋賀県といたしましては、
水道水源水域の
水質保全対策を総合的かつ
計画的に
実施する必要性を痛感しているところであり、本
法案の成立を期待しているものでございます。
さきにも申し上げましたように、琵琶湖ではこれまで富栄養化
防止対策を積極的に推進してまいったところでございますが、富栄養化の
原因物質であります窒素や燐は私
どもの生活や生産活動になくてはならない
物質でございます。しかし、これがふえ過ぎると植物プランクトンの異常増殖を引き起こし、これが
水質汚濁につながっております。
今回の
法案で
対象とされております
トリハロメタンを生成する
原因物質も、
原因物質そのものは有害
物質ではございませんが、
浄水場における
塩素注入に伴い、発がん
物質である
トリハロメタンに変化するため
対策が必要となるなど、まさに新たな
環境問題への対応であろうと考えているところであります。
琵琶湖のほとりで始まりました一握りの県民運動が
全国的な富栄養化
防止のためのうねりとなりましたように、
トリハロメタンのような浄水副生成物の発生を
防止するという新たな
観点からの制度の確立は、まさに
国民の健康を守るための画期的な取り組みであると評価しているところでございます。
窒素や燐あるいは今回問題とされております
トリハロメタンの
原因物質の発生源は、生活系や産業系はもちろんのこと、農畜産系や自然系にまで及んでおりますので、その
対策を総合的、
計画的に講じるに当たっては、幅広い
観点からの均衡ある
対策の
検討が必要と考えられます。
新たな
観点からの処理施設の整備や面源
対策には一層の
対策技術の開発が必要となると思われますし、下
水道の
生活排水処理施設の整備等の
対策に要する経費も多大なものとなることが想定されますので、地方公共団体等に対する技術面や財政面での思い切った支援体制を国
において整備していただくことを切に要望するものでございます。
また、
水道水源となっている水域の中には、琵琶湖・
淀川流域を初めとして複数の地方自治体にまたがるものがございますが、これらの
地域におきます水をめぐる上下流の問題は、かつての量の問題から質の問題へと変化をしております。
水質保全対策を
実施してまいりますのは水源水域を有する上流県でありますが、これらの
水質保全対策に要する
費用の上下流での負担等については今後の課題として国
において
議論が行われるように承っておりますが、幅広い
観点からの活発な
議論をお願いいたしまして、意見の陳述といたします。